特許第6351752号(P6351752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351752ArfGAP1阻害によるパーキンソン病の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351752
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ArfGAP1阻害によるパーキンソン病の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20180625BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 31/4425 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180625BHJP
   C07D 241/04 20060101ALN20180625BHJP
   C07D 409/06 20060101ALN20180625BHJP
   C07D 401/04 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   A61K31/495
   A61K31/496
   A61K31/4425
   A61P25/16
   A61P43/00 111
   !C07D241/04
   !C07D409/06
   !C07D401/04
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-561823(P2016-561823)
(86)(22)【出願日】2015年4月10日
(65)【公表番号】特表2017-510619(P2017-510619A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】CA2015050295
(87)【国際公開番号】WO2015154191
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2017年1月13日
(31)【優先権主張番号】61/978,091
(32)【優先日】2014年4月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506367238
【氏名又は名称】ダルハウジー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(72)【発明者】
【氏名】ロバージ,ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】マクマスター, クリス
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, カーラ
(72)【発明者】
【氏名】ポーン, パク
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−502670(JP,A)
【文献】 特表2013−537218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/495
A61K 31/4425
A61K 31/496
A61P 25/16
A61P 43/00
C07D 241/04
C07D 401/04
C07D 409/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病の治療又は予防用のArfGAP1阻害剤であって、下式を有する化合物を含み、
上式においてnは0、1、又は2であり、
G1は、
(1)5員環又は6員環の不飽和複素環であって、前記不飽和複素環が少なくともS又はNを有している、
(2)ホルミルシクロヘキサンカルボン酸である、
(3)5員環又は6員環の飽和炭素環であって、前記飽和炭素環がンゼンと縮合している、
(4)不飽和ビシクロヘプテンである、又は
(5)2から4のCを有する不飽和のアルケンであって、メチル基で置換されているアルケンであり、
G2は、
(1)4−アセトフェノン、
(2)4−ニトロベンゼン、又は
(3)2−ピリジンである、
ArfGAP1阻害剤。
【請求項2】
パーキンソン病の治療又は予防用のArfGAP1阻害剤であって、下式を有する化合物を含む、ArfGAP1阻害剤。
【請求項3】
パーキンソン病の治療又は予防用のArfGAP1阻害剤であって、下式を有する化合物を含む、ArfGAP1阻害剤。
【請求項4】
nが1であり、G1が2−ピリジン又は2−チオフェンであり、G2が4−アセトフェノン又は4−ニトロベンゼンである、請求項1に記載のArfGAP1阻害剤。
【請求項5】
nが0又は1であり、G1がメチル置換ブテンであり、G2が4−アセトフェノン又は4−ニトロベンゼンである、請求項1に記載のArfGAP1阻害剤。
【請求項6】
nが1であり、G1が不飽和ビシクロヘプテンであり、G2が4−アセトフェノン又は4−ニトロベンゼンである、請求項1に記載のArfGAP1阻害剤。
【請求項7】
nが0であり、G1がインダンであり、G2が2−ピリジンである、請求項1に記載のArfGAP1阻害剤。
【請求項8】
nが0であり、G1がホルミルシクロヘキサンカルボン酸であり、G2が4−ニトロベンゼンである、請求項1に記載のArfGAP1阻害剤。
【請求項9】
前記ArfGAP1阻害剤を送達するのに適切な酸レベルを調整する緩衝剤をさらに含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載のArfGAP1阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、ARFGAP1阻害を介したパーキンソン病治療と題する、2014年4月10日に出願された仮出願第61/978094号の利益を主張し、この仮出願はその全体が参照により組み込まれる。
【0002】
本技術は概してパーキンソン病の治療方法に関し、より具体的にはARFGAP1阻害を介したパーキンソン病の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
より多くの人がより長く生きるのに伴い、進行性の運動性及び認知機能の低下を伴う、パーキンソン病(PD)のような年齢関連神経変性疾患の有病率が増加している。パーキンソン病は、黒質におけるドパミン作動性神経の死により生じ、患者の進行性の運動機能障害を招く。この病気の初期の症状は運動に関連し、ふるえ、硬直、及び移動開始の困難という特徴的な徴候を伴う。この病気の後期の症状は痴呆を含む。PDの結果として生じる生活の質の低下がしばしば長引くという性質は、PDを患う個人だけでなく、PD患者の看護を提供する家族、医療専門家、及び医療システムにも影響を与える。根底にあり進行するPDの病態生理に向けた治療は限られている。
【発明の概要】
【0004】
本開示の追加の特徴及び利点は、続く説明において述べられ、及び、部分的にはこの説明から自明であるか若しくは本明細書で開示された原理を実践することにより知ることができる。本開示の特徴及び利点は、添付の請求の範囲で特に示されている手段及び組み合わせによって実現し及び得ることができる。本開示のこれらの及び他の特徴は、続く説明及び添付の請求の範囲からより完全に明らかとなり、又は本明細書で述べられる原理を実践することにより知ることができる。
【0005】
パーキンソン症候群の多くの症例は原因不明であるが、PDの進展に影響を与えるいくつかの遺伝子座が発見されてきており、いくつかの変異は散発性の病気のリスク要因として関係するとされている。10年前、LRRK2遺伝子における常染色体優性変異が晩発性PDの原因となることが発見された。この遺伝子の変異は、4%の遺伝性PD症例及び1%の散発性PD症例の原因となっていることが発見された。LRRK2遺伝子産物は、2つのメンバからなるプロテインキナーゼファミリーの一部であり、他方のファミリーメンバー(LRRK1)はPDの発病に影響を持っていない(Civiero and Bubacco、2012年)。LRRK2は、プロテインキナーゼ活性及び内在性GTPアーゼ活性を有する多機能多ドメインたんぱく質である(図1)(Kumar and Cookson、2012年)。PDに寄与すると考えられているLRRK2変異の効果によって示唆されるように、向上し及び/又は不適切に制御されているのは、LRKK2のキナーゼ活性である。加えて、LRRK2は細胞内シグナル伝達の足場として働いているかもしれない(Greggio、2012年)。LRRK2キナーゼ活性の標的の1つはLRRK2自身であり、GTPアーゼドメインに向けた自己リン酸化を伴う(Webber他、2011年)。LRRK2キナーゼ機能とLRRK2GTPアーゼ活性との間には明確な制御関係があるにもかかわらず、その詳細は不明なままであった。
【0006】
LRRK2を介在した効果のレギュレーターを特定する試みにおいて、研究ではモデルシステムであるSaccharomyces cerevisiae酵母を用いた遺伝学的アプローチが用いられてきた。これらの細胞において、全長LRRK2は不溶性の封入体を形成することを大部分の理由として、全長LRRK2の発現は生存能力に影響を有さないことが見出された(Xiong他、2010年)。しかしながら、トランケートされた形のLRRK2たんぱく質は酵母細胞生存能力の喪失を引き起こし、LRRK2のGTPアーゼドメインに依存する様式での細胞内小胞輸送にも影響を与えた(Xiong他、2010年)。マウスの一次ニューロンにおいて、同じLRRK2トランケーションの発現は神経毒性、及びS. cerevisiae細胞で観察されたのと同様の輸送における問題を引き起こし、全長LRRK2の過剰発現も同様であり(Xiong他、2010年)、この結果により研究者は酵母細胞におけるトランケートされたたんぱく質の使用によりLRRK2活性の毒性効果についての有効な情報が与えられると結論づけた。
【0007】
全ゲノム解析アプローチにより、研究者は、いくつかの酵母遺伝子の欠損によりトランケートされたLRRK2たんぱく質の有害な効果が最小化されることを見出した(Xiong他、2010年)。欠損によりLRRK2の毒性が最小化される酵母遺伝子の1つが、小胞輸送において機能する高度に保存されたGTPアーゼ活性化たんぱく質(GAP)をエンコードするGCS1遺伝子である(Poon他、1996年)。酵母Gcs1たんぱく質の哺乳類におけるオーソログはArfGAP1である(Cukierman他、1995年)。効果的な方法で、ヒトArfGAP1の過剰発現は、Gcs1を欠損した酵母に対して有毒である(図2)。より最近になって、ArfGAP1及びLRRK2は、in vitroで、及びマウス脳内でin vivoで相互作用することが示された(Stafa他、2012年、Xiong他、2012年)。In vitroでは、ArfGAP1たんぱく質はLRRK2のGTPアーゼ活性のGAPである(図3)。続いて、ArfGAP1はLRRK2が介在するリン酸化の基質である(Stafa他、2012年)。より重要なことに、一次神経細胞においてArfGAP1発現を減少させることにより、変異(PD促進性)LRRK2による、又は正常LRRK2の過剰発現による、神経毒性効果のいくらかが軽減された。これらの知見は、阻害薬によりArtGAP1を標的とすることが、LRKK2に関連するPDの進展に対処する効果的な方法であることを示唆している。このように、ArfGAP1活性を阻害する薬の特定は、重要なPDへの治療介入として役に立つだろう。
【0008】
前に述べたように、出芽酵母であるSaccharomyces cerevisiaeは、これら他のたんぱく質の阻害を介して、変異LRRK2活性の有害な作用を改善することができる小分子を特定するための実験系として用いることができる。PD(Cooper他、2006年、Gitler他、2008年、Xiong他、2010年、Stafa他、2012年)を含む多くの細胞プロセスについての分子的基盤に対する、及び根底にある病気の基盤に対するかなりの見識が、酵母Saccharomyces cerevisiaeの研究から生まれた。この出芽酵母は、主にこの系がもたらす遺伝的及び分子的な容易性のために、広く研究されている。さらに、中核的な細胞プロセスが進化的に保存されていることは、酵母における知見が、ヒトの文脈においてもとても大きな価値を与えることを可能とする。酵母から哺乳類細胞まで、小胞輸送を含む多くの基本的プロセスの構成要素について、構造的及び機能的な保存がみられる(Balter及びVogel、2001年;Bonifacino及びGlick、2004年;Botstein他、1997年)。この程度に、この機能的な保存に基づいて、酵母における小分子の実験的スクリーニングにより、ヒトの文脈において有用な薬が明らかとなるだろう。
【0009】
全体として、ArfGAP1阻害剤のスクリーニングは、異常なLRRK2活性が病気の進行に役割を果たすいくつかの形のPDの治療のための新規なアプローチの特定につながるだろう。本発明は、治療的有効量のフェニルピペラジン誘導体分子を投与することにより、LRRK2変異を伴うPDに苦しむ個人を安全に及び効果的に治療する組成物及び方法を提供する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、アルツハイマー病、ハンチントン病、及び筋萎縮性側索硬化症を含む、一般化された神経変性状態に苦しむ個人を安全に及び効果的に治療する組成物及び方法を提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、フェニルピペラジン誘導体小分子を含む薬学的組成物と、PDに苦しんでいる患者にこの組成物を投与するための指示と、を含むキットを提供する。
【0012】
本明細書において用いられる場合、「フェニルピペラジン誘導体小分子」という用語は、環の反対の位置に2つの窒素原子を含む6員環からなり、窒素原子の1つに結合したフェニル基(C6H5)を備える、任意の有機分子として定義される。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「核酸」又は「核酸分子」は、RNA(リボ核酸)及びDNA(デオキシリボ核酸)のような2以上のヌクレオチドの鎖を意味する。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「阻害」という用語は、たんぱく質の生物学的活性の低下、好ましくはヒトたんぱく質であるArfGAP1の活性の低下を指す。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子」という用語は、特定のたんぱく質、又は特定の場合には機能的又は構造的RNA分子、をコードする核酸分子を意味する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「たんぱく質」又は「ポリペプチド」は、長さ又は例えばグリコシル化若しくはリン酸化のような翻訳後修飾とは無関係に、アミノ酸のペプチド結合鎖を意味するように類義的に用いられる。
【0017】
核酸分子又はポリペプチドに言及する場合、「野生型」という用語は、自然に発生する(例えば、ネイティブ、WT)核酸又はポリペプチドを意味する。
【0018】
本明細書において用いられる場合、「治療」及び「療法」(treatment and therapy)という用語は、治療薬を患者若しくは被験者に適用若しくは投与すること、又は、不調若しくは病気、不調若しくは病気の症状、若しくは不調若しくは病気の素因を有する患者若しくは被験者から単離された組織若しくは細胞系に、不調若しくは病気、不調若しくは病気の症状、若しくは不調若しくは病気の素因を、治療し、癒し、軽減し、緩和し、治し、解決し、改良し、改善し、若しくは影響を与える目的で、治療薬を適用若しくは投与することとして定義される。
【0019】
本明細書において用いられる場合、「治療的有効量」という用語は、所望の治療効果又は応答をもたらすであろうピペラジン誘導体小分子の量を意味する。
【0020】
「患者」、「被験者」、及び「個人」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、治療され、診断され、及び/又は生物学的資料が採取される、哺乳類(例えば、ヒト、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、イヌ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ネコ等)を意味する。
【0021】
本明細書において用いられる場合、「キット」という用語は、コンポーネントを含むパッケージされた製品のことを指し、このコンポーネントを用いて、PDの治療のために治療的有効量のピペラジン誘導体小分子が投与される。このキットは、好ましくは、このキットのコンポーネントを保持する箱又はコンテナを含む。この箱又はコンテナには、ラベル又は米国食品医薬品局が承認したプロトコルが貼られている。この箱又はコンテナは、好ましくはプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、又はプロピレン容器内に格納されている、本発明のコンポーネントを保持している。この容器は、キャップされた管又はびんである。このキットはまた、ピペラジン誘導体小分子を投与する際の指示を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本開示の上記の及び他の利点及び特徴が得られる態様を説明するために、前に簡単に記述された原理のより詳細な記述が、添付の図面に示されている特定の実施形態を参照して与えられるだろう。これらの図面は本開示の典型的な実施形態のみを表しているためその範囲を限定するものとしては考えられないことを理解して、本明細書の原理が添付の図面を用いながらさらなる具体性及び詳細をもって記述及び説明される。
【0023】
図1】LRRK2たんぱく質の概略ドメイン構造を示す。残基1〜660はLRRK2に特有の繰り返し配列をエンコードし、残基984〜1278はLRRドメインをエンコードし、残基1335〜1510はROC GTPアーゼドメインをエンコードし、残基1519〜1795はCORドメインをエンコードし、残基1879〜2138はキナーゼドメインをエンコードし、残基2138〜2527はWD40ドメインをエンコードする。病気とともに明確に分離される変異箇所は赤で示されており、PDと関連するR1441H及びN1437Hの位置は青で強調されている。ドメイン境界は、黒で残基番号により示されている。
【0024】
図2】酵母細胞における実験結果を示し、空ベクターを有する酵母株と比較して、ヒトArfGAP1の発現が酵母における低成長の表現型を引き起こす(下の線)ことを示す。
【0025】
図3】ArfGAP1とLRRK2との間の相互調節モデルを表す。LRRK2発現の増加、又はLRRK2キナーゼ活性を増加させる変異は、細胞死を誘導する。ArfGAP1はLRRK2に結合し、GTPのGDPへの加水分解を促進し、LRRK2のキナーゼ活性及び自己リン酸化を減らす。LRRK2はまたArfGAP1をリン酸化し、そのGAP活性を阻害する。この相互調節は、細胞の生存能力に対する複雑な影響につながる。
【0026】
図4】空ベクタを持つ酵母のgcs1ノックアウト株(3B−VEC)、又はArfGAP1発現ベクタを持つ酵母株(3B−141)に対する、33000個の小分子化合物のスクリーニング結果を示す。
【0027】
図5】スクリーニングにより特定された6つの小分子である、chembridge ID 5420376番、5431942番、5468123番、5261344番、5429814番、5459804番による、酵母のArfGAP1 gcs1ノックアウト株の用量依存性成長を示す。3B−VEC点は、ArfGAP1を発現しない、空ベクタを有するgcs1ノックアウト酵母株の成長レベルを表す。
【0028】
図6】酵母における一次スクリーニングにおける8つの上位ヒットを表し、5468123を除いて全てがフェニルピペラジン誘導体分子である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の様々な実施形態が以下に詳細に議論される。特定の実装例が議論されるが、これは説明の目的でのみなされていることを理解すべきである。本開示において引用された全ての文献は本明細書に組み込まれる。当業者は、本開示の精神及び範囲から離れることなく、他の構成要素及び構成が用いられてもよいことを理解するだろう。
【0030】
治療的有効量の置換ピペラジン誘導体分子の投与によりパーキンソン病を治療するための組成物及び方法が記載される。好ましい実施形態において、治療レジメンは、ArfGAP1たんぱく質の阻害により、LRRK2変異により引き起こされたPDの治療に向けて適合される。
【0031】
一実施形態において、治療的有効量のArfGAP1阻害剤は、以下の一般式を有している。
【化1】
【0032】
ここで、n=0、1、又は2であり、G1は(1)5員環又は6員環の不飽和複素環であって、不飽和複素環が少なくともS又はNを有しているか、(2)5員環又は6員環の飽和炭素環であって、飽和炭素環が少なくとも1以上のカルボン酸若しくはメタノンで置換されている又はベンゼンと縮合しているか、(3)不飽和ビシクロヘプテンか、(4)2から4のCを有する不飽和メチル置換アルケンであり、G2は(1)4−アセトフェノンか、(2)4−ニトロベンゼンか、(3)2−ピリジンである。さらなる実施形態においては、n=1であり、G1は2−ピリジン又は2−チオフェンであり、G2は4−アセトフェノン又は4−ニトロベンゼンである。
【0033】
別の実施形態において、n=1であり、G1はメチル置換ブテンであり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0034】
別の実施形態において、n=1であり、G1は不飽和ビシクロヘプテンであり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0035】
別の実施形態において、n=0であり、G1はインダンであり、G2は2−ピリジンである。
【0036】
別の実施形態において、n=0であり、G1はホルミルシクロヘキサンカルボン酸であり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0037】
別の実施形態において、パーキンソン病を治療又は予防するArfGAP1阻害剤は、以下の一般式を有する。
【化2】
【0038】
ここで、n=0、1、又は2であり、G1は(1)5員環又は6員環の不飽和複素環であって、不飽和複素環が少なくともS又はNを有しているか、(2)5員環又は6員環の飽和炭素環であって、飽和炭素環が少なくとも1以上のカルボン酸若しくはメタノンで置換されている又はベンゼンと縮合しているか、(3)不飽和ビシクロヘプテンか、(4)2から4のCを有する不飽和メチル置換アルケンであり、G2は(1)4−アセトフェノンか、(2)4−ニトロベンゼンか、(3)2−ピリジンである。
【0039】
別の実施形態においては、n=1であり、G1は2−ピリジン又は2−チオフェンであり、G2は4−アセトフェノン又は4−ニトロベンゼンである。
【0040】
別の実施形態において、n=1であり、G1はメチル置換ブテンであり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0041】
別の実施形態において、n=1であり、G1は不飽和ビシクロヘプテンであり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0042】
別の実施形態において、n=0であり、G1はインダンであり、G2は2−ピリジンである。
【0043】
別の実施形態において、n=0であり、G1はホルミルシクロヘキサンカルボン酸であり、G2は4−ニトロベンゼンである。
【0044】
別の実施形態において、パーキンソン病を治療又は予防するArfGAP1阻害剤は、以下の一般式を有する。
【化3】
[2−(3,5−ジブロモ−1λ4−ピリジン−1−イル)−1−(4−フェニルフェニル)エタン−1−オン]
【0045】
投与
本明細書に記載された組成物を患者に投与するどのような適切な方法も用いることができる。これらの方法において、組成物は患者に対して、静脈注射による全身的、標的サイトへと直接、非経口的、経口的、髄腔内投与、又は頭蓋内投与等の任意の適切な経路で投与されることができる。この組成物は、例えば、内部若しくは外部標的サイトへと外科的に送達することにより、又は血管によりアクセス可能なサイトへのカテーテルにより、標的サイトへと直接投与されることができる。例えば、PDを治療する方法において、本明細書に記載された組成物は経口又は静脈内で送達されてもよい。この組成物は、単一ボーラスとして、複数回注射として、又は持続注入(例えば、静脈内、腹膜透析による髄腔内、ポンプ注入)により、投与されてもよい。非経口投与のために、組成物は好ましくは滅菌された発熱物質不含有の形態で処方される。上に示した通り、本明細書に記載された組成物は、無菌注射に適した形態であってもよい。このような組成物を調製するためには、適した治療有効成分が非経口的に許容される液体担体に溶解又は懸濁される。採用されてもよい許容される担体及び溶媒には水、1,3−ブタンジオール、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、及びデキストロース溶液が含まれ、水は適切な量の塩酸、水酸化ナトリウム、又は適した緩衝剤の添加により適したpHに調製される。この水性組成物は、1以上の保存剤(例えば、メチル、エチル、若しくはn−プロピルヒドロキシ安息香酸塩)も含んでいてもよい。このような組成物のうち1つが少しだけ又はわずかに水に溶ける場合、溶解促進剤又は可溶化剤が添加されてもよく、又は、溶媒が10〜60%w/wのプロピレングリコール等を含んでいてもよい。本明細書に記載された組成物は、従来の薬学的慣習(例えば、本分野における標準的教科書である、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(第20版)、A. R. Gennaro編、Lippincott Williams & Wilkins(2000年)、及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J Swarbrick及びJ. C. Boylan編、Marcel Dekker, New York(1988〜1999年)、並びにアメリカ薬局方/国民医薬品集を参照)に従う任意の適した剤形で、哺乳類(例えば、げっ歯類、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ)に投与されることができる。例示的な薬学的に許容可能な担体及び希釈剤、並びに薬学的組成物の記載を、Remington(上述)に見つけることができる。組成物を安定化させ及び/又は保存するために、他の物質が組成物に添加されてもよい。
【0046】
本明細書に記載される治療方法は、概して、治療的有効量の本明細書に記載される組成物を、哺乳類を含み、特にヒトである、必要とする患者(例えば動物、ヒト)に投与することを含む。このような治療は、病気、不調、又はその症状に苦しんでいる、これらを有している、これらになりやすい、又は少なくともリスクがある、患者、特にヒト、に好適に施されるだろう。「リスクがある」患者の判断は、診断テスト又は患者若しくはヘルスケア提供者の意見による任意の客観的若しくは主観的判断によりなされることができる。本明細書に記載される方法及び組成物は、貧血に関する任意の不調又は病気の治療に用いられてもよい。
【0047】
有効投与量
本明細書に記載される組成物は、有効量、すなわち治療される哺乳類(例えば、ピペラジン誘導体化合物の投与によりPDを治療している)において望ましい結果を生み出すことができる量で、哺乳類(例えばヒト)に投与されることが好ましい。このような治療的有効量は標準的な方法に従って決定できる。単離された化合物の化学的分析、特にピペラジン誘導体分子は、化合物に関する以下のデータに基づく、治療の目的で血液脳関門を通過する予測された能力を示した。MW:<400;(O+N)の合計:<5;PSA:<60−70A;cLogP:<5.0;回転可能な結合の数<8;pKa:中性又はpKa7.5−10.5の塩基性(酸を避ける);非Pgp基質;水溶解性:>60μg/ml;有効透過性:>1×10−6cm/sec
【0048】
本発明の方法で用いられる組成物の毒性および治療的有効性は、標準的な薬学的手順により判定することができる。医学及び獣医学の分野でよく知られているように、任意の1つの対象に対する投与量は、対象の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の組成物、投与時間及び経路、一般的な健康、及び同時に投与される他の薬を含む、多くの要素に依存する。本明細書に記載された組成物の投与量は、前臨床における有効性及び安全性に基づいて決定してもよい。
【0049】
実施例
本発明が、続く特定の実施例によりさらに説明される。これらの実施例は説明のみのために与えられ、どのような方法にしろ本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0050】
酵母における小分子のスクリーニング
酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける異種たんぱく質の過剰発現はしばしばその成長を阻害するが、一方で過剰発現されたたんぱく質の阻害剤は成長を回復させる。これらの単純な観察が、このようなたんぱく質の阻害剤を特定する強力なアッセイの基礎を形成する。興味のある遺伝子の誘導性発現のための発現プラスミドが、排出ポンプの欠失により化学物質に対してより感受性とされた酵母株へと導入される。たんぱく質発現は誘導され、細胞は試験化学物質に暴露され、成長が600nmにおける光学濃度(OD600又はA600)の読み取りにより測定される。
【0051】
今回の場合、S. Cerevisiae gcs1ノックアウト株であって、異種たんぱく質であるhArfGAP1(酵母GCS1のオーソログであるヒトArfGAP1)を発現するベクタを有しているものが採用される。一般的に、ArfGAP1の発現はgcs1ノックアウト酵母の成長を抑制し、したがってArfGAP1を阻害する小分子は観察可能な成長の増加につながるだろう。このことは引き続いて、LRRK2変異により引き起こされたPDの治療に使用されうる小分子の直接の特定を可能とする。
【0052】
阻害剤スクリーニングにおいて採用された酵母株
PPY17:114-3B-vec (gcs1::NatR, pdr5::HIS3, snq2::TRP1, ura3, ade2, プラスミドpRS315を有する)[空ベクタコントロール株]; PPY17:114-3B-141-A (gcs1::NatR, pdr5::HIS3, snq2::TRP1, ura3, ade2, プラスミドpPP16:141 pGAL1-hArfGAP1を有する)[ヒトArfGAP1発現株]
【0053】
合成複合(SC)ミックス、SCドロップアウトミックス、及びSC選択培地溶液
合成複合(SC)ミックス:0.6gアデニン、0.6gウラシル、0.6gトリプトファン、0.6gヒスチジン、0.6gアルギニン、0.6gメチオニン、0.9gチロシン、0.9gリシン、1.5gフェニルアラニン、6.0gトレオニン、3.0gアスパラギン酸、1.8gイソロイシン、4.5gバリン、1.8gロイシン(Sigma)。全ての成分が秤量され、一緒に混合され、乳鉢及び乳棒が成分を均一な粉末へと粉砕するために用いられる。粉末は室温において50mLファルコンチューブに保存される。
【0054】
SCドロップアウトミックス:ロイシンを除いた全ての成分が秤量され、そして混合され、粉砕され、及びSCミックスと同様に保存される。
【0055】
SC選択培地:アミノ酸を含まない酵母ニトロゲンベース(BD/Difco, Sparks, MD)0.67%のSC及びドロップアウトミックス0.067%が水に溶解される。0.25mLの1N水酸化ナトリウムが、溶液のpHを6.5に上げるために、全ての100mL培地に添加される。溶液はオートクレーブされ、室温で保存される。
【0056】
阻害剤スクリーニング
1.スクリーニングの前日、空プラスミドを含むコントロール株、及び興味のある遺伝子を含むプラスミドを有する選択された試験株が、2%グルコースを含む2mLのSC選択培地に接種された。細胞は、220rpmで振とうしながら、30℃で一晩生育された。補足:ヒト発現ベクタを発現する酵母株及び空ベクタを含む酵母株は、ArfGAP1発現を抑制するグルコース中で同じ速度で生育した。しかしながら、ArfGAP1発現が刺激されるガラクトース中では、ヒトArfGAP1を発現する酵母株は、実際、空ベクタとともに成長する酵母と比較して、低い成長を示した(図2)。
【0057】
2.翌日、1mLの一晩経った培養物はマイクロチューブに移され、5分間4700×gで遠心分離された。上澄みは捨てられ、痕跡量のグルコースを除去するために、ペレットは滅菌水で洗浄され、5分間4700×gで遠心分離された。
【0058】
3.スクリーニングされる小分子を含むプレートが冷凍庫から出され、約30〜60分間室温で溶かされた。
【0059】
4.ペレットは1mLの滅菌水に懸濁され、A600が測定された。細胞は、2%ガラクトースを含む適切なSC液体選択培地でA600=0.01まで希釈された。試験される96ウェルプレートのそれぞれについて、10mL以上の希釈された試験細胞が用意された。コントロール細胞についてはより少ない量が必要であった。
【0060】
5.96ウェルプレートの4つを除く全てのウェルに、使い捨ての8チャネルピペッターを用いて100μLの試験細胞が移された。酵母を含まない100μLの培地が2つのコントロールウェルに添加され、コントロール細胞を含む100μLの培地が2つのウェルに添加された。
【0061】
6.コントロールの96ウェルプレートが用意された。カラム1〜4(32ウェル)には、A600=0.008に希釈された100μLのコントロール細胞が添加された。カラム5〜8には、A600=0.01に希釈された100μLの試験細胞が添加され、カラム9〜12には細胞を含まない100μLの培地が添加された。
【0062】
7.化学物質(小分子ライブラリ)が、手持ちピンニングツール又はロボットピンニングツールを用いて、保存プレートから酵母を含むプレートへと移された。ピンニングツールは、ピンを10%ブリーチに10秒間つけ及び振とうし、続けて70%エタノールに10秒間つけ及び浸透することにより洗浄及び消毒され、続けて空気乾燥又は炎の上で乾燥された。ピンが冷却されると、ピンニングツールは化学物質格納プレートにつけられ、そしてピンニングツールはウェルの端部に触ることなく慎重に取り除かれ、ウェルの端部に触ることなく試験プレートにつけられた。ピンは同様に取り除かれた。ピンは洗浄及び殺菌され、全ての化学物質が試験プレートに移されるまでこのプロセスが繰り返された。
【0063】
8.プレートは加湿箱内に置かれ、30℃で40〜42時間培養された。
【0064】
9.5つのプレートのスタックが、酵母細胞を再度懸濁させるためにボルテクサーで低速度で(例えば、Genie 2 Voltex mixerの設定4)90秒間振とうされ、96ウェルプレート読み取り機を用いてA600が測定された。
【0065】
成長回復の計算
1.コントロールプレート:試験ウェル(カラム1〜4)、コントロールウェル(カラム5〜8)、及び培地のみのウェル(カラム9〜12)の平均A600が計算された。
【0066】
2.処理されたコントロール、及びヒトArfGAP1発現酵母株のA600がプロットされた。図4を参照。それぞれの試験された化合物について、成長回復%が次の式を用いて計算された。成長回復%=(Test & chem - Test)/(Control - Test)×100、ここでTest & chemは化学物質で処理された試験株を含むウェルのA600読み取り値であり、Testはコントロールプレートから決定された化学物質で処理されていない試験細胞の平均A600であり、Controlはコントロールプレートから決定されたコントロール細胞の平均A600である。
【0067】
3.最も高いレベルの成長回復を示したウェルが「活性」として選択された。活性な化学物質は、明らかに外れ値を示す及び/又は50%を超える成長回復を示した場合に、二次アッセイのために選択された。
【0068】
活性な化学物質の確認
1.増加したA600読み取り値が、化合物の沈殿又は他の微生物による汚染によるものではなく、実際に酵母細胞の数の増加によるものであることを確実にするために、倒立顕微鏡により「活性な」ウェルが視覚的に検査された。
【0069】
2.一次スクリーニング結果を確認するために、それぞれの活性な化学物質の活性が、試験株及びコントロール株の双方に対して、様々な濃度で再試験された(図5)。それぞれの活性な化合物についてのEC50が確立され、高い有効性及び低い毒性を兼ね備える化合物が選択された。全体として、33000個の小分子からのスクリーニングにより、8つの化合物が単離された(図6)。これらの分子のうち7つが特徴的なフェニルピペラジン構造を有していた。
【0070】
3.補足:活性な化合物は、酵母で過剰発現された際に成長阻害も引き起こす無関係な遺伝子についての試験株に対しても試験されることができるだろう。一般的なメカニズムにより、例えばGAL1プロモータの活性への干渉により、成長を回復する化学物質は、任意の遺伝子によって阻害される成長もまた回復するはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6