特許第6352224号(P6352224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352224位相シフトマスクブランク及びこれを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352224
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランク及びこれを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20180625BHJP
   G03F 1/46 20120101ALI20180625BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20180625BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G03F1/32
   G03F1/46
   G03F1/58
   C23C14/06 N
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-142927(P2015-142927)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-26701(P2017-26701A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和丈
(72)【発明者】
【氏名】坪井 誠治
(72)【発明者】
【氏名】牛田 正男
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−092241(JP,A)
【文献】 特開2014−026281(JP,A)
【文献】 特開平09−244212(JP,A)
【文献】 特開2005−128278(JP,A)
【文献】 特開2012−230379(JP,A)
【文献】 特開2012−185505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G03F 1/00−1/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にクロム系材料からなる位相シフト膜を備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、主に露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する位相シフト層と、該位相シフト層の上側に配置され、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する反射率低減層と、前記位相シフト層と前記反射率低減層との間に配置され、350nm〜436nmの波長域において、前記反射率低減層の消衰係数よりも高い消衰係数を有するメタル層とを有し、
前記位相シフト層、前記メタル層および前記反射率低減層の積層構造により、露光光に対する前記位相シフト膜の透過率が1%〜20%であり、露光光に対する前記位相シフト膜の位相差が160°〜200°であり、かつ、前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【請求項2】
透明基板上にクロム系材料からなる位相シフト膜を備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、主に露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する位相シフト層と、該位相シフト層の上側に配置され、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する反射率低減層と、前記位相シフト層と前記反射率低減層との間に配置され、前記反射率低減層のクロム含有率よりも高いクロム含有率を有するメタル層とを有し、
前記位相シフト層、前記メタル層および前記反射率低減層の積層構造により、露光光に対する前記位相シフト膜の透過率が1%〜20%であり、露光光に対する前記位相シフト膜の位相差が160°〜200°であり、かつ、前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【請求項3】
前記位相シフト膜の膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において5%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜の膜面反射率が、313nm〜436nmの波長域において13%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項5】
前記位相シフト膜の膜面反射率の変動幅が、313nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする請求項4に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクの前記位相シフト膜上に、350nm〜436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いた描画処理、および現像処理により、レジスト膜パターンを形成する工程と、
該レジスト膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして、前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の製造方法によって製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に前記位相シフト膜パターンを転写する工程と
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記露光光は、313nm〜436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光であることを特徴とする請求項に記載の表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトマスクブランク及びこれを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPD(Flat Panel Display)等の表示装置の高解像度化、高精細化に伴い、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている表示装置用の位相シフトマスクが求められている。
【0003】
また、FPD等の表示装置の低価格化の影響を受け、位相シフトマスクの製造コストの削減が必要となっている。位相シフト膜上に遮光性膜が形成されている従来の位相シフトマスクブランクの場合、レジスト膜パターンをマスクにして遮光性膜をエッチングして遮光性膜パターンを形成し、その後、遮光性膜パターンをマスクにして位相シフト膜をエッチングして位相シフト膜パターンを形成し、その後、レジスト膜パターンを剥離し、さらに、遮光性膜パターンを剥離して位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを製造する。一方、位相シフト膜上に遮光性膜が形成されていない位相シフトマスクブランクの場合、位相シフト膜上の遮光性膜パターンの形成工程および剥離工程が不要となり、製造コストを削減することができる。
【0004】
このような近年の状況に対応して、位相シフト膜上に遮光性膜が形成されていない位相シフトマスクブランクを用いて製造される、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている表示装置用の位相シフトマスクが要求されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、透明基板上に、2層以上の薄膜が積層された構成の位相シフト膜を備えた表示装置用の位相シフトマスクブランクが提案されている。この位相シフト膜を構成する各薄膜は、互いに異なる組成を持つが、共に同じエッチング溶液によってエッチング可能な物質からなり、組成が相異なることで異なるエッチング速度を持つ。特許文献1では、位相シフト膜のパターニング時に位相シフト膜パターンのエッジ部分の断面傾斜が険しく形成されるように、位相シフト膜を構成する各薄膜のエッチング速度が調整されている。
なお、特許文献1では、位相反転膜の上部または下部に、遮光成膜、半透過膜、エッチング阻止膜、およびハードマスク膜を始めとして転写用パターンに必要な膜のうち一つ以上の膜を含む機能性膜が配された表示装置用の位相シフトマスクブランクも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−26281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来提案されている表示装置用の位相シフトマスクに用いられる位相シフト膜は、位相シフト膜パターンを形成するために用いるレジスト膜のパターニング時に使用するレーザー描画光の反射によるレジスト膜への影響を考慮して設計されていない。このため、レーザー描画光に対する位相シフト膜の膜面反射率が20%を超える。その結果、レジスト膜中に定在波が発生し、レジスト膜パターンのCD均一性が悪化し、延いては、レジスト膜パターンをマスクにしてパターニングして形成される位相シフト膜パターンのCD均一性が、近年要求される値を満たすことができない場合がある。
【0008】
このため、本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、レーザー描画光として用いられる350nm〜436nmの波長域の光に対する膜面反射率を低減させた位相シフト膜を備えることで、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている表示装置用の位相シフトマスクの形成に用いる位相シフトマスクブランク、及びこれを用いた位相シフトマスクの製造方法を提供することを目的とする。さらに、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている表示装置用の位相シフトマスクを使用することで、高解像度、高精細の表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した目的を達成するために鋭意検討し、位相シフト膜を少なくとも3層で構成し、位相シフト膜を構成する各層の組成や膜厚を工夫することにより、露光光に対する位相シフト膜の透過率と位相差とが位相シフト膜として必要な所定の光学特性を満たしつつ、350nm〜436nmの波長域の光に対する位相シフト膜の膜面反射率を低減させることができるという知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)
透明基板上にクロム系材料からなる位相シフト膜を備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、主に露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する位相シフト層と、該位相シフト層の上側に配置され、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する反射率低減層と、前記位相シフト層と前記反射率低減層との間に配置され、350nm〜436nmの波長域において、前記反射率低減層の消衰係数よりも高い消衰係数を有するメタル層とを有し、
前記位相シフト層、前記メタル層および前記反射率低減層の積層構造により、露光光に対する前記位相シフト膜の透過率と位相差とが所定の光学特性を有し、かつ、前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【0012】
(構成2)
透明基板上にクロム系材料からなる位相シフト膜を備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、主に露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する位相シフト層と、該位相シフト層の上側に配置され、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する反射率低減層と、前記位相シフト層と前記反射率低減層との間に配置され、前記反射率低減層のクロム含有率よりも高いクロム含有率を有するメタル層とを有し、
前記位相シフト層、前記メタル層および前記反射率低減層の積層構造により、露光光に対する前記位相シフト膜の透過率と位相差とが所定の光学特性を有し、かつ、前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【0013】
(構成3)
前記位相シフト膜の膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において5%以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の位相シフトマスクブランク。
【0014】
(構成4)
前記位相シフト膜の膜面反射率が、313nm〜436nmの波長域において13%以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の位相シフトマスクブランク。
【0015】
(構成5)
前記位相シフト膜の膜面反射率の変動幅が、313nm〜436nmの波長域において10%以下であることを特徴とする構成4に記載の位相シフトマスクブランク。
【0016】
(構成6)
前記透明基板と前記位相シフト膜との間に、遮光性膜パターンを備えることを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【0017】
(構成7)
構成1乃至6のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクの前記位相シフト膜上に、350nm〜436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いた描画処理、および現像処理により、レジスト膜パターンを形成する工程と、
該レジスト膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして、前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【0018】
(構成8)
構成7に記載の製造方法によって製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に前記位相シフト膜パターンを転写する工程と
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。

【0019】
(構成9)
前記露光光は、313nm〜436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光であることを特徴とする構成8に記載の表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
上述したように、本発明に係る位相シフトマスクブランクは、透明基板上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜が、位相シフト層と、反射率低減層と、位相シフト層と反射率低減層との間に設けられた、350nm〜436nmの波長域において、反射率低減層の消衰係数よりも高い消衰係数を有するメタル層とを有しており、露光光に対する位相シフト膜の透過率と位相差とが位相シフト膜として必要な所定の光学特性を満たしつつ、位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下である。このため、この位相シフトマスクブランクを用いて、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。また、この位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができる。
【0021】
また、他の本発明に係る位相シフトマスクブランクは、透明基板上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜が、位相シフト層と、反射率低減層と、位相シフト層と反射率低減層との間に設けられた、反射率低減層のクロム含有率よりも高いクロム含有率を有するメタル層とを有しており、露光光に対する位相シフト膜の透過率と位相差とが位相シフト膜として必要な所定の光学特性を満たしつつ、位相シフト膜の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下である。このため、この位相シフトマスクブランクを用いて、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。また、この位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
図2】位相シフトマスクブランクの他の膜構成を示す模式図である。
図3】実施例1、3、4の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルである。
図4】比較例1、2の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルである。
図5】比較例1、3の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略する場合がある。
【0024】
実施の形態1.
実施の形態1では、位相シフトマスクブランクについて説明する。
【0025】
図1は位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。位相シフトマスクブランク10は、露光光に対して透明な透明基板20と、透明基板20上に配置されたクロム系材料からなる位相シフト膜30とを備える。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。位相シフト膜30は、透明基板20側から順に配置された、位相シフト層31とメタル層33と反射率低減層32とを有する。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、同じエッチング溶液によりエッチングすることができる。
【0026】
位相シフト層31は、透明基板20の主表面上に配置される。位相シフト層31は、露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する。
位相シフト層31は、クロム(Cr)と、酸素(O)および窒素(N)のうちの少なくとも一種を含むクロム化合物から形成される。また、位相シフト層31は、クロム(Cr)と、酸素(O)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含み、さらに、炭素(C)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム化合物から形成されてもよい。例えば、位相シフト層31を形成する材料として、CrO、CrN、CrOFCrNF、CrON、CrCO、CrCN、CrOCN、CrFCO、CrFCONが挙げられる。
位相シフト層31は、スパッタリングにより形成することができる。
【0027】
反射率低減層32は、位相シフト層31の上側に配置される。反射率低減層32は、位相シフト膜30側(すなわち、反射率低減層32の透明基板20側とは反対側)より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する。
反射率低減層32は、クロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム化合物から形成される。また、反射率低減層32は、クロム(Cr)と酸素(O)とを含み、さらに、窒素(N)、炭素(C)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム化合物から形成されてもよい。例えば、反射率低減層32を形成する材料として、CrO、CrON、CrCO、CrOF、CrOCN、CrFONが挙げられる。
反射率低減層32は、スパッタリングにより形成することができる。
【0028】
メタル層33は、位相シフト層31と反射率低減層32との間に配置される。メタル層33は、露光光に対する透過率を調整する機能を有するとともに、反射率低減層32と組み合わさって、位相シフト膜30側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する。
メタル層33は、クロム(Cr)、または、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含むクロム化合物から形成される。また、メタル層33は、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含み、さらに、酸素(O)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム化合物から形成されてもよい。例えば、メタル層33を形成する材料として、Cr、CrC、CrN、CrCN、CrCO、CrCFが挙げられる。
メタル層33を備えることにより、位相シフト膜のシート抵抗が下がるため、位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクのチャージアップを防止することができる。メタル層33を備えていない場合、位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクをケースから出し入れするとき発生する電気が逃げずに位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクに電気が貯まるため、異物を付着させやすい。また、位相シフトマスクに小さなパターンが形成されているとき、パターンからパターンに電気が飛び、静電気破壊が起こりやすい。
メタル層33は、スパッタリングにより形成することができる。
【0029】
メタル層33は、350nm〜436nmの波長域において、反射率低減層32の消衰係数よりも高い消衰係数を有する。また、313nm〜436nmの波長域において、反射率低減層32の消衰係数よりも高い消衰係数を有することが好ましい。
メタル層33の消衰係数と反射率低減層32の消衰係数との差は、好ましくは、1.5〜3.5であり、より好ましくは、1.8〜3.5である。消衰係数の差が、1.5〜3.5であると、メタル層33と反射率低減層32との界面の上記波長域(350nm〜436nmの波長域、または、313nm〜436nmの波長域)における反射率を高めることができるので、より反射率低減効果が発揮されるので好ましい。
なお、メタル層33は、350nm〜436nmの波長域において、位相シフト層31の消衰係数よりも高い消衰係数を有する。また、313nm〜436nmの波長域において、位相シフト層31の消衰係数よりも高い消衰係数を有することが好ましい。
消衰係数は、n&kアナライザーやエリプソメータなどを用いて測定することができる。
【0030】
メタル層33は、反射率低減層32のクロム(Cr)含有率(原子%)よりも高いクロム(Cr)含有率(原子%)を有する。
メタル層33のCr含有率と反射率低減層32のCr含有率との差は、好ましくは、10〜80原子%であり、より好ましくは、15〜80原子%である。Cr含有率の差が、10〜80原子%であると、メタル層33と反射率低減層32との界面の上記波長域(350nm〜436nmの波長域、または、313nm〜436nmの波長域)における反射率を高めることができるので、より反射率低減効果が発揮されるので好ましい。なお、メタル層33のエッチング速度は、クロム(Cr)に窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、フッ素(F)を含有させてクロム化合物とすることにより調整することができる。例えば、クロム(Cr)に炭素(C)やフッ素(F)を含有させることにより、ウェットエッチング速度を遅くすることができ、クロム(Cr)に窒素(N)や酸素(O)を含有させることにより、ウェットエッチング速度を速くすることができる。メタル層33の上下に形成されている位相シフト層31、反射率低減層32とのウェットエッチング速度を考慮して、クロムに上述の元素を添加したクロム化合物とすることにより、エッチング後の位相シフト膜30の断面形状を良好にすることができる。
なお、メタル層33は、位相シフト層31のクロム(Cr)含有率よりも高いクロム(Cr)含有率を有している。
Cr含有率は、オージェ電子分光装置やX線光電子分光装置(XPS)などを用いて測定することができる。
【0031】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、350nm〜436nmの波長域において、2.0以上の屈折率を有することが好ましい。2.0以上の屈折率を有すると、所望の光学特性(透過率および位相差)を得るために必要な位相シフト膜30の膜厚を薄膜化することができる。したがって、該位相シフト膜30を備えた位相シフトマスクブランク10を用いて作製される位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有する位相シフト膜パターンを備えることができる。
屈折率は、n&kアナライザーやエリプソメータなどを用いて測定することができる。
【0032】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の積層構造により、露光光に対する位相シフト膜30の透過率および位相差は所定の光学特性を有する。
露光光に対する位相シフト膜30の透過率は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%〜20%であり、より好ましくは、3%〜10%である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
露光光に対する位相シフト膜30の位相差は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の位相差は、露光光に含まれる代表波長の光に対して、好ましくは、160°〜200°であり、より好ましくは、170°〜190°である。この性質により、露光光に含まれる代表波長の光の位相を160°〜200°変えることができる。このため、位相シフト膜30を透過した代表波長の光と透明基板20のみを透過した代表波長の光との間に160〜200°の位相差が生じる。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した位相差を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した位相差を有する。
位相シフト膜30の透過率および位相差は、位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さを調整することにより制御することができる。このため、この実施の形態では、位相シフト膜30の透過率および位相差が上述した所定の光学特性を有するように、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さが調整されている。なお、位相シフト膜30の透過率は、主に、位相シフト層31およびメタル層33の組成および厚さに影響される。位相シフト膜30の屈折率は、主に、位相シフト層31の組成および厚さに影響される。
透過率および位相差は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0033】
位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の膜面反射率は、350nm〜436nmの波長域において10%以下である。また、313nm〜436nmの波長域において13%以下であることが好ましい。すなわち、位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の膜面反射率は、350nm〜436nmの波長域において10%以下であり、波長域を313nm〜436nmに広げても、13%以下であることが好ましい。位相シフト膜30の膜面反射率が350nm〜436nmの波長域において10%以下であると、レーザ描画光に対する膜面反射率が低減するため、優れたCD均一性を有する位相シフトマスクを形成することができる。また、位相シフト膜30の膜面反射率が313nm〜436nmの波長域において13%以下であると、露光光に対する膜面反射率が低減するため、位相シフトマスクに形成されているパターンを転写する際に、表示装置基板からの反射光に起因する転写パターンのぼやけ(フレア)を防止することができる。
位相シフト膜30の膜面反射率の変動幅は、好ましくは、350nm〜436nmの波長域において9%以下、さらに好ましくは、8.5%以下である。また、313nm〜436nmの波長域において12.5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、12%である。すなわち、位相シフト膜30の膜面反射率の変動幅は、350nm〜436nmの波長域において9%以下、さらには8.5%以下であることが好ましく、波長域を313nm〜436nmに広げても、12.5%以下、さらには12%以下であることが好ましい。
位相シフト膜30の膜面反射率およびその変動幅は、位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の屈折率、消衰係数および厚さを調整することにより制御することができる。消衰係数および屈折率は、組成を調整することにより制御することができるため、この実施の形態では、位相シフト膜30の膜面反射率およびその変動幅が上述した所定の物性を有するように、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さが調整されている。なお、位相シフト膜30の膜面反射率およびその変動幅は、主に、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さに影響される。
膜面反射率は、分光光度計などを用いて測定することができる。膜面反射率の変動幅は、350nm〜436nmまたは313nm〜436nmの波長域における最大の反射率と最小の反射率との差から求められる。
【0034】
位相シフト層31は、組成の均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成の異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。メタル層33および反射率低減層32についても同様である。
【0035】
図2は位相シフトマスクブランク10の他の膜構成を示す模式図である。図2に示すように、位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と位相シフト膜30との間に遮光性膜パターン40を備えるものであってもよい。
【0036】
位相シフトマスクブランク10が遮光性膜パターン40を備える場合、遮光性膜パターン40は、透明基板20の主表面上に配置される。遮光性膜パターン40は、露光光の透過を遮る機能を有する。
遮光性膜パターン40を形成する材料は、露光光の透過を遮る機能を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、クロム系材料が挙げられる。クロム系材料として、クロム(Cr)、または、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含むクロム化合物が挙げられる。その他、クロム(Cr)と、酸素(O)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種とを含むクロム化合物、または、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含み、さらに、酸素(O)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム化合物が挙げられる。例えば、遮光性膜パターン40を形成する材料として、Cr、CrC、CrN、CrCNが挙げられる。
遮光性膜パターン40は、スパッタリングにより成膜した遮光性膜を、エッチングによりパターニングすることにより形成することができる。
【0037】
位相シフト膜30と遮光性膜パターン40とが積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上である。
光学濃度は、分光光度計もしくはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0038】
遮光性膜パターン40は、組成が均一な単一の膜からなる場合であってもいし、組成が異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。
【0039】
なお、位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にレジスト膜を備えるものであってもよい。
【0040】
次に、この実施の形態の位相シフトマスクブランク10の製造方法について説明する。位相シフトマスクブランク10は、以下の準備工程と位相シフト膜形成工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0041】
1.準備工程
準備工程では、先ず、透明基板20を準備する。透明基板20の材料は、使用する露光光に対して透光性を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが挙げられる。
遮光性膜パターン40を備える位相シフトマスクブランク10を製造する場合、その後、透明基板20上に、スパッタリングにより、例えば、クロム系材料からなる遮光性膜を形成する。その後、遮光性膜上にレジスト膜パターンを形成し、レジスト膜パターンをマスクにして遮光性膜をエッチングして、遮光性膜パターン40を形成する。その後、レジスト膜パターンを剥離する。
【0042】
2.位相シフト膜形成工程
位相シフト膜形成工程では、透明基板20上に、スパッタリングにより、クロム系材料からなる位相シフト膜30を形成する。ここで、透明基板20上に遮光性膜パターン40が形成されている場合、遮光性膜パターン40を覆うように、位相シフト膜30を形成する。
【0043】
位相シフト膜30は、透明基板20の主表面上に位相シフト層31を成膜し、位相シフト層31上にメタル層33を成膜し、メタル層33上に反射率低減層32を成膜することにより形成される。
【0044】
位相シフト層31の成膜は、クロムまたはクロム化合物を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。
同様に、メタル層33の成膜は、クロムまたはクロム化合物を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、または、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。
同様に、反射率低減層32の成膜は、クロムまたはクロム化合物を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。
【0045】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32を成膜する際、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さは、位相シフト膜30の透過率および位相差が上述した所定の光学特性を有し、かつ、位相シフト膜30の膜面反射率およびその変動幅が上述した所定の物性を有するように調整される。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成は、スパッタガスの組成および流量などにより制御することができる。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、基板の搬送速度によっても、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の厚さを制御することができる。
【0046】
位相シフト層31が、組成の均一な単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成および流量を変えずに1回だけ行う。位相シフト層31が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成および流量を変えて複数回行う。位相シフト層31が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成および流量を変化させながら1回だけ行う。メタル層33の成膜および反射率低減層32の成膜についても同様である。成膜プロセスを複数回行う場合、スパッタターゲットに印加するスパッタパワーを小さくすることができる。
【0047】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、インライン型スパッタリング装置を用いて、透明基板20を装置外に取り出すことによって大気に曝すことなく、連続して成膜することが好ましい。装置外に取り出さずに、連続して成膜することにより、意図しない各層の表面酸化や表面炭化を防止することができる。各層の意図しない表面酸化や表面炭化は、位相シフト膜30上に形成されたレジスト膜を描画する際に使用するレーザー光や表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する際に使用する露光光に対する反射率を変化させたり、また、酸化部分や炭化部分のエッチングレートを変化させる恐れがある。
【0048】
なお、レジスト膜を備える位相シフトマスクブランク10を製造する場合、次に、位相シフト膜上にレジスト膜を形成する。
【0049】
この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、透明基板20上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜30が、位相シフト層31と、反射率低減層32と、位相シフト層31と反射率低減層32との間に設けられた、350nm〜436nmの波長域において、反射率低減層32の消衰係数よりも高い消衰係数を有するメタル層33とを有しており、露光光に対する位相シフト膜30の透過率と位相差とが位相シフト膜30として必要な所定の光学特性を満たしつつ、位相シフト膜30の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下である。このため、この位相シフトマスクブランク10を用いて、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。
【0050】
また、この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、透明基板20上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜30が、位相シフト層31と、反射率低減層32と、位相シフト層31と反射率低減層32との間に設けられた、反射率低減層32のクロム含有率よりも高いクロム含有率を有するメタル層33とを有しており、露光光に対する位相シフト膜30の透過率と位相差とが位相シフト膜30として必要な所定の光学特性を満たしつつ、位相シフト膜30の膜面反射率が、350nm〜436nmの波長域において10%以下である。このため、この位相シフトマスクブランク10を用いて、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態2では、位相シフトマスクの製造方法について説明する。位相シフトマスクブランクは、以下のレジスト膜パターン形成工程と位相シフト膜パターン形成工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0052】
1.レジスト膜パターン形成工程
レジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30上に、レジスト膜を形成する。ただし、位相シフトマスクブランク10が、位相シフト膜30上にレジスト膜を備えるものである場合、レジスト膜の形成は行わない。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。後述する350nm〜436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm〜436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所定のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、位相シフト膜30上にレジスト膜パターンを形成する。
【0053】
2.位相シフト膜パターン形成工程
位相シフト膜パターン形成工程では、先ず、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜30をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成する。位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、同じエッチング媒質(エッチング溶液、エッチングガス)によりエッチングすることができる。位相シフト膜30をエッチングするエッチング媒質(エッチング溶液、エッチングガス)は、位相シフト膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング溶液や、塩素ガスと酸素ガスの混合ガスからなるエッチングガスが挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、または、アッシングによって、レジスト膜パターンを剥離する。
【0054】
この実施の形態2の位相シフトマスクの製造方法によれば、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。
【0055】
実施の形態3.
実施の形態3では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、以下のマスク載置工程とパターン転写工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0056】
1.載置工程
載置工程では、実施の形態2で製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、位相シフトマスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0057】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する。露光光は、313nm〜436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、313nm〜436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、j線、i線、h線およびg線を含む混合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
【0058】
この実施の形態3の表示装置の製造方法によれば、高解像度、高精細の表示装置を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0060】
実施例1〜4および比較例1〜3の位相シフトマスクブランクは、透明基板と、透明基板上に配置されたクロム系材料からなる位相シフト膜とを備える。透明基板として、大きさが800mm×920mmであり、厚さが10mmである合成石英ガラス基板を用いた。
図3は実施例1、3、4の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示し、図4は比較例1、2の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示し、図5は比較例1、3の位相シフトマスクブランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
以下、実施例1〜4および比較例1〜3について詳細に説明する。
【0061】
実施例1.
実施例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。
【0062】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.44および消衰係数0.71であり、波長350nmにおける屈折率2.51および消衰係数0.59であり、波長365nmにおける屈折率2.52および消衰係数0.55であり、波長413nmにおける屈折率2.54および消衰係数0.44であり、波長436nmにおける屈折率2.54および消衰係数0.40であった。
メタル層(CrC)は、波長313nmにおける屈折率2.14および消衰係数2.61であり、波長350nmにおける屈折率2.24および消衰係数 2.85であり、波長365nmにおける屈折率2.29および消衰係数2.94であり、波長413nmにおける屈折率2.52および消衰係数3.20であり、波長436nmにおける屈折率2.65および消衰係数3.3であった。
反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.46および消衰係数0.47であり、波長350nmにおける屈折率2.47および消衰係数0.37であり、波長365nmにおける屈折率2.47および消衰係数0.33であり、波長413nmにおける屈折率2.43および消衰係数0.23であり、波長436nmにおける屈折率2.41および消衰係数0.20であった。
なお、位相シフト層の屈折率および消衰係数は、n&k Technology社製のn&k Analyzer 1280(商品名)を用いて測定した。位相シフト層の屈折率および消衰係数の測定は、合成石英ガラス基板上に、以下に示す位相シフト層の成膜条件と同じ条件で成膜した試料に対して行った。メタル層の屈折率および消衰係数の測定、並びに、反射率低減層の屈折率および消衰係数の測定も、同様に行った。また、実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0063】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は32原子%であり、メタル層(CrC)のCr含有率は46原子%であり、反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は28原子%であった。
なお、Cr含有率は、アルバックファイ社製のSAM670型走査型オージェ電子分光装置(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0064】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.98%および位相差178.66°を有していた。
なお、透過率および位相差は、日本Lasertec社製のMPM−100(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0065】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.0%であり、350nmにおいて8.3%であり、365nmの波長において7.3%であり、405nmの波長において6.6%であり、413nm波長において6.6%であり、436nmの波長において6.8%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.7%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.7%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.5%であった。
図3中の曲線aは、実施例1の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
なお、膜面反射率は、島津製作所社製のSolidSpec−3700(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0066】
位相シフト膜のシート抵抗は508Ω/□であった。このため、実施例1の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
なお、シート抵抗は、共和理研社製のK−705RM(商品名)を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0067】
実施例1の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。透明基板の両主表面は鏡面研磨されている。実施例2〜4および比較例1〜3において準備した透明基板の両主表面も同様に鏡面研磨されている。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。インライン型スパッタリング装置には、スパッタ室が設けられている。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに2.7kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚89nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、Nが35sccm、COが14.5sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、クロムターゲットに0.4kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとの混合ガス(Arガス中に8%の濃度でCHガスが含まれている混合ガス)を100sccmの流量でスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCからなる膜厚10nmのメタル層を成膜した。
その後、クロムターゲットに2.0kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、メタル層上にCrOCNからなる膜厚30nmの反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、Nが35sccm、COが18.2sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
なお、位相シフト層の成膜、メタル層の成膜、および反射率低減層の成膜は、透明基板をインライン型スパッタリング装置外に取り出すことによって大気に曝すことなく、インライン型スパッタリング装置内で連続して行った。
【0068】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、以下の方法により位相シフトマスクを製造した。
先ず、上述した位相シフトマスクブランクの位相シフト膜上に、ノボラック系のポジ型のフォトレジストからなるレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画機により、波長413nmのレーザー光を用いて、レジスト膜に所定のパターンを描画した。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、位相シフト膜上にレジスト膜パターンを形成した。
その後、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成した。位相シフト膜を構成する位相シフト層、メタル層および反射率低減層の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層、メタル層および反射率低減層は、同じエッチング溶液によりエッチングすることができる。ここでは、位相シフト膜をエッチングするエッチング溶液として、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング溶液を用いた。
その後、レジスト剥離液を用いて、レジスト膜パターンを剥離した。
【0069】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において若干の食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJSM7401F(商品名))を用いて観察した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0070】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、70nmであり、良好であった。CDばらつきは、目標とするラインアンドスペースパターン(ラインパターンの幅:2.0μm、スペースパターンの幅:2.0μm)からのずれ幅である。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー社製SIR8000を用いて測定した。実施例2〜4および比較例1〜3においても同様に測定した。
【0071】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0072】
実施例2.
実施例2の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrC、膜厚20nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。実施例1の位相シフトマスクブランクとはメタル層だけが異なる。
【0073】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
メタル層(CrC)は、波長313nmにおける屈折率2.09および消衰係数2.05であり、波長350nmにおける屈折率2.08および消衰係数2.18であり、波長365nmにおける屈折率2.08および消衰係数2.24であり、波長413nmにおける屈折率2.11および消衰係数2.45であり、波長436nmにおける屈折率2.15および消衰係数2.55であった。
反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0074】
位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は実施例1と同じである。メタル層(CrC)のCr含有率は43原子%であった。
【0075】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.78%および位相差179.02°を有していた。
【0076】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.0%であり、350nmにおいて8.4%であり、365nmの波長において8.4%であり、405nmの波長において8.2%であり、413nm波長において8.4%であり、436nmの波長において8.7%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.0%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、3.8%であった。
【0077】
位相シフト膜のシート抵抗は560Ω/□であった。このため、実施例2の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0078】
実施例2では、メタル層の成膜時に、クロムターゲットに0.33kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとの混合ガス(Arガス中に15%の濃度でCHガスが含まれている混合ガス)を100sccmの流量でスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCからなる膜厚20nmのメタル層を成膜した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例2の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0079】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0080】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であり、メタル層において食われが発生しなかった。
【0081】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、50nmであり、良好であった。
【0082】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0083】
実施例3.
実施例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚89nm)とメタル層(CrCN、膜厚22nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚30nm)とから構成される。実施例1の位相シフトマスクブランクとはメタル層だけが異なる。
【0084】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
メタル層(CrCN)は、波長313nmにおける屈折率2.07および消衰係数2.14であり、波長350nmにおける屈折率2.12および消衰係数2.28であり、波長365nmにおける屈折率2.14および消衰係数2.35であり、波長413nmにおける屈折率2.26および消衰係数2.55であり、波長436nmにおける屈折率2.33および消衰係数2.64であった。
反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0085】
位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は実施例1と同じである。メタル層(CrCN)のCr含有率は40原子%であった。
【0086】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率6.00%および位相差176.78°を有していた。
【0087】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において13.0%であり、350nmにおいて9.5%であり、365nmの波長において8.4%であり、405nmの波長において7.6%であり、413nm波長において7.6%であり、436nmの波長において7.6%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.9%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.8%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.6%であった。
図3中の曲線bは、実施例3の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0088】
位相シフト膜のシート抵抗は800でΩ/□あった。このため、実施例3の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0089】
実施例3では、メタル層の成膜時に、クロムターゲットに0.42kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとNガスととの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrCNからなる膜厚22nmのメタル層を成膜した。ここで、混合ガスは、ArガスとCHガスとの混合ガス(Arガス中に8%の濃度でCHガスが含まれている混合ガス)が100sccm、Nが30sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例3の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0090】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0091】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において若干の食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
【0092】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、75nmであり、良好であった。
【0093】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0094】
実施例4.
実施例4の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚91.5nm)とメタル層(CrC、膜厚10nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚28nm)とから構成される。
【0095】
位相シフト層(CrOCN)、メタル層(CrN)および反射率低減層(CrOCN)の各々の屈折率および消衰係数の値は実施例1と同じである。
【0096】
位相シフト層(CrOCN)、メタル層(CrN)および反射率低減層(CrOCN)の各々のCr含有率は実施例1と同じである。
【0097】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率5.55%および位相差182.30°を有していた。
【0098】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.3%であり、350nmにおいて9.2%であり、365nmの波長において8.5%であり、405nmの波長において8.3%であり、413nm波長において8.5%であり、436nmの波長において8.8%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.0%であり、365nm〜436nmの波長域において、0.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、4.2%であった。
図3中の曲線cは、実施例4の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0099】
位相シフト膜のシート抵抗は510でΩ/□あった。このため、実施例4の位相シフトマスクブランクはチャージアップを防止することができる。
【0100】
実施例4では、位相シフト層の成膜時、205mm/分の速度で透明基板を搬送した。メタル層の成膜時に、ArガスとCHガスとの混合ガス(Arガス中に15%の濃度でCHガスが含まれている混合ガス)を200sccmの流量でスパッタ室内に導入した。反射率低減層の成膜時、215mm/分の速度で透明基板を搬送した。その他の点は実施例1と同様に方法により、実施例4の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0101】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0102】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、位相シフト膜パターンの膜厚方向の中央部に位置するメタル層において極僅かな食われが発生しているが、マスク特性に影響ない程度のものであった。
【0103】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、55nmであり、良好であった。
【0104】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、また、露光光に対する膜面反射率が低いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が小さい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合にも、パターンからパターンに電気が飛びにくく、静電気破壊が起こりにくい。
【0105】
比較例1.
比較例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、位相シフト層(CrOCN、膜厚122nm)のみから構成される。比較例1の位相シフトマスクブランクは、位相シフト膜がメタル層と反射率低減層とを備えていない点で実施例の位相シフトマスクブランクと異なる。
【0106】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.36および消衰係数0.74であり、波長350nmにおける屈折率2.43および消衰係数0.66であり、波長365nmにおける屈折率2.45および消衰係数0.62であり、波長413nmにおける屈折率2.49および消衰係数0.53であり、波長436nmにおける屈折率2.50および消衰係数0.49であった。
【0107】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は32原子%であった。
【0108】
位相シフト膜は、上述した1層構造により、365nmの光に対する透過率5.20%および位相差179.60°を有していた。
【0109】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において19.9%であり、350nmにおいて20.3%であり、365nmの波長において20.7%であり、405nmの波長において22.0%であり、413nm波長において22.1%であり、436nmの波長において22.2%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、1.9%であり、365nm〜436nmの波長域において、1.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、2.4%であった。
図4,5中の曲線dは、比較例1の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0110】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例1の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0111】
比較例1の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに3.5kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚122nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが46sccm、Nが46sccm、COが18.5sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚122nm)から構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
【0112】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0113】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であった。
【0114】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、90nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0115】
上述した位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状しているが、CDばらつきが大きく、また、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0116】
比較例2.
比較例2の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と反射率低減層(CrOCN、膜厚7nm)とから構成される。比較例2の位相シフトマスクブランクは、位相シフト膜がメタル層を備えていない点で実施例の位相シフトマスクブランクと異なる。
【0117】
位相シフト層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.37および消衰係数0.72であり、波長350nmにおける屈折率2.45および消衰係数0.64であり、波長365nmにおける屈折率2.48および消衰係数0.60であり、波長413nmにおける屈折率2.52および消衰係数0.48であり、波長436nmにおける屈折率2.53および消衰係数0.44であった。
反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.24および消衰係数0.36であり、波長350nmにおける屈折率2.20および消衰係数0.28であり、波長365nmにおける屈折率2.18および消衰係数0.26であり、波長413nmにおける屈折率2.13および消衰係数0.20であり、波長436nmにおける屈折率2.11および消衰係数0.17であった。
【0118】
位相シフト層(CrOCN)のCr含有率は33原子%であり、反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は26原子%であった。
【0119】
位相シフト膜は、上述した2層構造により、365nmの光に対する透過率8.40%および位相差172.50°を有していた。
【0120】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において16.2%であり、350nmにおいて17.9%であり、365nmの波長において18.9%であり、405nmの波長において20.4%であり、413nm波長において20.4%であり、436nmの波長において19.7%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、2.5%であり、365nm〜436nmの波長域において、1.5%であり、313nm〜436nmの波長域において、4.2%であった。
図4中の曲線eは、比較例2の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0121】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例2の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0122】
比較例2の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。
その後、透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに3.4kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板の主表面上にCrOCNからなる膜厚113.4nmの位相シフト層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、Nが35sccm、COが19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに0.5kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上にCrOCNからなる膜厚7nmの反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、Nが35sccm、COが19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
その後、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と反射率低減層(CrOCN、膜7nm)とから構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
なお、位相シフト層の成膜および反射率低減層の成膜は、透明基板をインライン型スパッタリング装置外に取り出して大気に曝すことなく、インライン型スパッタリング装置内で連続して行った。
【0123】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0124】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、レジスト膜との界面にエッチング溶液の浸み込みが生じた形状であった。
【0125】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、200nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0126】
上述した位相シフトマスクは、レジスト膜との界面に浸み込みが生じたパターン断面形状であり、また、CDばらつきが大きく、さらに、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0127】
比較例3.
比較例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層(CrOCN、膜厚113.4nm)と第1の反射率低減層(CrOCN、膜厚7nm)と第2の反射率低減層(CrOCN、膜厚13.6nm)とから構成される。比較例3の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、比較例2の位相シフトマスクブランクにおける反射率低減層上に第2の反射率低減層(CrOCN)を設けたものに相当する。
【0128】
位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は、比較例2の位相シフト層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値と同じである。
第1の反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値は、比較例2の反射率低減層(CrOCN)の屈折率および消衰係数の値と同じである。
第2の反射率低減層(CrOCN)は、波長313nmにおける屈折率2.41および消衰係数0.41であり、波長350nmにおける屈折率2.40および消衰係数0.32であり、波長365nmにおける屈折率2.39および消衰係数0.29であり、波長413nmにおける屈折率2.35および消衰係数0.21であり、波長436nmにおける屈折率2.33および消衰係数0.19であった。
【0129】
位相シフト層(CrOCN)および第1の反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は比較例2の位相シフト層(CrOCN)および反射率低減層(CrOCN)のCr含有率と同じである。第2の反射率低減層(CrOCN)のCr含有率は29原子%であった。
【0130】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率8.00%および位相差190.00°を有していた。
【0131】
位相シフト膜は、膜面反射率が、313nmの波長において12.9%であり、350nmにおいて12.2%であり、365nmの波長において12.8%であり、405nmの波長において15.7%であり、413nm波長において16.3%であり、436nmの波長において17.5%であった。また、位相シフト膜は、膜面反射率の変動幅が、350nm〜436nmの波長域において、5.2%であり、365nm〜436nmの波長域において、4.6%であり、313nm〜436nmの波長域において、5.4%であった。
図5中の曲線fは、比較例3の位相シフトマスククランクの位相シフト膜の膜面反射率スペクトルを示す。
【0132】
位相シフト膜のシート抵抗は測定不可(∞)であった。このため、比較例3の位相シフトマスクブランクは、実施例の位相シフトマスクブランクと比較してチャージアップが起こる可能性が高い。
【0133】
比較例3では、比較例2における反射率低減層の成膜後、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに1.0kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、第1の反射率低減層上にCrOCNからなる膜厚13.6nmの第2の反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが35sccm、Nが35sccm、COが19.8sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。その他の点は比較例2と同様に方法により、比較例3の位相シフトマスクブランクを製造した。
【0134】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様に方法により位相シフトマスクを製造した。
【0135】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は垂直であるが、レジスト膜との界面にエッチング溶液の浸み込みが生じた形状であった。
【0136】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、180nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
【0137】
上述した位相シフトマスクは、レジスト膜との界面に浸み込みが生じたパターン断面形状であり、また、CDばらつきが大きく、さらに、露光光に対する位相シフト膜パターンの膜面反射率が高いため、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
また、この位相シフトマスクは、シート抵抗が大きい位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクを用いて製造されるため、小さなパターンが形成された場合には、パターンからパターンに電気が飛びやすく、静電気破壊が起こりやすい。
【0138】
以上のように、本発明を実施の形態および実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。該当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内にての変形や改良が可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0139】
10 位相シフトマスクブランク、20 透明基板、30 位相シフト膜、31 位相シフト層、32 反射率低減層、33 メタル層、40 遮光性膜パターン。
図1
図2
図3
図4
図5