(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352134
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】点火薬組成物
(51)【国際特許分類】
C06B 43/00 20060101AFI20180625BHJP
C06C 7/00 20060101ALI20180625BHJP
F42B 3/12 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C06B43/00
C06C7/00
F42B3/12
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-197990(P2014-197990)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-69201(P2016-69201A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】小田 愼吾
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/188167(WO,A1)
【文献】
特開2005−336042(JP,A)
【文献】
特開2005−119926(JP,A)
【文献】
特開2009−120424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06B
C06D 5/00
C06C 7/00
F42B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式:MeC(Me:炭素より陽性な元素)で表される炭化物(但し、炭化ホウ素を除く。)と(B)酸化剤を含む点火薬組成物。
【請求項2】
(A)一般式:MeC(Me:炭素より陽性な元素)で表される炭化物(但し、炭化ホウ素を除く。)、(B)酸化剤および(C)バインダーを含み、最大長さが5mm以下の粒状成形体である点火薬組成物。
【請求項3】
前記炭化物(但し、炭化ホウ素を除く。)が、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化珪素及び炭化アルミニウムから選ばれるものである請求項1または2載の点火薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の点火薬組成物を有する点火器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エアバック装置やシートベルト装置に組み込まれる点火器に使用される点火薬組成物と、それを使用した点火器に関する。
【背景技術】
【0002】
点火器で使用される点火薬(または着火薬)の成分としては、ジルコニウム(燃料)と過塩素酸カリウム(酸化剤)が汎用されている。
点火薬は、着火性が良いことと共に、作業の安全性を確保する観点からは感度も重要となる。
点火薬の感度は、摩擦感度と静電気感度により評価されている。摩擦感度と静電気感度は、火薬学会規格「摩擦感度試験(ES−22)」に基づいた摩擦感度の等級(1〜7等級)や、火薬学会規格「静電気感度試験(ES−25)」に基づいた静電気感度の等級(1〜3等級)で評価される。
摩擦感度および静電気感度ともに、等級の数が大きいほど摩擦感度が低い(安全性が高い)ことを示しており、摩擦感度6等級以上のものや静電気感度3級以上のものの場合、取り扱い時に静電靴や帯電防止服の着用のみでよく、常に人体からアースを取る必要がないとされており、取り扱い性(作業性)が良くなる。
【0003】
特許文献1には、点火器の着火薬として、ジルコニウム、過塩素酸カリウムおよび硝酸カリウム、さらに樹脂やゴム系バインダーを含むものが記載されている(請求項1、4)。
実施例1〜5では、ジルコニウム、過塩素酸カリウムおよび硝酸カリウムと、アセトンで溶解したフッ素ゴムバインダーを混合し、乾燥し、ほぐして着火薬を製造している。実施例1〜5の摩擦感度は、3級または4級の評価である(表1)。
【0004】
特許文献2には、着火薬として、ジルコニウム、タングステン、過塩素酸カリウムを使用し、バインダーとしてフッ素ゴムやニトロセルロースを使用することが好ましいことが記載されている(段落番号0048)。
また、段落番号0064には、ガス発生剤のスラグ形成剤として炭化珪素が例示されているが、スラグ形成剤を着火薬に使用することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−30971号公報
【特許文献2】特開2005−246160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、感度が低いために作業性が良く、着火性も良い点火薬組成物と、それを使用した点火器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)一般式:MeC(Me:炭素より陽性な元素)で表される炭化物と(B)酸化剤を含む点火薬組成物と、それを使用した点火器を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の点火薬組成物は、摩擦感度が低いため、点火器に充填する際の作業性が良い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(A)成分の燃料は、一般式:MeC(Me:炭素より陽性な元素)で表される炭化物である。
燃料となる炭化物は、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化ホウ素、炭化珪素および炭化アルミニウムから選ばれるものが好ましい。
点火薬の燃料として周知のジルコニウムやタングステンなどの金属は、摩擦感度も高く、取り扱い性が悪くなるが、ジルコニウムやタングステンなどの炭化物にすることで、ジルコニウムやタングステンなどと比べると摩擦感度を低くすることができるため、取り扱い性が良くなる。
【0010】
燃料となる炭化物は、平均粒径が0.5〜30μmのものが好ましく、0.5〜10μmのものがより好ましく、0.5〜5μmのものがさらに好ましい。平均粒径は、レーザ回折・散乱法粒度分布計により測定することができる。
【0011】
(B)成分の酸化剤は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅及び酸化鉄から選ばれるものを使用することができる。
【0012】
酸化剤は、平均粒径が0.5〜50μmのものが好ましく、0.5〜30μmのものがより好ましく、0.5〜15μmのものがさらに好ましい。平均粒径は、レーザ回折・散乱法粒度分布計により測定することができる。
【0013】
組成物中の炭化物(燃料)と酸化剤の含有割合は、
炭化物は20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましく、35〜45質量%がさらに好ましく、
酸化剤は40〜80質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましく、55〜65質量%がさらに好ましい。
【0014】
本発明の点火薬組成物は、必要に応じてさらに(C)成分としてバインダーを含有することができる。
バインダーは、公知の組成物を使用することができ、フッ素ゴム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アンモニウム、でんぷん、グアガム、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、末端水酸基ブタジエンポリマー、グリシジルアジドポリマー、天然ゴム、パラフィンなどを使用することができる。
【0015】
組成物中の炭化物(燃料)、酸化剤およびバインダーの含有割合は、
炭化物は19〜60質量%が好ましく、29〜50質量%がより好ましく、34〜45質量%がさらに好ましく、
酸化剤は40〜80質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましく、55〜65質量%がさらに好ましく、
バインダーは1〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、燃料と酸化剤からなるものの場合には、粉末状の組成物となる。
本発明の組成物は、燃料、酸化剤およびバインダーからなるものの場合には、粉末状の組成物にすることもできるが、粉立ちを押さえて取り扱い性を良くするため、粒状成形体にすることが好ましい。
【0017】
本発明の組成物を粒状成形体にするときは、例えば、円柱形状、ディスク形状、角柱形状、不定形の塊形状などにすることができるが、これらの最大長さは10mm以下であることが好ましく、最大長さは0.1〜5mmであることがより好ましい。前記最大長さは、マイクロメータやノギスにより測定する。
【0018】
本発明の点火器(電気式点火器)は、上記した点火薬組成物を使用したものである。
本発明の点火器自体は点火薬(着火薬)を除けば公知のものであり、例えば、特許文献1(特開2008−30671号公報)の第1図に示す点火器(イニシエータ)10における「14:着火薬」、および特許文献2(特開2005−246160号公報)の
図3に示す点火器10における「26、27火薬」に代えて、本発明の点火薬組成物を使用したものである。
【0019】
本発明の点火器は、形状や大きさの異なる点火薬組成物(粒状成形体)を組み合わせて使用してもよく、粒径の小さい粒状成形体と粒径の大きい粒状成形体を組み合わせて使用してもよいし、粉末状の組成物と粒状成形体を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の点火器は、例えば、ブリッジワイヤと接触する位置に単位重量あたりの表面積が大きい(例えば、粒径が小さい)第1点火薬組成物を充填し、ブリッジワイヤとは接触せず、第1点火薬組成物と接触する位置に単位重量あたりの表面積が小さい(例えば、粒径が大きい)第2点火薬組成物を充填したものにすることができる。
このようにすると、第1点火薬組成物はブリッジワイヤとの接触面積が大きいため、着火しやすくなり、第1点火薬組成物の燃焼により着火される第2点火薬組成物は、燃焼が持続しやすくなるため、点火エネルギーを長く供給することができるようになる。
【0021】
本発明の点火器は、例えばエアバッグ装置用のガス発生器、シートベルトプリテンショナ、各種アクチュエータなどの点火器として使用することができる。
【実施例】
【0022】
<使用成分>
(A)成分
炭化ジルコニウム:Zr/Cのモル比=1、平均粒径1.16μm、第一稀元素化学工業株式会社製
(B)成分
過塩素酸カリウム:平均粒径6.5μm、商品名「KPF2」日本カーリット製
(C)成分
バインダー(フッ素ゴム):登録商標「バイトンA」、デュポンエラストマー(株)製
(比較用燃料成分)
ジルコニウム:平均粒径2.0μm、ケメタル製
【0023】
実施例1
表1に示す各成分を混合して、粉末状の点火薬組成物を得た。
摩擦感度と静電気感度の測定結果を表1に示す。摩擦感度は、火薬学会規格「摩擦感度試験(ES−22)」に基づいて測定して評価し、静電気感度は、火薬学会規格「静電気感度試験(ES−25)」に基づいて測定し評価した。
【0024】
実施例2
表1に示す各成分を混合して、粉末状の点火薬組成物を得た。摩擦感度と静電気感度の測定結果を表1に示す。
【0025】
実施例3
表1に示す各成分が全量1gとなるように組成比分秤量し、それらを用いてアセトン0.2gを溶剤としてバインダーを溶解しながらゆるやかに均一混合を行った。得られた混合スラリーを50℃の恒温槽で16時間乾燥させて造粒粉を得た。
SUS304製の円柱状の直径3.1mmの穴の開いた臼と、同じくSUS304製の直径2.9mmの杵及び蓋からなる金型セットを用い、その金型セットに得られた造粒粉の0.07gを充填した。
金型の端面を油圧プレス機にて面圧5,556kg/cm
2にて両面を交互に1分ずつ加圧し、円柱形状に成形して、粒状の点火薬組成物を得た。
前記円柱形状の最大長さは、3.0〜3.1mmの範囲であった。摩擦感度と静電気感度の測定結果を表1に示す。
【0026】
比較例1
表1に示す各成分を混合して、粉末状の点火薬組成物を得た。摩擦感度と静電気感度の測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
炭化ジルコニウムを使用した実施例1〜3は、摩擦感度7等級および静電気感度3等級を示した。これらは、取り扱い時に静電靴や帯電防止服の着用のみでよく、常に人体からアースを取る必要がないレベルである。
ジルコニウムを使用した比較例1は、摩擦感度2等級および静電気感度1等級を示した。これは微小な摩擦や静電気で発火や爆発する感度レベルのため、取り扱い時の安全対策が必要となり、常に人体からアースを取る必要がある。
【0029】
炭化ジルコニウムは、ジルコニウム単体よりも酸化反応(燃焼による酸化反応)が緩やかであるため、炭化ジルコニウムを使用した実施例1〜3は、ジルコニウム単体を使用した比較例1と比べて感度が低下したものと考えられる。
【0030】
実施例4(点火器)
2Ωのブリッジワイヤを溶接したヘッダに所定の金属筒を溶接し、ヘッダと金属筒とで形成される収容部分に実施例1の点火薬組成物200mgをブリッジワイヤに接触するように装填した。
その後、直径5mmのSUS製杵にて面圧968kg/cm
2相当の加圧を5秒間行い圧填することで電気式点火器を得た。
この点火器に1.2Aの電流を流して高速度カメラで撮影したところ、2ミリ秒以内で着火することを確認できた。