【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、GaN中のドーパント種を活性化する方法であって、前記の欠陥の少なくとも1つを克服する方法を提供することが求められている。この目的のために、本発明は、以下のGaN膜中のドーパント種の電気的活性化方法を提案し、これは、
支持基板と、ドーパント種を含むGaN膜とを含む積層体を準備するステップ(a)、
厚さ2μmを超える遮蔽層をGaN膜の表面に直接接合によって接合し、活性化構造を形成するステップ(b)、
前記ドーパント種の少なくとも一部を電気的に活性化する条件に従って、前記活性化構造に対して熱履歴を加えるステップ(c)、
を含む。
【0005】
本書面において、「直接接合」とは、介在する接着性材料、バインダー又は接着剤無しに直接接合が行われることを意味する。しかし、本書面において、「直接接合」は、「分子付着による接合」又は「分子結合」を意味する場合があり、これは、直接の接触又は遮蔽層とGaN膜との間接的接触によって生じる。実際に、1つ又はそれ以上の個別の層を挿入することは可能であり、例えば遮蔽層とGaN膜との接合を容易にする層を挿入しても良い。
【0006】
「ドーパント種の少なくとも一部を電気的に活性化する」とは、少なくとも一部のドーパント種がGaN結晶のガリウムサイト(置換サイト)に位置することを意味する。ドーパント種の活性化率は非常に変化が大きく、材料に顕著な影響が見られる。つまり、Mg注入の場合、1%から20%の注入種が活性化されれば十分である(典型的には1%から5%のオーダーである)。シリコンドーパントの場合、注入したシリコンの少なくとも90%を活性化する必要がある。仮に、ドーピングがGaN膜のエピタキシャル成長中に行われた(これに続く注入によってドーピングされたのではない)とすると、ドーパント種の100%を活性化することもできる。
【0007】
このように、本発明の方法により、GaN層の劣化を制限しながら、イオン種の活性化に適合する熱履歴を加えることができる。実際、直接接合により、GaN膜上に層を堆積することにより得られた結合の機械的強度に比べて、遮蔽層とGaN膜との結合の機械的強度は強化されている。本発明の方法により、遮蔽層を剥離させる条件は、到達できるよりも極端である。従って、堆積層を設けて熱履歴を加えることで活性化する場合に比べ、剥離のおそれ無しに活性化のための熱履歴を増加させることができる。
【0008】
加えて、遮蔽層を直接接合することにより、非常に大きい層の厚さを選択することができる。これは、特に格子パラメータの違いが原因となっており、層を堆積する場合には不可能である。遮蔽層が十分に厚く、結晶の品質が高ければ、剥離のおそれは顕著に低減されることが分かっていた。しかし、そのような厚さ(典型的には2μmよりも厚く、更には5μm又は10μmよりも厚い)を堆積により高い結晶の品質で達成するのは困難であった。堆積は、GaNの存在に適合する温度(典型的には800℃前後)にて行わねばならず、そのせいで高い結晶の品質は得られなかった。
【0009】
実施方法の1つによると、熱履歴を加えるステップ(c)は、少なくとも1つの熱処理を1000℃よりも高温、更には1200℃よりも高温にて、数分から数日の期間行うステップを含む。特に、これらの温度よりも更に上げることもでき、例えば1300℃、更には1350℃もシリコン支持基板を用いれば可能であり、サファイア支持基板を用いれば1600℃まで上げても良いが、この場合は非常に短い熱処理時間とする。
【0010】
熱履歴を加える条件は、活性化するドーパント種の性質及びGaN膜内における濃度と、ドープされたGaNの予期される電気的性質とに依存すると理解される。例えばドーパント種がシリコンである場合、活性加熱処理の時間は、1250℃において5分であっても良い。これにより、90%を超えるドーパントが活性化される。ドーパント種がマグネシウムである場合、熱処理は1250℃において48時間であっても良い。これにより、典型的にはドーパントの5%を活性化させる。
【0011】
他の実施方法によると、熱履歴を加えるステップ(c)は、連続した複数の熱処理を行うことを含み、個々の熱処理は、同一又は異なる温度において、同一又は異なる時間、行う。出願人の観測によると、実際、熱処理を複数回行うことにより、加えることのできる熱履歴の総和を増やすことができる。GaNの劣化を起こすことなく、1100℃で4時間を4回繰り返すことができた。
【0012】
望ましくは、本件の方法は、ステップ(a)の前に、支持基板の表面にGaN膜をエピタキシャル成長させるステップ(i)を含む。これにより結晶性のGaN、更には単結晶GaNさえ得られ、欠陥はほとんど無い。この結晶性の品質により、当該膜から形成される電子部品又は装置の性能を最適化することができる。
【0013】
1つの可能性として、ドーピングは、ステップ(i)のエピタキシャル成長の間に行うことができる。
【0014】
典型的には、本発明の方法は、ステップ(a)の前に、GaN膜内のドーパント種を拡散させるステップ(k)を備えている。
【0015】
他の可能性によると、本件方法は、ステップ(a)の前に、GaN膜にドーパントを注入するステップ(j)を備えている。これにより、後に行う装置又は電子部品の製造に望ましい、局在化されたドーピングが可能となる。また、これにより(エピタキシャル成長中のドーピングとは異なり)、その箇所に実現される装置に応じて局在化された場所に対し、逆の型(n及びp)のドーピング領域を容易に実施できる。このために、例えば、異なるマスクを通じて注入を行うこともできる。種(n及びp)は、同時に活性化することもできる。
【0016】
ドーパント種は、n型又はp型であって良く、例えば、順にnドーピングのためのシリコンでも良いし、pドーピングのためのマグネシウム、Ca、Beでも良いし、Mgと、P、Ca、O又はNとの共注入でも良い。注入は、どのような工業的注入装置によって行っても良い。ドーパントの性質により、室温、低温(典型的には-15℃)又は高温(500℃まで)にて行う。注入パラメータ、例えばエネルギー及びドーズ量は、最終的に望む電気的性質に基づいて決められる。エネルギーは、所望の注入深さの関数である。典型的には、Mg又はSiの注入については、エネルギーは200 keVの範囲であり、これによって約400 nmの深さの注入が行われる。注入量は、Mg又はSiについて2×10
15at/cm
2程度であり、これにより電子部品又は装置を製造するために十分なn又はpの電気特性を得ることができる。
【0017】
他の選択肢によると、注入のステップ(j)は、n型及びp型の両方のドーパントの注入を含む。
【0018】
支持基板の熱膨張係数は、遮蔽層の熱膨張係数に近い値であることが望ましく、これにより、破損のおそれなく該構造に高温(典型的には1200℃又は更に上)の活性化アニールを行うことができる。
【0019】
支持基板の材料は、遮蔽層と同一であることが望ましい。この実施形態によると、構造の活性化時の温度変化による収縮又は伸長の違いから生じる制約の発生を限定できる。つまり、遮蔽層の脆化のおそれは限定される。遮蔽層の接着性は弱められず、従って遮蔽層の剥離のおそれは低減される。
【0020】
1つの実施方法では、支持基板はサファイアからなり、且つ、遮蔽層はサファイア又はアルミナからなる。この場合、ドーパントの活性化のための熱処理を1400℃と1600℃との間で行うことができ、望ましい。
【0021】
他の実施方法では、支持基板はシリコンからなり且つ遮蔽層はシリコン又はガラス(後者については、加えようとしている熱履歴に適応した熱膨張係数を有する場合)からなる。この場合、ドーパントの活性化のための熱処理は、1000℃から1350℃、望ましくは1000℃から1250℃にて行われる。
【0022】
望ましくは、遮蔽層は結晶性材料からなる。結晶性材料は非結晶性材料よりも優れた耐熱性を有するので、熱履歴を加える際に遮蔽層が損傷を受けるおそれは限定される。
【0023】
1つの可能性によると、本件方法は、ステップ(c)の前に、GaN膜上及び/又は遮蔽層上に接合層を堆積するステップを備え、接合層は、SiO
2、Si
3N
4、AlN、Al
2O
3及びアモルファスSiから選ばれた少なくとも1つの材料を含む。
【0024】
遮蔽層とGaN膜表面との間に挟まれたこの接合層により、直接接合と、高い接合エネルギーを実現しやすくなる。「接合層」は、接着剤又は接着性材料を構成する材料の層を意味するのではなく、直接接合を促進する層を意味すると理解される。
【0025】
望ましくは、接合層はAlN層及びSiO
2層を含む。この場合、AlN層は汚染の拡散に対する障壁として有効に働く。実際、ステップ(c)において加える熱履歴の温度において、遮蔽層に含まれる元素、例えばシリコンは、GaN膜に拡散し得る。このような元素は、GaNを汚染して電気的特性を変えることがある。特にp型ドーピングの場合、遮蔽層のシリコン(n型ドーパント)が拡散してくると、GaN膜のp型ドーピングを相殺してしまう。
【0026】
1つの可能性によると、本件方法は、接合のステップ(b)の前に、イオン種をソース基板に注入して脆化面を形成し、その両側を遮蔽層と、ソース基板の残部とに区切るステップ(k)を含む。
【0027】
このステップ(k)により、GaN膜上の厚さ2μmを超える遮蔽層を容易に移動することができる。更に、ソース基板の残部を再利用することができるので、特に結晶化ソース基板を用いる場合に、費用を節約することができる。ステップ(k)におけるソース基板を脆化させるイオン種の注入は遮蔽層を通して行われ、それが次にGaN膜に接合されて活性化構造を形成する。
【0028】
1つの可能性によると、本件方法は、接合のステップ(b)の前に、遮蔽層上に被覆層を堆積するステップ(m)を備え、被覆層は、SiO
2、Si
3N
4、AlN、Al
2O
3及びアモルファスSiから選ばれた少なくとも1つの材料を含む。
【0029】
この被覆層により、例えば安価な材料によって遮蔽層の厚さを増加させることができ、それにより剛性を増すことができる。被覆層は、典型的には5から10μmの範囲の最大厚さを有する。GaN膜上に直接行われる堆積膜と比較すると、被覆層の堆積が促進されるので(特に、遮蔽層がシリコンからなる場合)、結晶性の良い堆積膜が得られ、より重要な後に続く熱履歴を考慮することができる。
【0030】
望ましくは、被覆層を堆積するステップ(m)は、注入のステップ(k)と接合のステップ(b)との間に行われる。これにより、被覆層により厚くなり且つ2μmよりも厚い遮蔽層を得ることができる。例えば、厚さは5から10μmであり、非常に高価である非常に深い注入条件を用いる必要は無い。
【0031】
他の可能性によると、被覆層はGaN膜に接合されるか、又は、遮蔽層におけるGaN膜に接合された面とは反対側の面に堆積されている。得られた遮蔽層は(特に、遮蔽と保護とにおいて)効率を発揮すると共に、改善された剛性を有する。
【0032】
選択肢によると、被覆層は、接合の前に、遮蔽層とGaN膜との界面のどちらに配置されていても良い。以上の全ての被覆層に関する選択肢は、組み合わせてもよい。
【0033】
望ましくは、本件方法は、注入のステップ(k)及び接合のステップ(b)の後に、脆化面においてソース基板を破断させるための破断熱処理を行うステップ(n)を備える。
【0034】
1つの可能性によると、破断熱処理を行うステップ(n)は、熱履歴を加えるステップ(c)と同時に行う。これにより、同じ炉において適切な温度傾斜を加えることによって破断の熱処理と活性化とを行うことができる。
【0035】
1つの選択肢によると、遮蔽層は自己保持層であって、且つ、望ましくは遮蔽層はバルク基板である。「自己保持層」という言葉は、取り扱えるだけの機械的強度を備え、特に、巻き上がることがない厚さを有することを意味する。この厚さは材料の性質に依存する。一般に、自己保持層は15μmを超える厚さを有し、望ましくは50μmを超える厚さである。
【0036】
「バルク基板」という言葉は、単一材料であり且つ50μmを超える厚さを備える基板を意味し、厚さは、商業的に入手できるほとんどの基板のように、典型的には750μm程度である。バルク基板を本発明にて用いると、商業的に入手可能な基板の利点を活用できる。つまり、安価であり且つ使用前に重要な準備が不要である。
【0037】
従って、この遮蔽層を得る方法によると、2μmを超える厚さを選択することができ、10μm、20μm又は100μm、更にそれ以上の厚さを選択することもできる。これにより、遮蔽層の厚さをドーパント種の活性化熱履歴に適応させることができる。
【0038】
更なる実施方法によると、本件方法は、熱履歴を加えるステップ(c)の後に、遮蔽層を除去してドープされたGaN膜の上面を露出させるステップ(d)を備える。従って、この方法により、特に、パワーマイクロエレクトロニクス及び光電子工学の分野において用いる準備のできたGaN膜を得ることができる。
【0039】
望ましくは、本方法は、ステップ(d)の後に、光電子工学又はパワーデバイスの分野のためにドープされたGaN膜から電子部品又は装置を製造するステップ(e)を備える。
【0040】
本発明の他の面、目的及び利点は、以下の2つの実施形態の説明を読めばより明らかになるだろう。説明は非限定的な例示であり、また、対応する図を参照している。読みやすさを高めるために、図は必ずしも寸法通りには描かれていない。図において破線は脆化面を示すために用いられている。以下の説明では、単純化のために、異なる実施形態における同一、類似又は等価な構成要素は同じ符号が付されている。