特許第6351799号(P6351799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351799癌治療用医薬組成物の製造方法及びその方法によって製造された癌治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351799
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】癌治療用医薬組成物の製造方法及びその方法によって製造された癌治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20180625BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20180625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   A61K35/32
   A61P35/00
   !C12N5/0775
   !C12N5/10
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-121895(P2017-121895)
(22)【出願日】2017年6月22日
(62)【分割の表示】特願2015-559139(P2015-559139)の分割
【原出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2017-160264(P2017-160264A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2017年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-11729(P2014-11729)
(32)【優先日】2014年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512139205
【氏名又は名称】株式会社Quarrymen&Co.
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 実
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6166388(JP,B2)
【文献】 特表2013−513366(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147082(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の歯髄から得た乳歯歯髄幹細胞に、hTERT、bmi−1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入して不死化幹細胞とする幹細胞作製工程と;
前記不死化幹細胞を、無血清培地中で所定の時間、酸素濃度が0.5%以上20%未満の低酸素濃度下で23〜27℃で培養し、所定の濃度以上の複数の再生因子を含むコンディション培地を調製する、コンディション培地調製工程と;を備え、
前記コンディション培地調整工程では、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養したときに調製されるコンディション培地に比べて、インスリン様成長因子(IGF-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の双方を1.5倍以上の含有量で含有するコンディション培地が製造される、癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項2】
前記コンディション培地は、インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング因子β(TGF-β1)及びストロマ細胞由来因子(SDF-1)から成る群から選ばれる再生因子を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて少なくとも1.5倍の含有量で含む、ことを特徴とする請求項1に記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項3】
前記コンディション培地は、トランスフォーミング因子β(TGF-β1)を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて、少なくとも5倍以上の含有量で含む、ことを特徴とする請求項2に記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項4】
前記コンディション培地は、ストロマ細胞由来因子(SDF-1)を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて、少なくとも3倍の含有量で含む、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
前記所定の時間が40〜56時間である、請求項1〜4のいずれかに記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項6】
前記低酸素濃度は、酸素濃度5%以下である、請求項1又は5に記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
前記低酸素濃度は、酸素濃度1%以下である、請求項6に記載の癌治療用医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療用医薬組成物の製造方法及びその方法によって製造された癌治療用医薬組成物に関する。より詳細には、哺乳類の歯髄幹細胞の培養上清を用いた癌治療用医薬組成物の製造方法及びその方法によって製造された癌治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体内の微小環境における低酸素応答は発生時の器官形成、幹細胞増殖などに働くこと、及び、低酸素応答の働きは癌や虚血性疾患などの病気にも関与していることが知られている。
また、低酸素環境は、多数の遺伝子発現を調整し、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの細胞応答などを制御する。
【0003】
一方で、癌の治療のために、種々の抗癌剤が開発されてきた。こうした抗癌剤としては、例えば、DNA合成阻害剤であるシタラビン、フルオロウラシル、メルカプトプリン、チオグアニン、ビンカアルカロイドであるビンブラスチンやビンクリスチン、プロカルバジン、アルキル化剤であるムスチン、シクロホスファミド、シスプラチン、抗生物質であるアクチノマイシンD、ドキソルビシン、マイトマイシン、ミトラマイシン、ブレオマイシン、ステロイドホルモンである糖質コルチコイド、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン等を挙げることができる。
【0004】
シタラビンはDNAポリメラーゼを阻害し、フルオロウラシルはチミジル酸合成酵素を阻害し、ピリミジン合成を抑制する。メルカプトプリンやチオグアニンはプリン合成を阻害する。ビンブラスチンやビンクリスチンはM期に特異的に作用し、チューブリンと結合して紡錘を破壊し、有糸分裂を停止させる。プロカルバジンは二本鎖DNAの解重合を生じさせ、ムスチン、シクロホスファミド、シスプラチン等は共有交差結合を生じさせ、DNA合成を阻害する。アクチノマイシンD、ドキソルビシン、マイトマイシン、ミトラマイシン等はインターカレーターであり、二本鎖DNAの塩基対の間に入り込んでRNAの産生を遮断する。また、ブレオマイシンは二本鎖DNAの切断を起こす。糖質コルチコイド、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン等は、RNA合成後のタンパク質合成を阻害する。
【0005】
これらの他にも、多くの抗癌剤が開発されて治療に使用され、一定の治療効果を挙げてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2011/118795号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yue Wang, et al., PLOS ONE, January 2013, Vol. 8, Issue 1, e54296
【非特許文献2】M. Celeste Simon and Brian Keith, Nature Reviews/ Molecular Cell Biology, April 2008, Vol. 9, pp. 285-296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
WO2011/118795号公報には、幹細胞を培養することによって得られた幹細胞培養上清を含む、標的組織の損傷部を修復するための損傷部治療用組成物が開示されている(以下、「従来技術1」という。)。
従来技術1は、通常の酸素濃度条件の下で培養した、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF-β)からなる群より選択された少なくとも2のサイトカインを含む幹細胞の培養上清が、種々の疾病によって損傷を受けた組織、例えば、中枢神経組織、皮膚組織、歯周組織、骨組織、脳組織、網膜組織の治療に使用できることを見出し、主要な死因のひとつである、心疾患や脳血管疾患によって損傷した組織の治療剤を開発したという点では優れた技術である。しかし、主要な死因のひとつである腫瘍(癌)については検討がされていない。
【0009】
癌の治療に関しては、上記のような抗癌剤を用いて、化学療法が行われることが多いが、臨床では、抗癌剤が効かなくなる(耐性化する)ことがしばしば見られる。耐性化の機序としては、例えば、肝臓における抗癌剤の不活化や代謝の亢進等、癌患者の生体反応に起因する場合や、癌細胞レベルの生化学的変化に起因する場合がある。これらのうち、後者では、多剤耐性に関与する抗癌剤の膜輸送機構の変化、標的酵素やタンパク質の増幅、薬剤活性化機構、酵素の活性の低下、例えば、DNA修復機構の亢進、抗癌剤の不活化機構の亢進等が起こっていると考えられる。また、抗癌剤は強い副作用を有する者が多く、副作用によって患者が死亡するケースもある。
【0010】
このため、副作用の少ない癌治療法に対する要求は高い。こうした副作用の少ない治療法として免疫療法が注目を浴びているが、腫瘍制御能が低く、確実に腫瘍を撲滅することは困難である。これは、免疫療法が、免疫の主体であるリンパ球やNK細胞を利用することに起因するものであり、また、リンパ球やNK細胞が、本来は、感染症対応細胞であるため、固形癌への抑制効果が小さいことによるものである。
【0011】
したがって、固形癌に対して効果が高く、化学療法剤のような副作用がなく、耐性化を起こしにくい新たな抗ガン治療薬の開発に対する、強い社会的要請がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の発明者らは、こうした状況の下で、乳歯幹細胞(SHED)の生物学的能力についての研究を進め、その過程において、SHEDの培養上清(以下、「SHED-CM」ということがある。)が、マクロファージ(以下、「M」と略すことがある。)の機能を制御することを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
すなわち、本願発明の一実施態様は、哺乳類の歯髄から得た乳歯歯髄幹細胞に、hTERT、bmi-1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入して不死化幹細胞とする幹細胞作製工程と;前記不死化幹細胞を、無血清培地中で所定の時間、酸素濃度が0.5%以上20%未満の低酸素濃度下で23〜27℃で培養し、所定の濃度以上の複数の再生因子を含むコンディション培地を調製する、コンディション培地調製工程と;を備え、前記コンディション培地調整工程では、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養したときに調製されるコンディション培地に比べて、インスリン様成長因子(IGF-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の双方を1.5倍以上の含有量で含有するコンディション培地が製造される、癌治療用医薬組成物の製造方法である。
【0014】
ここで、前記コンディション培地は、上記インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング因子β(TGF-β1)及びストロマ細胞由来因子(SDF-1)から成る群から選ばれる再生因子を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて少なくとも1.5倍の含有量で含む、ことが好ましい。
また、前記コンディション培地は、トランスフォーミング因子β(TGF-β1)を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて、少なくとも5倍以上の含有量で含むことが好ましい。さらに、前記コンディション培地は、ストロマ細胞由来因子(SDF-1)を、酸素濃度を20%とした以外は同じ条件の下で培養した場合に比べて、少なくとも3倍の含有量で含む、ことが好ましい。
【0015】
ここで、前記所定の時間は40〜56時間であることが好ましく、前記低酸素濃度は、酸素濃度5%以下であることが好ましい。また、前記低酸素濃度は、酸素濃度1%以下であることが好ましい。
【0016】
また、本願発明の別の実施態様は、上記の方法で得られたコンディション培地を含む癌治療用医薬組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、所定の培養条件の下に、低酸素濃度で培養することにより、酸素濃度を20%として培養した場合よりも、有意に高い濃度のIGF-1及びVEGFを含む、医薬組成物を得ることができる。
【0018】
そして、この医薬組成物を投与することにより、固形腫瘍周囲に集まるマクロファージのポピュレーションを制御して、癌細胞の増殖を抑制するか、癌細胞を死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、上述した歯髄細胞から選択された不死化幹細胞と、不死化幹細胞ではない細胞の個体倍加回数と培養期間との関係を表すグラフである。図1中、SHED-Tは不死化幹細胞を表し、SHED-Cは不死化幹細胞ではない細胞を表す。
図2図2は、SHED-C及びSHED-TでのSTRO-1発現の結果を示すグラフである(図2(A)〜(D))。図中、PD20は個体数倍加回数=20回、PD30は個体数倍加回数=30回、及びPD40は個体数倍加回数=40回を表す。
図3図3は、下記の図4に示す各個体倍加時間のときのSHED-C(D)〜(F)とSHED-T(A)〜(C)との組織染色像を示す図である。
【0020】
図4図4は、個体倍加時間(回数)と新生骨量との関係を示すグラフであり、図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表わす。新生骨量は、以下の算出式で求めた。 新生骨量=新生骨面積/視野面積x100
図5図5は、SCCVIIを皮下に注射した後の腫瘍の大きさが、培養条件の異なるSHEDの培養上清を投与したときに、どのように変化するか経時的に調べた結果を示す図である。図中、*はANOVA検定の結果、p<0.05を、また、**はp<0.001を示す。
【0021】
図6図6は、直径10mmを越える大きさの腫瘍(A)が、完全に退縮した症例(B)を示す図である。
図7図7は、SCCVIIを皮下注射した各群のマウスの経時的な生存率を示す図である。
図8図8は、腫瘍が形成されたマウスに、IVIS(登録商標)XenoLight DiR(住商ファーマインターナショナル(株))で標識したマクロファージ1x107個を尾静脈から注入し、in vivoイメージングした像である。
【0022】
図9図9は、SCCVIIによって固形腫瘍が形成されたマウスの腹腔内マクロファージのポピュレーションの変化を示す図である。
図10図10は、マウス扁平上皮癌株SCCVIIを皮下注射して形成された固形腫瘍の組織学的検索結果(ヘマトキシリン−エオシン染色像)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本願発明の不死化幹細胞を得るには、まず、哺乳類の間葉系細胞、初期発生胚及び体細胞から幹細胞を単離する。上記哺乳類としては、ヒト、ブタ、ウマ、及びサルからなる群から選ばれるものであることが、ヒト細胞との遺伝的類似性が高いこと、及び感染の危険性が低いことから好ましい。
【0024】
本明細書中、「間葉系細胞」とは、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等、間葉系に属する細胞への分化能を持つとされる細胞をいう。具体的な間葉系細胞としては、上記の動物の歯髄細胞、骨髄細胞、臍帯細胞及び脂肪細胞等を挙げることができる。また、「初期発生胚」とは、ES細胞を樹立するために必要な、受精卵よりも発生が進んだ胚盤胞までの初期段階の胚をいう。「体細胞」とは、生物体を構成している細胞のうち、生殖細胞以外の細胞を総称したものをいう。
【0025】
さらに、「歯髄細胞」とは、再生能を有する歯の神経に含まれる幹細胞の一種をいう。歯という硬質の材料に保護されているため紫外線や放射線を通さず、遺伝子も傷つきにくいという特性を有する。「骨髄細胞」とは、骨髄の穿刺液中に得られる細胞の総称であり、骨髄芽球等の白血球系の細胞、赤芽球系の細胞、骨髄巨核球、及び形質細胞等が含まれる。
【0026】
本明細書中で臍帯細胞とは、胎児と胎盤とを結ぶ臍帯中に存在する細胞であり、臍帯中に含まれ、造血幹細胞を豊富に含有する臍帯血も含む。
【0027】
また、上述した幹細胞中に導入する遺伝子としては、hTERT、bmi-1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4a等を挙げることができる。hTERTはテロメア修復酵素の遺伝子であり、bmi-1はポリコーム複合体を構成するたんぱく質の1つであるBmi-1の遺伝子である。ここで、Bmi-1は造血幹細胞の維持に必要であり、活性増強により造血幹細胞を増やすことができるという作用を有する。
【0028】
E6及びE7はHPV-16又はHPV-18のDNAの初期遺伝子である。また、Oct3/4はSox2と協調して標的遺伝子の転写を活性化する遺伝子である。Klf4(Kruppel型転写因子4)は細胞分裂と胚発生にかかわる遺伝子を調節し、消化器系の癌の癌抑制因子としてかかわっている。
【0029】
Sox2はSRY-related HMG box遺伝子ファミリーに属しており、機能の未分化性(多能性)維持に関与することが知られる遺伝子である。c-Mycは発癌遺伝子であり、c-Mycで誘導された腫瘍内で細胞の生存と死の両方を促進する遺伝子である。p16INK4aはがん細胞のcell cycleをcontrolするのに重要な役割を果たす遺伝子である。
【0030】
以下に、ヒトの脱落乳歯から歯髄細胞を用いた不死化幹細胞の作製を説明する。
まず、脱落乳歯を、例えば、クロロヘキシジン、イソジン溶液その他の消毒薬で消毒した後、歯冠部を分割し、歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。
【0031】
採取した歯髄組織を、基本培地、例えば、5〜15%ウシ血清(以下、「CS」ということがある。)及び50〜150ユニット/mLの抗生物質を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、以下、「DMEM」という。)に懸濁する。ついで、1〜5mg/mLのコラゲナーゼ及び1〜5mg/mLのディスパーゼを用いて、37℃で、0.5〜2時間処理する。
【0032】
上記基本培地としては、DMEMの他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社製等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社製、GIBCO社製等)、RPMI1640培地等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。混合培地の一例として、IMDMとHamF12を等量混合した培地(例えば商品名:IMDM/HamF12(GIBCO社製)として市販される)を挙げることができる。
【0033】
また、基本培地に添加するものとしては、ウシ胎仔血清(以下、「FCS」という。)、ヒト血清、羊血清その他の血清、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」ということがある。)、ペニシリン、ストレプトマイシンその他の抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
上記の基本培地は、後述する細胞選別用の培養、及び選別後の細胞の培養に使用することもできる。
【0034】
酵素処理の後、3〜10分間の遠心操作(3,000〜7,000回転/分)を行い、歯髄細胞を回収する。必要に応じて、セルストレーナーを用いて細胞の選別を行う。選別された細胞を、例えば、3〜6mLの上記基本培地で再懸濁し、直径4〜8cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。
【0035】
次いで、培養液、例えば、10%FCSを含有するDMEMを添加した後、5%CO2インキュベータにて、37℃で2週間程度培養する。上記培養液を除去した後、PBS等で細胞を1〜数回洗浄する。培養液の除去及び細胞の洗浄に代えて、コロニーを形成した接着性の歯髄幹細胞を回収することもできる。接着性の歯髄幹細胞は、例えば、0.025〜0.1%のトリプシンと0.3〜1mMのEDTAにて、数分間、37℃で処理してディッシュから剥離させ、次いで細胞を回収する。
【0036】
次に、上記のように選別された接着性細胞を培養する。例えば、上記のようにして得た歯髄幹細胞を付着性細胞培養用ディッシュに播種し、5%CO2、37℃の条件でインキュベータにて培養する。
継代培養は、例えば、肉眼で観察してサブコンフレント又はコンフレントに達したときに、上述のように、トリプシンとEDTAとを用いて細胞を培養容器から剥離させて回収し、再度、培養液を入れた培養容器に播種する。
【0037】
ここで、サブコンフレントとは、培養容器中の細胞付着面の約70%に細胞が付着した状態をいう。例えば、継代培養を1〜8回行い、選別された細胞を、必要な細胞数、例えば約1x107個/mLまで増殖させる。以上のように培養した後に、細胞を回収して液体窒素中にて保存する。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
【0038】
次いで、前記幹細胞を初期培養して得られた初期培養細胞に、4種類の遺伝子を導入して遺伝子導入細胞を作製する。ここへ導入する遺伝子は、hTERT、bmi-1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類であることが好ましい。hTERT、bmi-1、E6、E7を導入することにより、より個体数倍加回数の多い不死化幹細胞を得ることができる。ここで、hTERTは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素の遺伝子であり、bmi-1は幹細胞の自己複製や分化制御に関わっているポリコーム群遺伝子である。E6及びE7は、ヒトパピローマウイルスが自己複製のために使用する初期遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム中に存在する遺伝子である。
こうした遺伝子の導入は、以下のようにして行うことができる。
【0039】
目的とする上記の遺伝子を組み込むためのプラスミドを調製し、これをシャトルベクター、例えば、pSuttle2に組み込んで、上記の遺伝子をクローニングする。このシャトルベクターで大腸菌を形質転換し、カナマイシン耐性形質転換体を選択する。選択したカナマイシン耐性形質転換体のプラスミドDNAを精製し、制限酵素部位を解析して組換え体を同定する。
【0040】
次に、制限酵素、例えば、PI-Sce I及びI-Cue Iを使用して発現カセットを上記のシャトルベクターから切り出し、これをアデノウイルスベクター、例えば、Adeno-X viral DNAにライゲーションする。得られたライゲーション産物をSwa Iで切断し、これを用いて大腸菌をトランスフォーメーションする。
【0041】
得られた形質転換体の中からアンピシリン耐性形質転換体を選択する。上記の遺伝子が組み込まれた組換えアデノウイルスDNAを精製し、制限酵素部位を解析して組換え体を同定する。
【0042】
次いで、Pac Iで組換えアデノウイルスを消化し、これをHEK293細胞にトランスフェクトする。組換えアデノウイルスを増殖させ、これを集めてウイルスの力価を測定する。常法に従ってウイルスを精製し、標的細胞であるSHEDに感染させる。
【0043】
ウイルス感染後の細胞群を、常法に従ってFITCで染色し、フローサイトメーターを用いて、STRO-1陽性細胞を検出する。ここで、STRO-1は、骨髄における多分化能を有する間葉系幹細胞のマーカーの1つとして考えられており、細胞の不死化の指標となる。
以上の手順によって、歯髄由来の不死化幹細胞を得ることができる。
【0044】
次に、得られた不死化幹細胞を、上述した基本培地、例えば、10%FBSを加えたDMEMを用いて、5%CO2、37℃の条件下に、24〜48時間培養し、培養上清を得る。培養上清の回収には、例えば、コマゴメピペット等を使用することができる。回収した培養上清は、そのまま本発明の医薬組成物の有効成分として使用してもよく、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結乾燥、希釈その他の処理の後に、本発明の医薬組成物の有効成分として使用してもよい。
【0045】
また、後述するように、上記のようにして得られた不死化幹細胞の培養上清は、種々の成長因子を含み、高度な精製をしなくとも、種々の作用を示す。すなわち、各種の疾病の治療に使用できる本発明の医薬組成物を、簡易な工程で製造できるため、高度精製に伴う各種成長因子の生理活性の低下を回避することができる。
【0046】
なお、本発明で使用する「不死化幹細胞の培養上清」は、不死化幹細胞を培養して得られる、種々の生体因子を含有する培養上清をいい、不死化幹細胞その他の細胞を含まない溶液をいう。血清を含まない培養上清を調製する場合には、初期培養から継代までのすべての過程において無血清培地を使用するか、又は、細胞を回収する前の数回の継代の際に無血清培地を使用するとよい。
【0047】
上記の方法で選抜・培養した歯髄幹細胞は、生体から採取した組織や細胞であって、最初に播種された初代培養細胞と同様の性質を有する。一般に、初代培養細胞は、そのソースとなった臓器と類似した性質を有し、正常細胞に近いという点で重要である。しかし、株化細胞に比べて増殖が遅く、また、培養を継続するうちに脱分化を起こす場合もあり、その性質を保ったまま維持することが難しい。
【0048】
しかし、本発明の不死化幹細胞は、細胞倍加回数が20回又は40回の時点で、細胞の未分化度のマーカーとなるSTRO-1の発現率が、不死化幹細胞ではない歯髄幹細胞よりも有意に高く、約1.5〜3倍という高い割合を示すものであることが好ましい。STRO-1の発現率の高さは、初代培養細胞と同様の性質を示すことの指標となるからである。
【0049】
また、本発明の不死化幹細胞は、インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF-β)、及び肝細胞増殖因子であるHGFからなる群から選ばれる、少なくとも2以上の成長因子を培養上清中に分泌する。ここで、「成長因子」とは、細胞分裂を促進させたり、形態の変化や肥大をもたらしたりするポリペプチドの総称である。成長因子を産生する細胞の種類によって因子は異なり、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、神経系神経成長因子、腫瘍増殖因子(TGF)などに大別される。
【0050】
さらに、各細胞の細胞膜にある受容体はチロシンキナーゼ活性をもち、成長因子が結合すると、たんぱく質のチロシン残基がリン酸化され、細胞の増殖や分化を引き起こす。成長因子が個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。また、免疫系を調節するリンホカイン個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。こうした成長因子は、ELISA法、マイクロアレイ法等で定量することができる。
【0051】
上記IGF-1は、インスリンと配列が高度に類似したポリペプチドであり、細胞培養でインスリンと同様に有糸分裂誘発等の反応を引き起こす。神経細胞の成長にも影響することが知られている。また、上記VEGFは、胚の形成期に、血管がないところに新たな血管を形成する脈管形成及び既存の血管から分枝伸長して血管を形成する血管新生に関与する一群の糖タンパクである。上記TGF-βはまた、多くの細胞に対する強力な増殖抑制因子となり、細胞の分化・遊走・接着にも密接に関与し、個体発生や組織再構築、創傷治癒、炎症・免疫、癌の浸潤・転移などの幅広い領域に重要な役割を担っている。さらに、HGFは、肝細胞のみならず様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス(細胞死)、形態形成誘導、血管新生その他の組織・臓器の再生と保護を担う多才な生理活性を有している。
【0052】
以上のようなタンパクは、上述した各種幹細胞を、例えば、15%FCSを添加したDMEM中で、37℃にて所定の期間、培養することにより、上記の成長因子を含む培養上清中に得ることができる。なお、上記幹細胞の培養上清には、IGF-1、VEGF、TGF-β、及びHGF以外にも、約70種類のタンパクが含まれる。
【0053】
得られた培養上清のうち15mLを、Amicon Ultra Centrifugal Filter Units-10K(ミリポア社製)に入れ、4,000xgで約60分間遠心し、約200μLまで濃縮する。次いで、このチューブに培養上清と同量の滅菌PBSを投入し、再度、4,000xgで約60分間遠心し、溶媒をPBSに置換する。得られた200μLの溶液をマイクロテストチューブへ回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0054】
上記のAmiconを使用する方法に代えて、エタノール沈殿法で濃縮することもできる。例えば、5mLの培養上清に対して、45mLの100%エタノールを加えて混和し、−20℃で60分間放置する。その後、15,000xgで15分間、4℃にて、遠心して、上澄みを除去する。
【0055】
次いで、例えば、10mLの90%エタノールを加えてよく攪拌し、再び、15,000xgで5分間、4℃にて遠心する。上澄みを除去し、得られたペレットを、例えば、500μLの滅菌水に溶解することができる。溶解後、全量をマイクロテストチューブに回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0056】
以上のようにして得られた培養上清はそのまま使用してもよく、リン酸緩衝生理食塩水等の生理学的に許容される溶媒を用いて適宜希釈して使用してもよい。また、常法に従って凍結乾燥し、用時調整の医薬組成物とすることもできる。
【0057】
この医薬製剤に含まれる培養上清中の成長因子の量は、その全乾燥重量に対して約50〜500重量%であることが好ましい。
【0058】
この医薬組成物の剤形としては、粉末、液剤、ゲル剤、スプレー剤及び経皮吸収システム等を挙げることができる。例えば、充填剤、賦形剤、pH調整剤等の添加物を加えて、滅菌済みのガラスアンプル、セラムチューブその他の小型の容器に入れ、医薬製剤とすることができる。使用時に、生理食塩水や、滅菌済注射用蒸留水で溶解し、経鼻投与してもよく、また、ガーゼに浸潤させて患部に貼付するようにしてもよい。歯槽骨その他の骨の再形成に使用する場合には、足場材として、コラーゲンやβ-TCP等を使用し、これらを上記溶解液に浸漬させて埋め込んでもよい。
【0059】
以上のようにして得られた培養上清を静脈内投与をはじめとする種々の方法で投与することにより、体内マクロファージのサブポピュレーションを制御することができ、それによって、腫瘍を治療することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて、本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)不死化細胞の調製
(1)ウイルス導入用ベクターの作製
(1−1)プラスミド抽出用試薬等
カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、LB液体培地及びLB寒天培地、グリコーゲン、アガロース、滅菌水、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びRNase Aを使用した。50mg/mLのカナマイシン及びアンピシリンを調製し、ストック溶液として−20℃で保存した。グリコーゲンは20mg/mLに調製した。10mg/mLのRNase Aを調製し−20℃で保存した。10M(飽和)酢酸アンモニウム(NH4OAc)、3Mの酢酸ナトリウム(NaOAc;pH5.2)を調製した。
【0061】
(1−2)制限酵素等
大腸菌コンピテントセル(Supercharge EZ10 Electrocompetent Cells、製品コード 636756)、Swa I(製品コード 1111A、Smi Iが同等品)、Xho I(製品コード 1094A)、T4 DNA Ligase(製品コード 2011A)、NucleoBond Xtra Midi(製品コード 740410.10/.50/.100)、NucleoSpin Plasmid(製品コード 740588 10/50/250)は、いずれもタカラバイオ(株)より購入した。Pac IはNew England Biolabs社より購入した。
【0062】
(1−3)バッファー等
1xTE Buffer(1mMのEDTAを含む10mM Tris-HCl [pH8.0])、100mM Tris-HCl(pH8.0)で飽和したフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、以下、「PCI混液」という。)を調製した。エタノールは、100%及び70%で使用した。ミニスケールでの組換えで使用するpAdeno-X プラスミドDNAの精製用に、以下のバッファー1〜4を調製した。
【0063】
バッファー1:10mM EDTA及び50mM グルコースを含む25mM Tris-HCl(pH8.0)
(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー2:1%SDSを含む0.2M NaOH(使用直前に用時調製、密封し、室温保存)
バッファー3:5M KOAc(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー4:1mM EDTA、20μg/mL RNaseを含む10mM Tris-HCl(pH8.0)
(使用直前にRNaseを添加し、−20℃で保存)
【0064】
(2)アデノウイルス精製及びβ-galアッセイ用試薬
ヒト5型アデノウイルスで形質転換したヒトHEK293細胞(ATCC #CRL1573)を使用した。HEK293細胞は完全培地で培養した。完全培地の組成は、100 unit/mLのペニシリンGナトリウムと100μg/mLのストレプトマイシン、4mMのL-グルタミン及び10%FBSを添加したDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、基本培地)とした。ペニシリンGナトリウム溶液は10,000units/mL、硫酸ストレプトマイシン溶液は10,000μg/mLで調製し、ストック溶液として保存した。
【0065】
培養には、60mmプレート、100mmプレート、6−ウェルプレート、T75及びT175フラスコを使用した。
【0066】
トリプシン-EDTA(製品コード CC-5012)はタカラバイオ(株)より購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Ca2+とMg2+不含)及びDulbecco’s リン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Ca2+とMg2+含有)を調製した。また、0.33%のニュートラルレッド染色液、0.4%トリパンブルー染色液を使用した。
【0067】
β-galアッセイには、X-Gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside [25mg/mL])ジメチルホルムアミド(DMF)溶液は−20℃で遮光保存した。Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712)を使用した。
【0068】
(3)予備試験
(3−1)lac Zを含む組換えアデノウイルス(pAdeno-X-lac Z)の構築
10mLの上述した完全培地に、解凍後、DMSOを除去したHEK293細胞を再懸濁し、全量を100mmの培養プレートに移した。HEK293細胞が付着した後に培養液を除去し、細胞を滅菌PBSで1度洗浄し1mLのトリプシン-EDTA溶液を加えて約2分間処理した。
【0069】
次に、10mLの完全培地を加えてトリプシンの反応を止め、穏やかに懸濁した。バイアブルカウントを行って、培養液10mLを入れた100mmのプレートに105個の細胞を移し、均一に拡げた。
【0070】
pShuttle2-lac Z(Adeno-X Expression System 1に含まれている陽性対照ベクター)とキットに含まれているAdeno-X Viral DNA(PI-Sce I及びI-Ceu I digested)とを使用し、キットに添付されているプロトコルに従って、lac Zを含む組換えアデノウイルスを構築した。標的細胞であるSHEDに感染させ、β-ガラクトシダーゼの発現をアッセイし、ベクターが構築されていることを確認した。
【0071】
(3−2)組換えpShuttle2プラスミドの構築
組換えpShuttle2 Vector(以下、「rpShuttle2 Vector」という。)の構築前に、キットに含まれているpShuttle2 Vector及びpShuttle2-lac Z VectorでDH5α大腸菌を形質転換した。50μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天プレート(以下、「LB/Kan」という。)上で形質転換体を選択し、単一コロニーからとった菌体を新しいLB/Kanに画線し、37℃で一晩インキュベートした。
【0072】
次いで、hTERT、bmi-1、E6、E7を、pShuttle2へ以下の手順でクローニングした。これらの遺伝子に適した制限酵素でpShuttle2 Vectorを切断した。
【0073】
次いで、上記のキットに添付されているpShuttle2 Vector Information Packet(PT3416-5)を参照し、挿入するDNAに合致するマルチクローニングサイトを決定した。制限酵素処理済みの上記プラスミドをアルカリホスファターゼで処理して精製した。
【0074】
常法に従って、標的DNA断片を調製し精製した。上記の制限酵素で消化したベクターと上記の遺伝子断片とをライゲーションし、DH5α細胞(コンピテント細胞)を、ライゲーション産物で形質転換した。上記コンピテント細胞の一部をとり、キットに含まれている対照ベクターpShuttle2-lac Z Vectorで形質転換して陽性対照とした。
【0075】
形質転換した大腸菌を含む混合液を、LB/Kan寒天プレートに接種し、カナマイシン耐性(Kanr)の形質転換体(コロニー)を選択した。5〜10個のKan耐性クローンを選択し、少量の液体培地に接種して増幅した。これらのクローンがrpShuttle2 Vectorを有していることを確認した後に、一晩インキュベートした。その後、市販のシリカ吸着カラムを用いて、常法に従い、構築されたプラスミドDNAを精製した。
【0076】
このプラスミドDNAを制限酵素で処理して、1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的の組換えプラスミドを同定した。シーケンシングによって、挿入した断片の方向と挿入部位を確認し、ポジティブクローンを同定した。
【0077】
組換えpShuttle2プラスミドDNA(以下、「rpShuttle2プラスミドDNA」という。)をターゲット細胞に直接にトランスフェクトし、ウエスタンブロットを行って目的タンパク質の発現を予備的にチェックした。
【0078】
(3−3)rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化
上記のようにして作製したrpShuttle2プラスミドDNAから、導入した遺伝子の発現カセットをPI-Sce I及びI-Ceu Iで切り出した。キットに添付されたプロトコルに記載されたin vitroライゲーション法に従って、切り出した発現カセットをAdeno-X Viral DNAに組み込んだ。rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化液を30μL調製し、下記の表1に記載した試薬を1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れて混合した。
【0079】
【表1】
【0080】
次いで、十分に混和した後にマイクロ遠心チューブに入れて軽く遠心し、その後、37℃にて3時間インキュベートした。
1kbラダー(DNA サイズマーカー)と共に上記二重消化後の反応液(5μL)を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
【0081】
(3−4)フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出
遠心チューブに、上述した二重消化液の残り(25μL)に、70μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。次いで、微量遠心機を用いて、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブ移した。ここに、400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。
【0082】
次いで、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、上清を吸引して除去し、ペレットを得た。このペレットに300μLの70%エタノールを加え、室温にて14,000rpmで2分間遠心した。上清を注意深く吸引して除去し、ペレットを室温にておよそ15分間風乾した。
【0083】
ペレットが乾燥した後に、これを10μLの滅菌した1xTE Buffer(pH8.0)に溶解し、使用するまで−20℃にて保存した。
【0084】
(4)組換えAdeno-X プラスミドDNAの構築
(4−1)Adeno-X ウイルスゲノムへの発現カセットのサブクローニング
下記の表2に示す試薬を、順番通りに1.5mLの滅菌済マイクロ遠心チューブに入れ、穏やかに混和し、軽く遠心した後に、16℃にて一晩インキュベートした。
【0085】
【表2】
【0086】
各サンプルに、90μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移し、ここに400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を加えてボルテックスで穏やかに撹拌した。
【0087】
4℃にて5分間、14,000rpmで遠心し、上清を吸引により除去してペレットを得た。以下のエタノール沈殿操作は、上記(3−4)と同様に行った。
ペレットが乾燥した後に、これを15μLの滅菌脱イオン水に溶解した。
【0088】
(4−2)組換えAdeno-X プラスミドDNAのSwa I消化
下記表3に示す消化液を調製し、遠心チューブに入れた各サンプルに加えて、2時間、25℃にて、インキュベートした。
【0089】
【表3】
【0090】
各サンプルに、80μLの1xTE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加え、ボルテックスで穏やかに撹拌した。マイクロ遠心チューブ、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に行い、ペレットの溶解液は使用まで−20℃にて保存した。
【0091】
(4−3)組換えAdeno-X プラスミドDNAによる大腸菌の形質転換の確認
電気的にコンピテントにした大腸菌を、Supercharge EZ10Electrocompetent Cell(製品コード 636756)を使用して、上記(4−2)で得たSwa I消化産物で形質転換した。
【0092】
形質転換混合液を、LB培地にアンピシリン(終濃度100μg/mL)を加えた寒天プレート(以下、「LB/Amp寒天プレート」という。)に接種し、37℃で一晩インキュベートして、アンピシリン耐性(Ampr)形質転換体を選択した。約106個のコロニーを得た。得られたコロニーを、製品に付属のAdeno-X System PCR Screening Primer Setでチェックした。5mLの新鮮なLB/Amp液体培地に単一のコロニーからの菌体を接種し、一晩培養した。翌日、後述するミニスケール法に従って、Adeno-X プラスミドDNAを精製した。
【0093】
(4−4)組換えAdeno-X プラスミドDNAのミニスケール調製
対数増殖にある培養液5mLを、14,000rpmで30秒間遠心し、上清を除去した。ペレットを再度10,000rpmで1分間遠心し、マイクロピペットを用いて、上清を除去した。
【0094】
ここに、150μLの上記バッファー1を加えて穏やかにピペッティングし、再懸濁した。この細胞懸濁液に、150μLのバッファー2を添加し、穏やかに転倒混和し、氷上に5分間放置した。冷却した細胞懸濁液に、150μLのバッファー3を加えて、再度転倒混和し、氷上に5分間放置した。
【0095】
この細胞懸濁液を、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、透明な上清を清浄な1.5mLの遠心チューブに移した。この上清に、450μLのPCI混液を添加し、転倒混和して撹拌した。その後、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。
【0096】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。目的のrDNAは、後述する制限酵素による解析及びPCRにより同定した。
【0097】
(5)得られたrAdeno-X プラスミドDNAの制限酵素部位解析
PI-Sce I及びI-Ceu Iを用いて解析を行った。下記の表4に示す試薬を、1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れ、30μLのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化反応液を加えて、十分に撹拌し、軽く回転させて内容物を集めた。
【0098】
【表4】
【0099】
37℃にて3時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。この処理後の反応液を1%アガロース/EtBrゲルで泳動し、培養液を得た。
【0100】
(6)組換えアデノウイルスの産生
(6−1)HEK293細胞トランスフェクト用rAdeno-X プラスミドDNAの調製
下記表5に示す試薬等を、1.5mLの滅菌済み遠心チューブに入れて混合し、微量遠心機で軽く遠心した。その後、37℃にて2時間、インキュベートし、rAdeno-X プラスミドDNAのPac I制限酵素処理を行った。
【0101】
【表5】
【0102】
60μLの1xTE Buffer(pH8.0)と、100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで穏やかに撹拌し、微量遠心機で、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。水層を、清浄な1.5mLの滅菌済み遠心チューブに注意深く移した。
【0103】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。
【0104】
(6−2)Pac I消化Adeno-X プラスミドDNAのHEK293細胞へのトランスフェクション
上記プラスミドDNAのトランスフェクションの24時間前に、60mmの培養プレートあたりの細胞数が1〜2x106(およそ100cells/mm2)になるよう、HEK293細胞を接種し、37℃、5%CO2存在下でインキュベートした。
【0105】
各培養プレートに、Pac I消化した10μLのAdeno-X プラスミドDNAをトランスフェクトし、標準的なトランスフェクション法(CalPhos Mammalian Transfection Kit 製品コード 631312)に従って、HEK293細胞にAdeno-X DNAを導入した。トランスフェクションの翌日から、CPE(細胞変性効果)が起きているかどうかを確認した。
【0106】
1週間後に、培養プレートの底面や側面に付着している細胞を穏やかに撹拌して遊離させた。得られた細胞懸濁液を15mLの滅菌済みの円錐遠心チューブに移し、室温にて5分間、1,500xgで遠心した。
【0107】
得られた沈殿を、500μLの滅菌PBSに懸濁した。ドライアイス/ エタノール中で凍結させ、37℃の恒温槽で融解させるという凍結融解操作を3回繰り返して、細胞を十分に融解させたライセートを得た。次いで、軽く遠心して浮遊物を除き、上清を滅菌した別のチューブに移して、直ちに使用した。直ちに使用しない分は、−20℃で保存した。
【0108】
60mmプレートの培養細胞に250μLの上記ライセートを加えて、培養を続けた。なお、Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)に含まれる抗Hexon 抗体を用いて、このキットの取扱説明書(PT3651-1)に従い、アデノウイルスの力価を測定した。
【0109】
(6−3)高力価ウイルス調製のためのウイルスの増幅
この力価測定を始める約24時間前に、HEK293細胞をT75フラスコに接種し、37℃、5%CO2存在下で一夜培養し、50〜70%コンフルエントになっていることを確認した。翌日、ウイルスを含む新しい培地と交換し、MOI=10で感染させた。37℃、5%CO2存在下で90分間培養した後にフラスコを取り出し、10mLの培地を加えた。
【0110】
37℃、5%CO2存在下で3〜4日間培養し、CPEを確認した。50%の細胞が剥がれたところで、上記と同様にして遊離細胞懸濁液とし、15mLの滅菌済円錐遠心チューブに移した。上記と同様の凍結融解操作を行い、細胞を融解させた。Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)を使用し、107PFU/mLの力価を得た。
【0111】
ウェスタンブロッティングを行い、パッケージングされたアデノウイルスゲノムが、目的遺伝子に特異的な転写単位のコピーを、機能する形で持っているかを確認した。
【0112】
(7)標的細胞へのアデノウイルス感染
(7−1)標的細胞への感染
感染の24時間前に6−ウェルプレートに1x106個のSHEDを接種した。接種の翌日に培地を取り除き、ウイルスを含む1.0mLの培地を各プレートの中心に添加した。この溶液をSHEDが形成した単層全体に均一に広げた。
【0113】
37℃、5% CO2存在下で4時間培養し、ウイルスをSHEDに感染させた。次いで、新鮮な培地を添加し、さらに、37℃、5%CO2存在下で培養した。感染24時間後〜48時間後にかけて導入遺伝子の発現を経時的に解析した。
(7−2)感染細胞のβ-ガラクトシダーゼ発現の解析
Adeno-X-lac Zを感染させた接着性細胞におけるβ-ガラクトシダーゼの発現は、Luminescent β-galDetection Kit II(製品コード 631712、クロンテック社製)を使用してアッセイした。
【0114】
(実施例2)SHEDの作製
(1)乳歯幹細胞の分離
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0115】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)をこのディッシュに添加し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータ(卓上型パーソナルユース細胞培養装置 9000EXシリーズ、ワケンビーテック(株)製)中にて、2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシン/EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0116】
次に、上記のようにして選抜した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて、一次培養し初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシン/EDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離して回収した。
【0117】
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1x107個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
【0118】
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1x104細胞/cm2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSC(骨髄間葉系幹細胞、Bone Marrow Mesenchymal stem cells)はロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。
【0119】
以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。得られたSHEDを、FACSTARPLUS (ベクトン・ディキンソン社製)を用いて、各試料について、約1x106個のSTRO-1陽性細胞を以下のようにしてソートした。
【0120】
ブロモデオキシウリジンBrdU染色キットのメーカー(Invitrogen社製)の取扱説明書に従いBrdUを12時間取り込ませ、SHEDの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後に、Tukey-Kramer検定を行い、統計的有意差を評価した。
【0121】
STRO-1を免疫蛍光で検出するために、SHEDを3%パラホルムアルデヒドで固定し、その後PBSで2回リンスし、100mMのグリシンで20分間処理した。次いで、これらの細胞を0.2%のTriton-X(Sigma-Aldrich社製)で30分間透過処理し、その後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。
【0122】
次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO-1抗体(1:100、R&D社製)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM-FITC抗体(1:500、Southern Biotech社製)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドDAPI(Vector Laboratories Inc)を用いてマウントした。
【0123】
その後、15%FBSを添加したα-MEMを6−ウェルプレートに入れ、ソートした細胞をクローン作製用に播種した。増殖した細胞の中から約300コロニーを試験用にプールした。
【0124】
(2)遺伝子の導入
上述したように、bmi-1, E6, E7及びhTERTの4つの遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、これらの遺伝子産物を発現するウイルスベクターを作製した。対照として、これらの遺伝子を組み込んでいない対照ベクターを作製した。
SHEDを100mmφのコラーゲンコートディッシュに1x106個を播種し、10%FBSを添加したDMEMを加えてサブコンフレントまで培養した。この培地を吸引除去して上記培地で希釈したウイルス溶液500μLを加え(MOI=10)、37℃にて、5%CO2インキュベータ中で1時間培養し、上記ウイルスベクターを感染させた。感染48時間後、感染細胞をピューロマイシン(1pg/mL)を加えた上記の培地中で10日間培養して選択し、500〜600個の耐性クローンをプールした。3〜4日ごとに約0.5x105個のSHEDを100mmφの培養シャーレに播種し、継代した。遺伝子が導入されたSHEDをSHED-T、遺伝子が導入されないSHEDをSHED-Cとした。
【0125】
(実施例3)SHEDの特性の検討
(1)SHED-C及びSHED-Tの成長速度の測定
SHED-T(遺伝子導入をしたSHED)の個体数の倍加状態を、図1に示した。図中、縦軸は個体数倍加回数(細胞分裂回数、回)、横軸は時間(培養日数)である。また、培養中のSHEDが1ヶ月間分裂しない状態を、細胞の老化の判断基準とした。
【0126】
SHED-Cは30回程で増殖が停止し、老化又は増殖停止段階に入った。これに対し、SHED-Tは250PDを超え、800日経過後も増殖した。
【0127】
(2)フローサイトメトリー分析
単一細胞を含む懸濁液を得るため、接着性の単層細胞をトリプシン/EDTAで消化した。2x105個の細胞に抗STRO-1モノクローナル抗体(1:100)を加えて放置し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson社製)を使用して分析した。対応するアイソタイプが同一の対照抗体と比較し、99%以上の割合で蛍光レベルが高い場合に発現が陽性とした。SHED-T及びSHED-Cともに、初期及び後期の継代細胞を固定し、FITC結合STRO-1抗体で染色した。その後、フローサイトメトリーで分析した。試験はそれぞれ2回行なった。SHED-CではSTRO-1陽性細胞の割合がPD20で27%であり、PD30では15%まで減少した(図2(A)及び(B))。SHED-TではSTRO-1陽性細胞の割合が、それぞれPD20で46%、PD40で41%であった(図2(C)及び(D))。
【0128】
(3)分化能の検討
PD0、PD10及びPD20におけるSHED-C及びSHED-Tの分化能を、新生骨量の形成能及び組織染色で調べた。まず、2.0x106個のSHED-C又はSHED-Tを、40mgのヒドロキシアパタイト/三カルシウムリン酸(HA/TCP)セラミック粉末(オリンパス工業(株)製)に混合し、10週齢の免疫無防備状態マウス(NIH-bgnu-xid, 雌、Harlan Sprague Dawley社製)の背側表面の皮下に移植した。
【0129】
移植8週間後に移植物を回収し、4%ホルマリンで固定して脱灰した後、パラフィン包埋するために10%EDTAを含むPBS溶液でバッファリングした。一部は、プラスチック包埋するために70%エタノール溶液中に保存した。
【0130】
パラフィン切片を脱パラフィン化し、これを水和した後、ヘマトキシリン及びエオシン(以下、「H&E」という。)で染色した。図3(A)〜(C)は、SHED-T(不死化幹細胞)のPD0〜PD20を示し、同(D)〜(F)はSHED-C(正常細胞)のPD0〜PD20を示す。生体内での新しい骨の形成を定量するため、特定の領域を選び、SHED-T移植後に形成された移植物又はSHED-C移植後に形成された移植物それぞれについて、新生骨面積と視野面積とを算出し、これらの数値から新生骨量を求めた。
新生骨量=新生骨面積/視野面積x100
【0131】
図4に各個体数倍加回数(倍加時間)における、SHED-TとSHED-Cとの新生骨量の変化を示した。図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表す。なお、新生骨量は、以下の算出式で求めた。
【0132】
図4に示されるように、SHED-Cでは個体数倍加回数が増えるについて新生骨量が減少し、PD20ではPD0の約1/5まで低下した。これに対し、SHED-Tでは、PD20まで新生骨量はほとんど変動がなく、PD20では、SHED-TはSHED-Cの5倍以上の骨を形成したことが示された。
【0133】
(4)癌化活性の評価
SHED-C及びSHED-T細胞を、免疫無防備状態マウスの皮下組織に1x106個移植した。移植後、30日以上観察を行ったが、この期間中、上記の細胞を移植したいずれのマウスにおいても、腫瘍は形成されなかった。また、SHED-T細胞では、40〜200PDの培養細胞のすべてのクローンの形態に変化はなかった。
以上より、SHED-Tには、癌化活性はないことが示された。
【0134】
(5)評価
SEHD-Tは、260PDを超えても分化能力を保ったまま増殖する能力を有していることが示されたが、SHED-Cは、分化能力を有するものの30PD以下で老化した。
【0135】
以上から、SHED-Tは不死化幹細胞となっており、活性の高いSHED培養上清の大量生産に適することが示された。
【0136】
(実施例4)コンディション培地の調製
実施例1で調製した不死化SHEDを、酸素濃度を20%、10%、5%、1%とした下記の条件で48時間、無血清培地で培養し、その上清を回収した。
【0137】
下記表6に示すサイトカインの産生量を、ELISAキット(R & Dシステムズ社製、Human IGF-1 Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DG100)、Human TGF-β Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DB100B)、Human VEGF Quantikine Elisa kit (カタログ番号:DVE00))を用いて測定した。
【0138】
【表6】
【0139】
表6に示すように、低酸素濃度で培養した方が、IGF-1, VEGF, TGF-β1, SDF-1の産生量は有意に高くなっており、低酸素濃度下での培養が、少なくとも上記4種類のサイトカインの産生量を有意に増加させることが示された。
【0140】
(実施例5)担癌動物を用いた治療効果の検討
マウス扁平上皮癌株SCCVII(近畿大学医学部、西村氏より提供を受けた)を、10%FBS(ギブコ社製)を含むDMEM中で、37℃で1週間培養し、0.5%トリプシンを含むPBSバッファーを用いて、細胞をバラバラにした。トリパンブルーで染色して生細胞数を計数し、1x106個/mLの懸濁液を1mLのPBSバッファーを用いて調製した。
【0141】
50匹のマウス(C3H/He、7週齢、中部科学資材(株)より購入)の背部皮下に、上記のようにして調製した細胞懸濁液0.5mLを18Gの注射針(テルモ(株)製)を用いて注入した(5x105個/マウス)。1群10匹とした。
対照群(バッファーのみ)、グループI〜グループIV(以下、「GI〜GIV」ということがある。)の培養上清を、各群のマウスに1mLずつ、尾静脈から投与した。
癌細胞を注入した後に、各群のマウスをそれぞれ上記と同じ時条件飼育した。
【0142】
各群のマウスをケージに入れ、12時間明暗条件の下、25±0.5℃、湿度50%の条件で飼育した。水と飼料は自由に摂取させた。腫瘍の直径を、毎日、ノギスで測定した。
【0143】
マウスに注入したSCCVIIが形成した腫瘍の直径が6mmを越えた時点で、酸素濃度を変えて培養したGI〜GVIの培養上清を、マウスの尾静脈より1mLずつ、1回注入した。各群の腫瘍径の増加を、図5に示す。
【0144】
GIでは、投与開始3日目で腫瘍の直径が10mmを越え、14日目で20mmを越えた。投与開始21日目には、25mmを越えた。GII及びGIIIは、GIよりは腫瘍直径の増加速度が有意に遅く(*は、p<0.05)、投与開始7日目で10mmを越え、19日目で20mmを越えた。
【0145】
これに対し、GIVでは腫瘍直径の増加が有意に遅く(**は、p<0.01)投与開始21日目でも平均は10mmを越えなかった。ただし、14日目以降は、腫瘍が退縮するケースも見られたため、標準偏差が大きくなった。図6に、腫瘍の直径が最大になったときの状態(A)及び完治した状態(B)のマウスの写真を示す。
【0146】
図7に各群のマウスの生存率の推移を示す。腫瘍直径の増加速度の差は、マウスの生存率に反映されており、GIでは41日目で全てのマウスが死亡した。また、GII及びGIIIでは、50日で全てのマウスが死亡した。これに対し、GIVでは、60日を越えても約80%のマウスが生存しており、全てのマウスが死亡したのは78日目であった。生存期間はGIの約2倍となっていた。
【0147】
(実施例6)腫瘍及びその周辺組織の変化についての検討
癌組織に対するマクロファージの挙動を、in vivoイメージングで測定した。5mLのチオグリコレート溶液(2%のBrewer's チオグリコレート培地(Difco社製))をマウスの腹腔内に注入し、4日後に、PBSを用いて腹腔洗浄を行い、107個のマクロファージを得た。得られたマクロファージのうち、3x106個を、3.5μg/mLの色素(MolecularTracer DiR(住商ファーマインターナショナル(株)製))及び0.5%エタノールと混合してラベルした。
【0148】
実施例2で調製した培養上清を、1mL/マウスで尾静脈から各群のマウスに注入した。この培養上清中のサイトカインの量を上述したHuman IGF-1 Quantikine Elisa kit、Human TGF-β Quantikine Elisa kit、Human VEGF Quantikine Elisa kitを用いて測定した。ラベルしたマクロファージの挙動は、Xenogen IVIS 200 series system (Xenogen, Alameda, CA)を用いて観察した。イメージングは、推奨されているIVISフィルターセット(励起710nm/蛍光760nm)を使用し、励起波長748nm、蛍光波長780nmで行った。
【0149】
GIVでは、ラベルしたマクロファージは1時間以内に移動を始め、24時間後には、腫瘍全体を取り囲むように集積した(図8)。図中、腫瘍下形成された右後肢の付け根部分に、マクロファージの浸潤像が見られた。これに対し、GI〜GIIIではこのようなマクロファージの腫瘍周辺への集積は見られなかった。
【0150】
(実施例7)組織学的検討
CH3/Heマウスに、5x105個のSCCVIIを注入し、1週間後、15週間後に周辺組織を含めて腫瘍を切除し、組織学的に検索した。15週で、治療群(GIV)において、腫瘍壊死を認めた例があった(図6)。
【0151】
また、マクロファージマーカーはCD11b抗体(BioLegend社製)、また、M2マクロファージマーカーはCD206抗体(Abcam社製)、M1マクロファージマーカーはED1(CD68)抗体(Millipore社製)をそれぞれ用いて染色し、マクロファージのサブポピュレーションであるM1及びM2の比を検討した。結果を図9に示す。
【0152】
図9に示すように、腫瘍発生初期(細胞注入後1週目)ではM2の割合が多かった(M1優位)のに対し、後期(細胞注入15週)では、M1とM2との割合が逆転(M1優位)していた。ウェスタンブロッティング法で腫瘍組織を調べたところ、M2にはTGF-βスーパーファミリーが多く発現しているのに対し、M1にはTGF-βインヒビター(Trabedersen, LAP 12009)などが発現していることがわかった。
図10に、対照群と治療群とにおける、マウスの腫瘍組織のエオシン−ヘマトキシリン染色による染色像を示す。拡大率が低い対照群(A)と治療群(B)の染色像を対比すると、治療群の染色像で腫瘍組織に若干の死滅している部分があることがわかる。拡大率を上げると、その相違が明確に観察された(図10(C)及び(D))。
【0153】
以上より、上記の歯髄幹細胞は低酸素条件に応答して、腫瘍増殖に関与する特定のサイトカインを増加、活性化させることが示された。そして、その結果、マクロファージの遊走能を高め、腫瘍組織へ高度に集積させることが示された。
【0154】
さらに、腫瘍に集積したマクロファージは、その本来の貪食能で腫瘍組織を破壊すると同時に、TGF−βを介した腫瘍の増殖制御を行ったものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、医薬の分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
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図9
図10