特許第6352242号(P6352242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水澤化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352242
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】塗料用白色顔料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20180625BHJP
   C09C 1/42 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20180625BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09C1/42
   C09D7/62
   C09C1/36
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-505385(P2015-505385)
(86)(22)【出願日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2014054895
(87)【国際公開番号】WO2014141892
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-52357(P2013-52357)
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】村上 達朗
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−212467(JP,A)
【文献】 特開昭61−195169(JP,A)
【文献】 特開2006−152466(JP,A)
【文献】 特開2010−012407(JP,A)
【文献】 特開昭61−197511(JP,A)
【文献】 特開2001−200195(JP,A)
【文献】 特開2002−060680(JP,A)
【文献】 特開2008−019295(JP,A)
【文献】 特開2001−200179(JP,A)
【文献】 特表平6−507195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09C 1/36
C09C 1/42
C09D 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部のカオリン粒子と、25〜96質量部の酸化チタン粒子とからなる二成分系の塗料用白色顔料であって、
屈折率が1.78以上であり、
95%以上の隠ぺい率(JIS K 5101−4:2004)を示すことを特徴とする塗料用白色顔料。
【請求項2】
前記カオリン粒子の少なくとも一部が焼成されたものである、請求項1に記載の塗料用白色顔料。
【請求項3】
レーザ回折散乱法で測定した体積基準での中位径(D50)が、0.1〜0.7μmである、請求項1または2に記載の塗料用白色顔料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用白色顔料に関するものであり、より詳細には、酸化チタンの代替品となり得る塗料用白色顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、塗料用の樹脂と比較して屈折率がかなり高く、従って高い隠ぺい力を有していることから、塗料用の白色顔料として従来から広く使用されている。
しかしながら、酸化チタンは極めて高価であるため、その代替品が求められている。
【0003】
一方、酸化チタン微粒子に種々の無機微粒子を混合した粉体組成物が知られている(例えば特許文献1)。
しかるに、このような粉体組成物は、種々の樹脂に配合するフィラーなどとして使用されるものであり、塗料用の顔料としての使用を目的とするものではない。また、表面処理などがなされているため、白色顔料として使用される酸化チタンの代替品として使用することはできない。表面処理剤によって、酸化チタンの高い屈折率が損なわれてしまうためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−99246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、酸化チタンの高い屈折率を損なわずに有しており、酸化チタン顔料の代替品となり得る塗料用白色顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、酸化チタンの代替品について種々検討した結果、意外にも酸化チタンに比して屈折率のかなり低いカオリン{AlSi(OH)}を主成分として用い、これを少量の酸化チタンと組み合わせることにより、酸化チタンと同等の屈折率を示し且つ安価な塗料用白色顔料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、100質量部のカオリン粒子と、25〜96質量部の酸化チタン粒子とからなる二成分系の塗料用白色顔料であって、屈折率が1.78以上であり、95%以上の隠ぺい率(JIS K 5101−4:2004)を示すことを特徴とする塗料用白色顔料が提供される。
本発明の塗料用白色顔料においては
(1)前記カオリン粒子の少なくとも一部が焼成されたものであること、
(2)レーザ回折散乱法で測定した体積基準での中位径(D50)が、0.1〜0.7μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗料用白色顔料は、屈折率が1.78以上、特に2.72以下の範囲にあり、これは、酸化チタンの屈折率(約2.7)と同等であり、しかも、カオリン粒子を主体としている。カオリンは、天然に産出する薄片構造の鉱物であり、従って、極めて安価である。このことから理解されるように、本発明の塗料用白色顔料は、酸化チタン白色顔料の代替品として極めて有用である。
【0009】
ところで、カオリンは、雲母などと比較してかなり白く、例えば水に分散させた液の白色度は極めて高い。しかしながら、カオリンの屈折率は約1.6であり、例えば塗料用樹脂(例えばウレタン樹脂)の屈折率(約1.5)とほぼ同等である。即ち、カオリンは、樹脂に配合したときの隠ぺい力はほとんど無いといってよく、従来の常識では、カオリンを酸化チタン白色顔料の代替に用いることは全く考えられなかったのである。
しかるに、本発明の塗料用白色顔料は、カオリンを主体としていながら、酸化チタンと同等の屈折率を示し、後述する実施例にも示されているように、その隠ぺい率(JIS K 5101−4:2004)も95%以上と酸化チタンと同レベルの高さを示し、カオリンの特性を示さず、これは驚くべきことである。
【0010】
なお、本発明において、屈折率が約1.6のカオリンを主体としていながら、酸化チタンと同程度の屈折率が得られているのは、カオリン粒子の表面が少量の酸化チタン粒子によって被覆されており、この結果、本発明の塗料用白色顔料には、酸化チタンの屈折率が反映されているからである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塗料用白色顔料は、カオリン粒子と酸化チタン粒子とを含んだ粒子混合物であり、100質量部のカオリン粒子に対し、酸化チタン粒子を25〜96質量部、特に25〜43質量部の量で含む。酸化チタン粒子の量が上記範囲よりも少ないと、カオリン粒子の表面を十分に被覆することができず、従って、屈折率が酸化チタンと大きく異なってしまい、塗料樹脂に配合したときの隠ぺい力が大きく低下してしまう。また、酸化チタン粒子の量が上記範囲よりも多いと、カオリン粒子のコスト的なメリットが損なわれてしまい、酸化チタンの代替としての利点が損なわれてしまう。
【0012】
本発明においては、酸化チタンと同等の屈折率を発現させるためには、上記のような量でカオリン粒子と酸化チタン粒子とを使用するとともに、カオリン粒子の表面を酸化チタン粒子で被覆することが必要である。
【0013】
このためには、カオリン粒子と酸化チタン粒子とを混合した後、乾式下で高せん断力での機械的粉砕、例えばジェットミルを使用しての乾式粉砕を行って0.1〜0.7μm程度の粒子径に粒度調整すればよい。即ち、高度の機械的粉砕によってカオリン粒子の表面に酸化チタン粒子を摺擦することによって上記のような被覆を実現し、1.78以上、特に1.78〜2.72の範囲の屈折率を得ることができる。
【0014】
例えば、カオリン粒子と酸化チタン粒子とのそれぞれについて予め機械的粉砕し、その後に両者を混合したのでは、これらが再凝集しやすいだけでなく、上記のような表面被覆を行うことができず、カオリン粒子と酸化チタン粒子とがそれぞれ独立に存在しているに過ぎないものとなる。即ち、後述する比較例に示されているように、この場合には、カオリンの屈折率と酸化チタンの屈折率とが観測されるに過ぎない。
【0015】
また、カオリン粒子と酸化チタン粒子とを湿式粉砕に供した場合にも、上記のような表面被覆を行うことができない。酸化チタン粒子を水に分散させると凝集してしまうため、カオリン粒子の表面被覆など、到底、行うことができない。
【0016】
本発明において、上述したカオリン粒子は、天然から採取され、適宜、不純物を除いたものを適宜の大きさに粗粉砕したものをそのまま使用することもできるが、少なくともカオリン粒子の一部、好ましくは全量が、600℃以上の温度で焼成したものを使用するのがよい。このような焼成により、粒子強度を高め、上述した機械的粉砕による酸化チタン粒子の表面被覆を安定に行うことができ、また、塗料用樹脂の配合も容易に行うことができる。
【0017】
このようにして得られる本発明の塗料用白色顔料として、酸化チタン顔料と全く同様にして樹脂に配合することにより、極めて隠ぺい力の高い白色を実現することができる。しかも、この白色顔料は、安価なカオリン粒子を主体としているため、酸化チタン顔料に比して大幅なコストダウンを図ることができ、酸化チタン顔料の代替品として、極めて有用である。
【実施例】
【0018】
本発明を次の実験例で説明する。
【0019】
(実施例1)
2リットルの密閉容器に市販のカオリン(粒子径0.2μm)70g、焼成カオリン(粒子径0.8μm)70g、酸化チタン(粒子径0.14μm)60gを仕込み、十分に振とうさせて単純混合物を得た。次いで、ジェットミルを用いて乾式摺擦を行って粉末試料を得た。
【0020】
(実施例2)
市販のカオリン80g、焼成カオリン80g、酸化チタン40gを用いた以外は実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0021】
(実施例3)
市販のカオリン51g、焼成カオリン51g、酸化チタン98gを用いた以外は実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0022】
(比較例1)
ジェットミルによる乾式摺擦を行わなかった以外は実施例1と同様にして、単純混合物をそのまま粉末試料とした。
【0023】
(比較例2)
市販のカオリン90g、焼成カオリン90g、酸化チタン20gを用いた以外は実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0024】
(比較例3)
酸化チタン単独で、そのまま粉末試料とした。
【0025】
得られた試料について、以下の方法で測定を行った。結果を表1及び表2に示す。尚、表中の酸化チタン質量部の値は、カオリン100質量部に対する値である。
【0026】
(1)粒子径
Malvern社製Mastersizer3000を使用し、粉末試料を水に分散させ、レーザ回折散乱法で測定した体積基準での中位径(D50)から粒子径を求めた。
【0027】
(2)屈折率
予め、アッベ屈折計を用いて、α−ブロムナフタレン(屈折率1.66)及びケロシン(屈折率1.45)を所定の割合で混合して、屈折率既知の浸液を調製した。併せて、屈折率1.78の浸液として、島津デバイス製造製の接触液(屈折液 nd 1.78)を用いた。次いで、Larsenの油浸法に従って、微量の粉末試料をスライドガラス上に採り、屈折率既知の浸液を1滴加えて、カバーガラスをかけ、浸液を十分浸漬させた後、光学顕微鏡でベッケ線の移動を観察して屈折率を求めた。
【0028】
(3)隠ぺい率
JIS K 5101−4:2004 顔料試験方法−第4部:隠ぺい力−隠ぺい率試験紙法に準拠して、粉末試料25gをクリアウレタン塗料50gに分散させ、隠ぺい率試験紙に塗布した。次いで、日本電色工業製ColorMeterZE2000を用いて、隠ぺい率試験紙の白色部と黒色部との明度比から隠ぺい率を求めた。
【0029】
(4)光沢度
Gardner社製micro−TRI−glossを用いて、隠ぺい率測定に用いた試験紙の60度光沢を測定した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1に示すように、乾式摺擦を行った実施例1の屈折率は1.78を大きく超えており、結果として塗料の隠ぺい率も高く、塗膜は平滑で光沢が認められた。屈折率が1.78を大きく超えて、隠ぺい率95%以上を維持できる酸化チタン配合量の下限は25質量部であり(実施例2)、上限は96質量部であった(実施例3)。特に、実施例3は顔料成分の51%がカオリンでありながら、比較対照とした酸化チタン単独塗料(表2の比較例3)と同等の隠ぺい率を示した。
しかしながら、表2の比較例1が示すように、実施例1と同じ酸化チタンの配合量を採用しても乾式摺擦を行わなかった場合には、屈折率1.55の粒子と1.78を超える粒子がそれぞれ単独で観測された。このとき、塗料中では粉末試料の凝集が認められ、隠ぺい率試験紙に対して均一な塗布ができず、隠ぺい率の評価を行えなかった。塗膜は平滑性が大きく損なわれており、光沢も認められず、塗料用顔料として使用できるものではなかった。
また、表2の比較例2が示すように、酸化チタンの配合量が11質量部の場合、乾式摺擦を行っても、屈折率はカオリンとほぼ同等の1.57まで低下し、隠ぺい率も95%を大きく下回る88.3%であった。
以上の結果から、カオリン粒子の屈折率および分散性向上要因は、カオリン表面に対する酸化チタン被覆効果であり、ジェットミルによる乾式摺擦の有効性が明らかとなった。さらに、酸化チタンに匹敵する程度まで屈折率が向上する酸化チタンの配合量は25〜96質量部の範囲であることが見出された。