【文献】
CFP4 Hardware Specification,CFP MSA,2014年 3月 2日,Revision 0.1,http://www.cfp-msa.org/Documents/CFP-MSA_CFP4_HW-Spec-rev0.1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光ファイバー伝送用の光送受信機(光トランシーバモジュール)は、近年のブロードバンドネットワークの普及と共に高速化、小型・低コスト化が図られている。高速化に関しては現在ではビットレートが従来の10Gbit/s級の光送受信機に替わり100Gbit/s級のものが用いられ始めている。小型に関してはイーサネット(登録商標)系のMSA(Multi Source Agreement)が主導となり、現在のCFPからCFP2、CFP4、およびQSFP28(各MSA規格)へとケース体積の縮小化が進んでいる(参照:http://www.cfp-msa.org/)。
【0003】
これらのMSA規格においては、100Gbit/sのシリアルデータは4波長多重の光信号として光ファイバーを伝送する。光送受信機のプリント回路基板の表面にはデジタル変調信号用の伝送線路からなるチャネル(伝送路)が送信用に4チャネル、受信用に4チャネル設けられる。各々のチャネルを伝送する電気信号のビットレートは25.78Gbit/s(より詳しくは、IEEE 802.3ba準拠の方式の場合であり25.78125Gbit/s)、もしくは25.78Gbit/sと27.95Gbit/s(より詳しくは、ITU-T G.959.1準拠のOTU4方式の場合であり27.95249339Gbit/s)の両方である。
【0004】
一方、光送受信機が搭載されるネットワーク機器には、その機器が発生する不要電磁波の強度を法規に定められた限度値以下に抑えることが求められている。例えば、米国ではFCC Part 15 Subpart B規格に定められた限度値53.9dB(μV/m)(Class B規格、距離3m、周波数範囲1GHz〜40GHzの場合)以下を満足する必要がある。大規模なネットワーク機器には数台〜数百台の光送受信器を全面のスロットに搭載することが多い。各々の光送受信器はデジタル変調信号を駆動するICがその動作ビットレートに応じたスイッチングノイズを生じ、それに起因してICや伝送線路などから不要電磁波を発生する。不要電磁波の主要成分は動作ビットレートに応じた周波数に生じる。具体的には、ビットレートが25.78Gbit/sの場合には、周波数25.78GHzに、ビットレートが27.95Gbit/sの場合には、周波数27.95GHzに生じる。これら不要電磁波の装置外部への放射を低減する設計技術がネットワーク機器および光送受信機の双方において重要となっている。
【0005】
光送受信機のケース(housing、 shell、 chassisとも呼ばれる)のサイズおよびおおまかな形状は、上記各MSAによって規定される。ケースは、通常ダイカストや板金加工により成形された金属部品から構成される。よって、光送受信器のケースの電磁波に対する遮蔽効果は比較的高い。しかし、実際にはケースの遮蔽効果によっても上記の法規に求められる数値を満たさない場合も多く生じている。光送受信機のケースにさらなる高い遮蔽効果を求め、ケース内部で発生した不要電磁波を外部に少しも漏らさないためにはケース部品同士の嵌合部の隙間と、光ファイバーと接続する光コネクタや、ネットワーク機器と接続する電気コネクタとケース部品との間に生じる隙間を極力小さくする、具体的には課題となる周波数での空気中の波長に対し各々の隙間の長さを全て1/4波長より小さくする、あるいは無くすることが理想である。しかしながら、製造バラツキによらず高い遮蔽効果を得るのは困難であり、その実現には製造コストの大幅な上昇を伴うため現実的ではない。
【0006】
また、光送受信機からの不要電磁波を低減する別の手法として、ケース内部で発生した不要電磁波をケース内部において低減する手法があり、これを実現する目的で、例えば、下記特許文献等に記載のように、これまで複数の構造が提案されている。
【0007】
具体的には、下記特許文献1、2、5、6および非特許文献1は、金属ケースの空洞共振に関するものである。課題となる不要電磁波の周波数と金属ケースの空洞共振の固有モード周波数とが一致ないし近い場合には光送受信器からの不要輻射が増大してしまうおそれがある。そこで、特許文献1では、金属ケース内の固有モード周波数をずらす構造によりその問題の回避を図っている。また、特許文献2、5、6および非特許文献1では、金属ケース内部に磁性体あるいは抵抗体を利用した電波吸収体を所定の場所に配置することにより磁界あるいは電界に損失を与え、空洞共振の電磁波のエネルギーの減衰を図っている。
【0008】
また、特許文献3、4は、空洞共振に言及せず、これを低減することを目的とはしていないが、光送受信機のケース内部の所定の箇所に電波吸収体を配置したものである。具体的には、特許文献3は、非導電性(に準拠した)電波吸収体をプリント回路基板の上下2箇所に配置し、EMI源(励振源)のより近い箇所に電波吸収体を置くことで不要電磁波の減衰を図っている。なお、電波吸収体はケースには固定しない。また、特許文献4は、磁性体を利用した電波吸収体を2枚のプリント基板と上下ケースとの間とを遮るように配置して、基板からのエッジからの放射の減衰を図っている。また、電波吸収体をケース内部の上面と底面に隙間なく貼り付けるように配置している。更に、2枚のプリント基板の中間領域には電波吸収体の配置はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術の大部分は、XFPといった10Gbit/s級の光送受信機もしくは周波数10GHz以下における空洞共振に対する低減技術である。我々の検討によると100Gbit/s級の光送受信機における不要電磁波の発生および空洞共振の発生に関し、次の課題が明らかとなった。
(1)金属ケースの内部空間サイズから求めると、周波数25.78GHzおよび周波数27.95GHzの近傍に多数の固有モードが存在する。
(2)その固有モードには、10Gbit/s級の光送受信機の場合には存在しなかった、電界分布において高さ方向に節と腹を生じる固有モードが含まれる。
(3)磁性体を利用した電波吸収体をケース内部の上面と底面に貼り付けて配置しても、空洞共振の発生が観測され、不要電磁波の抑圧が不十分である。
【0012】
(1)(2)は、例えば、XFPとCFP4を比べるとケースの内部空間サイズが同程度のサイズであるのに対し、不要電磁波の周波数が10GHzから25GHzになったことで波長が0.4倍と小さくなったことに起因する。また、(3)は磁性体を用いた市販の電波吸収シートは、高い比透磁率と磁気損失(比透磁率の虚数成分)を示す1GHz以下の周波数において大きな減衰効果を示すものが多い。しかしながら、1GHzを超えると周波数の増加とともに比透磁率が急激に低下することが知られており(Snoekの限界)、周波数25GHz以上では磁界に対する所望の減衰特性が得られなくなっていることを示している。
【0013】
さらに、磁性体を利用した電波吸収体は現在入手できるものはどれも高価であり、光送受信機を低コスト化する観点からも課題である。
【0014】
また、上記従来技術においては、各々次のような問題点があり、本課題(1)〜(3)を解決するには不適当である。
【0015】
特許文献1では、(1)の課題に示したように近傍に多数の固有モードが存在するため、金属ケース内の固有モード周波数をずらすことでの空洞共振による影響の回避は困難である。
【0016】
特許文献2、3、4および非特許文献1では、金属ケース内部に磁性体のみを利用した電波吸収体を所定の場所に配置しているが、(3)の課題により空洞共振による影響の回避は困難である。
【0017】
特許文献2、5では、抵抗体のみを利用した電波吸収体、特許文献6では磁性体と抵抗体の両方を利用した電波吸収体を金属ケース内部の所定の場所に配置しているが、(2)の課題の固有モードを減衰するには不適切な配置であり、空洞共振による影響の回避は困難である。
【0018】
上記課題に鑑みて、本発明は、例えば、電気信号としてビットレートが25Gbit/s以上のデジタル変調信号を用いた光送受信機において、金属ケース内部の空洞共振を低減するとともに、低コスト化を図ることのできる光送受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(1)本発明の光送受信機は、電気信号として所定のビットレートのデジタル変調信号を用いる光送受信機であって、内部に部品を格納する空間を有するケースと、前記空間の上面と下面の間に配置され、導電率が1乃至1000S/mである抵抗体と、を有し、前記空間は、高さが前記所定のビットレートに対応する周波数の電磁波の自由空間における波長以下であり、前記空間は、少なくとも一部の高さが前記波長の半分より大きく、前記空間の高さは、前記空間の幅よりも小さく、前記空間の幅は、前記空間の奥行きよりも小さい、ことを特徴とする。
【0020】
(2)上記(1)に記載の光送受信機において、前記抵抗体の少なくとも一部は、前記ケースにより形成される前記空間の高さ方向の中心に位置することを特徴とする。
【0021】
(3)上記(1)または(2)に記載の光送受信機において、前記ビットレートは、25.78Gbit/s以上であり、前記空間の高さは、11.6mm未満である、ことを特徴とする。
【0022】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光送受信機において、前記ビットレートは、25.78Gbit/sまたは27.95Gbit/sであって、前記空間の高さは少なくとも一部が5.8mmより大きく、前記空間の高さは、10.7mm未満であることを特徴とする。
【0023】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光送受信機において、前記抵抗体は、前記ケースの幅方向に広がりを有することを特徴とする。
【0024】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光送受信機において、前記抵抗体の幅は、前記ケースの幅の86%以上100%以下の値であることを特徴とする。
【0025】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光送受信機において、前記抵抗体は、非磁性体であることを特徴とする。
【0026】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光送受信機において、前記抵抗体は、プラスチックにフィラーとして黒鉛またはカーボンブラックを用いた材質で形成されることを特徴とする。
【0027】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の光送受信機において、前記抵抗体は、前記部品を支持する支持部材であることを特徴とする。
【0028】
(10)上記(9)に記載の光送受信機において、前記部品は、光ファイバー及び/または光素子モジュールであることを特徴とする。
【0029】
(11)上記(9)に記載の光送受信機において、前記部品は、2のプリント回路基板を含み、前記抵抗体の前記ケースの幅方向に広がりを有する部分は、前記2のプリント基板の間に位置する、ことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について、
図1〜
図8を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態の光送受信機の内部構造を示す上下方向の分解斜視図、
図2は本発明の第1の実施形態の光送受信機に搭載する基板ホルダーの構造図、
図3は本発明の第1の実施形態の光送受信機の側面方向から見た断面図であり、光送受信機の中央部を通る位置での断面を表している。
図4は本発明の第1の実施形態の光送受信機の背面方向から見た基板ホルダー位置での断面図であり、
図3のIV−IV線に示す位置での断面を表している。
図5は本発明の第1の実施形態の光送受信機の内部空間を直方体で近似した図、
図6は本発明の第1の実施形態の空洞共振の固有モードを説明する図、
図7及び
図8は本発明の第1の実施形態の固有モードの電界強度分布を示す図、
図9は本発明の第1の実施形態の効果を示す光送受信機の不要電磁波強度の計算結果を示すグラフである。
【0033】
本実施の形態における光送受信機は、例えば、CFP4 MSA規格に準拠した光送受信機である。まず、
図1〜
図4を用いて本実施の形態における光送受信機1の一例について説明する。
【0034】
図1において、光送受信器1の外側は、主に、上部ケース100、下部ケース101、ベイル110などで構成される。以下、図中x方向を前方、その逆(-x方向)を後方とし、z方向を上方、その逆(-z方向)を下方と定義する。
【0035】
光送受信機1は、ネットワーク機器(図示なし)に対し後方から差し込み、光ファイバーのコネクタを前方より挿入して動作させる。
図1において上部ケース100と下部ケース101とで構成した空洞空間内に、2枚のプリント回路基板102、103、基板ホルダー120、およびTOSA(光送信サブアセンブリ)108、ROSA(光受信サブアセンブリ)109とを配置する。プリント回路基板102、103とTOSA108、ROSA109との間にはフレキシブルプリント基板112、113、114などを設け、25Gbit/s(または28Gbit/s)の主信号配線や接地配線、電圧供給配線、電流供給配線などを接続する。
【0036】
プリント回路基板102上にはCDR(Clock Data Recovery)などの主信号処理ICやチップ部品などを搭載する(図示なし)。プリント回路基板102の後方にはプラグコネクタ122を設け、ネットワーク機器との接続に用いる。プラグコネクタ122には、プリント回路基板102とネットワーク機器との間の送信側4チャネル、受信側4チャネル、合計8チャネルの25Gbit/s(または28Gbit/s)差動信号などを電気的に接続する。また、プラグコネクタ122は、上部ケース100と下部ケース101の後方のスロット開口部より外部に露出しており、活線挿抜の機能を担う。プリント回路基板103上にはマイクロコントローラやTOSA108、ROSA109の制御を行う回路などを搭載する(図示なし)。
【0037】
基板ホルダー120は、プリント回路基板102とプリント回路基板103とを保持する機能を有し、基板ホルダー120によりプリント回路基板102に対するプリント回路基板103の相対位置が固定される。基板ホルダー120の幅は、上部ケース100と下部ケース101とで構成した空間のサイズによるが、例えば19mm(W)とする。具体的には、基板ホルダー120は複数の箇所、例えば、
図2に示す場合は2箇所で上部ケース100または下部ケース101の幅方向に平面形状の広がりを持つ。各々の平面形状は、例えば、幅19mm(W)、奥行き7mmの面とする。なお、当該広がりは、上部ケース100の上面等と略平行に広がりを有する構成であれば、その他の形状であってもよい。基板ホルダー120は導電率が1-1000 S/mの範囲の抵抗体で構成するのが好ましい。更に、基板ホルダー120は導電率が10-100 S/mの範囲の抵抗体で構成するのがより好ましい。例えば、基板ホルダー120は、カーボンブラックをフィラーに用いたナイロン樹脂で構成し、その導電率が10 S/mのものとする。また、上記においては、基板ホルダー120を抵抗体で形成する場合について説明したが、基板ホルダー120とは別個に抵抗体を設けてもよい。具体的には、例えば、この場合、基板ホルダー120を抵抗体で形成せずに、基板ホルダー120とは別個に上部ケース100または下部ケース101の幅方向に平面形状の広がりを持つ抵抗体を設けてもよい。
【0038】
上部ケース100および下部ケース101の材料には、例えば亜鉛、アルミニウムなどの金属を用いる。また、上部ケース100および下部ケース101は、切削により成形してもよいが、ダイカストで一体成形することにより低コストに作成できる。上部ケース100と下部ケース101とで構成される内部空間のサイズは、上部ケース100と下部ケース102の厚さにもよるが、例えば、幅20.1mm(A)、高さ7.4mm(B)、 奥行き58.5mm(C)とする。
【0039】
ここで、光送受信機1において25.78Gbit/sと27.95Gbit/sの両方の方式(デュアルモード)に対応することを仮定した場合、考慮すべき不要電磁波の周波数は、周波数25.78GHzと周波数27.95GHzである。それぞれの周波数での自由空間における波長λgは11.6mmと10.7mmである。内部空間の高さ7.4mm(B)は波長λgの1/2(5.8mmと5.35mm)より大きな値としている。また内部空間の高さ7.4mm(B)は波長λg(11.6mmと10.7mm)を超えない値としている。
【0040】
図3、
図4の断面図に示すように、基板ホルダー120はケース内部の空間の上面と下面との間に配置される。具体的には、例えば、基板ホルダー120のケースの幅方向に広がりを有する部分がケース内部の空間の上面と下面との間に位置するように配置する。なお、当該ケースの幅方向に広がりを有する部分がケースの高さの中心を通る位置に配置することが望ましい。また、
図4の断面図に示すように、基板ホルダー120の幅はケース内部空間の幅に近くまで広げており、幅の95%に相当する大きさにしている。なお、内部空間の高さの中心については、
図3及び
図4において、一点鎖線で示す。また、
図3及び
図4は、それぞれ、x方向の断面図及びx方向の断面図の一例を示す。
【0041】
次に、
図5〜
図9を用いて本実施の形態の作用および効果を説明する。光送受信機1において金属からなる上部ケース200と下部ケース301とで囲まれた内部空間は、プラグコネクタ122部分の開口部を十分小さいとみなした場合、例えば、
図5に示すように、導体壁で囲まれた空洞とみなすことができる。ここで、本実施の形態におけるメカニズムを説明するために、内部空間の空洞を直方体で近似する。導体壁で囲まれた直方体の空洞で生じる固有モードはよく知られており、各固有モードの周波数frは次の式で記述される。
【数1】
【0042】
なお、Aは、直方体の幅(y方向における長さ)、Bは、直方体の高さ(z方向における長さ)、Cは直方体の奥行き(x方向における長さ)、cは真空中における光速度、m、n、sはそれぞれ整数である。ここでA、B、Cは、導波管でよく用いられている定義に順じて、B < A < Cの関係にあるものとする。各々の固有モードに対しそれを励起する位置においてfr近傍の周波数を有する励起源が配置された場合、ケース内部に空洞共振が生じることになる。また、CFP4 MSAに準拠した光送受信機の場合外形寸法がMSAにて規定されており、内部の空間の大きさは外部寸法からケースの厚さを差し引いた値となる。具体的には、例えば、内部空間の寸法が20.1mm x 7.4mm x 58.5mmとなる。
【0043】
直方体の空洞の高さ方向に定在波が生じる条件は、式(1)より求めることができる。n=1、すなわち、電界強度分布において高さ中央部に腹(anti-node)、上下端に節(node)が生じるのは、電磁波の自由空間における波長をλg(=c/f)とした場合、少なくともBがλg/2より大である必要がある。さらにn=2、すなわち電界強度分布において高さ中央部におよび上下端に節(node)、高さ1/4xB、3/4xBに腹(anti-node)、が生じるのは、少なくともBがλgより大である必要がある。
【0044】
周波数25.78GHzと周波数27.95GHzでの自由空間における波長λgは11.6mmと10.7mmである。CFP4の場合、内部空間の高さBは7.4mmであるので、n=1の固有モードが生じ、n=2(以上)の固有モードは生じないことが導き出される。また後述のように、CFP2の場合も、内部空間の高さBは10.4mmであるので、同様にn=1の固有モードが生じ、n=2(以上)の固有モードは生じないことが導き出される。
【0045】
n=1の固有モードを効率よく減衰させるには、内部空間の高さ中央部、すなわち電界強度分布において腹となる部分にケースの幅方向に広がりを持つ抵抗体を配置し、その表面インピーダンスを電磁波の反射が生じにくい値に調整すれば良い。n=0の固有モードは、高さ方向のどの位置でも同一の電界分布を生じるので、上記抵抗体の配置で固有モードを減衰できる。また、n=2の固有モードは生じないので、上記抵抗体の配置は全ての固有モードをカバーすることができる。
【0046】
図6、
図7、
図8は、上記の直方体の空洞で生じる固有モードを三次元電磁界解析手法により計算した結果である。
図6の表に示されるように、周波数25.78GHzと周波数27.95GHzの近傍には多数の固有モードが存在する。各固有モードの周波数は式(1)とよく一致し、上記の予測通り、n=1のモードは生じるが、n=2のモードは生じていない。またn、m、sのいずれかが0となるモードはTEモード(transverse electric mode)だけが生じるが、n、m、sのいずれかも0とならないモードではTEモードとTMモード(transverse magnetic mode)の2つが縮退している。
【0047】
図7、
図8は固有モードの電界強度分布の一例を示す。
図7は周波数25.43GHzに生じた(0、1、6)TEモードの(a)導体壁面での電界強度分布と(b)高さ中央部の面における電界強度分布である。電界強度の大小は濃淡で示しており、濃いほど大、薄いほど小である。中央部の面には電界強度が大となる腹の部分が生じており、この固有モードを効率よく減衰させるには水平に広がりを持ち、幅の広い抵抗体を高さ中央部に配置すれば良いことが分かる。一方、上下面には電界が生じないため、例えば上下面(すなわちケース内部の上面と底面)に抵抗体を配置してもこの固有モードに対しては減衰効果を得ることができないことも分かる。
【0048】
図8は、周波数25.67GHzに生じた(2、1、2)TMモードの(a)導体壁面での電界強度分布と(b)高さ中央部の面における電界強度分布である。中央部の面には電界強度が大となる腹の部分が生じており、この固有モードを効率よく減衰させるには水平に広がりを持ち、幅の広い抵抗体を高さ中央部に配置すれば良いことが分かる。一方、上下面には電界が生じないため、上下面(すなわちケース内部の上面と底面)に抵抗体を配置してもこの固有モードに対しては減衰効果を得ることができないことも分かる。
【0049】
このように我々の検討によるとケースの内部空間の上面と下面の間に抵抗体を配置し、その抵抗体の形状をケースの幅方向に広がりを持つように構成することで、光送受信機のケース内部に生じるであろう25GHzおよび28GHz近傍の全ての固有モードが減衰できることを見出した。
【0050】
なお、実際の光送受信器においては、上部ケースと下部ケースとで囲まれた内部空間の形状は直方体とは限らず、またTOSA、ROSAといった金属からなる部品も配置されるため、共振現象はこれよりさらに複雑となるが、上記のメカニズムは同様に機能する。
【0051】
図9は、
図1で示した光送受信機の構造における不要電磁波強度を、三次元電磁界解析手法により計算した結果のグラフである。周波数範囲は25.78GHzから28.25GHzとし、一つの指針としてこの範囲の中での周波数依存性を求めたものである。本実施の形態による基板ホルダー120を用いた場合の結果を◆印で示している。ここで、基板ホルダー120は、導電率10 S/mを有するものとした。比較のため、同一構造で基板ホルダー120のみを削除した場合の結果を○で示している。基板ホルダー120がない場合にはケース内部に強い共振モードが多数観測され、不要電磁波強度が周波数の変化とともに大きく変動した。また、その変動幅は10dBを超えた。これに対して、基板ホルダー120を適用した場合には、ケース内部の共振が抑制され、周波数変化による不要電磁波強度の変動幅は3dB以下と小さく、周波数による変動が低減された。また、不要電磁波強度は基板ホルダー120の適用により12dB以上低減した。
【0052】
上記のように、本実施形態では、基板ホルダー120は複数の箇所(2箇所)で上記ケースの幅方向に広がりを持つ。このように、プリント回路基板102の前方端近くと後方端近くの2箇所に上記ケースの幅方向に広がりを持ち、ケースの内部空間の上面と下面との間に抵抗体を配置したことにより、前方、すなわち光ファイバーと接続する光コネクタとケース部品との間に生じる隙間からの不要電磁波放射と、後方、すなわちネットワーク機器と接続する電気コネクタとケース部品との間に生じる隙間からの不要電磁波放射の両方を低減する効果を有する。
【0053】
また、本実施形態によれば電気変調信号としてビットレートが25.78Gbit/sと27.95Gbit/sの両方の方式に対応する100Gbit/s級のデュアルモード光送受信機において、金属ケース内部の空洞共振を低減できる光送受信機を実現することが可能である。さらに不要電磁波の低減と低コスト化を両立した光送受信機を実現することができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、上記実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
【0055】
例えば、上記においては、基板ホルダー120をナイロン樹脂で構成するとしたが、これに限るものではなく、例えばポリスチレン(PS)樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であっても良い。また、基板ホルダー120を構成する樹脂にカーボンブラックをフィラーとして用いるとしたが、これに限るものではない。具体的には、導電率が1-1000 S/mの範囲を低コストで実現できるものであればよく、例えば、黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノコイル、などであっても良い。
【0056】
また、上記においては、基板ホルダー120の幅をケース内部空間の幅Aの95%に相当する大きさとしたが、幅Wの値はこれに限るものではない。
図6に示した固有モードを照らし合わせると、内部空間の幅方向には最大m=3のモードが生じる可能性がある。これを鑑みるとm=3のモードの電界強度の3個のピーク(腹)をカバーするには内部空間の幅Aの2/3以上の幅が必要である。幅Wの値はケース内部空間の幅Aにより近いことが好ましいことはもちろんであるが、幅Aの2/3から1(すなわち67%から100%)の範囲で選択しても良い。なお、上記
図1乃至
図9に示した構成等は一例であって、本実施の形態はこれに限られるものではない。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。本実施の形態においては、主に、基板ホルダーの形状が上記第1の実施形態と異なる。なお、下記において第1の実施形態と同様である点については説明を省略する。
【0058】
図10は、本発明の第2の実施形態の光送受信機の内部構造を示す上下方向の分解斜視図、
図11は、本発明の第2の実施形態の光送受信機に搭載する基板ホルダーの構造図である。
【0059】
図10及び
図11に示すように、基板ホルダー121は単独の箇所でケースの幅方向に広がりを持つ。当該広がり部分は、平面形状であって、例えば、幅19mm(W)、奥行き24mmの平面形状とする。また、基板ホルダー121は、導電率が1-1000 S/mの範囲の抵抗体で構成するのが好ましい。更に、導電率が10-100 S/mの範囲の抵抗体で構成するのがより好ましい。具体的には、例えば、基板ホルダー121はカーボンブラックをフィラーに用いたナイロン樹脂で構成し、その導電率が10 S/mのものとする。なお、
図10及び
図11に示す抵抗体(基板ホルダー121)の広がり部分の形状は一例であって、その他の形状であってもよい。例えば、
図10及び
図11においては、1の平面形状で抵抗体が構成する場合を示すが、隣接する複数の平面形状を有するように構成してもよい。また、上記においては、基板ホルダー121を抵抗体で形成する場合について説明したが、基板ホルダー121とは別個に抵抗体を設けてもよい。具体的には、例えば、この場合、基板ホルダー121を抵抗体で形成せずに、基板ホルダー121とは別個に上部ケース100または下部ケース101の幅方向に平面形状の広がりを持つ抵抗体を設けてもよい。
【0060】
本実施形態によっても第1の実施形態と同様の効果が得られる。具体的には、例えば、電気変調信号としてビットレートが25.78Gbit/sと27.95Gbit/sの両方の方式に対応する100Gbit/s級のデュアルモード光送受信機において、金属ケース内部の空洞共振を低減できる光送受信機の構造を提案することが可能である。さらに、不要電磁波の低減と低コスト化を両立した光送受信機を実現することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記第2の実施形態に限定されるものではなく、上記実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
【0062】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。なお、下記において第1または第2の実施形態と同様である点については説明を省略する。
【0063】
本発明の第3の実施形態について、
図12〜
図20を用いて説明する。
図12は、第3の実施形態の光送受信機の内部構造を示す上下方向の分解斜視図、
図13は、第3の実施形態の光送受信機に搭載する2つのホルダーの構造図、
図14は、第3の実施形態の光送受信機の側面方向から見た断面図であり、
図12のXIV−XIV線を通る位置での断面を示す。
図15は本、第3の実施形態の光送受信機の前方方向から見た2つのホルダー位置での断面図であり、上が
図14のXV−XV線を通る位置での断面、下がXVI−XVI線を通る位置での断面を示す。
図16は、空洞共振の固有モードを説明する図、
図17、
図18は、固有モードの電界強度分布を示す図、
図19は、第3の実施形態の効果を示す光送受信機の不要電磁波強度の変動幅の計算結果を示すグラフ、
図20は、第3の実施形態の効果を示す光送受信機のケースシールド効果の計算結果を示すグラフである。
【0064】
第3の実施形態における光送受信機は、例えば、CFP2 MSA規格に準拠した光送受信機2である。まず、
図12〜
図15を用いて本実施の形態における光送受信機2の構成を説明する。
【0065】
図12において、光送受信器2の外側は、主に上部ケース200、下部ケース201、ベイル210などで構成される。以下、図中x方向を前方、その逆(-x方向)を後方とし、z方向を上方、その逆(-z方向)を下方と定義する。
【0066】
光送受信機2は、ネットワーク機器(図示なし)に対し後方から差し込み、光ファイバーのコネクタを前方より挿入して動作させる。
図12において、上部ケース200と下部ケース201とで構成した空洞空間内に2枚のプリント回路基板202、203、ファイバーホルダー220、光学マルチプレクサ(Optical Multiplexer)223、レセプタクルファイバコネクタ224、および4個のTOSA(光送信サブアセンブリ)208、ROSA(光受信サブアセンブリ)209、OSAホルダー221とを配置する。プリント回路基板202とTOSA208、ROSA209との間にはフレキシブルプリント基板212などを設け、25Gbit/s(または28Gbit/s)の主信号配線や接地配線、電圧供給配線、電流供給配線などを接続する。
【0067】
プリント回路基板202上にはCDR(Clock Data Recovery)などの主信号処理ICやチップ部品などを搭載する(図示なし)。プリント回路基板202の後方にはプラグコネクタ222を設け、ネットワーク機器との接続に用いる。プラグコネクタ222は、プリント回路基板202とネットワーク機器との間の送信側4チャネル、受信側4チャネル、合計8チャネルの25Gbit/s(または28Gbit/s)差動信号などを電気的に接続する。また、プラグコネクタ222は、上部ケース200と下部ケース201の後方のスロット開口部より外部に露出しており、活線挿抜の機能を担う。
【0068】
ファイバーホルダー220は、4個のTOSA208から光学マルチプレクサ223へ延びる4本の光ファイバーと、光学マルチプレクサ223とROSA209からレセプタクルファイバコネクタ224へ延びる各々1本の光ファイバーの余長部分のファイバー部分を束ねて保持する機能を有する。ファイバーホルダー220の幅は、上部ケース200と下部ケース201とで構成した空間のサイズによるが、例えば34.6mm(W1)とする。
【0069】
図13に示すように、ファイバーホルダー220は上部ケース200または下部ケース201の幅方向に広がりを持つ。また、ファイバーホルダー220は、導電率が1-1000 S/mの範囲の抵抗体で構成するのが好ましい。更に、導電率が10-100 S/mの範囲の抵抗体で構成するのがより好ましい。具体的には、例えば、ファイバーホルダー220は、カーボンブラックをフィラーに用いたナイロン樹脂で構成し、その導電率が10 S/mのものとする。
【0070】
OSAホルダー221は、4個のTOSA208および1個のROSA209を保持する機能を有する。OSAホルダー221によりプリント回路基板202に対する4個のTOSA208および1個のROSA209の相対位置が固定される。OSAホルダー221の幅は、上部ケース200と下部ケース201とで構成した空間のサイズによるが、例えば38.5mm(W2)とする。
【0071】
図12に示すように、OSAホルダー221は、上部または上部ケース200または下部ケース201の幅方向に広がりを持つ。OSAホルダー221は、導電率が1-1000 S/mの範囲の抵抗体で構成するのが好ましい。更に、OSAホルダー221は、導電率が10-100 S/mの範囲の抵抗体で構成するのがより好ましい。具体的には、例えば、OSAホルダー221は、カーボンブラックをフィラーに用いたナイロン樹脂で構成し、その導電率が10 S/mのものとする。
【0072】
上部ケース200および下部ケース201の材料には、例えば、亜鉛、アルミニウムなどの金属を用いる。また、上部ケース200および下部ケース201は、切削により成形してもよいが、ダイカストで一体成形することにより低コストに作成できる。上部ケース200と下部ケース201とで構成される内部空間のサイズは、上部ケース200と下部ケース201の厚さにもよるが、例えば幅40.0mm(A)、高さ10.4mm(B)、 奥行き85.4mm(C)とする。
【0073】
ここで、光送受信機2において25.78Gbit/sと27.95Gbit/sの両方の方式(デュアルモード)に対応することを仮定した場合、考慮すべき不要電磁波の周波数は、周波数25.78GHzと周波数27.95GHzである。それぞれの周波数での自由空間における波長λgは11.6mmと10.7mmである。内部空間の高さ10.4mm(B)は波長λgの1/2(5.8mmと5.35mm)より大きな値としている。また、内部空間の高さ10.4mm(B)は波長λg(11.6mmと10.7mm)を超えない値としている。
【0074】
図12、
図14、
図15に示すように、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221はケースの内部空間の上面と下面の間に配置する。具体的には、例えば、当該内部空間の高さの中心(
図14及び
図15においては一点鎖線で記載)がファイバーホルダー220およびOSAホルダー221の少なくとも一部を通過するように構成する。また、
図15の断面図に示すように、ファイバーホルダー220の幅W1はケース内部空間の幅Aに近くなるように広げ、具体的には、
図15においては、例えば、幅Aの86.5%に相当する大きさにしている。また、OSAホルダー221の幅W2は、ケース内部空間の幅Aに近くまで広げ、
図15においては、例えば、幅Aの96%に相当する大きさにしている。なお、
図14、15は、それぞれ
図12におけるy方向の断面図の一例、x方向と逆方向の断面図の一例を示す。
【0075】
次に、
図16〜
図20を用いて本実施形態における光送受信機2の作用および効果を説明する。例えば、CFP2 MSAに準拠した光送受信機2の場合、外形寸法がMSAにて規定されており、内部の空間の大きさは外部寸法からケースの厚さを差し引いた値となる。具体的には、例えば内部空間の寸法が40mm x 10.4mm x 85.4mmとなる。
【0076】
ここで、直方体の空洞の高さ方向に定在波が生じる条件は、第1の実施形態と同様に、式(1)により求めることができる。n=1、すなわち電界強度分布において高さ中央部に腹(anti-node)、上下端に節(node)が生じるのは、電磁波の自由空間における波長をλg(=c/f)とした場合、少なくともBがλg/2より大である必要がある。さらに、n=2、すなわち電界強度分布において高さ中央部におよび上下端に節(node)、高さ1/4xB、3/4xBに腹(anti-node)、が生じるのは、少なくともBがλgより大である必要がある。
【0077】
周波数25.78GHzと周波数27.95GHzでの自由空間における波長λgは11.6mmと10.7mmである。そして、CFP2の場合、内部空間の高さBは10.4mmであるので、n=1の固有モードが生じ、n=2(以上)の固有モードは生じないことが導き出される。
【0078】
n=1の固有モードを効率よく減衰させるには、内部空間の高さの中央部、すなわち電界強度分布において腹となる部分に水平に広がりを持つ抵抗体を配置し、その表面インピーダンスを電磁波の反射が生じにくい値に調整すれば良い。n=0の固有モードは、高さ方向どの位置でも同一の電界分布を生じるので、上記抵抗体の配置で固有モードを減衰できる。またn=2の固有モードは生じないので、上記抵抗体の配置は全ての固有モードをカバーすることができる。
【0079】
図16、
図17、
図18は、上記の直方体の空洞で生じる固有モードを三次元電磁界解析手法により計算した結果である。
図16の表に示されるように、周波数25.78GHzと周波数27.95GHzの近傍には、非常に多くのの固有モードが存在する。各固有モードの周波数は式(1)とよく一致し、上記の予測通り、n=1のモードは生じるが、n=2のモードは生じていない。またn、m、sのいずれかが0となるモードはTEモード(transverse electric mode)だけが生じるが、n、m、sのいずれかも0とならないモードではTEモードとTMモード(transverse magnetic mode)の2つが縮退している。
【0080】
図17、
図18は、固有モードの電界強度分布の一例を示す。
図17は、周波数25.52GHzに生じた(0、1、12)TEモードの(a)導体壁面での電界強度分布と(b)高さ中央部の面における電界強度分布である。電界強度の大小は濃淡で示しており、濃いほど大、薄いほど小である。中央部の面には電界強度が大となる腹の部分が生じており、この固有モードを効率よく減衰させるには水平に広がりを持ち、幅の広い抵抗体を高さの略中央に配置すれば良いことが分かる。
【0081】
一方、上下面には電界が生じないため、上下面(すなわちケース内部の上面と底面)に抵抗体を配置してもこの固有モードに対しては減衰効果を得ることができないことも分かる。
【0082】
図18は周波数25.80GHzに生じた(1、1、12)TMモードの(a)導体壁面での電界強度分布と(b)高さ中央部の面における電界強度分布である。中央部の面には電界強度が大となる腹の部分が生じており、この固有モードを効率よく減衰させるには水平に広がりを持ち、幅の広い抵抗体を高さ中央部に配置すれば良いことが分かる。一方、上下面には電界が生じないため、上下面(すなわちケース内部の上面と下面)に抵抗体を配置してもこの固有モードに対しては減衰効果を得ることができないことも分かる。
【0083】
このように我々の検討によるとケースの内部空間の上面と下面との間に抵抗体を配置し、その抵抗体の形状をケースの幅方向に広がりを持つように構成することで、光送受信機のケース内部に生じるであろう25GHzおよび28GHz近傍の全ての固有モードが減衰できることを見出した。
【0084】
実際の光送受信器2において、上部ケースと下部ケースとで囲まれた内部空間の形状は直方体とは限らず、またTOSA、ROSAといった金属からなる部品も配置されるため、共振現象はこれよりさらに複雑となるが、上記のメカニズムは同様に機能する。
【0085】
図19、
図20は、三次元電磁界解析手法により、
図12で示した光送受信機の構造における不要電磁波強度の算出結果に基づき、周波数25.78GHzから28.25GHzの範囲における変動幅(
図19)と、その変動幅を考慮した期待されるケースシールド量(
図20)を示すグラフである。ここで、各々のグラフの横軸は、抵抗体であるファイバーホルダー220およびOSAホルダー221の導電率であり、この値をパラメータとして0.01S/mから10000S/mの範囲で検討したものである。比較のため、同一構造でファイバーホルダー220とOSAホルダー221を通常のプラスチック(導電率0)とした場合(比較例)の結果を図中破線で示している。比較例においては、ケース内部に強い共振モードが多数観測され、不要電磁波強度が周波数の変化とともに大きく変動した。その変動幅は16dBを超えた。これに対して、ファイバーホルダー220とOSAホルダー221を抵抗体とした場合にはケース内部の共振が抑制され、周波数変化による不要電磁波強度の変動幅を低減することができた。
【0086】
具体的には、
図19に示すように、抵抗体の導電率を1-1000 S/mの範囲にすることにより変動幅を5dB-8dB低減でき、特に、10 S/mの場合には変動幅を8dBにまで抑圧する効果が得られる。さらに、
図19に示すように、抵抗体の導電率を1-1000 S/mの範囲にすることによりケースシールド効果を16dB-30dB改善できる効果が得られている。なお、
図19、20からわかるように、抵抗体の導電率は、10-100 S/mとすることがより好ましい。
【0087】
また、ケース内部の前方端近くとプリント回路基板202の前方端近くの2箇所にケースの幅方向の広がりを持ち、ケースの内部空間の上面と下面との間に抵抗体(ファイバーホルダー220とOSAホルダー221)を配置したことにより、前方、すなわち光ファイバーと接続する光コネクタとケース部品との間に生じる隙間からの不要電磁波放射をより効果的に低減する効果を有する。
【0088】
本実施の形態によれば、例えば、電気変調信号としてビットレートが25.78Gbit/sと27.95Gbit/sの両方の方式に対応する100Gbit/s級のデュアルモード光送受信機において、金属ケース内部の空洞共振を低減できる光送受信機の構造を提案することが可能である。さらに不要電磁波の低減と低コスト化を両立した光送受信機を実現することができる。
【0089】
本発明は、上記第1乃至第3の実施の形態に限定されるものではなく、上記第1乃至第3の実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
【0090】
例えば、上記第3の実施形態においては、ファイバーホルダー220の幅W1をケース内部空間の幅Aの86.5%に相当する大きさとし、またOSAホルダー221の幅W2をケース内部空間の幅Aの96%に相当する大きさとしたが、幅W1、W2の値はこれに限るものではない。
図15に示した固有モードを照らし合わせると、内部空間の幅方向には最大m=7のモードが生じる可能性がある。これを鑑みるとm=7のモードの電界強度の7個のピーク(腹)をカバーするには内部空間の幅Aの6/7以上の幅が必要である。幅W1、W2の値はAにより近いことが好ましいことはもちろんであるが、幅Aの6/7から1(すなわち86%から100%)の範囲で選択しても良い。
【0091】
上記第3の実施形態においては、光送受信機2をCFP2 MSA規格に準拠した光送受信機、つまり4波多重の光送受信機としたが、CFP2-ACO(Analog Coherent Optics)と呼ばれる長距離用途のコヒーレント光送受信機であってもよい。その場合、送受信機の外形寸法は同じであるが、内部搭載部品の種類および課題となる周波数が異なる。CFP2-ACOでは光信号の変調として多値変調、例えばDP-QPSK(Dual Polarization - Quadrature Phase Shift Keying)を用い、1波長で128Gbit/s(より詳しくは127.156GHz)の光信号を送受する。プラグコネクタ122、プリント回路基板202とネットワーク機器との間にはシンボルレート31.789Gbaudの送信側4チャネル、受信側4チャネル、合計8チャネルの電気的な差動変調信号が流れる。考慮すべき不要電磁波の周波数は31.789GHzとなる。この周波数での自由空間における波長λgは9.44mmである。よって、CFP2-ACOの場合には内部空間の高さBを10.4mmではなく、9.44mm以下になるように変更する。
【0092】
また、上記第3の実施形態においては、抵抗体として、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221を用いる場合について説明したが、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221を一体として形成してもよいし、また、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221と別個に抵抗体を設け、ケースの内部の空間の上面と下面に配置するように構成してもよい。具体的には、例えば、この場合、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221を抵抗体で形成せずに、ファイバーホルダー220およびOSAホルダー221とは別個に上部ケース200または下部ケース201の幅方向に平面形状の広がりを持つ抵抗体を設けてもよい。また、抵抗体の材料としては、例えば、ポリカーボネート、ナイロン6、ポリアリレートまたはポリプロピレンカーボネートに、フィラーとしてカーボンブラックまたは黒鉛を用いてもよい。また、抵抗体は、例えばポリスチレン(PS)樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であっても良い。また、上記においては、主に、抵抗体を構成する樹脂にカーボンブラックをフィラーとして用いるとしたが、これに限るものではない。具体的には、導電率が1-1000 S/mの範囲を低コストで実現できるものであればよく、例えば、黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノコイル、などであっても良い。
【0093】
さらに、上記第1乃至第3の実施形態においては、抵抗体を電界強度の減衰のためだけではなく、基板やファイバー、そしてOSAのホルダーとしての機能も備えた例で説明したが、単に電界強度の減衰のためだけに適当な板状等の抵抗体を配置しても構わない。ただし、低コスト化のためには何かしらの機能を備えた抵抗体を用いることが好ましい。