(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352010
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】列車接近警報システムおよび携帯端末
(51)【国際特許分類】
B61L 23/06 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
B61L23/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-53579(P2014-53579)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-174583(P2015-174583A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薗部 正和
(72)【発明者】
【氏名】国藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】林 貴文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦
【審査官】
大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−81092(JP,A)
【文献】
特開2009−208528(JP,A)
【文献】
特開2012−52936(JP,A)
【文献】
特開2009−274637(JP,A)
【文献】
特開2005−117516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00−23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道路線の拠点に配置され当該拠点の近傍に延設されている線路毎に所定区間に列車が存在するか否か監視する複数の列車運行管理装置と、線路に沿って延設され前記複数の列車運行管理装置が有する列車運行情報を信号として伝送する伝送路と、線路に沿って任意の間隔で設置され前記伝送路により伝送されて来る情報信号を無線信号に変換して送信する複数の送信装置と、前記送信装置からの無線信号を受けて列車が接近しているか否か判断して警報を発生可能な携帯端末とを備えた列車接近警報システムであって、
線路の外側であって線路もしくは作業通路に沿って、線路を記述した地図上での位置情報が固有情報として記録されている複数の道標が設けられ、
前記携帯端末は、
作業員が認識可能な警報を発生可能な警報出力手段と、
前記送信装置によって送信された無線信号を受信可能な無線信号受信手段と、
前記道標に記録されている固有情報を読み取り可能な読取手段と、
を備え、
前記読取手段によって読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の前記地図上での自己位置を認識し、
前記無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して前記警報出力手段を駆動して警報を発生可能鉄道路線の拠点に配置され当該拠点の近傍に延設されている線路毎に所定区間に列車が存在するか否か監視する複数の列車運行管理装置と、線路に沿って延設され前記複数の列車運行管理装置が有する列車運行情報を信号として伝送する伝送路と、線路に沿って任意の間隔で設置され前記伝送路により伝送されて来る情報信号を無線信号に変換して送信する複数の送信装置と、前記送信装置からの無線信号を受けて列車が接近しているか否か判断して警報を発生可能な携帯端末とを備えた列車接近警報システムであって、
線路もしくは作業通路に沿って、線路を記述した地図上での位置情報が固有情報として記録されている複数の道標が設けられ、
前記携帯端末は、
作業員が認識可能な警報を発生可能な警報出力手段と、
前記送信装置によって送信された無線信号を受信可能な無線信号受信手段と、
前記道標に記録されている固有情報を読み取り可能な読取手段と、
を備え、
前記読取手段によって読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の前記地図上での自己位置を認識し、
前記無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して前記警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成されていることを特徴とする列車接近警報システム。
【請求項2】
前記携帯端末は、
当該携帯端末の移動を検出するための移動検出手段と、
前記移動検出手段からの信号に基づいて移動距離を算出する移動距離算出手段と、を備え、
前記移動距離算出手段によって算出された移動距離を用いて、前記固有情報に基づいて認識した自己位置を補正し、補正後の自己位置の近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の列車接近警報システム。
【請求項3】
線路沿線のいずれかの地点に前記地図上での位置情報が固有情報として記録されている基準となる道標が設けられ、線路もしくは作業通路に沿って任意の間隔で、前記地図上の前記基準となる道標の設置地点からの相対位置情報が記録されている複数の道標が設けられ、
前記携帯端末は、前記複数の道標に記録されている情報に基づいて自己位置を校正可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の列車接近警報システム。
【請求項4】
鉄道路線の拠点に配置され当該拠点の近傍に延設されている線路毎に所定区間に列車が存在するか否か監視する複数の列車運行管理装置と、線路に沿って延設され前記複数の列車運行管理装置が有する列車運行情報を信号として伝送する伝送路と、線路に沿って任意の間隔で設置され前記伝送路により伝送されて来る情報信号を無線信号に変換して送信する複数の送信装置と、線路の外側であって線路もしくは作業通路に沿って設置され線路を記述した地図上での位置情報が固有情報として記録されている複数の道標と、を備えた列車接近警報システムに用いられる携帯端末であって、
作業員が認識可能な警報を発生可能な警報出力手段と、
前記送信装置によって送信された無線信号を受信可能な無線信号受信手段と、
前記道標に記録されている固有情報を読み取り可能な固有情報を読取手段と、
を備え、
前記読取手段によって読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の前記地図上での自己位置を認識し、
前記無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して前記警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成されていることを特徴とする携帯端末。
【請求項5】
当該携帯端末の移動を検出するための移動検出手段と、
前記移動検出手段からの信号に基づいて移動距離を算出する移動距離算出手段と、を備え、
前記移動距離算出手段によって算出された移動距離を用いて、前記固有情報に基づいて認識した自己位置を補正し、補正後の自己位置の近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成されていることを特徴とする請求項4に記載の携帯端末。
【請求項6】
前記移動検出手段は加速度を検出する加速度センサーであり、少なくとも水平平面内の直交2軸方向の加速度をそれぞれ検知する第1加速度センサーおよび第2加速度センサーを備えることを特徴とする請求項5に記載の携帯端末。
【請求項7】
前記道標はパッシブ型のRFタグであり、前記読取手段はRFタグに電波もしくは磁界を印加して情報を読み取るRFタグリーダであることを特徴とする請求項6に記載の携帯端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道線路内での保守等の作業を行う作業員に対して列車接近の警報を行う列車接近警報システムおよびそれに用いられる携帯端末に利用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車の運行時間帯において鉄道線路の保守等の作業を行う場合、接触事故を防止するため、列車が接近して来た際に、鉄道線路内や鉄道線路に近接した位置で作業を行っている作業員に対して、列車の接近を知らせる必要がある。従来は、作業現場に列車見張り員を立てて列車の接近を監視し、列車が接近して来たことを作業員に知らせ、退避動作を行わせて列車との接触事故を防止するようにしていた。ところが、列車見張り員を立てる方法は、人間の目視による監視であるため、見張り員の失念などにより、列車接近の報知が遅れるおそれがある。
【0003】
そこで、例えば列車線路の予め設定された区間毎の境界付近に設けられた制御局と、該制御局に沿線電話回線により接続されて制御局との間で送信局情報を送受信するとともに、受け取った送信局情報の中に列車接近情報を検出した場合に警報信号を無線で発信する送信局と、送信局に接続されて列車の接近を検出する軌道回路と、送信局から受信した警報信号を基に警報を発する無線受信機とを備えるようにした列車接近警報システムが開発されている(特許文献1)。
【0004】
また、列車の運行状況を制御するCTC(中央列車制御装置)から列車の位置情報を抽出する列車位置抽出装置と、該列車位置抽出装置からの列車の位置情報と、GPS機能を有する携帯端末からの作業員位置情報とに基づいて列車接近の有無を判断する列車接近警報装置とを有し、列車接近警報装置は、一閉塞区間内を複数に細分化した区間に作業員の位置情報を割り当て、該作業員の居る細分化した区間に対する列車の位置情報が所定の範囲内になったときに作業員の携帯端末へ列車接近の警報を発信するようにしたものがある(特許文献2)。
さらに、予め作業区間の路線や位置などの作業区間情報を携帯受信機に登録しておいて、車両に搭載されている車載用送受信装置より当該車両の位置や速度などと路線情報とから車両状態情報を作成し、この車両状態情報を作業員が保持する携帯受信機に送信して、携帯受信機は受信した車両状態情報と登録された作業区間情報とに基づいて警報の要否を判定するようにした鉄道用警報発生システムに関する発明も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−104346号公報
【特許文献2】特許第4232015号公報
【特許文献3】特開2012-210868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている列車接近警報システムにおいては、作業員の位置を把握することはしていないため、複数の線区が並行して設けられている区間(多線区)では、いずれかの線区で列車の接近を検出すると、送信局から警報信号を無線受信機へ送信して警報を発することとなる。その結果、実際に列車が接近している線区とは別の線区の線路で作業している作業員が保有する無線受信機も警報を発してしまう。そのため、首都圏のような列車本数が多い多線区に上記システムを適用した場合には、頻繁に警報が発せられて作業が中断されてしまい、作業能率が著しく低下するという課題がある。
【0007】
一方、特許文献2の発明は、携帯端末が備えるGPS機能で作業員の位置を把握し、該作業員位置情報とCTC(中央列車制御装置)からの列車位置情報とに基づいて列車接近の有無を判断し、作業員の携帯端末へ列車接近の警報を発信するようにしている。従って、一層実際の状況に即した列車接近警報を実行することができる可能性がある。
しかし、特許文献2の発明はGPS衛星からの電波を受信できないトンネル内の保守作業には適用できない。また、現在のGPS機能では、作業員の位置を10数mの誤差範囲内でしか把握することができない。そのため、隣接する線区同士が数mしか離れていないような多線区の作業に対して特許文献2の発明を適用したとしても、不所望の状況で警報が発せられて作業が中断されてしまうのを回避することができないという課題がある。
【0008】
さらに、特許文献3に開示されている鉄道用警報発生システムは、予め作業員が決められた作業区間情報を入力する必要があるため、操作ミス等による人的エラーが発生するおそれがあるとともに、GPSを搭載した車両(列車または保守用車等)に限定されるため、作業区間がトンネル等GPS電波の届きにくい場所の近傍である場合には正確な警報発生が行えないという課題がある。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、作業員の位置をより正確に把握して作業中の線路もしくは隣接する線路において列車が接近する場合にのみ警報を発することができる列車接近警報システムおよび携帯端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本出願に係る発明は、
鉄道路線の拠点に配置され当該拠点の近傍に延設されている線路毎に所定区間に列車が存在するか否か監視する複数の列車運行管理装置と、線路に沿って延設され前記複数の列車運行管理装置が有する列車運行情報を信号として伝送する伝送路と、線路に沿って任意の間隔で設置され前記伝送路により伝送されて来る情報信号を無線信号に変換して送信する複数の送信装置と、前記送信装置からの無線信号を受けて列車が接近しているか否か判断して警報を発生可能な携帯端末とを備えた列車接近警報システムであって、
線路の外側であって線路もしくは作業通路に沿って、線路を記述した地図上での位置情報が固有情報として記録されている複数の道標が設けられ、
前記携帯端末は、
作業員が認識可能な警報を発生可能な警報出力手段と、
前記送信装置によって送信された無線信号を受信可能な無線信号受信手段と、
前記道標に記録されている固有情報を読み取り可能な読取手段と、
を備え、
前記読取手段によって読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の前記地図上での自己位置を認識し、
前記無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して前記警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成した。
【0010】
また、本出願に係る第2の発明は、
鉄道路線の拠点に配置され当該拠点の近傍に延設されている線路毎に所定区間に列車が存在するか否か監視する複数の列車運行管理装置と、線路に沿って延設され前記複数の列車運行管理装置が有する列車運行情報を信号として伝送する伝送路と、線路に沿って任意の間隔で設置され前記伝送路により伝送されて来る情報信号を無線信号に変換して送信する複数の送信装置と、
線路の外側であって線路もしくは作業通路に沿って設置され線路を記述した地図上での位置情報が固有情報として記録されている複数の道標と、を備えた列車接近警報システムに用いられる携帯端末であって、
作業員が認識可能な警報を発生可能な警報出力手段と、
前記送信装置によって送信された無線信号を受信可能な無線信号受信手段と、
前記道標に記録されている固有情報を読み取り可能な固有情報を読取手段と、
を備え、
前記読取手段によって読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の前記地図上での自己位置を認識し、
前記無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して前記警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成した。
【0011】
上記のような発明によれば、携帯端末は、読取手段によって道標(RFIDタグ)から読み取られた固有情報に基づいて当該携帯端末の地図上での自己位置を認識し、無線信号受信手段が受信した列車運行情報信号に基づいて当該携帯端末の位置近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して警報を発生可能であるので、GPS機能によって自己位置を認識し列車の接近を判断して警報を発する方式に比べて自己位置の認識精度が高くなり、多線区の作業において頻繁に警報が発せられて作業が中断されてしまい作業効率が低下するのを回避することができる。
【0012】
ここで、望ましくは、前記携帯端末は、当該携帯端末の移動を検出するための移動検出手段と、前記移動検出手段からの信号に基づいて移動距離を算出する移動距離算出手段と、を備え、
前記移動距離算出手段によって算出された移動距離
を用いて、前記固有情報に基づいて認識した自己位置を補正し、補正後の自己位置の近傍の線路に関する列車運行情報を抽出し、該情報に基づいて所定の距離内に接近している列車の有無を判定して警報出力手段を駆動して警報を発生可能に構成する。
かかる構成によれば、携帯端末は、移動距離算出手段によって算出された移動距離を用いて、固有情報に基づいて認識した自己位置を補正し、接近している列車の有無を判定して警報を発生するので、道標の設置間隔が大きくても正確な判定を行うことができ、線区内に設置する道標の数を減らしトータルのコスト上昇を抑えることができる。
【0013】
また、望ましくは、線路沿線のいずれかの地点に前記地図上での位置情報が固有情報として記録されている基準となる道標が設けられ、線路もしくは作業通路に沿って任意の間隔で、前記地図上の前記基準となる道標の設置地点からの相対位置情報が記録されている複数の道標が設けられ、前記携帯端末は、前記複数の道標に記録されている情報に基づいて自己位置を校正可能に構成する。
かかる構成によれば、線路もしくは作業通路に沿って基準地点からの相対位置情報が記録されている道標を設置しておくだけで、携帯端末は認識している自己位置を補正することができるので、道標に記録しておく情報量を減らしコスト上昇を抑えることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記移動検出手段は加速度を検出する加速度センサーであり、少なくとも水平平面内の直交2軸方向の加速度をそれぞれ検知する第1加速度センサーおよび第2加速度センサーを備えるように構成する。移動検出手段として加速度センサーを使用することで、センサーからの信号を2回積分するだけで容易に移動量を算出することができる。
また、望ましくは、前記道標はパッシブ型のRFタグで構成し、前記読取手段はRFタグに電波もしくは磁界を印加して情報を読み取るRFタグリーダとする。
このような構成とすることにより、タグ側の電池を不要とすることができ、それによってメンテナンスが不要となってトータルコトスの上昇を抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業員の位置をより正確に把握して作業中の線路もしくは隣接する線路において列車が接近する場合にのみ警報を発することができる列車接近警報システムおよび携帯端末を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る列車接近警報システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】実施形態の列車接近警報システムに使用される携帯端末の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態の列車接近警報システムを多線区における保守作業に適用する場合の構成例を示す図である。
【
図4】実施形態の列車接近警報システムを構成する携帯端末のCPUによって実行される端末位置認識処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】携帯端末のCPUによって実行される列車接近警報処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態の列車接近警報システムに使用される携帯端末の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る列車接近警報システムの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の列車接近警報システムの概略構成を示すものである。
図1に示すように、本実施形態の列車接近警報システムにおいては、鉄道用線路10に沿って、線路10を走行する列車11の在線位置情報等を伝送するための伝送路20が配設され、該伝送路20には、所定の距離(例えば500m)をおいて伝送路20を介して送られて来る情報を、作業員が保有する携帯端末30へ無線で送信する送信装置21が接続されている。
【0018】
なお、送信装置21から携帯端末30への無線通信の方式としては、例えばIEEE 802.11規格に従ったWiFi等の無線LANや、IEEE.802.15.4規格(ZigBee通信規格)に従った中距離無線通信などを適用することができる。送信装置21を配置する間隔は、500mに限定されず送信装置の能力に応じてもっと長い距離としても良いし、線路がカーブし途中に通信を阻害する建造物等がある場所では、250mやそれ以下の距離としても良い。
【0019】
また、本実施形態の列車接近警報システムにおいては、運行ダイヤに基づいてポイントや信号機の制御を自動で行なったり軌道回路からの信号に基づいて当該駅近傍の列車の位置を把握するなど、列車の運行情報を管理する自律分散型列車運行管理システム(ATOS)を構成するATOS駅装置40と、該ATOS駅装置40に接続されATOS駅装置40から受け取った列車の在線位置情報等を上記伝送路20へ送信する機能を有する列車接近警報制御装置(以下、列警駅装置と称する)41が、路線沿線の拠点としての各駅ごとに設けられている。なお、軌道回路は数100mの長さの線路上に列車が存在するか否かを検出することができるので、列車接近警報の範囲の境界が1kmであれば、軌道回路からの信号に基づいて列車の接近を検出し警報を発生するシステムを構築することができる。
【0020】
さらに、各列警駅装置41は光通信網42を介して他の列警駅装置や図示しないATOS中央装置とデータ通信可能に接続され、当該駅近傍の列車の位置のみならず離れた駅の近傍(他線区)の列車位置(線別を含む)を把握する機能を有するように構成されている。なお、本実施形態では、1つの軌道回路によって監視される線路の範囲を線区と称する。光通信網42の代わりにインターネットを介して情報を共有するように構成しても良い。
一方、作業員が保有する携帯端末30は、後に詳しく説明するように、自己の位置を認識する機能と、上記送信装置21から無線で送信される情報を受信する機能と、受信した情報から自己位置情報に基づいて作業員が居る地点近傍の線路上の列車の在線位置情報を抽出する機能と、抽出した情報に基づいて列車が所定距離(例えば1km)以内に近づいているか否か判断し警報を発する機能、自己位置情報を校正する機能等を有している。
送信装置21から無線で送信する情報としては、例えば列車が接近している線区を示すコード、どの駅とどの駅との間であるかを示すコード、位置情報を取得した軌道回路を示す識別コード、通番(送信ID)、誤り訂正符号等が考えられる。単線区間の場合には列車の走行方向が上り方向か下り方向かを示すコードを含ませても良い。
【0021】
図2は、本実施形態の列車接近警報システムに使用される携帯端末30の概略構成を示す。
図2に示すように、本実施形態における携帯端末30は、WiFiやZigBee通信等の中距離無線通信機能を有し送信装置21から無線で送信される情報を受信する受信回路31と、コイル状のアンテナ32aを駆動して外部のRFIDタグ50に記録されている情報を読み取る外部情報読取回路(タグリーダ)32と、LCD(液晶パネル)などからなる表示部33と、タッチパネルなどからなる入力操作部34と、音声を発生するスピーカ35を備えている。本実施形態で用いられるRFIDタグ50は、パッシブ型のRFタグである。パッシブ型のRFタグを使用することで、電池を不要とすることができ、それによってメンテナンスが不要となってトータルコトスの上昇を抑えることができる。
【0022】
また、携帯端末30は、内部回路を制御したり上記受信回路31により受信した情報や外部情報読取回路32によりRFIDタグ50から読み取った情報等を処理したりするCPU(マイクロプロセッサ)36と、データを不揮発的に記憶可能なROM(リードオンリメモリ)37と、データを一時的に記憶可能なRAM(ランダムアクセスメモリ)38を備える。
さらに、本実施形態における携帯端末30は、当該端末の移動およびその方向を検知するために、水平平面内の直交2軸(X,Y軸)方向の加速度を検知する第1加速度センサー39Aおよび第2加速度センサー39Bと、垂直方向(Z軸)の加速度を検知する第3加速度センサー39Cとを備えている。
【0023】
上記携帯端末30とRFIDタグ50との間の通信方式としては、例えば13.56MHz帯の信号を使用するFeliCa(登録商標)方式を利用することができる。上記ROM37には、CPU36が実行する動作プログラムの他、線路を記述した地図情報が格納されており、上記動作プログラムには、加速度センサー39A〜39Cからの入力信号に基づいて移動距離を算出する移動距離算出ルーチンが含まれている。
なお、加速度センサーには多くの種類があり、加速度の検出方式によって大別される。一般的に約20G以下の測定範囲を持つ加速度センサーを低G加速度センサー、それ以上の測定範囲を持つものを高G加速度センサーと呼ばれる。低G加速度センサーは重力・傾きの検知や人の動きの検知に適しており、高G加速度センサーは主に衝撃の検知に使われる。従って、本実施形態では、低G加速度センサーが使用される。
【0024】
端末装置の移動時に発生する加速度は、時間で1回積分することにより速度、更にもう1回積分することにより移動距離になる。この加速度センサーを3軸方向に設置し、その出力を時間で2回積分することで移動距離が算出できる。ただし、加速度センサーを用いた移動距離の算出値には、数パーセントの誤差が生じるおそれがある。そこで、本実施形態の列車接近警報システムにおいては、携帯端末30に端末自身の位置情報を校正する機能を持たせるとともに、それを支援するために線路に沿ってRFIDタグ50を配設することとした。
【0025】
また、本実施形態のシステムにおいては、RFIDタグ50は、例えば
図3に示すように、線路の入口(保線作業員詰所から線路敷地内への出入口等)に基準となるタグ50Aが設置され、当該基準タグから線路に沿って所定間隔(例えば10m間隔)で位置校正用のタグ50Bが設置される。なお、線区内には、予め作業員が移動するための保守通路が設けられている場合があるので、その場合には保守通路に沿って所定間隔で位置校正用のタグ50Bを設置するようにしても良い。基準となるRFIDタグ50Aには、当該タグが設置されている地点の上記地図上での位置情報(例えば、緯度および経度)が記録されている。位置校正用のタグ50Bに記録される情報は、タグが設置されている地点の地図上での位置情報でも良いし、基準タグ50Aからの相対的な位置情報であっても良い。
【0026】
次に本実施形態の列車接近警報システムの利用方法について説明する。
作業員が作業現場へ向かう際には、上記機能を有する携帯端末30を携帯して、線路の入口に設置されている基準RFIDタグ50Aにタッチする。すると、携帯端末30によって基準RFIDタグ50Aに記録されている位置情報が始点位置情報として記憶される。続いて、作業員は作業現場へ向かって移動することとなるが、その移動中、携帯端末30内部では加速度センサーからの信号に基づいて移動距離(移動方向を含む)の算出が刻々と実行され、現在位置情報が更新される。
【0027】
また、線路沿線もしくは保守通路に沿って校正用のRFIDタグ50Bが設けられているので、作業員は校正用のRFIDタグ50Bが設置されている地点に来ると、その都度、携帯端末30を校正用のRFIDタグ50Bにかざす。すると、携帯端末30によって校正用のRFIDタグ50Bに記録されている情報が読み取られ、読み取った情報に基づいて位置情報が校正される。これにより、加速度センサーからの信号に基づく移動距離の算出値の誤差が修正される。
そして、作業現場に来ると(移動中を含む)、携帯端末30は、線路沿線の送信装置21を介して列警駅装置41から送信されて来る列車の位置情報の中から、作業員が居る位置に在る線路およびその両側の線路(例えば隣接線±1線以内の線路)を走行する列車の位置情報を抽出し、所定の距離(例えば1km)以内に近づいている列車があると判断すると警報を発生することとなる。
【0028】
次に、上記のような機能を実現する携帯端末30内のCPU36によって実行される処理の手順について説明する。なお、携帯端末30内のCPU36は様々な処理を実行するが、ここではそのうち本発明にとって重要な端末位置認識処理および列車接近警報処理について説明する。なお、これらの処理とは別個に、携帯端末30は受信回路31によって、線路沿線の送信装置21から送信されて来る列車在線位置情報を常時受信してRAM38内に記憶する処理を行う。
【0029】
図4には、携帯端末30のCPU36によって実行される端末位置認識処理の手順の一例が示されている。また、
図5には、列車接近警報処理の手順の一例が示されている。
このうち、端末位置認識処理は、タイマ割込みにより所定周期で実行させ、列車接近警報処理はループ処理で繰返し実行するように、構成することができる。
【0030】
図4の端末位置認識処理が開始されると、CPU36は先ず外部情報読取回路(タグリーダ)32を駆動する(ステップS1)。そして、RFIDタグからの応答があったか否か判定し(ステップS2)、RFIDタグからの応答がないときはそのまま処理を終了し、RFIDタグからの応答があった場合には、当該RFIDタグが基準となるRFIDタグ50Aであるか否か判定する(ステップS3)。
【0031】
ここで、基準RFIDタグ50Aである(Yes)と判定すると、ステップS4へ進み、基準RFIDタグ50Aから記録されている位置情報を読み取り、読み取った位置情報を携帯端末の位置情報としてRAM38へ記憶する(ステップS6)。一方、ステップS3で、応答タグは基準RFIDタグ50Aでない(No:校正用タグ)と判定すると、ステップS5へ移行して、校正用RFIDタグ50Bから記録されている情報を読み取って該情報に基づいて携帯端末の位置情報を校正し、校正した位置情報をRAM38へ記憶する(ステップS6)。
【0032】
その後、ステップS7へ進み、加速度センサー39A〜39Cからの信号を読み込んで、2回積分を行うことで移動距離(方向を含む)を算出する(ステップS8)。そして、算出された移動距離を、ステップS6でRAMに記憶した位置情報に加算することで、携帯端末の現在位置を決定し(ステップS9)、その新位置情報をRAM38へ記憶して処理を終了する(ステップS10)。
【0033】
図5の列車接近警報処理が開始されると、CPU36は先ず列車の接近を監視するか否か判定する(ステップS11)。この判定は、例えば基準タグからの位置情報の読み込みがなされているか否かを判断するによって行うことができる。そして、列車の接近を監視する(Yes)と判定すると、ステップS12へ進み、ROM37に格納されている線路地図を読み込む。(ステップS11)。次に、RAM38から携帯端末の位置情報を読み込んで(ステップS13)、線路地図上における携帯端末の現在位置を認識する(ステップS14)。その後、線路地図情報に基づいて端末の現在位置の近傍の線路を検出し、その線路をRAM38へ記憶する(ステップS15)。
【0034】
その後、線路沿線の送信装置21から受信しRAM38に記憶した列車在線位置情報の中から、ステップS15で検出した線路に関する列車在線位置情報を抽出する(ステップS16)。そして、当該線路において現在位置から所定距離(例えば1km)以内に列車が存在するか否か判定する(ステップS17)。ここで、列車が存在する(Yes)と判定すると、ステップS18へ進み、スピーカ35を駆動して警報を発生した後、ステップS13へ戻って上記処理を繰り返す。
【0035】
一方、ステップS17で、所定距離内に列車が存在しない(No)と判定すると、ステップS19へ移行して、スピーカ35による警報の発生をしないで、ステップS13へ戻る。
上記のような処理を実行することで、作業員が居る位置から離れた線路において列車が接近したような、安全性に問題のない場合における警報の発生を回避しつつ、作業員の近傍の線路において列車が接近した際には警報を発生させて、作業員の安全を確保することができるようになる。
なお、
図5のフローチャートには示されていないが、ステップS18で発生した警報は、その後に取得した列車在線位置情報に基づいて当該列車が作業員の居る位置を通過したと判定した時点で、他の列車が所定距離以内に接近して来ていないことを条件に速やかに停止させるように構成することができる。
【0036】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の3つの加速度センサー39A〜39Cを携帯端末30に設けるように構成したものを説明したが、簡易的にはX軸,Y軸の2軸方向の2つの加速度センサー39A,39Bのみを設けるように構成してもよい。
【0037】
また、移動距離算出の精度を高めるために、
図6に示すように、端末装置の移動中の姿勢を計測する角速度センサー60A,60B,60Cを3軸方向に設置する。そして、これらの角速度センサーより出力される角速度を時間で1回積分することで姿勢角(傾き)を算出して、この姿勢角により、加速度センサーからの信号を水平・垂直成分へ座標変換することで、より精度の高い移動距離の算出が行えるようにしてもよい。さらに、加速度センサーとジャイロセンサとを組み合せて移動距離を算出するように構成してもよい。
【0038】
また、前記実施形態においては、線路入口や線路沿線もしくは保守通路に沿って位置情報を与えるためのRFIDタグが設けたシステムを説明したが、RFIDタグの代わりにバーコードやQRコード(登録商標)に代表される二次元コードを付記したパネル等を設置し、携帯端末30にはバーコードリーダやカメラ機能を搭載するように構成してもよい。
【0039】
さらに、前記実施形態においては、単純に列車が所定距離(1km)内に接近して来た場合に警報を発生するとしたが、ATOS駅装置から送信される列車運行情報には信号機の制御情報が含まれているので、列車が所定距離内に接近しかつ当該線路の信号機が青信号であるか否かを携帯端末側において判断して、青信号である場合に警報を発生するようにしても良い。所定距離(1km)内に接近している列車が作業地点までの間で折り返す列車であることが、ATOS駅装置から送信される列車運行情報から判断できれば、そのような列車に関しては警報を発生しないようにすることも可能である。また、列車の接近距離に応じて発生する音(周波数)を変えたり、作業者が居る線路と隣接する線路とで検出する発生する音を変えたりするようにしても良い。
【0040】
さらに、前記実施形態においては、移動距離を算出可能にするための加速度センサーを携帯端末30に設けたものについて説明したが、加速度センサーを省略して、多線区内に比較的短い距離をおいて多数のRFIDタグを2次元的に設置しておいて、作業開始の際に最も近くに設置されているRFIDタグの位置情報を携帯端末30によって読み取って自己の位置を認識するように構成することも可能である。
また、前記実施形態においては、駅等の拠点に配設されている軌道回路からの信号に基づいて列車の位置を把握するようにしたシステムについて説明したが、列車にGSP装置および無線通信装置を搭載するとともに、ATOS駅装置40または列警駅装置41に列車の無線通信装置と通信可能な通信機能を設け、GPS機能を使用して列車の位置を把握するようにしたシステムにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 線路
11 列車
20 伝送路
21 送信装置
30 携帯端末
31 受信回路
32 外部情報読取回路(タグリーダ)
33 表示部
34 入力操作部
35 スピーカ
39A,39B,39C 加速度センサー
40 ATOS駅装置(列車運行管理装置)
41 列車接近警報制御装置(列警駅装置)
50 RFIDタグ