【実施例】
【0036】
本発明に係る口腔用組成物に係る実施形態について、更に実施例を説明する。
【0037】
[実施例1]粒度分布の最頻値が1.0μm以下である乳酸菌の調製
本実施例にて使用する粒度分布の最頻値が1.0μm以下である乳酸菌について、特許文献3(国際特許公開第2009/157073号)に従い、調製した。
【0038】
先ず、前記乳酸菌として、植物性乳酸菌であるラクトバチルス・ブレビス菌(菌株
FERM BP−4693。以下、単に「ブレビス菌」とする。)を用い、前記ブレビス菌を、5%(%については、特に記述がない場合は、これ以降重量百分率とする。)ブドウ糖添加の公知栄養培地で、20%水酸化ナトリウム水溶液を用い、培養時のpH(水素イオン濃度)を6.5に調整しながら、36.5℃で培養し、グルコース(ブドウ糖)消費が完了した時点で培養終了とした。
【0039】
培養終了後、培養液を80℃で10分間加熱滅菌処理し、菌体をPBS(リン酸緩衝液)で洗浄し、菌体に対して重量換算で4倍量のデキストリンを賦形剤として添加し、ミキサーで分散してから凍結乾燥して試料を調製し、これを再び菌体濃度で10mg/mLになるようにPBSに懸濁させた。なお、加工工程時のpHは6.5に保持したものを本実施例で使用するブレビス菌とした。更にブレビス菌は加熱処理して死菌とした。
【0040】
ちなみに、調製したブレビス菌について粒径を測定したところ、全ての菌体について0.7〜1.0μm以下となり、粒度分布の最頻値が1.0μm以下であった。なお、粒径測定については、常法に依った。
【0041】
[実施例2]ブレビス菌溶液、キトサン溶液、及びパパイア溶液の調製
実施例2では、本発明に係る口腔用組成物の基本的な構成要素である、ブレビス菌、キトサン、パパイア(エキス)について、評価目的の各試料溶液を調製した。
【0042】
先ず、実施例1にて調製したブレビス菌について、該ブレビス菌の濃度が0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%の6種類の試料溶液になるように、それぞれブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地(Becton Dickinson,Sparks,MD)に、1.0%ヘミン、1.0&ビタミンK
1、及び0.5%イースト抽出物を添加した培地溶液(以下、単に「培地溶液」と称す。)を用いて希釈して、上記各濃度に係るブレビス菌溶液を調製した。
【0043】
次に、ブレビス菌の対照として、動物性乳酸菌についても、該動物性乳酸菌の濃度が0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%の6種類の試料溶液になるように、前記培地溶液を用いて希釈して、上記各濃度に係る動物性乳酸菌溶液を調製した。
【0044】
同様に、キトサン(株式会社キミカ製)については、該キトサンの濃度が0.3%、0.5%の2種類の試料溶液になるように、それぞれ前記培地溶液を用いて希釈して、上記各濃度に係るキトサン溶液を調製した。これと更に同様に、パパイア(ナガセケムテックス製)についてもまた、該パパイアの濃度が0.3%、0.5%の2種類の試料溶液になるように、それぞれ前記培地溶液を用いて希釈して、上記各濃度に係るパパイア溶液を調製した。
【0045】
[実施例3]う蝕原細菌溶液と歯周病原細菌溶液の調製
実施例3では、上記実施例2で調整した各溶液の殺菌(抗菌)効果を試験するための、う蝕原細菌溶液及び歯周病原細菌溶液の調製をした。
【0046】
先ず、う蝕原細菌溶液において、う蝕原細菌として、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)のイングブリット(Ingbritt)株を使用し、BHI液体培地を用いて、37℃、18時間、嫌気条件下(CO
2:10%、H
2:10%、N
2:80%)で培養したものを、後述の実施例で使用するう蝕原細菌溶液(若しくは「S.mutans菌溶液」と称することもある)とした。
【0047】
次に、歯周病原細菌溶液において、歯周病原細菌として、プロフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)のATCC 33277株を使用し、う蝕原細菌溶液と同様の培養条件で培養したものを、後述の実施例で使用する歯周病原細菌溶液(若しくは「P.gingivalis菌溶液」と称することもある)とした。
【0048】
[実施例4]う蝕原細菌(S.mutans)に対するブレビス菌、動物性乳酸菌の殺菌(抗菌)効果
実施例2で調製した各濃度(0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%)のブレビス菌溶液100μLに対し、実施例3で調製したう蝕原細菌溶液100μLをそれぞれに加え、それぞれの試料を30mLのBHI液体培地内にて、37℃で嫌気培養をした。そして、実験(培養)開始から、6時間後と24時間後に前記各試料(ブレビス菌溶液(各濃度)試料)を採取して、生菌数測定とpH値測定を行った。この場合のpH値測定については後述する。
【0049】
また、実施例2で調製した各濃度(0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%)の動物性乳酸菌溶液100μLに対し、それぞれの濃度のものに実施例3で調製したう蝕原細菌溶液100μLを加え、ブレビス菌溶液を使用したときと同様の条件で培養を行い、培養開始から6時間後と24時間後に各濃度の試料(動物性乳酸菌溶液(各濃度)試料)を採取して、生菌数測定のみを行った。
【0050】
なお、生菌数測定については、ブレビス菌各濃度試料を使用した場合及び動物性乳酸菌各濃度試料を使用した場合共に、採取した前記各試料を、PBS(リン酸緩衝液。pH7.5、ダルベッコ社製)を用いて、10倍階段希釈後、それぞれMitis salivalis(メティス・サルヴァリス)寒天培地に100μL塗抹し、37℃、4日間で嫌気培養後の発育コロニー数を算出することにより、生菌数とした。ここで言う、「生菌数」とはう蝕原細菌(S.mutans)の数を言う。
【0051】
ブレビス菌溶液各濃度試料の生菌数について、
図1(a)に示す。まず、対照用として、ブレビス菌溶液未使用、即ちう蝕原細菌(S.mutans)のみ培養したものを濃度0とし、以降濃度の低い順にグラフを記したところ、培養開始から6時間後においては、ブレビス菌溶液試料の濃度が、濃度0から0.3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が減少したのに対し、該濃度が、0.5〜3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が増加した。一方、培養開始から24時間後においては、ブレビス菌溶液の濃度が、濃度0から3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が減少し、特に該濃度が1%のときはほとんど菌が死滅した。そして、ブレビス菌溶液各濃度試料について、培養開始から6時間後と、24時間ごとの生菌数を比較したところ、濃度0、0.05及び0.3%でわずかに増加している以外は、時間が経つにつれて、更に生菌数が減少するという結果になった。
【0052】
また、動物性乳酸菌溶液各濃度試料の生菌数について、
図1(b)に示す。ブレビス菌溶液を使用したときと同様に、動物性乳酸菌溶液未使用、即ちう蝕原細菌(S.mutans)のみ培養したものを濃度0とし、以降濃度の低い順にグラフを記したところ、培養開始から6時間後においては、動物性乳酸菌溶液試料の濃度が、濃度0から3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が減少した。一方、培養開始から24時間後においては、動物性乳酸菌溶液の濃度が、濃度0から3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が減少したのに対し、該濃度が、0.5〜3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌数が増加した。そして、動物性乳酸菌溶液各濃度試料について、培養開始から6時間後と、24時間ごとの生菌数を比較したところ、濃度0〜0.5%では時間が経つにつれて生菌数が減少しているのに対し、濃度が1%以上になると、時間が経つにつれて、むしろ生菌数が増加するという結果になった。
【0053】
以上のことから、ブレビス菌溶液及び動物性乳酸菌溶液をそれぞれ用いた場合、培養開始後6時間では、両方とも生菌数が減少傾向にあったが、菌がほとんど死滅するまでには至らなかった。また、培養開始後24時間では、ブレビス菌溶液を使用した場合は、該溶液の濃度が高ければ高いほど滅菌傾向を示したが、動物性乳酸菌溶液を使用した場合には、生菌数は減少しても、滅菌とまでは至らず、むしろ動物性乳酸菌溶液の濃度が高い場合、むしろ時間が経つにつれて生菌数が増加するという結果になった。故に少なくともう蝕原細菌(S.mutans)に対する殺菌(抗菌)作用をブレビス菌が有しており、ブレビス菌の濃度が高いほど、更によい殺菌作用を有することが分かった。
【0054】
[実施例5]う蝕原細菌(S.mutans)に対するブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種又は3種混合溶液の殺菌(抗菌)効果
ブレビス菌溶液に関して、培養開始6時間後及び24時間後の生菌数が共に50×10
6個以下であり、且つ培養開始24時間後に更に生菌数が減少した0.5%濃度ブレビス菌溶液をベースに、ブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種又は3種混合溶液のう蝕原細菌(S.mutans)に対する殺菌(抗菌)効果を検討した。試料としては、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみ、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度キトサン溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度キトサン溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度パパイア溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液+0.3%濃度キトサン溶液の3種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液+0.5%濃度キトサン溶液の3種混合液の計7種を使用した。各濃度のキトサン及びパパイア溶液は、実施例2で調製したものを使用する。なお、0.5%濃度ブレビス菌溶液、0.3又は0.5%濃度キトサン溶液、0.3又は0.5%濃度パパイア溶液についての量は、BHI液体培地30mLに対していずれも100μLとし、更に各試料(0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合は実施例4にて調製しているので割愛)に対し、100μLのう蝕原細菌溶液(実施例3にて調製)を加え、上記実施例4同様の培養条件で培養を行い、培養開始から6時間後と24時間後に各濃度の試料を採取して、生菌率とpH値測定を行った。この場合のpH値測定についてもまた、後述する。ここで言う「生菌率」とは、う蝕原細菌(S.mutans)の生菌率を言う。
【0055】
図2は、該7種の試料に関する生菌率(%)を示すグラフ、即ちう蝕原細菌(S.mutans)に対するブレビス菌と他成分(キトサン及び/又はパパイア)配合による抗菌効果を示すグラフである。ここで、生菌率においては、実施例4に示した生菌数測定の場合の条件と同様に、各濃度の試料を、PBS(リン酸緩衝液。pH7.5、ダルベッコ社製)を用いて、10倍階段希釈後、それぞれMitis salivalis(メティス・サルヴァリス)寒天培地に100μL塗抹し、37℃、4日間で嫌気培養後の発育コロニー数を算出することにより生菌数とし、各試料の生菌数について、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみを使用した場合の培養開始後6時間及び24時間後の生菌数を生菌率100%(
図2参照)として、それ以外の各試料について生菌率を算出した。ここで、
図2中で、例えば“ブレビス0.5(control)”とは、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合を意味し、“ブレビス0.5+キトサン0.3”とは、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度キトサン溶液の2種混合液の場合を意味し、これらの記載に倣って、これら以外の記載も同様の意味合いのものである。
【0056】
図2においては、キトサン溶液のみを添加した場合は、培養開始6時間後においては、キトサン溶液の濃度が低ければ(
図2“ブレビス0.5+キトサン0.3”参照)、生菌率が減少、即ち生菌数も低く、キトサン溶液の濃度が高いと生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて増加した。培養開始24時間後においては、いずれの濃度においても生菌率が50%以下であり、且つキトサン溶液の濃度が高いほど生菌率が減少した。更に各濃度のキトサン溶液における培養開始6時間後の生菌率よりも更に減少した。
【0057】
次に、パパイア溶液のみを添加した場合は、培養開始6時間後においては、パパイア溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて増加した。しかしながら、培養開始24時間後においては、いずれの濃度においても生菌率が50%以下であり、且つパパイア溶液の濃度が高いほど生菌率が減少した。更に各濃度のパパイア溶液における培養開始6時間後の生菌率よりも更に減少した。
【0058】
次に、ブレビス菌及びパパイア溶液の濃度を0.5%に固定し、キトサン溶液の濃度を変化させた場合、培養開始6時間後においては、キトサン溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて増加し、更にキトサン濃度が高い場合の生菌率が、該濃度が低い場合に比べて低い。培養開始24時間後においては、キトサン溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べてより減少し、更にキトサン濃度が高ければ、生菌率が逆に増加するという結果になった。
【0059】
[実施例6]う蝕原細菌(S.mutans)に対するブレビス菌のみ並びにブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種若しくは3種混合溶液による殺菌に伴うpH値の変化
実施例6にて調製した7種の試料について、生菌率(生菌数)測定と並行して、各試料のpH値の測定を行った。
【0060】
本実施例におけるpH値の測定は、各試料の培養開始6時間及び24時間後に、pH測定器(LAQUA,HORIBA製)により測定した。
図3に各試料についてのpH値の経時変化を示す。結果としては、各試料とも種類や濃度などに依存せず、培養開始時及び培養開始6時間後までは、ほぼ中性(pH7)を示し、培養開始24時間後にはpHが、約5(弱酸性)になった。このことから、生菌数が少なくなることで、pH値に変化が現れたと思われる。
【0061】
以上のことから、少なくともブレビス菌は、う蝕原細菌(S.mutans)に対する必須の抗菌構成要素であり、更には、本実施例の結果と実施例5の結果より、ブレビス菌にプラスして、キトサン及び/又はパパイアを添加すると、う蝕原細菌(S.mutans)に対するより良い殺菌効果を有することが見出された。
【0062】
[実施例7]歯周病原細菌(P.gingivalis)に対するブレビス菌、動物性乳酸菌の殺菌(抗菌)効果
実施例2で調製した各濃度(0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%)のブレビス菌溶液100μLに対し、それぞれの濃度のものに実施例3で調製した歯周病原細菌100μLを加え、ブレビス菌溶液各濃度の試料をそれぞれ30mLのBHI液体培地内にて、37℃で嫌気培養をした。そして、実験(培養)開始から、6時間後と24時間後に各濃度の試料を採取して、生菌率の算出及びpH値測定を行った。この場合のpH値測定については後述する。なお、ここで言う「生菌率」とは、歯周病原細菌(P.gingivalis)の生菌率を言う。
【0063】
また、実施例2で調製した各濃度(0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%)の動物性乳酸菌溶液100μLに対し、それぞれの濃度のものに実施例3で調製した歯周病原細菌100μLを加え、ブレビス菌溶液を使用したときと同様の条件で培養を行い、培養開始から6時間後と24時間後に動物性乳酸菌溶液各濃度の試料を採取して、生菌率の算出のみを行った。
【0064】
なお、生菌率の算出については、ブレビス菌溶液各濃度の試料及び動物性乳酸菌溶液各濃度の試料の場合共に、採取した各濃度の試料を、PBS(リン酸緩衝液。pH7.5、ダルベッコ社製)を用いて、10倍階段希釈後、それぞれBHI血液寒天培地に100μL塗抹し、37℃、4日間で嫌気培養後の発育コロニー数を算出することにより、生菌数を算出した。更に、対照として、ブレビス菌溶液及び動物性乳酸溶液未使用、即ち歯周病原細菌(P.gingivalis)のみ培養したものを濃度0、且つ培養開始6時間後及び24時間後それぞれの生菌数を、生菌率100%として、ブレビス菌溶液及び動物性乳酸溶液各濃度(0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、3%)の生菌率を算出した。
【0065】
ブレビス菌溶液を使用したときの生菌率について、
図4(a)に示す。まず、培養開始から6時間後においては、ブレビス菌溶液の濃度が0から0.1%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌率が減少したのに対し、該濃度が0.1〜0.5%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌率が増加し、該濃度が0.5%の時点で濃度0の場合と同じ生菌率100%となった。そして、該濃度が0.5%より高くなるにつれて、生菌率が減少し、該濃度が1%及び3%はほぼ生菌率が変わらなかった。
【0066】
一方、培養開始から24時間後においては、ブレビス菌溶液の濃度が、濃度0から0.3%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌率が増加(>100%)したが、該濃度が0.5%のときは濃度0と同じく生菌率が100%となった。そして、該濃度が1%のときに生菌率が増加し、該濃度が3%のときには減少したが、いずれの濃度のときも生菌率が100%以上であった。そして、更にブレビス菌の濃度が0.5%のときを除き、培養開始から時間が経つにつれて、生菌率が増加するという結果になった。
【0067】
また、動物性乳酸菌溶液を使用したときの生菌率について、
図4(b)に示す。培養開始から6時間後においては、ブレビス菌溶液の濃度が、0.05%のときに一旦生菌率が減少したが、該濃度が0.05から0.5%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌率が増加し、該濃度0.5%を境に減少した。
【0068】
一方、培養開始から24時間後においては、動物性乳酸菌溶液の濃度が濃度0から0.1%の間は、濃度が高くなるにつれて生菌率が増加したが、該濃度が0.3%のとき生菌率が一旦減少した。そして該濃度が0.5%のとき増加し、該濃度0.5%を境に、濃度が高くなるにつれて生菌率が減少した。
【0069】
以上のことから、ブレビス菌溶液及び動物性乳酸菌溶液をそれぞれ用いた場合、培養開始後6時間及び24時間後では、両方とも生菌率に変化があったが、菌がほとんど死滅するまでには至らなかった。しかしながら、この生菌率の変化により、歯周病原細菌(P.gingivalis)に対してもまた、ブレビス菌が少なくとも抗菌作用を有することが示唆されることとなった。
【0070】
[実施例8]歯周病原細菌(P.gingivalis)に対するブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種又は3種混合溶液の殺菌(抗菌)効果
ブレビス菌溶液に関して、培養開始6時間後及び24時間後の生菌率が共に100%であった0.5%濃度ブレビス菌溶液をベースに、歯周病原細菌(P.gingivalis)に対するブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種又は3種混合溶液の殺菌(抗菌)効果を検討した。試料としては、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみ、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度キトサン溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度キトサン溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度パパイア溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液の2種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液+0.3%濃度キトサン溶液の3種混合液、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.5%濃度パパイア溶液+0.5%濃度キトサン溶液の3種混合液の計7種を使用した。各濃度のキトサン及びパパイア溶液は、実施例2で調製したものを使用する。なお、0.5%濃度ブレビス菌溶液、0.3又は0.5%濃度キトサン溶液、0.3又は0.5%濃度パパイア溶液についての量は、BHI液体培地30mLに対していずれも100μLとし、更に各試料(0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合は実施例4にて調製しているので割愛)に対し、100μLの歯周病原細菌溶液(実施例3にて調製)を加え、上記実施例7同様の培養条件で培養を行い、培養開始から6時間後と24時間後に各濃度の試料を採取して、生菌率とpH値測定を行った。この場合のpH値測定についてもまた、後述する。なお、この場合における「生菌率」もまた、歯周病原細菌(P.gingivalis)の生菌率を言う。
【0071】
図5は、該7種の試料に関する生菌率(%)を示すグラフ、即ち歯周病原細菌(P.gingivalis)に対するブレビス菌と他成分(キトサン及び/又はパパイア)配合による抗菌効果を示すグラフである。ここで、生菌率においては、実施例7に示した生菌率の算出の場合の条件と同様に、各濃度の試料を、PBS(リン酸緩衝液。pH7.5、ダルベッコ社製)を用いて、10倍階段希釈後、それぞれBHI血液寒天培地に100μL塗抹し、37℃、4日間で嫌気培養後の発育コロニー数を算出することにより生菌数とし、各試料の生菌数について、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみを使用した場合の培養開始後6時間及び24時間後の生菌数を生菌率100%(
図5参照)として、それ以外の各試料について生菌率を算出した。ここで、
図5中で、例えば“ブレビス0.5(control)”とは、0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合を意味し、“ブレビス0.5+キトサン0.3”とは、0.5%濃度ブレビス菌溶液+0.3%濃度キトサン溶液の2種混合液の場合を意味し、これらの記載に倣って、これら以外の記載も同様の意味合いのものである。
【0072】
図5において、キトサン溶液のみを添加した場合、培養開始6時間後においては、キトサン溶液の濃度が0.3%及び0.5%のときは共に、生菌率は高いが、キトサン溶液濃度が高ければ、該濃度が低いときに比べて生菌率を抑えることが分かった。培養開始24時間後においては、キトサン溶液の濃度に依らず、生菌率が100%以下に減少し、各濃度のキトサン溶液における培養開始6時間後の生菌率よりも更に下がった。
【0073】
次に、パパイア溶液のみを添加した場合は、培養開始6時間後においては、パパイア溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて増加した。培養開始24時間後においては、パパイア溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて減少し、各濃度のパパイア溶液における培養開始6時間後の生菌率よりも更に下がった。
【0074】
次に、ブレビス菌及びパパイア溶液の濃度を0.5%に固定し、キトサン溶液の濃度を変化させた場合、培養開始6時間後においては、キトサン溶液の濃度が0.3%のときは、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べて減少したが、更にキトサン濃度が0.5%のときは、逆に増加している。培養開始24時間後においては、キトサン溶液の濃度に依らず、生菌率が0.5%濃度ブレビス菌溶液のみの場合と比べてより減少するという結果になった。
【0075】
[実施例9]歯周病原細菌(P.gingivalis)に対するブレビス菌のみ並びにブレビス菌、キトサン及びパパイアの2種若しくは3種混合溶液による抗菌に伴うpH値の変化
実施例8にて調製した7種の試料について、生菌率測定と並行して、各試料のpH値の測定を行った。
【0076】
本実施例におけるpH値の測定は、実施例6と同様の条件及び方法により測定した。
図6に各試料についてのpH値の経時変化を示す。結果としては、各試料とも種類や濃度などに依存せず、培養開始時及び培養開始6時間後までは、ほぼ中性(pH7)を示し、培養開始24時間後にはpHが約6.8(弱酸性)となった。このことから、pH値が弱酸性領域になったことで、生菌数(生菌率)の変化(減少)と何かしらの関連性があるものと思われる。
【0077】
以上のことから、ブレビス菌は、う蝕原細菌(S.mutans)に対する殺菌(抗菌)活性ほど強くはないものの、歯周病原細菌(P.gingivalis)に対してもまた少なからず抗菌作用を示すことが分かった。更には、本実施例の結果と実施例8の結果より、ブレビス菌にプラスして、キトサン及び/又はパパイアを添加すると、歯周病原細菌(P.gingivalis)に対してもより良い抗菌効果を有することが見出された。
【0078】
[実施例10]口腔用組成物の作製
上記実施例4乃至9の知見を基に、ブレビス菌(ラクトバチルス・ブレビス菌(菌株
FERM BP−4693))、キトサン及びパパイア(エキスタイプ)に加え、種々の添加剤を加えて口腔用組成物を作成した。配合量については、次の表1に示すとおり、当該口腔用組成物の全量を100(重量%)としたときの割合である。なお、表1中では便宜上成分番号を付しているが、撹拌順などは適宜変更可能である。
【0079】
【表1】
【0080】
ここで、製品に近い状態の当該口腔用組成物について、上記実施例4乃至9を参考にして、う蝕原細菌(S.mutans)及び歯周病原細菌(P.gingivalis)に対する抗菌(殺菌)活性を検討したところ、詳細条件や再現性等の検討の余地は未だにあるものの、製品に近い状態の前記組成物でもこれらの細菌に対して何らかの活性があることが分かった。
【0081】
以上、本発明に係る口腔用組成物について、実施例を種々記載したが、この限りではなく、特許請求の範囲、上記実施形態に記載されている範囲を逸脱しなければ、種々の実施例が可能である。