【文献】
Shen Y. et.al,Zero−phonon linewidth of single nitrogen vacancy centers in diamond nanocrystals,Physical Review B,vol.77,033201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅が、少なくとも100スペクトル走査にわたって平均化される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
前記1つまたは複数のスピン欠陥が、前記合成ダイヤモンド材料の表面から1μm以下に位置している、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【背景技術】
【0002】
光子に強力に結合する量子エミッタ(アルカリ原子、捕獲イオン、固体欠陥、および量子ドットを含む)には、光コンピューティング、量子情報処理、量子感知および計測学と、量子ネットワークを含む、広範囲にわたる技術的用途がある。これらの用途のほとんどに関する要件は、光子が高い確率でエミッタと相互作用し(エミッタは、広い吸収断面を有する)、高い確率で収集されることである。これらの要件を満たす1つの主な必要条件は、放出がフーリエ変換限界であること、即ち放出の線幅が励起状態の寿命によってのみ決定されることである。線幅がこの変換限界の線幅よりも広い場合、さらなる位相散逸が、吸収断面の低減と有効収集効率の低下をもたらす。より広い線幅は、フォノンとの結合、スペクトル拡散、またはその他の非放射崩壊チャネルに起因する可能性がある。
【0003】
固体材料中の単層に十分局在化された変換限界線幅を有する量子エミッタを、強力な単一光子非線形性を可能にするデバイスを構成するのに使用することができる。例えば、量子エミッタを単一モード導波路に結合することにより、1個の光子の伝搬がエミッタの内部状態によって制御される、即ち別の光子によって処理される、単一光子トランジスタを実現することができる。そのようなデバイスは、光コンピューティングプラットフォームの重要な構成要素である。
さらに、ダイヤモンド中の窒素空孔(NV:nitrogen−vacancy)中心などの量子エミッタをナノスケールの磁力計として使用することができ、光子収集率を増大させることによって感度を大々的に改善することができる。変換限界ゼロフォノン線(ZPL:zero phonon line)を有するNV中心は、高感度で外部スピンを検出するのに使用することができる。この用途では、外部電源からの磁場が距離と共に急速に減衰するので、ダイヤモンド表面近くにNVを局在化させることも重要である。
さらに、変換限界線幅を有するNV中心は、マイクロ波から光子への変換のための超電導回路、光子−光子変換のための光学機械システム、および光電子デバイスなど、別の量子システムにNV中心が結合しているハイブリッド量子システムで用いることができる。
【0004】
多重光子エミッタからの多光子量子絡み合いは、ある量子処理用途に重要な要素と見なされる。そのような絡み合いを実現するには、種々のエミッタからの光子を量子力学的に区別できないようにする必要がある。
トラップにおける単一原子/イオンからの放出も含めた、多重の気状エミッタからの多光子量子絡み合いは、公知である。これは、種々のエミッタからの光子が量子力学的に区別することができないように、帯域幅、周波数、および偏光に関して同一の、気状エミッタからの光子放出を発生させることによって実現される。次いでこれら同一の光子をビームスプリッタで重ねることにより、離れて量子絡み合いを実現することができる。
前述の手法は、固体エミッタの場合に問題がある。この理由は、固体系での光学遷移のエネルギーが、電子環境のばらつきおよび固体結晶系内の歪みによって変化するからである。固体エミッタの放出特性の相違は、不純物、転位などの固有の結晶欠陥、処理損傷からもたらされたような外因的欠陥、および/または電場によるシュタルクチューニングなどのその他の外因的作用によって引き起こされる可能性がある。したがって、2つの異なる固体エミッタから放出された光子は、帯域幅、周波数、および偏光が様々であり、量子力学的に区別することができる。したがって、そのような光子は、ビームスプリッタまたは同等の装置で重ねられた場合に量子絡み合いを受けない。
【0005】
前述の問題に対する1つの解決策は、光子エミッタからの光子を検出するのに使用される検出装置の分解能を、この検出器が種々の供給源からの光子を区別できなくなる程度まで、低下させることである。例えば、高時間分解能を有する検出器を使用することにより、これは低周波数分解能をもたらすことになり、光子を区別することができなくなる。しかし、より高いタイミング分解能は、各ビンにおける計数率が、暗計数などのノイズよりも高いことが必要であり、固体材料の欠陥からの単一光子放出は、非常に弱くなる可能性がある。例えば、ダイヤモンド材料における光子放出性窒素空孔欠陥(NV
-)は、固体量子処理用途の最有力候補であるが、低温であっても0.05程度のデバイ−ウォーラー因子に関連した広範なスペクトル放出を示す。次いでゼロフォノン線(ZPL)での単一光子の放出は、典型的には秒当たり10万個程度の光子である。不十分な収集効率により、この放出の約0.1〜1%しか検出されず、それが低計数率をもたらす。そのような計数率は、高時間分解能(即ち、低周波数分解能)検出器を使用して、光子干渉に基づいて妥当なデータ獲得時間内で先進の量子情報処理プロトコルを実現するには不十分である。
【0006】
事実、前述の課題には非常に問題があるので、多数の固体量子レジスタからの多光子量子干渉が、2011年まで実際に実証されてこなかった(Phys. Rev. Lett. 108, 043604 (2012)。これに関し、固体量子レジスタは、共に結合された核および電子スピンを含むことができることに留意すべきである。電子スピンは、光学スピン状態の検出および高速高忠実度コヒーレント操作による制御キュービットとして機能することができる。核スピンは、周囲環境との弱い相互作用を有するメモリキュービットとして機能することができる。一緒になって結合した電子スピンおよび核スピンは、量子レジスタを形成することができる。そのような量子レジスタの例は、光学的に対処可能でありかつ周囲のダイヤモンド格子中の窒素核および/または
13C核の核スピン状態に結合された、分解可能な電子スピン状態を有する、ダイヤモンド材料中の窒素空孔欠陥である。この種類の量子レジスタは、単一スピンエミッタ、非結合スピン状態、または量子レジスタとして機能するために分解することができるスピン状態を含まないエミッタのみ含むシステムとは異なることに留意すべきである。
【0007】
上記に関連して、多光子干渉が、量子ドット、表面に吸着された単一分子、およびZnSe中のFドーパントなどのより単純な固体系から観察されたことに留意されたい[例えば、R. Lettow et al., Physical Review Letters 104 (2010); Patel et al., Nature Photonics 2010, DOI: 10.1038/NPHOTON.2010.161; Sanaka et al., PRL 103, 053601 (2009); and Flagg et al., Phys. Rev. Lett. 104, 137401 (2010)参照]。しかし、多重スピン分解固体量子レジスタからの多光子量子干渉は、前述の問題により今日まで実際には実証されていない。III−V族半導体における量子ドットは、稠密核スピン浴での電子遷移に関係し、したがって、核スピンメモリキュービットを必要とする量子情報処理用途には適していない。表面に吸着された単一分子は、情報処理に適したスピン分解放出を示さない。さらに、表面結晶化単一分子系は、本来、脆弱な系であり、商用デバイスの用途に適さない可能性がある。ZnSe中のFドーパントは、分解可能な電子スピン状態が1つまたは複数の核スピンに結合されているスピン分解固体量子レジスタを含むことが実証されていない。
【0008】
上記とは対照的に、2011年に、多重スピン分解固体量子レジスタからの多光子量子干渉が、CVD合成ダイヤモンド材料のNV
-スピン欠陥に関して実証された。これは:
(i)比較的均一な電子および歪み環境でNV
-スピン欠陥を含む、非常に高い純度の低歪みCVD合成ダイヤモンド材料の合成;
(ii)高純度低歪みCVD合成ダイヤモンド材料でほぼ同一の周波数を持つ、2つのNV
-スピン欠陥の選択;
(iii)NV
-スピン欠陥により放出された光子の光学的取出しを増大させるために選択されたNV
-スピン欠陥のそれぞれでの、高純度低歪みCVD合成ダイヤモンド材料での固体浸レンズの製作;
(iv)2つのNV
-スピン欠陥の間の周波数の差を低減させるための、NV
-欠陥のシュタルクチューニング;
(v)フォノン側波帯放出からゼロフォノンNV
-線放出を分離するように構成されたダイクロイックミラーを使用する、2つの選択されたNV
-欠陥によって放出された光子のフィルタリング;
(vi)偏光ビームスプリッタを使用する、放出された光子のその他のフィルタリング;
(vii)ファイバビームスプリッタでの、各NV
-スピン欠陥からの、フィルタリングされた光子の重ね合わせ;および
(viii)NV
-スピン欠陥からの、チューニングされフィルタリングされた光子放出が量子力学的に区別できず、その結果2つのNV
-スピン欠陥からの区別できない光子放出の間で量子干渉を起こすほど、十分に小さい光子検出時間の差を分解するように構成された検出装置を使用する、チューニングされフィルタリングされた光子放出の検出
を含む特徴の組合せを提供することによって、実現された。
【0009】
前述の手法は、量子処理用途で使用され得る固体エミッタからの多光子干渉を実現する手法を実証するのに、首尾良くなされることが証明された。しかし、チューニングされフィルタリングされた光子放出は、依然として比較的弱く、比較的低い割合の放出光子が検出され、その結果、低い光子計数率および比較的長いデータ獲得時間になる。商用デバイスの場合、さらに光子計数率を増大させかつデータ獲得時間を短縮することが望ましいと考えられる。
したがって、より速いデータ獲得時間で多数の固体量子レジスタから多光子量子干渉を提供することが可能なデバイスを提供することが、依然として求められている。
【0010】
これに関し、各固体光子エミッタの天然の放出線幅に対する不均一な拡がりおよびスペクトルのばらつきは、量子干渉の観測可能性を制限することになろうが、これは、有意な割合の光子が量子力学的に区別できるような範囲の周波数にわたって、放出された光子が拡がることになるからである。放出のチューニングおよびフィルタリングは、前述のように量子干渉を観察するように適切に構成された検出器と組み合わせて使用することができるが、有意な割合の光子がそのような手法では廃棄され、その結果、比較的低い光子計数率および比較的長いデータ獲得時間になる。したがって、より高い光子計数率および短いデータ獲得時間で多光子干渉が実現されるように放出をチューニングしフィルタリングする必要性を低減させまたはなくすために、より狭い放出線幅を有するスピン欠陥を含む合成ダイヤモンド材料を提供することが望ましいと考えられる。
【0011】
NV
-からの蛍光は、それらの間に標準的な分岐比を有する2つの成分:ゼロフォノン線(ZPL)とフォノン側波帯(PSB:phonon side band)とに分離することができる。測定される典型的な分岐比は、1:20または1:30である。PSBは広く、100nm超にも及び、無視できない振電遷移から生ずる(例えば、それらの強度は、励起状態と、様々なフォノンが励起された電子基底状態との間のフランク−コンドン因子によって決定され、デバイ−ウォーラー因子は0.03〜0.05である)。固体エミッタの理論上最小限の線幅は、(フーリエ)変換限界線幅として公知であり、エミッタの励起状態寿命によって決定される。NV
-の場合、これは約1THzまで室温で拡がったフォノンであり(Phys. Rev. Lett., vol. 103, issue 25, pp 256404, 2009)、しかし約10Kよりも低いと、線幅は原則として変換限界になる可能性がある。NV中心の励起状態寿命は、12ns(τ)になることが測定されており、これが理想の材料で天然の線幅をδυ=(1/2πτ)=13MHzに制限するものである。ほとんど全てのダイヤモンド材料(天然、CVD合成、高圧高温(HPHT:high pressure high temperature)合成、およびナノダイヤモンド)において、線幅は、この基本的な限界よりも著しく大きく、各欠陥はばらつきを示す。これは各欠陥が、異なる局所的な電子および歪み環境を有することに起因する。例えば、前述の多光子干渉構成が、比較的均一な電子および歪み環境でNV
-スピン欠陥をもたらすように非常に高い純度および低い歪みを有するCVD合成ダイヤモンド材料を利用した場合であっても、各NV
-スピン欠陥ごとの放出線幅は依然として理論限界13MHzよりも著しく高いことがわかった。緑色光が存在しない状態で記録された、個々のフォトルミネセンス励起スペクトル(単一走査)は、走査間で532nmのリポンプパルスを用いた、2つの選択されたNV
-スピン欠陥に関してゼロフォノン線幅36MHzおよび38MHzを示し、その結果、周波数の総合的な全分布は線幅が数百MHzになった。スペクトル拡散も、同時緑色励起で記録されたフォトルミネセンス励起スペクトルで、かつ532nm励起の下でのゼロフォノン線放出スペクトルで、観察した。経時的な放出線の拡がりは、不均一線の拡がりとして当技術分野で公知であり、経時的に測定された総合的な全スペクトルの線幅は、不均一線幅として公知である。これは、単一走査線幅として公知の、特定の時間例で測定された線幅と対照をなす。しかし、1桁だけ放射線幅を超えた、観察された不均一な拡がりにも関わらず、適切なチューニングおよびフィルタリングの適用と、ゼロフォノン放出線幅が光子検出器の反限時分解能を超えないように構成された検出器とによって、2つの光子干渉作用が依然として検出された。
【0012】
下記の表は、種々のタイプのダイヤモンド材料で測定されたゼロフォノン線幅の、いくつかの例を示す。
【0013】
【表1】
【0014】
天然ダイヤモンド材料は、天然に見られる広く様々なダイヤモンド結晶構造を反映した、広く様々なNV
-ゼロフォノン線幅を有する。どのダイヤモンド結晶も類のないものであるが、高純度IIa型天然ダイヤモンドは、50MHz程度のゼロフォノン線幅を有することができる。ウラル産のある有名な天然ダイヤモンドでは、20MHz未満の安定したゼロフォノン線幅が観察された。例えば、P. Tamarat et al. [Phys. Rev. Lett. 97, 083002 (2006)]は、この類のない天然ダイヤモンドを研究し、13MHzの変換限界線幅にありかつ何秒にもわたりさらに何回もの励起サイクルにわたって安定な、NV
-ゼロフォノン線について報告した。しかし、NV
-スピン欠陥が、そのような狭く安定した放出特性をこの単一の天然ダイヤモンドサンプルにおいてなぜ示すかという理由は、現在のところ十分理解されていない。さらに、そのような狭く安定したゼロフォノン線幅は、いずれの合成ダイヤモンド材料においても今日まで観察されていない。
【0015】
合成ダイヤモンド材料も、特定の用途に合わせて最適化された性質を有する種々のダイヤモンド材料を対象とする広く様々な合成技法および処方を反映した、広く様々なNV
-ゼロフォノン線幅を有する。合成ダイヤモンド材料は、当技術分野で公知のある範囲の分光技法を使用して、天然ダイヤモンド材料と区別することができるが、それは合成材料が、天然ダイヤモンド材料と比較したときに、異なる組成の拡張欠陥(例えば、転位)および不純物欠陥を有するからである。合成ダイヤモンド材料は、特定の合成技法および処方の使用によって再現性ある製品材料をもたらすことができるので、技術的用途に関しては天然材料よりも有利である。
上記にも関わらず、本明細書を書いている時点では、本発明者らは、100MHz未満の安定した不均一スピン欠陥ゼロフォノン線幅を有する合成ダイヤモンド材料を実現する経路について、いかなる開示も分かっていない。100MHzよりも低い線幅の値が報告されているが、これらは単一走査で測定され、スペクトル拡散を含まない。
【0016】
16MHzのNV
-ゼロフォノン線幅が、合成IIa型ナノダイヤモンドにおいてShen et al. [Phys. Rev. B 77, 033201 (2008)]により報告されている。しかし、この線幅は、個々のフォトルミネセンス励起スペクトルから測定され、スペクトル拡散に供されて経時的な線の拡がりをもたらす。即ち放出線周波数は、単一例では線幅が狭いこともあるが、線幅が一緒に総計される何回かのスペクトル走査で測定される場合に周波数の全分布が100MHzよりも大きい不均一線幅をもたらすように、経時的に移動する。
【0017】
V. M. Acosta et al. [Phys. Rev. Lett. 108, 206401 (2012)]は、スペクトルの拡がりをもたらす経時的なNV
-放出周波数のスペクトル拡散を低減させるために、動的フィードバックシュタルクチューニング技法を適用することについて、最近報告した。140MHzの平均単一走査線幅が、高純度100配向ダイヤモンド基板上に堆積された100nmの厚さのCVD合成ダイヤモンド被膜に位置付けられた、NV
-欠陥に関して報告されている。60MHzという非常に狭いNV
-線幅が、天然IIa型ダイヤモンドサンプルに関して報告されている。天然サンプルにおけるゼロフォノン放出線のスペクトル拡散は、動的フィードバックシュタルクチューニング技法の適用によって、16MHzの標準偏差に抑制されたことが報告されている。しかし、16MHzという数値は、開始時の線位置からのスペクトルドリフトを表し、動的フィードバックシュタルクチューニング技法により変化せずに60MHzのままであった単一走査線幅ではない。いずれにせよ、60MHzという値は、合成ダイヤモンドサンプルではなく天然ダイヤモンドサンプルに関するものである。
【0018】
その他の背景の参考文献には、下記が含まれる:
Faraon et al. PRL 109, 033604 (2012) [http://prl.aps.org/pdf/PRL/v109/i3/e033604]は、4GHz線幅を有するIIa型フォトニックデバイスでのNVスピン欠陥を開示する;
Kai-Mei C. Fu, PRL 103, 256404 (2009) [http://prl.aps.org/pdf/PRL/v103/i25/e256404]は、約30MHzの単一走査線幅を有する電子級材料でのNV欠陥を開示する;かつ
Bernien PRL 108, 043604 (2012) [http://prl.aps.org/pdf/PRL/v108/i4/e043604]は、263MHz不均一線幅および36MHz単一走査線幅を有する電子級材料でのNVスピン欠陥を開示する。
【0019】
先の考察において、スピン欠陥のゼロフォノン線幅への言及は、光子キャビティの拡がりを持たない放出の固有の線幅に関係していることに留意すべきである。ある量子または光学的用途では、1つまたは複数のスピン欠陥を光学キャビティまたは光子キャビティ構造に結合させることが有利である。そのような光子キャビティは、ゼロフォノン線で放出される光子の数を増加させるのに使用することができ、キャビティのQ因子の関数として、キャビティの拡がりを介してゼロフォノン線の幅も増大させる。したがって、光子キャビティを利用する量子デバイス構造では、観察されたゼロフォノン線幅は、光子キャビティが存在しなかった場合にはスピン欠陥の固有の線幅よりも大きくなる。光子キャビティ構造が設けられる場合であっても、本質的に狭いゼロフォノン線幅放出を有するスピン欠陥を提供することが、依然有利であることに留意すべきである。固有の不均一なゼロフォノン線幅という用語は、本明細書では、光子キャビティの拡がりを持たずかつスペクトルドリフトを相殺するシュタルクチューニングを行わない、スピン欠陥の固有の不均一なゼロフォノン線幅に関して使用する。光子キャビティが存在する場合、キャビティの拡がりの作用は、スピン欠陥の固有の不均一なゼロフォノン線幅を決定するために、観察されたゼロフォノン線幅から差し引くことができる。キャビティの存在によって放射状に拡げられたNV中心の固有の線幅を抽出するために、時間依存的蛍光測定を使用して、NV中心の寿命を抽出することができる。共鳴吸収/蛍光によって測定されるこの線幅は、単に、測定された寿命の逆数δυ=(1/2πτ)であり、これはキャビティの拡がりおよび固有の線幅の組合せになる。線幅を低減することができる最大量は、キャビティ内での最適なNVアライメントを想定して、パーセル因子によって与えられる。パーセル因子は、キャビティQおよびモード体積から計算することができる。キャビティQおよび共鳴位置は、透過、テーパファイバ結合、および交差偏光散乱などの様々な技法により、独立して特徴付けることができる。モード体積は、外側から特徴付けること(典型的には、計算されまたはシミュレートされる)がより難しいが、近接場走査技法を使用して行うことができる[Okamato et al, Appl. Phys. Lett. 82, 1676 (2003) and McDaniel et al, Phys. Rev. B 55, 10878-10882 (1997)]。NV線幅に対するキャビティの実際の寄与率を測定する別の手法は、NV中心およびキャビティを互いに共振しないようにチューニングすることである。シュタルク効果および微細加工された電極による、典型的な実現可能なNV離調は、100GHz程度である[Phys. Rev. Lett., vol. 97, issue 8, pp 083002, 2006 and Phys. Rev. Lett., vol. 107, issue 26, pp. 266403, 2011]。これは、Q>5000のキャビティに関して実現可能である。希ガスの凝縮、その他の誘電体の堆積、およびエッチングによって、キャビティをチューニングすることも可能である。キャビティおよびNVが離調される場合、NV中心の寿命は、その天然の寿命まで延びるべきであり、その線幅は、キャビティを持たないNVの固有の線幅を反映すべきである。
【0020】
上記に加え、ゼロフォノン線幅を測定する方法は、観察されるゼロフォノン線幅に影響を及ぼす可能性があることにも留意すべきである。例えば、デバイ温度よりも著しく高い温度でのゼロフォノン線幅の測定は、温度で誘発されるフォノンの拡がりをもたらす。さらに、高いレーザ出力でのスピン欠陥の励起は、ゼロフォノン線放出の出力の拡がりをもたらす可能性がある。したがって上記に加え、固有の不均一なゼロフォノン線幅という用語は、本明細書では、フォノンの拡がりを阻止するのに十分低いサンプル温度でかつ出力の拡がりを回避するのに十分低い励起出力で測定される、不均一なゼロフォノン線幅に関して使用されることになる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態は、変換限界値に近いゼロフォノン線幅を持ちかつスペクトル拡散が最小限に抑えられて経時的に安定な、固体エミッタを合成するための経路を提供する。本発明の、課題を解決するための手段の項目に示されるように、合成ダイヤモンド材料は、100MHz未満の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有するスピン欠陥を含むものが製作されてきた。これは:(i)適切な合成ダイヤモンド材料の選択と;(ii)多段階アニール技法を使用した、選択された合成ダイヤモンド材料の処理との組合せによって、実現されてきた。
前述のものを製作するための出発材料として利用される合成ダイヤモンド材料は、好ましくはCVD合成ダイヤモンド材料であり、特に高純度低歪みCVD合成ダイヤモンド材料であり、例えばWO01/096633、WO2010/010344、およびWO2010/010352に記載されるものである。これらの材料は、100ppb、80ppb、60ppb、40ppb、20ppb、10ppb、5ppb、または1ppb以下の単一置換窒素濃度を有する。そのような材料は、スピン欠陥を配置することができる、適度に低い歪みの均一な電子環境を提供する。
【0027】
例えばWO01/096633は、その高い純度および結晶学的品質を示す、下記の電子および/または光学特性:
(i)1.5×10
-6cm
2V
-1よりも大きい、300Kで測定されたμτ積(但し、μは移動度であり、τは電荷担体の寿命である);
(ii)2400cm
2V
-1s
-1よりも大きい、300Kで測定された電子移動度(μ
e);
(iii)2100cm
2V
-1s
-1よりも大きい、300Kで測定された正孔移動度(μ
h);
(iv)1V/μmの印加電場および300Kで測定された、150μmよりも大きい収集距離;
(v)ピーク高さ<1332cm
-1でのダイヤモンドのラマンピークの1/25を有する、514nm Arイオンレーザ励起の下で(名目上、300mWの入射ビーム)、77Kで測定された、575nmでのカソードルミネセンス(CL:cathodoluminescence)線に関するフォトルミネセンス(PL:photoluminescence)線;
(vi)室温での193nm ArFエキシマレーザにより励起された自由励起子放出の強度が、自由励起子放出の量子収率が少なくとも10
-5になるような、強力な自由励起子(FE:free exciton)放出;および
(vii)電子常磁性共鳴(EPR:electronic paramagnetic resonance)で、g=2.0028でスピン密度<1×10
17cm
-3
の1つまたは複数を有する、非常に高い純度の単結晶CVDダイヤモンド材料を合成するための方法について記述する。
【0028】
そのような単結晶CVDダイヤモンド材料は、好ましくは、下記の不純物特性:
(i)任意の単一不純物のレベルが1ppm以下であり、全不純物含量が5ppm以下であり、不純物には水素およびその同位形態が含まれておらず;
(ii)電子常磁性共鳴(EPR)で、濃度<100ppbで単一置換窒素中心N
s0
の1つまたは複数を有する。
【0029】
前述の材料は、時々、電子級単結晶CVDダイヤモンド材料と呼ばれる。材料の化学的および同位体純度に対するさらなる改善は、WO2010/010344およびWO2010/010352に記載されており、時々、量子級単結晶CVDダイヤモンド材料と呼ばれる材料をもたらす。そのような材料は、上述の電子級材料の場合に加えて下記の特徴:
(i)室温でのスピン欠陥デコヒーレンス時間T
2が300μs以上、好ましくは500μs以上、より好ましくは1ms以上;および
(ii)固有不均一スピン欠陥ゼロフォノン線幅が500MHz以下、300MHz以下、200MHz以下、150MHz以下、100MHz以下、80MHz以下、および最も好ましくは50MHz以下であること
の1つまたは複数によって、特徴付けられてもよい。
【0030】
そのような単結晶CVDダイヤモンド材料は、下記の不純物特性:
(i)全窒素濃度が20ppb以下、10ppb以下、または5pp以下;
(ii)NV中心の濃度が10ppb以下;
(iii)
13Cの全濃度が0.9%以下;
(iv)ホウ素の濃度(および/または非補償型置換ホウ素の濃度)が100ppb以下、50ppb以下、20ppb以下、10ppb以下、5ppb以下、2ppb以下、1ppb以下、0.5ppb以下、0.2ppb以下、または0.1ppb以下;
(v)ケイ素の濃度が100ppb以下、50ppb以下、20ppb以下、10ppb以下、5ppb以下、2ppb以下、1ppb以下、0.5ppb以下、0.2ppb以下、0.1ppb以下、または0.05ppb以下;
(vi)約77Kの温度で共に測定された、約1332.5cm
-1のシフトでダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度によって特徴付けられる、ケイ素空孔(「SiV:silicon−vacancy」と呼ぶ)の濃度が0.5ppb以下、0.2ppb以下、0.1ppb以下、0.05ppb以下、0.02ppb以下、0.01ppb以下、または0.005ppb以下;
(vii)固有常磁性欠陥(即ち、非ゼロ磁気スピンを有する欠陥)の濃度が1ppm以下、0.5ppm以下、0.2ppm以下、0.1ppm以下、0.05ppm以下、0.02ppm以下、0.01ppm以下、0.005ppm以下、または0.001以下;
(viii)任意の単一の非水素不純物の濃度が5ppm以下、1ppm以下、または好ましくは0.5ppm以下;
(ix)水素およびその同位体を除く全不純物含量が10ppm以下、5ppm以下、2ppm以下;および
(x)水素不純物(特に、水素およびその同位体)の濃度が10
18cm
-3以下、10
17cm
-3以下、10
16cm
-3以下、または10
15cm
-3以下であること
の1つまたは複数を有していてもよい。
【0031】
単結晶CVDダイヤモンド材料は、単結晶CVDダイヤモンド材料の50%、60%、70%、80%、90%、95%の主な体積の全体を通してまたはこの材料の全体積の全体を通して、前述の不純物特性の1つまたは複数を有していてもよい。あるいは、単結晶CVDダイヤモンド材料は、異なる量および/または分布の不純物を有する複数の層を含んでいてもよい。この場合、層の1つまたは複数は、前述の不純物特性の1つまたは複数を有していてもよい。
【0032】
高い結晶学的品質と化学的および同位体純度とを持つ単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の製作の進展にも関わらず、そのようなダイヤモンド材料は依然として、ゼロフォノン放出線幅およびスピン欠陥のスペクトル安定性に悪影響を及ぼすために、電子/スピン欠陥と相互に作用する可能性のある様々な結晶欠陥を含む。合成ダイヤモンド材料における点欠陥のいくつかの例には:ケイ素−空孔欠陥(Si−V)、ケイ素複空孔欠陥(Si−V
2)、ケイ素−空孔−水素欠陥(Si−V:H)、ケイ素複空孔水素欠陥(Si−V
2:H)などのケイ素含有欠陥;ニッケル含有欠陥;クロム含有欠陥;および窒素含有欠陥、例えば単一置換窒素、多窒素欠陥構造、および窒素−空孔構造であって窒素−空孔欠陥(N−V)、二窒素空孔欠陥(N−V−N)、および窒素−空孔−水素欠陥(N−V−H)が含まれる。これらの欠陥は、典型的には中性電荷状態にまたは負電荷状態に見出される。孤立した空孔欠陥、複空孔、およびより大きい空孔クラスタは、典型的には合成ダイヤモンド材料にも見出される。したがって、非常に様々な欠陥が合成ダイヤモンド材料中にはあることが理解されよう。
【0033】
合成ダイヤモンド材料において負に帯電した窒素空孔欠陥(NV
-)は、有用な量子スピン欠陥として多くの関心を集めているが、その理由は、下記を含めたいくつかの望ましい特徴を有するからである:
(i)その電子スピン状態は、極めて長いコヒーレンス時間により(横緩和時間T
2を使用して、定量され比較されてもよい)、高い忠実度でコヒーレントに処理することができる;
(ii)その電子構造では、欠陥を、その電子基底状態へと光学的にポンピングすることが可能になり、そのような欠陥は、非極低温であっても特定の電子スピン状態に配置することができるようになる。これは、小型化が望まれるある用途に関し、高価で嵩張る極低温冷却装置の必要性を無くすことができる。さらに欠陥は、全てが同じスピン状態を有する光子の供給源として機能することができる;
(iii)その電子構造は、欠陥の電子スピン状態を光子により読み出すことが可能になる、放出性および非放出性電子スピン状態を含む。これは、磁気測定、スピン共鳴分光法、および撮像など、感知用途で使用される合成ダイヤモンド材料から情報を読み出すのに都合が良い。さらに、長距離量子通信およびスケーラブル量子計算のためのキュービットとしてのNV
-欠陥の使用に向けた、重要な成分である。そのような結果は、NV
-欠陥を、固体量子情報処理(QIP:quantum information processing)の競合候補にする。
上記に照らし、好ましくは本発明のスピン欠陥は、NV
-スピン欠陥に対応する。しかし、本明細書に記述される方法は、その他のスピン欠陥に適用できると考えられる。
【0034】
選択されたスピン欠陥の放出線幅およびスペクトル安定性を改善するために、選択されたスピン欠陥を含むと同時に、選択されたスピン欠陥のスピンおよび放出特性に悪影響を及ぼすその他全ての欠陥を除外した、固体材料を提供することが望ましいと考えられる。先に示したように、高純度低歪みCVD合成ダイヤモンド材料は、問題となっているスピン欠陥が配置されていてもよい低干渉結晶母材を提供するのに有用な開始点を提供すると見なされる。しかし、WO01/096633、WO2010/010344、およびWO2010/010352に記載されるような材料は、スピン欠陥を配置することができる適度に低い歪みの均一な電子環境を提供するが、材料は依然として、スピン欠陥の放出線幅およびスペクトル安定性に悪影響を及ぼすためにスピン欠陥と相互に作用する可能性のある様々な結晶欠陥を含む。例えば電子級CVD合成ダイヤモンド材料は、単一置換窒素の残留する品質を含むことになる。単一置換窒素の残留濃度は、一般に、ダイヤモンド格子において100ppb以下であり、そのような低い欠陥濃度は依然として量子光学的用途に有意である。
上記に照らし、本発明は、NV
-スピン欠陥などのスピン欠陥の放出線幅およびスペクトル安定性に悪影響を及ぼす結晶欠陥を系統的に除去し、それによって高純度ダイヤモンド母材中のスピン欠陥の放出線幅およびスペクトル安定性を改善する、多段階アニールプロセスを開発した。
【0035】
方法は:100ppb以下(80ppb、60ppb、40ppb、20ppb、10ppb、5ppb、または1ppbであってもよい)の単一置換窒素濃度を含む、合成ダイヤモンド材料を選択するステップと;少なくとも2時間にわたる(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)範囲350〜450℃の温度での第1のアニールステップ、少なくとも2時間にわたる(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)範囲750〜900℃の温度での第2のアニールステップ、および少なくとも2時間にわたる(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)範囲1150℃〜1550℃の温度での第3のアニールステップを含む、多段階アニールプロセスを行うステップとを含む。そのような多段階アニールプロセスは、既に高純度および比較的低い歪みのものであるダイヤモンド母材中のスピン欠陥の放出線幅およびスペクトル安定性を、著しく改善することがわかっている。理論に拘泥するものではないが、安定でほぼ変換限界線幅のスピン欠陥を実現するのに、なぜこの多段階アニールプロセスが首尾良くなされるかというその背後にある根拠は、下記の通りである。
【0036】
ダイヤモンド材料のアニールは、ダイヤモンド格子中の欠陥の性質および分布を変化させる。例えば、多原子欠陥は分割される可能性があり、欠陥は、移動性になりかつダイヤモンド格子内を移動する可能性があり、欠陥は、新しい欠陥型を形成するように結合する可能性がある。これらの種々のプロセスが生じる温度は様々であり、ダイヤモンド格子内の不純物の型に依存することにもなる。高純度CVD合成ダイヤモンド材料において、欠陥構造は、窒素含有欠陥および空孔含有欠陥によって支配される。窒素は大部分が、格子部位に位置付けられていてもよくまたは間隙位置にあってもよい孤立窒素原子の形をとる。空孔は、複空孔として、またより大きい空孔クラスタとして、孤立形体で存在する。
【0037】
少なくとも2時間にわたる(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)範囲350〜450℃の温度での第1のアニールステップは、間隙窒素原子を間隙部位から格子部位に移動させることを目的とする。これには、間隙窒素を、格子部位に存在する空孔欠陥と結合させて、空孔が格子部位で窒素原子に置き換えられるようにする必要がある。約400℃のアニール温度は、より高いアニール温度で支配され得るような、間隙窒素欠陥が結合して間隙−間隙二窒素欠陥を形成するプロセスと比較して、間隙窒素欠陥をなくすためのこのプロセスを実現するのに最適であると考えられる。即ち、約400℃の温度での間隙窒素原子に関する主な損失メカニズムは、より安定な二窒素間隙欠陥を形成することではなく、格子部位の空孔との結合と考えられる。2時間は、約400℃の温度で間隙窒素原子を除去しまたは著しく低減させるのに十分な時間と考えられるが、少なくとも4、6、または8時間というより長いアニール時間も、これが本当であるということを確実にするのに望ましいと考えられる。
【0038】
前述のアニールステップによって、間隙窒素原子が除去され(または少なくとも低減され)たら、範囲750〜900℃の温度での第2のアニールステップを少なくとも2時間(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)行う。このステップは、空孔を移行させることによるNV欠陥の形成と、格子部位に位置付けられた窒素原子とを組み合わせることを目的とする。800℃よりも非常に低い温度では、空孔は、妥当な時間枠でNV欠陥を形成するよう十分に移動しないと考えられる。800℃よりも著しく高い温度では、ダイヤモンド格子内のより大きい熱エネルギーは、孤立窒素欠陥の周りの歪み場が、ダイヤモンド格子内を移行する空孔の主な損失メカニズムをもたらすのにもはや十分ではないことを意味すると考えられる。例えば、1200℃ではごく僅かしかNV欠陥が形成されず、一方、1400℃よりも著しく高い温度では、格子部位に位置付けられた窒素原子が、やはり望ましくない空孔欠陥の存在下で移動性になる。2時間は、約800℃の温度で移行および捕捉メカニズムを介して有意な数の空孔をNV欠陥に変換するのに十分な時間と考えられるが、有意な濃度の空孔欠陥が2時間のアニール後に存在するままであることを示唆するいくつかの証拠がある。したがって、約800℃の温度での少なくとも3時間、4時間、5時間、6時間、8時間または10時間の、より長いアニール時間は、有意な濃度の残留空孔欠陥がダイヤモンド格子内に存在したままにならないことを確実にするのに望ましいと考えられる。
【0039】
最後に、800℃でのNV欠陥の形成に加え、この温度での孤立空孔のその他の主な損失メカニズムは、複空孔欠陥を形成することと考えられる。複空孔欠陥を1150℃よりも高い温度でアニールアウトし、したがって第3のアニールステップは、複空孔欠陥を除去するために、1150℃よりも高い温度で少なくとも2時間(少なくとも4、6、または8時間であってもよい)行われる。さらに、固有のsp
2炭素型欠陥および水素は、約1200℃で移行しまたはアニールアウトし始めると考えられる。したがって、第3のアニールステップを、少なくとも1200℃、1300℃、または1350℃のより高い温度で行うことが有利と考えられる。先に示したように、1400℃よりも著しく高い温度では、格子部位に位置付けられた窒素原子が空孔欠陥の存在下で移動可能になると考えられ、したがって、ごく僅かな空孔しかなくしたがって窒素原子が移動し難くなるように十分長い時間にわたって第2のアニールステップが行われる場合、第3のアニールステップは、1400℃を著しく超えないが1550℃までの温度の使用を可能にすることができることを確実にするのに有利になり得ると見なされる。したがって第3のアニールステップは、少なくとも1200℃、1300℃、または1350℃の温度で、かつ/または1500℃、1450℃、または1400℃以下の温度で行ってもよい。2時間は、複空孔、水素、および固有sp
2炭素欠陥を除去しまたは著しく低減させるのに十分な時間と考えられるが、少なくとも3時間、4時間、6時間、または8時間というより長いアニール時間は、有意な濃度の残留複空孔欠陥、水素、およびsp
2炭素欠陥がダイヤモンド格子内に存在し続けないことを確実にするのに望ましいと考えられる。
【0040】
上記に関連して、高アニール温度はダイヤモンド材料の黒鉛化をもたらす可能性があることに留意すべきである。したがって高温アニールステップは、黒鉛化を防止するために、不活性雰囲気中および/またはダイヤモンド安定化圧力下で行われてもよい。さらに、多段階アニールプロセスを行った後、合成ダイヤモンド材料を有利には酸で清浄化し、次いで酸素中でアニールして、あらゆる残留黒鉛を除去する。
【0041】
好ましくは、合成ダイヤモンド材料は、CVD合成ダイヤモンド材料である。さらに、好ましくは1つまたは複数のスピン欠陥は、NV
-スピン欠陥である。前述の多段階アニールプロセスは、間隙窒素欠陥および様々な形の空孔欠陥の変わりにNVスピン欠陥の形成に関して記述してきたが、そのような多段階アニールプロセスは、その他のスピン欠陥にとってより安定な電子環境が得られるように、ダイヤモンド格子を効果的に「清浄化」するのに使用することもできる。
適切な合成ダイヤモンド出発材料は、機械研磨により損傷を受け高度に歪んだ表面層を含んでいてもよいことにも留意されてきた。この場合、表面層は、多段階アニールプロセスを適用する前に、例えばエッチングによって除去されてもよい。例えば、合成ダイヤモンド材料の表面層は、Ar/Cl
2エッチングを適用し、その後O
2エッチングをすることによって除去されてもよく、その結果、低損傷の低歪み表面が多段階アニールプロセスの適用前に得られる。
【0042】
上述の多段階アニール手順を利用することにより、100MHz以下である半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を持つ、スピン欠陥を含む合成ダイヤモンド材料が製作されてきた。事実、多段階アニール手順は、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を実現することが可能であることがわかってきた。半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅は、少なくとも10、20、30、50、75、100、500、または1000秒にわたって平均化されてもよい。さらに半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅は、少なくとも10、20、30、50、75、100、500、または1000スペクトル走査にわたって平均化されてもよい。さらになお、多段階アニールプロセスは、合成ダイヤモンド材料の外面近くで放出特性が改善されたスピン欠陥を含む材料を生成することができる。これは、スピン欠陥に光学的に対処し、スピン欠陥から光子を取り出し、スピン欠陥に結合した光子キャビティを含む光学的取出し構造を提供するのに有利である。例えば、1つまたは複数のスピン欠陥は、合成ダイヤモンド材料の表面から1μm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、または5nm以下に位置付けられていてもよい。
【0043】
さらに、多段階アニールプロセスは、結晶格子内に安定な低歪み環境で提供される有意な数のスピン欠陥を提供することを目的とする。多くの適用例では、合成ダイヤモンド材料は、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHz未満の安定なスペクトル線幅をそれぞれ有する複数のスピン欠陥を含むことが有利であり、最も好ましくは、合成ダイヤモンド材料の全体に分布されるスピン欠陥の大部分(例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%)がこの基準を満たすことになる。
本発明の、ある実施形態において、スピン欠陥は合成ダイヤモンド材料の成長中に形成され、窒素原子および空孔が、成長中に窒素−空孔対として結晶格子に組み込まれる。スピン欠陥は、材料成長プロセス中に組み込まれた欠陥を使用して、材料合成後に形成することもできる。例えばNV欠陥は、前述の多段階アニールプロセスを使用して材料を引き続きアニールすることにより、成長プロセス中に組み込まれた別々の窒素および空孔欠陥から形成することができる。
【0044】
上記の場合、スピン欠陥は、合成ダイヤモンド材料全体に分布させることができる。あるいは、ドープ型材料の薄層を固有の結晶構造上にまたはこの構造内に成長させてもよく、その結果、スピン欠陥は、合成ダイヤモンド材料の薄層にのみ、例えばナノスケールの深さを有するいわゆるδ層に位置しているようになる。あるいは、さらに、成長させたままのダイヤモンド材料に窒素を打ち込んで、窒素の層を形成し、その後に約800℃でアニールしてNV欠陥を形成することも公知である。例えばRabeau et al.およびSantori et al.は、窒素の打込みおよびアニールの動態について論じている[Appl. Phys. Lett. 88, 023113 (2006)およびPhys. Rev. B 79, 125313 (2009)参照]。そのような打込み法によって形成されたNV欠陥は、本明細書に記述される多段階アニールプロセスが打込みステップ後に利用される場合、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHz未満の安定なスペクトル線幅を有することができることも、わかっている。この場合、スピン欠陥は、合成ダイヤモンド材料中の薄層に、例えば2−Dスピン欠陥アレイに位置していることになる。例えば、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHz未満の安定なスペクトル線幅は、約85keVのエネルギーで約100nmの名目上の深さまで、かつ約10
9cm
-2〜10
10cm
-2の窒素濃度で窒素原子が打ち込まれ、その後、本明細書に記述されるように多段階アニールプロセスが行われた、単結晶CVDダイヤモンドサンプルで観察されている。
【0045】
上記に照らし、合成ダイヤモンド材料はスピン欠陥の層を含んでいてもよく、前記層は、少なくとも10
5cm
-2のスピン欠陥を含んでおりかつ1μm以下の厚さを有しており、前記層のスピン欠陥は、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有する。前記層の厚さは、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、または5nm以下である。さらに層は、10
5スピン欠陥/cm
2〜10
11スピン欠陥/cm
2を含んでいてもよい。スピン欠陥の濃度は、特定の用途に望まれるスピン欠陥濃度に応じて、少なくとも10
6スピン欠陥/cm
2、10
7スピン欠陥/cm
2、もしくは10
8スピン欠陥/cm
2、および/または10
10スピン欠陥/cm
2、10
9スピン欠陥/cm
2、もしくは10
8スピン欠陥/cm
2以下、またはこれらの下限および上限の任意の組合せであってもよい。例えば、スピン欠陥の濃度は、範囲10
5スピン欠陥/cm
2〜10
11スピン欠陥/cm
2、10
5スピン欠陥/cm
2〜10
10スピン欠陥/cm
2、10
5スピン欠陥/cm
2〜10
9スピン欠陥/cm
2、または10
5スピン欠陥/cm
2〜10
8スピン欠陥/cm
2にあってもよい。複数のスピン欠陥を含む薄いダイヤモンド層は、デバイスの層および構造を製作するのに有用である。スピン欠陥のそのような薄層に関して報告されたスピン欠陥線幅は、バルク材料および/または孤立スピン欠陥の場合よりも著しく悪かった。しかし、低い半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有するそのような層内のスピン欠陥は、本明細書に記述される多段階アニール手順を使用して実現される可能性がある。さらに層は、合成ダイヤモンド成分の表面から1μm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、または5nm以下に位置付けられていてもよい。
【0046】
狭い線幅の放出を有するスピン欠陥の薄層を製作するためのプロセスの例を、
図1に示すが、この図は、個々のステップの流れ図を示している。プロセスは:
(1)適切な出発材料、例えば、WO01/096633に記載されるElement Six(商標)電子級単結晶CVDダイヤモンド材料、またはWO2010/010344およびWO2010/010352に記載されるElement Six(商標)量子級単結晶CVDダイヤモンド材料を選択するステップ、
(2)N
+イオンを、例えば85keVのエネルギーでかつ線量=10
8〜10
11cm
-2で打ち込むステップ、
(3)400℃で4時間アニールするステップ、
(4)800℃で2〜8時間アニールするステップ、
(5)1200℃で2時間アニールするステップ、
(6)1:1:1の濃硫酸、硝酸、および過塩素酸で還流することにより、1時間、酸で清浄化するステップ、
(7)465℃で3時間O
2アニールして、黒鉛を除去するステップ
を含む。
【0047】
出発材料の表面層は、低損傷低歪み表面が得られるように、Ar/Cl
2エッチングを適用しその後O
2エッチングをすることにより、N
+イオン打込みの前に除去されてもよい。
前述の手順を使用して製作されたNV
-欠陥の薄層のスペクトルデータを、
図2に示す。スペクトルデータは、低温で打ち込まれアニールされたNV
-スピン欠陥のスペクトル特性を示し、
図2(a)は、半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を示し、
図2(b)は、スペクトル拡散に関して補正した後の線幅を示す。
図2(a)に関し、スペクトルは、637.2nmの走査ダイオードレーザを用いて励起し、フォノン側波帯のNV
-スピン欠陥から光子を収集することによって得られた。パルスシーケンスの全ての繰返しにおいて、緑色リポンプ光を1ms適用し、その後、赤色光を10ms適用した。蛍光を、赤色レーザがオンになった場合のみ収集した。このパルスシーケンスを、赤色レーザの周波数が走査されるときに繰り返した。走査を30回繰り返し、データを、分析中に平均化した。
そのような実験は、緑色照明の下でスペクトル拡散を持つNV
-スピン欠陥線幅を与える。
図2(b)に関し、スペクトルは、緑色光が各レーザ走査の開始時に与えられただけであること以外、
図2(a)と同じ条件下で得た。さらに、平均化する前に、個々の走査のそれぞれに関するピーク位置を決定し、ピーク位置が全て出揃うように走査をシフトした。この分析は、緑色レーザによって引き起こされたスペクトル拡散のない線幅の指標を与え、寿命制限線幅(FWHM=13MHz)と赤色レーザにより引き起こされた任意の残留スペクトル拡散とを含むだけである。
【0048】
上記に関連して、NV
-にNV
0状態をリポンプするのに532nmの緑色光を使用する代わりに、非常に低い出力であってもNV中心を元の負に帯電した状態に変換することができる757nmレーザリポンプを使用することも可能である。このリポンプ法は、より以前からの532nm励起に比べ、575nm励起の光子当たりのより低い強度およびエネルギーによって、スペクトル拡散を低減させる。
ダイヤモンド材料に例えば電子を照射することによって空孔欠陥を形成できること、また、800℃での後続のアニールステップを使用して、照射により導入された空孔欠陥からNV欠陥を形成できることも、公知である。したがって、電子照射ステップは、多段階アニールステップの前に行ってもよいと考えられる。そのような照射ステップは、打込み技法と組み合わせて使用されてもよい。
【0049】
上記に加え、照射は、問題となっているスピン欠陥の放出特性に悪影響を及ぼすダイヤモンド格子内の欠陥の濃度をさらに低減させるため、多段階アニールプロセスと組み合わせて使用してもよいことも考えられる。例えば、中性NV欠陥からの量子光学的用途のための負に帯電したNV欠陥の形成は、ダイヤモンド格子内に電子供与体を必要とする。典型的には、電子供与体は、単一置換窒素原子となる。したがって、単一置換窒素の存在がNV
-スピン欠陥の磁気および光学特性に悪影響を及ぼす可能性があるが、中性NV欠陥からNV
-欠陥を形成するため電子供与体として機能するのに、あるレベルの単一置換窒素が必要と考えられる。これは、NV
-欠陥と、これに対応する電荷的中性のためのN
+欠陥の濃度とを含む材料をもたらすことになる。しかし、典型的には、スピン(1/2)欠陥でありかつNV
-欠陥のスピン特性に有害な残留量の未変換中性単一置換窒素が存在することになると考えられる。制御された濃度の空孔欠陥が、照射およびその後になされる1200℃でのアニールステップによって導入される場合、残留窒素および空孔欠陥は結合して、例えばスピンゼロ欠陥N−V−Nを形成することができ、したがってNV
-欠陥の性質を改善することができると考えられる。
【0050】
本明細書に記述される個々のアニールステップは、当技術分野で公知であり得ることに留意すべきである。例えば、B. Naydenov et al.は、NVスピン欠陥を製作するための、800℃の温度での打込みおよびアニール技法について提示している。B. Naydenov et al.は、1000℃、1100℃、または1200℃よりも高い温度でアニールすることが、NVスピン欠陥のデコヒーレンス時間を延ばすように様々な常磁性欠陥を除去するのに有利となり得ることも提示している。さらに、Fu et al.[Appl. Phys. Lett. 96, 121907 (2010)]は、NV含有ダイヤモンド材料を465℃で、酸素雰囲気中でアニールすることにより、サンプルの表面近くでNV
0をNV
-に酸化できることを提示している。しかし本発明者らは、本明細書に記述される3段階アニールプロセスのいかなる開示も承知しておらず、またはそのような多段階アニールプロセスが、多光子の絡み合いを要する量子光学的用途で必要とされるように、スピン欠陥に関して安定で狭いゼロフォノン線幅放出をもたらすことができるといういかなる開示も承知していない。確かに、Fu at al.により記述される酸化アニールは、ここに記述されるように多段階アニールプロセスの後に行って表面付近のNV
0をNV
-に変換することができた。
【0051】
アニールされた合成ダイヤモンド生成物材料の、固有不均一ゼロフォノン線放出は、デバイ温度よりも低い温度、例えば10ケルビンよりも低い温度で測定する。放出測定は、緑色および赤色レーザ光を代わりにポンピングし、ゼロフォノン線放出を走査しながら、行うことができる。100MHz未満の固有不均一ゼロフォノン線幅が得られる。さらに、ゼロフォノン線放出は、少なくとも1秒、10秒、20秒、50秒、および100秒までの平均時間にわたり安定であることがわかっている。さらにゼロフォノン線放出は、緑色レーザ励起の下であっても安定であり、リポンプがバルクダイヤモンドサンプルに必要ではあるが、これらのリポンプの結果、スペクトル拡散は観察されない。さらになお、スペクトル拡散がより長い期間で生じることを示唆する証拠はない。
本発明の、ある実施形態の合成ダイヤモンド材料は、本明細書の初めの部分に記述されたWO01/096633、WO2010/010344、およびWO2010/010352の材料の電子、光学、および不純物特性の1つまたは複数を含んでいてもよい。好ましくは、合成ダイヤモンド材料は、100ppb、80ppb、60ppb、40ppb、20ppb、10ppb、5ppb、または1ppb以下の単一置換窒素濃度を含む。
【0052】
さらに、本明細書に記述される多段階アニールプロセスの後、NV欠陥の濃度は、通常ならNV欠陥の放出特性に悪影響を及ぼすダイヤモンド材料中のその他のスピン欠陥の濃度に比べて増大することになる。したがって、事前にアニールされた材料の特性に加え、多段階アニールプロセスは、より狭い固有不均一ゼロフォノン線幅を有するスピン欠陥をもたらす。さらに、多段階アニールプロセスは、純度の低い出発材料から、改善されたデコヒーレンス時間T
2または同等のデコヒーレンス時間を有する、スピン欠陥を含む材料を生成することができる。例えば、材料中の1つまたは複数のスピン欠陥は、室温で、少なくとも100μs、300μs、500μs、1ms、2ms、5ms、10ms、50ms、または100msのデコヒーレンス時間T
2を有していてもよい。
【0053】
1つまたは複数のフォトニック構造は、合成ダイヤモンド材料で製作することができる。1つまたは複数のスピン欠陥は、1つもしくは複数のフォトニック構造から1μm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、もしくは5nm以下に、または1つもしくは複数のフォトニック構造内に位置付けることができる。このように、1つまたは複数のフォトニック構造に結合された1つまたは複数のスピン欠陥を含むダイヤモンドデバイス層を、製作することができる。適切なフォトニック構造の例には、フォトニックビームおよびハイブリッドフォトニック結晶が含まれる。
【0054】
上記に加え、本発明者らは、合成ダイヤモンド材料中のフォニックデバイス構造の製作は既に報告された通りであるが、そのようなフォトニックデバイス構造内にスペクトル上安定なスピン欠陥を設ける際に問題があることにも留意した。米国特許出願公開第2011−0309265号は、合成ダイヤモンド材料にフォトニック構造を製作するのに適切なエッチング手順について記述する。本明細書に記述される多段階アニール手順は、適度にスペクトル上安定でありかつ比較的狭い線幅を有するスピン欠陥を含む合成ダイヤモンド材料中にフォトニック構造を製作するために、米国特許出願公開第2011−0309265号に記載されるエッチング手順と組み合わせることができることがわかった。本明細書に記述される多段階アニール手順は、フォトニック構造内に位置付けられたスピン欠陥のペクトル上の性質を安定化させるために、米国特許出願公開第2011−0309265号に記載されるエッチング手順の前または後に適用されてもよい。
【0055】
上記に照らし、本発明の別の態様によれば、合成ダイヤモンド材料から製作されたフォトニックデバイス構造であって、1つまたは複数のフォトニック構造を含んだフォトニックデバイス層を含み、そのまたはそれぞれのフォトニック構造が、内部に配置された少なくとも1つのスピン欠陥を含み、前記少なくとも1つのスピン欠陥は、3.5GHz、3.0GHz、もしくは2.6GHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅、および/または100MHz以下の単一走査線幅を有する、前記フォトニックデバイス構造が提供される。フォトニックデバイス層は、本発明の第1の態様による合成ダイヤモンド材料から製作することができる。
図3(a)および(b)は、ビームと、本明細書に記述された方法を使用して製作されたスピン欠陥を含むハイブリッドフォトニック結晶との、走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。これらの画像は、NV
-スピン欠陥を含むフォトニックダイヤモンド構造の単一デバイス層の例を示す。
【0056】
フォトニック構造内に位置付けられたスピン欠陥に関するスペクトルデータを
図4に示すが、この図は、例えば米国特許出願公開第2011−0309265号に記載されるような適切なエッチング技法と組み合わせて本明細書に記述される多段階アニール技法を使用して製作された、ナノスケール光学デバイス内のNV
-スピン欠陥のスペクトル特性を示す。
図4(a)は、バルクダイヤモンド構造の最上部に製作された懸架式ダイヤモンド導波路のSEM画像を示す。導波路は、長さ約20μm、幅約200nmである。
図4(b)は、懸架式導波路の内部に位置付けられたNV
-スピン欠陥のスペクトルデータを示す。データは、
図2(a)に関して既に記述されたものと同じ方法で得られ、線幅は、スペクトル拡散の作用を含む。
図4(c)は、懸架式導波路の内部に位置付けられたNV
-スピン欠陥に関するスペクトルデータを示し、このデータは、
図2(b)に関して既に記述されたものと同じ方法で得られ、線幅は、スペクトル拡散の作用を除外している。
【0057】
本明細書に記述される材料は、ダイヤモンドをベースにした量子システムおよびデバイスで使用するために設計製作した。したがって本発明の別の態様は、本明細書に記述される材料および/またはフォトニックデバイス構造を含む、ダイヤモンドをベースにした量子システムを提供する。そのようなシステムは、合成ダイヤモンド材料中の1つまたは複数のスピン欠陥を光学的に励起するように構成された励起装置と、合成ダイヤモンド材料中の1つまたは複数のスピン欠陥から光子放出を検出するように構成された検出装置も含むことになる。そのような多光子干渉システムの例は、背景技術の項目に記述される。そのようなシステムは少なくとも2つのスピン欠陥を要し、励起装置は、少なくとも2つのスピン欠陥に個々に対処するように構成される。システムはさらに、少なくとも2つのスピン欠陥からの光子放出を重ねるように構成された、光子干渉装置を含む。さらに検出装置は、少なくとも2つのスピン欠陥に発し、光子干渉装置を通過した後の光子放出を検出するように構成され、この検出装置は、少なくとも2つの合成固体エミッタからの光子放出が量子力学的に区別できず、その結果異なるスピン欠陥からの区別できない光子放出間で量子の絡み合いを起こすほど、十分に小さい光子検出時間の差を分解するように構成される。
【0058】
上述のシステムは、背景技術の項目で最近提示され論じられたものに構成が類似している。しかし、改善されたスピン欠陥放出線幅およびスペクトル安定性により、シュタルクチューニングは必須要件ではないと見なされ、デバイスは、チューニング構成要素を必要としないように単純化されてもよい。即ち、本発明の材料は、技術的な併用効果を発揮するために、シュタルクチューニングと組み合わせて使用できることも考えられる。フィルタリングが利用されてもよいが、高品質放出特性は、少ない光子しか廃棄する必要がなく、その結果、より高いデータ獲得率が得られることを意味することになる。さらになお、光子放出の周波数は、本発明の材料を使用してより精密に定められるので、検出装置は、少なくとも2つの合成固体エミッタからの光子放出が量子力学的に区別できず、その結果異なる合成固体光子エミッタからの区別できない光子放出間で量子干渉を起こすことを確実にするような高い分解能を、光子検出時間に対して必要としない。やはりこの結果、より高いデータ獲得率が得られることになる。
上記に加え、本明細書に記述される合成ダイヤモンド材料は、放射検出器、光学、および電子用途も含め、量子感知および処理を超えたその他の用途に適切であってもよいことにも留意すべきである。
【0059】
本発明を、好ましい実施形態に関して特に示し記述してきたが、当業者なら、形および詳細における様々な変更を、添付される特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく行ってもよいことが理解されよう。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕100MHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有する、1つまたは複数のスピン欠陥を含む、合成ダイヤモンド材料。
〔2〕前記半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅が、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHzの各以下である、前記〔1〕に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔3〕前記半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅が、少なくとも10、20、30、50、75、100、500、または1000秒にわたって平均化される、前記〔1〕または〔2〕に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔4〕前記半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅が、少なくとも10、20、30、50、75、100、500、または1000スペクトル走査にわたって平均化される、前記〔1〕から〔3〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔5〕前記1つまたは複数のスピン欠陥が、前記合成ダイヤモンド材料の表面から1μm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、または5nmの各以下に位置している、前記〔1〕から〔4〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔6〕前記合成ダイヤモンド材料がスピン欠陥の層を含み、前記層が少なくとも105スピン欠陥/cm2を含みかつ1μm以下の厚さを有し、前記層内の前記スピン欠陥が、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHzの各以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有する、前記〔1〕から〔5〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔7〕前記層の厚さが、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、または5nmの各以下である、前記〔6〕に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔8〕前記層が、105スピン欠陥/cm2〜1011スピン欠陥/cm2を含む、前記〔5〕から〔7〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔9〕前記スピン欠陥の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%が、100MHz、80MHz、60MHz、50MHz、または40MHzの各未満の合計スペクトル線幅を有する、前記〔1〕から〔8〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔10〕前記1つまたは複数のスピン欠陥が、室温で、少なくとも100μs、300μs、500μs、1ms、2ms、5ms、10ms、50ms、または100msのデコヒーレンス時間T2を有する、前記〔1〕から〔9〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔11〕CVD合成ダイヤモンド材料である、前記〔1〕から〔10〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔12〕前記1つまたは複数のスピン欠陥がNV-スピン欠陥である、前記〔1〕から〔11〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔13〕100ppb、80ppb、60ppb、40ppb、20ppb、10ppb、5ppb、または1ppbの各以下の単一置換窒素濃度を含む、前記〔1〕から〔12〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔14〕前記合成ダイヤモンド材料中に製作された1つまたは複数のフォトニック構造をさらに含む、前記〔1〕から〔13〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔15〕前記1つまたは複数のスピン欠陥が、前記1つまたは複数のフォトニック構造から1μm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nm、10nm、もしくは5nmの各以下に、または前記1つまたは複数のフォトニック構造内に位置している、前記〔14〕に記載の合成ダイヤモンド材料。
〔16〕合成ダイヤモンド材料から製作されたフォトニックデバイス構造であって、前記〔1〕から〔15〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料から製作され、1つまたは複数のフォトニック構造を含んだフォトニックデバイス層を含み、そのまたはそれぞれのフォトニック構造が、内部に配置された少なくとも1つのスピン欠陥を含み、前記少なくとも1つのスピン欠陥は、3.5GHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅および/または100MHz以下の単一走査線幅を有する、フォトニックデバイス構造。
〔17〕前記少なくとも1つのスピン欠陥が、3.0GHz以下または2.6GHz以下の半値全幅固有不均一ゼロフォノン線幅を有する、前記〔16〕に記載のフォトニックデバイス構造。
〔18〕前記〔1〕から〔15〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料、または前記〔16〕もしくは〔17〕のいずれか1項に記載のフォトニックデバイス構造を製作する方法であって、
100ppb、80ppb、60ppb、40ppb、20ppb、10ppb、5ppb、または1ppbの各以下の単一置換窒素濃度を含む合成ダイヤモンド材料を選択するステップと、
少なくとも2時間にわたる、範囲350〜450℃の温度での第1のアニールステップ、
少なくとも2時間にわたる、範囲750〜900℃の温度での第2のアニールステップ、および
少なくとも2時間にわたる、範囲1150℃〜1550℃の温度での第3のアニールステップ
を含む多段階アニールプロセスを使用して合成ダイヤモンド材料をアニールするステップと
を含む方法。
〔19〕前記第1のアニールステップが、少なくとも4時間、6時間、または8時間にわたり行われる、前記〔18〕に記載の方法。
〔20〕前記第2のアニールステップが、少なくとも4時間、6時間、または8時間の期間にわたって行われる、前記〔18〕または〔19〕に記載の方法。
〔21〕前記第3のアニールステップが、少なくとも4時間、6時間、または8時間の期間にわたって行われる、前記〔18〕から〔20〕までのいずれか1項に記載の方法。
〔22〕前記第3のアニールステップが、少なくとも1200℃、1300℃もしくは1350℃の温度、および/または1500℃、1450℃、もしくは1400℃の各以下の温度で行われる、前記〔18〕から〔21〕までのいずれか1項に記載の方法。
〔23〕前記多段階アニールプロセスの前に、前記合成ダイヤモンド材料に窒素の層を打ち込むステップをさらに含む、前記〔18〕から〔22〕までのいずれか1項に記載の方法。
〔24〕空孔欠陥が形成されるように、前記多段階アニールプロセスの前に、前記合成ダイヤモンド材料を照射するステップをさらに含む、前記〔18〕から〔23〕までのいずれか1項に記載の方法。
〔25〕前記〔1〕から〔15〕までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料、または前記〔16〕もしくは〔17〕のいずれか1項に記載のフォトニックデバイス構造と、
前記合成ダイヤモンド材料または前記フォトニックデバイス構造内の1つまたは複数のスピン欠陥を光学的に励起するように構成された励起装置と、
前記1つまたは複数のスピン欠陥から光子放出を検出するように構成された検出装置と
を備える、ダイヤモンドをベースにした量子システム。
〔26〕前記励起装置が、少なくとも2つのスピン欠陥に個々に対処するように構成され、
前記ダイヤモンドをベースにした量子システムが、少なくとも2つのスピン欠陥からの光子放出を重ねるように構成された光子干渉装置をさらに備え、
前記検出装置が、前記光子干渉装置を通過した後に少なくとも2つのスピン欠陥からの光子放出を検出するように構成され、前記検出装置は、少なくとも2つの合成固体エミッタからの光子放出が量子力学的に区別できず、その結果異なるスピン欠陥からの区別できない光子放出間で量子の絡み合いを起こすほど、十分に小さい光子検出時間の差を分解するように構成される、
前記〔25〕に記載のダイヤモンドをベースにした量子システム。