特許第6352128号(P6352128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352128
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】動力伝達ローラ
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/04 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   F16H13/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-189650(P2014-189650)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-61368(P2016-61368A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吾朗
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5263377(US,A)
【文献】 特開2004−44731(JP,A)
【文献】 特開2004−28153(JP,A)
【文献】 特開平9−296859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ローラ(D)と従動ローラ(S)との間に介在して、前記駆動ローラ(D)の回転力を摩擦力によって前記従動ローラ(S)側に伝達する動力伝達ローラにおいて、
前記駆動ローラ(D)及び前記従動ローラ(S)に接触するローラ本体(2)と、
カバー(C)側に固定される支点軸(3)と、
前記ローラ本体(2)を回転自在に支持するローラ軸受(5)と、
前記支点軸(3)及び前記ローラ軸受(5)が取り付けられるとともに、前記支点軸(3)を前記ローラ軸受(5)の径方向に相対移動自在とする変位機構(8)を有し、前記支点軸(3)周りに前記ローラ軸受(5)を回動させる、前記ローラ本体(2)の内径側に収納された揺動アーム(4)と、
前記揺動アーム(4)を前記支点軸(3)周りに回動させるように付勢する、前記ローラ本体(2)の内径側に収納された揺動付勢部材(6)と、
を備えたことを特徴とする動力伝達ローラ。
【請求項2】
前記変位機構(8)が、前記揺動アーム(4)に形成されたガイド孔(8a)を有し、このガイド孔(8a)内に前記支点軸(3)が移動自在に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達ローラ。
【請求項3】
前記揺動アーム(4)に設けられ、前記支点軸(3)を前記ガイド孔(8a)内の一方向に付勢する付勢部材(8c)をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達ローラ。
【請求項4】
前記変位機構(8)が、前記支点軸(3)を偏心回転中心とする偏心軸(8e)を有し、前記揺動アーム(4)に前記偏心軸(8e)が回転自在に保持されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達ローラ。
【請求項5】
前記揺動付勢部材(6)が、油圧テンショナ装置であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達ローラ。
【請求項6】
前記ローラ軸受(5)の近傍に偏心カム(10)を設け、この偏心カム(10)を偏心回転軸周りに回転して前記ローラ軸受(5)又はこのローラ軸受(5)と一体に構成した部材に当接させることにより、前記ローラ本体(2)と、前記駆動ローラ(D)又は前記従動ローラ(S)の少なくとも一方との間の接触を解除するようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の動力伝達ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、駆動ローラの回転力を摩擦力によって従動ローラに伝達する動力伝達ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動力伝達機構においては、エンジンのクランクと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類との間の動力の伝達を、アイドラプーリを経由して架け渡した補機ベルトを介して行っていた。この場合、クランクの回転に伴って、補機類も常に回転することになるため、例えば、エンジンの暖気運転のようにWPを回転させる必要がない時にも不必要に回転することになり、ベルト損失とプーリの不必要な回転に起因する燃費の低下が問題となっていた。
【0003】
この問題を解決すべく、例えば、特許文献1の図1に示すように、補機ベルトを用いる代わりに、駆動ローラ(クランクシャフトプーリ4)と従動ローラ(フリクションプーリ14)との間に動力伝達用のアイドラローラ(フリクションホイール17)を介在させ、駆動ローラの回転力を、アイドラローラの摩擦力によって、従動ローラに伝達する技術が開示されている。このアイドラローラは、補機ベルトと異なり、その位置を進退させることによって、駆動ローラや従動ローラとの間の接離状態を自在に変えることができる。
【0005】
このアイドラローラを進退させて、駆動ローラ及び従動ローラに均等に当接させる機構(カムアクチュエータ)について、例えば、特許文献2の図1を用いて説明する。本図に示すカムアクチュエータは、モータ1の回転を遊星減速機Rで減速し、その減速した回転を偏心カム3によって連接棒201の往復動に変換して、この連接棒201の端部で支持されたプーリ300を進退させるようにしたものである。このプーリ300を進退させることにより、エンジンの稼働状況等の諸条件に対応して、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達又は遮断を制御し、燃費の向上を図っている。
【0006】
この連接棒201は、その中ほどで軸方向から若干量だけ揺動可能に構成されている。このように、揺動可能とすることにより、プーリ300が駆動ローラ及び従動ローラと当接した際に、プーリ300と各ローラとの間の当接力がほぼ等しくなるように連接棒201が揺動して、プーリ300が最適な位置に位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4891914号公報
【特許文献2】特許第4809341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に係るカムアクチュエータは、プーリ300(アイドラローラ)の回転軸を掴むように構成され、その揺動支点はプーリ300の外側(連接棒201の長さ方向中央付近)に位置している。このため、プーリ300の周囲にその揺動のためのスペースを確保しておかなければならず、動力伝達機構の小型化に支障が生じ、システムレイアウトの自由度が損なわれる問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行いつつ、その動力伝達機構の小型化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、この発明においては、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、前記駆動ローラの回転力を摩擦力によって前記従動ローラ側に伝達する動力伝達ローラにおいて、前記駆動ローラ及び前記従動ローラに接触するローラ本体と、カバー側に固定される支点軸と、前記ローラ本体を回転自在に支持するローラ軸受と、前記支点軸及び前記ローラ軸受が取り付けられるとともに、前記支点軸を前記ローラ軸受の径方向に相対移動自在とする変位機構を有し、前記支点軸周りに前記ローラ軸受を回動させる、前記ローラ本体の内径側に収納された揺動アームと、前記揺動アームを前記支点軸周りに回動させるように付勢する、前記ローラ本体の内径側に収納された揺動付勢部材と、を備えたことを特徴とする動力伝達ローラを構成した。
【0011】
この構成によると、揺動付勢部材で揺動アームを付勢すると、支点軸周りにこの揺動アームが揺動し、これとともにローラ軸受及び動力伝達ローラ(ローラ本体)も揺動する。すると、この動力伝達ローラが駆動ローラ又は従動ローラの一方に当接し、この当接に伴う反力を受ける。この反力により、変位機構の作用によって支点軸がローラ軸受の径方向に相対移動し、この相対移動に伴って動力伝達ローラが当初当接していなかった駆動ローラ又は従動ローラの他方側に当接する。そして、動力伝達ローラと駆動ローラとの当接力、及び動力伝達ローラと従動ローラの当接力の両者がバランスしたところで支点軸の位置が決定される。
【0012】
このように、支点軸とローラ軸受の位置が、動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの当接力によって相対移動可能となるように構成したことにより、この動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接力がそれぞれ等しくなるように、動力伝達ローラの位置が決定される。このため、この動力伝達ローラを介して、駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。しかも、揺動アーム及び揺動付勢部材をローラ本体の内径側に収納したので、この揺動アームを揺動する支点軸やローラ軸受等の全ての構成が、ローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。
【0013】
前記構成においては、前記変位機構が、前記揺動アームに形成されたガイド孔を有し、このガイド孔内に前記支点軸が移動自在に設けられた構成とすることができる。このように、ガイド孔を形成してこのガイド孔で支点軸を移動自在にガイドすることにより、動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとをスムーズに均等に当接させることができる。揺動アームに取り付けられたローラ軸受と支点軸とを、必要な距離だけ相対的に接離できる限りにおいて、ガイド孔の形状(大きさや向き等)は特に限定されない。
【0014】
このガイド孔を形成する構成においては、前記揺動アームに設けられ、前記支点軸を前記ガイド孔内の一方向に付勢する付勢部材をさらに備えた構成とするのが好ましい。この付勢部材を設けることにより、ガイド孔内において支点軸ががたつくのを防止して、動力伝達ローラの所定位置への組み込みを容易に行うことができる。この付勢部材による付勢力は適宜決めることができるが、支点軸のがたつきを防止する程度であればよい。この付勢力が過大になると、動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接力が過大となり、動力伝達のロスが生じやすくなるためである。
【0015】
このようにガイド孔を形成する代わりに、前記変位機構が、前記支点軸を偏心回転中心とする偏心軸を有し、前記揺動アームに前記偏心軸が回転自在に保持された構成とすることもできる。このように偏心軸を支点軸周りに偏心回転させることによって、ガイド孔を形成したときと同様に、支点軸とローラ軸受の位置が、動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの当接力によって相対移動可能となり、この動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接力がそれぞれ等しくなるように、動力伝達ローラの位置が決定される。このため、この動力伝達ローラにより、駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。
【0016】
前記各構成においては、前記揺動付勢部材が、油圧テンショナ装置である構成とすることができる。動力伝達ローラのローラ本体は、使用時間の経過に伴って、駆動ローラ及び従動ローラとの当接面が摩耗して、表面に凹凸が生じた状態となることがある。この凹凸と駆動ローラ等が接触すると、この駆動ローラの回転に伴って、がたつきに起因する異音が発生したり、動力伝達ローラの短寿命化につながったりする問題がある。そこで、揺動付勢部材として油圧テンショナ装置を採用することにより、この凹凸によるがたつきをこの油圧テンショナ装置の減衰作用により減衰させることができ、動力伝達ローラの作動時の静粛性を確保できるとともに、長寿命化を図ることができる。
【0017】
前記各構成においては、前記各構成においては、前記ローラ軸受の近傍に偏心カムを設け、この偏心カムを偏心回転軸周りに回転して前記ローラ軸受又はこのローラ軸受と一体に構成した部材に当接させることにより、前記ローラ本体と、前記駆動ローラ又は前記従動ローラの少なくとも一方との間の接触を解除する構成とするのが好ましい。このように、偏心カムを採用することによって動力伝達ローラと、駆動ローラ及び従動ローラとの間の接触又は接触解除を容易に切り替えることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、駆動ローラ及び従動ローラに接触するローラ本体と、車両本体側に固定される支点軸と、前記ローラ本体を回転自在に支持するローラ軸受と、前記支点軸及び前記ローラ軸受が取り付けられるとともに、前記支点軸を前記ローラ軸受の径方向に相対移動自在とする変位機構を有し、前記支点軸周りに前記ローラ軸受を回動させる、前記ローラ本体の内径側に収納された揺動アームと、前記揺動アームを前記支点軸周りに回動させるように付勢する、前記ローラ本体の内径側に収納された揺動付勢部材と、を備えたことを特徴とする動力伝達ローラを構成した。
【0019】
このように、支点軸とローラ軸受の位置が、動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの当接力によって相対移動可能となるように構成したことにより、この動力伝達ローラと駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接力がそれぞれ等しくなるように、動力伝達ローラの位置が決定される。このため、この動力伝達ローラを介して、駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。しかも、揺動アーム及び揺動付勢部材をローラ本体の内径側に収納したので、この揺動アームを揺動する支点軸やローラ軸受等の全ての構成が、ローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明に係る動力伝達ローラの第一実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中のb−b線に沿う断面図
図2図1に示す動力伝達ローラの斜視図
図3図1に示す動力伝達ローラの分解斜視図
図4図1に示す動力伝達ローラの作用を示す平面図であって、(a)はローラ本体が一方のローラに当接した状態、(b)はローラ本体が両方のローラに当接した状態
図5】動力伝達ローラに偏心カム機構を併設した状態の平面図であって、(a)は動力伝達状態、(b)は動力切断状態
図6】この発明に係る動力伝達ローラの第二実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中のb−b線に沿う断面図
図7図6に示す動力伝達ローラの作用を示す平面図であって、(a)はローラ本体が一方のローラに当接した状態、(b)はローラ本体が両方のローラに当接した状態
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係る動力伝達ローラ1の第一実施形態を図1から図3に示す。この動力伝達ローラ1は、クランク等の駆動ローラDと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類を作動させる従動ローラSとの間に介在して、駆動ローラDの回転力を摩擦力によって従動ローラS側に伝達するためのものであり、ローラ本体2、支点軸3、揺動アーム4、ローラ軸受5、揺動付勢部材6を主要な構成要素としている。
【0022】
なお、駆動ローラD及び従動ローラSとしての機能は、クランク等の各ローラに固有のものではなく、例えば、ISGが駆動ローラD、クランクが従動ローラSとして機能することもある。
【0023】
ローラ本体2は、駆動ローラD及び従動ローラSに直接接触する有底円筒状の部材である。このローラ本体2の回転中心には軸受孔2aが形成されている。この軸受孔2aに、ローラ軸受5(玉軸受)の外輪5aが嵌り込んでいる。このローラ軸受5の内輪5b側には、ボルト7によって揺動アーム4が固定されている。この揺動アーム4は棒状部材であって、その中央部にローラ軸受5が取り付けられるとともに、一方の端部側に変位機構8が、他方の端部側に当接ピン9が設けられている。
【0024】
この構成においては、ローラ本体2が嵌め込まれたローラ軸受5の外輪5aが回転するようになっているが、内輪5b側にローラ本体2を嵌め込む一方で、外輪5a側に揺動アーム4を嵌め込む構成とすることもできる。
【0025】
変位機構8は、揺動アーム4に形成されたガイド孔8aを有し、このガイド孔8a内に、ガイド部材8bが揺動アーム4の長さ方向(ローラ軸受5と支点軸3を結ぶ方向)に移動自在に設けられ、このガイド部材8bに支点軸3が設けられている。すなわち、支点軸3はガイド孔8a内を揺動アーム4の長さ方向に沿って移動自在となっている。この支点軸3は、駆動ローラD等の各ローラを覆うカバーC(図1(b)参照)に取り付けられている。揺動アーム4とガイド部材8bとの間には、付勢部材8cとしてのスプリングが設けられている。この付勢部材8cは、揺動アーム4をガイド部材8b(支点軸3)に対してローラ軸受5側に付勢するように作用する。
【0026】
当接ピン9側には、揺動付勢部材6が設けられている。この揺動付勢部材6は、支点軸3と同様、カバーCに取り付けられている。この第一実施形態では、揺動付勢部材6としてアクチュエータ(以下、揺動付勢部材と同じく符号6を付す。)を採用し、このアクチュエータ6の本体部6aから突出する押圧部6bで当接ピン9を押圧することによって、揺動アーム4を支点軸3周りに揺動させている。このアクチュエータ6として、油圧テンショナを採用するのが特に好ましい。
【0027】
このように、アクチュエータ6を採用する代わりに、押圧ばね(図示せず)をアクチュエータ6が配置されている位置に設け、この押圧ばねで当接ピン9を押圧するようにしたり、支点軸3に、支点軸3周りに揺動アーム4をその回動方向(図1(a)では右回り方向)に付勢するねじりコイルばね(図示せず)を設けたりすることによっても、アクチュエータ6と同様の作用を得ることができる。
【0028】
また、上記のように揺動付勢部材6をカバーC側に、当接ピン9を揺動アーム4側に固定する代わりに、当接ピン9をカバーCに固定する一方で、揺動付勢部材6を揺動アーム4側に固定するようにしても、揺動アーム4を支点軸3周りに揺動させることができる。
【0029】
この構成においては、支点軸3、揺動アーム4、ローラ軸受5、及び揺動付勢部材6は、全てローラ本体2の内径側(円筒内)に配置されている。このため、この動力伝達ローラ1を含む動力伝達機構の小型化を図ることができる。また、支点軸3及び揺動付勢部材6を駆動ローラD及び従動ローラSを覆うカバーCに取り付けたので、このカバーCを所定位置に嵌め込むことによって、ローラ本体を駆動ローラDと従動ローラSとの間の所定位置に、アクチュエータ6を当接ピン9の押圧可能な位置に、それぞれ、確実かつ容易に配置することができる。
【0030】
第一実施形態に係る動力伝達ローラ1の作用を図4を用いて説明する。アクチュエータ6の押圧部6bを突出させて、揺動アーム4に設けられた当接ピン9を押圧すると、この押圧力によって揺動アーム4が支点軸3周りに揺動する。すると、動力伝達ローラ1のローラ本体2に、駆動ローラDが当接する(図4(a)参照)。さらに、押圧部6bを突出させると、この押圧に伴う駆動ローラDからの反力によって、付勢部材8cが押し縮められ、これに伴って支点軸3がガイド孔8a内を相対移動して、ローラ本体2(ローラ軸受5)が支点軸3側に変位する。この変位によって、ローラ本体2が従動ローラSに当接し(図4(b)参照)、駆動ローラDから従動ローラSへの動力の伝達が可能となる。
【0031】
この動力伝達ローラ1のローラ軸受5の近傍には、図5に示すように、このローラ軸受5に当接可能に偏心軸10a周りに回動する偏心カム10が設けられている。この偏心軸10aは、遊星ギア機構等の減速機構11を介してモータ(図示せず)に接続されている。偏心カム10が揺動アーム4に当接していない状態では(図5(a)参照)、動力伝達ローラ1は駆動ローラDと従動ローラSにそれぞれ当接し、駆動ローラDから従動ローラSへの動力伝達がなされる。
【0032】
その一方で、偏心カム10が揺動アーム4に当接し、動力伝達ローラ1に設けられた揺動付勢部材6(アクチュエータ6)の付勢力に抗して(押圧部6bを押し込むように)この揺動アーム4を揺動させると、動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとがそれぞれ離間し(図5(b)参照)、駆動ローラDから従動ローラSへの動力伝達が遮断される。
【0033】
このように、偏心カム10を設けることにより、駆動ローラDと従動ローラSとの間の動力の伝達及び切断を、容易かつスムーズに行うことができる。偏心カム10を用いる代わりに、各種アクチュエータを採用し、このアクチュエータで揺動アーム4又はローラ軸受5を押し込むようにしても、同様の作用を得ることができる。なお、偏心カム10による揺動アーム4又はローラ軸受5の押し込みは、必ずしも揺動アーム4又はローラ軸受5を直接押し込むものでなくてもよく、この揺動アーム4又はローラ軸受5に設けた付属部材(図示せず)を介して押し込むようにしてもよい。
【0034】
この発明に係る動力伝達ローラ1の第二実施形態を図6に示す。この動力伝達ローラ1の基本的な構成は第一実施形態に係る動力伝達ローラ1と同じであるが、揺動アーム4に設けられた変位機構8の構成が相違している。すなわち、第二実施形態に係る変位機構8は、支点軸3を偏心回転中心とする偏心軸8eを有しており、支点軸3と偏心軸8eの間には第一軸受8fが設けられ、両軸3、8eは相対回転可能となっている。この偏心軸8eは、第二軸受8gを介して揺動アーム4で保持され、偏心軸8eと揺動アーム4の間も相対回転可能となっている。
【0035】
第二実施形態に係る動力伝達ローラの作用を図7を用いて説明する。アクチュエータ6の押圧部6bを突出させて、揺動アーム4に設けられた当接ピン9を押圧すると、この押圧力によって揺動アーム4が支点軸3周りに揺動する。すると、動力伝達ローラ1のローラ本体2に、駆動ローラDが当接する(図7(a)参照)。さらに、押圧部6bを突出させると、この押圧に伴う駆動ローラDからの反力によって、偏心軸8eが支点軸3周りに偏心回転し、これに伴って偏心軸8e内における支点軸3の相対位置が移動して、ローラ本体2(ローラ軸受5)が支点軸3側に変位する。この変位によって、ローラ本体2が従動ローラSに当接し(図7(b)参照)、駆動ローラDから従動ローラSへの動力の伝達が可能となる。
【0036】
この第二実施形態においても、第一実施形態と同様に、動力伝達ローラ1のローラ軸受5の近傍に偏心カム10を設け、この偏心カム10を偏心軸8e周りに揺動アーム4に当接可能に回動させ、動力伝達ローラ1に設けられた揺動付勢部材6(アクチュエータ6)の付勢力に抗して(押圧部6bを押し込むように)この揺動アーム4を揺動させると、動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとがそれぞれ離間し、駆動ローラDから従動ローラSへの動力伝達が遮断される(図5(b)参照)。
【0037】
上記各実施形態に係る動力伝達ローラ1はあくまでも一例であって、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うとともに、その動力伝達機構の小型化を図る、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成部品の形状や配置を変更したり、別途部品を追加したりすることも許容される。また、各実施形態において示した変位機構8の構成もあくまで一例であって、動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとの当接に伴って、支点軸3とローラ軸受5との間の距離を可変とし得るものであれば適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 動力伝達ローラ
2 ローラ本体
2a 軸受孔
3 支点軸
4 揺動アーム
5 ローラ軸受
5a 外輪
5b 内輪
6 揺動付勢部材
7 ボルト
8 変位機構
8a ガイド孔
8b ガイド部材
8c 付勢部材
8e 偏心軸
8f 第一軸受
8g 第二軸受
9 当接ピン
10 偏心カム
10a 偏心軸
11 減速機構
D 駆動ローラ
S 従動ローラ
C カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7