【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤及び炭化ケイ素粒子を必須成分として含有し、更に、アニオン系界面活性剤、及び炭素数2〜50のアルカノールアミンを含有する無電解めっき液、当該無電解めっき液により形成されためっき皮膜、及び当該めっき液に被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程を有するめっき皮膜の形成方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の無電解めっき液、めっき皮膜、めっき品及びめっき皮膜の形成方法に関する。
1.水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤及び炭化ケイ素粒子を必須成分として含有する無電解めっき液であって、
第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種、並びに、アニオン系界面活性剤を含有する、ことを特徴とする無電解めっき液。
2.前記アニオン系界面活性剤は、ナトリウムスルホネートである、上記項1に記載の無電解めっき液。
3.前記第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種は、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、コリン、カルニチン、グリセロホスホコリン、及びロクロニウムブロミドから選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の無電解めっき液。
4.前記アニオン系界面活性剤の含有量は0.01〜100g/Lである、上記項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき液。
5.前記第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンの含有量の合計は、0.001〜50g/Lである、上記項1〜4のいずれかに記載の無電解めっき液。
6.上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき液を用いて形成されためっき皮膜。
7.上記項6に記載のめっき皮膜を有するめっき品。
8.上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき液に、被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程1を有する、めっき皮膜の形成方法。
9.工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する工程2を有する、上記項8に記載のめっき皮膜の形成方法。
10.前記熱処理の温度は300〜500℃である、上記項9に記載のめっき皮膜の形成方法。
【0010】
本発明の無電解めっき液は、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤及び炭化ケイ素粒子を必須成分として含有し、且つ、第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種、並びに、アニオン系界面活性剤を含有する。本発明の無電解めっき液は、炭化ケイ素粒子を含有するので、当該めっき液を用いて形成されるめっき皮膜が耐摩耗性に優れている。更に、本発明の無電解めっき液は、第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種、並びに、アニオン系界面活性剤を含有するので、当該めっき液を用いて形成されためっき皮膜表面の摩擦係数の増加が抑制されており、当該めっき皮膜と摺動する他の部材の摩耗が抑制される。
【0011】
また本発明の無電解めっき皮膜の形成方法は、上述の構成を備える無電解めっき液に、被めっき物を接触させる工程を有しており、めっき皮膜表面の摩擦係数の増加が抑制されており、当該めっき皮膜と摺動する他の部材の摩耗が抑制されるめっき皮膜を容易に形成することができる。
【0012】
以下、本発明の無電解めっき液、めっき皮膜及びめっき皮膜の形成方法について詳細に説明する。
【0013】
1.無電解めっき液
本発明の無電解めっき液は、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤及び炭化ケイ素粒子を必須成分として含有し、更に、第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種、並びに、アニオン系界面活性剤を含有する。
【0014】
水溶性ニッケル化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定なく使用できる。例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等を用いることができる。特に、溶解性が良好である点で硫酸ニッケルが好ましい。水溶性ニッケル化合物は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。水溶性ニッケル化合物の濃度は、0.001〜1mol/L程度とすることが好ましく、0.01〜0.3mol/L程度とすることがより好ましい。
【0015】
還元剤についても特に限定はなく、無電解めっき液で用いられている公知の還元剤を用いることができる。この様な還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等を例示できる。還元剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。還元剤の濃度は、0.001〜1mol/L程度とすることが好ましく、0.002〜0.5mol/L程度とすることがより好ましい。
【0016】
錯化剤についても特に限定はなく、無電解めっき液で用いられている公知の錯化剤を用いることができる。この様な錯化剤としては、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を例示できる。更に、ホスホン酸類、アミノ酸類等も錯化剤として用いることができる。これらの錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。錯化剤の配合量は、0.001〜2mol/L程度とすることが好ましく、0.002〜1mol/L程度とすることがより好ましい。
【0017】
本発明の無電解めっき液は、炭化ケイ素粒子を含有する。炭化ケイ素粒子の形状は特に限定されず、球状、角錐、立方体形状等のいずれの形状であってもよい。
【0018】
炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、0.1〜5.0μmが好ましく、0.3〜3.0μmがより好ましい。炭化ケイ素粒子の平均粒子径が大き過ぎると、形成されるめっき皮膜と接する他の部材が摩耗し易くなるおそれがあり、小さ過ぎると、形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0019】
炭化ケイ素粒子の含有量は、0.1〜200g/Lが好ましく、0.5〜100g/Lがより好ましい。炭化ケイ素粒子の含有量が多過ぎると、形成されるめっき皮膜と接する他の部材が摩耗し易くなるおそれがあり、少な過ぎる、形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明の無電解めっき液は、第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種を含有する。
【0021】
上記アルカノールアミンの炭素数は、2〜35であることが好ましい。
【0022】
上記炭素数2〜50のアルカノールアミンとしては、炭素数2〜50の第一級〜第三級のアルカノールアミンを用いることができる。
【0023】
第一級アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン等が挙げられる。
【0024】
第二級アルカノールアミンとしては、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0025】
第三級アルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0026】
第四級アンモニウム化合物としては、コリン、カルニチン、グリセロホスホコリン、ロクロニウムブロミド等が挙げられる。
【0027】
上記第四級アンモニウム化合物、及び炭素数2〜50のアルカノールアミンは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−-ジブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、コリン、カルニチン、グリセロホスホコリン、ロクロニウムブロミド等を用いることが好ましい。
【0028】
上記第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンの含有量の合計は特に限定されないが、本発明の無電解めっき液の量を1Lとして、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜10g/Lがより好ましい。上記第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンの含有量の合計が少な過ぎると形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがあり、多過ぎるとめっき皮膜の析出速度が低下し、析出反応が生じ難くなるおそれがある。
【0029】
アニオン系界面活性剤としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩、芳香族又は脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0030】
芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩としては、芳香族又は脂肪族ナトリウム塩(ナトリウムスルホネート)が挙げられる。
【0031】
芳香族又は脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩としては、芳香族又は脂肪族カリウム塩、芳香族又は脂肪族ナトリウム塩が挙げられ、中でも、ラウリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等を用いることができる。
【0032】
上記アニオン系界面活性剤としては、ナトリウムスルホネートを用いることが好ましい。
【0033】
上記アニオン系界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
アニオン系界面活性剤の含有量は特に限定されないが、0.01〜100g/Lが好ましく、0.1〜10g/Lがより好ましい。アニオン系界面活性剤の含有量が少な過ぎると形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがあり、多過ぎるとめっき皮膜の析出速度が低下し、析出反応が生じ難くなるおそれがある。
【0035】
本発明の無電解めっき液には、その他必要に応じて、通常用いられている各種の添加剤を配合することができる。例えば、安定剤として、硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオジグリコール酸等の硫黄化合物等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。安定剤の添加量は、特に限定的ではないが、例えば、0.01〜100mg/L程度とすることができる。
【0036】
また、pH緩衝剤として、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を配合することができる。緩衝剤の配合量は特に限定的ではないが、例えば0.1〜200g/L程度とすることができる。
【0037】
本発明の無電解めっき液のpHは、通常、2〜12程度とすればよく、3〜10程度とすることが好ましく、4〜8程度とすることがより好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0038】
2.めっき皮膜
本発明は、また、上記無電解めっき液を用いて形成されためっき皮膜でもある。上記めっき皮膜の厚みは、0.1〜1000μm程度が好ましく、0.5〜100μm程度がより好ましく、1〜50μm程度が更に好ましい。
【0039】
めっき皮膜の摩擦係数は、後述するめっき皮膜の形成方法での熱処理温度が300℃の場合、0.660〜0.695程度であり、熱処理温度が350℃の場合、0.660〜0.685程度であり、熱処理温度が400℃の場合、0.620〜0.645程度であり、500℃の場合、0.720〜0.750程度である。
【0040】
なお、本明細書において、めっき皮膜の表面の摩擦係数は、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学株式会社製 製品名:トライボギアHHS−2000)を用いて、加減重往復測定の測定方法により、測定子φ10mmSUSボール、100〜500gf、往復回数50回、移動距離15mm、移動速度5mm/sec、サンプルレート50Hzの測定条件により測定される値である。
【0041】
めっき皮膜の表面平均粗さ(Ra)は、後述するめっき皮膜の形成方法での熱処理温度が300℃の場合、0.0860〜0.0895μm程度であり、熱処理温度が350℃の場合、0.0850〜0.0885μm程度であり、熱処理温度が400℃の場合、0.0830〜0.0855μm程度であり、500℃の場合、0.1050〜0.1200μm程度である。
【0042】
なお、本明細書において、めっき皮膜の表面平均粗さは、表面粗さ計(株式会社東京精密製 製品名:サーフコム1400A−12)を用いて、測定長さ4.0mm、測定速度0.3mm/s、移動・戻り速度0.3mm/sの測定条件により測定される値である。
【0043】
3.めっき皮膜の形成方法
本発明は、また、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤及び炭化ケイ素粒子を必須成分として含有し、更に、第四級アンモニウム化合物及び炭素数2〜50のアルカノールアミンから選択される少なくとも1種、並びに、アニオン系界面活性剤を含有する無電解めっき液に、被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程1を有するめっき皮膜の形成方法でもある。
【0044】
(工程1)
工程1は、上記無電解めっき液に被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程である。上記無電解めっき液としては、上述のものを用いることができる。上記無電解めっき液を用いてめっき皮膜の形成を行うには、常法に従って、該無電解めっき液を被めっき物に接触させればよい。通常は、該無電解めっき液中に被めっき物を浸漬することによって、効率よくめっき皮膜を形成することができる。
【0045】
無電解めっき液の液温は、通常、25℃以上程度とすればよく、40〜100℃程度とすることが好ましい。また必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行うことができる。
【0046】
被めっき物の材質については特に限定はない。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム等の金属やこれらの合金等は無電解めっきの還元析出に対して触媒性を有するので、常法に従って前処理を行った後、直接めっき皮膜を形成することができる。銅等の触媒性のない金属や、ガラス、セラミックス等については、常法に従ってパラジウム核などの金属触媒核を付着させた後に、めっき処理を行えばよい。
【0047】
(工程2)
本発明のめっき皮膜の形成方法は、更に、工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する工程2を有していてもよい。
【0048】
工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する方法としては特に限定されず、従来公知の方法により熱処理することができる。上記無電解めっき皮膜を熱処理する方法としては、例えば、被めっき物に形成されためっき皮膜を被めっき物と共に加熱炉内で加熱する方法が挙げられる。
【0049】
上記熱処理の温度は特に限定されないが、100〜800℃が好ましく、300〜500℃がより好ましい。熱処理の温度が低過ぎるとめっき皮膜の耐摩耗性が十分でないおそれがあり、高過ぎると、めっき皮膜表面の摩擦係数が高くなり、めっき皮膜と接触する他の部材の摩耗を十分に抑制できないおそれがある。
【0050】
上記熱処理の加熱時間としては特に限定されないが、10〜180分が好ましく、30〜120分がより好ましい。加熱時間が短過ぎるとめっき皮膜の耐摩耗性が十分でないおそれがあり、長過ぎるとめっき皮膜表面の摩擦係数が高くなり、めっき皮膜と接触する他の部材の摩耗を十分に抑制できないおそれがある。
【0051】
4.めっき品
本発明は、また、上記めっき皮膜を有するめっき品でもある。めっき品としては、本発明のめっき皮膜を有していれば特に限定されず、被めっき物の表面にめっき皮膜が形成されていればよい。
【0052】
上記被めっき物の材質としては特に限定されないが、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銅等の金属やこれらの合金、又は、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0053】
本発明のめっき品は、特に、機械装置の摺動部等の、他の部材と摺動する部材であると、本発明のめっき品と摺動する他の部材の摩耗を抑制することができる。