特許第6352201号(P6352201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352201
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】クレーン装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20180625BHJP
   B66D 1/40 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B66C13/22 L
   B66D1/40 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-24298(P2015-24298)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-147726(P2016-147726A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】亀井 不二男
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−053382(JP,A)
【文献】 実開昭54−045314(JP,U)
【文献】 特開2014−215813(JP,A)
【文献】 特開平08−217378(JP,A)
【文献】 特開2014−141328(JP,A)
【文献】 米国特許第05917300(US,A)
【文献】 特開昭60−132893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00─15/06
B66D 1/00─ 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1索体及び第2索体を用いて対象物を共吊りして昇降させるクレーン装置であって、
第1吊り具が吊り下げられた前記第1索体を巻取り及び繰出し可能な第1巻上機と、
第2吊り具が吊り下げられた前記第2索体を巻取り及び繰出し可能な第2巻上機と、
前記第1巻上機及び前記第2巻上機の動作を制御する制御部と、
基準となる時点における前記第1吊り具の高さ位置と前記第2吊り具の高さ位置との差分を基準時の差分とし、前記基準となる時点より後の計測時点における前記第1吊り具の高さ位置と前記第2吊り具の高さ位置との差分を計測時の差分とし、前記基準時の差分の値と前記計測時の差分の値との差である変化量を検出する差分検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1巻上機及び前記第2巻上機を連動させて前記第1吊り具及び前記第2吊り具を加速又は減速させ前記第1吊り具及び前記第2吊り具の位置を調整するインチング操作を行う際に、前記差分検出部によって検出された前記変化量が予め定めた許容範囲外である場合に、前記変化量が前記許容範囲内に収まるように、前記第1巻上機及び前記第2巻上機の少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更するクレーン装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記変化量が前記許容範囲よりも狭い範囲である設定範囲内に収まるまで前記変化率の変更を維持し、前記変化量が前記設定範囲内に収まれば前記変化率を変更前の値に戻す請求項1に記載のクレーン装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1吊り具及び前記第2吊り具の加速時において、前記変化量が前記許容範囲外である場合に、前記変化量が許容範囲外となった時に前記巻取り速度又は前記繰出し速度が高い方の巻上機である前記第1巻上機又は前記第2巻上機における前記巻取り速度又は前記繰出し速度の加速度を減少させることで前記変化率を変更する請求項1又は2に記載のクレーン装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1吊り具及び前記第2吊り具の減速時において、前記変化量が前記許容範囲外である場合に、前記変化量が許容範囲外となった時に前記巻取り速度又は前記繰出し速度が低い方の巻上機である前記第1巻上機又は前記第2巻上機における前記巻取り速度又は前記繰出し速度の減速度を減少させることで前記変化率を変更する請求項1〜3のいずれか一項に記載のクレーン装置。
【請求項5】
前記第1巻上機の第1モータに電力を供給する第1インバータと、
前記第2巻上機の第2モータに電力を供給する第2インバータと、を更に備え、
前記制御部は、前記変化量が前記許容範囲外である場合に、前記第1インバータ及び前記第2インバータの少なくとも一方に供給される電力の周波数を変更し、前記変化量が前記許容範囲内に収まるように、前記第1巻上機及び前記第2巻上機の少なくとも一方における前記巻取り速度又は前記繰出し速度の変化率を変更する請求項1〜4の何れか一項に記載のクレーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の索体を用いて対象物を共吊りして昇降させるクレーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2台の巻上機を同時に運転して共吊り作業を行う共吊り巻上機の駆動装置がある(例えば、特許文献1参照)。この共吊り巻上機の駆動装置では、2台の巻上機が定格速度で定速状態となった後に2台の巻上機に速度差が生じると一方の巻上機の速度を調整して2台の巻上機の速度を合わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−198679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記の特許文献1に記載の技術では、巻上機の定格速度における制御であり、巻上機における加速時及び減速時においては速度制御を実施していなかった。また、クレーン装置において、巻上機を静止状態から短時間運転して吊り具の位置を微調整するインチング操作を行うことがある。このインチング操作を行うと、2台のブレーキの作動タイミングのずれや、2台の巻上機の機械的な誤差などによって、2つの吊り具の高さ位置に差が徐々に変化していくおそれがある。インチング操作を繰り返し実行することで、吊り具の高さ位置の差が大きく変化するおそれがある。
【0005】
本発明は、複数の吊り具の加速時又は減速時において、複数の吊り具の高さ位置の差が大きく変化することを抑制することが可能なクレーン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1索体及び第2索体を用いて対象物を共吊りして昇降させるクレーン装置であって、第1吊り具が吊り下げられた第1索体を巻取り及び繰出し可能な第1巻上機と、第2吊り具が吊り下げられた第2索体を巻取り及び繰出し可能な第2巻上機と、第1巻上機及び第2巻上機の動作を制御する制御部と、基準となる時点における第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分を基準時の差分とし、基準となる時点より後の計測時点における第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分を計測時の差分とし、基準時の差分の値と計測時の差分の値との差である変化量を検出する差分検出部と、を備え、制御部は、第1巻上機及び第2巻上機を連動させて第1吊り具及び第2吊り具を加速又は減速させ第1吊り具及び第2吊り具の位置を調整するインチング操作を行う際に、差分検出部によって検出された差分の値の変化量が予め定めた許容範囲外である場合に、変化量が許容範囲内に収まるように、第1巻上機及び第2巻上機の少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更する。
【0007】
このクレーン装置によれば、第1吊り具及び第2吊り具を加速又は減速させる際に、第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分の値の変化量が予め定めた許容範囲外である場合に、変化量が予め定めた許容範囲内に収まるように、第1巻上機及び第2巻上機の少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更する。これにより、第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分を一定の範囲内に収めて、2つの吊り具の高さ位置の差が大きく変化することを抑制することができる。その結果、第1索体及び第2策体によって共吊りされた対象物の姿勢を確実に維持することができる。
【0008】
また、制御部は、変化量が許容範囲よりも狭い範囲である設定範囲内に収まるまで変化率の変更を維持し、変化量が設定範囲内に収まれば変化率を変更前の値に戻してもよい。これにより、変化量が許容範囲よりも狭い範囲である設定範囲内に収まるまで変化率の変更を維持することで、変化率を変更前の値に戻した直後に再び変化量が許容範囲外となってしまうことを抑制することができる。
【0009】
また、制御部は、第1吊り具及び第2吊り具の加速時において、変化量が許容範囲外である場合に、変化量が許容範囲外となった時に巻取り速度又は繰出し速度が高い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の加速度を減少させることで変化率を変更する構成でもよい。これにより、第1吊り具及び第2吊り具が加速している場合に、変化量が許容範囲外となった時に巻取り速度又は繰出し速度が高い方の巻上機の加速度を減少させることで、速度が高い方の一方の吊り具の加速度を緩やかにし、他方の吊り具の加速度を維持して、他方の吊り具を一方の吊り具に接近させることができる。そのため、第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差を予め定めた許容範囲内に収めて、2つの吊り具の高さ位置の差が大きく変化することを抑制することができる。なお、「加速度」とは速度が増加する割合である。「変化量が許容範囲外となった時」は、許容範囲内と許容範囲外との境界となる値に達した時を含んでもよい。
【0010】
また、制御部は、第1吊り具及び第2吊り具の減速時において、変化量が許容範囲外である場合に、巻取り速度又は繰出し速度が低い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の減速度を減少させることで変化率を変更する構成でもよい。これにより、第1吊り具及び第2吊り具が減速している場合に、巻取り速度又は繰出し速度が低い方の巻上機の減速度を減少させることで、速度が低い方の一方の吊り具の減速度を緩やかにし、他方の吊り具の減速度を維持して、他方の吊り具を一方の吊り具に接近させることができる。そのため、第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差を予め定めた許容範囲内に収めて、2つの吊り具の高さ位置の差が大きく変化することを抑制することができる。なお、「減速度」とは速度が減少する割合である。「変化量が許容範囲外となった時」は、許容範囲内と許容範囲外との境界となる値に達した時を含んでもよい。
【0011】
クレーン装置は、第1巻上機の第1モータに電力を供給する第1インバータと、第2巻上機の第2モータに電力を供給する第2インバータと、を更に備え、制御部は、変化量が許容範囲外である場合に、第1インバータ及び第2インバータの少なくとも一方に供給される電力の周波数を変更し、変化量が許容範囲内に収まるように、第1巻上機及び第2巻上機の少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更する構成でもよい。これにより、制御部から第1インバータ及び第2インバータの少なくとも一方に供給される電力の周波数を変更するだけで、第1モータ及び第2モータの少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の吊り具の加速時又は減速時において、複数の吊り具の高さ位置の差が大きく変化することを抑制することが可能なクレーン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態のクレーン装置の正面図である。
図2】クレーン装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分を示す図である。
図4】巻上運転時又は巻下運転時に揃速制御部によって実行される制御内容を示す表である。
図5】加速時における第1吊り具及び第2吊り具の速度の変化を示すグラフである。
図6】第1吊り具の高さ位置と第2吊り具の高さ位置との差分の値の変化量を示すグラフである。
図7】クレーン装置の制御ユニットで実行される制御手順を示すフローチャートチャットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1に示されるクレーン装置1は、ガーダ2、第1トロリ3、第2トロリ4、第1巻上機5、第2巻上機6、及び走行装置9を備えている。クレーン装置1は例えば工場の建屋内に設置された天井クレーンである。建屋の対向する一対の側壁7には、ガーダ2の走行を案内するガイドレール8がそれぞれ設けられている。ガーダ2は、対向する一対の側壁7間に架け渡されている。ガーダ2の長手方向の両端部には、ガイドレール8に沿って走行する走行装置9が設けられている。走行装置9は、公知の車輪及び当該車輪を駆動するモータ等からなる。走行装置9により、ガーダ2はガイドレール8に沿って走行することができる。
【0016】
第1トロリ3及び第2トロリ4は、ガーダ2の長手方向に沿って横行することができる。ガーダ2の天面2aには、第1トロリ3及び第2トロリ4の横行を案内する横行用ガイドレール(不図示)が配置されている。第1トロリ3及び第2トロリ4には、横行用ガイドレールに沿って横行する横行装置10が設けられている。横行装置10は、公知の車輪及び当該車輪を駆動するモータ等からなる。横行装置10により、第1トロリ3及び第2トロリ4は横行用ガイドレールに沿って横行することができる。
【0017】
第1巻上機5は、第1吊り具11が吊り下げられた第1ワイヤロープ(第1索体)12を巻取り及び繰出すことができる。第1巻上機5は、第1ワイヤロープ12が巻回される第1ドラム13と、第1ドラム13を駆動する第1モータ14とを備え、第1トロリ3に搭載されている。第1ワイヤロープ12の下端部には吊り荷(対象物)を吊るすための第1吊り具11が取り付けられている。第1ドラム13は、第1モータ14から回転駆動力が伝達されて回転することで、第1ワイヤロープ12を巻回する。第1ドラム13が正回転して第1ワイヤロープ12を巻き取ることで、第1吊り具11が上昇する。逆に、第1ドラム13が逆回転して第1ワイヤロープ12を繰り出すことで、第1吊り具11が下降する。
【0018】
第2巻上機6は、第2吊り具21が吊り下げられた第2ワイヤロープ(第2索体)22を巻取り及び繰出すことができる。第2巻上機6は、第2ワイヤロープ22が巻回される第2ドラム23と、第2ドラム23を駆動する第2モータ24とを備え、第2トロリ4に搭載されている。第2ワイヤロープ22の下端部には吊り荷を吊るすための第2吊り具21が取り付けられている。第2ドラム23は、第2モータ24から回転駆動力が伝達されて回転することで、第2ワイヤロープ22を巻回する。第2ドラム23が正回転して第2ワイヤロープ22を巻き取ることで、第2吊り具21が上昇する。逆に、第2ドラム23が逆回転して第2ワイヤロープ22を繰り出すことで、第2吊り具21が下降する。
【0019】
また、クレーン装置1は、図2に示されるように、第1巻上機5及び第2巻上機6を駆動するための駆動装置30を有する。駆動装置30は、操作部31、制御ユニット(シーケンサ)32、第1インバータ33、及び第2インバータ34を備えている。操作部31には、操作者によって操作される複数のボタンが設けられている。操作者は、複数のボタンを操作することで、第1巻上機5及び第2巻上機6をそれぞれ単独で作動又は停止させたり、第1巻上機5及び第2巻上機6を連動させて作動又は停止させたりすることができる。操作部31は、例えば操作レバー、スイッチなどを備えるものでもよい。操作部31は、操作者による入力操作に応じて指令信号を出力する。操作部31から出力された指令信号は制御ユニット32に入力される。
【0020】
制御ユニット32は、速度算出部35、差分検出部36、出力値算出部37、揃速制御部38を備える。制御ユニット32は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、入力信号回路、出力信号回路、及び電源回路などを有する。制御ユニット32は、操作部31、第1インバータ33、及び第2インバータ34と電気的に接続されている。また、制御ユニット32は、巻取り速度及び繰出し速度の履歴を記憶する記憶部を有する。記憶部は、制御ユニット32による制御に必要な値を記憶する。
【0021】
速度算出部35は、第1巻上機5における第1ワイヤロープ12の巻取り速度及び繰出し速度を算出する。また、速度算出部35は、第2巻上機6における第2ワイヤロープ22の巻取り速度及び繰出し速度を算出する。具体的には、速度算出部35は、第1ドラム13の回転速度を検出することで、第1巻上機5における巻取り速度及び繰出し速度を算出し、第2ドラム23の回転速度を検出することで、第2巻上機6における巻取り速度及び繰出し速度を算出する。
【0022】
第1ドラム13の回転軸には、この回転軸の回転速度を検出するためのパルスジェネレータ(PG)15が取り付けられている。同様に、第2ドラム23の回転軸には、この回転軸の回転速度を検出するためのパルスジェネレータ25が取り付けられている。パルスジェネレータ15,25は、回転軸の回転角度に応じてパルスを出力する。パルスジェネレータ15,25は、回転軸が1回転するまでに例えば600パルス出力する。パルスジェネレータ15,25は、制御ユニット32と電気的に接続され、パルスジェネレータ15,25から出力されたパルスは、制御ユニット32に入力される。
【0023】
速度算出部35は、パルスジェネレータ15から出力されたパルスを計数して、第1ドラム13の回転速度を検出して第1巻上機5における巻取り速度及び繰出し速度を算出する。同様に、速度算出部35は、パルスジェネレータ25から出力されたパルスを計数して、第2ドラム23の回転速度を検出して第2巻上機6における巻取り速度及び繰出し速度を算出する。なお、パルスジェネレータ15,25は、第1モータ14及び第2モータ24の回転軸に取り付けられていてもよい。また、速度算出部35は、第1モータ14の回転軸の回転速度を検出して、第1巻上機5における巻取り速度及び繰出し速度を算出し、第2モータ24の回転軸の回転速度を検出して、第2巻上機6における巻取り速度及び繰出し速度を算出してもよい。
【0024】
図3は、第1吊り具11の高さ位置と第2吊り具21の高さ位置との差分を示す図である。高さ位置とは、第1吊り具11又は第2吊り具21の鉛直方向の位置である。差分検出部36は、第1吊り具11の高さ位置h(h10,h11)と、第2吊り具21の高さ位置h(h20,h21)との差分Δht(Δht,Δht)を検出する。また、差分検出部36は、基準時の差分Δhtの値と計測時の差分Δhtの値と差である変化量ΔHt(=Δht−Δht)を算出する。なお、「基準時」及び「計測時」の意味については、後の段落にて説明する。
【0025】
図3(a)では、基準時tにおける第1吊り具11の高さ位置h10と第2吊り具21の高さ位置h20とを示している。例えば、この基準時tにおいて、第1吊り具11の高さ位置h10と第2吊り具21の高さ位置h20とは等しく、高さ位置h10,h20の差分Δhtの値は、h20−h10であり0である。なお、基準時における高さ位置h10,h20は等しくなくてもよい。基準時は、例えば第1吊り具11及び第2吊り具21が静止している位置であり、例えば、第1巻上機5及び第2巻上機6の連動を開始する時点よりも僅かに前の時である。なお、基準時は、静止している位置に限定されず、例えば、第1吊り具11又は第2吊り具12が連動を開始した直後でもよい。
【0026】
図3(b)では、計測時tにおける第1吊り具11の高さ位置h11と第2吊り具21の高さ位置h21とを示している。例えば、計測時tにおいて、第1吊り具11の高さ位置h11は、第2吊り具21の高さ位置h21よりも高い位置となっている。この計測時t1において、第1吊り具11の高さ位置h11と第2吊り具12の高さ位置h21との差分Δhtの値は、h11≧h21の場合であろうがh21>h11の場合であろうが、h11−h21とする。差分Δhtの値は、h21−h11としてもよいが、h11とh21との大小関係によって差分Δhtの計算式を変更しないことが望ましい。差分検出部36では、例えば第1巻上機5及び第2巻上機6の連動を開始してから常時、第1吊り具11及び第2吊り具21の高さ位置h,hを計測している。計測時とは、基準時よりも後であって、高さ位置h,hを計測した時点(計測時点)である。
【0027】
そして、図3に示す場合において、基準時tの差分Δhtの値と計測時tの差分の値Δhtとの差である変化量ΔHtはΔht−Δhtである。
【0028】
なお、第1吊り具11の高さ位置hの測定点は、例えば、第1吊り具11と対象物(または対象物を支持する支持具)との接触点11aである。第1吊り具11の高さ位置hの測定点は、任意の位置でよく、基準時と計測時において同じ測定点の位置変化を検出可能であればよい。例えば、第1吊り具11の上端の位置を高さ位置hとすることもできる。同様に、第2吊り具21の高さ位置hの測定点は、例えば、第2吊り具21と対象物(または対象物を支持する支持具)との接触点21aである。第2吊り具21の高さ位置hの測定点は、任意の位置でよく、基準時と計測時において同じ測定点の位置変化を検出可能であればよい。例えば、第2吊り具21の上端の位置を高さ位置hとすることもできる。なお、高さ位置h及び高さ位置hの測定方法は、特に限定されず、高さ位置が測定できればどのような方法であってもよい。例えば、クレーン装置1が設置された建屋の床面に設けたレーザ距離計を用いて、床面から第1吊り具11及び第2吊り具21それぞれまでの距離を測定する方法(実測する方法)が挙げられる。また、第1ドラム13(第2ドラム23)からの第1ワイヤロープ12(第2ワイヤロープ22)の繰出し量と第1吊り具11(第2吊り具21)の高さ位置h(高さ位置h)との関係を予め測定しておき、第1ドラム13(第2ドラム23)からのワイヤロープ12(ワイヤロープ22)の繰出し量を測定することで高さ位置h(高さ位置h)を間接的に測定する方法(算出する方法)も挙げられる。
【0029】
また、第1吊り具11の高さ位置h及び第2吊り具21の高さ位置hの基準となる位置(零点)は適宜設定でき、例えば、クレーン装置1が設置された建屋の床面からの高さ位置とすることができる。また、第1吊り具11の高さ位置h及び第2吊り具21の高さ位置hの基準となる位置(零点)は、対象物である吊り荷が載置される例えば支持台の天面でもよく、その他の位置でもよい。
【0030】
揃速制御部38は、第1巻上機5及び第2巻上機6を連動させて対象物を共吊りして、対象物を昇降させる際に、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具12の高さ位置hとの差を所定の範囲(予め定めた許容範囲)内に収める揃速制御を行う。揃速制御部38は、第1吊り具11及び第2吊り具21の加速中または減速中に揃速制御を行う。具体的には、揃速制御部38は、対象物を上昇させる場合(巻上運転時)の加速中及び減速中と、対象物を下降させる場合(巻下運転時)の加速中及び減速中とのそれぞれについて揃速制御を行う。
【0031】
揃速制御部38は、差分検出部36によって検出された差分の値の変化量ΔHtが予め定めた許容範囲R1外である場合に、変化量ΔHtが許容範囲R1内に収まるように、第1巻上機5における巻取り速度又は繰出し速度の変化率(加速度又は減速度)、若しくは、第2巻上機6における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更する揃速制御を実行する。揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、第1インバータ33又は第2インバータ34に供給される電力の周波数を変更し、第1巻上機5における巻取り速度又は繰出し速度の変化率、若しくは、第2巻上機6における巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更することができる。図4は、巻上運転時又は巻下運転時に揃速制御部38によって実行される制御内容を示す表である。
【0032】
「許容範囲」は、任意に設定することができる。例えば、対象物の共吊りを行う際に、対象物を確実に安定して保持することができる範囲でもよく、この範囲よりも狭く、対象物をより確実に安定して保持することができる範囲でもよく、変化量がある一定の範囲外とならないように設定された範囲でもよい。
範囲でもよい。
【0033】
揃速制御部38は、巻上運転時の加速中における揃速制御として、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、変化量ΔHtが許容範囲R1内に収まるように、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に巻取り速度が高い方の巻上機である第1巻上機5又は第2巻上機6における巻取り速度の加速度を減少させる。揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第1巻上機5の巻取り速度Vが第2巻上機6の巻取り速度Vよりも高い場合には、巻取り速度が高い方の第1巻上機5の加速度を減少させ、巻取り速度が低い方の第2巻上機6の加速度を維持する。また、揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第2巻上機6の巻取り速度Vが第1巻上機5の巻取り速度Vよりも高い場合には、巻取り速度が高い方の第2巻上機6の加速度を減少させ、巻取り速度が低い方の第1巻上機5の加速度を維持する。
【0034】
揃速制御部38は、巻上運転時の減速中における揃速制御として、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、変化量ΔHtが許容範囲R1内に収まるように、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に巻取り速度が低い方の巻上機である第1巻上機5又は第2巻上機6における巻取り速度の減速度を減少させる。揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第1巻上機5の巻取り速度Vが第2巻上機6の巻取り速度Vよりも低い場合には、巻取り速度が低い方の第1巻上機5の減速度を減少させ、巻取り速度が高い方の第2巻上機6の減速度を維持する。また、揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第2巻上機6の巻取り速度Vが第1巻上機5の巻取り速度Vよりも低い場合には、巻取り速度が低い方の第2巻上機6の減速度を減少させ、巻取り速度が高い方の第1巻上機5の減速度を維持する。
【0035】
揃速制御部38は、巻下運転時の加速中における揃速制御として、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、変化量ΔHtが許容範囲R1内に収まるように、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に繰出し速度が高い方の巻上機である第1巻上機5又は第2巻上機6における繰出し速度の加速度を減少させる。揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第1巻上機5の繰出し速度Vが第2巻上機6の繰出し速度Vより高い場合には、繰出し速度が高い方の第1巻上機5の加速度を減少させ、繰出し速度が低い方の第2巻上機6の加速度を維持する。また、揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第2巻上機6の繰出し速度Vが第1巻上機5の繰出し速度Vより高い場合には、繰出し速度が高い方の第2巻上機6の加速度を減少させ、繰出し速度が低い方の第1巻上機5の加速度を維持する。
【0036】
揃速制御部38は、巻下運転時の減速中における揃速制御として、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、変化量ΔHtが許容範囲R1内に収まるように、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に繰出し速度が低い方の巻上機である第1巻上機5又は第2巻上機6における繰出し速度の減速度を減少させる。揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第1巻上機5の繰出し速度Vが第2巻上機6の繰出し速度Vよりも低い場合には、繰出し速度が低い方の第1巻上機5の減速度を減少させ、繰出し速度が高い方の第2巻上機6の減速度を維持する。また、揃速制御部38は、変化量ΔHtが許容範囲R1外となった時に第2巻上機6の繰出し速度Vが第1巻上機5の繰出し速度Vよりも低い場合には、繰出し速度が低い方の第2巻上機6の減速度を減少させ、繰出し速度が高い方の第1巻上機5の減速度を維持する。
【0037】
また、揃速制御部38は、揃速制御を行い、差分の値の変化量ΔHtが許容範囲R1に収まり、更に、変化量ΔHtが許容範囲R1よりも狭い設定範囲R2(図6参照)内に収まった場合には、揃速制御を終了する。なお、揃速制御部38は、変化量ΔHtが設定範囲R2内に収まるまで揃速制御を継続せず、変化量ΔHtが許容範囲R1に収まった時点で揃速制御を終了してもよい。しかし、変化量ΔHtが許容範囲R1よりも狭い設定範囲R2(図6参照)内に収まるまで揃速制御することで、揃速制御が終了した直後に再び変化量ΔHtが許容範囲R1外となってしまうことを抑制することができる。
【0038】
出力値算出部37は、揃速制御において第1インバータ33及び第2インバータ34に出力する出力値(加算値または減算値)を算出する。出力値算出部37は、加速時において、加速度を減少させるように加算値を小さくする。また、出力値算出部37は、減速時において、減速度を減少させるように減算値を小さくする。揃速制御部38は、出力値算出部37で算出された出力値を含む速度指令信号を第1インバータ33または第2インバータ34に出力する。
【0039】
第1インバータ33は、第1モータ14に電力を供給し、第1モータ14の回転駆動を制御する。第1インバータ33は、制御ユニット32から出力された速度指令信号に応じて、第1モータ14の回転速度を変更し、第1巻上機5における巻取り速度又は繰出し速度を変更する。
【0040】
第2インバータ34は、第2モータ24に電力を供給し、第2モータ24の回転駆動を制御する。第2インバータ34は、制御ユニット32から出力された速度指令信号に応じて、第2モータ24の回転速度を変更し、第2巻上機6における巻取り速度又は繰出し速度を変更する。
【0041】
図5は、加速時における第1吊り具11及び第2吊り具21の速度の変化を示すグラフである。次に、図5を参照して、巻下運転時の加速中における第1吊り具11及び第2吊り具21の速度の変化について説明する。図5では、横軸に時刻を示し、縦軸に速度を示している。実線で示す速度Vは、第1吊り具11の速度であり、破線で示す速度Vは、第2吊り具21の速度である。図5では、静止状態から定常状態に達するまでの第1吊り具11及び第2吊り具21の速度変化について説明する。
【0042】
時刻t10(基準時)において、第1吊り具11及び第2吊り具21は静止状態であり、速度V,Vは0である。時刻t10において、操作者により操作部31が操作されて、第1巻上機5及び第2巻上機6による連動が開始される。このとき、例えば、機械的な誤差やブレーキの動作の遅れなどにより、第2巻上機6は、第1巻上機5における繰出し動作の開始よりも遅れて、時刻t11において繰出し動作を開始する。
【0043】
例えば、時刻t13において、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具21の高さ位置hとの差分Δht(Δht=h−h)の値の変化量ΔHtが、許容範囲R1外となる(下限許容値J1を下回る)。このとき、第1吊り具11は、第2吊り具21より高速である(V>V)。揃速制御部38は、第1巻上機5における加速度を減少させ、第2巻上機6における加速度を維持する。時刻t13から時刻t15にかけて、第1吊り具11の加速度は、第2吊り具21の加速度よりも低くなっている。第1吊り具11の速度V1は、時刻t13以降、加速度が低く変更され、時刻t14以降、第2吊り具21の速度V2より低くなる。これにより、差分Δhtの値の変化量ΔHtが減少する。
【0044】
時刻t15において、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具21の高さ位置hとの差分Δhtの値の変化量ΔHtが、設定範囲R2に収まる(下限設定値J3を上回る)。このとき、揃速制御を終了し、第1吊り具11の加速度を増加させる。そして、時刻t16において第2巻上機6は定格速度となり、時刻t17において第1巻上機5は定格速度となる。
【0045】
図6は、第1吊り具の高さ位置hと第2吊り具の高さ位置hとの差分Δhtの値の変化量ΔHtの一例を示すグラフである。図6では、巻下運転時の加速中における差分Δhtの値の変化量ΔHtを示している。図6では、縦軸に変化量ΔHtを示し、横軸に時刻を示している。縦軸において中央に示された原点Oは、基準時における差分Δhtから基準時における差分Δhtを差し引いた値となるため、その値は必ず0となる。なお、図6に示す変化量ΔHtの変化を示すグラフは、図5に示す第1吊り具11及び第2吊り具21の速度の変化に対応するものではない。
【0046】
また、図6において、破線で示す直線は許容範囲R1における下限許容値J1及び上限許容値J2を示す。1点鎖線で示す直線は設定範囲R2における下限設定値J3及び上限設定値J4を示す。例えば、下限許容値J1は−10mm、上限許容値J2は+10mm、下限設定値J3は−5mm、上限設定値J4は+5mmとすることができる。下限許容値J1及び上限許容値J2のそれぞれの絶対値は必ずしも一致させなくてもよい。同様に、下限設定値J3及び上限設定値J4のそれぞれの絶対値は必ずしも一致させなくてもよい。
【0047】
図6に示す例では、基準時である時刻tにおいて、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具21の高さ位置hとは同じ高さであり、差分Δhtの値は0であるとする。第1巻上機5及び第2巻上機6による連動が開始された後、第1吊り具11は、第2吊り具21よりも加速度が大きく、先に降下しているとする。ΔHtは、時間の経過と共に増大(負の方向へ増加)して、時刻t21において、下限許容値J1に達し、揃速制御部38は揃速制御を実行する。
【0048】
揃速制御部38は、第1巻上機5における加速度を減少させ、第2巻上機6における加速度を維持する。これにより、第1巻上機5における加速が緩やかになり、第2吊り具21の速度が第1吊り具11の速度より高くなり、差分Δhtが小さくなり、変化量ΔHtが減少(0へ近づくように減少)する。変化量ΔHtが減少して、時刻t22において、下限設定値J3に達すると、揃速制御部38は揃速制御を終了する。
【0049】
時刻t22を過ぎた後、差分Δhtが増加してΔHtが再び下限許容値J1に達すると、揃速制御部38は再び揃速制御を実行する。これにより、変化量ΔHtの増大が抑制される。なお、下限許容値J1に達したときを、許容範囲R1外である場合とみなしてもよい。同様に、ΔHt>0以上である場合に、ΔHtが上限許容値J2に達したときを、許容範囲R1外である場合とみなしてもよい。
【0050】
次に、図7を参照して、クレーン装置1の制御ユニット32で実行される連動運転に関する制御手順について実行する。例えば、クレーン装置1の運転中において、通常運転(第1吊り具11,第2吊り具12を個別に駆動する運転)から連動運転に変更する場合には、操作者は操作部31を操作して連動運転を実行するための操作を行う。制御ユニット32は、操作部31から出力された指令信号に基づいて、連動運転モードを開始する(START)。第1吊り具11及び第2吊り具12の連動を開始する際に、制御ユニット32の差分検出部36は、その時の第1吊り具11の高さ位置h及び第2吊り具21の高さ位置hを基準値(基準となる時点における高さ位置)として設定する(ステップS1)。
【0051】
次に、制御ユニット32は、巻上げ又は巻下げの指令があるか否かを判定する(ステップS2)。制御ユニット32は、操作部31から入力した指令信号に基づいて、巻上げ又は巻下げの指令があるか否かを判定する。巻上げ又は巻下げの指令がない場合(ステップS2:NO)には、ステップS3に進み、巻上げ又は巻下げの指令がある場合(ステップS2:YES)には、ステップS4に進む。
【0052】
ステップS3では、制御ユニット32は、連動運転モードを終了するか否かを判定する。制御ユニット32は、例えば、操作部31からの入力した指令信号に基づいて、連動運転モードを終了するか否かを判定する。連動運転モードを終了すると判定した場合(ステップS3:YES)には、連続運転モードを終了して、ここでの制御を終了する。連動運転モードを継続すると判定した場合(ステップS3:NO)には、ステップS2に戻る。
【0053】
ステップS4では、制御ユニット32は、第1吊り具11及び第2吊り具21が加速中(又は減速中)であるか否かを判定する(ステップS4)。制御ユニット32の揃速制御部38は、速度算出部35によって算出された第1巻上機5における巻取り速度又は繰出し速度、及び第2巻上機6における巻取り速度又は繰出し速度に基づいて、第1吊り具11及び第2吊り具21が加速中(又は減速中)であるか否かを判定する。第1吊り具11及び第2吊り具21が加速中(又は減速中)である場合(ステップS4:YES)には、ステップS5に進み。第1吊り具11及び第2吊り具21が定格速度に達した場合、又は、第1吊り具11及び第2吊り具21が停止した場合(ステップS4:NO)には、ステップS2に戻る。
【0054】
ステップS5では、制御ユニット32は、第1吊り具11の高さ位置hと、第2吊り具21の高さ位置hとの差分の値の変化量ΔHtが許容範囲R1内であるか否かを判定する。揃速制御部38は、計測時において、差分検出部36によって算出された差分の値の変化量ΔHtが下限許容値J1を下回る又は上限許容値J2を上回るか否かを判定する。制御ユニットS32は、変化量ΔHtが下限許容値J1を下回る又は上限許容値J2を上回る場合(ステップS5:NO)には、ステップS6に進み、変化量ΔHtが下限許容値J1以上であり且つ上限許容値J2以下である場合には、ステップS4の処理を繰り返す(ステップS5において、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合には、ステップS6に進む)。
【0055】
ステップS6では、制御ユニット32は揃速制御を実行する。制御ユニット32は、図4に示される制御内容に従って、第1巻上機5及び第2巻上機6の少なくとも一方における巻取り速度又は繰出し速度の変化率(加速率又は減速率)を減少させる。制御ユニット32は、出力値算出部37によって算出された補正値に応じた速度指令信号(出力値)を第1インバータ33又は第2インバータ34に送信する。これにより、第1モータ14又は第2モータ24を制御して、第1吊り具11又は第2吊り具の速度の変化率を緩やかにして、第1吊り具11と第2吊り具21との高さ位置の差分を基準時の値に近づける。
【0056】
ステップS7では、制御ユニット32は、第1吊り具11の高さ位置hと、第2吊り具21の高さ位置hとの差分の値の変化量ΔHtが設定範囲R2内であるか否かを判定する。揃速制御部38は、差分検出部36によって算出された差分の値の変化量ΔHtが下限設定値J3を下回る又は上限設定値J4を上回る場合(ステップS7:NO)には、ステップS4の処理を継続し、変化量ΔHtが下限設定値J3以上であり且つ上限設定値J4以下である場合(ステップS7:YES)には、ステップS8に進み揃速制御を終了し、ステップS5の処理を繰り返す。
【0057】
このような本実施形態に係るクレーン装置1によれば、第1吊り具11及び第2吊り具21が加速している際に、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、巻取り速度又は繰出し速度が高い方の巻上機5,6の加速度を減少させることで、速度が高い方の一方の吊り具11,21の加速度を緩やかにし、他方の吊り具11,12の加速度を維持して、他方の吊り具11,21を一方の吊り具に接近させることができる。そのため、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具21の高さ位置hとの差分を一定の範囲内に収めて、2つの吊り具11,21の高さ位置h,hの差が大きく変化することを抑制することができる。
【0058】
また、クレーン装置1では、第1吊り具11及び第2吊り具21が減速している際に、変化量ΔHtが許容範囲R1外である場合に、巻取り速度又は繰出し速度が低い方の巻上機5,6の減速度を減少させることで、速度が低い方の一方の吊り具11,21の減速度を緩やかにし、他方の吊り具11,21の減速度を維持して、他方の吊り具11,21を一方の吊り具11,21に接近させることができる。そのため、第1吊り具11の高さ位置hと第2吊り具の高さ位置との差分を一定の範囲内に収めて、2つの吊り具11,21の高さ位置h,hの差が大きく変化する増大することを抑制することができる。
【0059】
本実施形態のクレーン装置1によれば、対象物である吊り荷を共吊りして昇降させる際に、加速及び減速を繰り返してインチング操作を行う場合であっても、第1吊り具11及び第2吊り具21の高さ位置h,hの差分Δhtを一定の範囲内に収めて、対象物の姿勢を安定させることができる。
【0060】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。
【0061】
上記実施形態では、第1吊り具11と第2吊り具21との高さ位置の差分の変化量が、許容範囲外である場合に、一方の巻上機の巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更しているが、両方の巻上機5,6の巻取り速度又は繰出し速度の変化率を変更する構成でもよい。例えば、巻上運転時の加速中における揃速制御として、巻取り速度が高い方の一方の巻上機における巻取り速度の加速度を減少させ、巻取り速度が低い方の他方の巻上機における巻取り速度の加速度を増加させてもよい。
【0062】
また、実施形態では、第1吊り具11及び第2吊り具21の加速時において、差分の値の変化量が許容範囲外である場合に、巻取り速度又は繰出し速度が高い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の加速度を減少させているが、巻取り速度又は繰出し速度が低い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の加速度を増加させてもよい。例えば、巻上運転時の加速中における揃速制御として、巻取り速度が高い方の一方の巻上機における巻取り速度の加速度を維持し、巻取り速度が低い方の他方の巻上機における巻取り速度の加速度を増加させてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、第1吊り具11及び第2吊り具21の減速時において、差分の値の変化量が許容範囲外である場合に、巻取り速度又は繰出し速度が低い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の減速度を減少させているが、巻取り速度又は繰出し速度が高い方の巻上機である第1巻上機又は第2巻上機における巻取り速度又は繰出し速度の減速度を増加させてもよい。例えば、巻上運転時の加速中における揃速制御として、巻取り速度が低い方の一方の巻上機における巻取り速度の減速度を維持し、巻取り速度が高い方の他方の巻上機における巻取り速度の減速度を増加させてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、巻上運転時及び巻下運転時の両方において、揃速制御を実施しているが、巻上運転時のみにおいて揃速制御を実施してもよく、巻下運転時のみにおいて揃速制御を実施してもよい。また、上記実施形態では、吊り具の加速中及び減速中の両方において、揃速制御を実施しているが、加速中のみにおいて揃速制御を実施してもよく、減速中のみにおいて揃速制御を実施してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、クレーン装置を天井クレーンとして説明しているが、クレーン装置は、天井クレーンに限定されず、例えば、橋形クレーン、門形クレーン、ジブクレーン、搬送装置等、複数の巻上機を有するクレーン装置でもよい。また、クレーン装置は、建屋内に設置されているものに限定されず、造船所、港湾設備などの屋外に設置されているものでもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、基準時における第1吊り具11及び第2吊り具21における高さ位置が一致している場合について説明しているが、基準時において、第1吊り具11及び第2吊り具21の高さ位置は一致していなくてもよい。
【0067】
なお、上記実施形態において、ステップS7でNOと判定することが複数回繰り返される場合(所定時間経過する場合)、又は、揃速制御を実行しているにもかかわらず変化量ΔHtが許容範囲R1よりも広い範囲(異常判定範囲)となる場合には、第1巻上機5及び第2巻上機6を停止させてもよい。
【0068】
また、上記実施形態において、加速中または減速中の揃速制御について説明しているが、定格速度に達した場合において、各吊り具間の高さ位置の差が大きく変化しないように揃速制御を実行してもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、変化量ΔHt=Δht−Δhtとしているが、例えば、変化量ΔHt=Δht−Δhtとして、この変化量ΔHt(=Δht−Δht)を用いて、揃速制御を実行するか否かを判定してもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、変化量ΔHtが許容範囲外である場合に、許容範囲外となった時の巻取り速度又は繰下げ速度の大小関係(高速であるか、低速であるか)に基づいて、揃速制御における制御内容を決定しているが、その他の情報に基づいて制御内容を決定してもよい。例えば、第1吊り具11及び第2吊り具12の移動量を算出し、この移動量に基づいて、どちらの吊り具の移動量が多いか否かを判定し、移動量の多い方の吊り具の変化率(加速度又は減速度)を変更することで、変化量ΔHtが許容範囲内に収まるようにしてもよい。また、例えば、第1吊り具11及び第2吊り具12の高さ位置を算出し、この高さ位置に基づいて、どちらの吊り具の移動量が多いか否かを判定して、制御内容を決定してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…クレーン装置、5…第1巻上機、6…第2巻上機、11…第1吊り具、12…第1ワイヤロープ(第1索体)、14…第1モータ、21…第2吊り具、22…第2ワイヤロープ(第2索体)、24…第2モータ、33…第1インバータ、34…第2インバータ、38…揃速制御部(制御部)、36…差分検出部、h1…第1吊り具の高さ位置、h2…第2吊り具の高さ位置、Δht…差分、ΔHt…差分の値の変化量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7