【実施例】
【0018】
(実施例1)
上記ガスセンサ素子の実施例につき、
図1〜
図4を用いて説明する。
本例のガスセンサ素子1は、
図1、
図2に示すごとく、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体5と、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するセンサセル2と、被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル3と、被測定ガスが導入される内部空間11と、内部空間11に導入される被測定ガスが通過する拡散抵抗部17と、を備えている。
【0019】
センサセル2は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体5の一部と、該固体電解質体5に設けられた一対のセンサ用電極21、22とからなる。
ポンプセル3は、固体電解質体5の他の一部と、該固体電解質体5に設けられた一対のポンプ用電極31、32とからなり、被測定ガス中の酸素濃度を調整するよう構成されている。
内部空間11は、一方のセンサ用電極21及び一方のポンプ用電極31に面するとともに、被測定ガスが導入されるよう構成されている。
拡散抵抗部17は、内部空間11に導入される被測定ガスが通過するよう構成されている。
【0020】
図1、
図4に示すごとく、拡散抵抗部17の長さをL1、拡散抵抗部17の長さ方向に直交する断面の空間断面積をS1、拡散抵抗部17とセンサセル2との間の距離をL2、内部空間11におけるポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交する断面の空間断面積をS2とする。このとき、L1、S1、L2、S2は、1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たす。また、1250≦(L1/S1)×(L2/S2)≦2500を満たすことが好ましい。
【0021】
本例のガスセンサ素子1は、窒素酸化物(NOx)濃度を検出するNOxセンサである。すなわち、本例においては、被測定ガスは、自動車等の内燃機関の排ガスであり、特定ガスはNOxである。
【0022】
図1、
図2に示すごとく、ガスセンサ素子1は、固体電解質体5と、内部空間11を形成するためのスペーサ110と、内部空間11を介して固体電解質体5と対向する絶縁板12と、ヒータ131を内蔵したヒータ基板13とを積層してなる。固体電解質体5はジルコニア(ZrO
2)からなり、スペーサ110、絶縁板12、ヒータ基板13は、いずれもアルミナ(Al
2O
3)からなる。
【0023】
ヒータ基板13と固体電解質体5との間には、基準ガスである空気が導入される基準ガス室14が形成されている。また、
図1、
図3に示すごとく、スペーサ110の先端部の一部に切欠き部が設けられており、該切欠き部に拡散抵抗部17が設けてある。つまり、拡散抵抗部17は、ガスセンサ素子1の先端部に、軸方向Xに形成されている。
【0024】
本例において、拡散抵抗部17は、アルミナの多孔質体からなる。それゆえ、本例において、上述の空間断面積S1は、拡散抵抗部17の断面積S0(
図4)に多孔質体の気孔率を乗じた値である。また、多孔質体の気孔率は、例えば、多孔質体を平面にて切断して、その断面をSEM(電子顕微鏡)等にて観察することにより、測定することができる。より具体的には、多孔質体の気孔に低粘度の樹脂を含浸させたのち、スライサーにより平面で切断し、観察断面を露出させる。次いで、観察断面を平滑化した後、観察断面をSEMにて観察する。このとき、断面に現れている骨材の面積割合を画像処理にて計算して、この面積割合を100%から引いた値が、気孔率として算出される。
【0025】
また、
図4に示すごとく、内部空間11は、ポンプ用電極31が面する領域からセンサ用電極21が面する領域に至るまで、一様な形状を有する。本例においては、特に、内部空間11は直方体形状を有し、その先端から基端に至るまで、軸方向Xに直交する断面の形状が略同一の長方形状を有する。
【0026】
図1、
図3に示すごとく、内部空間11には、固体電解質体5の一方の表面に形成されたポンプ用電極31とセンサ用電極21とが配されている。また、基準ガス室14には、固体電解質体5の他方の表面に形成されたポンプ用電極32とセンサ用電極22とが配されている。ただし、本例においては、ポンプ用電極32とセンサ用電極22とは、一体化された一つの共通電極を構成している。
【0027】
さらに、本例のガスセンサ素子1は、
図2、
図3に示すごとく、被測定ガス(排ガス)中の酸素濃度を検出するモニタセル4を有している。モニタセル4は、固体電解質体5の一部と固体電解質体5に設けられた一対のモニタ用電極41、42とからなる。つまり、内部空間11には、ポンプ用電極31及びセンサ用電極21の他に、モニタ用電極41も配されており、基準ガス室14には、ポンプ用電極32及びセンサ用電極22の他に、モニタ用電極42も配されている。ただし、モニタ用電極42は、ポンプ用電極32及びセンサ用電極22とともに、一体化された一つの共通電極を構成している。
【0028】
図3に示すごとく、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交する。本例においては、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向は、ガスセンサ素子1の軸方向Xであり、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ガスセンサ素子1における軸方向X及び積層方向Zの双方に直交する幅方向Yである。また、センサセル2及びモニタセル4は、ポンプセル3よりも基端側に配されている。つまり、センサセル2及びモニタセル4は、軸方向Xにおいて、ポンプセル3を挟んで拡散抵抗部17と反対側に位置する。センサセル2、ポンプセル3、モニタセル4の位置は、それぞれセンサ用電極21、ポンプ用電極31、モニタ用電極41の位置と一致する。
【0029】
本例において、内部空間11に面するセンサ用電極21とモニタ用電極41とポンプ用電極31とは、それぞれ2種以上の金属成分を含有する合金からなる。より具体的には、センサ用電極21はPt(白金)とRh(ロジウム)の合金であり、モニタ用電極41及びポンプ用電極31はPtとAu(金)の合金である。これにより、センサ用電極21は、NOx分子及び酸素分子を分解することができ、モニタ用電極41及びポンプ用電極31は、酸素分子を分解するものの、NOx分子は分解しない。
【0030】
次に、本例のガスセンサ素子1の動作原理につき説明する。
まず、被測定ガスは、拡散抵抗部17を通過して、内部空間11に導入される。この状態において、ポンプセル3の一対のポンプ用電極31、32に電圧を印加することにより、内部空間11側のポンプ用電極31上において排ガス中の酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により他方のポンプ用電極32へ送られる。これにより、酸素が内部空間11から基準ガス室14に排出される。
【0031】
また、モニタセル4の一対のモニタ用電極41、42に所定の電圧を印加すると、内部空間11側のモニタ用電極41上において排ガス中の酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により他方のモニタ用電極42に送られる。このときモニタセル4に流れた電流は、被測定ガス中の酸素濃度に起因する。
【0032】
また、センサセル2の一対のセンサ用電極21、22に所定の電圧を印加する。これにより、センサ用電極21上において内部空間11の排ガス中の酸素及び窒素酸化物が分解され、酸素イオンがポンピング作用により他方のセンサ用電極22に送られる。このときセンサセル2に流れる電流は、窒素酸化物の濃度と酸素の濃度とに起因する。
【0033】
このようにして、ポンプセル3によって内部空間11における酸素濃度を所定の値に保ちつつ、センサセル2及びモニタセル4にそれぞれ流れる電流値を測定する。これにより、センサセル2において測定された電流値とモニタセル4において測定された電流値との差分から、窒素酸化物の濃度を正確に算出することが可能となる。
【0034】
次に、本例の作用効果につき説明する。
ガスセンサ素子1は、1000≦(L1/S1)×(L2/S2)≦5000を満たすことにより、応答性と検出精度との両立を図ることができる。
本願発明者らは、応答性及び検出精度が、拡散抵抗部17の構成のみならず、内部空間11の構成にも大きく依存することに着目し、後述する実験例1、2に示すように、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、応答性及び検出精度との関係を調べた。その結果、第1拡散抵抗指標と第2拡散抵抗指標との積、すなわち(L1/S1)×(L2/S2)を、1000〜5000とすることにより、応答性と検出精度との両立を効果的に図ることができることを見出した。さらには、(L1/S1)×(L2/S2)を、1250〜2500とすることにより、応答性と検出精度との両立を一層効果的に図ることができることを見出した。
【0035】
また、拡散抵抗部17は、多孔質体によって構成されており、空間断面積S1は、拡散抵抗部17の断面積S0に多孔質体の気孔率を乗じた値とした。これにより、拡散抵抗部17における拡散抵抗を容易に調整することができるとともに、(L1/S1)×(L2/S2)の調整によって、応答性及び検出精度を正確に管理することができる。
【0036】
また、内部空間11は、ポンプ用電極31が面する領域からセンサ用電極21が面する領域に至るまで、一様な形状を有する。これにより、内部空間11に導入された被測定ガス(排ガス)が円滑にセンサ用電極21まで到達することができるため、応答性に優れたガスセンサ素子1を得ることができる。
【0037】
また、ガスセンサ素子1は、モニタセル4を有しているため、特定ガス濃度(NOx濃度)の検出精度を向上させることができる。また、センサセル2とモニタセル4との並び方向は、ポンプセル3とセンサセル2との並び方向に直交するため、一層検出精度の向上を図ることができる。
【0038】
以上のごとく、本例によれば、応答性と検出精度との両立を図ることができるガスセンサ素子を提供することができる。
【0039】
(実験例1)
本例においては、
図5に示すごとく、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、ガスセンサ素子の検出精度との関係を調べた。
すなわち、検出精度を、センサセル2に流れるオフセット電流の値によって評価した。オフセット電流は、被測定ガス中に特定ガスとしてのNOxガスが存在しないときにもセンサセル2に流れる電流であり、これが大きいほど検出精度が悪化しやすい。
【0040】
実験に用いるガスセンサ素子としては、実施例1において示したものを基本構成としつつ、上記積Pの値が変化するように、各部の形状を種々変化させたものを複数個用意した。具体的には、内部空間11における拡散抵抗部17の基端からセンサセル2の先端までの距離L2及び空間断面積S2を種々変化させることにより、上記積Pを変化させた。
【0041】
そして、各ガスセンサ素子について、オフセット電流を測定した。つまり、各ガスセンサ素子を内蔵したガスセンサを作製し、これを被測定ガスが流れる排気管に設置した。ここで用いた被測定ガスは、NOxを含まず、酸素を20%含むガスである。
【0042】
測定結果を
図5に示す。同図において、グラフ中に示した5個のプロットが各測定値であり、曲線M1は上記測定値に沿った近似曲線である。同図から分かるように、積Pが大きくなるほど、オフセット電流が小さくなる。そして、P≧1000においては、オフセット電流が0.1μA以下となり、さらに、P≧1250においては、オフセット電流が0.05μA以下となる。この結果から、積Pを大きくすることにより、オフセット電流を小さくすることができ、ガスセンサ素子の検出精度が向上することが分かる。そして、P≧1000とすることにより、ガスセンサ素子の検出精度を充分に確保することができ、P≧1250とすることにより、ガスセンサ素子の検出精度をより向上させることができる。
【0043】
(実験例2)
本例においては、
図6に示すごとく、第1拡散抵抗指標(L1/S1)と第2拡散抵抗指標(L2/S2)との積Pと、ガスセンサ素子の応答性との関係を調べた。
応答性の評価は、窒素酸化物に対する各ガスセンサ素子の応答時間を測定することにより行った。実験に用いるガスセンサ素子としては、実施例1において示したものを基本構成としつつ、上記積Pの値が変化するように、各部の形状を種々変化させたものを複数個用意した。
【0044】
そして、各ガスセンサ素子について、応答時間を測定した。つまり、各ガスセンサ素子を内蔵したガスセンサを作製し、これを流速12m/sにて被測定ガスが流れる排気管に設置した。この状態においてセンサ出力を計測しつつ、ある時点において急激に被測定ガスのNOx濃度を変動させた。そして、NOx濃度を変動させた時点からセンサ出力が変動するまでの時間を、応答時間とした。
【0045】
測定結果を
図6に示す。同図において、グラフ中に示した5個のプロットが各測定値であり、曲線M2は上記測定値に沿った近似曲線である。同図から分かるように、積Pが小さくなるほど、応答時間が短くなる。そして、P≦5000においては、応答時間が0.5秒以下となり、さらに、P≦2500においては、応答時間が0.3秒以下となる。この結果から、積Pを小さくすることにより、応答時間を短くすることができ、ガスセンサ素子の検出精度が向上することが分かる。そして、P≦5000とすることにより、ガスセンサ素子の応答時間を充分に短くすることができ、P≦2500とすることにより、ガスセンサ素子の応答時間をより短縮することができる。
【0046】
本発明のガスセンサ素子は、上記実施例以外にも、種々の構成を採りうる。
例えば、実施例1においては、拡散抵抗部を多孔質体によって構成した例を示したが、例えば、内部空間よりも空間断面積を小さくして、そこに多孔質体を配置しない構成としてもよい。また、実施例1においては、拡散抵抗部を、内部空間に対してガスセンサ素子の先端側に配置した例を示したが、拡散抵抗部を、内部空間に対して、積層方向Z(厚み方向)につながる位置に配置してもよいし、幅方向Yにつながる位置に配置してもよい。これらの場合、拡散抵抗部の長さL1は、それぞれ積層方向Z(厚み方向)、幅方向Yの長さとなる。