特許第6351944号(P6351944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351944
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/14 20060101AFI20180625BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20180625BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20180625BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B62D7/14 Z
   B62D3/12 503Z
   B62D5/04
   F16H19/04 E
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-200168(P2013-200168)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-66975(P2015-66975A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】石河 智海
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕也
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−112724(JP,A)
【文献】 特開2005−297782(JP,A)
【文献】 特開2011−208742(JP,A)
【文献】 米国特許第05082077(US,A)
【文献】 特開平04−262971(JP,A)
【文献】 特開昭63−173766(JP,A)
【文献】 特開昭60−226358(JP,A)
【文献】 特開2007−022159(JP,A)
【文献】 実用新案登録第2600374(JP,Y2)
【文献】 特開2003−127876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/14
B62D 3/12
B62D 5/04
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪又は後輪の左右車輪(w)に接続され、その左右車輪(w)を転舵するタイロッド(12、22)と、
前記左右車輪(w)のタイロッド(12、22)にそれぞれ接続された対のラックバー(53、54)と、
前記左右車輪(w)を左右同方向、及び、左右反対方向のいずれの方向に転舵する際においても、常に前記対のラックバー(53、54)にそれぞれ噛み合い、一方のラックバー(53)のラックの歯の並列方向に対する一方向への動きを他方のラックバー(54)の他方向への動きに変換する同期ギア(55)と、
前記対のラックバー(53、54)をそれぞれのラックバー(53、54)のラックの歯の並列方向に沿って、左右反対方向へ移動させることが可能なラックバー動作手段(60)と、
少なくとも1つの前記同期ギア(55)を保持し、左右方向に移動可能な同期ギアボックス(66)と、
前記対のラックバー(53、54)を保持し、車両のフレーム側に固定されるラックケース(50)と、
前記ラックケース(50)に対し、前記同期ギアボックス(66)を固定し得る固定機構(67)と、
を備え、前記対のラックバー(53、54)を左右反対方向に移動させる際に、前記固定機構(67)により前記同期ギアボックス(66)を固定するステアリング装置。
【請求項2】
車両直進時における前記同期ギアボックス(66)の位置において、前記同期ギアボックス(66)を固定する請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記固定機構(67)による固定が、前記同期ギアボックス(66)を、前記対のラックバー(53、54)をそれぞれそのラックバー(53、54)のラックの歯の並列方向に沿って反対方向へ移動させる場合になされる請求項1又は2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前輪又は後輪のどちらかを転舵するステアリング装置、特に4輪転舵機構からなるステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
左右の車輪(以下、タイヤ、ホイール、ハブ、インホイールモータ等を含めて総合的に「車輪」と称する。)を結ぶステアリングリンク機構を用いて車輪を転舵するものに、アッカーマン・ジャントウ式と呼ばれる転舵機構がある。この転舵機構は、車両の旋回時に、左右の車輪が同一旋回中心をもつように、タイロッドとナックルアームを用いるものである。
【0003】
また、タイロッドの長さ、左右のタイロッド間の距離、又は、各車輪とナックルアームの成す角度のいずれかを変化させるアクチュエータを設けた転舵機構がある。この転舵機構によれば、通常走行、平行移動、小回りのすべての走行がスムーズに行え、かつ、応答性に優れている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、前後輪の左右車輪間にそれぞれ配置され、軸心周りに回転可能で左右に2分割されたラックバーと、その2分割されたラックバー間に正逆切り替え手段とを備えた転舵機構がある。正逆切り替え手段は、分割されたラックバーの一方の回転を、他方に正逆方向へ切り替えて伝達することができる。この転舵機構によれば、舵角90度や、横方向移動等の動きが可能となる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
なお、前輪の転舵に応じてアクチュエータが作動して、後輪を転舵するようにした4輪転舵車両の技術がある(例えば、特許文献3参照)。また、左右車輪間を結ぶラックハウジングを前後方向に移動させることで、左右車輪のトー調整を行い、走行安定性を高めた転舵機構もある(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
また、左右に独立して移動可能な2つのラックバーを持ち、前記ラックバーのそれぞれを左右いずれかの車輪にタイロッドを介して接続し、前記ラックバーは同期ギアボックスに保持される同期ギアにより、同期ギアボックスに対して反対に移動可能とした転舵機構もある(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−262971号公報
【特許文献2】特開2007−22159号公報
【特許文献3】実用新案登録第2600374号公報
【特許文献4】特開2003−127876号公報
【特許文献5】特願2013−158876(未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的なアッカーマン・ジャントウ式のステアリングリンク機構によれば、通常走行時には、各車輪の回転ライン(車輪の幅方向中心線)から平面視垂直に延びた線が、車両の旋回中心に集まるので、スムーズな走行ができる。しかし、車両の横方向移動(車両が前後方向を向いた状態での横方向への平行移動)を求める場合、車輪を前後方向に対して90度の方向に操舵することは、ステアリングリンクの長さや他部材との干渉から困難である。また、仮に、左右の車輪のうち一方の車輪を90度に操舵した場合でも、他方の車輪は一方の車輪と完全に平行にはならず、スムーズな走行が困難である。
【0009】
また、この種の車両では、通常、主転舵車輪である前輪を車両の所定の進行方向に転舵可能であり、従転舵車輪である後輪は、車両の前後方向と並行に設定されている。このため、この車両の前輪を転舵し旋回させると、前輪と後輪とが旋回円に一致しない。したがって、低車速時には内輪差により後輪が旋回円の内側に入る姿勢で車両が旋回し、高車速時には遠心力により前輪が旋回円の内側に入る姿勢で車両が旋回することになる。すなわち、前輪を車両の進行方向である旋回方向に転舵しても、車両の姿勢を旋回方向に一致させ操向することができないという問題がある。そこで、前輪のみならず後輪をも転舵することにより、走行性を向上させる4輪転舵機構(4輪転舵装置)を有する車両がある。
【0010】
4輪転舵機構を有する車両(いわゆる4WS車)として、例えば、特許文献1に記載の技術では、車両の横方向移動、小回り等が可能である。しかし、タイロッドの長さ、左右タイロッド間の距離、あるいは、車輪とナックルアームのなす角を変化させるアクチュエータを備えるため、アクチュエータが多く制御が複雑である。また、特許文献2は、その機構上、構造が複雑であるだけでなく、ラックバーの回転で車輪を転舵するために、多数の歯車を使用している。このため、ガタが発生しやすく、円滑に車輪の転舵をすることが困難である。
【0011】
また、特許文献3は、従来の4輪転舵機構の一例である。後輪転舵が可能となるが、この機構だけでは上述する同じ理由により横方向移動をすることは困難である。さらに、特許文献4はトー調整が可能であるが、車両の横方向移動、小回り等には対応できない。
【0012】
また、特許文献5は、出願人が考案したものであり、上記特許文献1〜4の上記課題を解決している、基本的な4輪転舵機構に問題はない。しかし、道路や雪道等の過酷な道路状況を考慮すると左右車輪の接地面の摩擦状態が極端に異なる場合がある。そのような場合、それぞれのラックバーが左右車輪にそれぞれ接続されていることから、左右車輪の接地面の傾斜や摩擦状態の違い等によって、転舵操作の際に、片方のラックバーが停止もしくは左右車輪が異なる転舵速度で転舵し、左右車輪が対称に転舵できず、最終的に目標とする車輪角度とならないことがある。例えば、左車輪と接地面の摩擦力が、右車輪と接地面の摩擦力に比べて大きい場合、左車輪が転舵せず(左車輪に接続されたラックバーが移動することなく)、右車輪のみが大きく転舵する(本来、左車輪に接続されたラックバーが移動すべき分まで、右車輪に接続されたラックバーが移動する)ことが生じ得る。
【0013】
そこで、この発明は、4輪に舵角を与える車両において、複雑な機構を用いることなく、横方向移動、小回り等に対応できるようにするとともに、その際の舵角制御を安定的かつ確実に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明において、前輪又は後輪の左右車輪に接続され、その左右車輪を転舵するタイロッドと、前記左右の車輪のタイロッドにそれぞれ接続された対のラックバーと、前記左右車輪を左右同方向、及び、左右反対方向のいずれの方向に転舵する際においても、常に前記対のラックバーにそれぞれ噛み合い、一方のラックバーのラックの歯の並列方向に対する一方向への動きを他方のラックバーの他方向への動きに変換する同期ギアと、前記対のラックバーをそれぞれのラックバーのラックの歯の並列方向に沿って、左右反対方向へ移動させることが可能なラックバー動作手段と、少なくとも1つの前記同期ギアを保持し、左右方向に移動可能な同期ギアボックスと、前記対のラックバーを保持し、車両のフレーム側に固定されるラックケースと、前記ラックケースに対し、前記同期ギアボックスを固定し得る固定機構と、を備え、前記対のラックバーを左右反対方向に移動させる際に、前記固定機構により前記同期ギアボックスを固定するステアリング装置を構成した。
【0015】
左右に独立して移動可能な対のラックバーに、それぞれタイロッドを介して車輪を接続したことにより、通常の走行モードにおいては、対のラックバーを一体固定させ従来のステアリング操作と違和感がなく作動させ、対のラックバーを別方向に移動することで、小回り、その場旋回、横走りなど、さまざまな走行モードを実現できる。
【0016】
また、分離、固定の切り替えが可能な対のラックバーを用いたことにより、複雑な機構や制御を用いず、低コスト化が可能となる。すなわち、4輪に舵角を与える車両において、複雑な機構を用いることなく、前後輪を同位相又は逆位相の舵角に転舵し、横方向移動や小回りに対応することができる。
【0017】
さらに、対のラックバーを左右反対方向に移動させる、すなわち、左右の車輪を逆方向に転舵する際に、車両のフレーム側に固定したラックケースに対し、同期ギアボックスを固定するようにしたことにより、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバーを左右反対方向に同距離だけ移動することができる。
【0018】
すなわち、例えば、左車輪と接地面の摩擦力が、右車輪と接地面の摩擦力に比べて大きい場合においても、左車輪に接続されたラックバーが移動せずに、右車輪に接続されたラックバーのみが大きく移動する状況は生じない。このため、左右の車輪を速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【0019】
前記構成においては、車両直進時における前記同期ギアボックスの位置において、前記同期ギアボックスを固定することが望ましい。さらに、前記各構成においては、前記固定機構による固定が、前記同期ギアボックスを、前記対のラックバーをそれぞれそのラックバーの歯の並列方向に沿って反対方向へ移動させる場合になされるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
左右に独立して移動可能な対のラックバーに、それぞれタイロッドを介して車輪を接続したことにより、通常の走行モードにおいては、対のラックバーを同方向に同距離移動可能とし、従来のステアリング操作と違和感がなく作動させ、対のラックバーを別方向に移動することで、小回り、その場旋回、横走りなど、さまざまな走行モードを実現できる。また、分離、固定の切り替えが可能な対のラックバーを用いたことにより、複雑な機構や制御を用いず、低コスト化が可能となる。しかも、車両のフレーム側に固定したラックケースに対し、同期ギアボックスを固定する固定機構を設けたことにより、対のラックバーを左右反対方向に同距離だけ確実に移動することができる。すなわち、4輪に舵角を与える車両において、複雑な機構を用いることなく、前後輪を同位相又は逆位相の舵角に転舵し、横方向移動や小回りに対応することができるとともに、その際の舵角制御を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この実施形態のステアリング装置を用いた車両のイメージ図
図2】この発明の第一実施形態を示し、(a)は一般車両の平面図、(b)はステアバイワイヤ方式の車両の平面図
図3図2の車両において通常走行モード(通常の転舵モード)を示す平面図
図4図2の車両において小回りモードを示す平面図
図5図2の車両においてその場旋回モードを示す平面図
図6図2の車両において横方向移動(平行移動)モードを示す平面図
図7】車輪の支持状態を示す断面図
図8】ステアリング装置の外観を示す斜視図
図9】ステアリング装置のラックバー動作手段の詳細を示し、(a)は分離状態の正面図、(b)は結合状態の正面図
図10】ステアリング装置の内部を示す平面図
図11】ステアリング装置の内部を示す正面図
図12】ステアリング装置の内部を示し、(a)は対のラックバーが最も近接した状態の平面図、(b)は対のラックバーが開いた状態の平面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態において、車両1の駆動輪のステアリング装置には、前後左右すべての車輪wのホイール内にインホイールモータMを装着している。インホイールモータMを備えたことにより、様々な走行パターンが可能となる。
【0023】
図1は、この実施形態のステアリング装置を用いた車両1のイメージ図を示す。超小型モビリティで2人乗車(横並び二人乗り)の車体を示している。車両1はステアリング2の操作によって、ステアリングシャフト3を介して車輪wを転舵できるようになっている。ただし、この発明は、超小型モビリティに限定されるものではなく、通常車両にも適応可能である。
【0024】
図2は、第一実施形態の車両1の駆動系を示す平面略図である。この実施形態は、前輪の左右輪(FL、FR)及び後輪の左右輪(RL、RR)にタイロッド12、22を介して、それぞれ本案のステアリング装置10、20を連結させたものである。
【0025】
前輪用の本案のステアリング装置10は、ステアリングシャフト3(一般車両(同図(a)参照))、もしくは、ステアリング2の回転動作によって作動するモータ等のアクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式(同図(b)参照))によってピニオン軸61(図10参照)を操作することで通常転舵が可能となる。また、後輪用の本案のステアリング装置20は、ステアリング2の回転動作によって作動するモータ等のアクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式(同図(a)(b)参照))によってピニオン軸61(図10参照)を操作し、前輪と同様、転舵が可能となる。同図は、前後輪に本案のステアリング装置10、20を採用した4輪転舵装置を備えた車両1を示している。
【0026】
ただし、この発明のステアリング装置を、前輪又は後輪のどちらかのみに装備する車両も採用可能であるし、あるいは、この発明のステアリング装置を後輪のみに装備し、前輪には通常の一般的なステアリング装置を装備する車両も採用可能である。
【0027】
前輪と後輪の各ステアリング装置10、20には、左右の車輪wを転舵するために2つのラックバーが備えられている。以下、前輪及び後輪共に、車両の前後方向に対して左側の車輪wに接続されるラックバーを第一ラックバー53と、右側の車輪wに接続されるラックバーを第二ラックバー54と称する。なお、図2において紙面左向きの矢印が示している方向が、車両の前方方向となる。後の図3図6においても同様である。図10等において示すように、前記2つのラックバー53、54の間には、各ラックバー53、54に噛合する同期ギア55が設けられている。この同期ギア55は、図11等において示すように、同期ギアボックス66によって保持されている。
【0028】
前輪又は後輪の左右の車輪wには、図2に示すように、それぞれタイロッド12、22を介して各ラックバー53、54の接続用部材11、21がヒンジ接続されている。タイロッド12、22と車輪wとの間には、適宜ナックルアーム等の各種部材が介在する。
【0029】
図7は、インホイールモータMが収容された車輪wとタイロッド12、22との接続状態を示す。すべての車輪wは、それぞれ車両のフレームに支持されたキングピン軸Pを中心軸として、転舵が可能となっている。インホイールモータMは、車体内側から車輪wに向かって、モータ部101、減速機102、車輪用軸受103が順番に直列に配置している。
【0030】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、図8に示すように、各ステアリング装置10、20において、車両の直進方向(前後方向)に対して左右方向に伸びるラックケース(ステアリングシリンダ)50内に収容されている。ラックケース50は車両1の図示しないフレーム(シャーシ)に支持されている。
【0031】
なお、ラックケース50の車両1への支持は、例えば、ラックケース50に設けられたフランジ部を介して、車両1のフレームに直接又は間接的にネジ固定とすることができる。
【0032】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、ラックケース50内を車両の直進方向に対して左右方向へ一体に移動可能である。この動作は、運転者が行うステアリング2の操作に基づき、通常転舵用アクチュエータ31の動作によって行われる。この動作により、通常走行時、左右車輪を左右同方向に転舵させることができる。
【0033】
図9に示すピニオン軸61は、ステアリングシャフト3(一般車両の場合(図2(a)参照))、もしくは、ステアリング2の回転動作によって作動するモータなどのアクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式の場合(図2(b)参照))に接続される。このピニオン軸61には一体もしくは一体に回転可能に結合された第一ピニオンギア62があり、第一ピニオンギア62に噛合される第一ラックバー53と、第二ピニオンギア65に噛合させる第二ラックバー54を備える。この2つのラックバー53、54は互いに平行に伸びている。
【0034】
また、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を回転方向に結合および分離が可能とする連結機構63を備えている。図9(a)は分離した状態、図9(b)は結合した状態を示している。
【0035】
また、ステアリング装置10、20は、図10に示すように、それぞれラックバー動作手段60を備えている。ラックバー動作手段60は、車両の直進方向に対する左右方向、すなわち、ラックの伸縮する方向(ラックの歯の並列する方向)に沿って、第一ラックバー53と第二ラックバー54を互いに反対方向(相反する方向)へ同距離移動させる機能を有する。
【0036】
ラックバー動作手段60は、図10に示すように、対のラックバー53、54の互いに対向するラックギア、すなわち、第一ラックバー53の同期用ラックギア53aと第二ラックバー54の同期用ラックギア54aにそれぞれ噛み合う第一同期ギア55を備える。
【0037】
第一同期ギア55は、ラックバー53、54のラックの歯の並列方向に沿って一定の間隔で並列する三つのギア55a、55b、55cからなる。図9で示した連結機構63による第一及び第二ピニオンギア62、65の連結を分離状態としつつ、第一ラックバー53をラックバー動作手段60から入力された駆動力によって、そのラックの歯の並列方向に対して一方向へ動かすと、その動きが第二ラックバー54の他方向への動きに変換される。
【0038】
このステアリング装置10、20には、図11に示すように、ラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定する固定機構67が設けられている。この固定機構67は、たとえば、台形ネジ68を作動させる同期ギアボックス固定用アクチュエータ69(モータ)によって台形ネジ68が回転し、押え部68aが同期ギアボックス66に押し付けられ固定する構成のものを採用し得る。本実施形態では、固定機構67として台形ネジ68を用いた場合を示したが、プッシュプルソレノイド等のアクチュエータを使用しても構わない。
【0039】
ラックケース50の4か所のフランジ部50aは、車体のフレームにねじ止めされていることから、固定機構67によってラックケース50と同期ギアボックス66が固定されると、同期ギアボックス66はフレームに対して固定されたこととなる。また、車体の直進状態における同期ギアボックス66と、ラックケース50とを相対的に固定することで、この直進状態の場合のみならず、ステアリング2をいかなる角度操作した場合においても、左右の車輪転舵角度を同じにすることができる。
【0040】
なお、図10図11に示すように、第一同期ギア55の隣り合うギア55a、55b間、ギア55b、55c間には、それぞれ、第二同期ギア56を構成するギア56a、56bが配置されている。第二同期ギア56は、第一ラックバー53の同期用ラックギア53aや第二ラックバー54の同期用ラックギア54aには噛み合わず、第一同期ギア55にのみ噛み合っている。第二同期ギア56は、第一同期ギア55の3つのギア55a、55b、55cを、同方向に同角度だけ動かすためのものである。この第二同期ギア56によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、スムーズに相対移動することが可能となる。
【0041】
また、図9に示すように、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、同期用ラックギア53a、54aとは別に、それぞれ転舵用ラックギア53b、54bを備えている。
【0042】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、それぞれ、別体で形成された同期用ラックギア53a、54aと前記転舵用ラックギア53b、54bを、ボルト軸等の固定手段で一体に固定したものとしてよい。
【0043】
転舵用ラックギア53b、54bは、各ラックバー53、54を、車両1のフレームに対して、前記ラックの歯の並列方向に沿って移動させるための駆動力の入力手段として機能する。
【0044】
ラックバー動作手段60からの駆動力の入力により、第一ラックバー53が、図12(a)に示す状態(直進状態)から、図12(b)に示す状態(後で説明する横走りモードの状態)へと移動すると、第二ラックバー54には、第一同期ギア55を介してその力が伝達され、第二ラックバー54は、同じく図12(a)に示す状態から、図12(b)に示す状態へと移動する。
【0045】
直進状態においては(図12(a)参照)、直進状態のタイヤ(ラックバー)位置で連結機構63が噛合することで、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65が回転固定される。そして、ステアリング2を回転させてステアリングシャフト3を回転すると、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、フレームに取り付けられたラックケース50内を同方向に同距離左右に移動する。
【0046】
また、横走りモードの状態においては(図12(b)参照)、連結機構63が分離され第一ラックバー53と第二ラックバー54は、同期ギアボックス66内の同期ギア55にそれぞれ噛合している。この同期ギア55の噛合によって、それぞれのラックバー53、54は、同期ギアボックス66に対して逆方向に移動する。ここで、同期ギアボックス66をフレームに固定されたラックケース50に対して固定しておくと、左右車輪w(タイヤ)の接地面に傾斜や摩擦状態の違い等があっても、同期ギアボックス66に対して、対のラックバー53、54を左右反対方向に同距離だけ移動することができる。したがって、それぞれのラックバー53、54にタイロッド12、22を介して接続される左右の車輪wは常に同じ角度で移動(転舵)されることとなる。
【0047】
次に、ラックバー動作手段60の作用について説明する。
【0048】
前輪のステアリング装置10のラックバー動作手段60は、図2に示すように、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、又は、車両1が備えるモード切替手段42の操作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、図9に示すように、第一回転軸(ピニオン軸)61と、その第一回転軸61に一体回転可能に取り付けられる第一ピニオンギア62とを備える。モード切替用アクチュエータ32の動作軸からステアリングシャフト3を介して、第一回転軸61側へ回転が伝達されるようになっている。
【0049】
後輪のステアリング装置20のラックバー動作手段60は、同じく、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、又は、車両1が備えるモード切替手段42の操作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって回転する第一回転軸61と、その第一回転軸61に一体回転可能に取り付けられる第一ピニオンギア62とを備える。モード切替用アクチュエータ32の動作軸からステアリングシャフト3を介して、第一回転軸61側へ回転が伝達されるようになっている(図9参照)。
【0050】
ラックバー動作手段60は、第一回転軸61と一体もしくは結合された第一ピニオンギア62と、第一回転軸61と同一直線上に配置される第二回転軸64と、その第二回転軸64に一体回転可能に取り付けられた第二ピニオンギア65を備える。
【0051】
図8は、ステアリング装置10、20の全体を示す外観斜視図である。前部カバー52と後部カバー51との間に、第一ラックバー53や第二ラックバー54が収容されている。なお、図示されていないが、タイロッド12、22取り付け部からラックケース50(ケース前部51、ケース後部52)にかけて、可動部への異物の侵入を防止するためのブーツが備えられている。第一回転軸61は、モード切替用アクチュエータ32の動作軸に、図示しないステアリングジョイントを介して接続される。
【0052】
第一ピニオンギア62は、図9に示すように、第一ラックバー53の転舵用ラックギア53bに噛み合い、第二ピニオンギア65は第二ラックバー54の転舵用ラックギア54bに噛み合うようになっている。
【0053】
さらに、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65との間に、互いに結合及び分離が可能な連結機構63を備えている。連結機構63は、第一回転軸61と第二回転軸64とを相対回転可能な状態(分離状態)と相対回転不能な状態(結合状態)とに切り替える機能を有する。
【0054】
連結機構63は、図9に示すように、第二回転軸64側の固定部63bと、第一回転軸61側の移動部63aを備える。移動部63aは、図示しないバネ等の弾性部材によって固定部63b側へ押し付けられ、連結機構63の固定部63b側の凹部63dに、移動部63a側の凸部63cが結合することで、両回転軸61、64が一体で回転可能となっている。なお、凹凸の形成部位を反対にして、固定部63b側に凸部63cを、移動部63a側に凹部63dを設けてもよい。
【0055】
図示しないプッシュソレノイドなどの駆動源からの外部入力によって、連結機構63の固定部63bに対して、移動部63aを軸方向に移動させることで、固定部63bと移動部63aとの連結を分離し、第一回転軸61と第二回転軸64とは独立して回転可能な状態となる。すなわち、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65は、それぞれが独立して回転可能となる(前記分離状態)。図9(a)は、連結機構63の分離状態を示し、図9(b)はその結合状態を示している。
【0056】
連結機構63の分離により第一ピニオンギア62、第二ピニオンギア65が相対回転可能なとき、第一ピニオンギア62は第一ラックバー53に噛合しており、第二ピニオンギア65は第二ラックバー54に噛合している。さらに、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、第一同期ギア55によって噛合されている。このため、第一ピニオンギア62に入力された回転で、第一ラックバー53がラックの歯の並列方向、すなわち、車両の左右方向に沿って横方向(一方向)へ移動する。第一ラックバー53が横方向に移動することで、第一同期ギア55が回転し、第二ラックバー54が第一ラックバー53と反対方向(他方向)へ同距離だけ移動する。このとき第二ピニオンギア65は第二ラックバー54の移動により自由に回転している。
【0057】
このように、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65とを連結機構63により結合状態と分離状態に切り替えることで、対のラックバー53、54が一体に左右方向へ動く状態と、別々に反対方向へ動く状態との切り替えが容易に可能となる。
【0058】
すなわち、連結機構63が、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を介して、第一ラックバー53と第二ラックバー54を結合した状態で、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作する通常転舵用アクチュエータ31の駆動力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54を車両の直進方向に対して左右方向へそれぞれ同方向へ一体に動かすことにより、左右車輪wをキングピン軸P(図7参照)周りに同方向へ転舵させることができる。このとき第一ラックバー53と第二ラックバー54が一体に動くことにより、第一同期ギア55は回転していない。
【0059】
また、連結機構63が、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を分離した状態で、第一ラックバー53と第二ラックバー54を車両の直進方向に対して左右方向へそれぞれ反対方向へ動かすことにより、左右車輪をキングピン軸P(図7参照)周りに逆方向へ、すなわち、互いに相反する方向へ転舵させることができる。
【0060】
すなわち、この実施形態では、通常運転時のステアリング2の操作による回転が、ステアリングシャフト3の回転を通じて第一回転軸61に入力されるようになっている。ラックバー動作手段60は、通常運転時(連結機構63が結合状態)に、第一ラックバー53と第二ラックバー54を同方向に同距離移動させる手段としても機能している。
【0061】
また、モード切替時には、モード切替用アクチュエータ32の駆動力が、ピニオンギア62、65の回転を通じてそれぞれのラックバー53、54に入力されるようになっている。なお、モード切替用アクチュエータ32の駆動力がピニオンギア62の回転を通じてそれぞれのラックバー53、54に入力される際は、そのステアリングシャフト3の回転がステアリング2に伝達されないようにしてもよいし、その伝達を許容するようにしてもよい。
【0062】
さらに、モード切替用アクチュエータ32の役割を、通常転舵用アクチュエータ31が兼ねることも可能である。すなわち、通常転舵用アクチュエータ31が、モード切替時において、ステアリングシャフト3を介して第一回転軸61に回転を入力するようにしてもよい。
【0063】
また、モード切替用アクチュエータ32は、ステアリングの左右に配置されたインホイールモータMの駆動力によってその役割をすることも可能である。さらに、これら通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32、若しくは左右のインホイールモータMのいずれか、もしくは、いくつかの転舵操作力を用いて、転舵させることも可能である。
【0064】
以下、これらの各構成からなるステアリング装置を、車両に装着した場合のいくつかの走行モードについて説明する。
【0065】
(通常走行モード)
図2(a)(b)に示す直進状態の車輪位置で、前輪のステアリング装置10のラックケース50によって保持された第一ラックバー53と第二ラックバー54を一体移動可能な状態、つまり図9の第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を互いに結合又は分離が可能な連結機構63が結合した状態とする。すると、車両のフレームに取り付けられたラックケース50内の対のラックバー53、54は、左右の同方向に同距離移動する。
【0066】
ステアリング装置10が、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、直進方向に対して左右方向に動くことで、第一ラックバー53と第二ラックバー54も同方向に同距離移動して、図3に示すように、前輪の左右車輪wを所定の角度に転舵する。図3は、右に転舵した場合を示す。すなわち、2つのラックバー53、54を連結機構によって完全に一体動作可能とすることで、通常の車両と同等の走行が可能となる。通常走行モードでは、運転者のステアリング2の操作により、前輪のステアリング装置10を通じて、直進、右折、左折、その他、各場面に応じた必要な転舵が可能である。
【0067】
(小回りモード)
小回りモードを図4に示す。図3に示す前輪のステアリング装置10の動作に加え、後輪のステアリング装置20のラックケース内50の第一ラックバー53と第二ラックバー54を同方向に同距離移動可能な状態、つまり図9の連結機構63が結合した状態とする。前輪と同じく、車両のフレームに取り付けられたラックケース50内の対のラックバー53、54は、左右方向に同方向に同距離移動する。
【0068】
後輪のステアリング装置20が、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力によって、直進方向に対して左右方向に、第一ラックバー53と第二ラックバー54が同方向に同距離動いて、図4に示すように、後輪の左右車輪wを所定の角度に転舵する。このとき、後輪と前輪とは逆位相に転舵しており(図中において、前輪が右転舵、後輪は左転舵)、通常走行モード時よりもより回転半径の小さい小回りが可能となる。なお、図4では、後輪と前輪とが逆位相に同角度分だけ転舵した状態を示しているが、前後で転舵角度を相違させても、また同移動に転舵することで他の走行モードも可能となる。
【0069】
(その場旋回モード)
その場旋回モードを図5に示す。固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66をその直進時に設定される位置で固定するとともに、連結機構63(図9参照)を分離することで、ラックケース50内の第一ラックバー53と第二ラックバー54は別々に動作可能となる。このとき、モード切替用アクチュエータ32からピニオンギア62の入力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54に介在して設けた第一同期ギア55の作用により、両ラックバー53、54は互いに相反する方向に同距離移動し、左右車輪wは逆方向に転舵する。このように、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定することによって、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバー53、54を、固定された同期ギアボックス66を基準として、左右反対方向に同距離だけ移動することができる。このため、左右車輪wを速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【0070】
第一ラックバー53と第二ラックバー54を互いに逆方向に移動させ、図5に示すように、前後4つの車輪wすべての中心軸がほぼ車両中心を向く位置で、連結機構63を結合固定させる。4つの車輪wすべての中心軸がほぼ車両中心を向いているため、それぞれの車輪wに備えられたインホイールモータMの駆動力によって、車両中心がその場所で一定の状態(又はほぼ移動しない状態)を維持しながら向きを変える、いわゆるその場旋回が可能となる。このとき、ラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定した状態で保持したままとすることで、安定したその場回転が可能となる。
【0071】
図5では、それぞれの車輪wにインホイールモータMを装備しているが、少なくとも1つの車輪wにインホイールモータMが装備され、その一つのインホイールモータMが作動すれば、その場旋回が可能である。
【0072】
(横走りモード)
横走りモードを図6に示す。その場旋回モードと同様に、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66をその直進時の位置で固定するとともに、連結機構63(図9参照)を分離することで、ラックケース50内の第一第一ラックバー53と第二ラックバー54は別々に動作可能となる。このとき、モード切替用アクチュエータ32からピニオンギア62の入力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54に介在して設けた第一同期ギア55の作用により、両ラックバー53、54は互いに相反する方向に同距離移動し、左右車輪wは逆方向に転舵する。このように、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定することによって、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバー53、54を左右反対方向に同距離だけ移動することができる。このため、左右車輪wを速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【0073】
前後4つの車輪wすべてが直進方向に対して90度の方向(車両の直進方向に対する左右方向)へ向くように、モード切替用アクチュエータ32から第一ピニオンギア62への回転の入力によって、ステアリング装置10、20内の第一ラックバー53と第二ラックバー54を反対方向へ移動させる。そして、車輪wが前記90度となった位置で連結機構63(図9参照)を結合させて、対のラックバー53、54を固定する。
【0074】
このとき、その場回転モード時とは異なり、同期ギアボックス66をラックケース50に固定した状態を解除することで、ステアリング装置10、20のラックケース50内の第一ラックバー53と第二ラックバー54を、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、直進方向に対して一体に左右方向へ移動させて、車輪wの向き(タイヤ角度)を微調整することが可能となる。
【0075】
図6は、横走りモードでの前後輪のステアリング装置10、20の位置関係と、車輪wの向きを示す。その場旋回モード時に比べて、さらに、対のラックバー53、54が外側に張り出しており、タイロッド12、22の車輪wへの接続部が、車両の幅方向に対して最も外側に位置する走行モードである。この横走りモードにおいても、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、車輪wの向き(タイヤ角度)を微調整することが可能である。
【0076】
(その他の走行モード)
その他の走行モードとして、例えば、電子制御ユニット(ECU)40が、車両1が高速走行中であることを認識した時は、ECU40の出力に基づき、アクチュエータドライバ30が、後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して、後輪の左右輪w(RL、RR)を、平行状態よりも前方側がわずかに閉じた状態(トーイン状態)に設定する。これにより、安定した高速走行が可能となる。
【0077】
このトー調整は、ECU40による車速や車軸にかかる荷重などの走行状態の判断に基づき自動的に行われるようにしてもよいし、運転室に設けられたモード切替手段42からの入力に基づいて行われるようにしてもよい。モード切替手段42を運転者が操作することで、走行モードの切り替えを行うことができる。モード切替手段42は、例えば、運転者が操作できるスイッチ、レバー、ジョイスティック等であってもよい。
【0078】
(モードの切り替え)
なお、前述の各走行モードの切り替え時についても、適宜、このモード切替手段42を使用する。車室内にあるモード切替手段42を操作することで、通常走行モード、その場旋回モード、横走りモード、小回りモード等を選択することができる。スイッチ操作等で切り替えが可能とすれば、より安全な操作が可能である。
【0079】
通常走行モードにおいて、前輪のステアリング装置10では、ステアリング2の回転操作に伴うセンサ41からの情報に基づき、ECU40が各ラックバー53、54の左右方向への必要な動作量を算出し出力する。その出力に基づき、前輪の通常転舵用アクチュエータ31に指令して、各ラックバー53、54を収容するラックケース50を左右方向へ一体に移動させ、左右車輪wを必要方向へ必要角度だけ転舵する。
【0080】
例えば、モード切替手段42を操作し、その場旋回モードを選択すれば、車両1の中心部に回転中心を持つように、前後輪のステアリング装置10、20を通じて4輪wを転舵させることができる。この操作は、車両1の停車中のみ許可される。このとき、2つのラックバー53、54の左右方向への相対移動量は、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。
【0081】
また、モード切替手段42を操作し、横走りモードを選択すれば、4輪wの舵角が90度になるように、前後輪のステアリング装置10、20を通じて4輪wを転舵させることができる。このとき、2つのラックバー53、54の左右方向への相対移動量は、同じく、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。このとき、通常転舵用アクチュエータ31は、必要に応じて動作しない状態に設定してもよいし、通常転舵用アクチュエータ31の動作を許可することで、その動作により転舵角の微調整も可能である。
【0082】
さらに、モード切替手段42を操作し、小回りモードを選択すれば、前輪と後輪は逆位相に転舵され、小回りが可能となるように設定できる。このとき、後輪のステアリング装置20において、対のラックバー53、54を収容したラックケース50の左右方向への移動量は、ステアリング2の操作等に基づいて、同じく、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪の通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。前輪のステアリング装置10の制御は、通常走行モードと同じである。
【0083】
このように、前後輪のステアリング装置10、20では、運転席のステアリング2の操舵角、若しくは、操舵トルク等を検出するセンサ41からの情報や、モード切替手段42からの入力に基づき、ECU40がラックバー53、54の左右方向への必要な動作量を出力する。あるいは、ECU40自身による走行状態の判断に基づき、対のラックバー53、54の必要な移動量を出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が、通常転舵用アクチュエータ31やモード切替用アクチュエータ32を通じて前後輪を所定の向きに転舵することができる。
【0084】
この実施形態では、後輪のステアリング装置20の制御は、運転者が行うステアリング操作やモード切替の操作を電気信号に置き換えて転舵するステアバイワイヤ方式を採用している。
【0085】
前輪のステアリング装置10として、後輪と同様、通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32を用いたステアバイワイヤ方式としてもよいが、特に、通常転舵用アクチュエータ31として、運転者が操作するステアリング2、又は、ステアリングシャフト3に連結されたモータ等を備え、そのモータ等が、ステアリングシャフト3の回転によるラックバー53、54の左右方向の移動に必要なトルクを算出しアシストする構成としてもよい。このとき、モード切替用アクチュエータ32については後輪と同様である。
【0086】
なお、前輪のステアリング装置10の通常走行モードにおける転舵に使用する機構として、機械的なラックピニオン機構等を用いた一般的なステアリング装置を採用してもよい。
【0087】
上記に記載した種々の運転モードは例であり、それ以外にも、これらの機構を用いた様々な制御が可能となる。
【0088】
この発明では、通常の走行モードにおいては、従来のステアリング操作と違和感なく作動し、且つ、その場旋回、横方向移動、小回り等、さまざまな走行モードをも可能としつつ、その場旋回、横方向移動等の特殊モードにおいては、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定することによって、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバー53、54を、固定した同期ギアボックス66を基準として、左右反対方向に同距離だけ移動することができるようにした。これにより、複雑な機構を用いず、低コストで、横方向移動、小回り等を可能としつつ、左右車輪wを速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
2 ステアリング
3 ステアリングシャフト(操作軸)
10、20 ステアリング装置
11、21 接続用部材
12、22 タイロッド
30 アクチュエータドライバ
31 通常転舵用アクチュエータ
32 モード切替用アクチュエータ
40 電子制御ユニット(ECU)
41 センサ
42 モード切替手段
66 同期ギアボックス
67 固定機構
w 車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12