【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0060】
実施例1〜4および比較例1〜3の位相シフトマスクブランクは、透明基板と、透明基板上に配置されたクロム系材料からなる位相シフト膜とを備える。透明基板として、大きさが800mm×920mmであり、厚さが10mmである合成石英ガラス基板を用いた。
図3は実施例1、3、4の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示し、
図4は比較例1、2の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示し、
図5は比較例1、3の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
以下、実施例1〜4および比較例1〜3について詳細に説明する。
【0061】
実施例1.
実施例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。
【0062】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.44および消衰係数0.71であり、波長350nmにおける屈折率2.51および消衰係数0.59であり、波長365nmにおける屈折率2.52および消衰係数0.55であり、波長413nmにおける屈折率2.54および消衰係数0.44であり、波長436nmにおける屈折率2.54および消衰係数0.40であった。
メタル層(CrC)は、波長313nmにおける屈折率2.14および消衰係数2.61であり、波長350nmにおける屈折率2.24および消衰係数 2.85であり、波長365nmにおける屈折率2.29および消衰係数2.94であり、波長413nmにおける屈折率2.52および消衰係数3.20であり、波長436nmにおける屈折率2.65および消衰係数3.3であった。
反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.46および消衰係数0.47であり、波長350nmにおける屈折率2.47および消衰係数0.37であり、波長365nmにおける屈折率2.47および消衰係数0.33であり、波長413nmにおける屈折率2.43および消衰係数0.23であり、波長436nmにおける屈折率2.41および消衰係数0.20であった。
なお、位相シフト層の屈折率および消衰係数は、n&k Technology社製のn&k Analyzer 1280(商品名)を用いて測定した。位相シフト層の屈折率および消衰係数の測定は、合成石英ガラス基板上に、以下に示す位相シフト層の成膜条件と同じ条件で成膜した試料に対して行った。メタル層の屈折率および消衰係数の測定、並びに、反射率低減層の屈折率および消衰係数の測定も、同様に行った。また、実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0063】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は32原子%であり、メタル層(CrC)のCr含有率は46原子%であり、反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は28原子%であった。
なお、Cr含有率は、アルバックファイ社製のSAM670型走査型オージェ電子分光装置(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0064】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.98%および位相差178.66°を有していた。
なお、透過率および位相差は、日本Lasertec社製のMPM−100(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0065】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.0%であり、350nmにおいて8.3%であり、365nmの波長において7.3%であり、405nmの波長において6.6%であり、413nm波長において6.6%であり、436nmの波長において6.8%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.7%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.7%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.5%であった。
図3中の曲線aは、実施例1の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
なお、膜面反射率は、島津製作所社製のSolidSpec−3700(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0066】
位相シフト膜のシート抵抗は508Ω/□であった。このため、実施例1の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
なお、シート抵抗は、共和理研社製のK−705RM(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0067】
実施例1の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。透明基板の両主表面は鏡面研磨されている。実施例2〜4および比較例1〜3において準備した透明基板の両主表面も同様に鏡面研磨されている。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。インライン型スパッタリング装置には、スパッタ室が設けられている。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに2.7kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚89nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、N
2が35sccm、CO
2が14.5sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、クロムターゲットに0.4kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCH
4ガスとの混合ガス(Arガス中に8%の濃度でCH
4ガスが含まれている混合ガス)を100sccmの流量でスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCからなる膜厚10nmのメタル層を成膜した。
その後、クロムターゲットに2.0kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、メタル層上にCrOCNからなる膜厚30nmの反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、N
2が35sccm、CO
2が18.2sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
なお、位相シフト層の成膜、メタル層の成膜、および反射率低減層の成膜は、透明基板をインライン型スパッタリング装置外に取り出すことによって大気に曝すことなく、インライン型スパッタリング装置内で連続して行った。
【0068】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、以下の方法により位相シフトマスクを製造した。
先ず、上述した位相シフトマスクブランクの位相シフト膜上に、ノボラック系のポジ型のフォトレジストからなるレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画機により、波長413nmのレーザー光を用いて、レジスト膜に所定のパターンを描画した。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、位相シフト膜上にレジスト膜パターンを形成した。
その後、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成した。位相シフト膜を構成する位相シフト層、メタル層および反射率低減層の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層、メタル層および反射率低減層は、同じエッチング溶液によりエッチングすることができる。ここでは、位相シフト膜をエッチングするエッチング溶液として、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング溶液を用いた。
その後、レジスト剥離液を用いて、レジスト膜パターンを剥離した。
【0069】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において若干の食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJSM7401F(商品名))を用いて観察した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0070】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、70nmであり、良好であった。CDばらつきは、目標とするラインアンドスペースパターン(ラインパターンの幅:2.0μm、スペースパターンの幅:2.0μm)からのずれ幅である。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー社製SIR8000を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0071】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0072】
実施例2.
実施例2の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚20nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。実施例1の位相シフトマスクブランクとはメタル層だけが異なる。
【0073】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
メタル層(CrC)は、波長313nmにおける屈折率2.09および消衰係数2.05であり、波長350nmにおける屈折率2.08および消衰係数2.18であり、波長365nmにおける屈折率2.08および消衰係数2.24であり、波長413nmにおける屈折率2.11および消衰係数2.45であり、波長436nmにおける屈折率2.15および消衰係数2.55であった。
反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0074】
位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は実施例1と同じである。メタル層(CrC)のCr含有率は43原子%であった。
【0075】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.78%および位相差179.02°を有していた。
【0076】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.0%であり、350nmにおいて8.4%であり、365nmの波長において8.4%であり、405nmの波長において8.2%であり、413nm波長において8.4%であり、436nmの波長において8.7%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.0%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、3.8%であった。
【0077】
位相シフト膜のシート抵抗は560Ω/□であった。このため、実施例2の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0078】
実施例2では、メタル層の成膜時に、クロムターゲットに0.33kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCH
4ガスとの混合ガス(Arガス中に15%の濃度でCH
4ガスが含まれている混合ガス)を100sccmの流量でスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCからなる膜厚20nmのメタル層を成膜した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例2の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0079】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0080】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であり、メタル層において食われが発生しなかった。
【0081】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、50nmであり、良好であった。
【0082】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0083】
実施例3.
実施例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrCN、膜厚22nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。実施例1の位相シフトマスクブランクとはメタル層だけが異なる。
【0084】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
メタル層(CrCN)は、波長313nmにおける屈折率2.07および消衰係数2.14であり、波長350nmにおける屈折率2.12および消衰係数2.28であり、波長365nmにおける屈折率2.14および消衰係数2.35であり、波長413nmにおける屈折率2.26および消衰係数2.55であり、波長436nmにおける屈折率2.33および消衰係数2.64であった。
反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0085】
位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は実施例1と同じである。メタル層(CrCN)のCr含有率は40原子%であった。
【0086】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率6.00%および位相差176.78°を有していた。
【0087】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において13.0%であり、350nmにおいて9.5%であり、365nmの波長において8.4%であり、405nmの波長において7.6%であり、413nm波長において7.6%であり、436nmの波長において7.6%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.9%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.8%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.6%であった。
図3中の曲線bは、実施例3の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0088】
位相シフト膜のシート抵抗は800でΩ/□あった。このため、実施例3の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0089】
実施例3では、メタル層の成膜時に、クロムターゲットに0.42kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCH
4ガスとN
2ガスととの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCNからなる膜厚22nmのメタル層を成膜した。ここで、混合ガスは、ArガスとCH
4ガスとの混合ガス(Arガス中に8%の濃度でCH
4ガスが含まれている混合ガス)が100sccm、N
2が30sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例3の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0090】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0091】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において若干の食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
【0092】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、75nmであり、良好であった。
【0093】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0094】
実施例4.
実施例4の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚91.5nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚28nm)とから構成される。
【0095】
位相シフト層(CrOCN)、メタル層(CrN)および反射率低減層(CrOCN)の各々の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0096】
位相シフト層(CrOCN)、メタル層(CrN)および反射率低減層(CrOCN)の各々のCr含有率は実施例1と同じである。
【0097】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.55%および位相差182.30°を有していた。
【0098】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.3%であり、350nmにおいて9.2%であり、365nmの波長において8.5%であり、405nmの波長において8.3%であり、413nm波長において8.5%であり、436nmの波長において8.8%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.0%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、4.2%であった。
図3中の曲線cは、実施例4の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0099】
位相シフト膜のシート抵抗は510でΩ/□あった。このため、実施例4の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0100】
実施例4では、位相シフト層の成膜時、205mm/分の速度で透明基板を搬送した。メタル層の成膜時に、ArガスとCH
4ガスとの混合ガス(Arガス中に15%の濃度でCH
4ガスが含まれている混合ガス)を200sccmの流量でスパッタ室内に導入した。反射率低減層の成膜時、215mm/分の速度で透明基板を搬送した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例4の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0101】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0102】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において極僅かな食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
【0103】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、55nmであり、良好であった。
【0104】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0105】
比較例1.
比較例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、位相シフト層(CrOCN、膜厚122nm)のみから構成される。比較例1の位相シフトマスクブランクは、位相シフト膜がメタル層と反射率低減層とを備えていない点で実施例の位相シフトマスクブランクと異なる。
【0106】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.36および消衰係数0.74であり、波長350nmにおける屈折率2.43および消衰係数0.66であり、波長365nmにおける屈折率2.45および消衰係数0.62であり、波長413nmにおける屈折率2.49および消衰係数0.53であり、波長436nmにおける屈折率2.50および消衰係数0.49であった。
【0107】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は32原子%であった。
【0108】
位相シフト膜は、上述した1層構造により、365nmの光に対する透過率5.20%および位相差179.60°を有していた。
【0109】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において19.9%であり、350nmにおいて20.3%であり、365nmの波長において20.7%であり、405nmの波長において22.0%であり、413nm波長において22.1%であり、436nmの波長において22.2%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.9%であり、365nm〜436nmの波長域において、1.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、2.4%であった。
図4,5中の曲線dは、比較例1の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0110】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例1の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0111】
比較例1の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに3.5kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚122nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが46sccm、N
2が46sccm、CO
2が18.5sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚122nm)から構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
【0112】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0113】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であった。
【0114】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、90nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0115】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状しているが、CDばらつきが大きく、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0116】
比較例2.
比較例2の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚7nm)とから構成される。比較例2の位相シフトマスクブランクは、位相シフト膜がメタル層を備えていない点で実施例の位相シフトマスクブランクと異なる。
【0117】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.37および消衰係数0.72であり、波長350nmにおける屈折率2.45および消衰係数0.64であり、波長365nmにおける屈折率2.48および消衰係数0.60であり、波長413nmにおける屈折率2.52および消衰係数0.48であり、波長436nmにおける屈折率2.53および消衰係数0.44であった。
反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.24および消衰係数0.36であり、波長350nmにおける屈折率2.20および消衰係数0.28であり、波長365nmにおける屈折率2.18および消衰係数0.26であり、波長413nmにおける屈折率2.13および消衰係数0.20であり、波長436nmにおける屈折率2.11および消衰係数0.17であった。
【0118】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は33原子%であり、反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は26原子%であった。
【0119】
位相シフト膜は、上述した2層構造により、365nmの光に対する透過率8.40%および位相差172.50°を有していた。
【0120】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において16.2%であり、350nmにおいて17.9%であり、365nmの波長において18.9%であり、405nmの波長において20.4%であり、413nm波長において20.4%であり、436nmの波長において19.7%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、2.5%であり、365nm〜436nmの波長域において、1.5%であり、313nm〜436nmの波長域において、4.2%であった。
図4中の曲線eは、比較例2の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0121】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例2の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0122】
比較例2の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに3.4kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚113.4nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、N
2が35sccm、CO
2が19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに0.5kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrOCNからなる膜厚7nmの反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、N
2が35sccm、CO
2が19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と反射率低減層(CrOCN、膜7nm)とから構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
なお、位相シフト層の成膜および反射率低減層の成膜は、透明基板をインライン型スパッタリング装置外に取り出して大気に曝すことなく、インライン型スパッタリング装置内で連続して行った。
【0123】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0124】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、レジスト膜との界面にエッチング溶液の浸み込みが生じた形状であった。
【0125】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、200nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0126】
上述した位相シフトマスクは、レジスト膜との界面に浸み込みが生じたパターン断面形状であり、また、CDばらつきが大きく、さらに、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0127】
比較例3.
比較例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と第1の反射率低減層(CrOCN、膜厚7nm)と第2の反射率低減層(CrOCN、膜厚13.6nm)とから構成される。比較例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、比較例2の位相シフトマスクブランクにおける反射率低減層上に第2の反射率低減層(CrOCN)を設けたものに相当する。
【0128】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は、比較例2の位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値と同じである。
第1の反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は、比較例2の反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値と同じである。
第2の反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.41および消衰係数0.41であり、波長350nmにおける屈折率2.40および消衰係数0.32であり、波長365nmにおける屈折率2.39および消衰係数0.29であり、波長413nmにおける屈折率2.35および消衰係数0.21であり、波長436nmにおける屈折率2.33および消衰係数0.19であった。
【0129】
位相シフト層(CrOCN)および第1の反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は比較例2の位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率と同じである。第2の反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は29原子%であった。
【0130】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率8.00%および位相差190.00°を有していた。
【0131】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.9%であり、350nmにおいて12.2%であり、365nmの波長において12.8%であり、405nmの波長において15.7%であり、413nm波長において16.3%であり、436nmの波長において17.5%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、5.2%であり、365nm〜436nmの波長域において、4.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.4%であった。
図5中の曲線fは、比較例3の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0132】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例3の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0133】
比較例3では、比較例2における反射率低減層の成膜後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに1.0kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとN
2ガスとCO
2ガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、第1の反射率低減層上にCrOCNからなる膜厚13.6nmの第2の反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、N
2が35sccm、CO
2が19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。その他の点は比較例2と同様に方法により、比較例3の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0134】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0135】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であるが、レジスト膜との界面にエッチング溶液の浸み込みが生じた形状であった。
【0136】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、180nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0137】
上述した位相シフトマスクは、レジスト膜との界面に浸み込みが生じたパターン断面形状であり、また、CDばらつきが大きく、さらに、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0138】
以上のように、本発明を実施の形態および実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。該当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内にての変形や改良が可能であることは明白である。