特許第6352215号(P6352215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000002
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000003
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000004
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000005
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000006
  • 特許6352215-ガスセンサ素子 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352215
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   G01N27/416 331
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-79765(P2015-79765)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-28226(P2016-28226A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141891(P2014-141891)
(32)【優先日】2014年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木全 岳人
(72)【発明者】
【氏名】中藤 充伸
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011-58834(JP,A)
【文献】 特開2003-149199(JP,A)
【文献】 特開2000-321238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(5)の一部と、該固体電解質体(5)に設けられた一対のセンサ用電極(21、22)とからなり、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するセンサセル(2)と、
上記固体電解質体(5)の他の一部と、該固体電解質体(5)に設けられた一対のポンプ用電極(31、32)とからなり、上記被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル(3)と、
一方の上記センサ用電極(21)及び一方の上記ポンプ用電極(31)に面するとともに、上記被測定ガスが導入される内部空間(11)と、
該内部空間(11)に導入される上記被測定ガスが通過する拡散抵抗部(17)と、を備え、
該拡散抵抗部(17)の長さをL1、該拡散抵抗部(17)の長さ方向に直交する断面の空間断面積をS1、上記拡散抵抗部(17)と上記センサセル(2)との間の距離をL2、上記内部空間(11)における上記ポンプセル(3)と上記センサセル(2)との並び方向に直交する断面の空間断面積をS2としたとき、
1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たし、
上記拡散抵抗部(17)は、多孔質体によって構成されており、上記空間断面積S1は、上記拡散抵抗部(17)の長さ方向に直交する断面の断面積(S0)に上記多孔質体の気孔率を乗じた値であり、
上記内部空間(11)は、上記ポンプ用電極(31)が面する領域から上記センサ用電極(21)が面する領域に至るまで、一様な形状を有することを特徴とするガスセンサ素子(1)。
【請求項2】
1250≦(L1/S1)×(L2/S2)≦2500を満たすことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子(1)。
【請求項3】
上記固体電解質体(5)の一部と該固体電解質体(5)に設けられた一対のモニタ用電極(41、42)とからなり、上記被測定ガス中の酸素濃度を検出するモニタセル(4)を、さらに有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ素子(1)。
【請求項4】
上記センサセル(2)と上記モニタセル(4)との並び方向は、上記ポンプセル(3)と上記センサセル(2)との並び方向に直交することを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ素子(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子として、取り込んだ被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセルを備えたものがある。このポンプセルによって被測定ガス中の酸素濃度を調整することにより、ガスセンサ素子のセンサセルにおける検出精度が、被測定ガス中の酸素に起因して悪化することを防いでいる。
【0003】
そして、特許文献1には、ポンプセルによって被測定ガスから酸素を排出させる第一の内部空所と、センサセルによって被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する第二の内部空所とを有するガスセンサ素子が開示されている。そして、このガスセンサ素子は、第一の内部空所に導入する被測定ガスを拡散律速する第一の拡散律速通路と、第一の内部空所と第二の内部空所との間に設けた第二の拡散律速通路とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−271476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成によると、外部から導入される被測定ガスは、センサセルが設けられた第二の内部空所に達するまでに、第一及び第二の拡散律速通路を通ることとなり、その拡散距離が長くなることとなる。その結果、ガスセンサ素子の応答性を向上させることが困難となる。
【0006】
また、応答性を向上させるべく、拡散律速通路の拡散抵抗を小さくすることも考えられるが、その場合、検出精度が悪化することとなる。つまり、第一の拡散律速通路の拡散抵抗を小さくすると、第一の内部空所に被測定ガスが多く導入されることとなり、被測定ガス中の酸素濃度を充分に調整することが困難となる。さらに、第二の拡散律速通路の拡散抵抗が小さいと、第一の内部空所において充分に酸素濃度が調整されないまま、被測定ガスが第二の内部空所に導入されてしまい、検出精度が悪化することとなる。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、応答性と検出精度との両立を図ることができるガスセンサ素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体の一部と、該固体電解質体に設けられた一対のセンサ用電極とからなり、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するセンサセルと、
上記固体電解質体の他の一部と、該固体電解質体に設けられた一対のポンプ用電極とからなり、上記被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセルと、
一方の上記センサ用電極及び一方の上記ポンプ用電極に面するとともに、上記被測定ガスが導入される内部空間と、
該内部空間に導入される上記被測定ガスが通過する拡散抵抗部と、を備え、
該拡散抵抗部の長さをL1、該拡散抵抗部の長さ方向に直交する断面の空間断面積をS1、上記拡散抵抗部と上記センサセルとの間の距離をL2、上記内部空間における上記ポンプセルと上記センサセルとの並び方向に直交する断面の空間断面積をS2としたとき、
1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たし、
上記拡散抵抗部は、多孔質体によって構成されており、上記空間断面積S1は、上記拡散抵抗部の長さ方向に直交する断面の断面積S0に上記多孔質体の気孔率を乗じた値であり、
上記内部空間は、上記ポンプ用電極が面する領域から上記センサ用電極が面する領域に至るまで、一様な形状を有することを特徴とするガスセンサ素子。
【発明の効果】
【0009】
上記ガスセンサ素子は、1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たすことにより、応答性と検出精度との両立を図ることができる。
本願発明者らは、応答性及び検出精度が、拡散抵抗部の構成のみならず、内部空間の構成にも大きく依存することに着目した。まず、(L1/S1)が大きいほど、拡散抵抗部における拡散抵抗は大きくなる。そこで、本明細書においては、(L1/S1)を便宜的に第1拡散抵抗指標という。この第1拡散抵抗指標が大きいほど、内部空間への被測定ガスの導入速度は遅くなりやすい。その結果、応答性は低下しやすいが、ポンプセルによって調整すべき酸素の量が少なくなりやすい分、検出精度は向上しやすい。
【0010】
そして、(L2/S2)についても、これが大きいほど、内部空間に導入された被測定ガスがセンサ用電極に到達するまでの拡散抵抗は大きくなる。そこで、本明細書においては、(L2/S2)を便宜的に第2拡散抵抗指標という。この第2拡散抵抗指標が大きいほど、内部空間に導入された被測定ガスがセンサ用電極に達するまでの時間は長くなる。その結果、応答性は低下しやすいが、ポンプセルによって酸素を調整する時間が稼げる分、検出精度は向上しやすい。
【0011】
このように、第1拡散抵抗指標及び第2拡散抵抗指標は、応答性及び検出精度に及ぼす影響の原理が若干異なるが、各指標が大きいほど、応答性が低下しやすく、検出精度が高くなる点においては共通する。そこで、発明者らは、第1拡散抵抗指標と第2拡散抵抗指標との積と、応答性及び検出精度との関係を調べた(後述する実験例1、2)。その結果、第1拡散抵抗指標と第2拡散抵抗指標との積、すなわち(L1/S1)×(L2/S2)を、1000〜5000とすることにより、応答性と検出精度との両立を効果的に図ることができることを見出した。
【0012】
以上のごとく、本発明によれば、応答性と検出精度との両立を図ることができるガスセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における、ガスセンサ素子の軸方向に沿った断面図。
図2図1のII−II線矢視断面図。
図3図1のIII−III線矢視断面図。
図4】実施例1における、内部空間及び拡散抵抗部の斜視説明図。
図5】実験例1における、積Pとオフセット電流との関係を示す線図。
図6】実験例2における、積Pと応答時間との関係を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記ガスセンサ素子において、1250≦(L1/S1)×(L2/S2)≦2500を満たすことが好ましい。この場合には、応答性と検出精度との両立を一層効果的に図ることができる。
なお、本明細書において、第1拡散抵抗指標と第2拡散抵抗指標との積を、適宜Pとも表す。すなわち、(L1/S1)×(L2/S2)=Pである。
【0015】
また、上記拡散抵抗部は、多孔質体によって構成されており、上記空間断面積S1は、上記拡散抵抗部の断面積に上記多孔質体の気孔率を乗じた値である。これにより、拡散抵抗部における拡散抵抗を容易に調整することができるとともに、(L1/S1)×(L2/S2)の調整によって、応答性及び検出精度を正確に管理することができる。
【0016】
また、上記内部空間は、上記ポンプ用電極が面する領域から上記センサ用電極が面する領域に至るまで、一様な形状を有する。これにより、内部空間に導入された被測定ガスが円滑にセンサ用電極まで到達することができるため、応答性に優れたガスセンサ素子を得ることができる。
【0017】
なお、内部空間におけるポンプセルとセンサセルとの並び方向に直交する断面の断面積が、ポンプセルとセンサセルとの並び方向における位置によって異なる場合には、拡散抵抗部とセンサセルとの間において最も断面積が小さい部分の断面積を、上記空間断面積S2とする。また、拡散抵抗部の長さとは、拡散抵抗部に対する被測定ガスの入口からガスが向かう方向の長さをいう。また、拡散抵抗部の長さ方向に直交する断面の断面積が、長さ方向の位置によって異なる場合には、最も断面積が小さい部分の断面積を、上記空間断面積S1とする。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
上記ガスセンサ素子の実施例につき、図1図4を用いて説明する。
本例のガスセンサ素子1は、図1図2に示すごとく、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体5と、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するセンサセル2と、被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル3と、被測定ガスが導入される内部空間11と、内部空間11に導入される被測定ガスが通過する拡散抵抗部17と、を備えている。
【0019】
センサセル2は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体5の一部と、該固体電解質体5に設けられた一対のセンサ用電極21、22とからなる。
ポンプセル3は、固体電解質体5の他の一部と、該固体電解質体5に設けられた一対のポンプ用電極31、32とからなり、被測定ガス中の酸素濃度を調整するよう構成されている。
内部空間11は、一方のセンサ用電極21及び一方のポンプ用電極31に面するとともに、被測定ガスが導入されるよう構成されている。
拡散抵抗部17は、内部空間11に導入される被測定ガスが通過するよう構成されている。
【0020】
図1図4に示すごとく、拡散抵抗部17の長さをL1、拡散抵抗部17の長さ方向に直交する断面の空間断面積をS1、拡散抵抗部17とセンサセル2との間の距離をL2、内部空間11におけるポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交する断面の空間断面積をS2とする。このとき、L1、S1、L2、S2は、1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たす。また、1250≦(L1/S1)×(L2/S2)≦2500を満たすことが好ましい。
【0021】
本例のガスセンサ素子1は、窒素酸化物(NOx)濃度を検出するNOxセンサである。すなわち、本例においては、被測定ガスは、自動車等の内燃機関の排ガスであり、特定ガスはNOxである。
【0022】
図1図2に示すごとく、ガスセンサ素子1は、固体電解質体5と、内部空間11を形成するためのスペーサ110と、内部空間11を介して固体電解質体5と対向する絶縁板12と、ヒータ131を内蔵したヒータ基板13とを積層してなる。固体電解質体5はジルコニア(ZrO2)からなり、スペーサ110、絶縁板12、ヒータ基板13は、いずれもアルミナ(Al23)からなる。
【0023】
ヒータ基板13と固体電解質体5との間には、基準ガスである空気が導入される基準ガス室14が形成されている。また、図1図3に示すごとく、スペーサ110の先端部の一部に切欠き部が設けられており、該切欠き部に拡散抵抗部17が設けてある。つまり、拡散抵抗部17は、ガスセンサ素子1の先端部に、軸方向Xに形成されている。
【0024】
本例において、拡散抵抗部17は、アルミナの多孔質体からなる。それゆえ、本例において、上述の空間断面積S1は、拡散抵抗部17の断面積S0(図4)に多孔質体の気孔率を乗じた値である。また、多孔質体の気孔率は、例えば、多孔質体を平面にて切断して、その断面をSEM(電子顕微鏡)等にて観察することにより、測定することができる。より具体的には、多孔質体の気孔に低粘度の樹脂を含浸させたのち、スライサーにより平面で切断し、観察断面を露出させる。次いで、観察断面を平滑化した後、観察断面をSEMにて観察する。このとき、断面に現れている骨材の面積割合を画像処理にて計算して、この面積割合を100%から引いた値が、気孔率として算出される。
【0025】
また、図4に示すごとく、内部空間11は、ポンプ用電極31が面する領域からセンサ用電極21が面する領域に至るまで、一様な形状を有する。本例においては、特に、内部空間11は直方体形状を有し、その先端から基端に至るまで、軸方向Xに直交する断面の形状が略同一の長方形状を有する。
【0026】
図1図3に示すごとく、内部空間11には、固体電解質体5の一方の表面に形成されたポンプ用電極31とセンサ用電極21とが配されている。また、基準ガス室14には、固体電解質体5の他方の表面に形成されたポンプ用電極32とセンサ用電極22とが配されている。ただし、本例においては、ポンプ用電極32とセンサ用電極22とは、一体化された一つの共通電極を構成している。
【0027】
さらに、本例のガスセンサ素子1は、図2図3に示すごとく、被測定ガス(排ガス)中の酸素濃度を検出するモニタセル4を有している。モニタセル4は、固体電解質体5の一部と固体電解質体5に設けられた一対のモニタ用電極41、42とからなる。つまり、内部空間11には、ポンプ用電極31及びセンサ用電極21の他に、モニタ用電極41も配されており、基準ガス室14には、ポンプ用電極32及びセンサ用電極22の他に、モニタ用電極42も配されている。ただし、モニタ用電極42は、ポンプ用電極32及びセンサ用電極22とともに、一体化された一つの共通電極を構成している。
【0028】
図3に示すごとく、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交する。本例においては、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向は、ガスセンサ素子1の軸方向Xであり、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ガスセンサ素子1における軸方向X及び積層方向Zの双方に直交する幅方向Yである。また、センサセル2及びモニタセル4は、ポンプセル3よりも基端側に配されている。つまり、センサセル2及びモニタセル4は、軸方向Xにおいて、ポンプセル3を挟んで拡散抵抗部17と反対側に位置する。センサセル2、ポンプセル3、モニタセル4の位置は、それぞれセンサ用電極21、ポンプ用電極31、モニタ用電極41の位置と一致する。
【0029】
本例において、内部空間11に面するセンサ用電極21とモニタ用電極41とポンプ用電極31とは、それぞれ2種以上の金属成分を含有する合金からなる。より具体的には、センサ用電極21はPt(白金)とRh(ロジウム)の合金であり、モニタ用電極41及びポンプ用電極31はPtとAu(金)の合金である。これにより、センサ用電極21は、NOx分子及び酸素分子を分解することができ、モニタ用電極41及びポンプ用電極31は、酸素分子を分解するものの、NOx分子は分解しない。
【0030】
次に、本例のガスセンサ素子1の動作原理につき説明する。
まず、被測定ガスは、拡散抵抗部17を通過して、内部空間11に導入される。この状態において、ポンプセル3の一対のポンプ用電極31、32に電圧を印加することにより、内部空間11側のポンプ用電極31上において排ガス中の酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により他方のポンプ用電極32へ送られる。これにより、酸素が内部空間11から基準ガス室14に排出される。
【0031】
また、モニタセル4の一対のモニタ用電極41、42に所定の電圧を印加すると、内部空間11側のモニタ用電極41上において排ガス中の酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により他方のモニタ用電極42に送られる。このときモニタセル4に流れた電流は、被測定ガス中の酸素濃度に起因する。
【0032】
また、センサセル2の一対のセンサ用電極21、22に所定の電圧を印加する。これにより、センサ用電極21上において内部空間11の排ガス中の酸素及び窒素酸化物が分解され、酸素イオンがポンピング作用により他方のセンサ用電極22に送られる。このときセンサセル2に流れる電流は、窒素酸化物の濃度と酸素の濃度とに起因する。
【0033】
このようにして、ポンプセル3によって内部空間11における酸素濃度を所定の値に保ちつつ、センサセル2及びモニタセル4にそれぞれ流れる電流値を測定する。これにより、センサセル2において測定された電流値とモニタセル4において測定された電流値との差分から、窒素酸化物の濃度を正確に算出することが可能となる。
【0034】
次に、本例の作用効果につき説明する。
ガスセンサ素子1は、1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たすことにより、応答性と検出精度との両立を図ることができる。
本願発明者らは、応答性及び検出精度が、拡散抵抗部17の構成のみならず、内部空間11の構成にも大きく依存することに着目し、後述する実験例1、2に示すように、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、応答性及び検出精度との関係を調べた。その結果、第1拡散抵抗指標と第2拡散抵抗指標との積、すなわち(L1/S1)×(L2/S2)を、1000〜5000とすることにより、応答性と検出精度との両立を効果的に図ることができることを見出した。さらには、(L1/S1)×(L2/S2)を、1250〜2500とすることにより、応答性と検出精度との両立を一層効果的に図ることができることを見出した。
【0035】
また、拡散抵抗部17は、多孔質体によって構成されており、空間断面積S1は、拡散抵抗部17の断面積S0に多孔質体の気孔率を乗じた値とした。これにより、拡散抵抗部17における拡散抵抗を容易に調整することができるとともに、(L1/S1)×(L2/S2)の調整によって、応答性及び検出精度を正確に管理することができる。
【0036】
また、内部空間11は、ポンプ用電極31が面する領域からセンサ用電極21が面する領域に至るまで、一様な形状を有する。これにより、内部空間11に導入された被測定ガス(排ガス)が円滑にセンサ用電極21まで到達することができるため、応答性に優れたガスセンサ素子1を得ることができる。
【0037】
また、ガスセンサ素子1は、モニタセル4を有しているため、特定ガス濃度(NOx濃度)の検出精度を向上させることができる。また、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交するため、一層検出精度の向上を図ることができる。
【0038】
以上のごとく、本例によれば、応答性と検出精度との両立を図ることができるガスセンサ素子を提供することができる。
【0039】
(実験例1)
本例においては、図5に示すごとく、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、ガスセンサ素子の検出精度との関係を調べた。
すなわち、検出精度を、センサセル2に流れるオフセット電流の値によって評価した。オフセット電流は、被測定ガス中に特定ガスとしてのNOxガスが存在しないときにもセンサセル2に流れる電流であり、これが大きいほど検出精度が悪化しやすい。
【0040】
実験に用いるガスセンサ素子としては、実施例1において示したものを基本構成としつつ、上記積Pの値が変化するように、各部の形状を種々変化させたものを複数個用意した。具体的には、内部空間11における拡散抵抗部17の基端からセンサセル2の先端までの距離L2及び空間断面積S2を種々変化させることにより、上記積Pを変化させた。
【0041】
そして、各ガスセンサ素子について、オフセット電流を測定した。つまり、各ガスセンサ素子を内蔵したガスセンサを作製し、これを被測定ガスが流れる排気管に設置した。ここで用いた被測定ガスは、NOxを含まず、酸素を20%含むガスである。
【0042】
測定結果を図5に示す。同図において、グラフ中に示した5個のプロットが各測定値であり、曲線M1は上記測定値に沿った近似曲線である。同図から分かるように、積Pが大きくなるほど、オフセット電流が小さくなる。そして、P≧1000においては、オフセット電流が0.1μA以下となり、さらに、P≧1250においては、オフセット電流が0.05μA以下となる。この結果から、積Pを大きくすることにより、オフセット電流を小さくすることができ、ガスセンサ素子の検出精度が向上することが分かる。そして、P≧1000とすることにより、ガスセンサ素子の検出精度を充分に確保することができ、P≧1250とすることにより、ガスセンサ素子の検出精度をより向上させることができる。
【0043】
(実験例2)
本例においては、図6に示すごとく、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、ガスセンサ素子の応答性との関係を調べた。
応答性の評価は、窒素酸化物に対する各ガスセンサ素子の応答時間を測定することにより行った。実験に用いるガスセンサ素子としては、実施例1において示したものを基本構成としつつ、上記積Pの値が変化するように、各部の形状を種々変化させたものを複数個用意した。
【0044】
そして、各ガスセンサ素子について、応答時間を測定した。つまり、各ガスセンサ素子を内蔵したガスセンサを作製し、これを流速12m/sにて被測定ガスが流れる排気管に設置した。この状態においてセンサ出力を計測しつつ、ある時点において急激に被測定ガスのNOx濃度を変動させた。そして、NOx濃度を変動させた時点からセンサ出力が変動するまでの時間を、応答時間とした。
【0045】
測定結果を図6に示す。同図において、グラフ中に示した5個のプロットが各測定値であり、曲線M2は上記測定値に沿った近似曲線である。同図から分かるように、積Pが小さくなるほど、応答時間が短くなる。そして、P≦5000においては、応答時間が0.5秒以下となり、さらに、P≦2500においては、応答時間が0.3秒以下となる。この結果から、積Pを小さくすることにより、応答時間を短くすることができ、ガスセンサ素子の検出精度が向上することが分かる。そして、P≦5000とすることにより、ガスセンサ素子の応答時間を充分に短くすることができ、P≦2500とすることにより、ガスセンサ素子の応答時間をより短縮することができる。
【0046】
本発明のガスセンサ素子は、上記実施例以外にも、種々の構成を採りうる。
例えば、実施例1においては、拡散抵抗部を多孔質体によって構成した例を示したが、例えば、内部空間よりも空間断面積を小さくして、そこに多孔質体を配置しない構成としてもよい。また、実施例1においては、拡散抵抗部を、内部空間に対してガスセンサ素子の先端側に配置した例を示したが、拡散抵抗部を、内部空間に対して、積層方向Z(厚み方向)につながる位置に配置してもよいし、幅方向Yにつながる位置に配置してもよい。これらの場合、拡散抵抗部の長さL1は、それぞれ積層方向Z(厚み方向)、幅方向Yの長さとなる。
【符号の説明】
【0047】
1 ガスセンサ素子
11 内部空間
17 拡散抵抗部
2 センサセル
21、22 センサ用電極
3 ポンプセル
31、32 ポンプ用電極
5 固体電解質体
図1
図2
図3
図4
図5
図6