【文献】
Applied Surface Science,2012年 2月 4日,Vol.258,pp.5061-5072
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<薬剤コート層>
基材表面に形成される、
水不溶性薬剤のコート層が、下記(1)〜(4)の型からなる群から選択される少なくとも1つの型を有する薬剤コート層である。
ここで、型の群は、
(1)薬剤コート層全体の表面および内部にほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である第一の型、
(2)結晶になりかけの小さな不完全な結晶が優勢である第二の型、
(3)網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する第三の型、および
(4)針状または棒状、あるいは球状の結晶を少なくとも一部に有する第四の型である。
水不溶性薬剤は各、第一〜第四の型で同じ薬剤であってもよいし異なる薬剤であってもよい。
【0012】
好ましくは、以下の第1と第2の薬剤コート層が提供される。
第1の薬剤コート層は、
前記薬剤コート層が、第一の型および第二の型からなる群から選択される少なくとも1つの型を有する薬剤コート層であって、
(1)薬剤コート層全体の表面および内部にほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である第一の型、および
(2)結晶になりかけの小さな不完全な結晶が優勢である第二の型であり、
第一の型と第二の型は同じまたは異なる薬剤を含み、前記薬剤コート層の形成条件を変化させることにより、第一の型および第二の型の出現が制御できる薬剤コート層である。
【0013】
(1)第一の型(A):ほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である。
第一の型(A)は、非晶質(アモルファス)が優勢である型(A)の薬剤コート層である。第1の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例1]の表面等が例示できる。[例1]の表面は、
図1にSEM像で示され、後に表1で、1(A)で表わされる。薬剤コート層全体の表面および内部にほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である。板状の構造で、表面は平たく均質で、連続的に薬剤コート層がつながっている。
本明細書で「優勢」とは、SEM像の1つの視野の50%以上の面積が占められている形態を意味し、1つのバルーンから観測される薬剤コート層の表面または内部のどちらかにこの形態が存在すればよい。
【0014】
(2)第二の型(B):結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である。
第二の型(B)は、非晶質(アモルファス)の部分もあるが、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である型(B)の薬剤コート層で、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が散らばって複数見える形態がSEM像の1つの視野の50%以上の面積が占められている形態を意味する。後に実施例で記載するコーティング溶液4である第1の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例4]の表面(
図2に示される)等が例示できる。このような形態は、1つのバルーンから観測される薬剤コート層の表面または内部のどちらかに存在すればその薬剤コート層は、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である第二の型(B)である。表面は平らではなく、凹凸が存在する。
[例4]の表面は,
図2に示され、後に表1で4(B)で表わされる、結晶なりかけの小さい不完全な結晶が優勢である。
【0015】
第2の薬剤コート層は、
前記薬剤コート層が、第三の型および第四の型からなる群から選択される少なくとも一つの型を有する薬剤コート層であって、
(3) 網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する第三の型、および
(4) 針状または棒状、あるいは球状の結晶を少なくとも一部に有する第四の型であり、
第三の型と第四の型は同じまたは異なる薬剤を含み、前記薬剤コート層の形成条件を変化させることにより、第三の型および第四の型の出現が制御できる薬剤コート層である。
【0016】
(3)第三の型(C):網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する。
第三の型(C)は、網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する型(C)である。薬剤コート層の表面または内部の形態は、後に実施例で記載するコーティング溶液5、である第2の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例5](
図3に示される)等が例示できる。
網目状になった小さい不完全な結晶が優勢である場合とは、[例5]のように、1つ1つの結晶が独立して存在せず、1つの結晶の大きさを特定することが難しく、網目状につながった形状を示す。尚、[例5]は、SEMで撮影したSEM像であり、後に表1で、5(C)で表わされ、網目状の不完全な小さい結晶が優勢である。
【0017】
(4)第四の型(D)は、結晶形が優勢な場合(D)の薬剤コート層の型である。表面または内部の形態は、後に実施例で記載するコーティング溶液7、8、である第2の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例7]、[例8]で結晶(球状)が優勢の表面等が例示できる。結晶形は、針状、棒状、球状等の種々の形態の単独または混合状態が観察される。
D1)結晶(針状または棒状)が優勢な場合の薬剤コート層[例7]のSEM像を
図4に示す。[例7]の表面は,後に表1で、7(D1)で表わされ、結晶(針状または棒状)が優勢である。
D2)結晶(球状)が優勢、もしくは表面がアモルファス膜で覆われていて内部に球状結晶が存在するような場合の薬剤コート層で実施例の[例8]のSEM像を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aは、後に表1で、8(D2)で表わされ、結晶(球状)が優勢である。
図5Bは、後に表1で、8(D3)で表わされ、表面がアモルファス膜で覆われていて内部に球状結晶が存在する。本発明で得られる球状結晶は、表面が立体的ではなく、押しつぶされたような平らな表面を有する。
【0018】
<薬剤コート層の型の制御方法>
上記の薬剤コート層の(1)〜(4)の型からなる群の各々の型は、水不溶性薬剤と、溶媒とを含有する薬剤コーティング組成物を基材上に塗布して薬剤コート層を形成する際に、前記溶媒の除去速度を調整して薬剤コート層の型を制御する方法で得ることができる。
さらに、薬剤コート層を形成する際に、生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物を存在させることができる。好ましくは上記の薬剤コート層の(1)〜(4)の型の群は、前記生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物が下記一般式(1−a)または(1−b)で表わされるアミジン誘導体である。前記アミジン誘導体と水不溶性薬剤とが前記溶媒中に、溶解して存在する薬剤コーティング組成物を用いて薬剤コート層の各型を制御することができる。
【化1】
各式において、R
1、R
2は各々独立して炭素数10〜18のアルキル基である。
【0019】
本発明の薬剤コート層は、好ましくは以下の薬剤コーティング組成物を用いて以下の各型を制御する方法により得られる。
(1)第1の薬剤コート層:例えば、グリセリンを含まない溶媒を用いて得られる組成物が基材上に塗布乾燥され、溶媒の比率をコントロールすることで出現する型を制御し、溶媒が蒸発除去された後の第1の薬剤コート層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、コート層全体の表面および内部において板状の非晶質(アモルファス)が優勢である第一の型および結晶になりかけの小さな不完全な結晶が認められる第二の型からなる群から選択される少なくとも1つの型を含むように制御できる。
(2)第2の薬剤コート層:例えば、グリセリンを含む溶媒を用いて得られる組成物が基材上に塗布乾燥され、溶媒の比率をコントロールすることで出現する型を制御し、溶媒が蒸発除去された後の第2の薬剤コート層は網目状になった小さい不完全な結晶が優勢である第三の型および針状、棒状もしくは球状の結晶を有する結晶が優勢である第四の型から選択される少なくとも1つの型を含むように制御できる。第四の型の結晶形が存在する場合、表面がアモルファスの膜で覆われていて、その膜の下(薬剤コート膜内部)に結晶が認められる場合でも良い。
【0020】
本発明の薬剤コート層の型を制御する方法は、以下の特徴を有する。
(1)溶媒中に水を使用しない。本発明で水を使用すると、水は溶媒中にごく少量しか混合できず、溶媒中に水を用いると薬剤コート層の前駆体溶液である、薬剤コーティング組成物中で水不溶性薬剤が析出してくる可能性があり、不安定な薬剤コーティング組成物となる。
(2)特別な熱処理(アニーリング)なしに、溶媒の成分およびその比率を制御することで、常温で薬剤コート層の型を制御することができる。
(3)潤滑剤である、溶媒中のグリセリンの有無で得られる薬剤コート層中の型を容易に制御することができる。
(4)溶媒の成分およびその比率を特定範囲に制御することで複数の型が混在しない、広い範囲で特定の型のみを有する薬剤コート層が得られる。
【0021】
<薬剤コーティング組成物>
上記第1の薬剤コート層および第2の薬剤コート層の型を制御するための塗布液である薬剤コーティング組成物の成分を以下に記載する。
〔水不溶性薬剤〕
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0022】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
水不溶性薬剤は、好ましくは、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0023】
〔生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物〕
生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物の含有量は、特に限定されないが、上記水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは2〜80質量部、さらに好ましくは3〜50質量部である。
【0024】
生理的pHとは、生体内、主として血液中のpH範囲であり、具体的には好ましくはpH6.0〜8.0をいう。生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物としては、アミジノ基を有する塩基性化合物、アミノ基を2個以上有する塩基性化合物、ピペリジン環を有する塩基性化合物、4級アミンを有する塩基性化合物であることが好ましく、さらには、下記式1で示される化合物であるのが好ましい。
生理的pH範囲で陽電荷を帯びた塩基性化合物は、アルキル基部分を有し、該アルキル基部分の疎水性により、水不溶性薬剤および医療機器表面との親和性を高めることができ、標的組織への送達過程における薬剤コート層の脱落を防ぐことができる。一方、アミノ基による正電荷を帯びた部分は、負電荷を帯びた細胞表面との親和性を高めることができる。従って、薬剤でコートしたバルーンカテーテルを、体腔内を経て送達中に薬剤が剥がれることなく標的組織に送達させ、バルーンの拡張と同時にバルーンを血管壁に押しつけ、薬剤を迅速に放出し、組織に移行させることを可能にする。
【0025】
【化2】
(式1中、Aは芳香環を表す。R
1及びR
2は炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基を表し、R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよい。X
1およびX
2は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CONH−または−NHCO−を表し、X
1およびX
2は同一であっても異なっていてもよい。mは0または1、nは0または1〜6の整数を表す。)
特に好ましくはm=0、n=0で直接結合である化合物が好ましく、以下のアミジン誘導体が好ましい。
【0026】
〔アミジン誘導体〕
下記一般式(1−a)または(1−b)で示されるアミジン誘導体が好ましい。
【0028】
各式において、R
1、R
2は各々独立して炭素数10〜18のアルキル基である。
これらのアミジン誘導体の合成法は、特許第3919227に記載されている。好ましいアミジン誘導体は、以下に例示される。
下記式(3)で示される3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン(以下、TRX‐20ということがある)
【0029】
【化4】
下記式(4)で示される3,5−ジヘキサデシロキシベンズアミジン
【0030】
【化5】
下記式(5)で示される3,5−ジオクタデシロキシベンズアミジン
【0031】
【化6】
下記式(6)で示される3,5−ジデシロキシベンズアミジン
【0032】
【化7】
下記式(7)で示される3,4−ジデシロキシベンズアミジン
【0034】
生理的pH範囲で陽電荷を帯びた塩基性化合物は、疎水性部を有し、水不溶性薬剤や医療機器表面との親和性を高めることができる。一方、アミノ基による陽電荷を帯びた部分は細胞表面との親和性を高めることができ、アルキル鎖長の疎水部に結合した薬剤を効率良く細胞組織に移行させることができる。
【0035】
〔溶媒〕
上記の水不溶性薬剤と生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物とを基材上に塗布するための溶媒は、これらの成分を溶解または分散させることができるものであれば特に限定されないが、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトン、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートおよび水等を例示することができる。具体的には以下の各薬剤コート層でそれぞれ説明する。溶媒中には水を使用しないことが好ましい。水を含む溶媒は不安定になり薬剤コート層を形成する前の前駆体溶液中において水不溶性薬剤が析出してくる場合がある。
【0036】
薬剤コート層の形成は限定されないが、浸漬法(ディッピング法)、塗布、ピぺッティング法、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法等を適用することができる。なかでも、ピぺッティング法が好ましい。好ましくはバルーンを拡張した状態で、その上に薬剤被膜層を形成する。本明細書ではこれらの方法を総称して広義に塗布すると記載することがある。
以下では第1と第2との薬剤コーティング組成物で異なる点を主として記載する。記載していないことは、第1と第2との薬剤コーティング組成物、第1と第2の薬剤コート層として共通である。
【0037】
(1)第1の薬剤コーティング組成物および第1の薬剤コート層
1)第1の薬剤コーティング組成物は、水不溶性薬剤とアミジン誘導体とがグリセリンを含まない溶媒に溶解して存在する組成物である。
〔溶媒〕
必須の溶媒:テトラヒドロフラン(以下、THFと記載することがある)およびエタノール(以下、EtOHと記載することがある)。テトラヒドロフランは、アミジン誘導体を溶解する溶媒として用いる。上記以外で第1の薬剤コーティング組成物に添加してもよい溶媒には、アセトン、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、およびエチルアセテートが挙げられる。
2)第1の薬剤コーティング組成物の調製。
アミジン誘導体はテトラヒドロフランに溶解する。
水不溶性薬剤はエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合溶媒に溶解する。
上記両方の溶液を製造してから混合し、第1の薬剤コーティング組成物とする。
【0038】
3)第1の薬剤コート層
医療用機器の基材表面に第1の薬剤コーティング組成物を用いて第1の薬剤コート層を形成することが好ましい。
第1の薬剤コーティング組成物中の溶媒と得られる薬剤コート層との関係。
溶媒比率をコントロールすることによって、第1の薬剤コート層の表面および内部においてほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である第一の型(A)と、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が認められる第二の型(B)とが得られる。テトラヒドロフランは、アミジン誘導体および水不溶性薬剤の両方に対して良溶媒であり、かつ揮発性が高いため、テトラヒドロフランの割合が多いほど、第1の薬剤コート層は非晶質が優勢になる。
【0039】
薬剤コート層[第一の型(A)]は、薬剤コート層全体の表面および内部にほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢であり、好ましい溶媒の比率(質量%)は以下である。
THF EtOH、Acetone、またはEtOH/Acetone混合液
65%以上、100%以下 0%以上、35%以下
【0040】
薬剤コート層[第二の型(B)]は、結晶になりかけの小さな不完全な結晶が優勢であり、好ましい溶媒の比率(質量%)は以下である。
THF EtOH、Acetone、またはEtOH/Acetone混合液
1%以上、15%以下 85%以上、99%以下
【0041】
〔第一の型(A)ほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である場合の薬剤コート層の走査型電子顕微鏡写真(SEM)〕
非晶質(アモルファス)が優勢である型(A)の薬剤コート層の表面または内部の形態は、後に実施例で記載するコーティング溶液1、2、3である第1の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例1]、[例2]、[例3]の表面等が例示できる。[例1]は、SEM像で、
図1に示すように全体が均質で亀裂がある板状の形態を示す。[例2]、[例3]は、SEM像で、板状の均質な形態が一部割れている形態を示した。いずれも板状の構造で、平たく均質な表面が連続的につながっている部分がほとんどである。本明細書で「優勢」とは、SEM像の1つの視野の50%以上の面積が占められている形態を意味し、1つのバルーンから観測される薬剤コート層の表面または内部のどちらかにこの形態が存在すればよい。
[例1]の表面は,
図1に示され、後に表1で、1(A)で表わされ、ほぼ板状の非晶質(アモルファス)が優勢である。
[例2]の表面は,後に表1で、2(A)で表わされ、非晶質(アモルファス)が優勢である。
[例3]の表面は,後に表1で、3(A)で表わされ、非晶質(アモルファス)が優勢である。
上記1(A)、2(A),3(A)の薬剤コート層(A)は、標的組織に送達する過程で容易に剥がれない。アミジン誘導体である3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン(TRX‐20)が細胞と相互作用することで薬剤の組織移行性が高まる可能性がある。
【0042】
〔第二の型(B)結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である場合の薬剤コート層の走査型電子顕微鏡写真(SEM)〕
非晶質(アモルファス)の部分もあるが、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である型(B)の薬剤コート層は、結晶になりかけの小さい不完全な結晶が散らばって複数見える形態がSEM像の1つの視野の50%以上の面積が占められている形態を意味する。表面は平らではなく、凹凸が存在する。後に実施例で記載するコーティング溶液4である第1の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例4]の表面(
図2に示される)等が例示できる。このような形態は、1つのバルーンから観測される薬剤コート層の表面または内部のどちらかに存在すればその薬剤コート層は、(B)結晶になりかけの小さい不完全な結晶が優勢である場合とする。
[例4]の表面は,
図2に示され、後に表1で、4(B)で表わされ、結晶なりかけの小さい不完全な結晶が優勢である。
上記4(B)の薬剤コート層(B)は、標的組織に送達する過程で容易に剥がれない。薬剤コート層に結晶形がみられ、かつアミジン誘導体である3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン(TRX‐20)の特性により標的組織移行率が高くなると予想される。
【0043】
4)第1の薬剤コート層の特性
4−1)アミジン誘導体のアルキル鎖長の疎水性領域と水不溶性薬剤の疎水性領域が疎水性相互作用し、かつこれらの疎水性領域とバルーン表面との親和性が高いため、標的組織に送達する過程で容易に剥がれずに、患部に十分な量の薬剤を送達できる薬剤コート層である。
4−2)アミジン誘導体の正電荷を帯びた部分が負電荷を帯びた細胞表面と相互作用し、水不溶性薬剤の標的組織への移行性に優れている。
【0044】
(2)第2の薬剤コーティング組成物および第2の薬剤コート層
1)第2の薬剤コーティング組成物は、水不溶性薬剤とアミジン誘導体とがグリセリンを含む溶媒に溶解して存在する組成物である。
〔溶媒〕
必須の溶媒:溶媒として、テトラヒドロフラン、エタノールおよびグリセリン(グリセロールまたはプロパン−1,2,3−トリオールともいう)を用いる。上記以外で添加してもよい溶媒には、アセトン、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートおよび水が挙げられる。
2)第2の薬剤コーティング組成物の調製方法。
アミジン誘導体はテトラヒドロフランに溶解する。
水不溶性薬剤はエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合溶液およびグリセリンに溶解する。
上記両方の溶液を調製してから混合する。グリセリンは最終混合時に添加してもよい。
【0045】
3)第2の薬剤コート層
医療用機器の表面に第2の薬剤コーティング組成物を用いて第2の薬剤コート層を形成する。
第2の薬剤コーティング組成物中の溶媒と得られる薬剤コート層との関係。
得られる薬剤コート層は、コート層全体において結晶形が優勢であり、中でも網目状になった不完全な小さい結晶が優勢な第三の型(C)と、針状、棒状または球状の結晶が密に存在する結晶が優勢である第四の型(D)とが得られる。第三の型または第四の型の結晶形が存在する場合、表面がアモルファスの膜で覆われていて、その膜の下部(薬剤コート層膜内部)に結晶が認められる型も含む。
第2の薬剤コーティング組成物中に溶媒としてグリセリンを含有すると、溶媒の除去速度が遅くなるので水難溶性薬剤が結晶を形成しやすくなり、薬剤コート層が形成されたときに結晶が多くみられると考えられる。また、グリセリンが存在すると、揮発性が高くかつアミジン誘導体および水不溶性薬剤にとって良溶媒であるテトラヒドロフランの量が多くても結晶を形成しやすい。さらに、グリセリンを含有し、かつエタノールもしくはアセトンの含量がテトラヒドロフランに対して多くなると結晶の形態が明確になり、結晶が密な薬剤コート層を形成する。
【0046】
薬剤コート層[第三の型(C)]は、網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する型であり、好ましい溶媒の比率(質量%)は以下である。
THF EtOH、Acetone、 Glycerine
またはEtOH/Acetone混合液
75%以上、97%以下 0%以上、25%以下 0.5%以上、4%以下
【0047】
薬剤コート層[第四の型(D)]は、針状または棒状、あるいは球状の結晶を少なくとも一部に有する型であり、好ましい溶媒の比率(質量%)は以下である。
THF EtOH、Acetone、 Glycerine
またはEtOH/Acetone混合液
1%以上、70%以下 29.5%以上、98.5%以下 0.5%以上
【0048】
第三の型(C)網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する第2の薬剤コート層の走査型電子顕微鏡写真(SEM)
網目状の小さい不完全な結晶を少なくとも一部に有する第三の型(C)の薬剤コート層の表面または内部の形態は、後に実施例で記載するコーティング溶液5、6である第2の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例5](
図3に示す)、[例6]の表面等が例示できる。
該網目状になった小さい不完全な結晶が優勢である場合とは、[例5]のように、1つ1つの結晶が独立して存在せず、1つの結晶の大きさを特定することが難しく、網目状につながった形状を示す。また、[例6]のように、表面は板状のアモルファスだが、内部に結晶になりかけの小さい不完全な結晶状態がみられる場合も含む。尚、[例5]は、SEMで撮影したSEM像である。
[例5]の表面は,
図3に示され、後に表1で、5(C)と表わされ、網目状の不完全な小さい結晶が優勢である。[例6]の表面は,後に表1で、6(C)と表わされ、網目状の不完全な小さい結晶が優勢である。
【0049】
〔第四の型(D)結晶形が優勢な場合の第2の薬剤コート層の電子顕微鏡写真(SEM)〕
結晶形が優勢な場合第四の型(D)の薬剤コート層の表面または内部の形態は、後に実施例で記載するコーティング溶液7、8、9である第2の薬剤コーティング組成物をバルーン表面に塗布して得られる薬剤コート層[例7]、[例8]、[例9]の表面等が例示できる。結晶形は、針状、棒状または球状等の種々の形態の単独または混合状態が観察される。
D1)結晶(針状または棒状)が優勢な場合の薬剤コート層[例7]のSEM像を
図4に示す。
[例7]の表面は,後に表1で、7(D1)と表わされ、結晶(針状または棒状)が優勢である。
D2)結晶(球状)が優勢、もしくは表面がアモルファス膜で覆われていて内部に球状結晶が存在するような場合の薬剤コート層[例8]のSEM像を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aは、後に表1で、8(D2)で表わされ、結晶(球状)が優勢である。本発明で得られる球状結晶は、表面が立体的ではなく、押しつぶされたような平らな表面を有する。
図5Bは、後に表1で、8(D3)で表わされ、表面がアモルファス膜で覆われていて内部に球状結晶が存在する。
[例9]の表面は,後に表1で、9(D2)と表わされ、結晶(球状)が優勢に観察された。
【0050】
4)第2の薬剤コート層は、
4−1)アミジン誘導体のアルキル鎖長の疎水性領域と水不溶性薬剤の疎水性領域が疎水性相互作用し、かつこれらの疎水性領域とバルーン表面との親和性が高いため、標的組織に送達する過程で容易に剥がれずに、患部に十分な量の薬剤を送達できる薬剤溶出性医療機器である。
4−2)水不溶性薬剤の結晶を有し、かつアミジン誘導体の正の電荷を帯びた部分と負の電荷を帯びた細胞表面との相互作用によって標的組織への薬剤移行性に優れている。
【0051】
<医療機器>
本発明の医療機器は、その基材の表面上に直接またはプライマー層等の前処理層を介して上記薬剤コート層を有する。薬剤コート層には薬剤量を、特に限定されないが、0.1μg/mm
2〜10μg/mm
2、好ましくは0.5μg/mm
2〜5μg/mm
2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm
2〜3.5μg/mm
2、さらに好ましくは1.0μg/mm
2〜3.0μg/mm
2の密度で含有する。
基材の形状、材質は特に限定されない。金属、樹脂等の材料で、フイルム、板、線材、異形材のいずれでもよく、粒子状であってもよい。
用いられる医療機器は、限定されない。移植可能または挿入可能な医療機器いずれでもよい。長尺であり、血液等の体腔内で縮径して非拡張の状態で送達され、血管や組織等の局所で周方向に拡径されて薬剤コート層から薬剤を放出する医療機器が好ましい。したがって、縮径して送達され、拡径して患部に適用される医療機器は、拡張部を有する医療機器である。薬剤コート層は拡張部の表面の少なくとも一部に設けられる。すなわち、薬剤は少なくとも拡張部の外表面にコートされる。
【0052】
医療機器の拡張部の材質は、ある程度の柔軟性と血管や組織等に到達した時拡張されてその表面に有する薬剤コート層から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成されるが、薬剤コート層が設けられる拡張部の表面は樹脂で構成されているのが好ましい。拡張部の表面を構成する樹脂としては特に限定されないが、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートする医療機器の拡張部の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、本発明に係る医療用具の基材として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
拡張部を有する医療機器として具体的には、拡張部(ステント)または拡張部(バルーン)を有する長尺なカテーテルが例示できる。
本発明のバルーンは、好ましくは拡張時に本発明の薬剤コート層をその表面に形成され、次にバルーンがラッピングされ(畳まれ)て、血管や、体腔等に挿入され、組織や患部に送達され、患部で拡径されて、薬剤を放出する。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例、比較例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下では実施例、比較例を含めて例で記載する。
【0055】
1.薬剤溶出バルーンの作製
[例1]
(1)コーティング溶液1の調製
3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(TRX−20:純正化学、分子量609.41)140mgを量りとり、テトラヒドロフラン2mLを加え、溶解し、70mg/mL TRX−20溶液を調製した。一方、パクリタキセル(Shanghai zhongni Sunve Pharma ceutical社、分子量853.91)168mgを量りとり、テトラヒドロフラン(THF)2mLおよび無水エタノール(EtOH)1mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液30μLおよび56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液1(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.19/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH=71:29)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液1をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例1]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。[例1]のSEM像を
図1に示す。
【0056】
[例2]
(1)コーティング溶液2の調製
70mg/mL TRX−20溶液および56mg/mLパクリタキセル溶液は、例1と同様に調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液11μLおよび56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液2(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.07/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH=68:32)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液2をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例2]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。
【0057】
[例3]
(1)コーティング溶液3の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
パクリタキセル112mgを量りとり、テトラヒドロフラン(THF)2mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液11μLおよび56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液3(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.07/1、溶媒比(体積比);THF=100)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液3をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例3]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。
【0058】
[例4]
(1)コーティング溶液4の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
パクリタキセル168mgを量りとり、無水エタノール(EtOH)1.5mLおよびアセトン1.5mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液30μLおよび56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液4(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.19/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Acetone=13:43.5:43.5)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液4をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例4]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。[例4]のSEM像を
図2に示す。
【0059】
[例5]
(1)コーティング溶液5の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
グリセリン(グリセリン:関東化学、CAS No.56−81−5)1gを量りとり、無水エタノールを加えて総量2gとし、50%グリセリン溶液を調製した。
パクリタキセル112mgを量りとり、テトラヒドロフラン2mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液60μL、50%グリセリン溶液17μL、および56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液5(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.38/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Glycerine=94:3:3)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液5をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例5]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。[例5]のSEM像を
図3に示す。
【0060】
[例6]
(1)コーティング溶液6の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
50%グリセリン溶液は調製例5と同様に調製した。
パクリタキセル112mgを量りとりテトラヒドロフラン2mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液11μL、50%グリセリン溶液6μL、および56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液6(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.07/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Glycerine=97:1.5:1.5)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液6をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例6]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。
【0061】
[例7]
(1)コーティング溶液7の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
50%グリセリン溶液は調製例5と同様に調製した。
パクリタキセル168mgを量りとり、無水エタノール1.5mLおよびアセトン1.5mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液30μL、50%グリセリン溶液15μL、および56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液7(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.19/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Acetone:Glycerine=12:44:41:3)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液7をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例7]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。[例7]のSEM像を
図4に示す。
【0062】
[例8]
(1)コーティング溶液8の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
50%グリセリン溶液は調製例5と同様に調製した。
パクリタキセル168mgを量りとり、無水エタノール1.5mLおよびアセトン1.5mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液11μL、50%グリセリン溶液6μL、および56mg/mLパクリタキセル溶液200μLを加え、混合し、コーティング溶液8(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.07/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Acetone:Glycerine=5:47:46:1.5)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液8をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例8]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。[例8]のSEM像を
図5A、
図5Bに示す。
【0063】
[例9]
(1)コーティング溶液9の調製
70mg/mL TRX−20溶液は、例1と同様に調製した。
50%グリセリン溶液は調製例5と同様に調製した。
パクリタキセル168mgを量りとり、テトラヒドロフラン1.5mLおよびアセトン1.5mLを加え、溶解し、56mg/mLパクリタキセル溶液を調製した。
上記、70mg/mL TRX−20溶液35μL、50%グリセリン溶液24μL、および56mg/mLパクリタキセル溶液600μL、アセトン50μLを加え、混合し、コーティング溶液9(質量比で、TRX−20/PTX(W/W)=0.07/1、溶媒比(体積比);THF:EtOH:Acetone:Glycerine=47:2:49:2)とした。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液9をピペットでコーティングし、バルーンを乾燥させ、薬剤コート層[例9]を有する薬剤溶出バルーンを作製した。
2.薬剤溶出バルーンの薬剤コート層の走査型電子顕微鏡観察(SEM)
乾燥後の薬剤溶出バルーンを適切な大きさに切断後、支持台にのせ、その上から白金蒸着を行った。その後、薬剤コート層[例1]〜[例9]の表面および内部を走査型電子顕微鏡で観察した。薬剤コート層[例1]〜[例9]の詳細を表1に示し、SEM写真を
図1〜
図5A,
図5Bに示す。比較例の[例10]は、INVAtec JAPAN社の市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT)であり、薬剤コート層は非晶質と結晶とが混在していた。SEM写真を
図6A,
図6Bに示す。全体はほぼアモルファスであり、一部、針状結晶のようなものも混在して観測される。
【0064】
(1)第1の薬剤コーティング組成物、第1の薬剤コート層についての実施例は、例1〜例4である。
[例1]〜[例3]は、
図1のSEM写真に代表されるように、コート層全体の表面および内部において板状の非晶質(アモルファス)が優勢であり、平たい板状の構造を有していた。また、表面は凹凸がなく、均質であり、亀裂が存在する部分もあるが、多くの部分が連続的につながったコート層を有する。さらに、コート層内部も均質で、棒状や針状、球状といった結晶は存在しない。
[例4]は、
図2のSEM写真に代表されるように、表面は均質でもなく平らでなく、凹凸が存在し、結晶になりかけの結晶を有する。コート層に隙間がなく、亀裂も存在しない。平らな板状でもなく、輪郭が明確な結晶構造も有さない。
(2)第2の薬剤コーティング組成物、第2の薬剤コート層についての実施例は、例5〜例9である。
[例5]および[例6]は、
図3のSEM写真に代表されるように、網目状になった小さい不完全な結晶を有する。1つ1つの結晶は独立して存在せず、網目状につながっている。網目状につながっている部分には隙間(空間)が存在する。
[例7]は、
図4のSEM写真に代表されるように、棒状もしくは針状結晶を有し、結晶の長尺側がバルーン表面に沿って横たわるように存在する。棒状もしくは針状結晶は1つ1つが独立して存在せず、隣の結晶と接する部分が存在し、結晶と結晶の間には空間のできにくい構造を有する。
[例8]は、
図5Aおよび
図5BのSEM写真に代表されるように、球状結晶が存在し、球状結晶の表面は、立体的でなく表面が押しつぶされたような平らな表面を示す。同心円状よりも非同心状の球状を有するものが多い。1つ1つの球状結晶は密接しているが、互いに独立して存在する。
図5Bのように、表面が板状の非晶質膜で覆われていて、内部に球状結晶が存在する場合もある。
(3)比較例の市販品のIN.PACTは、例10である。
[例10]は、
図6Aおよび
図6Bに示すように、非晶質と結晶とが混在していた。全体はほぼアモルファスであり、一部、針状結晶のようなものも混在して観測される。
【0065】
【表1】
【0066】
3.模倣血管を用いた送達過程における薬剤コート層の耐性評価
例4、5、7、8で作成した薬剤溶出バルーンを用いて、下記の評価1および2を行った。
(評価1)
薬剤コート層を形成したバルーンをラッピングする過程において、どれだけ薬剤が脱落するかを評価するために、ラッピング後のバルーン表面に残存したパクリタキセル量を測定した。残存量(μg)および残存率(質量%)を表2に示す。また、ラッピング後PTX残存率を
図7に示す。
(評価2)
バルーン表面にコーティングされた薬剤コート層が病変患部に送達する過程でどれだけ脱落するかを評価するために、模倣血管を用いて薬剤コート層耐性試験を行った。
図8に示す90度の角度がついている中空の模倣血管1を準備し、その中にガイディングカテーテル2(外径:5Fr)を通した。そのガイディングカテーテル2内を37℃に加温したPBS緩衝液で満たした。
ラッピング後の薬剤溶出バルーンを、PBS(37℃)緩衝液で満たしたガイディングカテーテル2内にガイドワイヤーを通した後にバルーンカテーテル3を挿入して、ガイディングカテーテル2の出口に向かって1分間にわたりデリバリー操作を行った。デリバリー後のバルーン4を回収し、液体クロマトグラフによってバルーン部分に残存したパクリタキセル量を定量した。残存量(μg)および残存率(質量%)を表2に示す。また、(ラッピング+デリバリー)後PTX残存率(質量%)を
図7に示す。
ラッピング操作および送達過程における薬剤コート層の耐性は、いずれの形態型も良好であった。
また、グリセリンを溶媒に用いた場合でも、ラッピング操作および送達過程における薬剤コート層の耐性は良好であった。
【0067】
【表2】