(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
既設構造物の耐震補強、補修または増設工事等では、コンクリート構造物に植設したあと施工アンカーを利用する場合がある。あと施工アンカーは、既設構造物にアンカー孔を削孔した後、このアンカー孔内にアンカー材を挿入するとともに充填材を充填することにより施工する。
【0003】
あと施工アンカーと既設構造物との一体化を図るためには、アンカー材がアンカー孔に対して偏心したり傾斜したりすることがなく、かつ、アンカー材の外面と孔壁の内面との間に充填材が介設されるようにアンカー孔の中心部にアンカー材を挿入するのが望ましい。
【0004】
そのため、特許文献1には、アンカー孔の孔口に配設したスペーサーによりアンカー材の基端部を固定することで、あと施工アンカーをアンカー孔の所望の位置に配置する構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンカー材の基端部のみを固定した場合であってもアンカー材がアンカー孔に対して傾斜してしまうおそれがある。また、横向きや上向きのあと施工アンカーの場合には、重力によりアンカー材が傾斜するおそれや、アンカー孔内から抜け出すおそれがある。そのため、より確実に施工を行うためには、アンカー材やスペーサーを保持するための治具が別途必要となる。
【0007】
このような観点から、本発明は、アンカー孔の向きに限定されることなく、アンカー材をアンカー孔の中心部に固定することを可能とした、アンカー固定治具を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、アンカー孔内にアンカー材を固定するためのアンカー固定治具であって、前記アンカー孔の内径よりも小さい幅を有し、かつ、少なくとも1つの屈曲部を有した一枚の板状部材からなり、前記屈曲部を挟んで連続する各板片には前記アンカー材を挿通可能な貫通孔が形成されており、前記板状部材の両端および前記屈曲部には前記アンカー孔の内壁面に当接する係止部が形成されている。
前記係止部は、前記板状部材の両端または前記屈曲部から突出する突起であって、前記アンカー材の先端から基端に向うに従って当該アンカー材から離れるように傾斜している。前記板状部材を構成する材料は、いわゆる弾性材であれば限定されるものではなく、例えば、板状のバネ材(いわゆる板ばね)、鉄板またはアルミニウム合金板等の金属板や、樹脂製の板等を使用すればよい。
【0009】
かかるアンカー固定治具によれば、貫通孔にアンカー材を挿通させた状態で、アンカー孔内に挿入することで、係止部がアンカー孔の内壁面(孔壁)に係止されるため、アンカー材をアンカー孔内に固定することができる。アンカー固定治具は、少なくとも3点でアンカー孔内に固定されているため、アンカー材がアンカー孔に対して傾斜することを防止することができる。また、アンカー固定治具は、アンカー孔の内径よりも小さい幅の板材により形成されているため、アンカー孔との間に充填材の通流が可能な隙間が形成されることで、充填材の充填を妨げることもない。
【0010】
なお、前記係止部が、前記板状部材の両端または前記屈曲部から突出する突起であ
るため、突起
が孔壁に食い込むことで固定度が増加する。複数の前記突起が前記アンカー材の先端から基端に向うに従ってアンカー材から離れるように(広がるように)傾斜してい
るため、挿入時に突起が孔壁に食い込むことでアンカー材の挿入を妨げることを防止し、かつ、挿入後は突起が孔壁に食い込むためアンカー材の抜け出しが防止される。
前記貫通孔の内側に係部が形成されていれば、アンカー材をより確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンカー固定治具によれば、アンカー孔の向きに限定されることなく、アンカー孔の中心部にアンカー材を固定することを可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、一例として、
図1に示すように、既設のコンクリート部材1に対して、上向きにアンカー材2を設置する場合について説明する。本実施形態では、アンカー材2として、異形鉄筋を採用しているが、例えば、鋼棒、ネジ鉄筋、鋼より線等を使用してもよく、アンカー材2を構成する材料は限定されるものではない。また、アンカー材2の向きは上向きに限定されるものではなく、例えば、横向きや下向きであってもよい。また、アンカー材2(アンカー孔11)は、鉛直または水平に対して傾斜していてもよい。
【0014】
アンカー材2は、上向きに形成されたアンカー孔11内に挿入された状態で、アンカー固定治具3によりアンカー孔11内に係止される。なお、アンカー孔11の向きは、アンカー材2の設置方向に応じて適宜決定される。また、アンカー孔11の内径は、アンカー材2の寸法(鉄筋径)に応じて適宜決定される。
【0015】
アンカー材2の基端部(
図1において下側の端部)の外面にはネジ加工が施されていて、ナット4の螺合が可能に構成されている。本実施形態では、アンカー孔11の孔口に板材5を配置した状態で、ナット4をアンカー材2の基端部に螺合することでアンカー孔11の孔口を塞いでいる。板材5は、アンカー孔11の内径よりも大きな幅を有した正方形状の鋼板により構成されていて、板材5の中央のアンカー材2を挿通する挿通孔(図示せず)が形成されている。なお、板材5の形状および材質は限定されるものではない。また、板材5は必要に応じて配置すればよく、例えばアンカー孔11が下向きに形成されている場合や、充填材6の材質等によっては省略してもよい。アンカー材2の基端部のネジ加工は必要に応じて行えばよい。例えば、ナット4を使用しない場合には、アンカー材2のネジ加工は省略してもよい。
【0016】
アンカー材2とアンカー孔11との隙間には、無収縮モルタル等の充填材6が充填されている。なお、充填材6を構成する材料は限定されるものではなく、例えばグラウトや発泡樹脂等であってもよい。
【0017】
アンカー固定治具3は、アンカー孔11の内径よりも小さな幅を有した1枚の板状のバネ材(板状部材)30により構成されている(
図2参照)。
バネ材30は、金属製の板ばねにより構成されており、
図2に示すように、2つの楕円形状の板片31が連結された形状を呈している。板片31同士の接続部では、バネ材30の板幅が減幅されてくびれ部分が形成されている。板片31の短辺はアンカー孔11の内径よりも小さい。そのため、
図3(b)に示すように、アンカー固定治具3が設置されたアンカー材2をアンカー孔11に挿入すると、板片31とアンカー孔11の内壁面との間に隙間が形成される。なお、アンカー固定治具3を構成するバネ材30の形状は限定されるものではなく、例えば、幅が変更されることのない矩形状であってもよい。また、板状部材(バネ材30)を構成する材料は、所望の弾性力を有していれば限定されるものではなく、例えば、鉄板やアルミニウム合金板であってもよいし、樹脂製の板であってもよい。
【0018】
図2に示すように、各板片31の中央部には、貫通孔32が形成されている。すなわち、アンカー固定治具3には、2つの貫通孔32,32が間隔を空けて形成されている。なお、本実施形態の「各板片31の中央部」には、貫通孔32の中心と板片31の中心とが一致している場合の他、貫通孔32の中心が板片31の中心に対して若干偏心している場合(略中央)も含むものとする。また、貫通孔32の形成箇所は、板片31の中央部に限定されるものではない。
【0019】
貫通孔32は、アンカー材2を挿通することが可能な形状を有している。貫通孔32の内側には複数の係部33,33,…が突出している。本実施形態の係部33は、矩形状の貫通孔32の各角部に形成された扇状の突起である。なお、係部33の形状や配置は限定されるものではない。
【0020】
アンカー固定治具3は、
図3(a)に示すように、貫通孔32同士の中間部(板片31同士の接続部)においてバネ材30を折り曲げる(塑性変形させる)ことでく字状を呈している。すなわち、アンカー固定治具3は、貫通孔32同士の間に1つの屈曲部34を有している。
【0021】
アンカー固定治具3の両端および屈曲部34には、係止部35〜37が形成されている。
アンカー固定治具3の一方の端部(
図2において左側の端部)に形成された第一係止部35は、バネ材30の一方の端部から突出した台形状の突起である。なお、第一係止部35の形状は限定されるものではない。また、第一係止部35は、必ずしもバネ材30の端部から突出している必要はない。例えば、バネ材30(アンカー固定治具3)の一方の端部を、第一係止部35としてアンカー孔11の内面に直接当接させてもよい。
【0022】
アンカー固定治具3の他方の端部(
図2において右側の端部)に形成された第二係止部36は、バネ材30の他方の端部から突出した台形状の突起である。第二係止部36は、バネ材30の他方の端部において折り曲げる(塑性変形させる)ことで、第一係止部35と略平行となっている。なお、第二係止部36の形状や向きは限定されるものではない。また、第二係止部36は、必ずしもバネ材30の端部から突出している必要はなく、例えばバネ材30の端部を、第二係止部36としてアンカー孔11の内壁面に係止させてもよい。なお、
図2の符号38は、第二係止部36を折り曲げやすくするために形成された開口である。開口38は必要に応じて形成すればよい。
【0023】
アンカー固定治具3の屈曲部34に形成された第三係止部37は、当該屈曲部34から突出している。第三係止部37は、アンカー孔11の内面に当接する台形状の突起である。第三係止部37は、バネ材30の2つの貫通孔32,32の間(板片31同士の接続部))に台形状の切り込みを入れておくことで、バネ材30を折り曲げた際に屈曲部34から突出するように形成されている。なお、第三係止部37は、必ずしも屈曲部34から突出している必要はなく、例えば屈曲部34を、第三係止部37としてアンカー孔11の内壁面に係止させてもよい。
【0024】
なお、第三係止部37の先端から第一係止部35または第二係止部36の先端までの長さは、アンカー孔11の内径に対して十分に大きい。そのため、アンカー固定治具3が設置されたアンカー材2をアンカー孔11に挿入すると、係止部35〜37がアンカー孔11の内壁面に当接する。
【0025】
次に、アンカー固定治具3を利用してアンカー材2をコンクリート部材1に設置する手順を説明する。
まず、コンクリート部材1にアンカー孔11を削孔する。
次に、アンカー孔11内に充填材6を注入する。充填材6には、所望の流動性と粘性を備えたものを使用する。すなわち、アンカー材2をアンカー孔11内に挿入した際に、アンカー材2とアンカー孔11の内壁面との間に隙間なく行き渡る流動性を有し、かつ、上向きに形成されたアンカー孔11内から落下することのない粘性を有したものが望ましい。なお、充填材6は、アンカー孔11内にアンカー材2を挿入した後に充填してもよい。
【0026】
続いて、アンカー孔11内にアンカー材2を挿入する。このとき、アンカー材2には、
図4(a)および(b)に示すように、アンカー固定治具3を予め取り付けておく。アンカー材2にアンカー固定治具3を取る付ける際には、アンカー固定治具3の両端を互いに近づける方向に押える(加圧する)ことで、アンカー固定治具3の屈曲部34の角度を調整しながらアンカー材2を貫通孔32,32に通す。このとき、アンカー固定治具3は、係止部35〜37の先端が、アンカー材2の基端側となるように、アンカー材2に設置する。すなわち、アンカー固定治具3は、アンカー材2の基端側(アンカー孔11に設置した際の孔口側)に向って係止部35〜37が突出するようにアンカー材2に設置される。
【0027】
アンカー固定治具3がアンカー材2の所定の位置に配置されたら、アンカー固定治具3の両端を離す。こうすることでアンカー固定治具3の復元力により係部33がアンカー材2に係止されて、アンカー固定治具3がアンカー材2に固定される。
【0028】
アンカー材2をアンカー孔11に挿入すると、アンカー固定治具3の係止部35〜37がアンカー孔11の内壁面に食い込むことでアンカー材2がアンカー孔11内に固定される。係止部35〜37は、アンカー材2の先端側から基端側に向うに従ってアンカー材2から離れるように突出している(広がっている)ため、アンカー孔11に挿入する際にはアンカー孔11の内壁面に食い込むことはない。一方、アンカー材2をアンカー孔11から抜き出す方向に力が加わると、係止部35〜37がアンカー孔11の内壁面に係止される。
【0029】
本実施形態のアンカー固定治具3によれば、アンカー材2をアンカー孔11内に固定するため、充填材が固化するまでにアンカー材2がずれることや落下することを防止できる。アンカー固定治具3は、3つの係止部35〜37(3点)でアンカー孔11内に固定されているため、アンカー材2がアンカー孔11に対して傾斜することを防止することができる。そのため、上向きにアンカー材2を設置する場合であっても、高品質に施工することができる。
【0030】
バネ材30の両端および屈曲部34に形成された突起である係止部35〜37が、孔壁に食い込むため、固定度が高い。
また、係止部35〜37は、アンカー材2の先端から基端に向うに従ってアンカー材2から離れるように傾斜しているため、挿入時に係止部35〜37が孔壁に食い込んでアンカー材2の挿入を妨げることがなく、かつ、挿入後はアンカー孔11の孔口に向うに従って広がるように形成された係止部35〜37が孔壁に食い込むことでアンカー材2の抜け出しが防止される。
【0031】
アンカー固定治具3の貫通孔32の内側に係部33が形成されているため、アンカー材2をより確実に固定することができる。
また、アンカー材2をアンカー孔11の中心に配置することで、充填材6をアンカー孔11全体に行き渡らせることができる。
【0032】
アンカー固定治具3は、アンカー孔11の内径よりも小さい幅のバネ材30により構成されているため、アンカー材2をアンカー孔11内に挿入した際に、アンカー孔11の内壁面とアンカー固定治具3との間に隙間が形成される。そのため、充填材6がアンカー固定治具3とアンカー孔11との隙間を流れることで充填材6をアンカー孔11内に隙間なく充填させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、1個所の屈曲部34を有したく字状のアンカー固定治具3について説明したが、アンカー固定治具3の屈曲部34の数は限定されるものではなく、アンカー固定治具3は、2つ以上の屈曲部34を有して波型であってもよい。
また、アンカー固定治具3に形成された複数の係止部(突起)35〜37は、必ずしもアンカー孔11の孔口に向うに従って広がるように傾斜している必要はない。
貫通孔32の形状は限定されるものではなく、例えば円形や楕円形であってもよい。
【解決手段】アンカー孔11内にアンカー材2を固定するためのアンカー固定治具3であって、アンカー孔11の内径よりも小さい幅を有し、かつ、少なくとも1つの屈曲部34を有した一枚の板状のバネ材30からなり、屈曲部34を挟んで連続する各板片の中央にはアンカー材2を挿通可能な貫通孔が形成されており、バネ材30の両端および屈曲部にはアンカー孔11の内壁面に当接する係止部35〜37が形成されている。