(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
入力軸から出力軸に回転が伝達する状態と、その回転の伝達を遮断する状態とを切り換えるために用いられる回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転伝達装置は、両端が開放した筒状のハウジングと、ハウジングに一端が収容された入力軸と、入力軸と同軸上に並んで配置された出力軸と、入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、出力軸のハウジング内への収容部分に内輪を囲むように設けられた外輪と、外輪の内周の円筒面と内輪の外周のカム面との間に組み込まれた一対のローラと、その一対のローラを保持するローラ保持器とを有する。
【0004】
ローラ保持器は、相対回転可能に支持された2個の分割保持器からなる。この2個の分割保持器は、前記一対のローラを外輪の内周の円筒面と内輪の外周のカム面との間に係合させる係合位置と、その各ローラの係合を解除させる係合解除位置との間で移動可能となっている。
【0005】
また、この回転伝達装置は、2個の分割保持器を移動させる駆動源として電磁石を有する。この電磁石は、回転伝達装置のハウジングの入力軸側の端部に組み付けられている。
【0006】
さらに、この回転伝達装置は、入力軸と出力軸を回転可能に支持する軸受として、電磁石と入力軸の間に組み込まれた第1の軸受と、ハウジングの出力軸側の端部と出力軸の間に組み込まれた第2の軸受と、内輪と外輪の間に組み込まれた第3の軸受とを有する。ここで、第1の軸受、第2の軸受、第3の軸受は、いずれも単列の深溝玉軸受である。
【0007】
上記の回転伝達装置は、例えば、ステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置に使用される。ステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵角を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて左右の車輪を転舵する車両用操舵装置である。このステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置において、上記回転伝達装置は、ステアリングホイールと、左右の車輪の転舵角を変化させる転舵アクチュエータとの間の回転伝達経路の途中に組み込まれる。この回転伝達装置は、正常時はステアリングホイールと転舵アクチュエータの間での回転の伝達を遮断し、電源喪失時などの異常時は、ステアリングホイールと転舵アクチュエータの間で回転を伝達するバックアップクラッチとして機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の回転伝達装置の組み付けに際しては、入力軸を軸継手でステアリングホイール側のシャフトに接続するとともに、出力軸を軸継手で転舵アクチュエータ側のシャフトに接続し、さらに、ハウジングの外周に設けられたフランジを車体の一部(例えばダッシュボードとエンジンルームの間の隔壁)にボルト等で固定していた。そのため、上記の回転伝達装置を採用する場合、ハウジングの外周のフランジを車体の一部に固定できるように、車体を設計する必要があった。
【0010】
この発明の発明者は、ハウジングの外周のフランジを無くすことができないかを検討した。すなわち、従来のようなフランジによるハウジングの固定を廃止し、入力軸と出力軸をそれぞれステアリングホイール側のシャフト、転舵アクチュエータ側のシャフトに接続するだけで回転伝達装置を支持することができないかを検討した。フランジによるハウジングの固定を廃止することができれば、回転伝達装置をもたない既存のシャフトを、回転伝達装置をもつシャフトにそのまま置き換えることが可能となり、設計の自由度が高くなる。
【0011】
しかしながら、フランジによるハウジングの固定を廃止した場合、次のような問題が生じることが分かった。
【0012】
すなわち、フランジによるハウジングの固定を廃止した場合、回転伝達装置は、入力軸に接続されたステアリングホイール側のシャフトと、出力軸に接続された転舵アクチュエータ側のシャフトとで支持することになる。このとき、入力軸と出力軸は、電磁石と入力軸の間に組み込まれた第1の軸受と、ハウジングの出力軸側の端部と出力軸の間に組み込まれた第2の軸受と、内輪と外輪の間に組み込まれた第3の軸受の3点のみで支持されているので、入力軸と出力軸の間に軸線の傾き(ミスアライメント)が生じやすくなる。そして、入力軸と出力軸の間に軸線の傾きが生じると、入力軸に設けられた内輪と、出力軸に設けられた外輪の相対位置にずれが生じるため、内輪と外輪の間に組み込まれたローラの作動が不安定となる問題(例えば、ローラの係合を解除することができなくなったり、ローラがミス係合したりする問題)があった。
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、フランジによるハウジングの固定が不要であり、かつ、内輪と外輪の間の係合子が安定して作動する回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明においては、以下の構成を回転伝達装置に採用した。
両端が開放した筒状のハウジングと、
前記ハウジングに一端が収容された入力軸と、
前記入力軸と同軸上に並んで配置され、前記ハウジングに一端が収容された出力軸と、
前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記出力軸のハウジング内への収容部分に前記内輪を囲むように設けられた外輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に組み込まれた係合子と、
前記係合子を前記外輪と前記内輪の間に係合させる係合位置と、前記係合子の係合を解除させる係合解除位置との間で移動可能に支持された係合子保持器と、
前記係合子保持器を移動させる駆動源として前記ハウジングの入力軸側の端部に組み付けられた電磁石と、
前記電磁石と前記入力軸の間に組み込まれた第1の軸受と、
前記ハウジングの出力軸側の端部と前記出力軸の間に組み込まれた第2の軸受と、
前記内輪と前記外輪の間に組み込まれた第3の軸受とを有する回転伝達装置において、
前記入力軸と前記出力軸の軸線の傾きを防止する第4の軸受を設けたことを特徴とする回転伝達装置。
【0015】
このようにすると、第4の軸受が入力軸と出力軸の軸線の傾きを防止するので、入力軸に設けられた内輪と、出力軸に設けられた外輪の相対位置にずれが生じにくくなり、内輪と外輪の間に組み込まれた係合子の作動が安定する。そのため、従来のようなフランジによるハウジングの固定を廃止することが可能となる。
【0016】
前記第4の軸受としては、例えば、前記内輪と前記外輪の間に前記第3の軸受に対して並列に設けられた軸受を採用することができる。このようにすると、内輪と外輪の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸と出力軸の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪と外輪の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【0017】
また、前記第4の軸受としては、例えば、前記ハウジングの出力軸側の端部と前記出力軸の間に前記第2の軸受に対して並列に設けられた軸受を採用することができる。このようにすると、ハウジングと出力軸の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸と出力軸の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪と外輪の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【0018】
また、前記第4の軸受としては、例えば、前記ハウジングの内周と前記外輪の外周との間に組み込まれた軸受を採用することができる。このようにすると、ハウジングと出力軸の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸と出力軸の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪と外輪の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の回転伝達装置は、第4の軸受が入力軸と出力軸の軸線の傾きを防止するので、フランジによるハウジングの固定が不要であり、しかも内輪と外輪の間の係合子が安定して作動する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、この発明の実施形態にかかる回転伝達装置Mを示す。この回転伝達装置Mは、両端が開放した筒状のハウジング10と、ハウジング10に一端が収容された入力軸1と、入力軸1と同軸上に並んで配置された出力軸2と、入力軸1のハウジング10内への収容部分に設けられた内輪3と、出力軸2のハウジング10内への収容部分に内輪3を囲むように設けられた外輪4と、外輪4の内周と内輪3の外周との間に組み込まれた複数のローラ5a,5bと、これらのローラ5a,5bを保持するローラ保持器6とを有する。
【0022】
入力軸1は、セレーションが外周に形成されたセレーション軸部7を有する。セレーション軸部7は、内輪3の中心に形成されたセレーション穴8に嵌め込まれている。このセレーション軸部7とセレーション穴8の嵌合により、入力軸1は、内輪3と一体回転するように内輪3に接続されている。この実施形態では、入力軸1と内輪3を別部材としているが、入力軸1と内輪3を継ぎ目のない一体の部材として形成してもよい。
【0023】
出力軸2は、その一端がハウジング10に収容されている。そして、出力軸2のハウジング10内への収容部分に外輪4が一体に形成されている。この実施形態では、出力軸2と外輪4を継ぎ目のない一体の部材としているが、出力軸2と外輪4を別部材とし、その出力軸2を、外輪4と一体回転するように外輪4に接続してもよい。
【0024】
図2、
図3に示すように、内輪3の外周には、周方向に等間隔に複数のカム面12が設けられている。カム面12は、前方カム面12aと、前方カム面12aに対して内輪3の正転方向後方に配置された後方カム面12bとからなる。外輪4の内周には、カム面12と半径方向に対向する円筒面13が設けられている。
【0025】
カム面12と円筒面13の間には、弾性部材14を間に挟んで周方向に対向する一対のローラ5a,5bが組み込まれている。この一対のローラ5a,5bのうち正転方向の前側のローラ5aは前方カム面12aと円筒面13の間に組み込まれ、正転方向の後側のローラ5bは後方カム面12bと円筒面13の間に組み込まれている。この一対のローラ5a,5bの間には、一対のローラ5a,5bの間隔を広げる方向に各ローラ5a,5bを押圧する弾性部材14が組み込まれている。
【0026】
前方カム面12aは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ5aの位置から正転方向前方に向かって次第に小さくなるように形成されている。後方カム面12bは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ5bの位置から正転方向後方に向かって次第に小さくなるように形成されている。
図3では、前方カム面12aと後方カム面12bを、相反する方向に傾斜した別々の平面となるように形成しているが、前方カム面12aと後方カム面12bは、単一平面の正転方向の前側部分が前方カム面12a、後側部分が後方カム面12bとなるように、同一平面上に形成することも可能である。また、前方カム面12aと後方カム面12bは、曲面とすることも可能であるが、
図3のように平面とすると加工コストを低減することができる。
【0027】
図1〜
図3に示すように、ローラ保持器6は、弾性部材14を間にして周方向に対向する一対のローラ5a,5bのうち一方のローラ5aを支持する第1の分割保持器6Aと、他方のローラ5bを支持する第2の分割保持器6Bとからなる。第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bは相対回転可能に支持されており、その相対回転に応じて一対のローラ5a,5bの間隔が変化するように一対のローラ5a,5bを個別に支持している。
【0028】
第1の分割保持器6Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部15aと、これらの柱部15aの端部同士を連結する環状のフランジ部16aとを有する。同様に、第2の分割保持器6Bも、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部15bと、これらの柱部15bの端部同士を連結する環状のフランジ部16bとを有する。
【0029】
第1の分割保持器6Aの柱部15aと第2の分割保持器6Bの柱部15bは、弾性部材14を間にして周方向に対向する一対のローラ5a,5bを周方向の両側から挟み込むように、外輪4の内周と内輪3の外周の間に挿入されている。
【0030】
図1に示すように、第1の分割保持器6Aのフランジ部16aと第2の分割保持器6Bのフランジ部16bは、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bが第1の分割保持器6Aのフランジ部16aよりも内輪3に対して軸方向に近い側となる向きで、軸方向に対向して配置されている。そして、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bには、第1の分割保持器6Aの柱部15aとの干渉を避けるための切欠き17が周方向に間隔をおいて複数設けられている。
【0031】
第1の分割保持器6Aのフランジ部16aの内周と第2の分割保持器6Bのフランジ部16bの内周は、入力軸1の外周に設けられた円筒面18でそれぞれ回転可能に支持されている。これにより、第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bは、一対のローラ5a,5bの間隔を広げることにより円筒面13とカム面12との間に各ローラ5a,5bを係合させる係合位置と、一対のローラ5a,5bの間隔を狭めることにより円筒面13とカム面12との間への各ローラ5a,5bの係合を解除させる係合解除位置との間で移動可能となっている。第1の分割保持器6Aのフランジ部16aは、スラスト軸受19を介して、入力軸1の外周に設けられた環状突起20で軸方向に支持され、これにより軸方向の移動が規制されている。
【0032】
図4に示すように、内輪3の側面には、ばねホルダ21が固定されている。ばねホルダ21は、一対のローラ5a,5bを間に挟んで周方向に対向する両柱部15a,15bの間に位置するストッパ片22を有する。このストッパ片22は、両柱部15a,15bが一対のローラ5a,5bの間隔を狭める方向に移動したときに、ストッパ片22の両側の縁が各柱部15a,15bを受け止める。これにより、一対のローラ5a,5bの間にある弾性部材14が過度に圧縮して破損するのを防止するとともに、一対のローラ5a,5bの間隔が狭まったときの内輪3に対する各ローラ5a,5bの位置を一定させることが可能となっている。
【0033】
図5に示すように、ばねホルダ21は、弾性部材14を保持するばね保持片23を有する。ばね保持片23は、外輪4の内周と内輪3の外周の間を軸方向に延びるようにストッパ片22と一体に形成されている。ばね保持片23は、内輪3の外周の前方カム面12aと後方カム面12bとの間に形成されたばね支持面24(
図2参照)に対して半径方向に対向するように配置されている。ばね保持片23のばね支持面24に対する対向面には、弾性部材14を収容する凹部25が形成されている。弾性部材14はコイルばねである。このばね保持片23は、弾性部材14の移動を凹部25で規制することにより、弾性部材14が外輪4の内周と内輪3の外周との間から軸方向に脱落するのを防止している。
【0034】
図1に示すように、この回転伝達装置Mは、ローラ保持器6(すなわち第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6B)を移動させる駆動源として、ハウジング10の入力軸1側の端部に組み付けられた電磁石32を有する。また、回転伝達装置Mは、電磁石32に通電したときに電磁石32に引き寄せられる材質で形成されたアーマチュア30と、電磁石32とアーマチュア30の間に配置されたロータ31と、アーマチュア30がロータ31に吸着される動作を、第1の分割保持器6Aおよび第2の分割保持器6Bが係合位置から係合解除位置に移動する動作に変換するボールランプ機構33とを有する。
【0035】
アーマチュア30は、環状の円盤部34と、円盤部34の外周から軸方向に延びるように一体に形成された円筒部35とを有する。アーマチュア30の円筒部35には、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bの外周から軸方向に延びるように一体に形成された円筒部36が圧入され、この圧入により、アーマチュア30は、第2の分割保持器6Bと軸方向に一体に移動するように第2の分割保持器6Bに連結されている。また、アーマチュア30は、入力軸1の外周に設けられた円筒面37で回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。ここで、アーマチュア30は、軸方向に離れた2箇所(すなわちアーマチュア30の内周と、第2の分割保持器6Bの内周)において軸方向に移動可能に支持することにより、アーマチュア30の姿勢が軸直角方向に対して傾くのが防止されている。
【0036】
ロータ31は、締め代をもって入力軸1の外周に嵌合することにより、軸方向と周方向のいずれにも相対移動しないように入力軸1の外周で支持されている。ロータ31およびアーマチュア30は強磁性を有する金属で形成されている。ロータ31のアーマチュア30に対する対向面には、ロータ31を軸方向に貫通するとともに、円周方向に細長く延びる長孔38が周方向に間隔をおいて複数形成されている。
【0037】
電磁石32は、ソレノイドコイル39と、ソレノイドコイル39が巻回されたフィールドコア40とを有する。フィールドコア40は、ハウジング10の入力軸1側の端部に挿入されて、止め輪41で抜け止めされている。この電磁石32は、ソレノイドコイル39に通電することにより、フィールドコア40とロータ31とアーマチュア30を通る磁路を形成し、アーマチュア30をロータ31に吸着させる。このとき、アーマチュア30のロータ31に対する対向面は、ロータ31のアーマチュア30に対する対向面に面接触した状態となる。
【0038】
図6および
図7(a)、(b)に示すように、ボールランプ機構33は、第1の分割保持器6Aのフランジ部16aの第2の分割保持器6Bのフランジ部16bに対する対向面に設けられた傾斜溝43aと、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bの第1の分割保持器6Aのフランジ部16aに対する対向面に設けられた傾斜溝43bと、傾斜溝43aと傾斜溝43bの間に組み込まれたボール44とからなる。傾斜溝43aと傾斜溝43bは、それぞれ周方向に延びるように形成されている。また、傾斜溝43aは、軸方向の深さが最も深い最深部45aから周方向の一方向に向かって次第に浅くなるように傾斜した溝底46aをもつ形状とされ、傾斜溝43bも、軸方向の深さが最も深い最深部45bから周方向の他方向に向かって次第に浅くなるように傾斜した溝底46bをもつ形状とされている。ボール44は溝底46aと溝底46bの間に挟まれるように配置されている。
【0039】
このボールランプ機構33は、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bが、第1の分割保持器6Aのフランジ部16aに向かって軸方向に移動したときに、ボール44が各傾斜溝43a,43bの最深部45a,45bに向けて転がることにより、第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bが相対回転し、その結果、第1の分割保持器6Aの柱部15aと第2の分割保持器6Bの柱部15bとが一対のローラ5a,5bの間隔を狭める方向に移動するように動作する。
【0040】
アーマチュア30は、弾性部材14の力によって、ロータ31から離れる方向に付勢されている。すなわち、
図2に示す弾性部材14が一対のローラ5a,5bの間隔を広げる方向に各ローラ5a,5bを押圧する力が、第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bに伝達する。そして、第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bが受ける周方向の力は、
図6および
図7(a)、(b)に示すボールランプ機構33によって、ロータ31から遠ざかる方向の軸方向の力に変換されて第2の分割保持器6Bに伝達する。ここで、
図1に示すように、アーマチュア30は、第2の分割保持器6Bに固定されているので、結局、アーマチュア30は、弾性部材14からボールランプ機構33を介して伝達する力によって、ロータ31から離れる方向に付勢された状態となっている。
【0041】
ハウジング10は、電磁石32とロータとアーマチュア30と外輪4を収容する円筒状に形成されたストレート部10Aと、ストレート部10Aに連なる縮径部10Bとからなる。縮径部10Bは、入力軸1側から出力軸2側に向かって内径が減少するように形成されている。電磁石32はストレート部10Aの入力軸1側の端部内に組み込まれている。ストレート部10Aの外周には、外部に対する固定用のフランジが存在しない。
【0042】
電磁石32のフィールドコア40と入力軸1との間には、第1の軸受51が組み込まれている。第1の軸受51は、例えば深溝玉軸受である。ハウジング10の出力軸2側の端部と出力軸2の間には、第2の軸受52が組み込まれている。第2の軸受52は、ハウジング10の縮径部10Bの内周に嵌合している。ハウジング10の縮径部10Bの内周は、外輪4の内周よりも小径となっている。第2の軸受52は、例えば深溝玉軸受である。内輪3と外輪4の間には、第3の軸受53が組み込まれている。第3の軸受53は、例えば深溝玉軸受である。さらに、内輪3と外輪4の間には、第3の軸受53に対して並列に第4の軸受54が組み込まれている。第4の軸受54は、例えば深溝玉軸受である。ここで、第3の軸受53と第4の軸受54は、内輪3と外輪4の間を軸方向に離れた2点でそれぞれ支持している。
【0043】
この回転伝達装置Mの動作例を説明する。
【0044】
図1に示すように、電磁石32への通電を停止しているとき、この回転伝達装置Mは、外輪4と内輪3の間で回転が伝達する係合状態となる。すなわち、電磁石32への通電を停止しているとき、アーマチュア30は、弾性部材14の力によってロータ31から離反した状態となっている。また、このとき、一対のローラ5a,5bの間隔が広がる方向に各ローラ5a,5bを押圧する弾性部材14の力によって、正転方向の前側のローラ5aは、外輪4の内周の円筒面13と内輪3の外周の前方カム面12aとの間に係合し、かつ、正転方向の後側のローラ5bは、外輪4の内周の円筒面13と内輪3の外周の後方カム面12bとの間に係合した状態となっている。この状態で、内輪3が正転方向に回転すると、その回転は、正転方向の後側のローラ5bを介して内輪3から外輪4に伝達する。また、内輪3が逆転方向に回転すると、その回転は、正転方向の前側のローラ5aを介して内輪3から外輪4に伝達する。
【0045】
一方、電磁石32に通電しているとき、この回転伝達装置Mは、外輪4と内輪3の間での回転伝達が遮断される係合解除状態(空転状態)となる。すなわち、電磁石32に通電すると、アーマチュア30はロータ31に吸着され、このアーマチュア30の動作に連動して、第2の分割保持器6Bのフランジ部16bが第1の分割保持器6Aのフランジ部16aに向かって軸方向に移動する。このとき、ボールランプ機構33のボール44が各傾斜溝43a,43bの最深部45a,45bに向けて転がることにより、第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bとが相対回転する。そして、この第1の分割保持器6Aと第2の分割保持器6Bの相対回転により、第1の分割保持器6Aの柱部15aと第2の分割保持器6Bの柱部15bとが、一対のローラ5a,5bの間隔が狭まる方向に各ローラ5a,5bを押圧し、その結果、正転方向の前側のローラ5aの係合待機状態(正転方向の前側のローラ5aと円筒面13の間に微小隙間があるが、内輪3が逆転方向に回転するとローラ5aが直ちに円筒面13と前方カム面12aの間に係合する状態)が解除されるとともに、正転方向の後側のローラ5bの係合待機状態(正転方向の後側のローラ5bと円筒面13の間に微小隙間があるが、内輪3が正転方向に回転するとローラ5bが直ちに円筒面13と後方カム面12bの間に係合する状態)も解除された状態となる。この状態で、内輪3に回転が入力されても、その回転は内輪3から外輪4に伝達せず、内輪3は空転する。
【0046】
上記の回転伝達装置Mは、例えば、
図8に示すように、ステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置に使用される。このステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置は、運転者によるステアリングホイール60の操舵角を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて左右の車輪61を転舵する車両用操舵装置である。このステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置において、上記回転伝達装置Mは、ステアリングホイール60と、左右の車輪61の転舵角を変化させる転舵アクチュエータ62との間の回転伝達経路の途中に組み込まれる。回転伝達装置Mは、正常時はステアリングホイール60と転舵アクチュエータ62の間での回転の伝達を遮断し、電源喪失時などの異常時は、ステアリングホイール60と転舵アクチュエータ62の間で回転を伝達するバックアップクラッチとして機能する。ステアリングホイール60には、車両の挙動に応じてステアリングホイール60に操舵反力を与える反力アクチュエータ63が接続されている。
【0047】
回転伝達装置Mは、入力軸1が軸継手64を介してステアリングホイール60側のシャフト65に接続されるとともに、出力軸2が軸継手66を介して転舵アクチュエータ62側のシャフト67に接続されている。ここで、回転伝達装置Mは、入力軸1に接続されたステアリングホイール60側のシャフト65と、出力軸2に接続された転舵アクチュエータ62側のシャフト67とで支持されている。そして、ハウジング10は、従来のように車体の一部(例えばダッシュボードとエンジンルームの間の隔壁)に固定されてはおらず、宙に浮いた状態(フローティング状態)となっている。
【0048】
このとき、
図1に示すように、入力軸1と出力軸2は、電磁石32と入力軸1の間に組み込まれた第1の軸受51と、ハウジング10の出力軸2側の端部と出力軸2の間に組み込まれた第2の軸受52と、内輪3と外輪4の間に組み込まれた第3の軸受53の3点に加えて、第4の軸受54でも支持されている。そのため、入力軸1と出力軸2の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、入力軸1と出力軸2の間に軸線の傾き(ミスアライメント)が生じにくく、入力軸1に設けられた内輪3と、出力軸2に設けられた外輪4の相対位置にずれが生じにくい。その結果、内輪3と外輪4の間に組み込まれたローラ5a,5bの作動が安定したものとなる。
【0049】
以上のように、この実施形態の回転伝達装置Mは、第4の軸受54が入力軸1と出力軸2の軸線の傾きを防止するので、入力軸1に設けられた内輪3と、出力軸2に設けられた外輪4の相対位置にずれが生じにくく、内輪3と外輪4の間に組み込まれた係合子の作動が安定している。そのため、従来のようなフランジによるハウジング10の固定を廃止することが可能である。
【0050】
図9に、この発明の他の実施形態を示す。以下、上記実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。ハウジング10の出力軸2側の端部と出力軸2の間に第2の軸受52に対して並列に第4の軸受54が組み込まれている。第4の軸受54は、例えば深溝玉軸受である。ここで、第2の軸受52と第4の軸受54は、ハウジング10と出力軸2の間を軸方向に離れた2点でそれぞれ支持している。これにより、ハウジング10と出力軸2の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸1と出力軸2の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪3と外輪4の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【0051】
図10に、この発明の更に他の実施形態を示す。ハウジング10の内周と外輪4の入力軸1側の端部の外周との間に第4の軸受54が組み込まれている。第4の軸受54は、例えば針状ころ軸受である。ここで、第2の軸受52と第4の軸受54は、出力軸2と外輪4を軸方向に離れた2点で支持している。これにより、ハウジング10と出力軸2の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸1と出力軸2の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪3と外輪4の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【0052】
図11に、この発明の更に他の実施形態を示す。ハウジング10の内周と外輪4の出力軸2側の端部の外周との間に第4の軸受54が組み込まれている。第4の軸受54は、例えば深溝玉軸受である。ここで、第2の軸受52と第4の軸受54は、出力軸2と外輪4を軸方向に離れた2点で支持している。これにより、ハウジング10と出力軸2の間に軸線の傾きが生じるのが防止されるので、入力軸1と出力軸2の間に軸線の傾きを生じさせる方向の荷重が負荷されたときにも、内輪3と外輪4の間に組み込まれた係合子の作動が不安定となるのを防止することができる。
【0053】
上記実施形態では、外輪4の内周と内輪3の外周との間に係合子としてローラ5a,5bを組み込んだ例を挙げて説明したが、この発明は、係合子としてボール、スプラグなどを使用した回転伝達装置Mにも同様に適用することができる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。