特許第6352120号(P6352120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6352120-羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352120
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20180625BHJP
   E02D 5/56 20060101ALI20180625BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20180625BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   E02D5/80 101
   E02D5/56
   E02D5/28
   E02D17/20 106
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-180861(P2014-180861)
(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2016-56505(P2016-56505A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508001431
【氏名又は名称】西日本高速道路メンテナンス九州株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506045118
【氏名又は名称】NEXCO西日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】前田 良刀
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 智洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 優
(72)【発明者】
【氏名】水田 富久
(72)【発明者】
【氏名】中石 隆博
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−226051(JP,A)
【文献】 特開2009−002089(JP,A)
【文献】 特開平09−217337(JP,A)
【文献】 特開2012−002012(JP,A)
【文献】 特開2007−327297(JP,A)
【文献】 特開平11−286928(JP,A)
【文献】 特開平09−003881(JP,A)
【文献】 設計便覧(案)急傾斜地編,滋賀県土木交通部,2005年 4月,全文、全図、特に図8−20の設計手順
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00〜 17/20
E02D 5/22〜 5/80
E02D 1/00〜 3/115
E21B 1/00〜 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の管本体の外周に螺旋羽根を設け、さらに前記管本体の外周に地盤内の水分を排出するための水抜き孔を設けた羽根付き有孔鋼管であり、前記螺旋羽根は前記管本体のほぼ全長に渡り、前記管本体の推進方向側には管端に近い所まで形成して前記地盤へ回転させながらの捩じ込む時に地中への推進力が得られるようにし、前記管本体の手前側は捩じ込み機のチャックに噛ませるための鋼管回転用金具を装着するための鋼管回転用金具を装着するために螺旋羽根を設けない部分を形成している羽根付き有孔鋼管を用い、前記羽根付き有孔鋼管を地盤に打込むことにより、前記管本体の外周に設けられた水抜き孔により、地盤内の水を前記羽根付き有孔鋼管内に導き、水平またはやや上向きに設置された前記羽根付き有孔鋼管内を自然流下させて地盤外へ排水させ、基端に支圧盤を設けることなく前記羽根付き有孔鋼管と地盤との周面摩擦抵抗に基づく付着効果を利用して、地盤の崩壊や変状に対する抵抗力を高める地盤補強工法であって、
施工する地盤を対象に地盤の単位体積重量、せん断抵抗力、せん断抵抗角などの地盤定数を設定する地盤定数設定ステップと、
現況安全率、計画安全率を設定する安全率設定ステップと、
必要抑止力を、常時と地震時の各状態において、前記計画安全率から算定する必要抑止力算定ステップと、
前記羽根付き有孔鋼管の設置長さ、設置密度を計算する有孔鋼管配置計算ステップと、
前記羽根付き有孔鋼管1本当たりの必要引張力、許容引張力を算定する引張力算定ステップと
を含み、
前記羽根付き有孔鋼管配置計算ステップで求められた設置長さを有する羽根付き有孔鋼管を、前記設置密度で当該地盤に打ち込むことを特徴とする、羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項2】
前記羽根付き有孔鋼管を当該地盤に水平またはやや上向きに打込むのに、前記羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用を利用して打込むことを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項3】
螺旋羽根のねじ作用に加え、押し込み力を併用して、前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項4】
螺旋羽根のねじ作用と押し込み力に加え、振動を併用して、前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項5】
前記羽根付き有孔鋼管の螺旋羽根の外側径よりやや小さな径で削孔し、その後削孔した孔に沿って羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用、押し込み力、振動のいずれか1つまたは2つ以上を併用することにより打込むことを特徴とする、請求項1記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項6】
前記羽根付き有孔鋼管の螺旋羽根の外側径よりやや小さな径または同じ径もしくはやや大きな径で削孔し、その孔に充填材を充填した後、削孔し充填された孔に沿って、前記羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用、押し込み力、振動のいずれかまたは併用することにより前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、請求項1記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項7】
前記羽根付き有孔鋼管に回転力と押し込み力を与えて打込むことと、ロットの先端に取り付けたビットまたは打撃ハンマーに、回転力と押し込み力あるいは打撃力を与えて削孔することの、両方が可能な打込み機を利用して前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、請求項1記載の有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項8】
前記羽根付き有孔鋼管の打込みと削孔することの両方に、振動を併用することが可能な打込み機を利用して打込むことを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項9】
引き抜き試験を実施し地盤分類や地盤状態に応じた有孔鋼管周長に係る付着強度の設定を行うことを特徴とする、請求項1記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項10】
予め一定の長さの羽根付き有孔鋼管を地盤に捩じ込み、一定期間放置した後に、油圧ジャッキを用いて引抜き試験を行い、極限周面摩擦抵抗の設定を行うことを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【請求項11】
充填材は、前記削孔径よりやや小さめの径の、生分解性プラスチックの袋に詰められた砂、砂質土、砂利、砕石および高炉スラグ等の透水性が良い材料から選ばれた1つまたは2つ以上を使用して前記削孔全長に詰めることを特徴とする、請求項記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水機能を有する螺旋羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地形的な要因等により地盤内へ地下水等が供給され、それにより間隙水圧が上昇し、土粒子間の有効応力が減少することにより、豪雨や地震時にのり面が崩壊に至るケースが多数見受けられる。
【0003】
従来は、塩化ビニル製管などを用いた排水パイプにより盛土内水位を低下させる対応を行っている。また、水位低下のみでは安定性が満足されない場合は、必要に応じて鋼管やグラウンドアンカーによる抑止対策を実施している事例もある。
【0004】
例えば、特許文献1には、筒状をなし、先端開口部が閉塞板によって閉塞され、閉塞板に堀削刃が固定されていると共に、先端寄りの外周には一個又は複数個の螺旋翼が固定され、周壁には複数の透孔が形成されており、頭部寄りの外周には雄ねじが形成されている鋼管製のアンカー体と、アンカー体の透孔の孔径より小さい網目を有し、アンカー体の内部空間に挿入されるメッシュ状筒体と、中央にアンカー体の頭部を挿通せしめる貫通孔を有し、この貫通孔の上面に前記アンカー体の雄ねじに螺合するナットが位置せしめられている支圧盤と、アンカー体の頭部開口端を着脱自在に閉塞するキャップとからなる傾斜地盤安定具が開示されている。
この傾斜地盤安定具は、アンカー体の頭部に掘削ドリルを接続して回転させ、螺旋翼に働く前進力によってアンカー体を地盤内にねじ込むものである。アンカー体のねじ込み方向としては、垂直や斜め下方向のほか、透孔による排水機能を重視したい場合には、略水平方向にねじ込むことが示されている。
【0005】
特許文献2には、鋼管からなる杭本体と、前記杭本体の先端又は周面に螺旋状に設けられた螺旋状羽根と、前記杭本体の周面に設けられ、地盤面に接触して又は地中に配置されて前記螺旋状羽根との間の地盤に圧縮力を生じさせる支圧部とを備え、前記杭本体の周面には、地盤からの水を杭本体内部に通過させる貫通孔が設けられた地すべり防止杭が開示されている。
【0006】
特許文献3には、中空の鋼管と、前記鋼管の一端側から他端側まで連続して前記鋼管の外周に少なくとも1周以上螺旋状に形成された螺旋羽根と、前記鋼管の一端側において、前記鋼管の全周のうち一部分の周が前記螺旋羽根に沿って切欠かれた第1の切欠き部と、前記鋼管の全周のうち前記一部分の周以外の他の部分の周が前記第1の切欠き部の始端部と終端部とを結んで切欠かれた第2の切欠き部とを備えた鋼管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−226051号公報
【特許文献2】特開2012−2012号公報
【特許文献3】特開2012−136823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前掲の特許文献1に開示された傾斜地盤安定具は、鋼鉄製のアンカー体の周壁に形成された複数の透孔により地盤の地下水の排出を行うとともに、先端の螺旋翼によりアンカー体を地盤内にねじ込むようにし、また螺旋翼と支圧盤とにより地盤を挟み付けることによって、傾斜地盤の支圧を行うようにしている。しかし、この傾斜地盤安定具による工法では、アンカー体の基端の支圧盤と支持地盤に貫入させた先端の螺旋翼とを締め付けることにより拘束効果が得られることとなるため、支持地盤に確実に貫入させる必要があるが、その方法については開示されていない。実際に先端ビットを取り付けて螺旋翼を付けた鋼管を地盤に貫入させようとすると、粘土層や砂質土層(支持地盤とならない)ではうまくいくが、ほとんどの盛土では、礫が混在しており、ある程度堅い地盤(標準貫入試験値10程度以上)であるので、水平もしくはやや上向きには、貫入させることが難しい。
また、螺旋翼を使わず楔締用鋼管先端のスリットを、手元端をハンマー等で打撃し拡張させて定着する方法も記されているが、鋼管が短い場合はある程度効果を期待できるが、長い場合(10m程度以上)になると人力での打撃では、杭体周面摩擦による抵抗で効果が期待できない(充分拡張できない)場合が多い。
また、アンカー体の基端の支圧盤がない場合は、拘束効果がなくなり、地盤の変位に対するアンカーの抵抗力は、アンカー周面の摩擦力のみとなり、先端の螺旋翼の効果が発揮されない。
【0009】
前掲の特許文献2に開示された地すべり防止杭も、特許文献1と同様に、杭本体の先端に螺旋状羽根を、基端に支圧部を設け、間には貫通孔を設けた構造であるため、特許文献1と同様の問題がある。
【0010】
前掲の特許文献3には、中空の鋼管の一端側から他端側まで連続して螺旋羽根を設けた鋼管が開示されており、地盤への貫入性と強度確保のために、螺旋羽根に沿って切欠き部を設けているが、地盤中の地下水の排出の機能は有しない。
【0011】
さらに、前掲の特許文献1〜3に開示されたアンカー体ないし鋼管を用いたのり面安定化工法は、水抜きのための透孔を設けること、周壁に螺旋羽根を設けること、地盤に水平に打ち込むことの一般的な技術は開示されているものの、地盤には、土質、強度、含水状態等の地盤条件の違いがあるため、実際の施工に際しては、透孔の径や密度、螺旋羽根の設置長さ、高さ、ピッチ等の設計を地盤条件に適したものにしなければならない。
【0012】
しかしながら、前掲の特許文献には、工法の一般的な概念は示されているものの、実際の施工に際して必要な、地盤条件に応じた設計の具体的な手法、例えば鋼管の径、長さ、打ち込み間隔、打ち込み角度、透孔の径や密度等の施工条件の決定方法は開示されていないし、ほとんどの地盤では、礫が混在しており、ある程度堅い地盤(標準貫入試験値10程度以上)であるので、水平もしくはやや上向きに貫入させることも難しいが、そのような地盤でも確実に貫入させる方法も開示されていない。
【0013】
本発明は、排水機能と地盤拘束機能を同時に有する有孔鋼管の施工条件を、施工する地盤に適応して決定すること、および決定された有孔鋼管を、粘性土、砂質土、礫混り土、それらの複合体等どのような土質の土で施工されていた人工地盤や自然地盤であっても、確実に施工することを目的とするものであり、それにより、盛土や切土のり面の安定性向上および施工費の縮減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、次の構成を特徴とする。
<1>鋼製の管本体の外周に螺旋羽根を設け、さらに前記管本体の外周に水抜き孔を設けた羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法であって、
施工する地盤を対象に地盤の単位体積重量、せん断抵抗力、せん断抵抗角などの地盤定数を設定する地盤定数設定ステップと、
現況安全率、計画安全率を設定する安全率設定ステップと、
必要抑止力を、常時と地震時の各状態において、前記計画安全率から算定する必要抑止力算定ステップと、
前記羽根付き有孔鋼管の設置長さ、設置密度を計算する有孔鋼管配置計算ステップと、
前記羽根付き有孔鋼管1本当たりの必要引張力、許容引張力を算定する引張力算定ステップと
を含み、
前記羽根付き有孔鋼管配置計算ステップで求められた設置長さを有する羽根付き有孔鋼管を、前記設置密度で当該地盤に捩じ込むことを特徴とする、羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0015】
<2>
前記羽根付き有孔鋼管を地盤に打込むことにより、前記管本体の外周に設けられた水抜き孔により、地盤内の水を前記羽根付き有孔鋼管内に導き、水平またはやや上向きに設置された前記羽根付き有孔鋼管内を自然流下させて地盤外へ排水させるとともに、前記羽根付き有孔鋼管と地盤との周面摩擦抵抗に基づく付着効果を利用して、地盤の崩壊や変状に対する抵抗力を高めることを特徴とする、<1>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0016】
<3>
前記羽根付き有孔鋼管を当該地盤に水平またはやや上向きに打込むのに、前記羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用を利用して打込むことを特徴とする、<2>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0017】
<4>
螺旋羽根のねじ作用に加え、押し込み力を併用して、前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、<3>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0018】
<5>
螺旋羽根のねじ作用と押し込み力に加え、振動を併用して、前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、<4>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0019】
<6>
前記羽根付き有孔鋼管の螺旋羽根の外側径よりやや小さな径で削孔し、その後削孔した孔に沿って羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用、押し込み力、振動のいずれか1つまたは2つ以上を併用することにより打込むことを特徴とする、<1>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0020】
<7>
前記羽根付き有孔鋼管の螺旋羽根の外側径よりやや小さな径または同じ径もしくはやや大きな径で削孔し、その孔に充填材を充填した後、削孔し充填された孔に沿って、前記羽根付き有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用、押し込み力、振動のいずれかまたは併用することにより前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、<1>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0021】
<8>
前記羽根付き有孔鋼管に回転力と押し込み力を与えて打込むことと、ロットの先端に取り付けたビットまたは打撃ハンマーに、回転力と押し込み力あるいは打撃力を与えて削孔することの、両方が可能な打込み機を利用して前記羽根付き有孔鋼管を打込むことを特徴とする、<1>記載の有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0022】
<9>
前記羽根付き有孔鋼管の打込みと削孔することの両方に、振動を併用することが可能な打込み機を利用して打込むことを特徴とする、<8>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0023】
<10>
引き抜き試験を実施し地盤分類や地盤状態に応じた有孔鋼管周長に係る付着強度の設定を行うことを特徴とする、<1>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0024】
<11>
予め一定の長さの羽根付き有孔鋼管を地盤に捩じ込み、一定期間放置した後に、油圧ジャッキを用いて引抜き試験を行い、極限周面摩擦抵抗の設定を行うことを特徴とする、<2>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【0025】
<12>
充填材は、前記削孔径よりやや小さめの径の、生分解性プラスチックの袋に詰められた砂、砂質土、砂利、砕石および高炉スラグ等の透水性が良い材料から選ばれた1つまたは2つ以上を使用して前記削孔全長に詰めることを特徴とする、<7>記載の羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、次の効果を奏する。
(1)排水機能を有する羽根付き有孔鋼管の設置により地盤内水位や飽和度を低下させることができる。
(2)有孔鋼管外周に螺旋羽根を設置することにより、地盤との拘束(付着)効果が向上する。
(3)地盤と羽根付き有孔鋼管との間に充填材(砂)を充填することによりさらなる地盤拘束機能と排水機能の改善を図ることができる。
(4)引き抜き試験を実施し地盤分類や地盤状態に応じた有孔鋼管周長に係る付着強度の設定を行うことにより、設置する地盤に適合した羽根付き有孔鋼管の施工ができる。
(5)回転力と螺旋羽根のねじ作用により設置する一般的な方法だけではなく、押し込み力、振動(バイブロ)を併用して設置する方法や、設置する孔をあらかじめ削孔した後設置する方法や、あらかじめ削孔した孔に充填材を充填した後に設置する方法のいずれかの方法により、どのような土質の土の地盤であっても、確実に施工することができる。
(6)前掲の特許文献2は、地盤に圧縮力を生じさせ地盤の安定化を図ることを目的としているが、本発明では、地盤と鋼管との間に発生する周面摩擦抵抗により全面接着による抑止効果が期待できる。
(7)また、特許文献2では、あらかじめ砂が充填されたさや管を貫入し、その後鋼管を回転貫入することとしているが、本発明では螺旋羽付き有孔鋼管の外径よりやや小さな形または同じ径、もしくはやや大きな径で削孔した後、その孔に充填材を詰め、その後螺旋羽付き有孔鋼管に回転力を与え、捩じ込みを行う工法であり、施工性および経済性の面で利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態に係る有孔鋼管を示すものであり、(a)は側面図、(b)は正面断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る羽根付き有孔鋼管の施工例を示すものであり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る羽根付き有孔鋼管を2本、長手方向に連結する状態を示す側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る羽根付き有孔鋼管を2本、長手方向に連結し、先端に掘削用コーンを取り付けた状態を示す側面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る羽根付き有孔鋼管を用いた地盤補強工法の設計フロー図である。
図6】水抜き孔の例を示す羽根付き有孔鋼管の要部側面図である。
図7】N値と極限周面抵抗力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る羽根付き有孔鋼管(以下、単に「有孔鋼管」ということがある。)10は、鋼管製の管本体1の外周に螺旋羽根2を設け、さらに管本体1の外周に排水孔3を設けた構成となっている。螺旋羽根2は、管本体1の推進方向側には、管端に近い所まで形成して、地盤へ回転させながらの捩じ込む時に、地中への推進力が得られるようにしている。管本体1の手前側は、有孔鋼管10の捩じ込み機(図示せず)のチャックに噛ませるための鋼管回転用金具を装着するために螺旋羽根2を設けない部分を形成している。管本体1の径、螺旋羽根2の高さやピッチ、排水孔3の径や個数は、後述する計算式により設定する。
【0029】
図2は、本発明の有孔鋼管10をのり面に捩じ込んだ状態を示すものであり、有孔鋼管10を水平方向、好ましくは基端側が低くなるような傾斜を設けてのり面に捩じ込むことにより、地盤中の地下水や水分が排水孔3を介して管本体1の内部に流入し、のり面の外側から排水されることになる。管本体1の外周に設けられた螺旋羽根2は、のり面への捩じ込み時に地中への推進力が働くとともに、捩じ込み後は、地盤との拘束(付着)効果が螺旋羽根2を設けない場合に比べて著しく高まる。
【0030】
図3は、所定長の有孔鋼管10を複数本、長手方向に連結して、地盤に捩じ込む際の必要長を確保しようとするものである。有孔鋼管10の連結は、差込ボルト式継手12を一方の管端に装着し、他方の管端を挿入して予め開けられたボルト穴を介してボルト結合することにより行う。差込ボルト式継手12により連結後の状態を図4に示す。図中11は有孔鋼管10の捩じ込み機(図示せず)のチャックに噛ませるための鋼管回転用金具、13は、先端の有孔鋼管10の先端に溶接して固定する地盤推進用のコーンである。本実施の形態においては、鋼管先端をコーン形状とし、1本あたりの長さを1〜2m、それらを接続するためボルト式の継手構造とし、施工性の向上を図っている。
【0031】
継手は、上記の差込ボルト式継手のほか、ねじ式がある。
打込み機のチャックに噛ませるための鋼管回転用金具は継手ごとに異なる形状(図示せず)となる。
【0032】
なお、有孔鋼管10は、地中に捩じ込む際、基端部に溶接した鋼管回転用金具11を捩じ込み機のチャックに噛ませて回転させ、地中に推進させ、大部分が捩じ込まれたときに次の有孔鋼管10を差込ボルト式継手12で連結して継ぎ足した方の有孔鋼管10の基端部に溶接した鋼管回転用金具11を捩じ込み機のチャックに噛ませて回転させ、さらに地中に捩じ込むことを繰り返して必要長の捩じ込みを行う。
【0033】
有孔鋼管の打込みは、打込み機により、有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用を利用して打込む。
【0034】
上記の方法で有孔鋼管の打込みを行うが、礫が混在していたり、堅い地盤(標準貫入試験値10程度以上)では、回転力と螺旋羽根のねじ作用だけでは打込みが困難となる。そのような場合は、回転力に押し込み力を加えて打込みを補助し、所定の長さまで有孔鋼管を打込む。
【0035】
上記の回転力と螺旋羽根のねじ作用に押し込み力を加えた方法で有孔鋼管の打込みを行っても打込みが困難となる場合は、打込み機に併設している振動(バイブロ)装置を稼働させて、打込みを補助し、所定の長さまで有孔鋼管を打込む。
【0036】
上記の振動を併用する方法でも所定の長さの有孔鋼管の打込みができない場合は、有孔鋼管を捩じ込むのに先立ち、有孔鋼管の羽根外径よりやや小さな径であらかじめ削孔を行い、その孔を利用して、有孔鋼管の羽根の一部または全部が元の地盤に食い込むように打込む。打込みは、打込み機により、有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ効果を利用し、場合によっては押し込み力や振動(バイブロ)を併用して行う。
【0037】
上記のあらかじめ行う削孔は、打込み機を利用して、先端に掘削用のビットあるいは打撃ハンマーを取り付けた中空ロットに空気圧および油圧により、打撃と回転を与え先端の地盤を削り、中空ロットの中に吹き込んだ圧搾空気により、削った土を外部へ排出して所定の必要長を設置する。
【0038】
有孔鋼管に回転力を与え、螺旋羽根のねじ作用を利用し、場合によっては押し込み力や振動を併用して打込まれた有孔鋼管の付着強度(周面摩擦抵抗)に比べ、あらかじめ削孔を行い、その孔を利用して設置した有孔鋼管の元の地盤との付着強度(周面摩擦抵抗)は約半分に低下する。
設計上杭1本当たりの付着強度(周面摩擦抵抗)を高めたい場合は、ケーシングを用いてあらかじめ削孔し、その孔に充填材を充填した後、ケーシングだけを抜き、充填材が充填された孔に、有孔鋼管を捩じ込めば、充填材と有孔鋼管の付着強度(周面摩擦抵抗)となるため、付着強度(周面摩擦抵抗)の改善ができる。
【0039】
充填材は、削孔径よりやや小さめの径の、変成ポリビニルアルコール(PVOH)を主成分としたビニル袋に詰められたものを、押し棒などを使用して削孔全長に詰める。
この袋は、水や土中のバクテリアによって分解される生分解性プラスチックであるので、有孔鋼管設置後、地盤からの排水効果に影響を与えることはない。袋の厚みや成分の調合により、溶解時間を数秒から2年程度まで設定できるので、施工時期や地盤の含水状況等を勘案して1〜10日程度に設定したものを使用するのが良い。
【0040】
充填材としては、砂、砂質土、砂利、砕石あるいは高炉スラグなどの透水性の良い材料が使える。使用する充填材の種類および削孔された孔への充填率により、充填材と有孔鋼管の付着強度(周面摩擦抵抗)は異なってくる。
【0041】
次に、以上の構成の有孔鋼管10を用いた地盤補強工法の設計について、図5を参照しながら説明する。
【0042】
ステップ100:設計・施工条件の把握
本工法の設計・施工を合理的に行うために、現地踏査や図面等の判読を行い、対象とする地盤の地盤条件、地下水条件および周辺環境の把握を行う
地盤条件の把握としては、対象とする地盤の物理的性質を求める試験において地盤の状態や特性を調べ、対象とする地盤の力学的性質を求める試験において土の強さなどを求める。
地下水条件の把握としては、地盤表面の湧水状況や調査ボーリングによる地下水位観測により降雨状況による湧水量や地下水位の増減を調査する。
周辺環境の把握としては周辺の土地利用状況、既設の構造物や埋設物、施工に必要な進入路、電力、騒音、振動、作業時間などの調査を行う。
【0043】
ステップ110:当工法の適用は妥当かどうかの判断
本工法の適用性を対象とする地盤の補強規模をもとに判断する。地盤を補強するために必要な抑止力が300KN/mとなる場合や想定するすべり線の長さが30mを超える場合は、グラウンドアンカーや抑止杭などの他の抑止工法が経済的となる場合が想定される。
適用が妥当であれば、次に進む。適用が妥当でなければ、設計を終了する。
【0044】
ステップ120:安定解析手法の検討
極限釣合い法を用いて安定解析を行う。
震度法を用いて安定解析を行う。
ニューマーク法を用いて安定解析を行う。
【0045】
ステップ130:地盤定数の設定
単位体積重量、せん断抵抗力およびせん断抵抗角などの設計に必要な地盤定数は、原則として対象とする地盤から採取した試料をもとにした物理的試験や力学的試験により決定するものとする。ただし、一般的な地盤を対象とする場合においては表1を参考に設定できるものとする。
【0046】
【表1】
【0047】
ステップ140:安全率等の設定
対象とする地盤における現況安全率(Fs)は、ステップ100およびステップ130をもとに極限釣合い法において算定する。また、長期安定性を対象とした場合の計画安全率(Fsp)は、一般的に盛土などの人工地盤の場合Fsp=1.2〜1.25、切土などの自然地盤の場合Fsp=1.2を目標とされているのでそれらを引用するものとした。
【0048】
ステップ150:必要抑止力の算定
本工法による必要抑止力の算定にあたっては、長期安定性とあわせて、短期安定性の対象となる異常降雨時および地震時に対してそれぞれの計画安全率を満足するよう設定する。
異常降雨時における必要抑止力(Pr)は、Fsp=1.05〜1.1とし、次式から算定する。
ここに、(W)は分割片の重量、(α)はすべり面の傾斜角である。
地震時における必要抑止力は、Fsp=1.0とし、次式から算定する。
ここに、(h)は分割片の重心とすべり円との中心との鉛直距離、(r)はすべり円の半径、(kh)は設計水平震度である。
【0049】
ステップ160〜180
有孔鋼管の配置検討にあたっては、予め、設置長さと配置密度(間隔)を仮定し、繰り返し計算において、もっとも合理的な配置となるよう検討を行う。
その際、有孔鋼管の1本あたりの許容引張力を設定しておく必要があり、{地盤との周面摩擦抵抗、有孔鋼管の引張強度、螺旋羽根と有効鋼管との溶接強度}のうち最小のものを採用する。
【0050】
ステップ190:安定性は確保できたかどうかの判断
有孔鋼管に作用すると想定される必要引張力が許容引張力以下であることをもって、安定性が確保できたかどうか判断する。確保できていれば次に進む。確保できていなければ、ステップ160に戻る。
ステップ150において算定した必要抑止力をステップ160で仮定する配置密度(間隔)で分担させ、有孔鋼管が受け持つ1本あたりの必要引張力を算定し、ステップ180で採用した1本あたりの許容引張力を満足することを確認する。
【0051】
ステップ200:降伏震度の算定
極限釣合い法を用いて震度法による降伏水平震度を算出する。
【0052】
ステップ210:地表面波形の算定
道路橋示方書・同解説(耐震設計編)などに記載されている地震波形を参考に設計に用いる地表面波形を選定する。
【0053】
ステップ220:残留変形量の算定
ステップ210で選定した地震波形を用いてニューマーク法により、地盤の残留変形量の算定を行う。
【0054】
ステップ230:許容変形量を満足するかどうかの判断
ステップ210で算出した残留変形量が100cm未満であれば許容変形量を満足しているとし、満足しなければ、再度、有孔鋼管の設置長さと配置密度(間隔)の見直しを行う。
【0055】
ステップ160で求められた設置長さを有する有孔鋼管を、同じくステップ160で求められた設置密度で当該地盤に捩じ込む。
【0056】
対象とする地盤の地下水位や飽和度を低下させるために、図6に示すように管本体1の外周に開口率10%でのスリット形状の長孔4を設置し、排水効果の向上を図る。本例では管本体1の外径は50mm、長孔4は6×50mmとし、管本体1の周方向に90°かつ長手方向に78mmピッチで千鳥配置した例を示している。開口率10%は透水係数に換算すると10-3〜10-2m/sに相当し、透水係数が10-9〜10-5m/sで透水不良といわれるシルトや砂の混合物土地盤における排水効果に大きく寄与する。
開口率を変えると、地盤中の地下水をのり面外に排水する効果が変わるので、有効鋼管の配置を見なおすかどうかを含め、十分検討する。
管本体1の外周に開ける水抜き穴は、「道路土木−排水溝指針」(公益社団法人日本道路協会発行)、「地下排水施設の施工−フィルター材料の選定」の規定を準用して選定するのがよい。また、スリット形状のほか、円形でもよい。
【0057】
ここで、有孔鋼管の地盤に対する拘束(付着)効果は、次のような引抜き試験により定量的評価を行う。
すなわち、一定の長さ(本例では6m)の有孔鋼管を地盤に捩じ込み、一定期間放置した後に前記有孔鋼管の長さ1mの部分の回りを掘削し、残存する長さ5mの有孔鋼管に対して、油圧ジャッキを用いて引抜き試験を行い、極限周面摩擦抵抗の設定を行う。
その極限周面摩擦抵抗は、地盤の強さを示す指標の一つとして頻繁に用いられているN値(重さ63.5kgのハンマーを75cmの高さから落下させて円筒形の試料採取器を土中に打ち込み、30cm打ち込むのに必要な落下回数)と図7のような相関が得られ、次式で推定できることが確認された。
ここでτ;極限周面摩擦抵抗(KN/m2
N;盛土の平均N値
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、排水機能と地盤拘束機能を同時に有する有孔鋼管の施工条件を、施工する地盤に適応して決定することのできる手法を提供するものであり、各種地盤補強工事に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 管本体
2 螺旋羽根
3 排水孔
4 長孔
10 有孔鋼管
11 鋼管回転用金具
12 差込ボルト式継手
13 地盤推進用のコーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7