【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<複合共振法による非接触応力測定装置の構成>
図1は実施例1の複合共振法による非接触応力測定装置を示す概略構成図である。
図2は応力センサ部をPCワイヤーに装着した状態を示す拡大正面図である。
本発明の非接触応力測定装置は、PCワイヤー等の線材wを励磁する一次コイル(励磁コイル)1と、この励磁された線材wの出力を帰還させる二次コイル(帰還コイル)2を内装した応力センサ部3と、この応力センサ部3の一次コイル(励磁コイル)1と二次コイル(帰還コイル)2間において、線材wが有する磁気特性で磁気結合させる、二次コイル(帰還コイル)2にコンデンサ4(C1)を並列に入れて形成した並列共振回路5とを備えている。
【0020】
この並列共振回路5のみでは、応力変化に伴う線材wの磁性体の磁気特性の変化は非常に微小な変化しか検出することができない。本発明では並列共振回路5に、二次コイル(帰還コイル)2側で生じる測定信号を入力する増幅器6を入れた。更に、増幅器6と一次コイル(励磁コイル)1の間に直列共振回路7を入れた。この直列共振回路7は、抵抗8及びコンデンサ9(C2)で形成される。更に、この直列共振回路7は、内部応力出力(DC)とコンデンサ10(C3)により構成され、これら以外の必要部品と共に、非接触応力測定装置としてケース内にまとめられている。
【0021】
<応力センサ部の構成>
一次コイル(励磁コイル)1は、
図2に示すように中心部に測定する強磁性のPCワイヤー等の線材wを貫通させるために、円筒形状のボビン11にソレノイド状に巻線をしたものである。
【0022】
二次コイル(帰還コイル)2も、中心部に測定物の強磁性のPCワイヤー等の線材wを貫通させるために、同じボビン11にソレノイド状に巻線したものである。一次コイル(励磁コイル)1と二次コイル(帰還コイル)2の中心部に測定する強磁性ワイヤーを貫通することにより、磁気閉ループを形成する。二次コイル2にはコンデンサ4により並列共振回路5を形成する。並列共振回路5の信号は、正帰還(β)の減衰器12を介して適正な正帰還量を増幅器6に入力し、自励発振器として作動する。
【0023】
本発明の測定装置は簡単な装置であるために、コスト面から応力センサ部3のみを多数あるワイヤー等の線材wそれぞれに予め装着しておくことが可能になる。
【0024】
図1の概略構成図では、応力センサ部3が一次コイル(励磁コイル)1と二次コイル(帰還コイル)2とを並べられた構成を示しているが、このような構成に限定されない。図示していないが、ボビン11の内部にソレノイド状の一次コイル(励磁コイル)1の上側に、二次コイル(帰還コイル)2を巻線した、二重構造のものでもよい。
【0025】
また、
図2の装着状態に示すように、本発明では、中心部に測定する強磁性のPCワイヤー等の線材wを貫通させて使用するものである。既存の線材wに後から貫通させることが困難なことがある。そこで、図示していないが、応力センサ部3を線材wに後から装着できるように、応力センサ部3をその長手方向に2分割できる構造にして、その後自在に接合し得る構成にする。このとき内部の一次コイル(励磁コイル)1と二次コイル(帰還コイル)2共に2分割できる構成にする。この分割された両コイル1,2を線材wに自在に挟む構成にする。
【0026】
<測定原理の説明>
実施例1の複合共振法による非接触応力測定装置では、直列共振周波数近傍になるコンデンサ9を介して一次コイル(励磁コイル)1で線材wを励磁(磁化)すると(直列共振電流)、この励磁された線材wの磁気特性により二次コイル(帰還コイル)2に電圧が誘起される。線材wが磁化されない場合の磁束より若干多くなる。並列共振回路5に組み込むと二次コイル(帰還コイル)2のインダクタンスは線材wから磁束が来る場合は相互インダクタンスとして作用する。
【0027】
この並列共振回路5のみでは、応力変化に伴う磁性体の磁気特性の変化について、非常に微小な変化しか検出できない。そこで、本発明は二次コイル(帰還コイル)2側で生じる測定信号を入力する増幅器6を備えた。二次コイル(帰還コイル)2にはコンデンサ4により並列共振回路5が形成されているので、この信号は正帰還(β)の減衰器12を介し適正な正帰還量を増幅器6に入力し、自励発振器として作動させる。この増幅器6の出力は、線材wを励磁させ、同時に出力の一部から、負帰還(-β)の減衰器13を介し増幅器6の安定を図る。
【0028】
即ち、磁束密度Bは、線材wの磁気特性、測定装置の磁気回路など形状係数で変化する。例えば、増幅器6のオープンゲインは約80dbで、負帰還により26dbの利得で使用し、極めて安定な増幅度が得られる。増幅器6の出力に、直列共振回路7と一次コイル(励磁コイル)1を直列に接続して線材wを励磁する。一次コイル(励磁コイル)1の上に二次コイル(帰還コイル)2を同様に巻き線し、並列にコンデンサ4により並列共振回路5を形成する(F0280Hz)、この信号にATTを介し増幅器6の+入力に接続し正帰還ループを形成する。
【0029】
二次コイル2(帰還コイル)の共振電圧値が一定になるよう発振ループは作動する。線材wの無負荷から最大負荷間で同様に作動する。このとき一次コイル(励磁コイル)1の両端電位は励磁電流に比例する。これを線材wの応力変化に伴う磁性体の磁気特性の変化として出力させ、線材wの張力の変化について測定することができる。
【0030】
実施例1の複合共振法による非接触応力測定装置により、測定した実測値として、無負荷時電圧P−P14V、電流P−P0.7Aで、最大負荷時電圧P−P30V、電流P−P1.4A、Z=インピーダンス20Ω−21.4Ωを得た。
【0031】
図3は増幅器における作用原理を示すグラフである。
グラフの横軸は、引張り荷重に対する一次コイル(励磁コイル)1の直列共振周波数及び同様に二次コイル(帰還コイル)2の並列共振周波数及び各共振スロープを示す。縦軸は、一次コイル(励磁コイル)1のインダクタンスLとコンデンサ9(C2)による直列共振インピーダンスによる電圧・電流及び2次コイル(帰還コイル)2の並列共振電圧を示す。
【0032】
無荷重時における二次コイル(帰還コイル)2の並列共振周波数f1で、持続正帰還発振レベル(グラフ右側に記入)にしておく、引張り荷重の増加に伴いf1からf2に移行する。即ち、荷重が増加し二次コイル(帰還コイル)2の並列共振電圧が一定となるよう一次コイル(励磁コイル)1の直列共振電流を増幅器6により自動的に制御することができる。そこで、本発明の複合共振法による非接触応力測定方法では、純粋に高感度で再現性の高い測定が可能になる。
【0033】
このように本発明の複合共振法による非接触応力測定方法、測定装置は、PCワイヤー等の線材wの張力測定に利用することができる。
PCワイヤー等の線材wは荷重により微小に変化する。インダクタンス、透磁率、ヒステリシス損、渦電損を選択的に測定するには極めて困難であったが、本発明の正帰還増幅器6の正帰還発振によれば、変化するインダクタンス、透磁率、ヒステリシス損、渦電流損等のパラメータを選択できる。パラメータの内、実数項のヒステリシス損は、共振により複素項が打消され、実数項のみとなり、ヒステリシス損は、PCワイヤー等の線材wの加重変化に対応することができる。
【0034】
本発明の複合共振法により、振幅Hは数1の数式で示されるように、−αの値が0(発振状態)に近づくにつれ、回路全体の利得は急激に上がる。Q値は数2の数式で、バンド幅は数3の数式で示されるように、上昇してバンド幅は元の値より狭くなる。1−αの値が0.01の場合利得は100倍になり、Q値と選択度も元の回路より100倍良くなる。即ち、精度の高い応力測定が可能になる。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
【数3】
【0038】
<張力測定試験(引張試験機)>
図4は本発明の複合共振法による非接触応力測定装置により測定する線材を装着した状態を示す引張試験機を示す正面図である。
本発明の非接触応力測定装置の基礎データを、引張試験機21を用いて採取した。図示するような引張試験機21の上部に荷重検出器(ロード・セル)22を固定し、これに試験片つかみ具(チャック)23を連結した線材w(鋼線ワイヤー)の上部を固定する。一方、線材wの下部はつかみ具23で掴み,これを剛体枠下部24に固定する。モーターで両側のフレーム25にあるネジ棹26を回転させることによって上下させ、線材wは一定の速度で引き伸ばされる。引張試験機21の上下部試験片つかみ具23に線材w(鋼線ワイヤー)を取り付けて試験した。このとき、線材wには本発明の非接触応力測定装置の応力センサ部3を装着した。
【0039】
<張力測定試験(緊張力と電圧の関係)>
図5は引張試験機による電圧(引張強度)と張力との関係を示すグラフである。
図6は本発明の複合共振法による非接触応力測定装置により測定した緊張力と電圧の関係を示すグラフである。
試験機21による上下の変化値について、
図5と
図6にあるように電圧で示した。この試験結果は表1の試験結果表に示すように引張試験機21による電圧(引張強度)と張力との関係であった。試験は3回行った(電圧1、電圧2、電圧3)。
図5にこの試験結果のグラフを示す。
【0040】
図6にあるように、張力の増加に伴い,電圧が増加した。170kNの張力変化で約13Vの電圧変化が出力できており、張力変化を比較的大きな電圧変化として検出することができた。また、繰り返し測定しても履歴はほぼ変わらず、極めて高い再現性を有している。なお、載荷時は除荷時に比べ、やや電圧が高く出力される傾向が確認された。このように載荷と除荷で若干異なる履歴を描く原因は、磁気ヒステリシスの影響と考えられる。
【0041】
測定結果は
図6のグラフに示すように機械的に引っ張り、その時の電圧(V)を縦軸に、張力(kN)を横軸で示す。このときの数式は数4に示す回帰式で計算した。この回帰式において、T:張力(kN)、e:出力電圧(V)である。温度など諸要因の影響は考慮できていない状況ではあるが,仮に本結果から最小二乗法によりこの数式を導き出した。この数式は多項式とし、自由度調整済み決定係数が最も1に近くなる三次式とした。この実験ではPC鋼撚り線を用いたて3回試験した。測定温度は14.5℃であった。
【0042】
【数4】
【0043】
【表1】
【0044】
<張力測定試験(張力推定)>
図7は本発明の複合共振法による非接触応力測定装置により測定した線材の長さが2.0mの張力測定試験結果を示すグラフである。
図8は本発明の複合共振法による非接触応力測定装置により測定した線材の長さが6.7mの張力測定試験結果を示すグラフである。
同じく本発明の非接触応力測定装置の基礎データを、引張試験機21を用いて採取した結果を
図6〜8に示す。引張試験機21の上部に荷重検出器(ロード・セル)22を固定し,さらにこれに試験片つかみ具(チャック)23を連結し線材wとして鋼線ワイヤーの上部を固定する。一方、線材wの下部はつかみ具23で掴み,これを剛体枠下部24に固定する。モーターで両側のフレーム25にあるネジ棹(さお)26を回転させることによって上下し,線材wは一定の速度で引き伸ばされる。引張試験機の上下部試験片つかみ具23に線材wとして鋼線ワイヤーを取り付けて試験した。
【0045】
<張力測定試験結果(張力推定)>
図7のグラフに示すように、測定対象としては、線材wの長さが2.0mの鋼線について、3回試験した。鋼材の温度は9.5℃〜9.9℃の範囲で試験した。計測結果は
図7のグラフの横軸にロードセル計測値(kN)を示し、縦軸に本発明の応力測定装置による計測値(kN)を示す。
同様に、
図8のグラフに示すように、線材wの長さが6.7mの鋼線についても、3回試験した。このときの鋼材の温度は16.4℃〜16.7℃の範囲で試験した。
図8のグラフの横軸にロードセル計測値(kN)を示し、縦軸に本発明の応力測定装置による計測値(kN)を示す。
表2の回帰式の精度の表に示すように、これらの試験結果から決定係数は略一定の数値を示し、本発明の複合共振法による非接触応力測定装置の測定精度が高いことを示している。
【0046】
【表2】
【0047】
張力により微小に変化するヒステリシス損失成分を一次コイルの両端差電圧を所定の信号として他の増幅手段を必要とせず再現性の高い信号が得られる。応力変化に伴う磁性体の磁気特性の変化は非常に微小な変化についてその測定精度を向上させることができる。
また、増幅の出力に抵抗及びコンデンサにより励磁電流の直列共振回路7によりヒステリシス損など損失による位相のずれを補正することで、正確に測定することができる。