特許第6351743号(P6351743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351743熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351743
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/24 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   B21B1/24
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-554470(P2016-554470)
(86)(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公表番号】特表2017-506587(P2017-506587A)
(43)【公表日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】RU2014000127
(87)【国際公開番号】WO2015130187
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】515131231
【氏名又は名称】トツキー・イヴァン・ティモフェービッチ
【氏名又は名称原語表記】Ivan Timofeevich Totsky
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トツキー・イヴァン・ティモフェービッチ
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−091306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−1/46
B21B 45/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法であって、所定の圧下率により、圧延機のロールにおいて半製品圧延材を予備冷間圧延するステップを有している方法において、
前記半製品圧延材の前記予備冷間圧延を、圧延機のロールにおいて、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する圧下率比が3.8±0.5%/mmとなる12〜35%の圧下率において行うことを特徴とする、熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法。
【請求項2】
半製品圧延材の進行方向の変形区域長さは、公知の式
【数1】
により求められ、ここに、L(mm)は半製品圧延材の進行方向の変形区域長さであり、D(mm)は圧延機の作業ロールの直径であり、h(mm)は半製品圧延材の厚さであり、ε(%)は圧下率である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記半製品圧延材の前記予備冷間圧延を、連続的に取り付けられた2つの圧延機のうちの一方のロールで行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記半製品圧延材の前記予備冷間圧延を、前記半製品圧延材の表面と前記ロールとの間に作動用グリースを使用して行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記予備冷間圧延した後、前記半製品圧延材を矯正する、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の加圧処理に関し、冷間圧延帯鋼の製造において、熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する際に使用することができる。
【0002】
従来技術
熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法が公知である。この公知の方法は、帯鋼の計画されたトン数に応じて2〜4%の限度内の所定の圧下率で行われる、所定の硬度と面粗さを有するスキンパスミルのロールにおける予備冷間圧延と、その後の酸洗とを含む(2002年6月20日付け、ロシア国特許第2183516号明細書)。
【0003】
熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法が公知である。この公知の方法は、スキンパスミルのロールにおける、これらロールのドラムの所定の表面粗さパラメータと、熱間圧延された帯鋼がコイルに巻き取られる温度の上昇に伴い増大する2〜8%の相対圧下率を有するプロフィールラインのピーク密度とによる半製品圧延材の予備冷間圧延と、その後の酸洗とを含む(2012年7月24日付け、ロシア国特許第2492006号明細書)。
【0004】
上記公知の方法に共通の欠点は、半製品圧延材の予備冷間圧延は、スケールが機械的に十分に破壊されず、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールがなされず、その後の半製品圧延材の酸洗を必要とすることである。
【0005】
本発明の主題に最も近い先行技術は、3〜8%の圧下率でスキンパスミルのロールにおいて行われる予備冷間圧延と、その後の酸洗とを含む、熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法であり(P.I.Polukhin他による文献Prokatoe proizvodstvo,モスクワ、「Metallurgia」1982年485〜487頁参照)、これは最も関係のある先行技術である。
【0006】
最も関係のあるこの先行技術の欠点は、その他の先行技術と同様に、半製品圧延材の予備冷間圧延中に、スケールが機械的に十分に破壊されず、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールがなされないことであり、これによりその後の半製品圧延材の酸洗を余儀なくされることである。
【0007】
発明の開示
本発明の根底を成す技術的課題は、半製品圧延材の予備冷間圧延中に半製品圧延材の表面を完全に脱スケールすることであり、これにより、熱間圧延された半製品圧延材を酸洗するという、環境に悪くコストのかかるプロセスを回避できるようにすることである。
【0008】
技術的結果は以下のように得られる:熱間圧延された鋼半製品圧延材を冷間圧延のために準備する方法は、所定の圧下率により、圧延機のロールにおいて半製品圧延材を予備冷間圧延するステップを有している。新規性は、前記半製品圧延材の前記予備冷間圧延を、圧延機のロールにおいて、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する圧下率比が3.8±0.5%/mmとなる12〜35%の圧下率により行うことにある。上記パラメータを伴う圧延は好適には、連続的に取り付けられた2つの圧延機のうちの一方のロールで行われる。前記半製品圧延材の前記予備冷間圧延では、前記半製品圧延材の表面と前記圧延機のロールとの間に作動用グリースを塗布すると好適である。半製品圧延材の予備冷間圧延後に、その後の技術により、半製品圧延材がコイルに巻き取られることが求められる場合には、半製品圧延材はコイルに巻き取られる前に矯正され、また、予備冷間圧延後、その後の技術により、半製品圧延材を連続的なロールスタンドに配置し、テンションをかけて冷間圧延することが求められる場合、半製品圧延材の矯正は行われない。
【0009】
本発明の方法によれば、3つの要素の効果の結びつきにより、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールが行われる:
1.圧下率の増大と、それに伴う、半製品圧延材の圧延の増大。半製品圧延材の圧延の増大は以下のことを可能にする:
−脆いスケールの機械的破壊程度の増加;
−変形区域のクリープゾーン及び前方スリップゾーンにおけるロールの周速度と、半製品圧延材の線速度との間の差の増加、これにより、変形プロセスにおける圧延中に半製品圧延材の表面から脱スケールされていないスケール部分を剥離するためのロールの状態が形成される。
【0010】
2.変形区域長さの減少を目的とした、従って、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する半製品圧延材の圧下率比3.8±0.5%/mmを提供することを目標としたロールの直径の減少、この圧下率比は、半製品圧延材が、例えば500mmの直径を有するロールにおいて8%の圧下率で圧延される場合、最も関連する先行技術の量の約3倍である。変形区域長さに対する半製品圧延材の圧下率比の増大は、変形区域長さの一単位あたりにおける、ロールの周速度と、半製品圧延材の線速度との間の差を増大させ、即ち、変形過程での圧延中に、半製品圧延材の表面から脱スケールされていないスケール部分をロールによって剥離する強度を増大させる。さらに、短い長さの変形区域は、スケール疵("rolled-in scale" defect)なしで半製品圧延材を圧延するための状態を提供する。
【0011】
3.脱スケールされ、ロールによって剥離されたスケール粒子への作動用グリースの巻き付きは、スケール疵なしに半製品圧延材を圧延するための状態を改善する。
【0012】
発明の実施の形態
熱間圧延された鋼半製品圧延材は、連続的に取り付けられた2つの圧延機のうちの一方のロールで予備冷間圧延され、この場合、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する圧下率比が3.8±0.5%/mmとなる、12〜35%の圧下率が生じる。一方の圧延機における摩耗したロールが取り替えられる間、半製品圧延材の圧延は他方の圧延機で行われる。
【0013】
半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する圧下率比3.8±0.5%/mmを提供するために、例えば2.7mmの厚さを有した半製品圧延材を圧延するには、80mm未満の直径を有した圧延ロールを有していなければならないので、半製品圧延材の12%に満たない圧下率は有利ではない。広い(1500〜2000mmの幅を有する)半製品圧延材を圧延する場合には特に、工業的状況においてこのような直径を有するロールを使用する可能性を提供するのは技術的に困難である。
【0014】
35%を越える半製品圧延材の圧下率は推奨されない。何故ならばこの結果、変形区域長さが増大し、それに応じて、スケール疵("rolled-in scale" defect)の前提条件が増すからである。
【0015】
半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する半製品圧延材の圧下率比が3.3%/mm未満であることは許容できない。何故ならば、これにより、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールは不可能であるからである。また、4.3%/mmを越える比は推奨できない。何故ならば、この半製品圧延材は、圧延後、極めて不十分な平坦性を有するからである。
【0016】
半製品圧延材を圧延するためには、所定の寸法と圧下率を有する半製品圧延材の冷間圧延を行うのに十分な強度を有したできるだけ小さい直径のロールが使用される。
【0017】
選択された直径を有するロールでの半製品圧延材の予備圧延は、12〜35%の範囲内の圧下率で行われ、この場合、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対するその比は、3.8±0.5%/mmである。これにより、スケール疵が生じることなく、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールが行われる。
【0018】
半製品圧延材の予備冷間圧延中に、半製品圧延材の表面とロールとの間に、例えばスピンドルオイルのような作動用グリースを塗布すると有利である。このグリースはそれ自体、ロールによって除去され剥離されたスケールのスケール粒子の周りに巻き付き、スケール疵なしに半製品圧延材を圧延するための状態を改善する。
【0019】
本発明の方法では、半製品圧延材の圧下率の不可欠な増加及びロールの直径の減少により、必然的に、ロールの摩耗速度が増大し、最大許容摩耗に到るまでのロールの使用可能な期間は短縮される。にもかかわらず、本発明の方法により、連続的に取り付けられた2つの圧延機を使用することにより、一方の圧延機における摩耗したロールを交換している間に、他方の圧延機において半製品圧延材の予備冷間圧延を行うことができるようにされている。即ち、2つの圧延機の使用により、半製品圧延材の予備冷間圧延における必要な生産性を提供することができるようになる。
【0020】
本発明の方法では、スケールの一部が、半製品圧延材の表面からロールによって剥離されるプロセスの断続性により、ロールと半製品圧延材の表面との間に不安定な摩擦状態が生じていて、その結果、圧延後の半製品圧延材の平坦性は不十分なものとなる。半製品圧延材の予備冷間圧延後に、その後の技術により、これがコイル状に巻かれることが求められる場合には、半製品圧延材は、任意の公知の方法によってコイルに巻き取られる前に、矯正されなければならず、例えば、シート矯正機において矯正される。予備冷間圧延後、その後の技術により、半製品圧延材を連続的なロールスタンド内に供給し、テンションをかけて冷間圧延することが求められる場合、半製品圧延材の矯正は行われない。
【0021】
実施例
EN10111規格のグレードDD11に相当する、GOST1050の規格によるグレード10の厚さh=2mm及び幅196mmを有する熱間圧延された鋼半製品圧延材の予備冷間圧延が、圧延機Quatro480で行われた。熱間圧延され酸洗された鋼半製品圧延材の通常の冷間圧延のために使用される圧延機の作業ロールは、直径D=180mmを有し、対地作業面を有する(ハッチングなし)。半製品圧延材は、前方及び後方のテンションなしで、秒速1メートルの速度で圧下率ε=25%で圧延された。通常、熱間圧延され酸洗された鋼半製品圧延材の冷間圧延の際に塗布される作動用グリースとしてスピンドルオイルが使用された。このオイルは、圧延直前に1秒につき1滴の割合で半製品圧延材の幅の中央に供給された。公知の式
【数1】
により求められた半製品圧延材の進行方向の変形区域長さLは6.7mmであり、半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する半製品圧延材の圧下率比は、3.73(25/6.7)%/mmであった。所定のパラメータを有した熱間圧延された鋼半製品圧延材の予備冷間圧延の結果は、その表面の完全な脱スケールと、スケール疵が生じていないこととを示した。圧延後、半製品圧延材は不十分な平坦性を有していたので、コイルに巻き取る前に、シート矯正機において矯正された。
【0022】
次いで、同じ半製品圧延材の予備冷間圧延が、直径90mmの作業ロールにより12%の圧下率で、及び直径230mmの作業ロールにより35%の圧下率で行われた。上記の式により求められた半製品圧延材の進行方向の変形区域長さは、それぞれ、3.28mm及び8.97mmであった。半製品圧延材の進行方向の変形区域長さに対する半製品圧延材の圧下率比は、それぞれ、3.65(12/3.28)%/mm及び3.90(35/8.97)%/mmであった。両場合において、スケール疵のない、半製品圧延材の表面の完全な脱スケールが達成された。
【0023】
従って、実験結果により、本発明の根底を成す課題を実行するために本発明による技術的解決手段を適用できることが確認され、環境汚染を伴う酸洗工程を採用する公知のものに対してその利点が確認された。