【実施例1】
【0025】
[トルク伝達装置]
図1は、トルク伝達装置の断面図である。なお、以下の説明において、軸方向とは、回転軸心方向、径方向とは回転半径方向、周方向とは、回転前後方向、左右とは、軸方向での左右を意味する。
【0026】
図1のように、トルク伝達装置1は、相対回転可能な外側部材であるケース3と内側部材である軸、特に回転軸5との間にクラッチ部7が設けられ、クラッチ部7の相対回転する電極間への通電制御によりケース3及び回転軸5の両部材間のトルク伝達を制御可能となっている。
【0027】
なお、本実施例では、ケース3が回転しない固定側であり、回転軸5が固定側のケース3に対して回転する回転側である。ただし、ケース3側を回転側、回転軸5を固定側とすることもでき、さらにはケース3及び回転軸5の双方を回転側とすることもできる。
【0028】
クラッチ部7は、ケース3及び回転軸5に係合し、基板9を介した通電制御によりトルク伝達を行なわせる。これにより、トルク伝達装置1は、ケース3や回転軸5を固定側としてブレーキや双方を回転側としたカップリング等として用いることができる。
【0029】
[ケース]
図1のように、ケース3は、アルミニウムなどの導電性金属で形成されている。本実施例のケース3は、ケース本体10、ケース蓋11、13からなっている。ケース本体10は、円筒状に形成され、ケース蓋11、13は、円板状に形成されて、相互に対向配置されている。これらケース蓋11、13は、インロー形成によりケース本体10の両端において、複数本のボルト15により一体的に結合固定されている。こうして、ケース3は、ケース本体10の内周に空間部が区画され、空間部内にクラッチ部7を収容する。
【0030】
ボルト15は、周方向所定間隔毎、例えば120度毎に3本設けられている。各ボルト15は、ケース本体部10の内周において、ケース3内の空間部を貫通して配置されている。このボルト15の外周には、中空筒状の固定プレート案内ピン16が嵌合している。固定プレート案内ピン16の両端は、ケース蓋11、13の孔14内に密に嵌合している。クラッチ部7は、外周部が固定プレート案内ピン16に係合している。
【0031】
一方のケース蓋11には、ケース3外の端面に、固定側へ取り付けるためのねじ穴11aが周方向一定間隔で複数個所に形成されている。他方のケース蓋13には、ケース3外の端面を覆うように、電源用カバー17がビス19により締結固定されている。ビス19は、例えば、周方向複数個所に設けられている。ケース蓋13の端面には、電源用カバー17との間に電源用の空間21が区画形成される。ケース蓋13には、配線用の凹部13aが設けられ、凹部13aを外部に連通させる孔にグロメット23が取り付けられている。
【0032】
ケース蓋11、13の内周には、軸心部に孔20a、20bが貫通形成され、孔20a、20b内にシールド・ベアリング25、27が取り付らている。これらシールド・ベアリング25、27により、回転軸5がケース3の軸芯部に回転自在に支持されている。
【0033】
なお、ケース3は、全体を樹脂などで形成することもできる。この場合、回転軸5を介したクラッチ部7の通電制御を行なわせるために、樹脂製のケース3内面等に対して適宜、電気的な導通部が設定される。
【0034】
[回転軸]
図2〜
図9は、回転軸に係り、
図2は、回転軸の断面図、
図3〜6は、
図2の回転軸の第1の軸部の正面図、断面図、左側面図、右側面図、
図7〜
図9は、
図2の回転軸の第2の軸部の正面図、断面図、右側面図である。
【0035】
図1及び
図2のように、回転軸5は、第1、第2の軸部29、31と、係合部としてのハブ部33と、絶縁部35とを備えている。
【0036】
回転軸5は、上記のように外側部材又は内側部材の一方として構成され、軸方向に分割された第1、第2の部材として前記第1、第2の軸部29、31を備えている。
【0037】
図3〜
図6のように、第1の軸部29は、中実軸状の第1軸部本体部37の一端側に雄ねじ部39を有し、同他端側にハブ部33を有している。
【0038】
雄ねじ部39、第1軸部本体部37、及びハブ部33は、この順に径が増大するように段付き状に形成されている。雄ねじ部39の端面には、孔41が形成されている。孔41は、後述のカーボン・ブラシを収容支持するためのものである。
【0039】
ハブ部33は、クラッチ部7を回転方向に係合させると共に導通接続するものである。このハブ部33は、第1軸部本体部37の他端側に形成された中空部43の外周に設けられ、中空部43は、内周に嵌合軸穴45を有している。
【0040】
本実施例のハブ部33の断面は、
図5の左側面図において略正方形断面に形成され、角部33aは、基礎円33bの曲率を有している。このハブ部33は、基礎円33bを有する円筒の基材外面を切削加工して形成される。
【0041】
嵌合軸穴45は、略円形断面に形成され、その内周には、断面が半円形状の半円状凹溝45aが角部33aに対応して軸方向に沿って形成されている。半円状凹溝45aは、絶縁部35の回り止めの機能を有する。嵌合軸穴45の奥壁には、軸方向の貫通孔47が形成されいている。本実施例では、貫通孔47が周方向に所定間隔毎に複数、例えば3個形成されている。貫通孔47は、第1軸部本体部37の端面にかけて貫通し、後述するインサート成型時の樹脂の通路となる。
【0042】
図7〜
図9のように、第2の軸部31は、第2軸部本体部49の一端側に嵌合軸部51を有し、同他端側に外部係合部53を有している。
【0043】
嵌合軸部51は、略断面円形に形成され、第2軸部本体部49よりも大径に形成されている。嵌合軸部51は、嵌合軸穴45内に挿入されると共に絶縁部35を介して嵌合している。
【0044】
嵌合軸部51の外周は、ローレット掛けを施されたローレット部51aとなっている。ローレット部51aは、嵌合軸部51及び絶縁部35間の食付き性の向上や相対的な回り止めを行なうものである。嵌合軸部51の端面には、その端面側から見て十字形状の十字溝51bが形成されている。十字溝51bは、インサート成型により絶縁部35の樹脂を入り込ませ、回転伝達を確実にするものである。
【0045】
外部係合部53は、略断面円形に形成され、第2軸部本体部49と同径に形成されている。外部係合部53には、キー溝53aが形成されている。キー溝53aにキーを取り付け、制動対象等の外部装置に対して回り止め結合する。
【0046】
図2のように、絶縁部35は、第1、第2の軸部29、31を用い、樹脂のインサート成型により形成される。絶縁部35の樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(Polybutylene terephthalate)等が用いられている。この樹脂にガラス繊維、カーボン繊維を混在させることもできる。この場合は、インサート成型による絶縁部35の収縮が抑制され、回転軸5をより精度よく形成することができる。
【0047】
絶縁部35は、第1、第2の軸部29、31間を絶縁して両者を同軸状に一体に結合する。この絶縁部35は、嵌合軸穴45及び嵌合軸部51の径方向及び軸方向での対向部分間、半円状凹溝45a、及び十字溝51bを埋めている。絶縁部35は、第1軸部本体部37の外面にも均一な外周径で形成されている。第1軸部本体部37での絶縁部35の外周面35aの径は、シールド・ベアリング27のインナー・レースの径に応じている。
【0048】
絶縁部35は、貫通孔47を介して第1軸部本体部37側及び嵌合軸穴45側が連続し、第1軸部本体部37側の中空部43外でその端面に沿ったフランジ状のスペーサー突部35bが形成されている。スペーサー突部35bは、シールド・ベアリング27のインナー・レースに当接し、後述する通電経路のために中空部43とシールド・ベアリング27との間の短絡を防止している。
【0049】
回転軸5の状態では、嵌合軸部51の端面51cが、絶縁部35及び中空部43の端面よりも寸法tだけ突出している。この嵌合軸部51の端面51cが、シールド・ベアリング25のインナー・レースに当接し、後述する通電経路のために中空部43とシールド・ベアリング25との間の短絡を防止している。
【0050】
図1の組み付け状態では、ハブ部33がケース3内部に臨むように回転軸5が、ケース3の軸心部に配置される。第2軸部本体部49は、シールド・ベアリング25の内周に位置して回転自在に支持され、第1軸部本体部37での絶縁部35の外周面35aは、シールド・ベアリング27の内周に位置して回転自在に支持される。
【0051】
この支持状態では、外部係合部53がケース蓋11から突出し、第1軸部本体部37の一部及び雄ねじ部39がケース蓋13から突出して電源用の空間21内に位置する。ケース蓋11と外部係合部53との間及びケース蓋13と外周面35aとの間には、隙間が形成されている。
【0052】
なお、ハブ部は、第1、第2の軸部29、31の一方に備えられクラッチ部7を回転方向に係合させると共に導通接続するものであればよいので、ハブ部33を有する中空部43を第2の軸部31に設け、嵌合軸部51を第1の軸部29側に設ける構造にすることもできる。
【0053】
また、外側部材又は内側部材の一方は、外側部材であるケース3とし、ケース3が軸方向に分割された第1、第2の部材とハブ部と絶縁部とを備える構成にすることもできる。例えば、ケース3のケース本体10を樹脂で形成し、ボルト15のケース蓋11に対する螺合を、樹脂を介して行なわせるなどの構造が考えられる。ハブ部は、スプライン等の凹凸部で形成することもできる。
【0054】
また、回転軸5は、絶縁部35を介して第1の軸部29と第2の軸部31とが軸方向に結合されて相互に絶縁されていればよく、第1の軸部29と第2の軸部31との結合構造を適宜変更することも可能である。
【0055】
[クラッチ部]
図10〜
図16は、クラッチ部に係り、
図10は、クラッチ部を示す拡大断面図、
図11は、受け皿の正面図、
図12は、スペーサーと受け皿との組み合わせを示す断面図、
図13は、固定プレートの正面図、
図14は、回転プレートの正面図、
図15は、皿ばねの正面図、
図16は、皿ばねの側面図、
図17は、機能性材を示し、(a)は、非通電時の概念断面図、(b)は、通電時の概念断面図である。
【0056】
図1、
図10のように、クラッチ部7は、アウター・プレートである固定プレート55及びインナー・プレートである回転プレート57と機能性材である吸着シート59との組み合わせの単位クラッチセット60を軸方向で複数備えている。
【0057】
単位クラッチセット60は、その一対が回転プレート57の背中を合わせるように配置されている。単位クラッチセット60の一対は、それぞれ仕切り部材としての受け皿セット61に収容され、背中合わせの回転プレート57間には、皿ばね63が介設されている。
【0058】
受け皿セット61は、軸方向に隣接するように複数備えられている。これにより、クラッチ部7を収容する空間部を軸方向に複数設けられた受け皿セット61により複数の収容空間Sに分離し、複数の単位クラッチセット60を複数の収容空間Sに振り分けて収容する。従って、収容空間Sに収容された単位クラッチセット60を他の収容空間Sに収容された単位クラッチセット60から分離させることができる。このため、単位クラッチセット60が複数設けられる軸方向の一側を他側に対して鉛直方向の上方に位置するようにトルク伝達装置1を配置しても、収容空間Sの単位クラッチセット60に他の収容空間Sの単位クラッチセット60の重量が積算されることを防止でき、特性の変動を抑制することができるようになっている。なお、収容空間Sには、一対の単位クラッチセット60を収容しているが、単一の単位クラッチセット60を収容してもよい。
【0059】
各受け皿セット61は、放熱用プレートとしても機能する受け皿65及びスペーサー67を有している。受け皿65及びペーサー67は、ケース3の固定プレート案内ピン16に回転方向に係合し、相互に軸方向に対向して単位クラッチセット60を収容するための一定間隔の収容空間Sを軸方向に有している。
【0060】
受け皿65及びスペーサー67の外周部は、単位クラッチセット60の外周部よりも外周側に突出させている。
【0061】
スペーサー67は、隣接する受け皿セット61で共用され、隣接する受け皿セット61の一対の受け皿65は、相互に向かい合わせに配置されてスペーサー67を挟む。ただし、スペーサー67を各受け皿セット61に備えることもできる。この場合、受け皿65の向きは任意となる。また、同一方向に向けた受け皿65を複数連接することも可能である。この場合は、スペーサー67を省略して、受け皿65が仕切り部材を構成する。また、仕切り部材としては、複数のスペーサー67のみを軸方向に間隔をあけて固定することも可能である。
【0062】
本実施例の一対の受け皿65及びスペーサー67の組み合わせは、例えば5組備えられ、軸方向に連接されている。軸方向両端部の受け皿65がケース蓋11、13の軸方向内面に当接する。
【0063】
図1、
図11、
図12のように、受け皿65は、アルミニウムなどでドーナツ盤状、つまり軸心部に穴部を有する円盤状に形成されている。受け皿65の軸心部には、遊嵌孔65aが貫通形成され、同外周には、軸方向に突出する周壁部65bが形成されている。受け皿65の周壁部65bは、スペーサー67に当接して、受け皿65及びスペーサー67間に上記収容空間Sを形成する。遊嵌孔65aは、回転軸5のハブ部33が有する角部33aの基礎円33bの径よりも僅かに大きく形成されている。
【0064】
受け皿65の外周側には、案内ピン貫通孔65cが周方向所定間隔毎、例えば120度毎に3個貫通形成されている。
【0065】
スペーサー67は、アルミニウムなどでドーナツ盤状に形成されている。このスペーサー67は、受け皿65の遊嵌孔65aと同径の遊嵌孔67a、案内ピン貫通孔65cと同径同箇所の案内ピン貫通孔67cが形成されている。スペーサー67の外周は、受け皿65の周壁部65bを当接させるように径方向へストレートに形成されている。
【0066】
したがって、スペーサー67を挟んで受け皿65が一対向かい合わせに配置された受け皿セット61が、遊嵌孔65a、67aでハブ部33にそれぞれ遊嵌し、各案内ピン貫通孔65c、67cが固定プレート案内ピン16に嵌合するように配置される。この配置により、固定プレート案内ピン16が受け皿セット61を貫通して回転方向に係合する構成となる。
【0067】
この貫通状態では、受け皿セット61内に吸着シート59よりも突出する外周部分で放熱用の空間部が形成される。
【0068】
なお、固定プレート案内ピン16は、ケース3の内周面に形成するインナー・スプライン等の凹凸部で形成することもできる。
【0069】
図1、
図13のように、固定プレート55は、吸着シート59に対する一方の電極板をなすものであり、アルミニウムなどでドーナツ盤状に形成されている。この固定プレート55には、軸心部に受け皿65の遊嵌孔65aと同径の遊嵌孔55aが形成されている。固定プレート55の外周縁には、係合用の凹部55bが周方向所定間隔毎、例えば120度毎に3箇所に形成されている。
【0070】
したがって、固定プレート55は、受け皿65とスペーサー67とに沿って配置され、遊嵌孔55aがハブ部33に遊嵌し、凹部55bが固定プレート案内ピン16に回転方向に係合する。固定プレート案内ピン16は、外側部材であるケース3側に固定されているから、固定プレート55は、外側部材に支持された構成である。
【0071】
この固定プレート55には、ドーナツ盤状の吸着シート59が導電性接着剤による接着等により固定されている。吸着シート59については後述する。
【0072】
図1、
図14のように、回転プレート57は、吸着シート59に対し他方の電極板をなすものであり、アルミニウムなどでドーナツ盤状に形成されている。この回転プレート57には、軸心部に矩形の嵌合孔57aが形成されている。
【0073】
嵌合孔57aは、回転軸5のハブ部33の外周矩形形状に対応して形成され、嵌合孔57aがハブ部33に嵌合して回転方向に係合すると共に、嵌合孔57aの直線部がハブ部33の直線部に接して電気的接続を行なわせる。ハブ部33は、内側部材である回転軸5側の構成要素であるから、回定プレート57は、内側部材に支持された構成である。
【0074】
こうして、回転プレート57は、固定プレート55に対して吸着シート59を挟むように配置され、固定プレート55及び回転プレート57を電極とする通電制御によりトルク伝達が可能となっている。
【0075】
図1、
図15、
図16のように、皿ばね63は、背中合わせの回転プレート57間に介設され、回転プレート57を固定プレート55側に付勢するものである。この皿ばね63は、主体部63aがほぼドーナツ盤状に形成されている。皿ばね63には、主体部63aの軸心部に矩形の嵌合孔63bが形成されている。嵌合孔63bは、回転軸5のハブ部33の外周矩形形状に対応して形成され、嵌合孔63bがハブ部33に嵌合したとき回転方向に係合する。
【0076】
皿ばね63の主体部63aの外周部には、周方向6箇所の切欠部63cが形成され、各切欠部63cには、周方向に片持ち状のばね部63dが形成されている。ばね部63dは、先端側のストレート面部63daと基部側の傾斜面部63dbとを備え、傾斜面部63dbを介しストレート面部63daが主体部63aに対して軸方向にオフセットされる。このストレート面部63daのオフセットは、6箇所のばね部63dに対し、一つ置きの3箇所が一方の回転プレート57側、残りの一つ置きの3箇所が主体部63aを挟んで他方の回転プレート57側となっている。
【0077】
したがって、皿ばね63は、嵌合孔63bがハブ部33に嵌合した状態で両面側に突出したばね部63dのストレート面部63daが両側の回転プレート57に弾接し、回転プレート57を固定プレート55側に付勢する。
【0078】
吸着シート59は、
図17のように、電気レオロジーゲルを板状又はシート状に形成したものであり、電気絶縁媒体59aに複数の電気レオロジー粒子59b(以下「ER粒子」と称する)を分散させている。
【0079】
本実施例の電気絶縁媒体59aは、例えば、粘着性を有するフッ素系樹脂やシリコン樹脂等からなり、ER粒子59bは、シリカゲルやカーボン等の固体粒子からなる。
【0080】
ER粒子59bは、吸着シート59の表面において突出状態で保持されており、吸着シート59に対する電圧の印可に応じて、電気絶縁媒体59aに相対的に没入する。これにより、吸着シート59は、電気絶縁性媒体59aの粘着力によって回転プレート57を吸着する。
【0081】
すなわち、
図17(a)の非通電時においては、表面に分散したER粒子59bが回転プレート57を支持するため、固定プレート55に対して回転プレート57がER粒子59bに対して滑りながら相対回転する。
図17(b)の通電時においては、ER粒子59bの没入作用で粘着性の高い電気絶縁媒体59aに表面の盛り上がり現象が起こる。この表面の盛り上がり現象と皿ばね63の付勢力とにより吸着シート59が回転プレート57の表面に接触して粘着する。
【0082】
この粘着により、固定プレート55及び回転プレート57間で相対回転しようとするとき吸着シート59がせん断力を受けると高い降伏力を示す。この高い降伏力により固定プレート55及び回転プレート57間でのトルク伝達が行われる。トルク伝達の際等には、回転プレート57と吸着シート59との間に摩擦が生じるが、この摩擦熱は、軸方向の複数個所において受け皿セット61を介して放熱される。特に、本実施例では、一方で受け皿65又はスペーサー67に伝達され受け皿65又はスペーサー67の外周側及び内周側で放熱される。このとき、受け皿65及びスペーサー67外周部が、単位クラッチセット90の外周部よりも外周側に突出しているので、外周側部分において効果的に放熱することができる。他方では、摩擦熱が受け皿65又はスペーサー67の突出による単位クラッチセット60外周の隙間部を介して放熱される。このように、摩擦熱が生じる部分に対して径方向にずれた内周及び外周部分において、確実に放熱される。受け皿セット61は、その外周が単位クラッチセット60の外周部よりも外周側に突出していなくても、摩擦熱を伝導して放熱性を確保することは可能である。
【0083】
なお、吸着シート59としては、電圧を印可すると、そのものの粘性が変化するものでもよい。また、吸着シート59としては、電気力によって吸着を行うものであってもよい。
【0084】
図18は、変形例に係る機能性材を示し、(a)は、非通電時の概念断面図、(b)は、通電時の概念断面図である。
【0085】
図18の吸着シート59は、通電時及び非通電時の双方において、ER粒子59bが表面上で外部に露出して保持される。この保持は、電気絶縁媒体59aの硬さ等によって設定することが可能である。
【0086】
電気絶縁媒体59aの表面上のER粒子59bは、吸着シート59の表面と共に切削等の加工がなされ、吸着シート59の表面と面一の断面を有する。ただし、電気絶縁媒体59aの表面上のER粒子59bは、
図17(a)のように電気絶縁媒体59aの表面から突出してもよい。
【0087】
そして、電圧の印加時には、
図18(b)のように、固定プレート55及び回転プレート57間の電気力線により、吸着シート59表面の電気レオロジー粒子59bが電気力を生じさせて、吸着力を発生させるようになっている。なお、変形例においては、電気絶縁媒体59aの粘着性は不要である。
【0088】
変形例においても、回転プレート57と吸着シート59との間に摩擦が生じるが、この摩擦熱は、受け皿セット61を介して放熱される。本実施例では、上記同様、摩擦熱が生じる部分に対して径方向にずれた内周及び外周部分において確実に放熱することができる。
【0089】
[電源等]
図1のように、電源用カバー17内に配置された基板9は、ボルト68によりカラー69を介してケース蓋13の端面に締結固定されている。基板9は、回転軸5の端部に対向している。
【0090】
回転軸5の端部と基板9との間には、接続部71が設けられている。接続部71は、回転軸5の第1の軸部29の端部を基板9の回路に相対回転可能に電気接続するものである。接続部71は、回転軸5側のカーボン・ブラシ71aと基板9側の接点部9aとで構成される。回転軸5側には、スプリング71bが設けられ、カーボン・ブラシ71aを接点部9aに弾接させている。
【0091】
これにより、回転軸5の第1の軸部29からハブ部33を介してクラッチ部7へと至る通電経路が形成される。この通電経路は、クラッチ部7から固定プレート案内ピン16や受け皿セット61等及びケース蓋11を介して第2の軸部31へと至る。この場合は、第2の軸部31が接地側に接続される。また、通電経路は、クラッチ部7から固定プレート案内ピン16や受け皿セット61等を介してケース蓋11るだけでもよい。この場合は、ケース蓋11が接地側に接続される。
【0092】
基板9には、トランス73が取り付けられ、基板9に接続された電源用配線75がグロメット23を通して電源用カバー17外に引き出されている。
【0093】
なお、基板9は、第1、第2の部材の何れか一方の端部に対向すればよく、接続部71は、第1、第2の部材の何れか一方の端部と基板との間に設けられればよい。従って、基板9を第2の軸部31の端部に対向させて、電気接続を行ってもよい。
【0094】
また、基板9を回転軸5側に設け、接続部71をケース3側の端部と基板9との間に設けることもできる。
【0095】
外側部材であるケース3を軸方向に分割された第1、第2の部材とハブ部と絶縁部とを備える構成にした場合も、基板9をケース3側、回転軸5側の何れかに設けることができ、接続部71をケース3側の端部と基板9との間、回転軸5側の端部と基板9との間に設けることができる。ケース3側が回転し、回転軸5側が固定され、或いは両者が回転する形態についても同様に構成することができる。
【0096】
回転軸5の雄ねじ部39には、反射スリット板77が金属ワッシャ79を介しロック・ナット81により締結固定されている。ケース蓋13の側面には、センサー83が取り付けられ、反射スリット板77との間で回転数を検出するようになっている。センサー83に接続された信号用配線85は、グロメット23を通して電源用カバー17外に引き出されている。
【0097】
[通電制御]
図1において、トルク伝達装置1は、ケース3がねじ穴11aに固定ボルトを羅合させ、絶縁体を介して固定側に取り付けられる。
【0098】
このトルク伝達装置1の通電制御は、第1、第2の軸部29、31とハブ部33とクラッチ部7とを通して行なう。
【0099】
すなわち、電源用配線75を介して基板9が電源に接続されると、トランス73により変圧され、接点部9aからカーボン・ブラシ71aを介して第1の軸部29、ハブ部33、回転プレート57、吸着シート59、固定プレート55、固定プレート案内ピン16、受け皿セット61の受け皿61及びスペーサー63、ケース蓋11、シールド・ベアリング25、第2の軸部31、第2の軸部31が結合される側の図外のグランドへと電流が流れる。
【0100】
この電流の流れにより、吸着シート59は、
図17(b)又は
図18(b)のように吸着力を発生させる。
【0101】
この吸着力により、吸着シート59が回転プレート57を吸着し、固定プレート55及び回転プレート57間でトルク伝達を行う。
【0102】
第2軸部本体部49をケース蓋11に対して絶縁すれば、第1の軸部29、ハブ部33、回転プレート57、吸着シート59、固定プレート55、固定プレート案内ピン16、受け皿セット61の受け皿61及びスペーサー63、ケース蓋11、ケース蓋11が結合される図外の接地側へと電流が流れ、通電制御を行わせることができる。第2軸部本体部49及びケース蓋11間の絶縁は、
図1の絶縁部35を第2軸部本体部49側にまで伸ばせばよい。
【0103】
ケース3側を軸方向に分割する場合は、第1、第2の部材(ケース蓋11,13)の一方と回転軸5との間で電流が流れ、通電制御を行わせることができる。
[実施例の効果]
以上のように、本発明実施例のトルク伝達装置1は、相対回転可能なケース3と回転軸5との間に設けられ相対回転する電極間への通電制御によりケース3及び回転軸5間のトルク伝達を制御可能なクラッチ部7を備えている。
【0104】
回転軸5は、軸方向に分割された第1、第2の軸部29、31と、第1の軸部29に備えられクラッチ部7を回転方向に係合させると共に導通接続するハブ部33と、第1、第2の軸部29、31を絶縁して一体に結合する絶縁部35とを有している。
【0105】
これにより、本実施例では、通電経路を、少なくとも第1又は第2の軸部29,31の一方である第1の軸部29からハブ部33を介してクラッチ部7へ至るように形成できる。
【0106】
この結果、クラッチ部7の通電制御は、第1、第2の軸部29、31とハブ部33とクラッチ部7とを通して行なうことが可能となる。
【0107】
また、通電制御は、第1の軸部29とハブ部33とクラッチ部7とケース蓋11とを通して行なうことも可能となる。
【0108】
このため、通電構造の限界を抑制し、構造の簡易化、使用態様の多様化の幅を拡げるることができる。
【0109】
つまり、構造的には、回転軸5を絶縁部35を介して第1及び第2の軸部29,31を一体にする簡易な構造でありながら、通電構造の限界を抑制し、回転軸5側の通電、ケース3側の通電、回転軸5及びケース3間での通電が選択でき、使用態様の多様化に応ずることができる。
【0110】
また、回転軸5側の通電、すなわちクラッチ部7の通電制御を第1、第2の軸部29、31とハブ部33とクラッチ部7とを通して行なう場合は、第2の軸部31とクラッチ部7との間のシールド・ベアリング25を含めたケース蓋11を通電部として利用し、クラッチ部7から第2の軸部31のへと至る通電経路を容易に形成することができる。
【0111】
クラッチ部7は、ケース3と回転軸5とに各別に支持され軸方向に一定間隔で対向配置された固定プレート55及び回転プレート57と、この固定プレート55及び回転プレート57の間に介設され両プレート55、57を電極とする通電制御により両プレート55、57間のトルク伝達を制御する吸着シート59とを備え、吸着シート59は、電気絶縁媒体59aにER粒子59bが分散された電気レオロジーゲルであり、通電制御により固定プレート55及び回転プレート57の間を吸着する。
【0112】
これにより、電気レオロジーゲルを利用して構造の簡素化及び制御の容易化を図ることができ、さらに通電構造の限界を抑制し、構造の簡易化、使用態様の多様化の幅を拡げるることができる。
【0113】
また、本実施例では、ケース3に設けられて第1の軸部29の端部に対向する基板9と、第1の軸部29の端部と基板9との間に設けられ、第1の軸部29の端部を基板9の回路に相対回転可能に電気接続する接続部71とを備えた。
【0114】
このため、ケース3側の基板9に電源から配線する簡単な構造で接続部71を介し回転軸5側に電圧をかけることができる。
【0115】
本実施例において、内側部材は、回転軸5であり、第1、第2の部材は、回転軸5の第1、第2の軸部29、31であり、絶縁部35は、第1、第2の軸部29、31を同軸状に結合する。
【0116】
このため、絶縁部35を回転軸5として一体に取り扱うことができ、組み付け、部品管理等を容易に行わせることができる。
【0117】
本実施例では、第1の軸部29に設けられ、外周にハブ部33を有し内周に嵌合軸穴45を有する中空部43と、第2の軸部31に設けられ嵌合軸穴45に嵌合し絶縁部35を介して同軸状の結合を行なう嵌合軸部51とを備えた。
【0118】
このため、第1、第2の軸部29、31を絶縁部35により同軸状に一体に結合しながら、第1の軸部29に導通するハブ部33を回転軸5の外周面に形成することができる。
【0119】
本実施例において、軸は、回転軸5であり、外側部材は、クラッチ部7を収容する固定側のケース3である。
【0120】
このため、回転軸5に電圧をかけることでクラッチ部7を機能させ、固定側のケース5に対して回転軸5に抵抗トルクを確実に付与し、制動等を行わせることができる。