【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて、本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)不死化細胞の調製
(1)ウイルス導入用ベクターの作製
(1−1)プラスミド抽出用試薬等
カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、LB液体培地及びLB寒天培地、グリコーゲン、アガロース、滅菌水、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びRNase Aを使用した。50mg/mLのカナマイシン及びアンピシリンを調製し、ストック溶液として−20℃で保存した。グリコーゲンは20mg/mLに調製した。10mg/mLのRNase Aを調製し−20℃で保存した。10M(飽和)酢酸アンモニウム(NH
4OAc)、3Mの酢酸ナトリウム(NaOAc;pH5.2)を調製した。
【0061】
(1−2)制限酵素等
大腸菌コンピテントセル(Supercharge EZ10 Electrocompetent Cells、製品コード 636756)、Swa I(製品コード 1111A、Smi Iが同等品)、Xho I(製品コード 1094A)、T4 DNA Ligase(製品コード 2011A)、NucleoBond Xtra Midi(製品コード 740410.10/.50/.100)、NucleoSpin Plasmid(製品コード 740588 10/50/250)は、いずれもタカラバイオ(株)より購入した。Pac IはNew England Biolabs社より購入した。
【0062】
(1−3)バッファー等
1xTE Buffer(1mMのEDTAを含む10mM Tris-HCl [pH8.0])、100mM Tris-HCl(pH8.0)で飽和したフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、以下、「PCI混液」という。)を調製した。エタノールは、100%及び70%で使用した。ミニスケールでの組換えで使用するpAdeno-X プラスミドDNAの精製用に、以下のバッファー1〜4を調製した。
【0063】
バッファー1:10mM EDTA及び50mM グルコースを含む25mM Tris-HCl(pH8.0)
(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー2:1%SDSを含む0.2M NaOH(使用直前に用時調製、密封し、室温保存)
バッファー3:5M KOAc(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー4:1mM EDTA、20μg/mL RNaseを含む10mM Tris-HCl(pH8.0)
(使用直前にRNaseを添加し、−20℃で保存)
【0064】
(2)アデノウイルス精製及びβ-galアッセイ用試薬
ヒト5型アデノウイルスで形質転換したヒトHEK293細胞(ATCC #CRL1573)を使用した。HEK293細胞は完全培地で培養した。完全培地の組成は、100 unit/mLのペニシリンGナトリウムと100μg/mLのストレプトマイシン、4mMのL-グルタミン及び10%FBSを添加したDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、基本培地)とした。ペニシリンGナトリウム溶液は10,000units/mL、硫酸ストレプトマイシン溶液は10,000μg/mLで調製し、ストック溶液として保存した。
【0065】
培養には、60mmプレート、100mmプレート、6−ウェルプレート、T75及びT175フラスコを使用した。
【0066】
トリプシン-EDTA(製品コード CC-5012)はタカラバイオ(株)より購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Ca
2+とMg
2+不含)及びDulbecco’s リン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Ca
2+とMg
2+含有)を調製した。また、0.33%のニュートラルレッド染色液、0.4%トリパンブルー染色液を使用した。
【0067】
β-galアッセイには、X-Gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside [25mg/mL])ジメチルホルムアミド(DMF)溶液は−20℃で遮光保存した。Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712)を使用した。
【0068】
(3)予備試験
(3−1)lac Zを含む組換えアデノウイルス(pAdeno-X-lac Z)の構築
10mLの上述した完全培地に、解凍後、DMSOを除去したHEK293細胞を再懸濁し、全量を100mmの培養プレートに移した。HEK293細胞が付着した後に培養液を除去し、細胞を滅菌PBSで1度洗浄し1mLのトリプシン-EDTA溶液を加えて約2分間処理した。
【0069】
次に、10mLの完全培地を加えてトリプシンの反応を止め、穏やかに懸濁した。バイアブルカウントを行って、培養液10mLを入れた100mmのプレートに10
5個の細胞を移し、均一に拡げた。
【0070】
pShuttle2-lac Z(Adeno-X Expression System 1に含まれている陽性対照ベクター)とキットに含まれているAdeno-X Viral DNA(PI-Sce I及びI-Ceu I digested)とを使用し、キットに添付されているプロトコルに従って、lac Zを含む組換えアデノウイルスを構築した。標的細胞であるSHEDに感染させ、β-ガラクトシダーゼの発現をアッセイし、ベクターが構築されていることを確認した。
【0071】
(3−2)組換えpShuttle2プラスミドの構築
組換えpShuttle2 Vector(以下、「rpShuttle2 Vector」という。)の構築前に、キットに含まれているpShuttle2 Vector及びpShuttle2-lac Z VectorでDH5α大腸菌を形質転換した。50μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天プレート(以下、「LB/Kan」という。)上で形質転換体を選択し、単一コロニーからとった菌体を新しいLB/Kanに画線し、37℃で一晩インキュベートした。
【0072】
次いで、hTERT、bmi-1、E6、E7を、pShuttle2へ以下の手順でクローニングした。これらの遺伝子に適した制限酵素でpShuttle2 Vectorを切断した。
【0073】
次いで、上記のキットに添付されているpShuttle2 Vector Information Packet(PT3416-5)を参照し、挿入するDNAに合致するマルチクローニングサイトを決定した。制限酵素処理済みの上記プラスミドをアルカリホスファターゼで処理して精製した。
【0074】
常法に従って、標的DNA断片を調製し精製した。上記の制限酵素で消化したベクターと上記の遺伝子断片とをライゲーションし、DH5α細胞(コンピテント細胞)を、ライゲーション産物で形質転換した。上記コンピテント細胞の一部をとり、キットに含まれている対照ベクターpShuttle2-lac Z Vectorで形質転換して陽性対照とした。
【0075】
形質転換した大腸菌を含む混合液を、LB/Kan寒天プレートに接種し、カナマイシン耐性(Kanr)の形質転換体(コロニー)を選択した。5〜10個のKan耐性クローンを選択し、少量の液体培地に接種して増幅した。これらのクローンがrpShuttle2 Vectorを有していることを確認した後に、一晩インキュベートした。その後、市販のシリカ吸着カラムを用いて、常法に従い、構築されたプラスミドDNAを精製した。
【0076】
このプラスミドDNAを制限酵素で処理して、1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的の組換えプラスミドを同定した。シーケンシングによって、挿入した断片の方向と挿入部位を確認し、ポジティブクローンを同定した。
【0077】
組換えpShuttle2プラスミドDNA(以下、「rpShuttle2プラスミドDNA」という。)をターゲット細胞に直接にトランスフェクトし、ウエスタンブロットを行って目的タンパク質の発現を予備的にチェックした。
【0078】
(3−3)rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化
上記のようにして作製したrpShuttle2プラスミドDNAから、導入した遺伝子の発現カセットをPI-Sce I及びI-Ceu Iで切り出した。キットに添付されたプロトコルに記載されたin vitroライゲーション法に従って、切り出した発現カセットをAdeno-X Viral DNAに組み込んだ。rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化液を30μL調製し、下記の表1に記載した試薬を1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れて混合した。
【0079】
【表1】
【0080】
次いで、十分に混和した後にマイクロ遠心チューブに入れて軽く遠心し、その後、37℃にて3時間インキュベートした。
1kbラダー(DNA サイズマーカー)と共に上記二重消化後の反応液(5μL)を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
【0081】
(3−4)フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出
遠心チューブに、上述した二重消化液の残り(25μL)に、70μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。次いで、微量遠心機を用いて、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブ移した。ここに、400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。
【0082】
次いで、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、上清を吸引して除去し、ペレットを得た。このペレットに300μLの70%エタノールを加え、室温にて14,000rpmで2分間遠心した。上清を注意深く吸引して除去し、ペレットを室温にておよそ15分間風乾した。
【0083】
ペレットが乾燥した後に、これを10μLの滅菌した1xTE Buffer(pH8.0)に溶解し、使用するまで−20℃にて保存した。
【0084】
(4)組換えAdeno-X プラスミドDNAの構築
(4−1)Adeno-X ウイルスゲノムへの発現カセットのサブクローニング
下記の表2に示す試薬を、順番通りに1.5mLの滅菌済マイクロ遠心チューブに入れ、穏やかに混和し、軽く遠心した後に、16℃にて一晩インキュベートした。
【0085】
【表2】
【0086】
各サンプルに、90μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移し、ここに400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を加えてボルテックスで穏やかに撹拌した。
【0087】
4℃にて5分間、14,000rpmで遠心し、上清を吸引により除去してペレットを得た。以下のエタノール沈殿操作は、上記(3−4)と同様に行った。
ペレットが乾燥した後に、これを15μLの滅菌脱イオン水に溶解した。
【0088】
(4−2)組換えAdeno-X プラスミドDNAのSwa I消化
下記表3に示す消化液を調製し、遠心チューブに入れた各サンプルに加えて、2時間、25℃にて、インキュベートした。
【0089】
【表3】
【0090】
各サンプルに、80μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加え、ボルテックスで穏やかに撹拌した。マイクロ遠心チューブ、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に行い、ペレットの溶解液は使用まで−20℃にて保存した。
【0091】
(4−3)組換えAdeno-X プラスミドDNAによる大腸菌の形質転換の確認
電気的にコンピテントにした大腸菌を、Supercharge EZ10Electrocompetent Cell(製品コード 636756)を使用して、上記(4−2)で得たSwa I消化産物で形質転換した。
【0092】
形質転換混合液を、LB培地にアンピシリン(終濃度100μg/mL)を加えた寒天プレート(以下、「LB/Amp寒天プレート」という。)に接種し、37℃で一晩インキュベートして、アンピシリン耐性(Ampr)形質転換体を選択した。約10
6個のコロニーを得た。得られたコロニーを、製品に付属のAdeno-X System PCR Screening Primer Setでチェックした。5mLの新鮮なLB/Amp液体培地に単一のコロニーからの菌体を接種し、一晩培養した。翌日、後述するミニスケール法に従って、Adeno-X プラスミドDNAを精製した。
【0093】
(4−4)組換えAdeno-X プラスミドDNAのミニスケール調製
対数増殖にある培養液5mLを、14,000rpmで30秒間遠心し、上清を除去した。ペレットを再度10,000rpmで1分間遠心し、マイクロピペットを用いて、上清を除去した。
【0094】
ここに、150μLの上記バッファー1を加えて穏やかにピペッティングし、再懸濁した。この細胞懸濁液に、150μLのバッファー2を添加し、穏やかに転倒混和し、氷上に5分間放置した。冷却した細胞懸濁液に、150μLのバッファー3を加えて、再度転倒混和し、氷上に5分間放置した。
【0095】
この細胞懸濁液を、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、透明な上清を清浄な1.5mLの遠心チューブに移した。この上清に、450μLのPCI混液を添加し、転倒混和して撹拌した。その後、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。
【0096】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。目的のrDNAは、後述する制限酵素による解析及びPCRにより同定した。
【0097】
(5)得られたrAdeno-X プラスミドDNAの制限酵素部位解析
PI-Sce I及びI-Ceu Iを用いて解析を行った。下記の表4に示す試薬を、1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れ、30μLのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化反応液を加えて、十分に撹拌し、軽く回転させて内容物を集めた。
【0098】
【表4】
【0099】
37℃にて3時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。この処理後の反応液を1%アガロース/EtBrゲルで泳動し、培養液を得た。
【0100】
(6)組換えアデノウイルスの産生
(6−1)HEK293細胞トランスフェクト用rAdeno-X プラスミドDNAの調製
下記表5に示す試薬等を、1.5mLの滅菌済み遠心チューブに入れて混合し、微量遠心機で軽く遠心した。その後、37℃にて2時間、インキュベートし、rAdeno-X プラスミドDNAのPac I制限酵素処理を行った。
【0101】
【表5】
【0102】
60μLの1xTE Buffer(pH8.0)と、100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで穏やかに撹拌し、微量遠心機で、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。水層を、清浄な1.5mLの滅菌済み遠心チューブに注意深く移した。
【0103】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。
【0104】
(6−2)Pac I消化Adeno-X プラスミドDNAのHEK293細胞へのトランスフェクション
上記プラスミドDNAのトランスフェクションの24時間前に、60mmの培養プレートあたりの細胞数が1〜2x10
6(およそ100cells/mm
2)になるよう、HEK293細胞を接種し、37℃、5%CO
2存在下でインキュベートした。
【0105】
各培養プレートに、Pac I消化した10μLのAdeno-X プラスミドDNAをトランスフェクトし、標準的なトランスフェクション法(CalPhos Mammalian Transfection Kit 製品コード 631312)に従って、HEK293細胞にAdeno-X DNAを導入した。トランスフェクションの翌日から、CPE(細胞変性効果)が起きているかどうかを確認した。
【0106】
1週間後に、培養プレートの底面や側面に付着している細胞を穏やかに撹拌して遊離させた。得られた細胞懸濁液を15mLの滅菌済みの円錐遠心チューブに移し、室温にて5分間、1,500xgで遠心した。
【0107】
得られた沈殿を、500μLの滅菌PBSに懸濁した。ドライアイス/ エタノール中で凍結させ、37℃の恒温槽で融解させるという凍結融解操作を3回繰り返して、細胞を十分に融解させたライセートを得た。次いで、軽く遠心して浮遊物を除き、上清を滅菌した別のチューブに移して、直ちに使用した。直ちに使用しない分は、−20℃で保存した。
【0108】
60mmプレートの培養細胞に250μLの上記ライセートを加えて、培養を続けた。なお、Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)に含まれる抗Hexon 抗体を用いて、このキットの取扱説明書(PT3651-1)に従い、アデノウイルスの力価を測定した。
【0109】
(6−3)高力価ウイルス調製のためのウイルスの増幅
この力価測定を始める約24時間前に、HEK293細胞をT75フラスコに接種し、37℃、5%CO
2存在下で一夜培養し、50〜70%コンフルエントになっていることを確認した。翌日、ウイルスを含む新しい培地と交換し、MOI=10で感染させた。37℃、5%CO
2存在下で90分間培養した後にフラスコを取り出し、10mLの培地を加えた。
【0110】
37℃、5%CO
2存在下で3〜4日間培養し、CPEを確認した。50%の細胞が剥がれたところで、上記と同様にして遊離細胞懸濁液とし、15mLの滅菌済円錐遠心チューブに移した。上記と同様の凍結融解操作を行い、細胞を融解させた。Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)を使用し、10
7PFU/mLの力価を得た。
【0111】
ウェスタンブロッティングを行い、パッケージングされたアデノウイルスゲノムが、目的遺伝子に特異的な転写単位のコピーを、機能する形で持っているかを確認した。
【0112】
(7)標的細胞へのアデノウイルス感染
(7−1)標的細胞への感染
感染の24時間前に6−ウェルプレートに1x10
6個のSHEDを接種した。接種の翌日に培地を取り除き、ウイルスを含む1.0mLの培地を各プレートの中心に添加した。この溶液をSHEDが形成した単層全体に均一に広げた。
【0113】
37℃、5% CO
2存在下で4時間培養し、ウイルスをSHEDに感染させた。次いで、新鮮な培地を添加し、さらに、37℃、5%CO
2存在下で培養した。感染24時間後〜48時間後にかけて導入遺伝子の発現を経時的に解析した。
(7−2)感染細胞のβ-ガラクトシダーゼ発現の解析
Adeno-X-lac Zを感染させた接着性細胞におけるβ-ガラクトシダーゼの発現は、Luminescent β-galDetection Kit II(製品コード 631712、クロンテック社製)を使用してアッセイした。
【0114】
(実施例2)SHEDの作製
(1)乳歯幹細胞の分離
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0115】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)をこのディッシュに添加し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータ(卓上型パーソナルユース細胞培養装置 9000EXシリーズ、ワケンビーテック(株)製)中にて、2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシン/EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0116】
次に、上記のようにして選抜した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータにて、一次培養し初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシン/EDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離して回収した。
【0117】
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1x10
7個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
【0118】
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1x10
4細胞/cm
2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSC(骨髄間葉系幹細胞、Bone Marrow Mesenchymal stem cells)はロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。
【0119】
以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。得られたSHEDを、FACSTARPLUS (ベクトン・ディキンソン社製)を用いて、各試料について、約1x10
6個のSTRO-1陽性細胞を以下のようにしてソートした。
【0120】
ブロモデオキシウリジンBrdU染色キットのメーカー(Invitrogen社製)の取扱説明書に従いBrdUを12時間取り込ませ、SHEDの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後に、Tukey-Kramer検定を行い、統計的有意差を評価した。
【0121】
STRO-1を免疫蛍光で検出するために、SHEDを3%パラホルムアルデヒドで固定し、その後PBSで2回リンスし、100mMのグリシンで20分間処理した。次いで、これらの細胞を0.2%のTriton-X(Sigma-Aldrich社製)で30分間透過処理し、その後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。
【0122】
次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO-1抗体(1:100、R&D社製)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM-FITC抗体(1:500、Southern Biotech社製)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドDAPI(Vector Laboratories Inc)を用いてマウントした。
【0123】
その後、15%FBSを添加したα-MEMを6−ウェルプレートに入れ、ソートした細胞をクローン作製用に播種した。増殖した細胞の中から約300コロニーを試験用にプールした。
【0124】
(2)遺伝子の導入
上述したように、bmi-1, E6, E7及びhTERTの4つの遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、これらの遺伝子産物を発現するウイルスベクターを作製した。対照として、これらの遺伝子を組み込んでいない対照ベクターを作製した。
SHEDを100mmφのコラーゲンコートディッシュに1x10
6個を播種し、10%FBSを添加したDMEMを加えてサブコンフレントまで培養した。この培地を吸引除去して上記培地で希釈したウイルス溶液500μLを加え(MOI=10)、37℃にて、5%CO
2インキュベータ中で1時間培養し、上記ウイルスベクターを感染させた。感染48時間後、感染細胞をピューロマイシン(1pg/mL)を加えた上記の培地中で10日間培養して選択し、500〜600個の耐性クローンをプールした。3〜4日ごとに約0.5x10
5個のSHEDを100mmφの培養シャーレに播種し、継代した。遺伝子が導入されたSHEDをSHED-T、遺伝子が導入されないSHEDをSHED-Cとした。
【0125】
(実施例3)SHEDの特性の検討
(1)SHED-C及びSHED-Tの成長速度の測定
SHED-T(遺伝子導入をしたSHED)の個体数の倍加状態を、
図1に示した。図中、縦軸は個体数倍加回数(細胞分裂回数、回)、横軸は時間(培養日数)である。また、培養中のSHEDが1ヶ月間分裂しない状態を、細胞の老化の判断基準とした。
【0126】
SHED-Cは30回程で増殖が停止し、老化又は増殖停止段階に入った。これに対し、SHED-Tは250PDを超え、800日経過後も増殖した。
【0127】
(2)フローサイトメトリー分析
単一細胞を含む懸濁液を得るため、接着性の単層細胞をトリプシン/EDTAで消化した。2x10
5個の細胞に抗STRO-1モノクローナル抗体(1:100)を加えて放置し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson社製)を使用して分析した。対応するアイソタイプが同一の対照抗体と比較し、99%以上の割合で蛍光レベルが高い場合に発現が陽性とした。SHED-T及びSHED-Cともに、初期及び後期の継代細胞を固定し、FITC結合STRO-1抗体で染色した。その後、フローサイトメトリーで分析した。試験はそれぞれ2回行なった。SHED-CではSTRO-1陽性細胞の割合がPD20で27%であり、PD30では15%まで減少した(
図2(A)及び(B))。SHED-TではSTRO-1陽性細胞の割合が、それぞれPD20で46%、PD40で41%であった(
図2(C)及び(D))。
【0128】
(3)分化能の検討
PD0、PD10及びPD20におけるSHED-C及びSHED-Tの分化能を、新生骨量の形成能及び組織染色で調べた。まず、2.0x10
6個のSHED-C又はSHED-Tを、40mgのヒドロキシアパタイト/三カルシウムリン酸(HA/TCP)セラミック粉末(オリンパス工業(株)製)に混合し、10週齢の免疫無防備状態マウス(NIH-bgnu-xid, 雌、Harlan Sprague Dawley社製)の背側表面の皮下に移植した。
【0129】
移植8週間後に移植物を回収し、4%ホルマリンで固定して脱灰した後、パラフィン包埋するために10%EDTAを含むPBS溶液でバッファリングした。一部は、プラスチック包埋するために70%エタノール溶液中に保存した。
【0130】
パラフィン切片を脱パラフィン化し、これを水和した後、ヘマトキシリン及びエオシン(以下、「H&E」という。)で染色した。
図3(A)〜(C)は、SHED-T(不死化幹細胞)のPD0〜PD20を示し、同(D)〜(F)はSHED-C(正常細胞)のPD0〜PD20を示す。生体内での新しい骨の形成を定量するため、特定の領域を選び、SHED-T移植後に形成された移植物又はSHED-C移植後に形成された移植物それぞれについて、新生骨面積と視野面積とを算出し、これらの数値から新生骨量を求めた。
新生骨量=新生骨面積/視野面積x100
【0131】
図4に各個体数倍加回数(倍加時間)における、SHED-TとSHED-Cとの新生骨量の変化を示した。図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表す。なお、新生骨量は、以下の算出式で求めた。
【0132】
図4に示されるように、SHED-Cでは個体数倍加回数が増えるについて新生骨量が減少し、PD20ではPD0の約1/5まで低下した。これに対し、SHED-Tでは、PD20まで新生骨量はほとんど変動がなく、PD20では、SHED-TはSHED-Cの5倍以上の骨を形成したことが示された。
【0133】
(4)癌化活性の評価
SHED-C及びSHED-T細胞を、免疫無防備状態マウスの皮下組織に1x10
6個移植した。移植後、30日以上観察を行ったが、この期間中、上記の細胞を移植したいずれのマウスにおいても、腫瘍は形成されなかった。また、SHED-T細胞では、40〜200PDの培養細胞のすべてのクローンの形態に変化はなかった。
以上より、SHED-Tには、癌化活性はないことが示された。
【0134】
(5)評価
SEHD-Tは、260PDを超えても分化能力を保ったまま増殖する能力を有していることが示されたが、SHED-Cは、分化能力を有するものの30PD以下で老化した。
【0135】
以上から、SHED-Tは不死化幹細胞となっており、活性の高いSHED培養上清の大量生産に適することが示された。
【0136】
(実施例4)コンディション培地の調製
実施例1で調製した不死化SHEDを、酸素濃度を20%、10%、5%、1%とした下記の条件で48時間、無血清培地で培養し、その上清を回収した。
【0137】
下記表6に示すサイトカインの産生量を、ELISAキット(R & Dシステムズ社製、Human IGF-1 Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DG100)、Human TGF-β Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DB100B)、Human VEGF Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DVE00))を用いて測定した。
【0138】
【表6】
【0139】
表6に示すように、低酸素濃度で培養した方が、IGF-1, VEGF, TGF-β1, SDF-1の産生量は有意に高くなっており、低酸素濃度下での培養が、少なくとも上記4種類のサイトカインの産生量を有意に増加させることが示された。
【0140】
(実施例5)担癌動物を用いた治療効果の検討
マウス扁平上皮癌株SCCVII(近畿大学医学部、西村氏より提供を受けた)を、10%FBS(ギブコ社製)を含むDMEM中で、37℃で1週間培養し、0.5%トリプシンを含むPBSバッファーを用いて、細胞をバラバラにした。トリパンブルーで染色して生細胞数を計数し、1x10
6個/mLの懸濁液を1mLのPBSバッファーを用いて調製した。
【0141】
50匹のマウス(C3H/He、7週齢、中部科学資材(株)より購入)の背部皮下に、上記のようにして調製した細胞懸濁液0.5mLを18Gの注射針(テルモ(株)製)を用いて注入した(5x10
5個/マウス)。1群10匹とした。
対照群(バッファーのみ)、グループI〜グループIV(以下、「GI〜GIV」ということがある。)の培養上清を、各群のマウスに1mLずつ、尾静脈から投与した。
癌細胞を注入した後に、各群のマウスをそれぞれ上記と同じ時条件飼育した。
【0142】
各群のマウスをケージに入れ、12時間明暗条件の下、25±0.5℃、湿度50%の条件で飼育した。水と飼料は自由に摂取させた。腫瘍の直径を、毎日、ノギスで測定した。
【0143】
マウスに注入したSCCVIIが形成した腫瘍の直径が6mmを越えた時点で、酸素濃度を変えて培養したGI〜GVIの培養上清を、マウスの尾静脈より1mLずつ、1回注入した。各群の腫瘍径の増加を、
図5に示す。
【0144】
GIでは、投与開始3日目で腫瘍の直径が10mmを越え、14日目で20mmを越えた。投与開始21日目には、25mmを越えた。GII及びGIIIは、GIよりは腫瘍直径の増加速度が有意に遅く(*は、p<0.05)、投与開始7日目で10mmを越え、19日目で20mmを越えた。
【0145】
これに対し、GIVでは腫瘍直径の増加が有意に遅く(**は、p<0.01)投与開始21日目でも平均は10mmを越えなかった。ただし、14日目以降は、腫瘍が退縮するケースも見られたため、標準偏差が大きくなった。
図6に、腫瘍の直径が最大になったときの状態(A)及び完治した状態(B)のマウスの写真を示す。
【0146】
図7に各群のマウスの生存率の推移を示す。腫瘍直径の増加速度の差は、マウスの生存率に反映されており、GIでは41日目で全てのマウスが死亡した。また、GII及びGIIIでは、50日で全てのマウスが死亡した。これに対し、GIVでは、60日を越えても約80%のマウスが生存しており、全てのマウスが死亡したのは78日目であった。生存期間はGIの約2倍となっていた。
【0147】
(実施例6)腫瘍及びその周辺組織の変化についての検討
癌組織に対するマクロファージの挙動を、in vivoイメージングで測定した。5mLのチオグリコレート溶液(2%のBrewer's チオグリコレート培地(Difco社製))をマウスの腹腔内に注入し、4日後に、PBSを用いて腹腔洗浄を行い、10
7個のマクロファージを得た。得られたマクロファージのうち、3x10
6個を、3.5μg/mLの色素(MolecularTracer DiR(住商ファーマインターナショナル(株)製))及び0.5%エタノールと混合してラベルした。
【0148】
実施例2で調製した培養上清を、1mL/マウスで尾静脈から各群のマウスに注入した。この培養上清中のサイトカインの量を上述したHuman IGF-1 Quantikine Elisa kit、Human TGF-β Quantikine Elisa kit、Human VEGF Quantikine Elisa kitを用いて測定した。ラベルしたマクロファージの挙動は、Xenogen IVIS 200 series system (Xenogen, Alameda, CA)を用いて観察した。イメージングは、推奨されているIVISフィルターセット(励起710nm/蛍光760nm)を使用し、励起波長748nm、蛍光波長780nmで行った。
【0149】
GIVでは、ラベルしたマクロファージは1時間以内に移動を始め、24時間後には、腫瘍全体を取り囲むように集積した(
図8)。図中、腫瘍下形成された右後肢の付け根部分に、マクロファージの浸潤像が見られた。これに対し、GI〜GIIIではこのようなマクロファージの腫瘍周辺への集積は見られなかった。
【0150】
(実施例7)組織学的検討
CH3/Heマウスに、5x10
5個のSCCVIIを注入し、1週間後、15週間後に周辺組織を含めて腫瘍を切除し、組織学的に検索した。15週で、治療群(GIV)において、腫瘍壊死を認めた例があった(
図6)。
【0151】
また、マクロファージマーカーはCD11b抗体(BioLegend社製)、また、M2マクロファージマーカーはCD206抗体(Abcam社製)、M1マクロファージマーカーはED1(CD68)抗体(Millipore社製)をそれぞれ用いて染色し、マクロファージのサブポピュレーションであるM1及びM2の比を検討した。結果を
図9に示す。
【0152】
図9に示すように、腫瘍発生初期(細胞注入後1週目)ではM2の割合が多かった(M1優位)のに対し、後期(細胞注入15週)では、M1とM2との割合が逆転(M1優位)していた。ウェスタンブロッティング法で腫瘍組織を調べたところ、M2にはTGF-βスーパーファミリーが多く発現しているのに対し、M1にはTGF-βインヒビター(Trabedersen, LAP 12009)などが発現していることがわかった。
図10に、対照群と治療群とにおける、マウスの腫瘍組織のエオシン−ヘマトキシリン染色による染色像を示す。拡大率が低い対照群(A)と治療群(B)の染色像を対比すると、治療群の染色像で腫瘍組織に若干の死滅している部分があることがわかる。拡大率を上げると、その相違が明確に観察された(
図10(C)及び(D))。
【0153】
以上より、上記の歯髄幹細胞は低酸素条件に応答して、腫瘍増殖に関与する特定のサイトカインを増加、活性化させることが示された。そして、その結果、マクロファージの遊走能を高め、腫瘍組織へ高度に集積させることが示された。
【0154】
さらに、腫瘍に集積したマクロファージは、その本来の貪食能で腫瘍組織を破壊すると同時に、TGF−βを介した腫瘍の増殖制御を行ったものと考えられた。