特許第6352123号(P6352123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352123
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】移動体の推進システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/20 20060101AFI20180625BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20180625BHJP
   B63J 3/02 20060101ALI20180625BHJP
   B63J 99/00 20090101ALI20180625BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20180625BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20180625BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20180625BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20180625BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20180625BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B63H21/20
   B63H21/17
   B63J3/02 A
   B63J99/00 A
   B63H21/21
   B60L11/14
   B60L11/18 A
   H02J3/32
   H02J7/00 X
   H02P9/04 N
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-186407(P2014-186407)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-55850(P2016-55850A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江崎 秀明
(72)【発明者】
【氏名】浜松 正典
(72)【発明者】
【氏名】阪東 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜野 武憲
(72)【発明者】
【氏名】久次米 泰典
(72)【発明者】
【氏名】原田 芳輝
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/103192(WO,A1)
【文献】 特開2010−116070(JP,A)
【文献】 特開2012−47096(JP,A)
【文献】 特開2003−333752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/20
B60L 11/14
B60L 11/18
B63H 21/17
B63H 21/21
B63J 3/02
B63J 99/00
H02J 3/32
H02J 7/00
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を推進するための駆動軸に主軸が接続された電動発電機と、交流端が電力系統に接続されかつ直流端が直流中間部に接続された第1電力変換器と、直流端が直流中間部に接続されかつ交流端が前記電動発電機の電気端子に接続された第2電力変換器と、前記直流中間部に接続された蓄電装置と、を備え、前記駆動軸から機械力を受給して前記電力系統に電力を授与し、かつ前記電力系統から電力を受給して前記駆動軸に機械力を授与することが可能に構成された移動体の推進システムの制御方法であって、
第1電力指令値に基づいて、前記電力系統の周波数と前記第1電力変換器が前記電力系統に対し授与又は受給する電力(以下、対系統授受電力という)とが、前記電力系統の周波数の目標値と前記対系統授受電力の目標値との関係を示すドループ特性線上の一点となるように前記第1電力変換器をドループ制御し、
第2電力指令値に基づいて、前記第2電力変換器が電力変換する電力が当該第2電力指令値になるよう前記第2電力変換器を制御し、かつ、
前記第1電力指令値は、電力指令値であるか又は前記電動発電機の回転数指令値に基づいて生成される電力指令値である原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て生成され、
前記第2電力指令値は、前記原電力指令値に基づくものである、移動体の推進システムの制御方法。
【請求項2】
前記蓄電装置のSOC(State Of Charge)を取得し、かつ、このSOCが所定の範囲内に収まるように充放電を行うよう、充放電電力指令値を演算し、かつ、第2充放電電力指令値と第1充放電電力指令値との差が前記充放電電力指令値となるよう、前記第1充放電電力指令値と前記第2充放電電力指令値を生成し、
前記第1電力指令値を、前記原電力指令値から変動成分を除去する処理を経ることによって生成された第1推進電力指令値と、前記第1充放電電力指令値との加算により生成し、
前記第2電力指令値を、前記原電力指令値に基づいて生成された第2推進電力指令値と前記第2充放電電力指令値との加算により生成する、請求項1に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項3】
前記ドループ特性線は、電力系統の標準周波数に対しては第1電力指令値に設定し、標準周波数より高い周波数に対しては第1電力指令値より小さい前記電動発電機の発電電力又は第1電力指令値より大きい電動電力に設定され、前記標準周波数より低い周波数に対しては第1電力指令値より大きい前記電動発電機の発電電力又は第1電力指令値より小さい電動電力に設定される、請求項1に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項4】
前記ドループ制御は、電力系統の周波数を、実際の対系統授受電力と前記ドループ特性線とから求まる周波数になるように制御するようにして行われる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項5】
前記ドループ制御は、対系統授受電力を、実際の電力系統の周波数と前記ドループ特性線とから求まる電力になるように制御するようにして行われる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項6】
前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値である、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項7】
前記移動体は、電力供給が電力需要を満たすように各発電設備に発電要求を出力するパワマネジメントシステムを有し、
前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値に前記パワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものである、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項8】
前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差に基づく回転数制御によって得られる電動発電機の電力指令値に基づくものである、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項9】
前記移動体は、電力供給が電力需要を満たすように各発電設備に発電要求を出力するパワマネジメントシステムを有し、前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差に基づく回転数制御によって得られる電動発電機の電力指令値に前記パワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものである、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項10】
前記原電力指令値から変動成分を除去する処理は、前記原電力指令値にローパスフィルタまたは位相補償フィルタを通過させるものである、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【請求項11】
前記駆動軸の負荷を検出し、前記駆動軸の負荷が定常値より大きい場合は前記電動発電機の発電電力が減少または電動電力が増加するように推進電力補正値を求め、前記駆動軸の負荷が定常値より小さい場合は前記電動発電機の発電電力が増加または電動電力が減少するように推進電力補正値を求め、
算出した推進電力補正値を前記第2電力指令値に足し合わせる、請求項1又は2に記載の移動体の推進システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の推進システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動発電機及び双方向電力変換装置を備えた移動体推進システムとして、例えば特許文献1のような船舶のハイブリッド推進システムが知られている。この推進システムは、電力変換装置の直流部に接続された蓄電装置を備え、一時的な電力のアシストに利用している。具体的には、ウインチ等の起動によって稼働中の主発電機の能力を超える電力要求があった時、蓄電装置の放電を行うことで、追加の発電機の起動完了を待たずに迅速に電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8062081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、従来の推進システムでは、荒天時のプロペラレーシング等により、短周期の負荷変動が生じた場合、負荷変動が系統の周波数、電圧変動に影響を及ぼして停電に至る恐れが生じるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、移動体の推進システムにおいて短周期の負荷変動が生じた場合に、電力系統への負荷変動の影響を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る、移動体の推進システムの制御方法は、移動体を推進するための駆動軸に主軸が接続された電動発電機と、交流端が電力系統に接続されかつ直流端が直流中間部に接続された第1電力変換器と、直流端が直流中間部に接続されかつ交流端が前記電動発電機の電気端子に接続された第2電力変換器と、前記直流中間部に接続された蓄電装置と、を備え、前記駆動軸から機械力を受給して前記電力系統に電力を授与し、かつ前記電力系統から電力を受給して前記駆動軸に機械力を授与することが可能に構成された移動体の推進システムの制御方法であって、第1電力指令値に基づいて、前記電力系統の周波数と前記第1電力変換器が前記電力系統に対し授与又は受給する電力(以下、対系統授受電力という)とが、前記電力系統の周波数の目標値と前記対系統授受電力の目標値との関係を示すドループ特性線上の一点となるように前記第1電力変換器をドループ制御し、第2電力指令値に基づいて、前記第2電力変換器が電力変換する電力が当該第2電力指令値になるよう前記第2電力変換器を制御し、かつ、前記第1電力指令値は、電力指令値であるか又は前記電動発電機の回転数指令値に基づいて生成される電力指令値である原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て生成され、前記第2電力指令値は、前記原電力指令値に基づくものである。
【0007】
上記方法によれば、電動発電機が電動機として動作する場合、第1電力変換器は、電力系統の交流電力を、原電力指令値から変動成分を除去された電力指令値に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部に出力する。一方、第2電力変換器は、直流中間部から直流電力を取り出してこれを、原電力指令値に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電動発電機に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第1電力変換器から出力される電力に対して第2電力変換器から出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置が充電又は放電される。
【0008】
また、電動発電機が発電機として動作する場合、第2電力変換器は、電動発電機の交流発電電力を原電力指令値に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部に出力する。一方、第1電力変換器は、直流中間部から直流電力を取り出してこれを、原電力指令値から変動成分を除去された電力指令値に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電力系統に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第2電力変換器から出力される電力に対して第1電力変換器から出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置が充電又は放電される。
【0009】
一方の電力変換器から直流中間部に出力する電力と同じ量の電力を他方の電力変換器が直流中間部から取り出す場合、蓄電装置は動作しない。しかし、一方の電力変換器が直流中間部に出力する電力が他方の電力変換器が直流中間部から取り出す電力より大きい場合、直流中間部の電圧は上昇するので、直流中間部の電位は蓄電装置よりも高くなり、直流中間部から蓄電装置に電流が流れ、蓄電装置は充電される。また、一方の電力変換器が直流中間部に出力する電力が他方の電力変換器が直流中間部から取り出す電力より小さい場合、直流中間部の電圧は低下するので、直流中間部の電位は蓄電装置よりも低くなり、蓄電装置から直流中間部に電流が流れ、蓄電装置は放電される。このように、第1電力変換器と第2電力変換器との間で電力の授受に過不足がある場合のみ、蓄電装置は自動的に充放電される。
【0010】
あるいは、直流中間部と蓄電装置との間にDC/DCコンバータを設置し、DC/DCコンバータが直流中間部の電圧を制御するようにしてもよい。この場合も同様に、第1電力変換器と第2電力変換器との間で電力の授受に過不足がある場合のみ、蓄電装置は自動的に充放電される。
【0011】
従って、第1電力変換器がドループ制御されるので、自立運転及び系統連系運転のいずれにも対応できる。しかも、第1電力変換器が原電力指令値から変動成分を除去された電力指令値に基づく大きさの電力を電力系統に対し授受し、第2電力変換器が原電力指令値に基づく大きさの電力に応じた機械力を駆動軸に対して電動発電機を介して授受し、かつ、第1電力変換器が電力系統に対して授受する電力と第2電力変換器が電動発電機を介して駆動軸に対して授受する機械力に対応する電力との差分が蓄電装置の充電又は放電によって賄われる。これにより、原電力指令値が短周期で変動した場合でも、第1電力変換器が電力系統に対して、原電力指令値の変動成分の影響を受けることなく安定して電力を授受するとともに、蓄電装置が原電力指令値の変動に応じて充放電することによって、第2電力変換器が電動発電機を介して駆動軸に対して原電力指令値の変動に応じた機械力を授受することができる。
【0012】
その結果、原電力指令値を変動させる必要がある場合でも、電力系統への変動の影響を抑制することができる。
【0013】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記蓄電装置のSOC(State Of Charge)を取得し、かつ、このSOCが所定の範囲内に収まるように充放電を行うよう、充放電電力指令値を演算し、かつ、前記第2充放電電力指令値と前記第1充放電電力指令値との差が前記充放電電力指令値となるよう、第1充放電電力指令値と第2充放電電力指令値を生成し、前記第1電力指令値を、前記原電力指令値から変動成分を除去する処理を経ることによって生成された第1推進電力指令値と、第1充放電電力指令値との加算により生成し、前記第2電力指令値を、前記原電力指令値に基づいて生成された第2推進電力指令値と前記第2充放電電力指令値との加算により生成してもよい。
【0014】
上記方法によれば、蓄電装置のSOCを取得し、SOCが所定の範囲に収まるように充放電電力指令値が演算される。ここではSOCが所定の範囲よりも小さい場合は、蓄電装置を充電してSOCが所定の範囲に収まるように充放電電力指令値が演算される。また、SOCが所定の範囲よりも大きい場合は、蓄電装置を放電してSOCが所定の範囲に収まるように充放電電力指令値が演算される。この充放電電力指令値が第2充放電電力指令値と第1充放電電力指令値の差になるよう、第1充放電電力指令値と第2充放電電力指令値とが生成され、原電力指令値から変動成分を除去する処理を経た第1推進電力指令値と第1充放電電力指令値との加算により第1電力指令値が生成されるとともに、原電力指令値に基づいて生成された第2推進電力指令値と第2充放電電力指令値との加算により第2電力指令値が生成される。
【0015】
従って、第1電力指令値及び第2電力指令値が、蓄電装置のSOCが所定の範囲に収まるように当該蓄電装置が充放電するように生成され、それによって、第1電力変換器のドループ制御及び第2電力変換器の電力制御を通じて、SOCが所定の範囲に収まるように蓄電装置が充放電される。その結果、蓄電装置が空又は過充電になることを防ぐことができる。ここでSOCは、第2電力指令値と第1電力指令値の差に基づいて計算してもよいし、公知の方法、例えば蓄電装置に出入りする電力を計測して求めてもよい。
【0016】
移動体の推進システムの制御方法では、前記ドループ特性線は、電力系統の標準周波数に対しては第1電力指令値に設定し、標準周波数より高い周波数に対しては第1電力指令値より小さい前記電動発電機の発電電力又は第1電力指令値より大きい電動電力に設定され、前記標準周波数より低い周波数に対しては第1電力指令値より大きい前記電動発電機の発電電力又は第1電力指令値より小さい電動電力に設定されてもよい。
【0017】
上記方法によれば、電力系統の周波数目標値と第1電力変換器の対系統授受電力との関係を示すドループ特性線を、電力系統と連系させる上で好適に設定できる。
【0018】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記ドループ制御は、電力系統の周波数を、実際の対系統授受電力と前記ドループ特性線とから求まる周波数になるように制御するようにして行われてもよい。
【0019】
上記方法によれば、ドループ制御によって第1電力変換器を周波数制御することができる。
【0020】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記ドループ制御は、対系統授受電力を、実際の電力系統の周波数と前記ドループ特性線とから求まる電力になるように制御するようにして行われてもよい。
【0021】
上記構成によれば、ドループ制御によって第1電力変換器を電力制御することができるので、自立運転及び電力系統上の他の発電機との系統連系運転が可能となる。
【0022】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値でもよい。
【0023】
上記方法によれば、原電力指令値が、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値であるので、電力系統への負荷変動の影響を抑制しつつ、第2電力変換器による電動発電機の電力制御を俊敏に行うことができる。
【0024】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記移動体は、電力供給が電力需要を満たすように各発電設備に発電要求を出力するパワマネジメントシステムを有し、前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値にパワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものであってもよい。
【0025】
上記方法によれば、原電力指令値が、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の電力指令値にパワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものであるので、船舶のパワマネジメント制御を考慮しつつ第2電力変換器による電動発電機の電力制御を好適に行うことができる。
【0026】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差によって得られる電動発電機の電力指令値に基づくものであってもよい。
【0027】
上記方法によれば、原電力指令値が、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差によって得られる電動発電機の電力指令値であるので、電力系統への負荷変動の影響を抑制しつつ、電動発電機の俊敏な回転数制御が可能になる。
【0028】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記移動体は、電力供給が電力需要を満たすように各発電設備に発電要求を出力するパワマネジメントシステムを有し、前記原電力指令値は、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差に基づく回転数制御によって得られる電動発電機の電力指令値に前記パワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものであってもよい。
【0029】
上記方法によれば、原電力指令値が、操作卓又は自動船位保持システムから与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機の実際の回転数との偏差によって得られる電動発電機の電力指令値にパワマネジメントシステムから与えられる電力指令値を加算したものであるので、船舶のパワマネジメント制御を考慮しつつ第2電力変換器による電動発電機の回転数制御を好適に行うことができる。
【0030】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記原電力指令値から変動成分を除去する処理は、前記原電力指令値にローパスフィルタまたは位相補償フィルタを通過させたものであってもよい。
【0031】
上記方法によれば、原電力指令値にローパスフィルタまたは位相補償フィルタを通過させることにより、原電力指令値から変動成分を除去するので、原電力指令値の高周波成分が抑制され、電動発電機への指令値の変動によって生じる電力系統への影響を抑制することができる。
【0032】
上記移動体の推進システムの制御方法では、前記駆動軸の負荷を検出し、前記駆動軸の負荷が定常値より大きい場合は前記電動発電機の発電電力が減少または電動電力が増加するように推進電力補正値を求め、前記駆動軸の負荷が定常値より小さい場合は前記電動発電機の発電電力が増加または電動電力が減少するように推進電力補正値を求め、算出した推進電力補正値を前記第2電力指令値に足し合わせてもよい。
【0033】
上記方法によれば、駆動軸の負荷の変動成分のみを加味した推進電力補正値を第2電力指令値に足し合わせることにより、積極的に主機の負荷変動を抑制することができ、燃費が向上するとともに、系統への影響を抑制することができる。従って、負荷変動に弱い種類のエンジンを主機に適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、移動体の推進システムにおいて、燃費の悪化を抑制するとともに、電力系統への負荷変動の影響を抑制することができる。また、負荷変動に弱い種類のエンジンを主機に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1実施形態に係る移動体推進システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2図2(a)は、発電動作する電動発電機を制御する際に設定されるドループ特性線である。図2(b)は、電動動作する電動発電機を制御する際に設定されるドループ特性線である。
図3図3(a)は、周波数制御時のドループ特性線である。図3(b)は、電力制御時のドループ特性線である。
図4図1の移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図5】第2実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図6】第3実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図7】第4実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図8】第5実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図9】第6実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図10】第7実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図11】第8実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図12】第9実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図13】第10実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。
図14】本発明が適用される移動体推進システムの種類を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0037】
(本発明の適用対象)
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の適用対象を説明する。図14は、本発明が適用される移動体推進システムの構成を示すブロック図である。図14には、理解を容易にするために、移動体推進システムの典型例として、船舶の推進システムが示されている。移動体推進システムの構成は、船舶の種類に依存して異なる。本発明の推進システムが搭載される船舶の典型例として、ハイブリッド船、軸発電機搭載機械推進船、および電気推進船が挙げられる。
【0038】
図14(a)に示すように、ハイブリッド船は、移動体推進システム10と主機17と推進器(典型的にはプロペラ)11とを備えている。移動体推進システム10は、電動発電機19、第1電力変換器25a、第2電力変換器25b、及び蓄電装置30を備えている。電動発電機19は、動力伝達機構(たとえば減速装置)20を介して主機17と推進器11とに機械的に接続されている。また、電動発電機19は第2電力変換器25bと電気的に接続され、第2電力変換器25bは直流中間部を介して第1電力変換器25aに接続されている。直流中間部には蓄電装置30が直接、またはDC/DCコンバータ(図示せず)を介して接続されている。第1電力変換器25は船内母線22に接続されている。船内母線22には主発電機18が接続されている。ハイブリッド船では、電動発電機19が、主発電機18から第1電力変換器25a及び第2電力変換器25bを介して電力を受給して駆動力を発生し、それを推進器11に授与することによって、主機17による推進器11の駆動をアシストする。また、電動発電機19が、主機17から動力を受給して発電し、それを第2電力変換器25b及び第1電力変換器25aを介して船内母線22に授与することによって主発電機18による船内母線への電力供給をアシストする。
【0039】
図14(b)に示すように、軸発電機搭載機械推進船は、ハイブリッド船と比較すると、主発電機を備えていたとしても、主発電機は電動発電機19と系統連系することはなく、電動発電機19が専ら発電機として動作する。従って、推進器11は専ら主機17によって駆動され、船内母線22に接続された電気負荷の電力需要は電動発電機19の発電電力によって賄われる。
【0040】
図14(c)に示すように、電気推進船は、ハイブリッド船と比較すると、主機を備えておらず、電動発電機19が専ら電動機として動作する。従って、推進器11は電動発電機19によって駆動される。
【0041】
ここで、一般の移動体推進システムにおいて、「移動体」は特に限定されず、移動するものであればよい。たとえば、車両(鉄道車両、自動車等)、飛行機等が挙げられる。また、「推進器」は、特に限定されず、移動体を推進するものであればよい。たとえば、車輪、飛行用プロペラ等が挙げられる。「主機」は、一般的な「原動機」であればよい。また、軸発電機搭載機械推進移動体では、電動発電機19は、単なる発電機であってもよい。また、電気推進移動体では、電動発電機19は、単なる電動機であってもよい。
【0042】
(移動体推進システムの動作モード)
図14(a)〜図14(c)を参照すると、ハイブリッド移動体における推進システム10は、一般に、電気推進モード、推進加勢モード、並列モード、及び軸発モードの4つの動作モードを有する。推進加勢モードは、電動発電機19を電動機として動作させて主機17の推力をアシストする動作モードであり、並列モードは、電動発電機19を発電機として動作させて、主発電機18の電力をアシストする動作モードであり、両者はハイブリッド移動体に特有の動作モードである。電気推進モードは、電気推進移動体の動作に相当し、ハイブリッド移動体を電気推進移動体として動作させる動作モードである。換言すると、電気推進移動体の推進システムの動作は、ハイブリッド移動体の電気推進モードに相当する。
【0043】
軸発モードは、軸発電機搭載機械推進移動体の動作に相当し、ハイブリッド移動体を軸発電機搭載機械推進移動体として動作させる動作モードである。換言すると、軸発電機搭載機械推進移動体の推進システムの動作は、ハイブリッド移動体の軸発モードに相当する。
【0044】
電気推進モードの場合、電動発電機19は回転数制御されることが一般的であるが、電力制御を行ってもよい。また、推進加勢モード、並列モード、及び軸発モードの場合、主機17が回転数制御され、電動発電機19は、電力制御されることが一般的である。
【0045】
以下では、電動発電機19が回転数制御される制御モードを「回転数制御モード」と呼び、電動発電機19が電力制御される制御モードを「電力制御モード」と呼ぶ。推進システム10が、回転数制御モード及び電力制御モードを実行するためには、それぞれに専用の構成を備える必要がある。また、回転数制御モードと電力制御モードとは、相互に切り換えて別々に実行される。従って、制御モード毎に、その構成と動作とを一括し且つ個別に説明した方が理解しやすい。
【0046】
それ故、以下では、電動発電機19を電力制御する実施形態と、電動発電機19を回転数制御する実施形態とに分けて、本発明の実施形態を説明する。
【0047】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る移動体推進システム10の構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態は、電動発電機19を電力制御する移動体推進システム10を例示するものである。このような移動体推進システム10として、推進加勢モード、並列モード、及び軸発モードを有するハイブリッド移動体の推進システム及び軸発電機搭載機械推進移動体の推進システムが相当する。なお、軸発電機搭載機械推進移動体の推進システムにおいては、電動発電機19は発電機としてのみ動作する。
【0048】
図1に示すように、移動体は、推進システム10および推進器11を備えている。推進システム10は、電動発電機19と、電力変換装置25と、蓄電装置30と、制御器14を備えている。電動発電機19は、1つまたは複数、移動体に設けられている。なお、本実施形態では、推進システム10はハイブリッド船の推進システムである。従って、推進システム10は、主機17をさらに備えていて、この主機17が、動力伝達機構(たとえば減速機構)20を介して、推進器11の駆動軸および電動発電機19の主軸に互いに動力を伝達可能に接続されている。移動体は、特に限定されないが、本実施形態では、船舶である。
【0049】
推進器11は、その駆動軸が推進システム10の電動発電機19の主軸および主機17に接続されており、電動発電機19および主機17から伝達された動力を移動体の推力に変換する。本実施形態では、推進器11は移動体である船舶を推進するプロペラである。
【0050】
電動発電機19は、交流電力を動力に変換する電動機能、および、動力を交流電力に変換する発電機能を有している。電動発電機19の主軸は、推進器11を回転力によって駆動する駆動軸および主機17に互いに動力伝達可能に接続されており、たとえば、減速装置、嵌脱可能なクラッチなどの動力伝達機構20により推進器11の駆動軸および主機17に連結されている。また、電動発電機19の電気端子は、双方向の電力変換装置25を介して電力系統18に接続されると共に、電力系統18の母線を介して電力負荷に接続されている。電動発電機19は、電動機として機能(電動動作)する場合、電力系統18から電力変換装置25を介して入力された電力を回転動力に変換し、動力を推進器11に伝達する。一方、電動発電機19は、発電機として機能(発電動作)する場合、推進器11及び主機17から伝達された回転動力を電力に変換し、電力を、電力変換装置25を介して母線に出力する。
【0051】
電力系統18は、母線(図1に示さず)、母線に接続された電力負荷(図示せず)、及び発電機(図1に示さず)等の他の電力源で構成されている。
【0052】
双方向の電力変換装置25は、交流電力を一旦直流電力変換し、その変換により得られた直流電力を交流電力に変換して、電力系統18および電動発電機19の交流の周波数および電圧を相互に変換する機器である。電力変換装置25は、その一方の端子が電力系統18に接続され、他方の端子が電動発電機19に接続されている。具体的には、電力変換装置25は、第1電力変換器25aおよび第2電力変換器25bを有している。第1電力変換器25aおよび第2電力変換器25bは、一対の配線で構成されたDCリンク(直流中間部)により接続されている。
【0053】
第1電力変換器25aは、系統側電力変換器であって、たとえば双方向インバータで構成されている。第1電力変換器25aの交流端が電力系統18に接続され、かつ、直流端がDCリンクに接続されている。第1電力変換器25aは、DCリンクから入力された直流電力を交流電力に変換して電力系統18に出力する。また電力系統18から入力された交流電力を直流電力に変換してDCリンクに出力する。
【0054】
第2電力変換器25bは、電動発電機側電力変換器であって、たとえば双方向インバータで構成されている。第2電力変換器25bの直流端がDCリンクに接続され、かつ、交流端が電動発電機19に接続されている。第2電力変換器25bは、電動発電機19から入力された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力する。また、DCリンクから入力された直流電力を交流電力に変換して電動発電機19に出力する。
【0055】
蓄電装置30は、DCリンクに接続されており、DCリンクの電圧(直流中間電圧)の変動を平滑化する。蓄電装置30は、例えば二次電池、キャパシタ等のコンデンサ等で構成される。
【0056】
制御器14は、第1電力変換器25aをドループ制御し、第2電力変換器25bを電力制御することによって、電動発電機19を制御する。「ドループ制御」は、制御器14の内部に発電機を制御するガバナのモデルを構築することによって、第1電力変換器25aに発電機に相当する特性を持たせる制御である。第1電力変換器25aが発電機に相当する特性を有する結果、自立運転と系統連系運転とをシームレスに切り替えることができる。
【0057】
「ドループ制御」は周知の技術であるので、詳しい説明は省略する。「ドループ制御」の詳細は、例えば「G. Marina & E. Gatti, “Large Power PWM IGBT Converter for Shaft Alternator Systems”, 35th Annual IEEE Power Electronics Specialists Conference, 2004」を参照されたい。なお、「ドループ制御」においては、電力系統18の周波数と、電力系統18に対して第1電力変換器25aが授受する電力(有効電力)とがそれぞれのセンサ(図示せず)によって検出されて制御器14(正確には後述するドループ制御部145(図4参照))に入力され、ドループ制御におけるこれらの制御に用いられる。
【0058】
本実施の形態では、ドループ制御において、電力系統18の標準周波数および電力指令値Pcに基づいてドループ特性線を設定する。そして、ドループ特性線上の目標値になるように電力系統18の周波数または第1電力変換器25aの電力を制御している。このドループ特性線は、電力系統18の周波数目標値と第1電力変換器25aの「対系統授受電力」の目標値との関係を示す。なお、「対系統授受電力」は、電力系統18に対して第1電力変換器25aが授受する電力のうちの有効電力を意味する。以降、ドループ特性線の説明においては、対系統授受電力のうち第1電力変換器25aが電力系統に授与する電力を発電電力、第1電力変換器25aが電力系統から受給する電力を電動電力と呼ぶ。従って、正の電動電力は負の発電電力であり、正の発電電力は負の電動電力である。また、電動発電機から電力系統に向かう電力を正と定義し、電力系統から電動発電機に向かう電力を負と定義する。
【0059】
次に、図2(a)および図2(b)を参照し、ドループ特性線の設定方法について説明する。図2(a)および図2(b)は、ドループ特性線を表すグラフである。各グラフの縦軸に電力系統18の周波数を示し、横軸に対系統授受電力を示す。
【0060】
図2(a)は、第1電力変換器25aが電力系統に電力を授与する際に設定されるドループ特性線である。図2(a)に示すように、第1電力変換器25aが電力系統に電力を授与する際には、ドループ特性線は、電力系統の標準周波数Fsに対しては電力指令値Pcに設定される。標準周波数Fsより高い周波数に対しては電力指令値Pcより小さい電動発電機の発電電力に設定される。一方、標準周波数Fsより低い周波数に対しては電力指令値Pcより大きい電動発電機の発電電力に設定される。
【0061】
図2(b)は、第1電力変換器25aが電力系統から電力を受給する際に設定されるドループ特性線である。図2(b)に示すように、第1電力変換器25aが電力系統から電力を受給する際には、ドループ特性線は、電力系統の標準周波数Fsに対しては電力指令値Pcに設定される。標準周波数Fsより高い周波数に対しては電力指令値Pcより大きい電動電力に設定される。一方、標準周波数Fsより低い周波数に対しては電力指令値Pcより小さい電動電力に設定される。
【0062】
図2(a)および図2(b)に示すように、ドループ特性線は、電力系統18の周波数の低下に応じて発電電力が増加して電動電力が減少する。
【0063】
ドループ特性線は、電力系統18の標準周波数Fs、電動発電機19に対する電力指令値Pcおよび傾きにより定められる。電力系統18の標準周波数Fsは、電力系統18ごとに予め定められており、たとえば、船舶における電源の標準周波数:60Hzや日本における電源の標準周波数:60Hzまたは50Hzが用いられる。電力指令値Pcは、後述するように、操作者などにより入力された操作情報に基づいて設定される。ドループ特性線の傾きは、所定の値である。このため、標準周波数Fsおよび電力指令値Pcにより定められる点を通るように、ドループ特性線が設定される。これにより、電力指令値Pcに応じてドループ特性線を変えることができる。なお、ここでは、標準周波数Fsを電力系統18の周波数に設定したが、標準周波数Fsは適宜設定される。
【0064】
次に、図3(a)および図3(b)を参照し、ドループ制御方法について説明する。図3(a)および図3(b)は、ドループ特性線を表すグラフである。前述したように、ドループ特性線は、電力系統18の標準周波数Fsおよび電力指令値Pcに基づいて設定される。図3(a)は、周波数制御時のドループ特性線である。図3(b)は、電力制御時のドループ特性線である。各グラフの縦軸に電力系統18の周波数を示し、横軸に対系統授受電力を示している。
【0065】
実際の電力系統18の周波数(実際値)fおよび実際の対系統授受電力(実際値)Pは、各グラフのX印で示される。図3(a)の周波数制御では、X印で示す電力系統18の周波数の実際値fは、X印で示す対系統授受電力の実際値Pとドループ特性線上とから求める周波数目標値fより小さい。このため、電力系統18の周波数の実際値fが周波数目標値fになるように、第1電力変換器25aが制御される。また、図3(b)の電力制御では、X印で示す対系統授受電力の実際値Pは、X印で示す電力系統18の周波数の実際値fとドループ特性線とから求まる電力目標値Pより小さい。このため、対系統授受電力の実際値Pが電力目標値Pになるように、第1電力変換器25aが制御される。
【0066】
次に、図4を参照し、電動発電機19を「電力制御モード」によって制御するための制御器14の具体的な構成について説明する。図4は、移動体推進システム10の制御系のブロック図である。
【0067】
制御器14は、演算装置で構成されており、第1電力変換器25aおよび第2電力変換器25bを制御する。制御器14は、原電力指令値生成部142と、変動成分除去部144と、ドループ制御部145と、電力制御部130を有している。これらの制御器14の各部は、それぞれ内蔵されるプログラムが演算装置により実行されることにより実現される機能である。
【0068】
原電力指令値生成部142は、操作卓12に設けられたレバーから入力されたレバーの位置を示す操作情報に基づいて電力指令値である原電力指令値を生成する。ここでは原電力指令値生成部142は、例えば予め演算装置のメモリに記憶されたルックアップテーブルを参照してレバー位置に対応した原電力指令値を設定する。
【0069】
変動成分除去部144は、電力指令値である原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て第1電力指令値を生成する。本実施の形態では、変動成分除去部144は、たとえば、ローパスフィルタまたは位相補償フィルタである。
【0070】
ドループ制御部145は、変動成分除去部144から出力される電力指令値に基づいて第1電力変換器25aをドループ制御する。ここで、ドループ制御部145は、第1電力指令値に基づいて、電力系統18の周波数および対系統授受電力がドループ特性線上の一点となるように制御する。
【0071】
電力制御部130は、原電力指令値である第2電力指令値に基づいて、第2電力変換器25bが電力変換する電力が第2電力指令値になるよう第2電力変換器25bを制御する。
【0072】
次に、電動発電機を電力制御する場合の移動体推進システム10の動作(移動体推進システム10の制御方法)について図4を参照して説明する。
【0073】
操作者が推力を調整するために操作卓12のレバーを操作すると、レバー位置を示す操作情報が原電力指令値生成部142へ出力される。原電力指令値生成部142では、内蔵された操作情報と電力指令値との関係を示すルックアップテーブルに基づいて、入力された操作情報に対応する原電力指令値を生成する。そして、変動成分除去部144では、電力指令値である原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て第1電力指令値Pc1を生成し、これをドループ制御部145へ出力する。ドループ制御部145では、第1電力指令値Pc1に基づいて、図2(a)または図2(b)に示すようにドループ特性線を設定する。このドループ特性線によって、操作情報に応じた電力系統18の周波数目標値fまたは対系統授受電力の目標値Pが定められる。
【0074】
ドループ制御部145が第1電力変換器25aを周波数制御する場合には、図3(a)に示すように、対系統授受電力の実際値Pとドループ特性線とから周波数目標値fを求める。そして、ドループ制御部145は、周波数の実際値fが周波数目標値fに近づくように、電圧指令値または電流指令値を変化させ、これを第1電力変換器25aに与える。
【0075】
また、ドループ制御部145が第1電力変換器25aを電力制御する場合には、図3(b)に示すように、電力系統18の周波数の実際値fとドループ特性線とから電力目標値Pを求める。そして、ドループ制御部145は、対系統授受電力の実際値Pが電力目標値Pに近づくように、電圧指令値または電流指令値を変化させ、これを第1電力変換器25aに与える。
【0076】
次に、第2電力変換器25b等の動作を、電動発電機19が電動機として動作する場合と電動発電機19が発電機として動作する場合とに分けて説明する。
【0077】
まず、電動発電機19が電動機として動作する場合について説明する。この場合、第1電力変換器25aは、上述のようにドループ制御しつつ、電力系統18の交流電力を、原電力指令値から変動成分を除去された第1電力指令値Pc1に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部の蓄電装置30(図1)に出力する。一方、第2電力変換器25bは、直流中間部の蓄電装置30から直流電力を取り出してこれを、第2電力指令値Pc2に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電動発電機19に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第1電力変換器25aから出力される電力に対して第2電力変換器25bから出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置30が充電又は放電される。これにより、操作卓12のレバーの操作に応じて、主機17の出力に電動発電機19による駆動力を加えた推進力が推進器11に伝達される。
【0078】
一方、電動発電機19が発電機として動作する場合について説明する。この場合、第2電力変換器25bは、電動発電機19の交流発電電力を第2電力指令値Pc2に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部の蓄電装置30(図1)に出力する。一方、第1電力変換器25aは、直流中間部の蓄電装置30から直流電力を取り出してこれを、原電力指令値から変動成分を除去された第1電力指令値Pc1に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電力系統18に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第2電力変換器25bから出力される電力に対して第1電力変換器25aから出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置30が充電又は放電される。これにより、操作卓12のレバーの操作に応じて、主機17の出力から電動発電機19による発電電力を除いた分の推進力が推進器11に伝達される。
【0079】
尚、蓄電装置30とDCリンク(直流中間部)との間に設置されたDC/DCコンバータによりDCリンクの電圧を制御するように構成した場合であっても、同様に、第1電力変換器25aと第2電力変換器25bとの間で電力の授受に過不足がある場合のみ、蓄電装置30は自動的に充放電される。
【0080】
以上の「電力制御モード」による動作により、第1電力変換器25aに対するドループ制御が行われるとともに、このドループ制御において電動発電機19の電力(発電電力または消費電力(負の発電電力))がフィードバック制御される。これにより、自立運転及び系統連系運転のいずれにも対応できる。しかも、第1電力変換器25aが第1電力指令値Pc1に基づく大きさの電力を電力系統18に対し授受し、第2電力変換器25bが第2電力指令値Pc2に基づく大きさの電力に応じた機械力を推進器11の駆動軸に対して電動発電機19を介して授受し、かつ、第1電力変換器25aが電力系統に対して授受する電力と第2電力変換器25bが電動発電機19を介して推進器11の駆動軸に対して授受する機械力に対応する電力との差分が蓄電装置30の充電又は放電によって賄われる。これにより、原電力指令値が短周期で変動した場合でも、第1電力変換器25aが電力系統に対して、原動力指令値の変動成分の影響を受けることなく安定して電力を授受するとともに、蓄電装置30が原電力指令値の変動に応じて充放電することによって、第2電力変換器25bが電動発電機を介して駆動軸に対して原電力指令値の変動に応じた機械力を授受することができる。
【0081】
その結果、主機17の負荷変動を抑制することができ、原電力指令値を変動させる必要がある場合でも、電力系統への変動の影響を抑制することができる。以て、荒天時等の負荷変動に際して移動体推進システム10の安定動作が可能になる。
【0082】
また、変動成分除去部144により、原電力指令値をローパスフィルタまたは位相補償フィルタを通過させることにより、好適に原電力指令値から変動成分を除去することができ、ひいては、好適に電動発電機への指令値の変動によって生じる電力系統への影響を抑制することができる。
【0083】
また、原電力指令値が、操作卓12のレバーから与えられる電動発電機19の電力指令値であるので、電力系統への負荷変動の影響を抑制しつつ、第2電力変換器25bによる電動発電機19の電力制御を俊敏に行うことができる。
【0084】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0085】
図5は、第2実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図5に示すように、制御器14Aは、自動船位保持システム(以下では、DPS:Dynamic Positioning systemという)150からの入力手段(図示せず)を備える。
【0086】
ここでDPS150とは、船舶が洋上で定位置を保つ技術である。GPS(全地球測位システム)等により船の位置を確認し、スラスタの推進力及び推進方向を調整することで、風や潮流等に流されることなく、船体の位置を一定に保持する。
【0087】
本実施形態では、このDPS150から与えられる電動発電機の電力指令値が原電力指令値である。そして、原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て第1電力指令値Pc1が生成されるとともに原電力指令値に基づく第2電力指令値Pc2が生成される。これにより、第1電力変換器25aのドループ制御及び第2電力変換器25bの電力制御が行われるとともに、電動発電機19の発電/電動動作時において蓄電装置30の充放電による負荷変動の抑制が可能になる。
【0088】
このような構成によれば、第1実施の形態と同様な効果に加えて、DPS150による洋上での定位置の確保が可能となる。
【0089】
尚、制御器14AがDPS150と操作卓12のレバー操作と切り替え可能に接続されたPCS(Propulsion Control System)(図示せず)26を備え、PCSから、原電力指令値である電動発電機の電力指令値が与えられるような構成でもよい。
【0090】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施の形態の移動体推進システム10の構成は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0091】
図6は、第3実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図6に示すように、制御器14Bは、パワマネジメントシステム(Power Management System、以下、単にPMSという)151からの入力手段(図示せず)及び加減算器170を備える。
【0092】
PMS151は、移動体における電力供給が電力需要を満たすように各発電設備に発電要求を出力するように構成される。
【0093】
PMS151には、船舶の電力系統18から現在の船舶の推力需要、電力需要、推力供給能力、及び電力供給能力を含む情報が入力される。PMS151は、船舶の推力需要及び船舶の電力需要と推力供給能力及び電力供給能力とをそれぞれ比較し、移動体推進システム10における電力と推力の過不足を調整するように、電動発電機19が電動または発電する電力指令値を演算する。
【0094】
加減算器170は、操作卓12から与えられる電動発電機の電力指令値にPMS151から与えられる電力指令値を加算して、原電力指令値を生成する。そして、原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て第1電力指令値Pc1が生成されるとともに原電力指令値に基づく第2電力指令値Pc2が生成される。これにより、第1電力変換器25aのドループ制御及び第2電力変換器25bの電力制御が行われるとともに、電動発電機19の発電/電動動作時において蓄電装置30の充放電による負荷変動の抑制が可能になる。
【0095】
このような構成によれば、電動発電機19の電動又は発電の切り替えにより電力と推力の過不足を調整することができる。よって、第1実施の形態と同様な効果に加えて、PMS151による電力系統18の電力管理が可能となる。
【0096】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0097】
図7は、第4実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図7に示すように、制御装置14Cは、DPS150、PMS151からの入力手段(図示せず)及び加減算器170を備える。本実施形態では、原電力指令値が、DPS150から与えられる電動発電機の電力指令値に、PMS151から与えられる電力指令値を加算したものである点が第1実施形態と相違する。このような構成によれば、第1実施の形態と同様な効果に加えて、DPS150による自動操縦及びPMS151による電力系統18の電力管理の双方が可能となる。
【0098】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0099】
図8は、第5実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図8に示すように、制御装置14Eは、SOC演算部155と、充放電電力指令値演算部156と、電力配分演算部157と、加減算器171、172、173を更に備える。
【0100】
加減算器173は、第2電力指令値Pc2から第1電力指令値Pc1を減算して、演算結果をSOC演算部155に出力する。SOC演算部155は、入力された第2電力指令値Pc2と第1電力指令値Pc1の差に基づいてSOCを計算する。
【0101】
SOC演算部155は、入力された第2電力指令値Pc2と第1電力指令値Pc1の差に基づいて蓄電装置30のSOCを演算し、これを充放電電力指令値演算部156に出力する。
【0102】
充放電電力指令値演算部156は、入力されたSOCに基づいて充放電電力指令値を演算し、これを電力配分演算部157に出力する。ここで充放電電力指令値は、SOCが所定の範囲内(例えば40%〜60%)に収まるように蓄電装置30に充放電させるような値に決定される。
【0103】
電力配分演算部157は、入力された充放電電力指令値を、第1電力変換器25aを制御するドループ制御部145と、第2電力変換器25bを制御する電力制御部130とに分配するように第1充放電電力指令値と第2充放電電力指令値を生成し、これらを加減算器171、172に出力する。本実施の形態では、第1充放電電力指令値と第2充放電電力指令値は、第2充放電電力指令値と第1充放電電力指令値との差が充放電電力指令値となるような値に生成される。第1充放電電力指令値と第2充放電電力指令値はどちらか一方にのみ値を配分し、他方はゼロにしてもよい。
【0104】
加減算器171は、変動成分除去部144により原電力指令値から変動成分を除去する処理を経ることによって生成された第1推進電力指令値と、第1充放電電力指令値とを加算して第1電力指令値Pc1を生成し、これをドループ制御部145に出力する。
【0105】
加減算器172は、原電力指令値に基づいて生成された第2推進電力指令値と第2充放電電力指令値とを加算して第2電力指令値Pc2を生成し、これを電力制御部130に出力する。
【0106】
以上のような構成において、第2電力変換器25b等の動作を、電動発電機19が電動機として動作する場合と電動発電機19が発電機として動作する場合とに分けて説明する。
【0107】
まず、電動発電機19が電動機として動作する場合について説明する。この場合、第1電力変換器25aは、第1実施形態と同様にドループ制御しつつ、電力系統18の交流電力を、原電力指令値から変動成分を除去された第1電力指令値Pc1に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部に出力する。一方、第2電力変換器25bは、直流中間部から直流電力を取り出してこれを、第2電力指令値Pc2に基づく大きさ(単位時間当たりの電力量)の交流電力に変換してこれを電動発電機19に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第1電力変換器25aから出力される電力に対して第2電力変換器25bから出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置30が充電又は放電される。
【0108】
このとき、第2電力指令値Pc2と第1電力指令値Pc1の差に基づいて蓄電装置30のSOCが演算され、SOCが所定の範囲よりも大きい場合(例えばSOCが60%以上)は、蓄電装置30を放電してSOCが所定の範囲に収まるように充放電電力指令値が演算される。一方で、SOCが所定の範囲よりも小さい場合(例えばSOCが40%以下)は、蓄電装置30を充電してSOCが所定の範囲に収まるように充放電電力指令値が演算される。そして、第1電力指令値Pc1及び第2電力指令値Pc2に反映される。尚、SOCが所定の範囲が所定範囲内にある場合(例えばSOCが40%〜60%)は、蓄電装置30を充放電させる必要は無いので充放電電力指令値はゼロに設定される。
【0109】
一方、電動発電機19が発電機として動作する場合について説明する。この場合、第2電力変換器25bは、電動発電機19の交流発電電力を第2電力指令値Pc2に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部に出力する。一方、第1電力変換器25aは、直流中間部から直流電力を取り出してこれを、原電力指令値から変動成分を除去された第1電力指令値Pc1に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電力系統18に出力する。すると、原電力指令値の変動成分に応じて、第2電力変換器25bから出力される電力に対して第1電力変換器25aから出力される電力に過不足が生じ、この過不足に応じて蓄電装置30が充電又は放電される。電動発電機19が発電機として動作する場合でも上記のSOC制御が実行され、演算された充放電電力指令値が第1電力指令値Pc1及び第2電力指令値Pc2に反映される。
【0110】
従って、第1電力指令値Pc1及び第2電力指令値Pc2が、蓄電装置30のSOCが所定の範囲に収まるように蓄電装置30が充放電するように生成され、それによって、第1電力変換器25aのドループ制御及び第2電力変換器25bの電力制御を通じて、SOCが所定の範囲に収まるように蓄電装置30が充放電される。その結果、蓄電装置30が空又は過充電になることを防ぐことができる。
【0111】
つまり、本実施形態によれば、第1電力変換器25aのドループ制御及び第2電力変換器25bの電力制御が行われるとともに、電動発電機19の発電/電動動作時において蓄電装置30のSOC制御を行いつつ充放電による負荷変動の抑制が好適に可能になる。
【0112】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第5実施形態と同様である。以下では、第5実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0113】
図9は、第6実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図9に示すように、本実施形態では、SOC演算部155は、公知の方法により、蓄電装置30に出入りする電力を計測することによりSOCを演算する点が第5実施形態と異なる。本実施形態でも、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。本実施形態は、電動発電機19を回転数制御する移動体推進システム10を例示するものである。このような移動体推進システム10として、推進加勢モード、並列モード、及び軸発モードに加えて電気推進モードを有するハイブリッド移動体の推進システム及び電気推進移動体の推進システムが相当する。なお、電気推進移動体の推進システムにおいては、電動発電機19は基本的に電動機として動作し、回生制動する場合には発電機として動作する。本実施形態におけるハイブリッド移動体および電気推進移動体の推進システム10は、第1乃至第6実施形態の構成を備えており、本実施形態の構成と異なる部分のみが追加されている。そして、第1乃至第6実施形態によって実行される「電力制御」と本実施形態によって実行される「回転数制御」とを、切り替えて実行できるように適宜構成されている。
【0115】
本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第5実施形態とは一部異なる。以下では、第5実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0116】
本実施形態では、原電力指令値が、操作卓12から与えられる電動発電機19の回転数指令値と、電動発電機19の実際の回転数との偏差に基づく回転数制御によって得られる電動発電機19の電力指令値に基づくものである点が第5実施形態と異なる。つまり、上記第1〜第6実施形態は、電動発電機19の「電力制御」を実行する構成を例示するものであったが、本実施形態は、電動発電機19の「回転数制御」を実行する構成を例示するものである。
【0117】
図10は、第7実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図10に示すように、制御装置14Fは、加減算器174と、PID制御部158を更に備える。そして、制御装置14Fには電動発電機19の実際の回転数が入力される。ここで電動発電機19にはロータリーエンコーダ、レゾルバ等の回転数検出手段19aが設けられている。
【0118】
本実施形態では、原電力指令値生成部142は、操作卓12に設けられたレバーから入力されたレバーの位置を示す操作情報に基づいて電動発電機19の回転数指令値を生成し、これを加減算器174に出力する。ここでは原電力指令値生成部142は、例えば予め演算装置のメモリに記憶されたルックアップテーブルを参照してレバー位置に対応した回転数指令値を設定する。
【0119】
加減算器174は、原電力指令値生成部142より入力された電動発電機19の回転数指令値から、回転数検出手段19aより入力された実際の回転数を減算し、これをPID制御部158に出力する。
【0120】
PID制御部158は、入力された回転数指令値と、実際の電動発電機19の回転数との偏差を比例処理、積分処理および微分処理することによって原電力指令値を生成する。積分処理や微分処理については、省略してもよい。
【0121】
加減算器171は、変動成分除去部144により原電力指令値から変動成分を除去する処理を経ることによって生成された第1推進電力指令値と、第1充放電電力指令値とを加算して第1電力指令値Pc1を生成し、これをドループ制御部145に出力する。
【0122】
加減算器172は、原電力指令値に基づいて生成された第2推進電力指令値と第2充放電電力指令値とを加算して第2電力指令値Pc2を生成し、これを電力制御部130に出力する。
【0123】
ドループ制御部145は、変動成分除去部144から出力される電力指令値に基づいて第1電力変換器25aをドループ制御する。ここで、ドループ制御部145は、第1電力指令値Pc1に基づいて、第1実施形態の「電力制御モード」と同様の制御がなされ、電力系統18の周波数および対系統授受電力がドループ特性線上の一点となるように制御する。
【0124】
以上のような構成において、第2電力変換器25b等の動作を、電動発電機19が電動機として動作する場合について説明する。
【0125】
電動発電機19が電動機として動作する場合、第1電力変換器25aは、電力系統18の交流電力を、原電力指令値から変動成分を除去された第1電力指令値Pc1に基づく大きさの直流電力に変換してこれを直流中間部に出力する。一方、第2電力変換器25bは、直流中間部から直流電力を取り出してこれを、第2電力指令値Pc2に基づく大きさの交流電力に変換してこれを電動発電機19に出力する。電動発電機19の電動動作における電動発電機19の回転数は、推進器11から伝達される負荷や、第2電力変換器25bが電動発電機19に与える電力によって定まる。このとき、蓄電装置30は、第1電力変換器25aから出力される電力に対する第2電力変換器25bから出力される電力の過不足に応じて充電又は放電する。
【0126】
以上の「回転数制御モード」による動作により、第1電力変換器25aに対するドループ制御が行われるとともに、電動発電機19の回転数がフィードバック制御される。
【0127】
更に、本実施形態では、第1電力指令値Pc1及び第2電力指令値Pc2が、蓄電装置30のSOCが所定の範囲に収まるように蓄電装置30が充放電するように生成されているので第5実施形態のSOC制御も実現される。
【0128】
また、原電力指令値が、操作卓12のレバーから与えられる電動発電機19の回転数指令値と、電動発電機19の実際の回転数との偏差によって得られる電動発電機19の電力指令値に基づいているので、電力系統への負荷変動の影響を抑制しつつ、電動発電機19の俊敏な回転数制御が可能になる。
【0129】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第7実施形態と同様である。以下では、第7実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0130】
図11は、第8実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図11に示すように、本実施形態では、DPS150により電動発電機19の回転数指令値を生成し、これを加減算器174に出力する点が第7実施形態(図10)と異なる。このような構成によれば、第7実施の形態と同様な効果に加えて、DPS150による洋上での定位置の確保が可能となる。
【0131】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第7実施形態と同様である。以下では、第7実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0132】
図12は、第9実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図12に示すように、制御装置14Hは、PMS151及びPID制御部158の後段に加減算器175を更に備える点が第7実施形態(図10)と異なる。
【0133】
本実施形態では、原電力指令値は、操作卓12から与えられる電動発電機の回転数指令値と、電動発電機19の実際の回転数との偏差に基づく回転数制御によって得られる電動発電機の電力指令値にPMS151から与えられる電力指令値を加算したものである。
【0134】
具体的には、加減算器175は、PID制御部158の出力値にPMS151から与えられる電力指令値を加算して、原電力指令値を生成する。そして、原電力指令値から変動成分を除去する処理を経て第1電力指令値Pc1が生成されるとともに原電力指令値に基づく第2電力指令値Pc2が生成される。
【0135】
このような構成によれば、電動発電機19の電動又は発電の切り替えによる電力と推力の過不足を調整することができる。よって、本実施形態によれば、第7実施形態と同様な効果に加えて、PMS151による電力系統18の電力管理が可能となる。
【0136】
尚、本実施形態では、電動発電機19の回転数指令値は、操作卓12のレバー操作を通じて与えられたが、第8実施形態と同様に、DPS150から与えられてもよい。
【0137】
(第10実施形態)
次に、第10実施形態について説明する。本実施形態の移動体推進システム10の構成は、第7実施形態と同様である。以下では、第7実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0138】
図13は、第10実施形態に係る移動体推進システムの制御系のブロック図である。図13に示すように、制御装置14Iは、加減算器175と、ハイパスフィルタ(HPF)159と、増幅器160を更に備える。更に、制御装置14Iには、推進器11の駆動軸に設けられた軸負荷検出手段11aから電動発電機19の実際の駆動軸の負荷が入力される。軸負荷検出手段11aは、負荷計を用いて直接的に軸負荷を検出するように構成されてもよいし、回転数、電動発電機電流、可変ピッチプロペラ翼角などを用いて間接的に軸負荷を検出するように構成されてもよい。
【0139】
HPF159は、軸負荷検出手段11aにより検出された軸負荷信号の高周波成分のみを通過させ、これを増幅器160に出力する。増幅器160は、ハイパスフィルタ159の出力値のゲインを調整して推進電力補正値を生成し、これを加減算器175に出力する。加減算器175は、第2電力指令値Pc2に、増幅器160の出力値である推進電力補正値を加算し、補正を施した第2電力指令値Pc2を加減算器173及び電力制御部130に出力するように構成されている。
【0140】
以上のような構成によれば、推進器11の駆動軸の負荷を検出し、駆動軸の負荷が定常値より大きい場合は電動発電機19の発電電力が減少または電動電力が増加するように推進電力補正値を求め、算出した推進電力補正値を第2電力指令値に足し合わせる。一方で、駆動軸の負荷が定常値より小さい場合は電動発電機19の発電電力が増加または電動電力が減少するように推進電力補正値を求め、算出した推進電力補正値を第2電力指令値に足し合わせる。
【0141】
従って、本実施の形態によれば、第7実施形態の効果に加え、駆動軸の負荷の変動成分のみを加味した推進電力補正値を第2電力指令値に足し合わせることにより、積極的に主機の負荷変動を抑制することができ、燃費が向上するとともに、系統への影響を抑制することができる。従って、負荷変動に弱い種類のエンジンの主機への適用が可能となる。
【0142】
(その他の実施形態)
第7乃至第10実施形態において、充放電指令を生成及び加算する構成を省略してもよい。
【0143】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び機能の一方又は双方の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、電動発電機と双方向電力変換器を備えた移動体の推進システムに有用である。
【符号の説明】
【0145】
10 移動体推進システム
11 プロペラ(推進器)
11a 軸負荷検出手段
12 操作卓
14 制御器
17 主機
18 電力系統(主発電機)
19 電動発電機
19a 回転数検出手段
20 減速装置
22 船内母線
25 電力変換装置
25a 第1電力変換器
25b 第2電力変換器
30 蓄電装置
130 電力制御部
142 原電力指令値生成部
144 変動成分除去部(LPF)
145 ドループ制御部
150 DPS
151 PMS
155 SOC演算部
156 充放電電力指令値演算部
157 電力配分演算部
158 PID制御部
159 HPF
160 増幅部
170〜175 加減算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14