(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の抵抗素子部が、少なくとも第1の種類の複数の抵抗素子部と第2の種類の複数の抵抗素子部とに分類され、前記第1の種類の複数の抵抗素子部と前記第2の種類の複数の抵抗素子部とは、前記磁気抵抗効果素子の前記オフセット磁場が互いに異なる、請求項1に記載の磁気センサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本明細書では、本発明の磁気センサについて、ハーフブリッジ回路を用いた構成を例に挙げて説明するが、磁気センサの構成はこれに限定されるものではない。本発明は、例えば、フルブリッジ回路を用いた磁気センサにも適用可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気センサの構成を示す回路図である。
【0016】
本実施形態の磁気センサ1は、第1の抵抗アレイ10と第2の抵抗アレイ20との直列回路によって構成されたハーフブリッジ回路2を備えている。ハーフブリッジ回路2では、第1および第2の抵抗アレイ10,20の一端同士が互いに接続され、第1の抵抗アレイ10の他端が電源端子V
CCに接続され、第2の抵抗アレイ20の他端がグランド端子GNDに接続されている。出力端子V
outは、第1および第2の抵抗アレイ10,20の接続点に接続されている。ハーフブリッジ回路2では、出力端子V
outとグランド端子GNDとの電位差が出力電圧として出力される。
【0017】
各抵抗アレイ10,20は、同様の膜構成を有する複数の磁気抵抗効果(MR)素子を有している。以下、
図2および
図3を参照して、MR素子の構成について説明する。
図2は、MR素子の概略断面図であり、成膜方向に沿った断面を示している。
図3(a)は、抵抗アレイの一部を拡大して示す概略平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のA−A’線に沿った概略断面図である。なお、
図3(b)の上下方向が、MR素子の成膜方向である。
【0018】
MR素子30は、一般的なスピンバルブ型の膜構成を有している。具体的には、MR素子30は、
図2に示すように、反強磁性層31と、外部磁界に対して磁化方向が固定されたピンド層32と、スペーサ層33と、外部磁界に応じて磁化方向が変化するフリー層34と、を有している。反強磁性層31は、ピンド層32との交換結合によってピンド層32の磁化方向を固定する層である。
図2では、ピンド層32の磁化方向が、斜線を付した矢印で示されている。なお、
図2には、強磁性体からなる単層のピンド層32の例が示されているが、ピンド層32は、非磁性中間層を挟んで2つの強磁性層が設けられたシンセティック構造を有していてもよい。スペーサ層33は、非磁性導電層またはトンネルバリア層である。スペーサ層33が非磁性導電層である場合、MR素子30は、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子として機能し、スペーサ層33がトンネルバリア層である場合、MR素子30は、トンネル磁気抵抗効果(TMR)素子として機能する。MR変化率が大きく、ブリッジ回路の出力電圧を大きくすることができるという点で、MR素子30は、TMR素子であることが好ましい。
【0019】
各MR素子30は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、下部電極41と上部電極42とにそれぞれ接続されている。具体的には、各MR素子30は、反強磁性層31(
図2参照)が、導電性のバッファ層(図示せず)を介して、下部電極41に電気的に接続され、フリー層34(
図2参照)が、導電性のキャップ層(図示せず)を介して、上部電極42に電気的に接続されている。このような構成により、MR素子30の成膜方向にセンス電流が流れるようになっている。また、下部電極41の両端にそれぞれ接続されたMR素子30には、それぞれ異なる上部電極42が接続されている。これにより、複数のMR素子30は、複数の下部電極41と複数の上部電極42とによって、互いに直列に接続されている。
【0020】
ここで、再び
図1および
図2を参照して、外部磁界に応じて出力を変化させるハーフブリッジ回路2の動作について簡単に説明する。
【0021】
MR素子30では、上述したように、ピンド層32の磁化方向が、反強磁性層31との交換結合により、所定の方向に固定されているが、フリー層34の磁化方向は、外部磁界に応じて変化する。そのため、フリー層34の磁化方向とピンド層32の磁化方向との相対角度も、外部磁界に応じて変化する。この相対角度に応じて伝導電子のスピン依存散乱が変化するため、各MR素子30では、磁気抵抗変化が生じることになる。
【0022】
また、抵抗アレイ10,20内では、MR素子30のピンド層32の磁化方向はそれぞれ揃っているが、第1の抵抗アレイ10と第2の抵抗アレイ20との間では、MR素子30のピンド層32の磁化方向は互いに異なっている。具体的には、
図1の斜線を付した矢印で示すように、MR素子30のピンド層32の磁化方向は互いに反平行である。このため、第1の抵抗アレイ10と第2の抵抗アレイ20との間では、ピンド層32の磁化方向とフリー34層の磁化方向との相対角度に差が生じ、外部磁界に対する応答(磁気抵抗変化)に差が生じることになる。例えば、外部磁界がxy平面内で回転したときに、第1の抵抗アレイ10の抵抗値が増大すると、第2の抵抗アレイ20の抵抗値は減少することになる。
【0023】
したがって、このように構成されたハーフブリッジ回路2では、電源端子V
CCからの電圧が第1の抵抗アレイ10と第2の抵抗アレイ20とに印加された状態で、外部磁界が変化すると、それに応じて出力電圧も変化する。この外部磁界と出力電圧との関係から、外部磁界の方向および大きさを求めることが可能になる。
【0024】
次に、本実施形態の抵抗アレイの詳細な構成について説明する。第1の抵抗アレイと第2の抵抗アレイとは、上述したピンド層の磁化方向を除いて、実質的に同一である。そこで、以下では、第1の抵抗アレイの構成についてのみ説明する。
【0025】
まず、第1の抵抗アレイの構成を説明する前に、MR素子の抵抗値と外部磁界との関係について説明する。
図4は、
図2に示すMR素子の抵抗値と外部磁界との関係の一例を示すグラフである。縦軸はMR素子の抵抗値(任意単位)、横軸は外部磁界のx軸方向(
図2参照)の成分(任意単位)をそれぞれ示している。なお、横軸の正の値は、外部磁界がピンド層32の磁化方向(
図2に示す例ではx軸の正方向)と反対方向の成分を有することを表している。以下では、外部磁界のx軸方向の成分を単に「外部磁界」ともいう。
【0026】
MR素子30の抵抗値の最大値および最小値をそれぞれR
maxおよびR
minとし、これらの中間値をR
C(=(R
max+R
min)/2)とすると、理想的には、外部磁界がゼロのときに抵抗値がR
Cとなるはずである。しかしながら、実際には、
図4に示すように、外部磁界がゼロのときの抵抗値はR
Cからずれる。これは、主にピンド層32とフリー層34との間の層間結合磁界に起因する。便宜的には、
図2の白抜きの矢印で示すように、ピンド層の磁化方向と反平行な方向の磁場H
inがフリー層34に作用していることによるものとみなすことができる。以下、抵抗値がR
Cとなる磁場H
inを「オフセット磁場」ということにする。
【0027】
このオフセット磁場H
inの大きさに応じて、MR素子30の出力特性、すなわち外部磁界に対する抵抗値の挙動は変化する。したがって、オフセット磁場H
inの大きさを制御することで、MR素子30の出力特性を制御することができる。フリー層34に作用するオフセット磁場H
inは、上述した層間結合磁界や形状磁気異方性など、さまざまな要因によって変化するが、本実施形態では、x軸方向の成分が異なるバイアス磁界をMR素子30に印加することにより、MR素子30ごとにオフセット磁場H
inの大きさを変化させている。その結果、第1の抵抗アレイ10内には、膜構成は同一であるが出力特性が異なる複数のMR素子30が存在することになる。
【0028】
本実施形態では、第1の抵抗アレイ10は、複数の抵抗素子部を有し、各抵抗素子部は、MR素子30と、MR素子30のフリー層34にバイアス磁界を印加するバイアス磁界発生部とを有している。複数の抵抗素子部は、MR素子30の出力特性の違い、すなわちフリー層34に作用するオフセット磁場H
inの大きさの違いによって、複数の抵抗素子部に分類することができる。本実施形態では、第1の抵抗アレイ10の複数の抵抗素子部は、3つの抵抗素子部に分類されている。
【0029】
以下、
図5から
図7を参照して、各抵抗素子部の構成について説明する。
図5(a)、
図6(a)、および
図7(a)は、それぞれ第1、第2、および第3の抵抗素子部の概略平面図であり、MR素子の成膜方向に垂直な平面を示している。また、
図5(b)、
図6(b)、および
図7(b)には、第1、第2、および第3の抵抗素子部におけるMR素子の抵抗値の外部磁界に対する挙動(出力波形)がそれぞれ概略的に示されている。なお、第1、第2、および第3の抵抗素子部は、バイアス磁界発生部の配置構成のみが異なっている。そのため、以下では、第1の抵抗素子部の構成を詳細に説明し、第2および第3の抵抗素子部については、バイアス磁界発生部の配置構成のみ説明する。
【0030】
図5(a)に示すように、第1の抵抗素子部50は、基板(図示せず)と、基板上に配置されたMR素子30と、同じく基板上に配置されたバイアス磁界発生部51とを有している。バイアス磁界発生部51は、MR素子30のフリー層34にバイアス磁界を印加する少なくとも1つの硬磁性体を有している。本実施形態では、バイアス磁界発生部51は、MR素子30を挟むように互いに間隔を置いて配置された一対の硬磁性体52,53である。各硬磁性体52,53は、MR素子30に対して間隔を置いて配置されている。
【0031】
第1の抵抗素子部50では、バイアス磁界発生部51の各硬磁性体52,53は、その長手方向がx軸に対して平行に配置されている。このとき、各硬磁性体52,53の磁化方向はx軸に垂直な方向であるため、フリー層34に作用するx軸方向の磁界は存在しない。そのため、
図5(a)の白抜きの矢印で示すように、MR素子30のオフセット磁場H
inに変化はない。その結果、第1の抵抗素子部50では、MR素子30の抵抗値は、
図5(b)に示すような挙動を示すことになる。
【0032】
また、第2の抵抗素子部60のバイアス磁界発生部61は、MR素子30に対する相対位置の点で、第1の抵抗素子部50のバイアス磁界発生部51と異なっている。すなわち、第2の抵抗素子部60では、バイアス磁界発生部61の各硬磁性体62,63は、その長手方向がx軸に対して所定の角度だけ傾斜するように配置されている。このとき、各硬磁性体62,63の磁化方向はx軸に垂直な方向であるが、MR素子30のフリー層34に印加されるバイアス磁界は、x軸の正方向の成分を有している。これにより、第2の抵抗素子部60では、バイアス磁界のx軸の正方向の成分が大きくなり、その結果、MR素子30のオフセット磁場H
inはバイアス磁界のx軸成分により相殺される。このため、MR素子30の抵抗値は、
図6(b)に示すような挙動を示すことになる。
【0033】
また、第3の抵抗素子部70のバイアス磁界発生部71は、MR素子30に対する相対位置の点で、第1の抵抗素子部50のバイアス磁界発生部51や第2の抵抗素子部60のバイアス磁界発生部61と異なっている。すなわち、第3の抵抗素子部70では、バイアス磁界発生部71の各硬磁性体72,73は、
図7(a)に示すように、第2の抵抗素子部60の場合と比べて、その長手方向がx軸に対してさらに傾斜するように配置されている。これにより、第3の抵抗素子部70では、バイアス磁界のx軸の正方向の成分は、さらに大きくなる。このため、MR素子30のオフセット磁場H
inは正となり、その結果、第3の抵抗素子部70では、MR素子30の抵抗値は、
図7(b)に示すような挙動を示すことになる。
【0034】
なお、
図5から
図7に示した例では、各硬磁性体の磁化方向は、いずれもy軸の正の方向に固定されているが、これに限定されるものではなく、各硬磁性体に対して固定されていてもよく、例えば、その短手方向に平行に固定されていてもよい。すなわち、第1の抵抗素子部50では、各硬磁性体52,53の磁化方向がy軸に対して所定の角度だけ傾斜し、その傾斜角度が、第2の抵抗素子部60から第3の抵抗素子部70にかけて徐々に大きくなるようになっていてもよい。
【0035】
図8は、第1の抵抗アレイ10の構成の一例を示す概略図である。図示した例では、第1の抵抗アレイ10は、6個の第1の抵抗素子部50と、4個の第2の抵抗素子部60と、6個の第3の抵抗素子部70とを有しているが、各抵抗素子部の数はこれに限定されるものではない。また、第1の抵抗素子部50と第3の抵抗素子部70とは、第2の抵抗素子部60に対して回転対称に配置されているが、必ずしもこのように規則的に配置されている必要はない。例えば、第1の抵抗アレイ10に対して外部磁界が均一に印加されている場合には、第1の抵抗素子部50と第2の抵抗素子部60と第3の抵抗素子部70とがランダムに配置されていてもよい。
【0036】
このような構成により、第1の抵抗アレイ10の出力波形(すなわち抵抗値の外部磁界依存性)は、
図5(b)、
図6(b)、および
図7(b)に示す、各抵抗素子部50,60,70におけるMR素子30の出力波形を重畳したものになる。重畳された出力波形は、各MR素子30の出力波形に比べて、より多くの直線的な領域を有することになる。その一方で、出力波形を重畳しても、その最大値と最小値はほとんど変化することがない。その結果、本実施形態の磁気センサ1によれば、MR変化率の低下を最小限に抑えながら、出力の直線性を向上させることができる。
【0037】
なお、抵抗アレイの構成としては、抵抗素子部ごとにMR素子の出力特性が異なり、その結果、上述したように抵抗アレイの出力特性の直線性が向上するようになっていればよく、したがって、抵抗素子部の種類は、上述した3種類に限定されるものではない。抵抗アレイは、少なくとも2種類の抵抗素子部から構成されていればよく、4種類以上の抵抗素子部から構成されていてもよい。
【0038】
図9から
図11は、本実施形態のバイアス磁界発生部のいくつかの変形例を示す概略平面図である。各図は、
図5(a)、
図6(a)、および
図7(a)に対応する図である。
【0039】
図9に示す変形例では、3つの抵抗素子部50,60,70は、バイアス磁界発生部51,61,71の平面形状が互いに異なっている。具体的には、MR素子30の中心を通りy軸に平行な直線から硬磁性体(平行四辺形)の一方の頂点までの距離(
図9(a)の矢印L1参照)と、他方の頂点までの距離(
図9(a)の矢印L2参照)との比が、3つの抵抗素子部50,60,70で異なっている。このような構成により、抵抗素子部50,60,70ごとに、MR素子30のフリー層34に作用するバイアス磁界のx軸方向の成分を変化させて、オフセット磁場H
inの大きさを変化させることができる。
【0040】
図10に示す変形例でも、3つの抵抗素子部50,60,70は、バイアス磁界発生部51,61,71の平面形状が互いに異なっている。具体的には、一方の端部における硬磁性体間のy軸方向の距離(
図10(a)の矢印L1参照)と、他方の端部における硬磁性体間のy軸方向の距離(
図10(a)の矢印L2参照)との比が、3つの抵抗素子部50,60,70で異なっている。このような構成により、
図9に示す変形例と同様の効果を得ることができる。
【0041】
図11に示す変形例では、
図5から
図7に示したものと同様に、3つの抵抗素子部50,60,70は、バイアス磁界発生部51,61,71のMR素子30に対する相対位置が互いに異なっている。この変形例では、
図5から
図7に示したように硬磁性体の傾斜量(回転量)を変化させる代わりに、抵抗素子部50,60,70ごとに、硬磁性体間のx軸方向の距離を変化させている。このような構成により、上述した変形例と同様の効果を得ることができる。
【0042】
バイアス磁界発生部は、抵抗素子部ごとに、フリー層に作用するバイアス磁界のx軸方向の成分を変化させるようになっていればよい。そのため、上述した実施形態や変形例のように、バイアス磁界発生部(硬磁性体)の形状や位置は、抵抗素子部ごとに系統的に変化している必要はない。したがって、例えば、1つの抵抗アレイ内での3つの抵抗素子部が、それぞれ
図9から
図11に示す変形例のような構成のバイアス磁界発生部を有していてもよい。すなわち、バイアス磁界発生部(硬磁性体)の形状や位置は、抵抗素子部ごとにさまざまに異なっていてもよく、抵抗アレイとして、バイアス磁界発生部のさまざまな組み合わせが可能である。
【0043】
また、バイアス磁界発生部(硬磁性体)の形状や位置もさまざまに変更可能である。
【0044】
バイアス磁界発生部のz軸方向から見た形状(平面形状)は、上述した実施形態や変形例のように矩形でなくてもよく、他の多角形であってもよい。なお、このとき、矩形や多角形の角部は丸まっていてもよい。また、バイアス磁界発生部の平面形状は、円形や、
図12に示すように、楕円形であってもよく、任意の曲線から構成されていてもよい。あるいは、直線と曲線との組み合わせによって構成されていてもよい。
【0045】
また、バイアス磁界発生部の位置は、バイアス磁界発生部によってMR素子にバイアス磁界が印加されるような位置であればよく、特に限定されるものではない。上述した実施形態や変形例では、バイアス磁界発生部は、z軸方向から見て、MR素子から離れて位置しているが、
図13に示すように、MR素子に接触するように位置していてもよく、MR素子の一部に重なるように位置していてもよい。あるいは、MR素子を覆うように、MR素子に完全に重なるように位置していてもよい。また、上述した実施形態や変形例では、バイアス磁界発生部の位置は、z軸方向から見て、MR素子に対して対照的な位置であるが、必ずしも対称的な位置でなくてもよい。したがって、例えば、一方のバイアス磁界発生部が、MR素子に接触し、他方のバイアス磁界発生部が、MR素子から離れるように位置していてもよい。あるいは、MR素子の一方の側に、2つのバイアス磁界発生部(硬磁性体)が位置していてもよい。
【0046】
これらのことは、バイアス磁界発生部のz軸方向に沿った断面形状、およびz軸方向の位置にも当てはまる。すなわち、z軸に垂直な方向から見て、バイアス磁界発生部は、上述した平面形状の場合と同様に、さまざまな幾何形状を有していてよく、さまざまな位置に配置されていてよい。例えば、バイアス磁界発生部のz軸方向の位置は、MR素子のz軸方向の位置と異なっていてもよく、バイアス磁界発生部(硬磁性体)同士がz軸方向にずれて位置していてもよい。あるいは、バイアス磁界発生部が、MR素子に対して非対称的に位置していてもよく、MR素子の一方の側に、2つのバイアス磁界発生部(硬磁性体)が位置していてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態や変形例では、バイアス磁界発生部は、2つの硬磁性体から構成されているが、バイアス磁界発生部の数は、これに限定されるものではない。例えば、z軸方向から見たとき、あるいは、z軸に垂直な方向から見たとき、MR素子の一方の側に、1つだけバイアス磁界発生部が設けられていてもよい。あるいは、
図14に示すように、バイアス磁界発生部が、3つの硬磁性体から構成されていてもよく、さらにそれ以上の硬磁性体から構成されていてもよい。
【0048】
一方で、MR素子の形状や位置も、バイアス磁界発生部と同様に、さまざまに変更可能である。例えば、MR素子のz軸方向から見た形状(平面形状)は、上述した実施形態や変形例のように円形でなくてもよく、
図15に示すように、楕円形であってもよい。あるいは、任意の曲線から構成されていてもよく、直線と曲線との組み合わせによって構成されていてもよい。また、MR素子の平面形状は、矩形(
図13参照)や他の多角形であってもよく、その角部が丸まっていてもよい。さらに、MR素子の位置については、上述した実施形態や変形例のように対称的な位置でなくてもよく、例えば、MR素子の平面形状が楕円形である場合、その長軸が、
図16に示すように、x軸方向やy軸方向に対して傾斜していてもよい。また、MR素子のz軸方向に沿った断面形状は、
図3(b)に示すような矩形でなくてもよい。
【0049】
上述した変形例を含め、本実施形態では、抵抗素子部ごとに、フリー層に印加されるバイアス磁界のx軸方向の成分を変化させることで、オフセット磁場の大きさを変化させ、MR素子の出力特性を変化させている。しかしながら、出力特性を変化させる方法は、これに限定されるものではない。例えば、上述したように、抵抗素子部ごとに、MR素子の平面形状、すなわちフリー層の平面形状を変化させることで、フリー層の形状磁気異方性を利用する方法も考えられる。この場合、フリー層の磁化は、形状磁気異方性によって、磁化容易軸方向(例えば、
図15および
図16に示すように、MR素子の平面形状が楕円形である場合には、楕円の長軸方向)を向きやすくなる。すなわち、フリー層の形状磁気異方性を利用する方法には、フリー層にバイアス磁界を印加するのと同様に、フリー層の磁化方向の変化を抑制する効果がある。したがって、フリー層の形状磁気異方性を利用する方法では、フリー層にバイアス磁界を印加する必要がないため、上述したバイアス磁界発生部は必ずしも設けられている必要はない。
【0050】
以下、抵抗アレイの出力波形の計算結果を参照しながら、出力特性が異なる複数のMR素子で抵抗アレイが構成された本実施形態の効果について説明する。
【0051】
まず、計算について説明する前に、
図17を参照しながら、抵抗アレイのMR変化率と、出力の直線性の指標となる最大ずれ量との定義について説明する。
図17には、複数のMR素子で構成された抵抗アレイの出力波形の一例が概略的に示されている。所定の磁場範囲での抵抗値の最大値および最小値をそれぞれR
maxおよびR
minとし、これらの中間値をR
C(=(R
max+R
min)/2)とすると、MR変化率は、(R
max−R
min)/R
Cで定義される。一方で、抵抗値の最大値R
maxと最小値R
minとを直線で結び、この基準直線からの出力のずれが、外部磁界がH
dのときに最大値Δr
maxをとるものとする。この外部磁界がH
dのときの基準直線の値をR
dとすると、最大ずれ量(百分率)は、Δr
max/R
dで定義される。
【0052】
抵抗アレイの出力波形については、モデルを仮定した数値シミュレーションを行い、得られた出力波形から、上述のMR変化率と最大ずれ量とを算出し、それらを以下の3つのケースで比較した。ここで、MR変化率は、±30mTの磁場範囲での抵抗値の最大値および最小値から算出した。なお、以下のいずれのケースでも、抵抗アレイを構成するMR素子としては、
図2に示すMR素子を用い、3つのケース間で、MR素子の膜構成は同一とした。
【0053】
(ケース1)
抵抗アレイは、互いに直列に接続された、出力特性が異なる24個のTMR素子から構成されているとした。具体的には、フリー層に対するx軸方向(
図2参照)のオフセット磁場H
inの強度の違いによって、5種類のTMR素子に分類されているとした。より具体的には、オフセット磁場H
inの強度が30mT、18mT、0mT、−18mT、−30mTのものが、それぞれ4個、5個、6個、5個、4個であるとした。
【0054】
(ケース2)
抵抗アレイは、互いに直列に接続された、出力特性が同一である24個のTMR素子から構成されているとした。各TMR素子では、フリー層に対するオフセット磁場H
inをゼロとし、その代わりに、ピンド層の磁化方向に垂直な方向(
図2のy軸方向)に強度が146.97mTのバイアス磁界が印加されているとした。したがって、外部磁界がゼロのとき、フリー層の磁化は、バイアス磁界の方向(すなわちピンド層の磁化方向に垂直な方向)を向いているとした。なお、ケース2が、特許文献5に記載の方法を適用したものに相当する。
【0055】
(ケース3)
抵抗アレイは、互いに直列に接続された、出力特性が同一である24個のTMR素子から構成されているとした。各TMR素子では、フリー層に対するオフセット磁場H
inをゼロとし、y軸方向にもバイアス磁界は印加されていないとした。
【0056】
表1に、3つのケースにおける、MR変化率と最大ずれ量の計算結果を示す。
【0058】
ケース1とケース2では共に、ケース3と比べて、最大ずれ量が大幅に減少しており、出力の直線性の大幅な向上が見られている。一方で、MR変化率に関しては、ケース3と比べて、ケース1とケース2でいずれも減少しているが、ケース1では18%の減少に止まっているのに対し、ケース2では46%も減少している。このことは、ケース1(本実施形態)では、抵抗アレイのMR変化率の低下を最小限に抑えながら、出力の直線性を向上させることができることを示している。
【0059】
上述した実施形態では、抵抗アレイ内の複数のMR素子は互いに直列に接続されているが、MR素子の接続は、これに限定されるものではなく、並列接続であってもよく、あるいは、直列と並列とが混在したものであってもよい。