特許第6352279号(P6352279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352279
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ステントの製造方法、および塗布装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20180625BHJP
【FI】
   A61F2/82
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-539216(P2015-539216)
(86)(22)【出願日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2014075130
(87)【国際公開番号】WO2015046168
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200840(P2013-200840)
(32)【優先日】2013年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】黒田 康之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将生
(72)【発明者】
【氏名】武田 和幸
【審査官】 落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0088307(US,A1)
【文献】 特表2009−542318(JP,A)
【文献】 特表2007−525312(JP,A)
【文献】 特表2010−529886(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040218(WO,A1)
【文献】 特表2005−508671(JP,A)
【文献】 米国特許第6395326(US,B1)
【文献】 国際公開第01/91918(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/114585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
A61F 2/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が被覆される第1と第2のメインストラット部と、前記第1と第2のメインストラット部の間に形成された湾曲部とを少なくとも有する波状のストラットから構成される環状体を有するステントに、薬剤を被覆する薬剤被覆工程を有しており、
前記薬剤被覆工程は、前記薬剤とポリマーとが溶媒に溶解されている塗布液を吐出させるノズルを、前記第1のメインストラット部に沿って移動させることによって前記第1のメインストラット部の外側表面に前記薬剤を被覆させ、前記ノズルが前記湾曲部に到着した際に、前記ノズルの位置が前記第1のメインストラット部に前記塗布液を吐出しているときよりも前記ストラットから遠くなるように前記ノズルを離反移動させ、前記湾曲部を通り越して前記ノズルを前記第2のメインストラット部へ向けて移動させることによって前記湾曲部に前記薬剤が塗布されることを防止する未被覆部形成工程を有しており、
前記未被覆部形成工程において、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルに付着する前記塗布液の付着量を減少させることにより前記第2のメインストラット部の側面に前記塗布液が塗布されるのを抑制することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項2】
前記未被覆部形成工程において、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルからの前記塗布液の吐出量を変化させることを特徴とする請求項1に記載のステントの製造方法。
【請求項3】
前記未被覆部形成工程において、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルを閉塞することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステントの製造方法。
【請求項4】
前記未被覆部形成工程において、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルに付着した前記塗布液を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項5】
前記薬剤被覆工程において、
前記第1のメインストラット部および前記第2のメインストラット部の前記薬剤の被覆層の厚さが前記湾曲部に向って漸減するように、前記ノズルを前記ストラットに沿って移動させながら前記ノズルから前記塗布液を吐出させて前記薬剤の被覆層の厚みを調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項6】
前記環状体は、前記ステントの軸方向に沿って複数並置されており、
前記ストラットは、隣接する環状体間を一体化するためのリンク部をさらに有し、
前記薬剤被覆工程において、前記ノズルが前記リンク部に到着した際に前記リンク部を通り越すように前記ノズルを移動させることによって前記リンク部に前記薬剤が塗布されることを防止する未被覆部形成工程をさらに実施し、当該未被覆部形成工程において前記ノズルに付着する前記塗布液の付着量を減少させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項7】
前記ノズルが前記第1のメインストラット部から離れる際は前記塗布液の供給は続いており、前記湾曲部を通り越して移動中に前記塗布液の供給を停止し、前記第2のメインストラット部に到着する前に前記塗布液の供給を再開することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項8】
薬剤が被覆される第1と第2のメインストラット部と、前記第1と第2のメインストラット部の間に形成された湾曲部とを少なくとも有する波状のストラットから構成される環状体を有するステントに、薬剤を被覆する塗布装置であって、
前記ステントが保持される保持具と、
前記薬剤とポリマーとが溶媒に溶解されている塗布液を吐出させるノズルと、
前記ステントの所定の部位に前記塗布液が塗布されるように、前記保持具と前記ノズルを相対的に移動させる移動手段と、
当該装置の各部の動作を制御する制御部と、を有しており、
前記第1のメインストラット部に沿って前記ノズルを移動させることによって前記第1のメインストラット部の外側表面に前記薬剤を被覆させ、前記ノズルが前記湾曲部に到着した際に、前記ノズルの位置が前記第1のメインストラット部に前記塗布液を吐出しているときよりも前記ストラットから遠くなるように前記ノズルを離反移動させ、前記湾曲部を通り越して前記ノズルを前記第2のメインストラット部へ向けて移動させることによって前記湾曲部に前記薬剤が塗布されることを防止し、かつ、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルに付着する前記塗布液の付着量を減少させることにより前記第2のメインストラット部の側面に前記塗布液が塗布されるのを抑制することを特徴とする塗布装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルからの前記塗布液の吐出量を変化させることを特徴とする請求項8に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記ノズルに付着した前記塗布液の付着量を減少させる塗布液減少手段をさらに有する請求項8または請求項9に記載の塗布装置。
【請求項11】
前記塗布液減少手段は、前記ノズルを閉塞するノズル閉塞部を有することを特徴とする請求項10に記載の塗布装置。
【請求項12】
前記塗布液減少手段は、前記ノズルに付着した前記塗布液を除去する塗布液除去部を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の塗布装置。
【請求項13】
前記塗布液除去部は、前記ノズルを洗浄する洗浄部、前記塗布液をかき取る捕集部、および前記塗布液を吸引もしくは排出する吸引排出部のうちの少なくとも一つを有する請求項12に記載の塗布装置。
【請求項14】
前記環状体は、前記ステントの軸方向に沿って複数並置されており、
前記ストラットは、隣接する環状体間を一体化するためのリンク部をさらに有し、
当該塗布装置は、前記ノズルが前記リンク部に到着した際に前記リンク部を通り越すように前記ノズルを移動させることによって前記リンク部に前記薬剤が塗布されることを防止し、かつ、前記ノズルが前記リンク部を通り越して移動している間に前記ノズルに付着する前記塗布液の付着量を減少させることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項15】
前記ノズルが前記第1のメインストラット部から離れる際は前記塗布液の供給は続いており、前記湾曲部を通り越して移動中に前記塗布液の供給を停止し、前記第2のメインストラット部に到着する前に前記塗布液の供給を再開することを特徴とする請求項8〜14のいずれか1項に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントの製造方法、および塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、湾曲部を有する波状のストラットから構成される環状体が、軸方向に複数配置され、隣接する環状体間はリンク部を介して一体化されている網目状の円筒体からなる医療用具であり、例えば、心筋梗塞あるいは狭心症に用いられる経皮的冠状動脈血管形成術(PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty,PCI:Percutaneous Coronary
Intervention)後の再狭窄防止のために適用される。
【0003】
薬剤が被覆されていない、いわゆるベアメタルステントの適用は、ステントを全く使用しないPTCA、PCIのみの場合と比べて再狭窄率は低いものの、ステント留置部に約20〜30%の割合で再狭窄が起こることが認められる。再狭窄の主な原因は、血管平滑筋細胞の遊走・増殖による内膜肥厚である。そのため、ステントの外側表面に、血管平滑筋細胞の遊走・増殖を抑制しうる薬剤を被覆し、ステント留置部位で薬剤を溶出させて再狭窄を防止する薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent:DES)の開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているように、薬剤の被覆は、薬剤と生体適合性ポリマーを溶媒に溶解した塗布液を、スプレーノズルによってストラットの外側表面に沿って吐出し、乾燥固化することによって実施される。
【0005】
一般的に、ステントは、管腔内の目的部位に到達させて留置する際に拡張変形される。そのため、拡張変形に伴って、ストラットの湾曲部の外側表面に形成されている薬剤の被覆層に応力が集中して歪が発生することで、薬剤の被覆層が剥離あるいは脱落するという問題が生じる。
【0006】
このような問題に対して、特許文献2に記載されたステントでは、湾曲部を薬剤が被覆されていない無コート層とすることにより、被覆層の剥離や脱落が生じることを防止している。また、無コート層を形成する方法として、薬剤を吐出するノズルが湾曲部に到着した際に、ノズルを湾曲部から離反移動(ジャンプ)させることにより、湾曲部に薬剤が塗布されることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011−502723号公報
【特許文献2】国際公開第2011/040218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような方法を採用する場合、湾曲部に薬剤が塗布されることを好適に防止し得るものの、ノズルを離反移動させている間に当該ノズルに薬剤が貯留されてしまうため、湾曲部を経由した直後には薬剤が過剰に吐出されてしまう。例えば、薬剤が本来塗布されるべき部位である外側表面のみならず、側面部にまで塗布されてしまうこともあるため、薬剤の薬効の均一性の低下や製造時の歩留りの低下などが懸念される。
【0009】
そこで、本発明は、ステントの拡張変形に伴う応力集中あるいは歪に起因する薬剤の剥離あるいは脱落が抑止され、かつ薬効の均一性および製造時の歩留まりがより一層向上されたステントの製造方法、および塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、薬剤が被覆される第1と第2のメインストラット部と、前記第1と第2のメインストラット部の間に形成された湾曲部とを少なくとも有する波状のストラットから構成される環状体を有するステントに、薬剤を被覆する薬剤被覆工程を有しており、前記薬剤被覆工程は、前記薬剤とポリマーとが溶媒に溶解されている塗布液を吐出させるノズルを、前記第1のメインストラット部に沿って移動させることによって前記第1のメインストラット部の外側表面に前記薬剤を被覆させ、前記ノズルが前記湾曲部に到着した際に、前記ノズルの位置が前記第1のメインストラット部に前記塗布液を吐出しているときよりも前記ストラットから遠くなるように前記ノズルを離反移動させ、前記湾曲部を通り越して前記ノズルを前記第2のメインストラット部へ向けて移動させることによって前記湾曲部に前記薬剤が塗布されることを防止する未被覆部形成工程を有しており、前記未被覆部形成工程において、前記ノズルが前記湾曲部を通り越して移動している間に前記ノズルに付着した前記塗布液の付着量を減少させることにより前記第2のメインストラット部の側面に前記塗布液が塗布されるのを抑制することを特徴とするステントの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造されたステントのストラットの湾曲部(拡張変形に伴って応力が集中したり、歪が発生したりする部位)には、薬剤被覆層が形成されていないため、薬剤被覆層に応力集中あるいは歪が発生することが回避される。また、ノズル部が湾曲部を通過する際に、ノズルに付着(貯留)した塗布液の付着量を減少させることができるため、メインストラット部の外側表面以外の部位に薬剤が塗布されることを好適に防止することができる。したがって、ステントの拡張変形に伴う応力集中あるいは歪に起因する薬剤の剥離あるいは脱落が抑止され、かつ薬効の均一性および製造時の歩留まりがより一層向上されたステントの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係るステントが適用されるステントデリバリーシステムを説明するための概略図である。
図2図1に示されるステントの平面図である。
図3図1に示されるステントの拡大図である。
図4図3に示されるストラットの湾曲部を説明するための平面図である。
図5図3に示されるストラットの湾曲部を説明するための断面図である。
図6図3に示される環状体のリンク部を説明するための平面図である。
図7図4図6に示される薬剤被覆層を説明するための断面図である。
図8図1に示されるステントの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の第1実施形態に係る塗布装置を説明するための正面図である。
図10】第1実施形態に係る塗布装置を説明するための要部側面図である。
図11】第2塗布ヘッドのノズルの塗布経路を説明するための平面図である。
図12】第2塗布ヘッドのノズルの動作を説明するための側面図である。
図13】薬剤被覆工程を説明するためのフローチャートである。
図14図13に示される撮像工程を説明するためのフローチャートである。
図15図13に示される塗布経路設定工程を説明するためのフローチャートである。
図16図13に示される第1塗布工程を説明するためのフローチャートである。
図17図13に示される第2塗布工程を説明するためのフローチャートである。
図18】本発明の第2実施形態に係る塗布装置を説明するための部分拡大図である。
図19図19は、本発明の第3実施形態に係る塗布装置を説明するための部分拡大図であって、(A)は、洗浄部を備える塗布装置を示す図であり、(B)は、変形例に係る洗浄部を備える塗布装置を示す図である。
図20図20は、本発明の第4実施形態に係る塗布装置を説明するための部分拡大図であって、(A)は、捕集部を備える塗布装置を示す図であり、(B)は、吸引排出部を備える塗布装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るステントが適用されるステントデリバリーシステムを説明するための概略図である。
【0015】
<第1実施形態>
本発明の実施の形態に係るステント10は、その外側表面に薬剤が被覆された薬剤溶出性ステント(DES)からなり、狭窄部の内面に密着させて留置されることで管腔を保持する生体内留置物として機能し、例えば、図1に示されるステントデリバリーシステム100に適用され、経皮的冠動脈形成術(PTCA、PCI)後の再狭窄防止を目的とした治療に利用される。
【0016】
ステントデリバリーシステム100は、ガイドワイヤー150が先端部のみを通る構造を有するラピッドエクスチェンジ(RX)タイプであり、ステント10に加えて、ハブ110、基端シャフト120、中間シャフト122、先端シャフト124、バルーン130、内管シャフト140を有する。
【0017】
ハブ110は、補助装置を連結するためのルアーテーパーが形成された開口部112を有し、また、基端シャフト120と液密を保った状態で接合されている。補助装置は、例えば、バルーン拡張流体を供給するためのインデフレーター(圧力印加装置)である。バルーン拡張流体は、水、生理食塩水、電解質溶液等である。
【0018】
基端シャフト120は、ハブ110の開口部112と連通するルーメンを有し、また、中間シャフト122と液密を保った状態で接合されている。中間シャフト122は、基端シャフト120のルーメンと連通するルーメンを有し、先端シャフト124と液密を保った状態で接合されている。先端シャフト124は、中間シャフト122のルーメンと連通するルーメンを有し、バルーン130が液密を保った状態で接続されている。中間シャフト122と先端シャフト124との境界には、ガイドワイヤー150を内部に導入するためのガイドワイヤーポート152が設けられている。
【0019】
バルーン130は、その外周にステント10が配置され、また、先端シャフト124のルーメンと連通している。バルーン130は、折り畳まれた状態(あるいは収縮された状態)で配置され、伸張自在であり、先端シャフト124のルーメンは、中間シャフト122のルーメンおよび基端シャフト120のルーメンを経由して、ハブ110の開口部112に連通しているため、ハブ110の開口部112から導入されるバルーン拡張流体は、バルーン130内部に到達することが可能である。つまり、バルーン130内部にバルーン拡張流体を導入し、バルーン130を伸張させることによって、その外周に配置されるステント10を拡張して、拡径することが可能である。
【0020】
内管シャフト140は、先端シャフト124と中間シャフト122との境界から先端シャフト124の内部に液密を保った状態で導入され、先端シャフト124のルーメンおよびバルーンを貫通し、その先端部は、バルーン130から液密を保った状態で突出しており、ガイドワイヤーポート152と、先端部端面に位置する開口部142とを連通するルーメンを有する。当該ルーメンは、ガイドワイヤー150を挿通するために使用される。
【0021】
ステントデリバリーシステム100によるステント10の留置は、例えば、以下のように実施される。
【0022】
まず、ステントデリバリーシステム100の先端部を、患者の管腔に挿入し、内管シャフト140の開口部142から突出させたガイドワイヤー150を先行させながら、目的部位である狭窄部に位置決めする。そして、ハブ110の開口部112からバルーン拡張流体を導入して、バルーン130を伸張させて、ステント10の拡張および塑性変形を引き起こし、狭窄部に密着させる。
【0023】
その後、バルーン130を減圧して収縮させることにより、ステント10とバルーン130との係合を解除し、ステント10をバルーン130から分離する。これにより、ステント10は狭窄部に留置される。そして、ステント10が分離されたステントデリバリーシステム100は、後退させられ、管腔から取り除かれる。
【0024】
次に、各部の構成材料等を説明する。
【0025】
ステント10は、生体適合性を有する材料から構成される。生体適合性を有する材料は、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、スズ、タンタルもしくはタンタル合金、プラチナもしくはプラチナ合金、金もしくは金合金、チタン合金、ニッケル−チタン合金、コバルトベース合金、コバルト−クロム合金、ステンレス鋼、亜鉛−タングステン合金、ニオブ合金等である。
【0026】
ステント10の外側表面に被覆される薬剤(生理活性物質)は、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、NO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0027】
ハブ110の構成材料は、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂である。
【0028】
基端シャフト120の構成材料は、比較的大きな剛性を有する金属材料、例えば、ステンレス鋼、ステンレス延伸性合金、Ni−Ti合金、真鍮、アルミニウムである。必要に応じて、比較的大きな剛性を有する樹脂材料、例えば、ポリイミド、塩化ビニル、ポリカーボネートを適用することも可能である。
【0029】
基端シャフト120の外径は、0.3〜3mm、好ましくは、0.5〜1.5mmである。基端シャフト120の肉厚は、10〜150μm、好ましくは、20〜100μmである。基端シャフト120の長さは、300〜2000mm、好ましくは、700〜1500mmである。
【0030】
中間シャフト122および先端シャフト124の構成材料は、例えば、ポリオレフィン、ポリオレフィンの架橋体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、フッ素樹脂、ポリイミドなどの高分子材料またはこれらの混合物である。ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、またはこれら二種以上の混合物である。
【0031】
先端シャフト124および中間シャフト122の外径は、0.5〜1.5mm、より好ましくは0.7〜1.1mmである。先端シャフト124および中間シャフト122の肉厚は、25〜200μm、より好ましくは50〜100μmである。先端シャフト124および中間シャフト122の長さは、300〜2000mm、より好ましくは300〜1500mmである。
【0032】
バルーン130の構成材料は、可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリオレフィン、ポリオレフィンの架橋体、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、フッ素樹脂などの高分子材料、シリコーンゴム、ラテックスゴムである。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレートである。バルーン130の構成材料は、上記高分子材料を単独で利用する形態に限定されず、例えば、上記高分子材料を適宜積層したフィルムを適用することも可能である。
【0033】
バルーン130の円筒部分の外径は、伸張された場合において、1.0〜10mm、好ましくは1.0〜5.0mmとなるように設定される。バルーン130単独の長さは、5〜50mm、好ましくは10〜40mmである。バルーン130全体の長さは、10〜70mm、好ましくは15〜60mmである。
【0034】
内管シャフト140の構成材料は、可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリオレフィン、ポリオレフィンの架橋体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂などの高分子材料またはこれらの混合物である。
【0035】
内管シャフト140の外径は、0.1〜1.0mm、好ましくは0.3〜0.7mmである。内管シャフト140の肉厚は、10〜150μm、好ましくは20〜100μmである。内管シャフト140の長さは、100〜2000mm、好ましくは200〜1500mmである。
【0036】
ステントデリバリーシステムは、ラピッドエクスチェンジタイプに限定されず、オーバーザワイヤ(OTW)タイプに適用することも可能である。この場合、ガイドワイヤーが先端から手元まで通る構造であるため、ガイドワイヤーの交換や操作性が良好となる。また、ステントデリバリーシステムは、心臓の冠動脈に生じた狭窄部に適用する形態に限定されず、その他の血管、胆管、気管、食道、尿道等に生じた狭窄部に適用することも可能である。
【0037】
次に、ステント10を詳述する。
【0038】
図2および図3は、図1に示されるステントの平面図および拡大図、図4および図5は、図3に示されるストラットの湾曲部を説明するための平面図および断面図、図6は、図3に示される環状体のリンク部を説明するための平面図、図7は、図4図6に示される薬剤被覆層を説明するための断面図である。なお、図6において、ストラットの湾曲部は、直状に変形して示している。
【0039】
本発明の実施の形態に係るステント10は、図2および図3に示されるように、ストラット30から構成される環状体20を有する。ストラット30は、直線または曲線で構成されたメインストラット部32、33(第1のメインストラット部、第2のメインストラット部に相当する。)と、各メインストラット部32、33の間に形成された湾曲部31を複数有しており、波状である。環状体20は、ステント10の軸方向Sに沿って順次並置されており、隣接する環状体20間が、リンク部22によって一体化されている。したがって、環状体20の数を増減することによって、所望の長さのステントを容易に得ることが可能である。
【0040】
ステント10がバルーン130に装着された状態の非拡張時におけるストラット30が占める面積は、ステント10の外周の面積の60〜80%であることが好ましい。ストラット30の幅は、40〜150μmが好ましく、80〜120μmがさらに好ましい。メインストラット部32,33の長さは、0.5〜2.0mmが好ましく、0.9〜1.5mmがさらに好ましい。非拡張時におけるステント10の直径は、0.8〜2.5mmが好ましく、0.9〜2.0mmがより好ましい。非拡張時におけるステント10の長さは、8〜40mm程度が好ましい。
【0041】
ステント10の外側表面に被覆される薬剤は、ポリマーに担持されて薬剤被覆層42を構成している。ポリマーは、生分解性ポリマーであることが好ましい。この場合、生体内にステント10を留置した後、ポリマーが生分解され、薬剤が徐放されるため、ステント留置部での再狭窄が確実に防止される。
【0042】
生分解性ポリマーは、例えば、ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つの重合体、前記重合体を構成する単量体が任意に共重合されてなる共重合体、並びに前記重合体および/または前記共重合体の混合物である。脂肪族ポリエステルは、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)である。
【0043】
薬剤被覆層42は、図4図6に示されるように、メインストラット部32、33の外側表面34、37に配置されている。つまり、ストラット30の湾曲部31およびリンク部22(拡張変形に伴って応力が集中および/又は歪が発生する部位)には、薬剤が被覆されず、薬剤被覆層42が形成されていないため、薬剤被覆層42に応力集中および/又は歪が発生することが回避される。
【0044】
また、湾曲部31からの影響を受け易いメインストラット部32、33の端部は、外側表面34のみに薬剤が被覆されて薬剤被覆層42が形成されているため、薬剤被覆層42の耐剥離性が向上し、かつ、非薬剤被覆部位(湾曲部)の存在による薬効の均一性に対する影響が軽減される。したがって、良好な薬効の均一性を有し、かつ、ステント10の拡張変形に伴う応力集中および/又は歪に起因する薬剤の剥離あるいは脱落を抑止することが可能である。
【0045】
なお、薬剤被覆層42とステント10の外側表面との間には、プライマー被覆層40が配置されている。プライマー被覆層40を構成するプライマーは、薬剤被覆層42に含まれるポリマーに対する接着性およびステント10の外側表面に対する接着性を考慮して、選択されており、プライマー被覆層40の存在により、薬剤被覆層42の耐剥離性が向上している。プライマー被覆層40は、必要に応じて省略することも可能である。
【0046】
メインストラット部32、33の端部における薬剤被覆層42の厚さは、図7に示されるように、湾曲部31(およびリンク部22)に向って階段状に漸減している。したがって、薬剤被覆層42の厚さを増加させた場合であっても、湾曲部31およびリンク部22の近傍に位置する薬剤被覆層42の厚みは薄いため、薬剤被覆層42の増加に起因する応力集中および/又は歪の発生が軽減され、薬剤の剥離あるいは脱落が抑止されるため、薬剤の必要量を容易に確保することが可能である。
【0047】
薬剤被覆層42における漸減している部位の傾斜角θは、90度未満であり、好ましくは1〜60度、さらに好ましくは1〜45度である。例えば、傾斜角θが、1度未満以下の場合、広範囲にわたり薬剤の脱落抑制効果が発揮されるものの、被覆される薬剤量が減少し、また、60度を超える場合、薬剤の脱落抑制効果が低下する可能性があるためである。
【0048】
薬剤被覆層42は、後述するように、薬剤およびポリマーが溶媒に溶解されて調製された塗布液aを重ね塗りすることによって形成されており、重ね塗り層44の長さを順次異ならせることによって、薬剤被覆層42の厚みを漸減させている。重ね塗り層44の厚みTは、1〜5μmが好ましい。重ね塗り層44の厚みTは、同一である形態に限定されない。重ね塗り層44の積層数は、2〜50層が好ましい。隣接する重ね塗り層44における長さの差Dは、1〜1000μmが好ましい。長さの差Dは、同一である形態に限定されない。
【0049】
次に、ステント10の製造方法を説明する。
【0050】
図8は、図1に示されるステントの製造方法を説明するためのフローチャートである。ステント10の製造方法は、図8に示されるように、粗成形工程、仕上げ工程、熱処理工程、薬剤被覆工程および乾燥工程を有する。
【0051】
粗成形工程においては、ステント素材である金属管体から、ステントの空隙部に対応する部位を除去することで、ストラットから構成される環状体と、隣接する環状体間を一体化するリンク部とが形成される。ステントの空隙部に対応する部位の除去は、フォトファブリケーションと呼ばれるマスキングと化学薬品を使用したエッチング方法、型による放電加工法、切削加工法等が適宜適用されて実行される。切削加工法は、例えば、機械研磨やレーザー切削加工である。
【0052】
仕上げ工程においては、例えば、化学研磨あるいは電解研磨を適用することによって、ストラットのエッジが除去され、滑らかな面となるように仕上げられる。
【0053】
熱処理工程においては、ステントの柔軟性および可撓性を向上させるため、焼なましが実施される。これにより、湾曲した血管内でのステントの留置性が良好となり、血管内壁に与える物理的な刺激も減少し、再狭窄の要因を減少させることが可能である。焼きなましは、ステント表面に酸化被膜が形成されないように、不活性ガス雰囲気下において、900〜1200℃に加熱したのち、徐冷することが好ましい。不活性ガスは、例えば、窒素と水素の混合ガスである。熱処理工程は、必要に応じて適宜省略することも可能である。
【0054】
薬剤被覆工程においては、プライマーおよび薬剤が被覆される。なお、薬剤の被覆は、湾曲部31を避けて、メインストラット部32、33の外側表面34、37のみに実施される(図4図6参照)。薬剤は、ポリマーと共に溶媒に溶解されて塗布液aの形態で利用される。溶媒は、例えば、アセトン、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフランである。
【0055】
乾燥工程においては、溶媒を揮発させ、薬剤とポリマーによって構成される薬剤被覆層42が形成されて、ステント10が製造される。
【0056】
製造されたステント10においては、ストラット30の湾曲部31およびリンク部22(拡張変形に伴って応力が集中および/又は歪が発生する部位)には、薬剤が被覆されず、薬剤被覆層42が形成されていないため、上述のように、良好な薬効均一性を有し、かつ、ステント10の拡張変形に伴う応力集中および/又は歪に起因する薬剤の剥離あるいは脱落を抑止することが可能である。
【0057】
次に、薬剤被覆工程に適用される塗布装置および薬剤被覆工程を順次詳述する。
【0058】
図9および図10は、図8に示される薬剤被覆工程に適用される塗布装置を説明するための正面図および要部側面図、図11および図12は、図10に示される塗布ヘッドのノズルの塗布経路を説明するための平面図およびノズルの動作を説明するための側面図である。
【0059】
塗布装置200は、チャンバ210、保持具220、移動装置230、第1塗布ヘッド240、第2塗布ヘッド245、第1位置情報取得装置270、第2位置情報取得装置280および制御部290を有する。
【0060】
チャンバ210は、基台212と、基台212上に配置されるメインフレーム214と、頂部に連結されたダクト216とを有する。メインフレーム214は、外面から透明な合成樹脂プレートにより覆われており、チャンバ210の内部を気密状態としている。ダクト216には、空気調和装置218が連結されている。空気調和装置218は、温度および湿度が調整された空気をチャンバ210に供給する。したがって、チャンバ210の内部を恒温恒湿の状態に維持し、塗布条件を一定とすることが可能である。なお、符号215は、メインフレーム214に横架された支持フレームを示している。
【0061】
保持具220は、チャンバ210内部の下方に配置され、ステント10を保持するために使用され、基部222、チャック部224、モータ226およびマンドレル228を有する。
【0062】
基部222は、移動装置230に載置されており、後述されるように、X−Y方向に移動可能であり、チャック部224およびモータ226が配置されている。チャック部224は、マンドレル228の基端をチャッキングするために使用される。モータ226は、チャック部224を正逆回転可能に構成されている。マンドレル228は、ステント10が脱着可能に構成された外周を有する。したがって、保持具220は、マンドレル228に装着されたステント10を正逆回転、X方向移動、Y方向移動させることが可能である。
【0063】
マンドレル228の外径は、ステント10の内径と略同一あるいは若干大きいことが好ましい。マンドレル228は、ステント10のストラット30と空隙部とのコントラスト比を高めるため、光を吸収する黒色塗料で塗装されていることが好ましい。マンドレル228の外周面には、ステント10をマンドレル228に装着した際に、マンドレル228の外周面とステント10のストラット30の下面との間に隙間を生じさせる凹部が形成されていることが好ましい。この場合、プライマー液および塗布液aをストラット30上に塗布したとき、プライマー液および塗布液aがマンドレル228の表面とステント10の内側表面との間に回り込むことが防止されるため、プライマー被覆層および薬剤被覆層の厚みの均一性および作業の利便性が向上する。マンドレル228は、交換可能であることが好ましい。この場合、外径のサイズが異なるマンドレル228を準備することで、多様な内径を有するステント10に対して対応可能となる。
【0064】
移動装置(移動手段に相当する)230は、保持具220をX−Y方向へ移動させるために使用され、X方向移動機構231およびY方向移動機構236を有する。
【0065】
X方向移動機構231は、X方向に延長し、かつ、リニアモータ式の駆動源を有する走行レール233と、走行レール233に沿って移動するX方向移動テーブル234とを有する。Y方向移動機構236は、Y方向に延長する走行レール237と、走行レール237に沿って移動するY方向移動テーブル238と、Y方向移動テーブル238を駆動するモータ239とを有する。走行レール237は、X方向移動テーブル234に載置されており、保持具220の基部222は、Y方向移動テーブル238に載置されている。
【0066】
第1塗布ヘッド240は、チャンバ210内部の中間部に配置され、薬剤およびポリマーが溶媒に溶解されて調製された塗布液aを塗布するために使用され、ディスペンサ252、垂直テーブル253、ブラケット258およびノズル部262を有する(図10参照)。
【0067】
ディスペンサ252は、シリンダ部255、ピストン部256および駆動部257を有し、垂直テーブル253に取り付けられている。垂直テーブル253は、ブラケット258を介して、チャンバ210の支持フレーム215に取り付けられており、モータ254により駆動されるねじ送り機構によって、ディスペンサ252をZ方向に移動可能に構成されている。
【0068】
シリンダ部255は、塗布液aが貯留された容器であり、垂直テーブル253に取り付けられている。ピストン部256は、シリンダ部255内に摺動可能に配置されている。駆動部257は、例えば、モータあるいは液圧機構を有しており、ピストン部256を所定の力で押圧可能に構成されている。
【0069】
ノズル部262は、シリンダ部255に連通しており、取付部材264およびノズル266を有する。取付部材264は、シリンダ部255の下端に配置され、ノズル266をシリンダ部255に連結するために使用される。
【0070】
ノズル266の先端外径は、10〜1000μmが好ましい。ノズル266の先端内径(開口部266aの内径)は、1〜500μmが好ましく、5〜250μmがより好ましい。例えば、ノズル266の先端内径が5μm未満の場合、塗布液aが円滑に流出せず、また、吐出に大きな圧力を要することがあり、250μmを超える場合、塗布液aを円滑に塗布できない虞があるためである。ノズル266の内面は、吐出された塗布液aの付着を防止するため、研磨することによって表面の凹凸を小さくすることが好ましい。
【0071】
塗布液aの粘度は、0.1〜10cpが好ましく、1.0〜4.0cpがより好ましい。例えば、塗布液aの粘度が前記範囲の上限より大きいと、塗布液aの吐出圧が過度に大きくなったり、ノズル266から吐出できなくなったりする場合があり、また、前記範囲の下限より小さいと、吐出された塗布液aの一部が、ステント10(ストラット30)表面から垂れ落ちて、均一な塗布層を形成することが困難となるためである。
【0072】
ノズル266とステント10(ストラット30)表面との間隔Gは、塗布液aを良好な制御性で定量的に吐出するためには(薬液の量的調製を精度よく確実に実行するためには)、0.1〜200μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。例えば、間隔Gが前記範囲の上限より大きいと、塗布液が途切れる虞があり、前記範囲の下限より小さいと塗布液aがステント10(ストラット30)表面から垂れ落ちる虞があるためである。
【0073】
第2塗布ヘッド245は、チャンバ210内部の中間部に配置され、プライマー液を塗布するために使用される。第2塗布ヘッド245は、シリンダ部255にプライマー液が貯留されていることを除けば、第1塗布ヘッド240と略同一のため、その説明は省略する。
【0074】
第1位置情報取得装置270は、ステント10(ストラット30)表面における直交座標系でのX−Y方向の位置情報を取得するために設けられている撮像手段であり、支持フレーム215にブラケット272を介して取り付けられている。第1位置情報取得装置270は、カメラ部274と、ステント10の軸方向に伸延するように配置されたラインセンサ部とを有する。ラインセンサ部は、保持具220のマンドレル228に取り付けられたステント10の回転と同期してステント10表面を走査し、ステント10表面の画像データを取得し、制御部290に送信するために使用される。
【0075】
第2位置情報取得装置280は、ステント10(ストラット30)表面における直交座標系でのZ方向の位置情報を取得するために設けられているZ方向の変位測定手段であり、支持フレーム215に取り付けられたブラケット282の下端に固定され、レーザー変位センサ284を有する。レーザー変位センサ284は、ストラット30のZ方向の変位を測定するバーチカルセンサであり、ステント10を正逆回転させつつストラット30の中心を通る軌道に沿って走査し、ステント10全体のZ方向の変位データを取得し、制御部290に送信するために使用される。測定開始点は、特に限定されないが、例えば、塗布開始位置と一致させる。
【0076】
制御部290は、チャンバ210の外部に配置されており、例えば、プログラムにしたがって上記各部の制御や各種の演算処理を実行するマイクロプロセッサ、各種設定やデータを記憶するメモリー、各種設定やデータを表示するモニター、各種設定やデータを入力するキーボード等を有し、保持具220、移動装置230、第1塗布ヘッド240、第2塗布ヘッド245、第1位置情報取得装置270および第2位置情報取得装置280を制御するために使用される。
【0077】
演算処理は、例えば、X−Y方向の位置情報を取得するための処理、Z方向の位置情報を取得するための処理、ノズル266による塗布経路を設定するための処理である。
【0078】
X−Y方向の位置情報を取得するための処理においては、ストラット30の輝度が高く、空隙部の輝度が低いことに基づき、第1位置情報取得装置270から取得されるステント10表面の画像データを、適当な輝度で2値化することにより、ストラット30と空隙部とに分離し、ストラット30のX−Y座標つまり直交座標系でのX−Y方向の位置情報に変換され、メモリーに保存される。得られたX−Y方向の位置情報は、ストラット30の中心を通る軌道の座標を算出するために使用され、得られた軌道の座標は、メモリーに保存される。塗布液aの塗布に当って、ストラット30から外れることなく行われることが肝要であり、ストラット30の中心を特定することは極めて重要であるためである。
【0079】
Z方向の位置情報を取得するための処理においては、第2位置情報取得装置280から取得されるステント10全体のZ方向の変位データが、ストラット30表面の直交座標系でのZ方向の位置情報に変換されて、メモリーに保存される。ストラット30は、厳密には表面が平滑なものではなく、凹凸を有している。したがって、塗布液aを量的に精密に塗布するためには、Z方向の位置情報に基づき、ノズル266の先端が、ストラット30の表面に厳密に平行となるように移動し、所定量の塗布液aを塗布するように制御することが必要であるためである。
【0080】
ノズル266による塗布経路を設定するための処理においては、ストラット30(メインストラット部32、33、湾曲部31およびリンク部22)の直交座標系でのX−Y方向の位置情報およびZ方向の位置情報を利用して、ストラット30に沿って連続的に塗布するための設定が算出される。
【0081】
塗布液aの塗布経路は、例えば、図11に示されるように、拡張変形に伴って応力が集中および/又は歪が発生する部位(ストラット30の湾曲部31およびリンク部22)を避けて、ストラット30のメインストラット部32、33を連続的に塗布するように設定される。
【0082】
なお、プライマー被覆層の厚みは薄くかつストラット30との耐剥離性が良好であるため、プライマー液の塗布経路は、ストラット30全体を連続的に塗布するように設定される。
【0083】
塗布経路は、重複する区間がないことが好ましいが、ストラット30が複雑に交差しているステントでは、重複する区間が存在しないように設定することが困難な場合もある。このような場合、重複する区間における移動速度を、重複しない区間の移動速度より大きくすることで、重複する区間における塗布厚みと、重複布しない区間における塗布厚みとの差異を減少させることが可能である。
【0084】
塗布経路に沿った移動は、複数回繰り返すことが可能である。この場合、例えば、塗布経路を逆走させる(移動方向を反転させる)ことを交互に繰り返すことによって、薬剤塗布層の厚みが増加するため、薬剤の必要量を容易に確保することが可能である。
【0085】
次に、薬剤被覆工程を詳述する。
【0086】
図13は、図8に示され薬剤被覆工程を説明するためのフローチャート、図14図15図16および図17は、図13に示される撮像工程、塗布経路設定工程、第1塗布工程および第2塗布工程を説明するためのフローチャートである。
【0087】
薬剤被覆工程は、図13に示されるように、準備工程、撮像工程、塗布経路設定工程、第1塗布工程および第2塗布工程を有する。
【0088】
準備工程においては、空気調和装置218を作動し、塗布装置200のチャンバ210内を恒温恒湿の状態とする。そして、第1塗布ヘッド240および第2塗布ヘッド245を、垂直テーブル253およびブラケット258を介して、チャンバ210の支持フレーム215に取り付ける。また、ステント10をマンドレル228に装着した後、待機位置にある保持具220のチャック部224に取り付け、所定位置に位置決めする。
【0089】
次に、図14を参照し、撮像工程を説明する。
【0090】
まず、制御部290は、撮像パラメータの入力を受付け、入力された撮像パラメータをメモリーに記憶する(ステップS11)。撮像パラメータは、例えば、塗布装置200のオペレータによってキーボードを使用して入力され、マンドレル228の回転速度、第1位置情報取得装置270のラインセンサ部による撮影ライン数、撮影ライン幅、撮影速度を含んでいる。
【0091】
制御部290は、X方向移動機構231を作動させる(ステップS12)。これにより、保持具220は、走行レール233に沿って待機位置から第1位置情報取得装置270の下方の所定位置に移動する。制御部290は、保持具220が所定位置に到達したことを確認し(ステップS13:Yes)、保持具220のモータ226を作動させて、マンドレル228(ステント10)を回転させる(ステップS14)。
【0092】
第1位置情報取得装置270のラインセンサ部は、ステント10の表面を走査し、表面パターンを撮像する(ステップS15)。撮像された画像は、撮像パラメータに基づいて合成され、平面展開画像として制御部290のメモリーに記憶される。平面展開画像は、必要に応じて、モニターに出力し、目視により確認できるように構成することも可能である。
【0093】
制御部290は、ステント10の平面展開画像を、所定の閾値によって白黒の2値化画像に変換し(ステップS16)、ストラット30の画像を抽出して、ストラット30の形状データを算出し、また、ストラット30の幅の細線化処理によりストラット30の中心を通る軌道の座標データを取得する(ステップS17)。
【0094】
次に、図15を参照し、塗布経路設定工程を説明する。
【0095】
制御部290は、取得したストラット30の形状データおよびストラット30の中心を通る軌道の座標データに基づき、第1塗布工程における塗布経路および第2塗布工程における塗布経路を設定する(ステップS21)。第1塗布工程における塗布経路は、ストラット30全体を連続的に塗布でき、かつ、重複する区間が少なくなるように生成される。第2塗布工程における塗布経路は、拡張変形に伴って応力が集中および/又は歪が発生する部位(ストラット30の湾曲部31およびリンク部22)を避けるように生成される(図11参照)。
【0096】
制御部290は、変位測定パラメータの入力を受付け、入力された変位測定パラメータをメモリーに記憶する(ステップS22)。変位測定パラメータは、例えば、塗布装置200のオペレータによってキーボードを使用して入力され、第2位置情報取得装置280による測定開始位置、測定方向、測定速度、測定間隔を含んでいる。
【0097】
制御部290は、Y方向移動機構236のモータ239を作動させ、保持具220(マンドレル228)を、第2位置情報取得装置280による測定位置まで移動させる(ステップS23)。オペレータは、第2位置情報取得装置280の測定位置と、軌道上の指定位置とが合致するように、マンドレル228に装着されたステント10と、第2位置情報取得装置280の測定位置を、例えば、目視によって調整する(ステップS24)。
【0098】
塗布装置200のオペレータによって、例えば、キーボードを使用して調整完了が入力されると(ステップS25:Yes)、制御部290は、第2位置情報取得装置280にストラット30におけるZ方向変位の測定開始を命令し(ステップS26)、また、モータ226の正逆回転と、モータ239による軸方向の移動を繰り返えさせ、これにより、ステント10は、回転および軸方向移動を繰り返す(ステップS27)。
【0099】
第2位置情報取得装置280は、ストラット30の中心を通る軌道に沿って移動し、ステント10全体のストラット30のZ方向の変位データを取得し、制御部290に送信する(ステップS28)。Z方向の変位データは、ストラット30表面の直交座標系でのZ方向の位置情報に変換され、中心軌道の座標と共に、メモリーに保存される。
【0100】
次に、図16を参照し、プライマー被覆層を形成するための第1塗布工程を説明する。
【0101】
制御部290は、第1塗布パラメータの入力を受付け、入力された第1塗布パラメータをメモリーに記憶する(ステップS31)。第1塗布パラメータは、例えば、塗布装置200のオペレータによってキーボードを使用して入力され、ステント10を回転速度および軸方向移動速度、第2塗布ヘッド245の選択、第2塗布ヘッド245(ノズル部262)の吐出速度を含んでいる。
【0102】
制御部290は、X方向移動機構231により保持具220の移動を命令する(ステップS32)。これにより、保持具220のマンドレル228に装着されたステント10は、第2塗布ヘッド245の下方の塗布開始位置まで移動する。
【0103】
ステント10が塗布開始位置に到達したら(ステップS33:Yes)、ステント10を回転および軸方向移動させると共に、第2塗布ヘッド245のノズル部262からプライマー液を連続的に吐出させる(ステップS34)。この際、制御部290は、モータ226による正逆回転とモータ239による軸方向の移動を命令し、指定されたパラメータに従って、ステント10をX軸方向及びY軸方向に移動させ、また、モータ254により第2塗布ヘッド245をZ軸方向に移動させる。そして、予め定めた塗布経路に沿った第2塗布ヘッド245によるストラット30全体の塗布が1回完了すると、塗布は停止される(ステップS35)。
【0104】
第1塗布工程においては、上記のように、薬剤を被覆する前に、プライマー(プライマー液)がストラット30の外側表面に被覆されるため、薬剤被覆層の耐剥離性がさらに向上する。なお、第1塗布工程は、必要に応じて、省略することも可能である。
【0105】
次に、図17を参照し、薬剤被覆層を形成するための第2塗布工程を説明する。
【0106】
制御部290は、第2塗布パラメータの入力を受付け、入力された第2塗布パラメータをメモリーに記憶する(ステップS41)。第2塗布パラメータは、例えば、塗布装置200のオペレータによってキーボードを使用して入力され、ステント10を回転速度および軸方向移動速度、第1塗布ヘッド240の選択、第1塗布ヘッド240(ノズル部262)の吐出速度、塗布回数(層数)を含んでいる。
【0107】
制御部290は、X方向移動機構231により保持具220の移動を命令する(ステップS42)。これにより、保持具220のマンドレル228に装着されたステント10は、第1塗布ヘッド240の下方の塗布開始位置まで移動する。
【0108】
ステント10が塗布開始位置に到達したら(ステップS43:Yes)、ステント10を回転および軸方向移動させると共に、第1塗布ヘッド240のノズル部262から塗布液aを連続的に吐出させる(ステップS44)。この際、制御部290は、モータ226による正逆回転とモータ239による軸方向の移動を命令し、指定されたパラメータに従って、ステント10をX軸方向及びY軸方向に移動させ、また、モータ254により第1塗布ヘッド240をZ軸方向に移動させる。
【0109】
その結果、第1塗布ヘッド240は、第2塗布工程における予め定めた塗布経路(図11参照)に沿って移動しつつ塗布液aを塗布する。つまり、拡張変形に伴って応力が集中および/又は歪が発生する部位(ストラット30の湾曲部31およびリンク部22)を避けて、ストラット30のメインストラット部32、33を連続的に塗布する。
【0110】
詳細に説明すると、第2塗布工程では、薬剤とポリマーとが溶媒に溶解されている塗布液aを吐出させるノズル266を、メインストラット部32、33に沿って移動させることによってメインストラット部32、33の外側表面34、37に薬剤を被覆させ、ノズル266が湾曲部31(あるいはリンク部22)に到着した際に湾曲部31を通り越してノズル266をメインストラット部33へ向けて移動させることによって湾曲部31に薬剤が塗布されることを防止する未被覆部形成工程が行われる。なお、各メインストラット部32、33に薬剤を塗布する順番は、メインストラット部33、メインストラット部32の順番であってもよい。そして、上記に記したような塗布液を塗布する塗布経路(図11参照)に限定されるものでなく、他の塗布経路を設定することも可能である。
【0111】
ここで、図12に示すように、制御部290は、湾曲部31にノズル266が到着した際に、ノズル266をZ軸方向へ離反移動(ジャンプ)させることにより、湾曲部31に塗布液aが塗布されることを防止する。そして、本実施形態では、ノズル266が湾曲部31を通り越して移動している間にノズル266に付着する塗布液aの付着量を減少させる。これは、ノズル266が湾曲部31を移動している間に当該ノズル266に塗布液aが貯留されてしまい、湾曲部31を経由した直後に塗布液aが過剰に吐出され、ステント10の側面35にまで塗布液aが塗布されてしまうことを防止するためである。なお、湾曲部31(あるいはリンク部22)への塗布液aの塗布を防止する方法として、ノズル266をZ軸方向へ移動させる方法以外に、例えば、ノズル266を湾曲部31(あるいはリンク部22)の外側や内側を通過させてもよい。また、これらの経路に沿ったノズル266の移動とZ軸方向へのノズル266の移動を組み合わせて塗布作業を実施してもよい。このようにノズル266を移動させることで、湾曲部31(あるいはリンク部22)に塗布液aが塗布されることをより一層効果的に防止することが可能になる。
【0112】
塗布液aの付着量を減少させる方法として、具体的には、ノズル266が湾曲部31を通り越して移動している間にノズル266からの塗布液aの吐出量を変化させる方法を採用している。制御部290は、この塗布液aの吐出量を変化させる動作を、ノズル266のZ軸方向への移動が開始されたタイミングに同期させて実施する。なお、ノズル266を湾曲部31やリンク部22の外側・内側へ移動させる際には、ストラット30上からノズル266が移動するタイミングに同期させて塗布液aの吐出量を変化させる動作が実施される。
【0113】
上記の「吐出量を変化させる」という動作には、例えば、ノズル266からの塗布液aの吐出を停止させる動作や、後述する実施形態において説明するようにノズル266に付着した塗布液aを吸引や除去したり、塗布液aの付着量を減少させたりする動作が含まれる。本実施形態では、ノズル266からの塗布液aの吐出を停止させる動作を行うことで吐出量を変化させている。
【0114】
ノズル266が湾曲部31を通り越した後に、再びメインストラット部32、33へ接近移動するZ軸方向の移動に同期させてノズル266からの塗布液aの吐出を開始させる。このように、ノズル266が湾曲部31を通過する際にノズル266に付着(貯留)する塗布液aの付着量を減少させることができるため、メインストラット部32、33の外側表面34、37以外の部位に薬剤が塗布されることを好適に防止することが可能になる。なお、ノズル266を湾曲部31やリンク部22の外側や内側へ移動させた場合には、ストラット30上にノズル266が移動したタイミングに同期させて塗布液aの吐出を開始させる。
【0115】
そして、第2塗布工程では、塗布経路を逆走させる(移動方向を反転させる)ことを交互に繰り返して、塗布回数(層数)が設定された値に到達すると(ステップS45:Yes)、塗布は停止される(ステップS46)。なお、X方向移動機構231によって保持具220が待機位置まで移動すると、マンドレル228が保持具220から取り外される。そして、プライマー被覆層40および薬剤被覆層42が形成されたステント10(図7参照)がマンドレル228から取り外される。
【0116】
なお、ノズル部262の移動方向を交互に反転させて繰り返すことによって、薬剤を重ね塗りし、薬剤被覆層42の厚みを増加させているため、薬剤の必要量を容易に確保することが可能である。
【0117】
ノズル部262の移動方向を交互に反転させて繰り返す際、ノズル部262がメインストラット部32、33の端部から別のメインストラット部32、33の端部に移動する際の位置を変更することによって、メインストラット部32、33の端部における薬剤被覆層42の厚さを、湾曲部31(およびリンク部22)に向って漸減させることが可能である。この場合、薬剤被覆層42の厚みの増加に起因する応力集中および/又は歪の発生が軽減され、薬剤の剥離あるいは脱落が抑止される。また、制御が容易であり、湾曲部31(およびリンク部22)に向って厚さが漸減している薬剤被覆層42を形成する際の作業性が良好である。
【0118】
以上のように、本実施形態によれば、製造されたステント10のストラット30の湾曲部31(拡張変形に伴って応力が集中したり、歪が発生したりする部位)には、薬剤被覆層42が形成されていないため、薬剤被覆層42に応力集中あるいは歪が発生することが回避される。また、ノズル266が湾曲部31を通過する際に、ノズル266に付着(貯留)した塗布液aの付着量を減少させることができるため、メインストラット部32、33の外側表面34、37以外の部位に薬剤が塗布されることを好適に防止することができる。したがって、ステント10の拡張変形に伴う応力集中あるいは歪に起因する薬剤の剥離あるいは脱落が抑止され、かつ薬効の均一性および製造時の歩留まりがより一層向上されたステントの製造方法を提供することができる。
【0119】
また、未被覆部形成工程において、ノズル266が湾曲部31を通り越して移動している間にノズル266からの塗布液aの吐出量を変化させるため、ノズル266が湾曲部31を通り越して移動している間にノズル266に付着する塗布液aの付着量を好適に減少させることができる。
【0120】
また、薬剤被覆層42の厚みが漸減した部位を形成しているため、ステント10の拡張に伴って変形する起点がストラット30の湾曲部31から多少ずれても、薬剤被覆層42での歪の発生や応力集中が大幅に軽減され、薬剤の脱落を好適に防止することができる。しかも、漸減した部分は薬剤の塗布量が少ないので、薬剤自体もステント10の変形に追従し易くなり、この点でも薬剤の脱落を防止できる。
【0121】
また、湾曲部31およびリンク部22の各周辺に存在するメインストラット部32、33において塗布液aが過剰に塗布されることを防止することができるため、ステント10全体における薬効の均一性および製造時の歩留まりをより一層向上させることができる。
【0122】
<第2実施形態>
次に、図18を参照して、本発明の第2実施形態に係るステントの製造方法および塗布装置を説明する。なお、同一の部材については同一の符号を付して、説明を一部省略する。
【0123】
前述した第1実施形態に係るステントの製造方法では、ノズル266が湾曲部31(もしくはリンク部22。以下、湾曲部31等と記載する)を通り越して移動している間にノズル266からの塗布液aの吐出量を変化させることにより、ノズル266に付着する塗布液aの付着量を減少させていた。一方、本実施形態に係るステントの製造方法においては、ノズル266が湾曲部31等を通り越して移動している間にノズル266を閉塞することにより、塗布液aの付着量を減少させている。
【0124】
図18に示すように、本実施形態に係る塗布装置300は、塗布液の付着量を減少させる塗布液減少手段310を有している。この塗布液減少手段310は、関節部311が形成されたアーム部312と、アーム部312の先端に設置されたノズル閉塞部313とを有している。
【0125】
アーム部312は、制御部290から所定の制御信号が発せられると、ノズル閉塞部313をノズル266の開口部266aに押し当てるように水平方向に回転動作(揺動動作)を行う。この動作は、例えば、ノズル266による第1のメインストラット部32への塗布作業が終了した後、ノズル266がステント10の湾曲部等31から離反移動(ジャンプ)する動作を行う際に発せられる制御信号に同期させて行われる。なお、図中の破線は、アーム部312が動作する前の状態を示しており、図中の実線は、アーム部312が動作してノズル266が閉塞された状態を示している。
【0126】
ノズル閉塞部313の形状は、ノズル266を閉塞することが可能であれば特に限定されないが、例えば、図示するように球形状に形成されている場合、ノズル266の開口部266aとの間に隙間なく押し付けることが可能になるため、ノズル266からの塗布液aの滴下を好適に防止することが可能になる。また、ノズル閉塞部313の材質等も、公知の樹脂材料や金属材料を使用することができ、特に限定されるものではない。
【0127】
本実施形態に係るステントの製造方法および塗布装置300によれば、ノズル266を閉塞することにより、ノズル266が湾曲部等31を通り越して移動している間にノズル266に付着する塗布液aの付着量を好適に減少させることができるため、第1実施形態に係る方法および装置と同様に、メインストラット部32、33の外側表面34、37以外の部位に塗布液aが塗布されることを好適に防止することができ、製造時の歩留りをより一層好適に防止することができる。
【0128】
<第3実施形態>
次に、図19を参照して、本発明の第3実施形態に係るステントの製造方法および塗布装置を説明する。なお、前述した各実施形態において説明した部材と同一の部材には同一の符号を付して、説明を一部省略する。
【0129】
前述した第2実施形態に係るステントの製造方法では、ノズル266が湾曲部等31を通り越して移動している間にノズル266を閉塞することにより、ノズル266に付着する塗布液aの付着量を減少させていた。一方、本実施形態に係るステントの製造方法においては、ノズル266が湾曲部31を通り越して移動している間にノズル266に付着した塗布液aを除去することにより、塗布液aの付着量を減少させている。
【0130】
図19(A)に示すように、本実施形態に係る塗布装置400は、塗布液aの付着量を減少させる塗布液減少手段として、ノズル266に付着した塗布液aを除去する塗布液除去部410を有している。この塗布液除去部410は、関節部411が形成されたアーム部412と、アーム部412の先端に設置された洗浄部413とを有している。
【0131】
アーム部412は、例えば、ノズル266による第1のメインストラット部32への塗布作業が終了した後、ノズル266がステント10の湾曲部等31から離反移動(ジャンプ)する動作を行う際に発せられる制御信号に同期させて、先端に設置された洗浄部413をノズル266に押し当てるように動作する。
【0132】
洗浄部413は、例えば、アセトンやエタノール、洗浄水等の洗浄剤が含浸された布等によって構成することができる。また、例えば、図示しない洗浄剤供給部(ルーメン)を併設し、洗浄部413への洗浄剤の供給を適宜に行うように構成することも可能である。
【0133】
図19(B)には、塗布液除去部410の変形例を示す。
【0134】
図示するように、アーム部412の構成は水平方向の回転動作によって洗浄部413をノズル266に押し付けるように動作する構成のみに限定されず、例えば、ノズル266の外表面に沿ってノズル266の先端に向けて移動し得るように構成することも可能である。このような構成を採用すれば、ノズル266の先端の比較的広い範囲に亘って塗布液aを除去することが可能になるため、塗布液aの歩留りをより一層向上させることが可能になる。なお、この変形例に係るアーム部412の動作は、前述したノズル閉塞部313を動作させるためのアーム部312に適用することも可能である。
【0135】
本実施形態に係るステントの製造方法および塗布装置400によれば、ノズル266を洗浄することにより、ノズル266が湾曲部等31を通り越して移動している間にノズル266に付着する塗布液aの付着量を好適に減少させることができるため、第1実施形態、第2実施形態に係る方法および装置と同様に、メインストラット部31、33の外側表面34、37以外の部位に塗布液aが塗布されることを好適に防止することができ、製造時の歩留りをより一層好適に防止することができる。また、図19(A)、(B)に示すように、洗浄部413の大きさをノズル266の先端の大きさよりも大きく形成すれば、洗浄部413を閉塞部として機能させることができるため、より一層効率よく塗布液aの付着量を減少させることが可能になる。
【0136】
<第4実施形態>
次に、図20を参照して、本発明の第4実施形態に係るステントの製造方法および塗布装置を説明する。なお、前述した各実施形態において説明した部材と同一の部材には同一の符号を付して、説明を一部省略する。
【0137】
前述した第3実施形態に係るステントの製造方法では、塗布液aの付着量を減少させる塗布液減少手段としてノズル266を洗浄する洗浄部413を利用した実施形態を示したが、例えば、塗布液減少手段は、ノズル266に付着した塗布液aをかき取る捕集部513によって構成することも可能である。
【0138】
図20(A)に示すように、本実施形態に係る塗布装置500においては、塗布液除去部は、関節部511が形成されたアーム部512と、アーム部512の先端に設置された捕集部513とを有している。
【0139】
アーム部512は、例えば、ノズル266による第1のメインストラット部32への塗布作業が終了した後、ノズル266がステント10の湾曲部等31から離反移動(ジャンプ)する動作を行う際に発せられる制御信号に同期させて、先端に設置された捕集部513をノズル266に近付けるように動作する。また、捕集部513が塗布液aを捕集可能な位置まで接近した後、ノズル266の先端表面を擦るような動作を行う。この動作により、ノズル266の先端に付着した塗布液aを好適に除去することが可能になる。
【0140】
捕集部513は、例えば、図示するような略コの字形の形状に形成することができるが、塗布液aを捕集可能な形状であれば形状は特に限定されない。ただし、略コの字形に形成されている場合、捕集部513に塗布液aをひっかけるようにして塗布液aを捕集することが可能になるため、好適に塗布液aの除去を行うことが可能になる。捕集部513を構成する材料の材質も特に限定されず、公知の樹脂材料や金属材料を使用することができる。
【0141】
図20(B)には、塗布液除去部の変形例を示す。この変形例に係る塗布液除去部は、塗布液を吸引もしくは排出可能な吸引排出部553を有する。吸引排出部553は、内部に塗布液aが流通可能なルーメン555が形成されている。吸引排出部553は、ノズル266がステント10の湾曲部等31から離反移動(ジャンプ)する動作を行う際に発せられる制御信号に同期させて吸引もしくは排出動作(流体の吹き付け等)を行う。吸引排出部553の吸引動作もしくは排出動作により塗布液aが除去されるため、メインストラット部32、33の外側表面34、37以外の部位に塗布液aが塗布されることを好適に防止することができ、製造時の歩留りをより一層好適に防止することができる。なお、吸引力もしくは排出力を発生するための手段としては、公知のポンプ等を使用することが可能である。
【0142】
以上のように、ノズル266に付着する塗布液aの塗布量を減少させる方法として、各種の方法を説明したが、各実施形態に係る方法は、適宜組み合わせることが可能である。例えば、ノズル266からの塗布液aの吐出量を変化させた状態で、ノズル266の閉塞やノズル266の洗浄、塗布液aの除去等を行うことにより、ノズル266に貯留される塗布液aの量をより一層減少させることが可能になる。
【0143】
なお、第2〜第4実施形態に係る方法(装置)においては、X軸方向へのジャンプに同期(連動)させてノズルに付着した塗布液の塗布量を減少させる手順を説明したが、前述した第1実施形態において説明したように、ノズルが湾曲部(あるいはリンク部)の外側や内側を通過させる動作に連動させて塗布液の塗布量を減少させるようにしてもよい。
【0144】
さらに、上述した各実施形態では、ノズル266を湾曲部31やリンク部22の外側・内側へ移動させる際、または離反移動させる際には、ストラット30上からノズル266が移動するタイミングに同期させて塗布液aの吐出量を変化(減少または停止など)させる説明をしたが、この同期とは移動と同じタイミングに吐出量を変化するだけとは限らない。例えば、X軸方向へのジャンプの期間をT時間要するとした場合、その期間を4分割したときのT/4後から3T/4までの期間のみ塗布液aの吐出量を変化しても構わない。すなわち、ノズル266が第1のメインストラット部32から離れる際には塗布液aの供給は続いており、湾曲部31を通り越した移動中に塗布液aの供給を停止し、第2のメインストラット部33に到着する前に塗布液aの供給を再開しても良い。ジャンプという動作の期間内で連動していれば良く、ジャンプの中間だけで吐出量を変化しても良い。ジャンプ開始と同時に塗布液aの供給を停止したり、ジャンプ終了と同時に塗布液aの供給を再開したりすると、塗布のムラが出来たりする。そこで、前述のように中間だけで吐出量を変化することで、ジャンプ直前やジャンプ後のストラット30上にも均一に塗布が可能となり、ストラット側面へのこぼれも防げる。さらに、塗布液aの粘性によっては、糸引きがなくなる効果が得られる。また、この中間とは前述のような時間的な割合における中間だけでなく、距離的な割合における中間であっても構わない。
【0145】
本発明は、上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲で種々改変することができる。例えば、シリンダ部に異なる塗布液を貯留している第1塗布ヘッドを複数設置し、第1塗布ヘッドを切り替えながら、塗布液を重ね塗りすることも可能である。この場合、薬剤の濃度によって塗布液を異ならせている態様においては、薬剤被覆層の厚み方向の薬剤濃度を変化させ、また、薬剤自在の種類によって塗布液を異ならせている態様においては、薬剤被覆層の厚み方向の位置に応じて薬剤の種類を変化させることにより、複合的な薬効を得ることが可能である。
【0146】
本出願は、2013年9月27日に出願された日本国特許出願第2013−200840号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0147】
10 ステント、
20 環状体、
22 リンク部、
30 ストラット、
31 湾曲部、
32、33 メインストラット部、
34、37 外側表面、
40 プライマー被覆層、
42 薬剤被覆層、
44 重ね塗り層、
200、300、400、500 塗布装置、
220 保持具、
230 移動装置(移動手段)、
240 第1塗布ヘッド、
245 第2塗布ヘッド、
252 ディスペンサ、
262 ノズル部、
266 ノズル、
290 制御部、
310 塗布液減少手段、
313 ノズル閉塞部、
410 塗布液除去部、
413 洗浄部、
513 捕集部、
553 吸引排出部、
D 長さの差、
G 間隔、
T 重ね塗り層の厚み、
S 軸方向、
θ 傾斜角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20