【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合技術開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト/研究開発項目(1)−1−2高品質・大口径SiC結晶成長技術開発(その2)」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化珪素単結晶インゴットの外周側面を砥石にて研削して円柱状に加工する側面加工方法において、炭化珪素以上のヌープ硬度を有する砥粒を懸濁させた砥粒スラリーを用いて、砥石を当接させる炭化珪素単結晶インゴットの外周側面に前記砥粒スラリーを存在させた状態で研削することを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法。
砥石を当接させる炭化珪素単結晶インゴットの外周側面に前記砥粒スラリーを供給して研削する請求項1〜4のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法。
炭化珪素単結晶インゴットのいずれか一方の端面にリング状の砥石を当接して、該リング状砥石を炭化珪素単結晶インゴットに対して相対的に回転させると共に炭化珪素単結晶インゴットの円柱軸方向に相対的に移動させて研削する請求項1〜6のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法。
前記炭化珪素単結晶インゴットのポリタイプが、4H、6H、又は15Rのいずれか1種以上から構成される請求項1〜8のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下SiCという)単結晶は、その優れた半導体特性からデバイス製造用半導体基板として近年特に注目されており、窒化ガリウム系発光ダイオードや、ショットキーバリアダイオード(SBD)等の各種パワーデバイス製造用の半導体基板として実用化が進みつつある。特に各種家電や電鉄等において、SBDを応用した低損失インバーターの実用化開発が大きく進捗している。
【0003】
SiC単結晶材料についても、結晶品質改善が続けられており、特にウェハ口径拡大が著しく、口径が6インチ(150mm)に及ぶ大口径ウェハも報告され、デバイス生産効率向上に繋がる開発が進められている(非特許文献1参照)。
【0004】
その一方で、SiC単結晶は、非常に硬い硬脆材料であるが故に、他の半導体材料と比較してそのウェハ化の加工が難しい。例えば、単結晶インゴットをウェハ形状に加工する場合、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)のような従来の半導体単結晶の場合とは異なり、ダイヤモンドやB
4C等のような、SiCよりも硬い砥粒をベースとした加工技術の構築が必須となっている。
【0005】
SiC単結晶インゴットを側面加工、すなわちSiC単結晶インゴットを薄厚スライス形状に切断する前にSiC単結晶インゴット外周側面を研削して円柱状に加工することが、ウェハ製造プロセスの一工程として一般的に行われる。このようなSiC単結晶インゴットの側面加工は、通常、円筒研削加工装置を用いて行う。円筒研削加工とは、被加工物を高速で回転させ、概略円盤状の研削砥石を回転させながら当接させることにより、円柱状に加工する方法である(特許文献1参照)。
【0006】
ところで、SiC単結晶は、一般に2000℃を超える超高温で、昇華法或いは昇華再結晶法と称される気相成長法をベースとする方法で成長が行われるため、成長したSiC単結晶インゴットには、その側面に円周方向の引張応力が残留応力として残存すると考えられ、また、口径が100mmを超えるような場合には、口径の増大に伴って引張応力の絶対値は増大する傾向があることが指摘されている(非特許文献1参照)。従って、従来の円筒研削加工により、特に直径150mmに及ぶ大口径SiC単結晶を円筒加工する場合には、円盤状の研削砥石と略円筒状の被加工物(SiC単結晶インゴット)とは側面部の凸状曲面が互いに接触する状態で研削加工がなされることで、被加工物側の表面状態や、あるいは研削加工量などの研削条件によっては、砥石の送り速度を調整しても接触面積が小さいために加工圧力が過大になることが避けられず、このため被加工物表面に円周回転方向への過大な負荷を及ぼすことになり、結果としてインゴットクラックを発生させる原因となっている。
【0007】
なお、ダイヤモンドビットを用いて地盤等をコア抜きする方法において、水や空気等の流体を循環させることが行われている(例えば特許文献2参照)。また、サファイア単結晶インゴットから所定の結晶方位を有する円柱状ブロックをコアリングする際に、冷却水として水道水を用いることが記されている(特許文献3参照)。これらはいずれも、コアリング加工部の温度が加工熱によって異常加熱されると砥石内部に固定されたダイヤ粒子が熱によって離脱し、砥石の加工効率が低下することを防ぐものである。また、砥粒を含むスラリーをワイヤーソーに供給して希土類合金を切断する方法が知られているが(特許文献4参照)、この方法は専ら切断効率を高めるものであって、被加工物の表面性状を改善するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年においては直径が100mmを超え、150mmに及ぶSiC単結晶基板が求められており、大口径SiC単結晶インゴット製造方法の開発とともに、効率的な側面加工の確立が必要となる。従来の円筒研削技術についても大口径研削に対応した装置技術の進化がなされているが、大口径SiC単結晶インゴットの高精度円筒加工については、上述したようなインゴットクラックという新たな課題が顕在化している。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で、大口径SiC単結晶インゴットの側面加工時にインゴット割れを抑制することができると共に、SiC単結晶インゴットをスライスして基板を製造する上で、特にスライス後の両面研磨時に基板割れを引き起す起点形成を抑制できるSiC単結晶インゴットの側面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、インゴット側面研削加工における表面研削状態を改善することができ、引き続く切断工程後の研磨工程において基板クラックの発生を抑制可能なインゴット側面研削加工方法に関するものであって、その発明内容の主旨は以下のとおりである。
【0013】
(1)炭化珪素単結晶インゴットの外周側面を砥石にて研削して円柱状に加工する側面加工方法において、炭化珪素以上のヌープ硬度を有する砥粒を懸濁させた砥粒スラリーを用いて、砥石を当接させる炭化珪素単結晶インゴットの外周側面に前記砥粒スラリーを存在させた状態で研削することを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(2)前記砥粒が、ダイヤモンド、炭化ホウ素、又は炭化珪素のいずれか1種以上から構成される(1)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(3)前記砥粒の平均粒径が0.1μm超50μm以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(4)前記砥粒スラリーの溶媒が油性溶媒である(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(5)炭化珪素単結晶インゴットを前記砥粒スラリー中に浸漬させて研削する(1)〜(4)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(6)砥石を当接させる炭化珪素単結晶インゴットの外周側面に前記砥粒スラリーを供給して研削する(1)〜(4)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(7)炭化珪素単結晶インゴットのいずれか一方の端面にリング状の砥石を当接して、該リング状砥石を炭化珪素単結晶インゴットに対して相対的に回転させると共に炭化珪素単結晶インゴットの円柱軸方向に相対的に移動させて研削する(1)〜(6)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の方法で側面加工した円柱状のバルク炭化珪素単結晶の直径が100mm以上である炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
(9)前記炭化珪素単結晶インゴットのポリタイプが、4H、6H、又は15Rのいずれか1種以上から構成される(1)〜(8)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの側面加工方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の側面研削加工方法を用いれば、大型のSiC単結晶インゴットにおいても、インゴットクラックを発生させることなく、表面の加工仕上がり状態が良好な加工表面を有した円柱状加工が実現可能であり、その結果、両面研磨機等によるSiC単結晶基板研磨時のクラック発生が著しく抑制可能となり、SiC単結晶基板製造を安定化し、製造コストを低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、従来のSiC単結晶インゴット側面の研削加工では、一般に、研削砥粒を樹脂やメタルボンド等で外周縁に固定した円盤状の固定砥粒砥石を用いる。このような砥石を用いて研削加工を行う場合、砥石表面に固定された研削砥粒によって、いわば切削加工を行うことになり、このため、SiC単結晶インゴットの加工表面は、比較的大きなスクラッチ状のマイクロクラックが多数発生し、結晶的に乱れた脆性破壊痕が表層部に残存しやすい。その脆性破壊痕の深さは、固定されている砥粒の大きさにもよるが、数十μmを超える場合があることが発明者らの解析により明らかになった。
【0017】
SiC単結晶基板を製造する場合、SiC単結晶インゴットの切断は、マルチワイヤーソーを用いて行われるのが一般的である。SiC単結晶インゴットのワイヤーソーは、一般的にはダイヤモンド等からなる平均粒径が約5μm程度の微細な砥粒を分散させたスラリーを被切断物に供給しながら、直径0.2mm以下の極細鋼線をSiC単結晶インゴット表面に押し当てて褶動させることによって切断を行う方法であり、スラリー中の砥粒がインゴットと極細鋼線の間に入り込んでインゴットを研削加工することにより切断が行われる技術である。最近では、砥粒をワイヤーの表面に電着等の方法で固定した固定ワイヤーを用いたSiC単結晶のワイヤーソー技術も開発され、切断効率が抜本的に改善されつつある。
【0018】
上記のようなワイヤーソー切断を行ってスライスした後、得られたas-sliced基板は、両面研磨等を用いて鏡面加工を行う。鏡面研磨を行う工程は、使用するダイヤスラリー使用量や工程時間等の視点で最適化することが通例であるが、最初の工程では、主にワイヤーソーによって基板表面に形成されたワイヤー痕を研磨削除し、基板形状を効率的に整える目的から、概ね平均粒径が9μm程度(粒度表示で1800番相当)の比較的大きな粒径を有するダイヤ、あるいは炭化ホウ素(B
4C)等からなる硬質研磨砥粒を含むスラリーを用いて行うことが通例である。しかしながら、ワイヤーソーの場合とは異なり、大粒径の研磨砥粒を用いた両面研磨においては、研磨定盤からの加圧圧力下で、被加工物である基板に主にスラリー中を流動する砥粒によってせん断的な外部応力を強制的に加えながら加工を行うことになる。特に、加工初期においてせん断応力的な加工負荷が大きくなりやすく、仮に、SiC単結晶を円柱状に加工する円筒研削加工によってインゴットの側面に大きな脆性破壊痕が存在すると、これが起点となってas-sliced基板にクラックが発生することが判明した。
【0019】
そこで、本発明者らによる詳細な検討の結果、特にSiC単結晶インゴットのように、硬脆材料の側面研削加工を行う場合、ヌープ硬度が炭化珪素以上の砥粒を懸濁させたスラリーを用いることにより、前記の研削時にインゴット側面に発生するマイクロクラックを大幅に抑制できるという格別の効果が得られることを見出した。以下にその詳細について述べる。
【0020】
図1に、一例として本発明のインゴット側面加工法の概略を示す。すなわち、炭化珪素以上のヌープ硬度を有する砥粒を懸濁させた砥粒スラリーを用いて、砥石を当接させるSiC単結晶インゴットの外周側面にその砥粒スラリーを存在させた状態で研削する。その際、インゴット側面の研削加工手段としては、例えば、従来法のように円盤状の研削砥石をSiC単結晶インゴットの側面に当接させると共に円盤状の研削砥石を相対的に回転させて研削加工を行うようにしてもよく、或いは、SiC単結晶インゴットのいずれか一方の端面(上面又は底面)にリング状の砥石を当接して、そのリング状砥石をインゴットに対して相対的に回転させながらインゴット円柱軸方向に相対的に移動させて研削するようにしてもよい。なかでも、好ましくは、後者のようにリング状砥石を用いて、その下面で面研削しながら、いわゆるコアリング研削加工のようにしてインゴットの円筒加工を行えば、上述したようなインゴットクラックの発生を大幅に抑制することができる。
【0021】
ここで、リング状砥石による研削加工の概要については、
図1に示したとおりである。ダイヤモンドやB
4Cなどのような、SiCよりも硬い硬質砥粒を含むチップよりなる側面研削砥石(リング状砥石)11を備えた円筒ドリル状の砥石ユニット12は、その刃先部に所定の直径のバルクSiC単結晶となるようにリング状に硬質砥粒チップが配置され、ろう付け等により強固に固定されており、かつその直径方向の厚さは加工するインゴットの最外周部よりも大きくなるように設計されている。すなわち、側面研削砥石11の内径はSiC単結晶インゴットよりひとまわり小さく、かつ、その外径はSiC単結晶インゴットよりひとまわり大きくする。
【0022】
そして、この円筒ドリル状の側面研削砥石11を、例えば特許文献3に記載されたようなコアドリル装置(コアリング装置)のコアリングドリル回転軸15に取り付けられるコアドリル刃先ユニットとして用いるなどして、熱可塑性ワックス等により予め固定台(インゴット固定治具)13に固定されたSiC単結晶インゴット14をインゴット固定テーブル16に載置して、これを回転させながら側面を研削する。その際、回転させるのはSiC単結晶インゴット14であってもよく、また側面研削砥石11であってもよく、更にはその両方であってもよい。
【0023】
また、SiC単結晶インゴットの外周端面に当接させる側面研削砥石11は、その円周方向に沿って硬質砥粒チップが複数個のチップで分割されていてもよく、リング状の連続したチップであってもよい。また直径方向の内径、すなわち実質的に加工によって得られる円柱状のバルクSiC単結晶の最外周径を規定する側面研削砥石11の内径は、後工程の加工代を考慮して決定すればよい。すなわち、最終的にべべリングと呼ばれるエッジ面取り加工や研磨工程を含む全加工工程完了後に所定のウェハサイズ規格が得られるようにすればよい。
【0024】
一方、側面研削砥石11を構成するチップの側面研削砥石11直径方向の厚さは、上述したように、側面研削砥石11の最外径が被研削であるSiC単結晶インゴットの最外周径よりも大きくなるようにする必要があることから、被研削物であるSiC単結晶インゴットの外径にもよるが、チップの厚さは0.5mm以上にするのがよく、好ましくは1mm以上、更に好ましくは2mm以上とすることが望ましい。チップの厚さが0.5mm未満ではチップの強度不足が顕著になり、加工中に破損しやすい。また、厚さの最大値は特に規定する必要はないが、概ね20mm以下であればよい。20mm超となると、チップ強度は向上するが、研削に寄与しない部分の体積が大きくなり、チップ製造コストが増加するため、実用的ではない。また、チップの高さについては、1mm以上、好ましくは5mm以上であることが望ましい。1mm未満ではチップの固定方法が難しく、20mm以上ではチップの厚さにもよるがチップ自体の強度が低下する。硬質砥粒チップを構造は特に規定する必要はなく、メタルボンドベースの砥石、あるいは樹脂ベースの固定砥粒砥石を用いてもよい。
【0025】
また、加工条件については特に制限はないが、側面研削砥石(リング状砥石)の回転速度は100〜1000rpmであれば十分である。側面研削砥石の送り速度については、1〜10mm/minとすればよいが、SiC単結晶インゴットの表面形状によっては、研削状態が安定するまでは送り速度を調節し、たとえば0.1〜5mm/minにする等、リング状砥石の破損を回避するように条件調整することが好ましい。
【0026】
また、本発明において、砥石を当接させるSiC単結晶インゴットの外周側面にその砥粒スラリーを存在させた状態で研削するには、SiC単結晶インゴットを砥粒スラリー中に浸漬させて研削するようにしてもよく、或いは、砥石を当接させるSiC単結晶インゴットの外周側面に砥粒スラリーを供給して研削するようにしてもよい。
図1は前者の例を示しており、研削時には、SiC単結晶インゴット14が砥粒スラリー17に完全に浸漬するように配置されている。なお、後者の例は
図2に示されており、詳細は後述する。
【0027】
ここで砥粒スラリーとしては、SiCと同等か、あるいはそれよりも硬い材料で構成される砥粒が溶剤に分散したものを使用する。具体的には、ヌープ硬度がSiC(=約2500)以上の材料であればよく、SiC自身以外にも、例えばダイヤモンド(=約7000)や炭化ホウ素(B
4C、=約2800)等が該当する。この砥粒スラリーの中で研削加工を行うことにより、スラリー中の砥粒による研磨効果とスラリー溶媒自身の潤滑効果とが相乗的に加わることにより、被加工物であるSiC単結晶インゴットの側面加工における表面仕上がりが改善される。なお、砥粒スラリーには、砥粒としてSiC、ダイヤモンド、又は炭化ホウ素のいずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いるようにしてもよい。
【0028】
表面仕上がりは、接触式粗さ計によって計測される表面粗度で簡易的に評価可能であるが、このような方法は加工表面の平均的な凹凸を計測するに過ぎないため、研削加工によって導入されるマイクロクラックの深さ等の情報をより正確に知るには、加工表面近傍の断面を光学実体顕微鏡や電子顕微鏡等で観察することが好ましい。研削加工時にスラリー中の砥粒粒子が研削砥石による加圧力を受けて、いわば圧搾加工をSiC単結晶インゴット表面に行うために、表面に与える加工ダメージが固定砥粒の場合の切削加工効果と比較して小さくでき、SiC単結晶インゴット側面のマイクロクラックの発生を抑制できる。この結果として、引き続くSiC単結晶基板の研磨加工時におけるクラック発生起点が減るため、基板研磨時のクラック発生を大きく抑制できる。なお、SiCのヌープ硬度未満の材料からなる砥粒では十分な圧搾加工効果が得られない。
【0029】
ここで、砥石に固定された研削砥粒の切削加工によって導入されるマイクロクラックを砥粒スラリーによって除去するためには、砥粒スラリー中の砥粒の平均粒径は0.1μm超50μm以下が好ましく、より好ましくは1μm超10μm以下、更に好ましくは1μm超5μm以下とすることで、マイクロクラックの除去効果をさらに改善することができる。砥粒の粒径が50μmを超えると、圧搾加工といえどもSiC単結晶インゴット側面に生成される加工痕が深くなり、基板の両面研磨等の研磨加工時のクラック発生頻度が増加してしまうおそれがある。また、砥粒の粒径が0.1μm以下になると、圧搾加工効果が小さくなるため、SiC単結晶インゴット側面のマイクロクラックの低減が十分でなく、引き続くSiC単結晶基板研磨時のクラック発生頻度が増加してしまう。
【0030】
ここで、砥粒の粒度であるが、具体的にはレーザー回折式粒度測定法のような光学的手法により直接計測してもよいが、本法は分散した粒子にレーザー光を照射させた際、通過した散乱光の強度の確度依存性を測定することで粒度分布を計測するため、スラリー中に存在する最大径の粒度が平均化によって丸められてしまうという欠点がある。すなわち、SiC単結晶インゴット側面研削時に深い研削痕を生成するものは主に砥粒径が50μmを大きく超える大径粒子であり、これがスラリー中に存在すると平均粒径が50μm以下であっても研磨加工時のクラック発生が抑えられない。そこで、上記の平均粒径とは、例えばダイヤモンド粒子を例に取り上げる場合、JIS B 4130等に規定の、ふるいによる分級法に準じたメッシュサイズに対応する粒度表示の各ダイヤモンド砥粒を質量比で適宜混合することによって計算上得られる平均粒度を有した粒子である。このようにすることが、本発明の効果を得るために最も現実的かつ効果的である。すなわち、本発明の砥粒スラリーでは、JIS B 4130規定に準拠したメッシュサイズで分級した砥粒の質量比に基づく平均粒径が0.1μm超50μm以下の砥粒を用いるのが好ましいということができる。なお、表1にふるいメッシュサイズと粒度との関係を示した。
【0032】
砥粒スラリー中の砥粒濃度は、スラリー溶媒質量100gに対して、砥粒質量が10g以上であれば十分な基板の両面研磨時のクラック抑制効果が得られる。上限については特に制限は無いが、スラリー溶媒質量100gに対して砥粒1000gを超えるとスラリーの流動性が悪くなり、圧搾加工効果が減少すると共に、研削加工コストが不必要に増加してしまうため好ましくない。
【0033】
また、砥粒スラリーの溶媒は、砥粒を効果的に分散できれば水性溶媒及び油性溶媒のいずれについても使用可能であるが、潤滑効果と砥粒の分散性に優れた精製鉱物油等の油性溶媒が特に好ましい。更には、砥粒の分散性を改善するために油性溶媒に増粘材を添加して粘度を増加させたり、あるいは界面活性剤や分散剤等を添加したりしてもよい。そのような油性溶媒の一例としては、パレス化学株式会社製PS-L-30等が挙げられる。
【0034】
図2には、本発明の別の円筒研削加工方法の例が示されている。この例では、円筒ドリル状の側面研削砥石22(リング状砥石)を、旋盤固定部24に固定されたコアドリル装置の円筒ドリル状砥石ユニット23に取り付けられるコアドリル刃先ユニットとして用いて、試料固定用三つ爪28を備えた旋盤固定部25に固定されたSiC単結晶インゴット21を回転させながら研削する。
【0035】
このように、
図2の例におけるインゴット側面の研削加工手段の本体部分は
図1とほぼ同様であるが、ここでは、砥石を当接させるSiC単結晶インゴットの外周側面に砥粒スラリーを供給して研削する。すなわち、SiC、ダイヤモンド、又はB
4Cのいずれか1種或いは2種以上の砥粒を懸濁させた砥粒スラリー27を循環ポンプ等によって局所的に導入管26を通して供給する。砥粒スラリー27はそのまま使用済スラリーとして廃棄してもよく、また、別途回収しながら循環させて再度供給してもよい。これによって
図1と同様の研削表面仕上げが得られ、SiC単結晶基板の表面研磨工程時におけるクラック発生を効果的に低減できるが、
図2に示す本法のメリットは使用する砥粒スラリーを効果的かつ効率的に使用できる点にある。なお、砥粒スラリーについては先の
図1の例で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0036】
本発明のインゴット側面加工は特段の制限はないが、引張応力が残留応力として残存する、昇華再結晶法で成長させたSiC単結晶インゴットの外周側面の加工を行うのに適しており、特に側面研削した後の円柱状のバルクSiC単結晶の直径が100mm以上となるような場合に特に顕著な効果が得られ、150mm以上の場合が更に好ましい。側面研削後のSiC単結晶の直径が100mm以上になると、それをスライスして得られる口径100mm基板を両面研磨する際に基板周辺部に発生するせん断的な外部応力が大きくなり、従来法では研削時に導入されるマイクロクラックによって基板にクラックが発生する頻度が増大してしまうが、本発明によればこのような基板クラックの発生を抑制することができる。
【0037】
また、本発明の側面研削方法は、例えば、電力用パワーデバイスに用いられる4H型ポリタイプから構成されるSiC単結晶インゴットに有効であるが、他のポリタイプである6H型や15R型、あるいはそれらのうちの少なくとも1種又は2種以上から構成されるSiC単結晶インゴットであっても有効である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例及び比較例に基づき、本発明の内容について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0039】
(実施例1〜4)
図3に示す、改良型レーリー法(昇華再結晶法)をベースとするSiC単結晶インゴット成長装置を用いて、以下に記す条件にてSiC単結晶の成長を実施した。なお、
図3はSiC単結晶成長装置の一例であり、本発明の構成要件を規定するものではない。
【0040】
結晶成長は、原料であるSiC粉末31を昇華させ、SiC単結晶基板からなる種結晶32の上に再結晶化させることにより行われる。種結晶32は、黒鉛製の耐熱坩堝(黒鉛製坩堝)33の上部の内面に取り付けられる。SiC原料粉末31は、黒鉛製坩堝33の内部に充填される。この坩堝33は、二重石英管34内部に設置され、円周方向の温度不均一を解消するために、1rpm程度以下の回転速度で坩堝を回転可能な機構になっており、結晶成長中はほぼ一定速度で常に回転するようになっており、黒鉛製坩堝33の周囲には、熱シールドのための断熱保温材(断熱材)35が設置されている。二重石英管34は、真空排気装置36により真空排気(10
-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気を、純度99.9995%以上の高純度アルゴン(Ar)ガスを用いて、マスフローコントローラ37で制御しながら流入させることで圧力制御することができる。また、二重石英管34の側面には、ワークコイル38が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝33を加熱して、原料31及び種結晶32を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝の上部方向の中央部に直径2〜4mmの光路(温度測定用上部孔)39を設けて、坩堝上部からの輻射光を取り出し、二色温度計(放射温度計)40を用いて行う。
【0041】
ここで、種結晶32としては、口径150mmの4H型ポリタイプから構成されたSiC単結晶基板を使用した。種結晶は、(000−1)面から<11−20>方向に4度のオフセット角を有しており、<000−1>方向側の基板面が成長面となるように黒鉛製坩堝33内の対向面、すなわち上部内壁面に取り付けた。また、種結晶中の窒素濃度は1×10
19cm
−3である。
次いで、石英管内を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し、坩堝上部の表面温度が1700℃となるまで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスと高純度窒素ガス(純度99.9995%以上)の混合ガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、温度を目標温度である2250℃まで上昇させた。雰囲気ガス中の窒素濃度は体積比で7%とした。その後、成長圧力である1.3kPaに約30分かけて減圧し、この状態を所定の時間維持して結晶成長を実施した。この際、坩堝内における種結晶側から原料側への温度勾配は15℃/cmである。成長終了後、坩堝内よりSiC単結晶インゴットを取り出したところ、得られたSiC単結晶インゴットの口径は概ね152mmであり、また高さは最頂部で40mm程度であった。更に、SiC単結晶インゴットの成長上面の表面は、光沢のある滑らか、かつ凸状の形状を有した、概ね中心部に頂部を有する緩やかな略円錐形状であった。
【0042】
上記で得られたインゴットを、
図2に示したような円筒ドリル状の側面研削砥石を用いてインゴット外周側面を研削加工した。ここで、側面研削砥石の詳細であるが、硬質砥粒チップはダイヤモンド砥粒からなる円弧状の形状を有したチップであり、それを8個並べてリング状になるように隙間なく配置した。これらの各チップは全体としてその内面が円状となるように曲率が付与されている。また、チップの厚さ(肉厚)は2mm、高さは10mmであり、内面の実質直径(内径)は150.2mm、また実質外径は152.3mmである。これらのチップはステンレス製パイプの先端部にろう付けにより固定され、リング状の側面研削砥石(リング状砥石)とした。
【0043】
このステンレス製パイプの先端部に固定された側面研削砥石を金属加工等で一般的に用いられる旋盤に取り付け、平坦化加工したインゴットの上面に押し付け、SiC単結晶インゴットの円柱軸方向に移動させることでインゴット外周側面を研削加工するようにした。その際、インゴット他端の旋盤への固定については、インゴット底部の黒鉛部を平面研削装置によりインゴットの底面全体に研削加工面が形成されるまで事前に除去し、その後インゴット底面を固定ワックスにより直径約140mmのステンレス製円柱の上端平面に中心軸を揃えて貼り付けて、ステンレス製の円柱部分を旋盤の三つ爪チャックで挟むことにより固定した。
【0044】
そして、インゴットの回転速度は約1000rpm、加工速度、すなわち側面研削砥石のインゴット円柱軸方向の送り速度は約0.15mm/分とし、研削加工の際には
図2に示したように砥粒スラリーをインゴット外周側面の加工部に供給しながら研削した。ここで、砥粒スラリーとしては、表2に示したように、種々の平均粒径からなるダイヤモンド粒子(ヌープ硬度約7000)を砥粒として、精製鉱物油を主成分とする油性溶媒100gに対してダイヤモンド砥粒を1〜1200gの割合で分散させた各種スラリーを準備し、循環ポンプにより約500cc/分の割合で加工部に供給して、実施例1〜4に係るバルクSiC単結晶を得た。なお、使用した砥粒の平均粒径の詳細は表3に示したとおりである。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
上記のようにしてSiC単結晶インゴットの外周側面の研削を完了した後、円柱状のSiC単結晶を取り外し、目視で側面にインゴットクラックが発生していないことを確認して、その後、マルチワイヤーソーを用いてバルクSiC単結晶のスライスを行った。その主な切断条件は以下の通りである。
・使用ワイヤー:素線径160μm
・スラリー:油性スラリー、ダイヤモンド砥粒の平均粒径10μm、遊離砥粒
・スラリー温度:30℃
・ワイヤー揺動角:±0.5°
・ワイヤー走行速度:500m/min
・ワイヤー張力:30N
【0048】
そして、それぞれ得られた厚さ600μmのas-sliced基板を取り出し、目視観察による表面状態観察を行ったところ、全てのウェハにクラックが発生していないことを確認した。
引き続いて、各実施例に係るas-sliced基板を用いて、それぞれ1バッチ3枚の構成で両面研磨を行い、同条件での研磨を異なるas-sliced基板を用いて10回繰り返した(実施例ごとに合計30枚のas-sliced基板を研磨)。使用した研磨定盤は直径約90cm、材質は鋳鉄製であり、研磨加重は150g/cm
2で統一した。研磨スラリーは平均粒径が9μmのダイヤモンド砥粒が50カラット/ccとなるように純水中に分散させた。このとき分散剤は一切使用していない。循環ポンプでスラリーを連続的に供給しながら、約30minの両面研磨を行い、終了後に基板を取り出して、目視観察による表面状態の観察を行って基板のクラック発生状況を調査した。必要に応じて(特に目視でも判別できる大きなクラック(マクロクラック)が確認されない場合について)、集光灯および光学実体顕微鏡を用いて基板表面の状態を詳しく観察した。表2にその観察結果を示す。○はクラック無し、×は研磨中にクラックを発生した基板があることを示す。表2中の実施例1〜4に示すように、本発明の側面研削方法によれば、試験ウェハ数が30枚である本実施例においては両面研磨時のクラック発生は全く無く、安定した研磨加工が実現可能であることが判る。
【0049】
(実施例5〜6)
次に、実施例5〜6について説明する。
実施例1〜4と同様な結晶成長により得られたSiC単結晶インゴットについて、側面研削加工、及びマルチワイヤーソー切断によりas-sliced基板を作製し、両面研磨機により実施例1〜4と同様な条件で研磨加工を行った。ただし、側面研削加工時に使用するスラリーを表2に示すように変え、側面研削加工時のスラリー供給量等は実施例1〜4と全く同一とした。表2中の実施例5〜6に結果を示す。
【0050】
実施例5では、ダイヤモンド砥粒の粒径が5μmであっても砥粒質量が1000gを超えると、スラリーの流動性が悪くなるため、効率的に側面研削加工時に供給することが極めて困難になる。このため結果として、研削面の仕上がりが悪くなり、両面研磨時に長さ約40〜80mm程度のクラックが30枚の試験ウェハ中、4枚のウェハにおいて発生していることが判明した。また、実施例6では、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が60μmと大きく、スラリー中に粒径50μmを超える大径粒子が存在するために研削面に大きな加工痕が残存して表面状態が悪くなるため、同じく30枚試験ウェハ中、6枚のウェハにおいてやはり研磨時にクラックが発生した。
【0051】
(比較例1)
比較例として、ダイヤモンド砥粒を含まない精製鉱物油のみを研削加工時に供給して行った。その結果を表2中に比較例1として示す。ダイヤモンド砥粒の粒子による圧搾加工効果が得られず、5枚の試験ウェハにおいて研磨時にクラックが発生していることが判った。ダイヤモンド砥粒を全く含まない場合、本発明の効果が一切得られず、引き続く研磨工程でクラック発生頻度が頻発することが判る。
【0052】
(実施例7〜8、比較例2)
4H型ポリタイプを有した口径が100mmのSiC単結晶基板を種結晶として用いた以外は実施例1〜4とほぼ同様な成長条件にて、SiC単結晶成長を実施した。得られたSiC単結晶インゴットは、口径は概ね100.6mmであり、また、高さは最頂部で51mmであった。
【0053】
得られたSiC単結晶インゴットを
図1に示すコアリング装置に取り付け、インゴット全体が砥粒スラリーに完全に浸漬するようにした。このコアリング装置には、コアドリル刃先ユニットとして実施例1〜4で使用したリング状の側面研削砥石が取り付けられている。そして、SiC単結晶インゴットを砥粒スラリーに浸漬させた状態で、インゴット外周側面を研削加工した。更に、実施例1〜4と同様な条件でマルチワイヤーソー切断及び両面研磨を実施し、研磨後に基板中のクラックの有無を実施例1〜4と同様にして評価した。
【0054】
ここで、コアリング装置を用いた側面研削加工時に使用する砥粒スラリーについて、砥粒としてはSiC(実施例7)、及び、炭化ホウ素(B
4C、実施例8)を使用し、それぞれの砥粒の平均粒径は5.0μm、すなわち、メッシュサイズで2500番及び5000番を質量比で1:2の割合で混合したものである。溶媒は油性の精製鉱物油を使用し、砥粒混合量は溶媒100gに対して50gとなるようにした。また、側面研削砥石の回転速度は約1200rpm、加工速度、すなわち側面研削砥石のインゴット円柱軸方向の送り速度は約0.12mm/分とした。
【0055】
両面研磨の実施により基板中に発生したクラックの有無について、表4に結果を示す。砥粒スラリーの砥粒がSiC及びB
4Cの場合は、いずれも実施例1〜4のダイヤモンドの場合とほぼ同様に、両面研磨時に発生するクラックは皆無であり、良好な結果が得られていることが判る。
【0056】
【表4】
【0057】
(比較例2)
コアリング装置による側面研削加工時に使用する砥粒スラリーとして、平均粒径5μmのアルミナ(Al
2O
3)粒子(すなわち、メッシュサイズで2500番及び5000番を質量比で1:2の割合で混合したアルミナ粒子)を用いた以外は実施例7〜8と同様にして、インゴット外周側面の研削加工を行った。そして、実施例1〜4と同様にしてマルチワイヤーソーによる切断、及び両面研磨を実施し、30minの両面研磨後に取り出して目視観察を行った結果、30枚のas-sliced基板のうち約12枚にクラックが発生していることが判明した。