特許第6351757号(P6351757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351757
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20180625BHJP
   C08L 61/14 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180625BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20180625BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08F290/14
   C08L61/14
   C08K3/00
   C08K3/013
   C08K5/14
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-566116(P2016-566116)
(86)(22)【出願日】2015年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2015084838
(87)【国際公開番号】WO2016104196
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-263515(P2014-263515)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】大竹 裕美
(72)【発明者】
【氏名】仲野 葵
(72)【発明者】
【氏名】山下 千佳
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−231102(JP,A)
【文献】 特開平07−316395(JP,A)
【文献】 特開昭62−268132(JP,A)
【文献】 特開昭62−022812(JP,A)
【文献】 特開2013−199627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/14
C08K 3/00−3/40
C08K 5/14
C08L 61/14
C08K 5/3415
H01L 21/30
H01L 23/28−23/29
H01L 23/31
C08G 8/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物を含有し、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂が、分子内に、(a1)フェノール性水酸基がアルキルエーテル化されており、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、(a2)フェノール性水酸基を有し、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、を各々少なくとも1つ有し、前記芳香環単位(a1)及び/又は(a2)の少なくとも一部が2−アルケニル基を有し、各々の芳香環単位が連結基により結合されており、かつ(a1)の芳香環単位数をm、(a2)の芳香環単位数をnとするとき(m+n)に対してnの比率が10〜60%であり、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を、(B)芳香族ポリマレイミド化合物のマレイミド基1モルに対して2−アルケニル基が0.4〜1.5モルとなる量で含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a1)の芳香環単位が式(1)で表される構造単位であり、前記(a2)の芳香環単位が式(2)で表される構造単位である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式(1)及び(2)において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、又は炭素原子数1〜5のアルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、又は式(3)
【化3】
で表される2−アルケニル基であり、式(1)において、Yは炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、式(3)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表し、式(3)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)
【請求項3】
前記連結基が式(4)で表される2価の連結基である請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
(Qはそれぞれ独立に式:CRで表されるアルキレン基、炭素原子数5〜10のシクロアルキレン基、炭素原子数6〜14の芳香環を有する二価の有機基、炭素原子数7〜10の脂環式縮合環を有する二価の有機基又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表す。)
【請求項4】
式(4)のQがCHである請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
式(3)で表される2−アルケニル基が、フェノール性水酸基に対し、オルト位又はパラ位の炭素原子と結合している請求項2〜4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
式(3)で表される2−アルケニル基がアリル基である請求項2〜5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の数平均分子量が750〜5000である請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物がマレイミドフェニル基を有する芳香族ビスマレイミド化合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
(C)重合開始剤をさらに含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(C)重合開始剤が有機過酸化物である請求項9に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物の総和100質量部に対して、(C)重合開始剤を0.1〜5質量部含有する請求項9又は10のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
充填材をさらに含む請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記充填材が非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群より選択される無機充填材である、請求項12に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、パワーデバイスなどの半導体封止材に好適な、成形時の加工性に優れ、かつ成形後の硬化物が優れた機械強度と耐熱性を示す熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスは、大電流かつ高圧稼動が可能で、低損失、小型で高機能なデバイスとして、次世代半導体の中心として期待される。近年、これらデバイス開発の進展に伴い、Si、SiC、GaNなどの素子の封止材料への要求特性がより厳格化してきた。特に、より高電力での駆動が可能となる高温環境下での使用、すなわち、耐熱性に対する要望は高い。従来、パワーデバイス用封止材料として、比較的耐熱性の高いポリイミド樹脂、シリコーンゲル、高耐熱エポキシ樹脂等が用いられていた。
【0003】
ポリイミド樹脂(ガラス転移温度が350℃以上)は、耐熱性は高いものの、その加工性が悪く、成形に高温かつ長時間の条件を必要とする。シリコーンゲル(ガラス転移温度が400℃以上又は観測されない)は、ポッティング式成形で使用されるため、成形時に形状を維持する筐体が必要となり、樹脂自体の価格も高いことから、コスト及び生産性の面で不利である。耐熱性エポキシ樹脂(ガラス転移温度が100〜200℃)は加工性に優れるものの、高温時の機械特性、電気特性などの耐熱性能は上記2種の材料より劣る。また、耐熱性エポキシ樹脂はナフタレン骨格、テトラフェニル骨格等を有する特殊構造であるため、コストも高く、実用化は限定的である。
【0004】
一方、高い耐熱性を有する熱硬化性樹脂として、アルケニルフェノール化合物と芳香族ビスマレイミド化合物を含む組成物が知られている(例えば特許文献1(特開平5−43630号公報)、及び特許文献2(特開平6−93047号公報))。アルケニルフェノール化合物のアルケニル基と芳香族ビスマレイミド化合物の不飽和基が互いにラジカル重合し高度に架橋することで耐熱性の高い樹脂硬化物が得られる。この熱硬化性樹脂(ガラス転移温度が200〜350℃)は、ポリイミド樹脂及びシリコーンゲルに比べると耐熱性は劣るものの、耐熱性エポキシ樹脂よりも高い耐熱性を持ち、かつエポキシ樹脂と同様なトランスファー成形が可能であることから、耐熱性と成形加工性を併せ持つ樹脂として知られている。
【0005】
しかしながら、アルケニルフェノール化合物と芳香族ビスマレイミド化合物を含む組成物はエポキシ樹脂に比べて高い架橋点密度を有することから、その硬化物の耐衝撃性は高い曲げ弾性率に起因して低いため、硬化物が硬くて脆いという欠点がある。また、上記組成物を封止樹脂として用いた場合、アルケニルフェノール化合物に含まれるフェノール水酸基は重合に寄与せずそのまま残存するため、封止された装置の高温時の電気特性、耐熱劣化性、耐湿信頼性等が悪化する場合がある。
【0006】
この問題を解決するため、特許文献3(特開昭62−280254号公報)にはアルケニル(アリル)フェノールのフェノール性水酸基をアルケニル(アリル)エーテル化したアリルエーテル化置換フェノール類ノボラック樹脂、N,N’−ビスマレイミド化合物及びエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記熱硬化性樹脂組成物はエポキシ樹脂を含むため耐熱性の高い硬化物は得られない。また、アルケニルエーテル化合物においては、高温条件下でクライゼン転位反応が進行する。そのため、組成物を硬化した後に残存するアリルエーテル基の化学的不安定性に起因して硬化物の長期耐熱性が低く、硬化収縮が大きいなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−43630号公報
【特許文献2】特開平6−93047号公報
【特許文献3】特開昭62−280254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の現状に鑑みて、本発明は、硬化することにより耐湿性、耐熱性及び機械的強度に優れた高信頼性の硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の基本骨格を有しており、分子内のフェノール性水酸基を有する芳香環が所定の割合で部分的にアルキル化(芳香環にアルキル基が結合)されたフェノール樹脂、及び芳香族ポリマレイミド化合物を含む組成物が、耐湿性、耐熱性及び機械的強度に優れた熱硬化性樹脂組成物を与えることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の態様を含む。
[1](A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物を含有し、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂が、分子内に、(a1)フェノール性水酸基がアルキルエーテル化されており、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、(a2)フェノール性水酸基を有し、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、を各々少なくとも1つ有し、前記芳香環単位(a1)及び/又は(a2)の少なくとも一部が2−アルケニル基を有し、各々の芳香環単位が連結基により結合されており、かつ(a1)の芳香環単位数をm、(a2)の芳香環単位数をnとするとき(m+n)に対してnの比率が10〜60%であり、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を、(B)芳香族ポリマレイミド化合物のマレイミド基1モルに対して2−アルケニル基が0.4〜1.5モルとなる量で含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[2]前記(a1)の芳香環単位が式(1)で表される構造単位であり、前記(a2)の芳香環単位が式(2)で表される構造単位である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式(1)及び(2)において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、又は炭素原子数1〜5のアルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、又は式(3)
【化3】
で表される2−アルケニル基であり、式(1)において、Yは炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、式(3)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表し、式(3)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)
[3]前記連結基が式(4)で表される2価の連結基である[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
(Qはそれぞれ独立に式:CRで表されるアルキレン基、炭素原子数5〜10のシクロアルキレン基、炭素原子数6〜14の芳香環を有する二価の有機基、炭素原子数7〜10の脂環式縮合環を有する二価の有機基又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表す。)
[4]式(4)のQがCHである[3]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5]式(3)で表される2−アルケニル基が、フェノール性水酸基に対し、オルト位又はパラ位の炭素原子と結合している[2]〜[4]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]式(3)で表される2−アルケニル基がアリル基である[2]〜[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7]前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の数平均分子量が750〜5000である[1]〜[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物がマレイミドフェニル基を有する芳香族ビスマレイミド化合物である、[1]〜[7]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9](C)重合開始剤をさらに含む[1]〜[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[10]前記(C)重合開始剤が有機過酸化物である[9]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[11]前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物の総和100質量部に対して、(C)重合開始剤を0.1〜5質量部含有する[9]又は[10]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[12]充填材をさらに含む[1]〜[11]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[13]前記充填材が非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群より選択される無機充填材である、[12]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐湿性、耐熱性及び機械的強度に優れた熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いて得られる電子部品を提供することができる。特にパワーデバイスなどの半導体封止材に用いた場合、成形後に高い耐湿性、耐熱性及び機械的強度を有する成形体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物を含有する。以下にこれらの成分について説明する。
【0014】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(A)ポリアルケニルフェノール樹脂は、分子内に、(a1)フェノール性水酸基がアルキルエーテル化されており、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、(a2)フェノール性水酸基を有し、2−アルケニル基が結合された又は結合されていない芳香環単位と、を各々少なくとも1つ有し、前記芳香環単位(a1)及び/又は(a2)の少なくとも一部が2−アルケニル基を有し、各々の芳香環単位が連結基により結合されており、かつ(a1)の芳香環単位数をm、(a2)の芳香環単位数をnとするとき(m+n)に対してnの比率が10〜60%であり、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を、(B)芳香族ポリマレイミド化合物のマレイミド基1モルに対して2−アルケニル基が0.4〜1.5モルとなる量で含有することを特徴とする。(m+n)に対するnの比率が60%を超えると、成形時の流動性が低下し、硬化物(成形体)の吸湿性も増加する。一方、(m+n)に対するnの比率が10%未満であると硬化時の成形性が低下し、硬化物も硬く脆いものとなる。
【0015】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を構成する基本骨格としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等の公知のフェノール樹脂の骨格が挙げられる。
【0016】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂は、対応するフェノール樹脂の分子内に含まれるフェノール性水酸基の水素原子の40〜90%、好ましくは50〜88%、より好ましくは60〜85%がアルキル基に置換(アルキルエーテル化)された構造を有する化合物である。言い換えると、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂には、対応するフェノール樹脂の分子内に含まれるフェノール性水酸基の10〜60%、好ましくは12〜50%、より好ましくは15%〜40%がアルキルエーテル化されずにフェノール性水酸基のままで含まれる。
【0017】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂において2−アルケニル基が結合された芳香環単位数をkとするとき、(a1)の芳香環単位数m及び(a2)の芳香環単位数nの総和、すなわち(m+n)に対してkの比率は40〜100%、好ましくは60〜100%、より好ましくは80〜100%である。ここで、2−アルケニル基が結合された芳香環単位は、(a1)の芳香環単位及び/又は(a2)の芳香環単位の部分集合を構成する。
【0018】
いくつかの実施態様では、(a1)の芳香環単位のうち40〜100%、好ましくは60〜100%、より好ましくは80〜100%の芳香環単位に2−アルケニル基が結合している。
【0019】
いくつかの実施態様では、(a2)の芳香環単位のうち40〜100%、好ましくは60〜100%、より好ましくは80〜100%の芳香環単位に2−アルケニル基が結合している。
【0020】
これらの中でも(a1)の芳香環単位が式(1)で表される構造単位であり、(a2)の芳香環単位が式(2)で表される構造単位である化合物が好ましい。なお、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂は、通常(a1)の芳香環単位数及び/又は(a2)の芳香環単位数が異なる化合物の混合物である、すなわち分子量分布を有するため、後述の実施例では数平均分子量から算出した式(1)で表される構造単位数mと式(2)で表される構造単位数nを参考までに示している。
【0021】
【化5】
【化6】
(式(1)及び(2)において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、又は炭素原子数1〜5のアルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、又は式(3)
【化7】
で表される2−アルケニル基であり、式(1)において、Yは炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、式(3)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表し、式(3)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)
【0022】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂において、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位の少なくとも一方が複数である場合、構造単位の結合順に特に限定はないが、一方が複数連続して結合する構造よりもランダム又は交互にそれぞれが連結基を介して結合している方が好ましい。複数の構造単位の有するR及び/又はRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を構成する式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位の少なくとも一部のRは2−アルケニル基である。
【0023】
式(1)及び式(2)におけるR及びRを構成する炭素原子数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。また、炭素原子数1〜5のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられる。なお、「それぞれ独立に」とは、複数個のR及びRが同一でも異なっていてもよいことを意味する。以下説明する連結基Q等についても同様である。
【0024】
式(1)及び式(2)のRを表す式(3)において、R、R、R、R及びRを構成する炭素原子数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。炭素原子数5〜10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができる。炭素原子数6〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。式(3)で表される2−アルケニル基Rはアリル基、すなわちR、R、R、R及びRが全て水素原子であることが好ましい。
【0025】
式(1)においてYを構成する炭素原子数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。
【0026】
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂において、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位は連結基により結合される。連結基は式(4)
【化8】
で表される2価の連結基であって、Qはそれぞれ独立に式:CRで表されるアルキレン基、炭素原子数5〜10のシクロアルキレン基、炭素原子数6〜14の芳香環を有する二価の有機基、炭素原子数7〜10の脂環式縮合環を有する二価の有機基又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基であることが好ましい。
【0027】
式(4)の連結基Qを構成する炭素原子数5〜10のシクロアルキレン基の具体例としては、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、メチルシクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等を挙げることができる。炭素原子数6〜14の芳香環を有する二価の有機基の具体例として、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレニレン基、アントラニレン基、キシリレン基、4,4−メチレンジフェニル基等を挙げることができる。炭素原子数7〜10の脂環式縮合環を有する二価の有機基の具体例として、ジシクロペンタジエニレン基等を挙げることができる。R及びRにおいて、炭素原子数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができ、炭素原子数2〜6のアルケニル基の具体例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等を挙げることができ、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができ、炭素原子数6〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることできる。
【0028】
上記化合物の中でも連結基QがCRである化合物が好ましく、低粘度化、低コストの観点でCHである化合物がより好ましい。
【0029】
本発明で使用される(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の好ましい数平均分子量は750〜5000であり、より好ましくは1000〜3000である。数平均分子量が750未満では高温時の熱分解開始温度が低下する傾向があり、5000を超えると高粘度となるため、成形時の加工性が悪くなる傾向がある。なお、数平均分子量は、後述の実施例に記載された方法により求めたものである。
【0030】
本発明に使用される(A)ポリアルケニルフェノール樹脂は、原料となるフェノール樹脂の水酸基の一部をアルケニルエーテル化した後、クライゼン転位反応により、オルト位又はパラ位に2−アルケニル基を転位させ、その結果再生成するフェノール性水酸基の一部をアルキル化することにより得ることができる。したがって、本発明の一実施態様では、式(3)で表される2−アルケニル基であるRが、フェノール性水酸基に対し、芳香環のオルト位又はパラ位の炭素原子と結合している。原料フェノール樹脂として、好ましくは下記式(5)で表される構造を有する公知のフェノール樹脂を使用することができる。
【化9】
(式(5)中、Rは式(1)及び式(2)におけるRと同一であり、Qは式(4)と同一である。mは式(1)で表される構造単位数m、nは式(2)で表される構造単位数nに各々対応する。)
【0031】
原料フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等を挙げることができ、低粘度化の観点からは式(5)におけるQがCHで表されるフェノールノボラック樹脂、及びクレゾールノボラック樹脂を好ましく使用することができる。
【0032】
フェノール樹脂の2−アルケニルエーテル化反応として、(i)塩化アリル、塩化メタリル、臭化アリル等のハロゲン化2−アルケニル化合物とフェノール化合物を反応させる公知の方法、及び(ii)酢酸アリルのようなカルボン酸2−アルケニル化合物とフェノール化合物を反応させる方法の2つの方法を例示することができる。ハロゲン化2−アルケニル化合物を用いた2−アルケニルエーテル化反応は、例えば特開平2−91113号公報に記載の方法を使用することができる。カルボン酸2−アルケニル化合物とフェノール樹脂を反応させる方法は、例えば特開2011−26253号公報に記載の方法を使用することができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物には、長期絶縁性能が要求されることから、長期絶縁性能に悪影響を及ぼす可能性があるハロゲン化2−アルケニル化合物由来のハロゲン化合物が混入しない上記(ii)の方法により調製されたフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
フェノール性水酸基に対するハロゲン化2−アルケニル化合物又はカルボン酸2−アルケニル化合物の使用量は0.5〜2.5当量が好ましく、より好ましくは0.8〜2.0当量であり、さらに好ましくは1.0〜1.5当量である。0.5当量未満であると、クライゼン転位した後の(B)芳香族ポリマレイミド化合物との反応部位が少なく、成形後の硬化物において機械的強度が低下する傾向がある。1.0当量未満の場合、後述のアルキル化反応後の最終目的物には、(a1)の芳香環単位及び/又は(a2)の芳香環単位に2−アルケニル基が結合していないものが含まれる。この場合、例えば式(1)及び式(2)におけるRが2−アルケニル基ではない構造単位が含まれる。2−アルケニルエーテル化反応は、2−アルケニル化合物を原料フェノール樹脂と混合し、4〜40時間反応させることにより実施する。2−アルケニルエーテル化反応において、原料フェノール樹脂が溶解する溶媒を用いることができる。原料フェノール樹脂を溶解可能なカルボン酸2−アルケニル化合物を用いて、無溶媒で反応を実施することもできる。フェノール性水酸基の一部を意図的に残存させる場合には、ハロゲン化2−アルケニル化合物又はカルボン酸2−アルケニル化合物の使用量を前記使用量より多く使用し、かつ反応時間を前記反応時間より短く調整することにより2−アルケニル化合物の反応率(転化率)を低く抑制することでも達成することができる。
【0034】
目的とする(A)ポリアルケニルフェノール樹脂は、前記(i)又は(ii)に記載の方法により製造されたポリアルケニルエーテル樹脂にクライゼン転位反応を行うことにより得ることができる。クライゼン転位反応は、ポリアルケニルエーテル樹脂を100〜250℃の温度に加熱し、1〜20時間反応させることにより行うことができる。クライゼン転位反応は高沸点の溶剤を用いて行ってもよく、無溶媒で行うこともできる。転位反応を促進するため、チオ硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩を添加することもできる。詳細は例えば特開平2−91113号公報に開示されている。
【0035】
上記クライゼン転位反応によりフェノール性水酸基が再生成するので、続いて再生成したフェノール性水酸基の一部をアルキル化反応によりエーテル化することにより目的の(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を得ることができる。エーテル化方法としては(i)塩化アルキル、臭化アルキル、ヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキル化合物とフェノール性水酸基とを反応させる公知の方法、及び(ii)硫酸ジメチルのような硫酸アルキルエステル化合物とフェノール性水酸基とを反応させる方法の2つを例示することができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物には、長期絶縁性能が要求されることから、長期絶縁性能に悪影響を及ぼす可能性があるハロゲン化アルキル化合物由来のハロゲン化合物が混入しない上記(ii)の方法を用いることが好ましい。
【0036】
フェノール性水酸基に対するハロゲン化アルキル化合物又は硫酸アルキルエステル化合物の使用量は0.4〜0.95当量が好ましく、より好ましくは0.6〜0.9当量である。0.4当量未満であると、(B)芳香族ポリマレイミド化合物との反応時に、未反応の水酸基の残存量が多くなるため、成形後の硬化物の耐湿性が低下する。0.95当量を超えると硬化反応が不十分となり、硬化物が硬くて脆くなる。アルキル化反応は、2〜40時間実施することが好ましい。2時間未満であると反応が完結せず、40時間を超えると生産性が低下する。
【0037】
上記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の製造工程では、原料フェノール樹脂のフェノール性水酸基を2−アルケニルエーテル化し、クライゼン転位反応を行った後再生成するフェノール性水酸基を部分アルキル化しているが、代わりに原料フェノール樹脂のフェノール性水酸基を部分アルキル化した後、残存するフェノール性水酸基を2−アルケニルエーテル化し、クライゼン転位反応を行うことで(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を製造することもできる。
【0038】
(B)芳香族ポリマレイミド化合物
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(B)芳香族ポリマレイミド化合物は、ポリアルケニルフェノール樹脂とラジカル反応により重合及び硬化し、150〜300℃の加熱処理により耐熱性を有する硬化物を提供するための必須成分である。芳香族ポリマレイミド化合物とは、マレイミド基を2つ以上有し、これらのマレイミド基が芳香環に結合しているものを意味する。芳香環として、ベンゼン等の単環、ナフタレン、アントラセン等の縮合環などが挙げられる。(B)芳香族ポリマレイミド化合物の具体例としては、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン等のビスマレイミド、トリス(4−マレイミドフェニル)メタン等のトリスマレイミド、ビス(3,4−ジマレイミドフェニル)メタン等のテトラキスマレイミド及びポリ(4−マレイミドスチレン)等の芳香族ポリマレイミドが挙げられ、好ましくは芳香族ビスマレイミド化合物である。芳香族ビスマレイミド化合物の具体例としては、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−プロピル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジプロピル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−ブチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミド−5−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−マレイミドフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパン、ビス(4−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(3−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4−マレイミドフェニル)ケトン、ビス(3−マレイミドフェニル)ケトン、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン、ビス(3−マレイミドフェニル)スルホン、ビス[4−(4−マレイミドフェニルオキシ)フェニル]スルホン、ビス(4−マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(3−マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホキシド、ビス(3−マレイミドフェニル)スルホキシド、1,4−ビス(4−マレイミドフェニル)シクロヘキサン、1,4−ジマレイミドナフタレン、2,3−ジマレイミドナフタレン、1,5−ジマレイミドナフタレン、1,8−ジマレイミドナフタレン、2,6−ジマレイミドナフタレン、2,7−ジマレイミドナフタレン、4,4’−ジマレイミドビフェニル、3,3’−ジマレイミドビフェニル、3,4’−ジマレイミドビフェニル、2,5−ジマレイミド−1,3−キシレン、2,7−ジマレイミドフルオレン、9,9−ビス(4−マレイミドフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−マレイミド−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)フルオレン、3,7−ジマレイミド−2−メトキシフルオレン、9,10−ジマレイミドフェナントレン、1,2−ジマレイミドアントラキノン、1,5−ジマレイミドアントラキノン、2,6−ジマレイミドアントラキノン、1,2−ジマレイミドベンゼン、1,3−ジマレイミドベンゼン、1,4−ジマレイミドベンゼン、1,4−ビス(4−マレイミドフェニル)ベンゼン、2−メチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,3−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,5−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,6−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、4−エチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、5−エチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、4,6−ジメチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、2,4,6−トリメチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、4−メチル−1,3−ジマレイミドベンゼン等が挙げられる。市販品としては例えば、BMI(商品名、大和化成工業株式会社製)シリーズ等が挙げられる。これらの中でも、マレイミドフェニル基を有する芳香族ビスマレイミド化合物が、安価で入手が容易であり汎用性が高いこと、及び組成物として混合する際には100℃程度の温度で溶融し混合分散性が良好であることから好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂組成物は、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を、(B)芳香族ポリマレイミド化合物のマレイミド基1モルに対して2−アルケニル基が0.4〜1.5モルとなる量で含有し、0.5〜1.0モルとなる量で含有することが好ましい。0.4モル未満であると耐熱性及び/又は機械強度が低下する傾向がある。また、1.5モルを超えると弾性率が増加し、脆く割れやすくなる傾向がある。
【0040】
(C)重合開始剤
本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化はラジカル重合によって行われるため、(C)重合開始剤を配合することが好ましく、(C)重合開始剤は熱ラジカル発生剤であることが好ましい。熱ラジカル発生剤として、有機過酸化物、アゾ系化合物、リン系化合物、レドックス開始剤等が挙げられる。有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。アゾ系化合物として、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、アゾジカルボン酸ジエチル等が挙げられる。リン系化合物として、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン等が挙げられる。レドックス開始剤として、クメンハイドロパーオキサイド等の有機ハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル、ジアセチルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等の過酸化エステルなどの有機過酸化物(酸化剤)と、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の三級アミン、メルカプトベンゾイミダゾール等の芳香族チオール化合物、酢酸銅、ナフテン酸銅等の有機酸金属塩、バナジルアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート等の金属キレート化合物、硫化銅、硫化マンガン等の金属硫化物、酸化銅等の金属酸化物などの還元剤との組み合わせが挙げられる。これらの中でも、硬化時の反応速度が高く短時間で成形が可能であり、また、保存安定性が高い点で、有機過酸化物を使用することが好ましい。
【0041】
(C)重合開始剤の好ましい使用量は、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物の総和100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜3質量部である。0.1質量部未満では十分に硬化反応が進行せず、5質量部を超えると保存安定性が悪くなる傾向がある。
【0042】
[その他の成分]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、その硬化特性を阻害しない範囲で必要に応じてその他の添加剤を配合することができる。添加剤の代表例としては充填材が挙げられる。充填材の種類は用途により適宜選択される。例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物を半導体封止用途に使用する場合には、一般に、硬化物の熱膨張係数を低下させるために絶縁性である無機充填材を配合する。この無機充填材は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0043】
無機充填材として、具体的には、非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの粒子が挙げられる。低粘度化の観点からは、中でも真球状の非晶質シリカが望ましい。無機充填材は、シランカップリング剤などで表面処理が施されたものであってもよいが、表面処理が施されていなくもよい。無機充填材の平均粒径は0.1〜20μmであり、最大粒径が50μm以下、特に20μm以下のものが好ましい。平均粒径がこの範囲にあると熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎることもなく、狭ピッチ配線部及び狭ギャップ部への注入性も適切である。ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50である。熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜決定することができる。例えば、半導体封止用途では、熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は一般に50〜95質量%であり、好ましくは65〜90質量%である。
【0044】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、樹脂と充填材、基板又は素子との密着性を改良するためにカップリング剤を含有してもよい。カップリング剤は特に限定されず、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などが挙げられる。カップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。カップリング剤の配合量は無機充填材100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。0.1質量部未満であると、カップリング剤の効果が充分発揮されないことがあり、5質量部を超えると、余剰のカップリング剤が揮発し、熱硬化性樹脂組成物を硬化させたときに膜減りなどを起こすことがある。
【0045】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硬化物特性に悪影響を及ぼさない範囲で必要に応じて、消泡剤、着色剤、蛍光体、変性剤、レベリング剤、光拡散剤、難燃剤などの他の添加剤を含有していてもよい。
【0046】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、各成分を所定の配合割合でポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサーなどの混合機に投入し、混合して、調製することができる。調製時必要に応じて有機溶媒を混合し、均一になるまで混合した後、有機溶媒を揮発させてもよい。この際使用する有機溶媒は組成物の有機成分、例えば(A)ポリアルケニルフェノール樹脂、(B)芳香族ポリマレイミド化合物、(C)重合開始剤等の溶解性に従って適宜選択することができるが、除去作業が容易なアセトン、トルエン、THF、酢酸エチル等を用いることが好ましい。酢酸などの酸性の強いもの、あるいはトリエチルアミン、ピリジンなどの塩基性のものはマレイミド基又は水酸基と反応するため好ましくない。ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど沸点の高いものは有機溶媒の残留が問題となるため好ましくない。有機溶媒を使用した場合は最後に有機溶媒を減圧下で除去して組成物を得ることが好ましい。組成物の粉末化を行う場合は作業工程により発生した熱により樹脂が溶融しない方法であれば特に指定はないが、少量であればメノウ乳鉢を用いるのが簡便である。市販の粉砕機を利用する場合、粉砕に際して熱を発するものは混合物の溶融が起きるためふさわしくない。粉末の粒径については例えば約1mm以下とすることができる。
【0047】
[硬化方法]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加熱することにより硬化させることができる。熱硬化条件は、通常150〜300℃である。150℃より低い温度では硬化が十分に進行せず、300℃より高い温度では組成物が分解したり低分子量成分が揮発したりするなどの問題が生じる上、設備的にも不利である。加熱時間は0.5〜48時間の範囲が好ましい。この加熱は、複数回に分けて行ってもよい。特に高い硬化度を求める場合には、過度に高温で硬化することは好ましくなく、例えば硬化の進行とともに昇温させて、最終的な硬化温度を250℃以下、好ましくは230℃以下とする。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0049】
実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
[原料]
・ショウノール(登録商標)BRG−556:フェノールノボラック樹脂(数平均分子量600、重量平均分子量850)(昭和電工株式会社製)
・ショウノール(登録商標)BRG−558:フェノールノボラック樹脂(数平均分子量1050、重量平均分子量1850)(昭和電工株式会社製)
・BMI−1100H:4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(ビス(4−マレイミドフェニル)メタン)(大和化成工業株式会社製)
・パークミル(登録商標)D:ジクミルパーオキサイド(日油株式会社製)
・シリカフィラー:MSR−5100[球状シリカ:平均粒径25.5μm](株式会社龍森製)
・シランカップリング剤:KBM−403[3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン](信越化学株式会社製)
【0050】
実施例及び比較例で用いた分析方法及び特性評価方法は以下のとおりである。
[分析方法]
・GPCによる分子量の測定
GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:Shodex(登録商標)GPC−101
カラム:Shodex(登録商標)KF−802、KF−803、KF−805
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
検出器:Shodex(登録商標)RI−71
温度:40℃
上記測定条件で、ポリスチレンの標準物質を使用して作成した検量線を用いて数平均分子量、及び重量平均分子量を算出する。
【0051】
・アリル化率
アリル化率は、H−NMR分析により算出する。原料のフェノール化合物の水酸基に対し、メタ位の水素原子は、アリルエーテル化及びクライゼン転位反応の各段階において、反応に関与しない。この水素原子の信号の積分強度(積分強度V1)を分子内内部標準とし、V1とアリルエーテル化及びクライゼン転位後に新たに生じる信号の積分強度を比較することで、各段階の反応率を算出する。例えば、アリルエーテル化後、アリル基のメチレン水素原子の信号が新たに観測される。アリル化反応剤(酢酸アリル)を過剰に用い、アリルエーテル化反応を100%進行させた際に観測されるアリル基のメチレン水素原子の信号の積分強度をV1で規格化して得られたV0を、100%アリルエーテル化した際の理論的に観測される信号の最大(100%)の積分強度とする。
【0052】
このV0に対し、アリル化した化合物のアリル基のメチレン水素原子の信号の積分強度をV1で規格化して得られたV2から、アリル化時の反応率を式:(V2/V0)×100により求める。クライゼン転位時の反応率も、同様に、クライゼン転位反応後、新たに観測される信号の積分強度をもとに算出する。クライゼン転位後、アリル基のメチレン水素原子の信号がアリルエーテル化合物のメチレン水素原子の信号の化学シフト値よりも高磁場側に観測される。新たに生じたメチレン水素原子の信号の積分強度をV1で規格化して得られたV3から、クライゼン転位反応時の反応率を式:(V3/V0)×100により求める。なお、H−NMR分析においては、スペクトルのシグナル/ノイズ(S/N)比が100を超えるよう測定サンプル溶液を調製する。S/N比が100以上であるため、H−NMR分析における分解能は、±1.0%以上を保証できるが、信号が幅広に観測されるため、H−NMR分析における分解能は±5%程度と判断し、本実施例では概算値にて最終目的物のアリル化率を記載した。
H−NMR分析は以下の条件で行う。
核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル測定条件
装置名:BRUKER AVANCE400(BRUKER社製)
溶媒:重クロロホルム
測定温度:27℃
【0053】
・アルキル化率の分析
JISK0070に従い、試料2gを用いて水酸基価を測定した後、水酸基当量を算出する。クライゼン転位反応により得られたポリアリルフェノール樹脂(XA)の水酸基価(W2)及びアルキル化反応により得られた最終目的物(合成品A〜F)の水酸基価(W1)を各々測定し、式:1−(W1/W2)×100[%]によりアルキル化率を算出する。
【0054】
・曲げ強度・弾性率
エー・アンド・デイ社製テンシロン試験機(型式:MSAT0002RTF/RTG)を用いて測定する。
試験片形状:100mm×10mm×3mm
3点曲げ試験を5回行い、その平均値を求める。
【0055】
・ガラス転移温度(Tg)
熱機械測定(TMA)により測定する。エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100熱機械分析装置を使用し、温度範囲30〜250℃、昇温速度10℃/min、荷重20.0mNの条件で8mm×8mm×3mmの試験片を用いて測定を行う。
【0056】
・吸水率
40mm×40mm×3mmの試験片を用いて85℃、1.2気圧、85%RH、24時間条件で恒温恒湿条件での重量変化率を算出する。測定を5回行い、その平均値を求める。
【0057】
(1)樹脂合成
[製造例1−1]ポリアリルフェノール樹脂(合成品XA)の製造
1Lの3つ口型フラスコに、炭酸カリウム(日本曹達株式会社製)201g(1.45mol)を純水150gに溶解した溶液、及びフェノールノボラック樹脂ショウノール(登録商標)BRG−556(昭和電工株式会社製)150.0gを仕込み、反応器を窒素ガス置換し85℃に加熱した。窒素ガス気流下、酢酸アリル(昭和電工株式会社製)204g(2.04mol、フェノールノボラック樹脂の水酸基(カタログ値)に対し、1.0モル当量)、トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)3.82g(14.6mmol)、及び50%含水5%−Pd/C−STDタイプ(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.62g(Pd原子として0.291mmol)を入れ、窒素ガス雰囲気中、105℃に昇温して4時間反応させた後、酢酸アリル29g(0.291mol)を追添し、加熱を10時間継続した。その後撹拌を停止し、静置することで有機層と水層の二層に分離した。純水(200g)を添加して析出している塩を溶解させた後、トルエン200gを加え、約80℃に保持して白色沈殿が析出していないことを確認した後、Pd/Cを濾過(空孔径1マイクロメートルのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST−142−JAを用いて0.3MPaに加圧)により回収した。この濾滓をトルエン100gで洗浄するとともに、水層を分離した。有機層を水200gで2度洗浄し、水層が中性であることを確認した。有機層を分離後、減圧下、濃縮し、褐色油状物のフェノールノボラック型のポリアリルエーテル樹脂を得た。続いてフェノールノボラック型のポリアリルエーテル樹脂を、メカニカルスターラーをセットした500mLのフラスコに入れた。300rpmで攪拌をしながら190℃まで昇温し、そのまま10時間クライゼン転位反応させ、フェノールノボラック型のポリアリルフェノール樹脂(合成品XA)を得た。ポリアリルフェノール樹脂(合成品XA)のアリル化率は100%であり、数平均分子量は880、重量平均分子量は2400であった。また、ポリアリルフェノール樹脂(合成品XA)の式(1)で表される構造単位数をm、式(2)で表される構造単位数をnとするとき、数平均分子量から算出した(m+n)は6であった。なお、式(1)及び式(2)におけるRは水素原子、Rはアリル基である。
【0058】
[製造例1−2]ポリアリルフェノール樹脂(合成品A)の製造
1Lの3つ口型フラスコに、炭酸カリウム(和光純薬株式会社製)146.6g(1.06mol)、製造例1−1により得られたポリアリルフェノール樹脂XA50.0g、ヨウ化メチル(和光純薬株式会社製)30.1g(0.2mol)を仕込み、反応器を窒素ガス置換した。N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬株式会社製)300mLを添加し、窒素ガス雰囲気中、60℃に昇温して7時間反応を継続した。その後撹拌を停止し室温まで放冷後、残留物を濾過した後に、減圧下で濃縮した。濃縮液に蒸留水(100mL)を加え、有機層を分離した。有機層に、蒸留水(100mL)を加えた洗浄を2回実施後、有機層を減圧下、濃縮し、褐色油状物として、目的物の部分アルキル化ポリアリルフェノール樹脂を得た(44.0g、85%収率)。生成物のアルキル化率は50%、数平均分子量は910、重量平均分子量は2550であった。また、数平均分子量より算出した式(1)で表される構造単位数mは3、式(2)で表される構造単位数nは3であった。
【0059】
[製造例2〜6]ポリアリルフェノール樹脂(合成品B、C、D、E及びF)の製造
(合成品Aに対しアルキル化比率を変化させたもののデータ)
ヨウ化メチルの使用量を変更した以外は製造例1−1及び1−2と同様にして赤褐色固体のフェノールノボラック型のポリアリルフェノール樹脂(合成品B、C、D、E及びF)を得た。
【0060】
各樹脂の数平均分子量、重量平均分子量、及び(m+n)に対するnの比率([n/(m+n)]%]を表1にまとめて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[製造例7]ポリアリルフェノール樹脂(合成品G)の製造
フェノールノボラック樹脂ショウノールBRG−556 150.0gの代わりにフェノールノボラック樹脂ショウノール(登録商標)BRG−558(昭和電工株式会社製)を用いたこと以外は製造例1−1及び1−2と同様にして赤褐色固体のフェノールノボラック型のポリアリルフェノール樹脂(合成品G)を得た。ポリアリルフェノール樹脂(合成品G)の水酸基当量は191、数平均分子量1300、重量平均分子量は5300であった。また、式(1)で表される構造単位数をm、式(2)で表される構造単位数をnとするとき、数平均分子量から算出したmは4、nは4、(m+n)は8であった。なお、式(1)及び式(2)におけるRは水素原子、Rはアリル基である。
【0063】
[実施例1〜4、及び比較例1〜8]
(2)熱硬化性樹脂組成物の評価
上記のとおり合成して得られたポリアリルフェノール樹脂及び下記の表2に示す各成分を用い、同表2に示す割合で配合し、溶融混練(東洋精機製2本ロール(ロール径8インチ)にて、110℃、10分)を行った。ついで、室温(25℃)にて1時間放冷、固化したのちミルミキサー(大阪ケミカル株式会社製、型式WB−1、25℃、30秒)を用いて粉砕することにより目的とする粉末状の樹脂組成物を得た。樹脂組成物を加熱プレス機(東洋精機株式会社製、プレス圧5MPa、180℃、10分)により熱時プレス成形することで、板状硬化サンプルを作製した。この硬化サンプルを用いて曲げ弾性率、曲げ強度及び吸湿率の測定を行った結果を下記の表3に示す。
【0064】
全ての実施例及び比較例において(B)芳香族ビスマレイミド化合物としてBMI−1100Hを使用した。シリカフィラー(MSR−5100)を樹脂組成物中75質量%の割合(樹脂分の総量に対して3倍量)で配合し、シランカップリング剤としてKBM−403を用い、シリカフィラーに対し0.2質量%添加した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の主用途の一つとして、パワーデバイス向け半導体封止材が挙げられる。半導体封止材用途では、硬化物の特性が以下の物性値を満足することが望ましい。
ガラス転移温度:250℃以上
曲げ弾性率:19GPa以下
曲げ強度:100MPa以上
吸水率:0.3%以下
【0068】
これら物性を全て満足する必要はないが、1種類以上の物性が上記条件を満足しない場合、封止材としての性能バランスが悪く、成形性、耐熱性などに問題が生じる可能性が高くなる。比較例1においては、曲げ強度が低く、吸水率が高い。比較例2においては、ガラス転移温度が低く、吸水率が高い。比較例3〜5及び7においては、曲げ弾性率が高く、吸水率が高い。比較例6においては、曲げ弾性率が高く、曲げ強度が低い。これらに対して実施例1〜4はいずれも上記条件を全て満たしており、半導体封止材用途に適していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、耐湿性、耐熱性及び機械的強度に優れた熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いて得られる電子部品を提供することができる。特にパワーデバイスなどの半導体封止材に用いた場合、成形後の硬化物の吸水率が低く、機械的強度及び耐熱性が高い封止材を製造することができる。