(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352181
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】切削インサートとそれを用いた正面フライスカッタ
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20180625BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-523136(P2014-523136)
(86)(22)【出願日】2014年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2014050623
(87)【国際公開番号】WO2014156225
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-63625(P2013-63625)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100102691
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100121016
【弁理士】
【氏名又は名称】小村 修
(74)【代理人】
【識別番号】100136283
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 直史
(74)【代理人】
【識別番号】100149191
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 成利
(74)【代理人】
【識別番号】100156317
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100157761
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 大介
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】中木原 勝也
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04789273(US,A)
【文献】
国際公開第2011/068691(WO,A1)
【文献】
特開2010−069578(JP,A)
【文献】
特開2004−291205(JP,A)
【文献】
特表2000−503912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する多角形の2つの主面と、その主面の各辺に連なる複数の側面を備え、前記主面
をすくい面、主面と側面が交差した位置の稜線を切れ刃として用いるミーリングカッタ用
の切削インサートであって、
前記複数の側面が、互いを貫通する方向に取付け穴が形成された主側面と、その主側面に
対して直角な第1副側面と、その第1副側面と前記主側面との間に配置される第2副側面
とを含み、前記主面と主側面が交差した位置の稜線で主切れ刃が、前記主面と第2副側面
が交差した位置の稜線で副切れ刃がそれぞれ形成され、前記主切れ刃は主側面視での形状
が凸円弧状であり、その主切れ刃と副切れ刃のなす角度が145°以上ある切削インサー
ト。
【請求項2】
前記副切れ刃の長さを1mm以上とした請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の切削インサートを、カッタボディの先端外周に設けられた支持座に前記副切れ刃によって5°以下のフェースアングルをもったサラエ刃が形成され、さらに、前記主切れ刃が35°以下のアプローチ角を持つ姿勢に装着して構成される正面フライスカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高能率加工を可能にした、仕上げ加工にも利用可能な切削インサートとそれを用いた正面フライスカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
ミーリングカッタに用いられる切削インサートとして、例えば、下記特許文献1、2に示されるようなものが知られている。
【0003】
それ等の特許文献に開示された切削インサートは、通常、側面と称されている長方形の面をすくい面として使用するいわゆる縦使い方式である。その縦使い方式の切削インサートは、切削主分力を受ける方向の厚み寸法が大きくて剛性が高いため、高送りによる高能率加工が可能である。
【0004】
なお、特許文献2の切削インサートは、すくい面となす長方形の側面のコーナを切り欠いて上記側面の長辺で構成される主切れ刃に対して略45°の角度で交わる副切れ刃を各コーナに生じさせている。これにより主切れ刃のアプローチ角が45°になるように切削インサートをカッタボディに装着することで、副切れ刃をサラエ刃として機能させるものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−291205号公報
【特許文献2】特開2009−226510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、縦使い方式の切削インサートは、高送りによる高能率加工が行えるが、送り量が大きくなるにつれて主切れ刃によって生成される切屑の厚みが増し、切削抵抗が増加する。そのために、送り量をより大きくするのが難しく、加工の更なる高能率化の要求に応えられていない。
【0007】
また、アプローチ角を設定した加工ではアプローチ角の影響を受け、送りを大きくすると加工面の面粗さが悪化する。特許文献2は、それを補うためにサラエ刃となる副切れ刃を設けているが、その副切れ刃は、主切れ刃に対して45°の傾きをもつために長さが制限される。
【0008】
そのために、副切れ刃による仕上げ効果が損なわれない範囲で送り量を設定せざるを得ず、このことも、加工の更なる高能率化を困難にする原因になっている。
【0009】
この発明は、切削インサートの形状を工夫して加工の更なる高能率化を可能となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、対向する多角形の2つの主面と、その主面の各辺に連なる複数の側面を備え、前記主面をすくい面、主面と側面が交差した位置の稜線を切れ刃として用いるミーリングカッタ用の切削インサートを以下の通りに構成した。
【0011】
即ち、前記複数の側面は、互いを貫通する方向に取付け穴が形成された主側面と、その主側面に対して直角な第1副側面と、その第1副側面と前記主側面との間に配置される第2副側面とを含み、前記主面と主側面が交差した位置の稜線で主切れ刃が、前記主面と第2副側面が交差した位置の稜線で副切れ刃がそれぞれ形成され、前記主切れ刃と副切れ刃のなす角度が145°以上あるものにした。
【0012】
この切削インサートは、副切れ刃によって5°以下、好ましくは0′〜30′程度のフェースアングルをもったサラエ刃が形成される姿勢にして切削インサートをカッタボディに装着する。その状況では、主切れ刃が35°以下のアプローチ角を持つ刃となる。
【0013】
この発明は、カッタボディの先端外周の支持座に対して、この発明の切削インサートをそのような姿勢に装着した正面フライスカッタも併せて提供する。
【発明の効果】
【0014】
主切れ刃によって削られる切屑は、主切れ刃のアプローチ角を小さくするほど薄くなる。この発明の切削インサートは、主面のコーナ部に主切れ刃とのなす角が145°以上ある副切れ刃を設けている。これにより、その副切れ刃をサラエ刃として使用する姿勢にしたときに主切れ刃は35°以下のアプローチ角を持つ刃になる。
【0015】
そのために、アプローチ角が45°以上の従来の正面フライスカッタに比べて主切れ刃によって切削される切屑の厚みが薄くなって切削抵抗が低減される。これにより、送り量設定の規制が緩和されて加工能率が向上する。
【0016】
また、主面のコーナ部に設けた副切れ刃をサラエ刃として使用することで、加工面の面粗さを良くすることができる。そのため仕上げ加工を不要となすことができ、このことによっても加工能率が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の切削インサートの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の切削インサートの主面を示す図である。
【
図3】
図1の切削インサートの主側面を示す図である。
【
図4】
図1の切削インサートの第1副側面と第2副側面を示す図である。
【
図5】
図2のV−V線に沿った位置の拡大断面図である。
【
図6】この発明の切削インサートの他の例を示す斜視図である。
【
図7】
図6の切削インサートの主面を示す図である。
【
図8】
図6の切削インサートの主側面を示す図である。
【
図9】
図8の切削インサートの第1副側面と第2副側面を示す図である。
【
図10】この発明の切削インサートのさらに他の例を示す図である。
【
図11】
図10の切削インサートの第1副側面と第2副側面を示す図である。
【
図12】正面フライスにおけるアプローチ角の相違による切屑厚みの相違の説明図である。ここでは、上側の図に比べて下側の図の方がアプローチ角ψは小さい。
【
図13】
図1の切削インサートを用いたフライスカッタの斜視図である。
【
図16】
図13のフライスカッタにおけるアプローチ角とフェースアングルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の切削インサートとそれを用いたフライスカッタの実施の形態を添付図面の
図1〜
図16に基づいて説明する。
【0019】
図1〜
図5は、この発明の切削インサートの一例を示している。この切削インサート1は、対向する八角形の2つの主面2、2と、両主面の各辺に連なる複数の側面を備えている。
【0020】
図示の切削インサート1は、主面2をすくい面として使用し、側面を逃げ面、主面2と側面が交差した位置の稜線を切れ刃6として用いる。切れ刃6は主切れ刃6aと副切れ刃6bとからなる。
【0021】
側面は、互いを貫通する方向に取付け穴7が形成された2つの互いに対向する主側面3,3と、その2つの主側面3に対して直角な第1副側面4と、その第1副側面4と主側面3との間に配置される第2副側面5とを含む。主面2と主側面3が交差した位置の稜線で主切れ刃6aが形成されている。
【0022】
また、主面2と第2副側面5が交差した位置の稜線で副切れ刃6bが形成されている。
その副切れ刃6bは、主切れ刃6aとのなす角αが145°以上ある刃(図示の切削インサートはα=145°)になっている。副切れ刃6bの長さは、1mm以上確保するのがよい。例示の副切れ刃6bはその長さが1mm以上ある刃にしている。
【0023】
副切れ刃6bの大きさは、切削インサートの大きさや、切れ刃の角度、切り込み大きさによって異なるが、コーナ数を多く使うという経済的観点から、切削インサートの長手方向の幅の1/2を超えないことが好ましい。標準的なサイズであれば、副切れ刃6bの大きさは、1mm以上、10mm以下が好ましく、2mm以上、5mm以下がより好ましい。
【0024】
主面2と第1副側面4が交差した位置の稜線は、正面フライスでは切れ刃としては利用されない。
【0025】
主側面3は、片方を逃げ面、他方を支持座に対する着座面として使用する面である。本実施形態では、主側面3の方が、主面2よりも面積を大きくしている。
【0026】
なお、例示の切削インサート1は、主面2の中央部に着座面となすフラットランド8を有している。そのフラットランド8を切れ刃6の位置から落ち込ませ、切れ刃6とフラットランド8との間に、すくい角β(
図5参照)の傾斜したすくい面9を設けている。
【0027】
ただし、フラットランド8を切れ刃の位置よりも落ち込ませることや、傾斜したすくい面9を設けることは発明の必須の要件ではない。刃先強度が重視されるような用途では、主面2を側面に対して90°、或いはそれ以上の角度で交わらせる形態が有利になることがある。
【0028】
また、主側面3を直視した状態でその主側面3とそれに連なる第2副側面5のなす形状が
図3のような長方形であることも必須ではないし、主切れ刃6aが直線刃であることも必須ではない。
【0029】
図6〜
図9に示す切削インサート1は、主側面3を直視した
図8において主側面3とそれに連なる第2副側面5のなす形状を平行四辺形にしている。
【0030】
図8では手前側の平行四辺形と背を向けた奥側の平行四辺形の鋭角コーナの位置及び手前側の切れ刃6と奥側の切れ刃6の傾き方向が逆になっている。
【0031】
このために、主側面3の中心線CLを中心にして切削インサート1を180°回転させたときに、一面側と他面側の主側面3の回転前後の輪郭が重なり、複数コーナの使用が可能である。
【0032】
なお、
図8において奥側にある平行四辺形を手前側に配置し、手前側の平行四辺形を奥側に移した形状にすると勝手違いの切削インサート1となる。
【0033】
図10〜
図11に示す切削インサート1は、主側面3を直視した
図10において、主側面3とそれに連なる第2副側面5のなす形状が、対の主面2,2間の距離が両端から中央に向かって次第に増大して中央で最大となっている。これにより、主切れ刃6aは凸円弧状をなす。
【0034】
このように構成したこの発明の切削インサート1は、カッタボディに対して所定のフェースアングルと所定のアプローチ角をもつように装着して使用する。
【0035】
この発明の切削インサートを使用した正面フライスカッタの一例を
図13〜
図15に示す。例示の正面フライスカッタ10は、主切れ刃6aが所定のアプローチ角ψを有する。
【0036】
図示のフライスカッタ10は、カッタボディ11の先端外周に設けられた支持座12に
図1の切削インサート1を着座させ、その切削インサート1をクランプねじ13で固定して構成されている。
【0037】
切削インサート1は、
図16に示すように、副切れ刃6bに適度なフェースアングルFAが付され、主切れ刃6aが所定のアプローチ角ψを持つ。
【0038】
副切れ刃6bに付与するフェースアングルFAは、5°以下、好ましくは0′〜30′程度とする。主切れ刃6aは、
図1の切削インサートについては副切れ刃6bとのなす角αを145°にしているので、今、フェースアングルFAを30′に設定したとすると、主切れ刃6aのアプローチ角ψは、34°30′となる。
【0039】
主切れ刃6aによって生成される切屑は、
図12に比較して示すように、送り量fが一定であるなら、アプローチ角ψが小さいほど、その厚みtが薄くなる。
【0040】
この発明の切削インサートを使用したフライスカッタ(正面フライス)10は、アプローチ角ψが35°以下であるので、そのアプローチ角が45°に設定される従来のフライスカッタよりも生成される切屑の厚みtが薄く、そのために切削抵抗が低減される。
【0041】
これにより送り量を従来品のカッタよりも高めることが可能になり、加工能率の向上に結びつく。
【0042】
また、送り量を副切れ刃6bの長さ範囲内に設定することで加工面の面粗さを良くして仕上げ加工を不要となすことができ、このことによって加工能率がさらに高められる。
【0043】
上記開示された本発明の実施形態の構成は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0044】
1 切削インサート
2 主面
3 主側面
4 第1副側面
5 第2副側面
6 切れ刃
6a 主切れ刃
6b 副切れ刃
7 取付け穴
8 フラットランド
9 すくい面
10 正面フライスカッタ
11 カッタボディ
12 支持座
13 クランプねじ
α 主切れ刃と副切れ刃のなす角
β すくい角
FA フェースアングル
ψ アプローチ角
t 切屑の厚み
CL 主側面の中心線