特許第6352059号(P6352059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352059
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】無電解めっき下地層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   C23C18/18
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-116522(P2014-116522)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-229788(P2015-229788A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦顕
(72)【発明者】
【氏名】村橋 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】加東 隆
(72)【発明者】
【氏名】戸田 勲
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−059778(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/141216(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/042215(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/027947(WO,A1)
【文献】 特開2003−013241(JP,A)
【文献】 特開2001−303255(JP,A)
【文献】 国際公開第03/002780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)成分:
(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種、
(B)バインダー樹脂、並びに、
(C)シランカップリング剤及びカルボン酸化合物から選択される少なくとも1種
を含有する無電解めっき下地層形成用組成物であって、
前記無電解めっき下地層形成用組成物を100質量%として、(A)成分の含有量が80〜95質量%、(B)成分の含有量が3〜19質量%、(C)成分の含有量が0.1〜5質量%である、
ことを特徴とする無電解めっき下地層形成用組成物。
【請求項2】
前記(A)成分は、銀、銅、ニッケル、パラジウム、及びそれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
【請求項3】
前記(B)成分は、非水溶性樹脂であり、ガラス転移温度が100℃以上である、請求項1又は2に記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき下地層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を形成するプリント配線基板において、樹脂や酸化物の基材の表面に、表面処理として金属皮膜が形成されている。このような金属皮膜は無電解めっきにより形成される。
【0003】
上述のようなプリント配線基板においては、基材表面と金属皮膜との間の密着性が要求される。無電解めっきにより基材表面の樹脂や酸化物に金属皮膜を形成する場合、密着性確保のために、予め基材表面にクロム酸やフッ酸等の薬品を使用することで基材表面を粗化、又は表面改質する必要があるが、これらの薬品は極めて有害であり、環境に悪影響を及ぼすという問題がある。また、一般的にプリント配線基板等の金属配線形成には、金属箔のエッチング処理工程やレジストの現像工程、剥離工程を行うことが必要であるため、製造工程が複雑であり、且つ、大量の廃棄物が排出されるという問題がある。
【0004】
基材表面の粗化や表面改質を必要としないめっき用部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該めっき用部材は、光透過性を有する支持体の表面に下地膜が形成されており、下地膜上に無電解めっきを施すことができる。しかし、上述のめっき用部材は、支持体上に所望のパターンで下地層を形成することができず、このため無電解めっきによる金属皮膜を選択的に形成できないという問題がある。
【0005】
また、基板上に、無電解めっきの選択性を示す下地を形成するための無電解めっき前処理剤等が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。これらの処理剤等は、熱硬化性樹脂中に特定の成分を含む構成となっており、基板表面に塗布されて下地層を形成することにより、基材表面と下地層との密着性を高めている。しかし、これらの処理剤等により形成された下地層は、金属皮膜との間で金属結合を形成することができず、下地層と金属皮膜との間で強固な密着性が得られないという問題がある。
【0006】
更に、(A)球状の開放連通多孔体である銀粒子と、(B)樹脂及び/又は(C)分散剤とを含む銀ペースト組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。当該銀ペースト組成物は、樹脂が導体粉である銀粒子を含むことにより電気抵抗や粘度の上昇を抑制し、電気抵抗率を低減している。しかし、上述のペースト組成物は、バインダーとなる樹脂が金属イオンに対して不活性であるため、無電解めっきの析出不良の原因となり、ペースト組成物により形成された下地層と、金属皮膜との密着性が劣るという問題がある。
【0007】
プリント配線基板の基材表面、及び金属皮膜への密着性に優れ、基材表面に選択的に下地層を形成することができ、環境への負担を低減することができる無電解めっき下地層形成用組成物は、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−57210号公報
【特許文献2】特開2012−7244号公報
【特許文献3】特開2010−195946号公報
【特許文献4】特開2014−51590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、プリント配線基板の基材表面、及び金属皮膜への密着性に優れ、基材表面に選択的に下地層を形成することができ、環境への負担を低減することができる無電解めっき下地層形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種、(B)バインダー樹脂、並びに、(C)金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対する捕捉能を有する化合物を含有し、上記(A)〜(C)成分の割合が特定の範囲である構成を備える無電解めっき下地層形成用組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の無電解めっき下地層形成用組成物に関する。
1.下記(A)〜(C)成分:
(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種、
(B)バインダー樹脂、並びに、
(C)金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対する捕捉能を有する化合物、
を含有する無電解めっき下地層形成用組成物であって、
前記無電解めっき下地層形成用組成物を100質量%として、(A)成分の含有量が80〜95質量%、(B)成分の含有量が3〜19質量%、(C)成分の含有量が0.1〜5質量%である、
ことを特徴とする無電解めっき下地層形成用組成物。
2.前記(A)成分は、銀、銅、ニッケル、パラジウム、及びそれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記項1に記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
3.前記(B)成分は、非水溶性樹脂であり、ガラス転移温度が100℃以上である、上記項1又は2に記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
4.前記(C)成分は、バインダー樹脂と反応する官能基を有する化合物である、上記項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
5.前記(C)成分は、シランカップリング剤及びカルボン酸化合物から選択される少なくとも1種である、上記項1〜4のいずれかに記載の無電解めっき下地層形成用組成物。
【0012】
本発明の無電解めっき下地層形成用組成物は、下記(A)〜(C)成分:(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種、(B)バインダー樹脂、並びに、(C)金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対する捕捉能を有する化合物を含有する無電解めっき下地層形成用組成物であって、前記無電解めっき下地層形成用組成物を100質量%として、(A)成分の含有量が80〜95質量%、(B)成分の含有量が3〜19質量%、(C)成分の含有量が0.1〜5質量%である。本発明の無電解めっき下地層形成用組成物(以下、単に「下地層形成用組成物」とも示す。)は、上記(A)成分を含有するので、形成される下地層中の金属粉等が下地層上に形成される金属皮膜との間で金属結合を形成するため、金属皮膜との密着性に優れた下地層を形成することができる。
【0013】
また、本発明の下地層形成用組成物は、上記(B)成分を含有するので、形成される下地層と基材表面との密着性に優れている。このため、密着性確保のために、予め基材表面を粗化、又は表面改質する必要がなく、クロム酸やフッ酸等の有害な薬品を使用する必要がないので、環境への負荷が低減される。
【0014】
また、本発明の下地層形成用組成物は、上記(C)成分を含有するので、形成される下地層が金属や金属イオンを捕捉することができ、これにより無電解めっきの析出不良が抑制されて、下地層形成用組成物により形成された下地層と、金属皮膜との密着性に優れている。
【0015】
更に、本発明の下地層形成用組成物は、上記(A)〜(C)成分の含有量が特定の範囲であるので、形成される下地層が、金属皮膜との密着性、及び基材表面との密着性に優れている。
【0016】
また、本発明の下地層形成用組成物は、基材表面に種々の印刷方法により、所望のパターン状に塗布することができる。このため、基材表面に選択的に下地層を形成することができるので、エッチング処理やレジストの現像、剥離を必要とせず、大量の廃棄物が排出されないので、環境への負荷を低減することができる。
【0017】
以下、本発明の下地層形成用組成物について詳細に説明する。
【0018】
(無電解めっき下地層形成用組成物)
本発明の下地層形成用組成物は、下記(A)〜(C)成分:(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種、(B)バインダー樹脂、並びに、(C)金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対する捕捉能を有する化合物を含有する無電解めっき下地層形成用組成物であって、上記無電解めっき下地層形成用組成物を100質量%として、(A)成分の含有量が80〜95質量%、(B)成分の含有量が3〜19質量%、(C)成分の含有量が0.1〜5質量%である。
【0019】
(A)成分
本発明の下地層形成用組成物は、(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種を含有する。
【0020】
上記金属粉を形成する金属としては、下地層の上に形成されるめっき皮膜を形成する金属と金属結合を形成することができれば特に限定されない。上記金属としては、例えば、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉄、アルミニウム、錫、亜鉛等が挙げられる。中でも、めっき皮膜との密着性により優れる点で銀、銅、ニッケル、パラジウムが好ましい。
【0021】
上記金属酸化物粉を形成する金属酸化物としては、下地層の上に形成されるめっき皮膜を形成する金属と金属結合を形成することができれば特に限定されない。上記金属酸化物としては、例えば、銀酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、パラジウム酸化物、鉄酸化物、アルミニウム酸化物、錫酸化物、亜鉛酸化物等が挙げられる。これらの中でもめっき皮膜との密着性により優れる点で、銀酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、パラジウム酸化物が好ましい。上記金属酸化物としては、より具体的には、酸化銀(I)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化ニッケル(II)、酸化パラジウム(II)を好適に用いることができる。
【0022】
上記金属粉及び金属酸化物粉は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、金属粉と金属酸化物粉とを混合して用いてもよい。
【0023】
上記金属及び金属酸化物の粒径は、0.1〜5.0μmであることが好ましく、0.2〜3.0μmであることがより好ましい。粒径が大き過ぎると、表面に露出する金属および金属酸化物の表面積が小さくなり密着不良が生じるおそれがあり、粒径が小さすぎると単位重量辺りの体積が増大し下地層中の樹脂体積が減少するため、樹脂と基材との接着面積が少なくなり密着不良を生じるおそれがある。なお、本明細書において、金属粉及び金属酸化物粉は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定される値である。
【0024】
(A)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総質量を100質量%として、80〜95質量%である。(A)成分の含有量が80質量%未満であると、本発明の下地層形成用組成物を用いて形成した下地層と、その上に形成される金属皮膜との密着性が十分でない。(A)成分の含有量が95質量%を超えると、相対的に(B)成分及び(C)成分の含有量が少なくなり、下地層と基材表面との密着性に劣り、且つ、無電解めっきの析出不良を生じる。上記(A)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総量を100質量%として、83〜93質量%であることが好ましい。
【0025】
(B)成分
本発明の下地層形成用組成物は、(B)バインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂としては特に限定されず、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂等の種々の樹脂を用いることができる。
【0026】
上記熱硬化性樹脂としては、電子機器等の配線基板や導電性接着剤等に一般的に使用される熱硬化性樹脂であれば特に限定されない。このような熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、等が挙げられる。中でも、耐熱性及び基材表面への密着性に優れる点で、エポキシ樹脂が好ましい。上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0027】
上記紫外線硬化型樹脂としては、電子機器等の配線基板や導電性接着剤等に一般的に使用される紫外線硬化型樹脂であれば特に限定されない。このような紫外線硬化型樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。硬く、反りを生じ難い点でアクリル系樹脂が好ましく、中でも、メチル(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味するものとし、他の類似する表現も同様とする。
【0028】
上記熱可塑性樹脂としては、電子機器等の配線基板や導電性接着剤等に一般的に使用される熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。このような熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が挙げられる。また、熱可塑性樹脂として、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体を用いてもよい。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、特に限定されず、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。
【0030】
上記ポリスチレン樹脂としては、特に限定されず、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物を重合させて得られる重合体が例示される。ポリスチレン樹脂は、芳香族ビニル化合物のみを重合させて得られる重合体であっても、それ以外のモノマーを重合させて得られる共重合体であってもよい。
【0031】
上記ポリカーボネート樹脂としては、特に限定されず、ジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートのような炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を用いることができる。
【0032】
上記ポリアミド樹脂としては、特に限定されず、ポリマーの主鎖中にアミド結合(−NH−CO−)をもつ重合体を示し、6ナイロン、66ナイロン、共重合ナイロンや、N−メトキシメチル化ナイロンのような変成ナイロンが例示される。
【0033】
上記ポリアミドイミド樹脂としては、特に限定されず、例えば、トリカルボン酸無水物とジアミン化合物又はジイソシアネートとを混合して重縮合させて得られるもの等が例示される。
【0034】
上記バインダー樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
上記バインダー樹脂は、プリント配線基板の基材の材質や耐熱温度に合わせて、適宜選択すればよい。例えば、Al2O3基板の場合、熱硬化性エポキシ樹脂であるビスフェノールA型を用いることが好ましく、ポリカーボネート基板の場合、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂を用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板の場合、紫外線硬化性樹脂であるメチルアクリレートを用いることが好ましい。
【0036】
上記バインダー樹脂は、非水溶性樹脂であることが好ましい。非水溶性樹脂とは、非水溶性の溶媒(水と任意に混じり合うことのできない溶媒)に対して溶解性を示し、かつ水または水と任意に混じり合う溶媒に対して不溶な樹脂を意味する。非水溶性樹脂を用いることにより、水を主成分とするめっき工程への応用が可能となる。上記非水溶性樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、メチル(メタ)アクリレート、ポリビニルアセタールが挙げられる。
【0037】
上記バインダー樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、110℃以上がより好ましい。バインダー樹脂のガラス転移温度が低すぎると、軟化してめっき中に含まれることにより、密着不良を生じるおそれがある。また、バインダー樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されない。
【0038】
(B)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総量を100質量%として、3〜19質量%である。(B)成分の含有量が3質量%未満であると、本発明の下地層形成用組成物を用いて形成した下地層と、基材表面との密着性が十分でない。(B)成分の含有量が19質量%を超えると、相対的に(A)成分及び(C)成分の含有量が少なくなり、下地層と金属皮膜との密着性に劣り、且つ、無電解めっきの析出不良を生じる。上記(B)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総量を100質量%として、5〜15質量%であることが好ましい。
【0039】
(C)成分
本発明の下地層形成用組成物は、(C)金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対する捕捉能を有する化合物を含有する。
【0040】
上記化合物としては、金属及び金属イオンから選択される少なくとも1種に対して捕捉能を示すことができれば特に限定されないが、バインダー樹脂と反応する官能基を有する化合物であることが好ましい。このような化合物としては、例えば、シランカップリング剤、及びカルボン酸化合物を好適に用いることができる。上記シランカップリング剤としては、例えば、硫黄化合物、アミン化合物、カルボニル化合物が挙げられる。
【0041】
上記硫黄化合物としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
上記アミン化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
上記カルボニル化合物としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
上記カルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0045】
上記(C)成分は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0046】
上記(C)成分は、(B)成分として用いるバインダー樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、バインダー樹脂として熱硬化性樹脂であるビスフェノールAを用いる場合は3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく、バインダー樹脂として熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタールを用いる場合は3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましく、バインダー樹脂として紫外光硬化性樹脂であるメチルアクリレートを用いる場合はメタクリル酸が好ましい。
【0047】
(C)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総量を100質量%として、0.1〜5質量%である。(C)成分の含有量が0.1質量%未満であると、本発明の下地層形成用組成物を用いて形成した下地層と、金属皮膜との密着性が十分でない。(C)成分の含有量が5質量%を超えると、相対的に(B)成分の含有量が少なくなり、下地層と基材表面との密着性に劣る。上記(C)成分の含有量は、下地層形成用組成物の総量を100質量%として、0.2〜3質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%であることがより好ましい。
【0048】
他の成分
本発明の下地層形成用組成物は、上記(A)〜(C)成分以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、有機溶剤等が挙げられる。
【0049】
上記有機溶剤としては、(B)成分であるバインダー樹脂を溶解させることができ、(A)成分及び(C)成分を分散させてペースト状にすることができれば特に限定されないが、非水溶性樹脂でありガラス転移温度が100℃以上のバインダー樹脂を溶解することができる有機溶剤が好ましい。上記有機溶剤としては、例えば、第2石油類又は第3石油類の有機溶剤が挙げられ、具体的には、パインオイル、α−ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングライコール等が挙げられる。
【0050】
(下地層形成用組成物の製造方法)
本発明の下地層形成用組成物の製造方法としては特に限定されず、例えば、上記(A)〜(C)成分、及び必要に応じて上記他の成分を混合して混合物を調製し、従来公知の方法により攪拌または分散すればよい。攪拌、分散時間は、混合物が均一に混合できればよく、5〜20分であることが好ましい。また、分散の際の混合物は、特に加熱が必要ではないが、均一な混合を促進するために、加熱してもよい。撹拌の際の混合物の温度は、30〜50℃程度であることが好ましい。
【0051】
(下地層の形成方法)
本発明の無電解めっき下地層形成用組成物を用いて下地層を形成する方法は、プリント配線基板等の基板表面に下地層を形成することができれば特に限定されないが、例えば、基板表面に本発明の下地層形成用組成物を、スクリーン印刷、オフセット印刷、パット印刷、インクジェット等の種々の印刷方法により塗布し、乾燥または硬化させる方法が挙げられる。
【0052】
本発明の下地層形成用組成物を塗布後に乾燥させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により乾燥させることができる。乾燥の際の乾燥温度は、80〜250℃程度である。また、本発明の下地層形成用組成物を硬化させる方法としては特に限定されず、例えば、塗布後の下地層形成用組成物を上述の方法により乾燥させることにより硬化させることができる。
【0053】
本発明の下地層形成用組成物を基板表面に塗布する際の塗布量は特に限定されないが、膜厚が5〜15μm程度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明の無電解めっき下地層形成用組成物は、(A)金属粉及び金属酸化物粉から選択される少なくとも1種を含有するので、形成される下地層中の金属粉等が下地層上に形成される金属皮膜との間で金属結合を形成するため、金属皮膜との密着性に優れた下地層を形成することができる。
【0055】
また、本発明の下地層形成用組成物は、(B)バインダー樹脂を含有するので、形成される下地層と基材表面との密着性に優れている。このため、密着性確保のために、予め基材表面を粗化、又は表面改質する必要がなく、クロム酸やフッ酸等の有害な薬品を使用する必要がないので、環境への負荷が低減される。
【0056】
また、本発明の下地層形成用組成物は、上記(C)成分を含有するので、形成される下地層が金属や金属イオンを捕捉することができ、これにより無電解めっきの析出不良が抑制されて、下地層形成用組成物により形成された下地層と、金属皮膜との密着性に優れている。
【0057】
更に、本発明の下地層形成用組成物は、上記(A)〜(C)成分の含有量が特定の範囲であるので、形成される下地層が、金属皮膜との密着性、及び基材表面との密着性に優れている。
【0058】
また、本発明の下地層形成用組成物は、基材表面に種々の印刷方法により、所望のパターン状に塗布することができる。このため、基材表面に選択的に下地層を形成することができるので、エッチング処理やレジストの現像、剥離が必要でなくなり、大量の廃棄物が排出されないので、環境への負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0060】
(下地層形成用組成物の調製)
表1〜3に示す配合により、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を混合した。なお、各成分は、表4に示すものを用いた。
【0061】
得られた混合物を三本ロールミルで分散させ、実施例1〜12及び比較例1〜4の下地層形成用組成物を調製した。
【0062】
(下地層の形成)
調製された実施例1〜12及び比較例1〜4の下地層形成用組成物を、SUS製250メッシュスクリーンを用いてアルミナ基板に塗布し、150℃で10分間乾燥して下地層を形成した。
【0063】
(無電解めっき皮膜の形成)
下地層が形成されたアルミナ基板の表面を、NNPクリーナー(商品名 奥野製薬工業株式会社製)を水で30g/Lの濃度に希釈した液を用いて、25℃、3分間の条件で脱脂処理を行った。
【0064】
脱脂後のアルミナ基板を水洗し、40℃に調整した10ml/Lの硫酸に5分間浸漬し、活性化を行った。
【0065】
活性化後のアルミナ基板を水洗した後、30℃に調整したPdイオン濃度32ppmの塩化パラジウム水溶液に3分間浸漬し、アルミナ基板にパラジウム触媒を付与した。
【0066】
パラジウム触媒を付与したアルミナ基板を水洗し、以下の配合のpH4.6の無電解ニッケルめっき液に80℃で15分間浸漬し、厚さ2μmの無電解めっき皮膜を調製した。
・硫酸ニッケル 5g/L
・次亜リン酸ナトリウム 20g/L
・硝酸鉛 1mg/L
・チオ硫酸ナトリウム 0.1mg/L
得られた各試料ついて、下記の方法でめっき析出性及び密着性を評価した。
【0067】
<めっき析出性>
無電解めっき処理後のめっき皮膜を目視で観察し、以下の評価基準に従って評価した。
○:めっきの未析出部分が見られなかった。
×:めっきの未析出部分が観察された。
【0068】
<密着性>
JIS H 8504に準拠した試験方法によりテープ剥離試験を行い、以下の評価基準に従って評価した。なお、評価は、(i)下地層形成後、無電解めっき前に行うことにより、基材と下地層との密着性を評価し、(ii)無電解めっき後に行うことにより、下地層とめっき皮膜との密着性を評価した。
○:剥離が生じなかった。
×:剥離が生じた。
【0069】
結果を表1〜3に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表1〜3から明らかなように、(A)〜(C)成分を特定の含有量で含有する下地層形成用組成物を用いて下地層を形成した実施例1〜12は、基材表面と下地層との密着性、及びめっき皮膜と下地層との密着性に優れ、且つ、めっき析出性にも優れていることが確認できた。
【0075】
これに対し、比較例1では(B)成分の含有量が少ないため、基材表面と下地層との密着性が劣っていることが確認された。また、基材表面と下地層との密着性が低いため、下地層上にめっき皮膜を形成した後に密着性試験を行うと、基材表面と下地層との間で剥離を生じるため、(ii)めっき皮膜との密着性の評価も×評価となることが分かった。
【0076】
また、比較例2及び4では(A)成分の含有量が少ないため、下地層とめっき皮膜との密着性が劣り、且つ、めっき析出性も劣っていた。
【0077】
更に、比較例3では(C)成分を含有しないため、下地層表面において金属や金属イオンを捕捉することができず、めっき析出性に劣っていた。