特許第6352336号(P6352336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352336
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】多孔吸音板
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20180625BHJP
   E01F 8/00 20060101ALI20180625BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G10K11/16 130
   E01F8/00
   E04B1/86 Q
   E04B1/86 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-120172(P2016-120172)
(22)【出願日】2016年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-107160(P2017-107160A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2017年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-231451(P2015-231451)
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 善三
(72)【発明者】
【氏名】山極 伊知郎
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−123000(JP,U)
【文献】 実開昭58−088700(JP,U)
【文献】 米国特許第6206136(US,B1)
【文献】 特開2001−132132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 3/00− 8/02
E04B 1/62− 1/99
G10K 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔が形成された母材としての多孔板を有する多孔吸音板であって、
前記貫通孔は、円柱形状の孔であり、
前記貫通孔の内壁面に塗膜を有し、当該塗膜により前記貫通孔の容積よりも小さな容積の貫通孔部が形成されており、
前記塗膜の厚さは、板厚方向における前記塗膜の端部よりも前記塗膜の板厚方向中央側の方が厚くされていることを特徴とする、多孔吸音板。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔吸音板において、
前記貫通孔部は、前記塗膜により前記貫通孔の最小直径よりも小さな直径部を有することを特徴とする、多孔吸音板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔吸音板において、
前記貫通孔の孔端部が面取りされていることを特徴とする、多孔吸音板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の多孔吸音板において、
塗膜厚さが前記貫通孔の直径の1/2未満となる塗装が前記貫通孔の内壁面に施されていることを特徴とする、多孔吸音板。
【請求項5】
請求項に記載の多孔吸音板において、
塗膜厚さが前記貫通孔の直径の1/50以上となる塗装が前記貫通孔の内壁面に施されていることを特徴とする、多孔吸音板。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の多孔吸音板において、
前記貫通孔の内壁面の一部に前記塗膜を有することを特徴とする、多孔吸音板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音部材としての多孔板に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音部材としての多孔板、すなわち多孔吸音板は、その孔径を小さくすることで吸音性能が向上することが知られている。しかしながら、吸音部材として用いる板材は厚みが薄いため、板厚以下の径の孔を板材にあけることは難しい。一方、多孔板を吸音部材に適用し製品として成立させるには、耐食性・耐候性等の観点から多孔板に塗装を施すことを必要とする場合も多い。多孔吸音板は、当該多孔吸音板に形成された孔内を音が伝搬する過程で減衰するという原理で吸音するものである。したがって、多孔板に塗装を施して孔が塞がると、その吸音性能が劣化することが懸念される。
【0003】
多孔板に塗装を施してなる多孔吸音板として、例えば特許文献1に記載されたものがある。その従来技術は、多孔板の表面に、貫通孔の開口部を塞ぐように1〜10μmの厚みの塗装薄膜を形成するというものである。特許文献1では、この塗装薄膜により、貫通孔への塵埃の侵入を防止でき、且つ経時変化等による劣化が抑制され、優れた吸音特性および外観特性に優れる、と称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−233792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1〜10μmの厚みの塗装で必要十分な製品に関しては特に問題ないが、例えば自動車を構成する鋼板などの高い耐候性が求められる板材には、防錆のための電着塗装などで例えば20μm程度の膜厚の塗装が施される。この程度の塗装膜厚になると、特許文献1に記載の貫通孔を塗膜で塞ぐ方法では吸音性能が大幅に悪化してしまう。
また、特許文献1に記載の1〜10μmの厚みの塗装薄膜で貫通孔を塞ぐという方法は、多孔板の吸音性能を向上させることを目的とするものではなく、吸音性能の悪化を回避することを目的とするものである。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、吸音性能の悪化回避ではなく、塗装により多孔板の吸音性能の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数の貫通孔が形成された母材としての多孔板を有する多孔吸音板であって、当該貫通孔の内壁面に塗膜を有し、この塗膜により貫通孔の容積よりも小さな容積の貫通孔部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、母材の貫通孔の容積を塗膜によって小さくすることで、孔による粘性減衰を大きくすることが可能となり、その結果、母材の貫通孔以上の吸音性能を発揮させることができる。「粘性減衰」とは、音が通過する際の音波と壁面との摩擦による音波の減衰のことである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る多孔吸音板を備える吸音構造を示す断面図である。
図2図1に示す多孔吸音板の貫通孔部分の拡大図である。
図3】塗膜により貫通孔の容積を小さくしたことによる効果を示すグラフである。
図4】膜厚/孔径と平均吸音率上昇率との関係を示すグラフである。
図5図2に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。
図6図2に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る多孔吸音板の貫通孔部分の拡大図である。
図8図7に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。
図9図7に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る多孔吸音板の貫通孔部分の拡大図である。
図11図10に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。
図12図10に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
(多孔吸音板を用いた吸音構造)
図1に示すように、多孔吸音板1は、板形状または壁形状の閉塞部材2との間に空気層3が形成されるように、閉塞部材2との間に所定の間隔をあけて配置される。閉塞部材2とは、孔が開けられていない、すなわち、表面と裏面が連通していない部材のことである。閉塞部材2は、多孔吸音板1を間に挟んで、騒音源5の反対側に配置される。
【0012】
本実施形態の多孔吸音板1は、多数の貫通孔4があけられた母材としての多孔板6の両面および貫通孔4の内壁面に塗膜7が形成されてなる吸音板である。塗膜7を形成するための塗装方法としては、例えば、電着塗装、ハケ塗り、吹付塗装などが挙げられる。多孔板6および閉塞部材2の材料は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、鉄、樹脂などである。
【0013】
(第1実施形態)
(貫通孔部分の詳細)
図2は、図1に示す第1実施形態に係る多孔吸音板1の貫通孔4部分の拡大図である。図2に示すように、母材である多孔板6の貫通孔4は円柱形状の孔であり、この貫通孔4の内壁面の全体に塗膜7aが形成され、この塗膜7aにより貫通孔4の孔径d(直径d)よりも小さな貫通孔部8が形成されている。且つ、形成された貫通孔部8の孔の容積は、塗装が施されていない貫通孔4のみの場合の孔の容積よりも小さい。塗膜7aは、例えばその表面張力により、板厚方向の端部よりも中央側のほうが盛り上がった(厚くなった)山形となっている。その稜線部11(膜厚最大部)の膜厚Lmaxは、貫通孔4の孔径dの1/2未満とされる。
【0014】
なお、この例では、貫通孔部8の、板厚方向に対する直交断面は、板厚方向におけるいずれの部位においても円形とされているが、塗装のし方によっては、潰れた円形、潰れた四角形など、貫通孔部8が円形(真円)にならないことがある。本発明ではこのような真円ではない貫通孔部であってもよい。また、この例では、貫通孔4の軸芯と貫通孔部8の軸芯とが一致しているが、塗装のし方によっては、貫通孔4の軸芯と貫通孔部8の軸芯とが一致しない場合がある。上記した例では、貫通孔4の軸芯と貫通孔部8の軸芯とが一致するため、膜厚Lmaxが貫通孔4の孔径dの1/2未満とされるが、貫通孔4の軸芯と貫通孔部8の軸芯とが一致しない場合、すなわち、貫通孔4の内壁面の周方向において塗装のムラや偏りがある場合には、場所によっては膜厚Lmaxが貫通孔4の孔径dの1/2以上となる場合もある。必須なのは、貫通孔4の内壁面に塗装が施されても、孔が閉塞することなく貫通孔部が形成されていることである。
【0015】
ここで、図3は、塗膜により貫通孔の容積が小さくされたことによる効果を示すグラフである。図3中の点線は、貫通孔4の内壁面を塗装していない場合の様々な周波数域での吸音率を示し、図3中の実線は、貫通孔4の内壁面を塗装した場合(塗装して貫通孔4の容積を小さくした場合)の様々な周波数域での吸音率を示している。この図3からわかるように、貫通孔4の容積を塗膜によって小さくすることで、孔による粘性減衰を大きくすることが可能となり、その結果、全ての周波数域において、母材の貫通孔以上の吸音性能が発揮可能になる。
【0016】
図4は、膜厚L/孔径dと平均吸音率上昇率との関係を示すグラフである。なお、解析対象の多孔吸音板の母材の貫通孔4は円柱形状としている。図4の横軸でいう膜厚L/孔径dの「膜厚L」とは、円柱形状の貫通孔4の内壁面全てに均一の厚みの塗膜が形成されている場合には、その膜厚であり、図2に示すような板厚方向で塗膜の厚みが異なる場合には、最大膜厚である膜厚Lmaxのことである。
【0017】
また、「平均吸音率」とは、板厚1mmの板に孔径d=1mmの孔をあけ、当該孔の内壁面に膜厚Lの塗装を施してなる多孔吸音板であって、吸音ピークが吸音率1となるように開口率を決めた多孔吸音板の、100〜5000Hzの吸音率の平均である。一般的には、平均吸音率は、約0.5〜0.7程度となる。図4における貫通孔部分の条件として、平均吸音率を0.5とし、かつ、貫通孔4の内壁面の周方向において塗装のムラがない、すなわち、貫通孔4の軸芯と、その内側に塗膜により形成される貫通孔部の軸芯とが一致しているとしている。図4中の右側のグラフは、左側のグラフの膜厚L/孔径dが0〜0.05の部分を拡大したものである。
【0018】
図4中の右側のグラフからわかるように、膜厚L/孔径dが0から0.02になると平均吸音率が2%上昇する。平均吸音率が2%上昇すると、反射エネルギは約0.1dB低減するため、吸音率には優位な差が表れ始める。すなわち、膜厚L/孔径dは0.02(1/50)以上とされることが好ましい。
【0019】
平均吸音率が2%上昇すると、反射エネルギが約0.1dB低減する理由を次式に基づいて説明する。改善前(平均吸音率上昇前)の反射エネルギ(反射波のエネルギ)をEr(dB)とし、改善後の反射エネルギをEr´(dB)とする。反射エネルギの低減量は、ΔI(dB)である。ここで、αは、改善前(膜厚がゼロ)の平均吸音率であり、α´は、改善後の平均吸音率である。Eiは、入力波のエネルギである。
ΔI=Er−Er´
=10log10(1−α)Ei−10log10(1−α´)Ei
=10log10((1−α)/(1−α´))
上記した式に、α´=α+0.02α、α=0.5を代入すると、ΔI=約0.1dBとなる。
【0020】
なお、塗膜により形成される貫通孔部の径は小さい方が好ましいが、貫通孔4が塗膜により閉塞してしまうと吸音性能が低減してしまうので、膜厚L/孔径dは0.5(1/2)未満とされる。なお、塗膜によって貫通孔4が塞がれることをより確実に防止するには、膜厚L/孔径dを1/3以下とすることが好ましい。
【0021】
また、図2に示す実施形態では、板厚方向の端部(板厚方向における塗膜の端部)よりも中央側(塗膜の板厚方向中央側)のほうの塗装膜厚が厚くなっている。これにより、均一な塗膜による孔の断面が一定の場合に比べて孔径が小となる部分(領域)の板厚方向の長さが短くなる。その結果、孔による粘性減衰効果を向上させることができ、同じ吸音性能を発揮させるための孔数を減らすことができるという効果もある。なお、本発明を適用する微細多孔板に関し、音波減衰の向上には、貫通孔4の内壁面に形成される塗膜の厚み(均一な厚みの塗膜の場合はその厚み、均一でない場合は最大膜厚部の厚み)を、10〜100μmとし、且つ、孔径dを0.5mm以下とすることが好ましい。
【0022】
(第1実施形態の第1変形例)
図5は、図2に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。図1、2に示す多孔吸音板1では多孔板6の両面に塗装を施しているが、本実施形態では、多孔板6の片面のみに塗装を施し、これにより、貫通孔4の内壁面の一部に塗膜7bを形成している。なお、塗膜7bは、図2に示す塗膜7aと同じく山形の塗膜であるが、これに限られることはなく、板厚方向の各部で均一な厚みの塗膜であってもよい。
【0023】
貫通孔4の内壁面の一部のみに塗膜7bを形成することによっても、母材の貫通孔4の直径よりも小さく、且つ母材の貫通孔4の容積よりも小さな容積の貫通孔部を形成することができ、母材の貫通孔4以上の吸音性能が発揮可能になる。また、表面張力などにより塗膜7bを山形とすることで、均一な塗膜による孔の断面が一定の場合に比べて孔径が小となる部分(領域)の板厚方向の長さが短くなるため、孔による粘性減衰効果を向上させることができ、同じ吸音性能を発揮させるための孔数を減らすことができるという効果もある。
【0024】
なお、貫通孔部8は、塗膜7b面と、貫通孔4の内壁面のうちの塗膜7bがない面(塗装されていない面)とで形成される孔部のことである(母材の貫通孔の内壁面の一部に塗装が施される後述する他の実施形態においても同様)。
【0025】
(第1実施形態の第2変形例)
図6は、図2に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。本実施形態では、母材である多孔板6の貫通孔4の孔両端部4aを面取りしている。そのため、貫通孔4の内壁面に形成される塗膜7cは、図2の塗膜7aよりも湾曲の程度が大きくなり、板厚方向において塗装により孔径が小さくなる領域(稜線部11周辺の領域)が、孔端部が面取りされていない図2に示す多孔板6の場合よりも少なくなる。これにより、孔による粘性減衰効果をより向上させることができ、同じ吸音性能を発揮させるための孔数をより減らすことができる。
【0026】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る多孔吸音板21の貫通孔部分の拡大図である。図2,5,6に示す母材である多孔板6に形成された貫通孔4が、いずれも円柱形状の孔であるのに対して、本実施形態の多孔板6(母材)に形成された貫通孔9は、円錐台形状の孔とされている。貫通孔9は、多孔板6の一方の面に形成された最大孔径部12と、多孔板6の他方の面に形成された最小孔径部13とを有し、最小孔径部13から最大孔径部12へ向かうにつれて徐々に孔径が拡大している。
【0027】
なお、本実施形態の貫通孔9は、円錐台形状のうちの直円錐台(軸対称の円錐台)形状に分類されるものであるが、斜円錐台形状の貫通孔であってもよい。さらには、貫通孔は、円錐台形状に限られるものではなく、前記したように、最小孔径部13から最大孔径部12へ向かうにつれて徐々に孔径が拡大するものであればよい(後述する第3実施形態における貫通孔14の円錐台状孔14bについても同様)。
【0028】
この貫通孔9の内壁面の全体に塗膜7dが形成され、この塗膜7dにより貫通孔9の容積よりも小さな容積の貫通孔部10が形成されている。
【0029】
貫通孔9の形状をテーパ状にすることで、孔径が最小になる部位を最小孔径部13に限定することができるため、孔形状の精度、塗膜厚のバラツキなどにより孔が閉塞するリスクを小さくすることができる。
【0030】
なお、多孔吸音板21の配置に関し、最小孔径部13側の面が騒音源5側にされてもよいし、最大孔径部12側の面が騒音源5側にされてもよい(図8〜12に示す貫通孔部分を有する多孔吸音板についても同様)。
【0031】
(第2実施形態の第1変形例)
図8は、図7に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。本実施形態では、多孔板6の最小孔径部13側の面のみに塗装を施し、これにより、貫通孔9の内壁面のうちの最小孔径部13側のみに塗膜7eを形成している。この構成によると、孔形状の精度、塗膜厚のバラツキなどにより孔が閉塞するリスクを小さくすることができるという前記した効果を、より少ない塗装量で達成することができる。
【0032】
(第2実施形態の第2変形例)
図9は、図7に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。本実施形態では、多孔板6の最大孔径部12側の面のみに塗装を施し、これにより、貫通孔9の内壁面のうちの最大孔径部12側のみに塗膜7fを形成している。この構成によると、最小孔径部13の径を維持したまま、塗膜7fにより孔径を全体的に小さくすることができ(孔の容積を小さくすることができ)、孔部での粘性減衰を向上させることができる。
【0033】
塗膜7f面および塗膜7fがない面(塗装されていない孔面)で形成される貫通孔部10のうちの、塗膜7f部の内径は、最小孔径部13の内径よりも小さい。すなわち、貫通孔部10は、塗膜7fにより母材の貫通孔9の最小直径よりも小さな直径部を有する。ここで、吸音効果は、音波が孔を通過する際の圧力損失により決定され、この圧力損失は、孔の一番小さな部位の影響が大きい。そのため、本実施形態のように、貫通孔9の内壁面に塗装を施し、孔容積を小さくするとともに母材の貫通孔9の最小孔径部13よりも小さな孔部を形成することで、より大きな吸音効果を得ることができる。
【0034】
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態に係る多孔吸音板31の貫通孔部分の拡大図である。本実施形態の多孔板6(母材)に形成された貫通孔14は、多孔板6の一方の面に形成された最大孔径部12と、多孔板6の他方の面に形成された最小孔径部13とを有する。この点は、図7〜9に示す貫通孔9と同じである。本実施形態では、貫通孔14は、最小孔径部13から最大孔径部12へ向かうにつれて、最初は、最小孔径部13と同径の円柱状孔14aとされ、途中から徐々に孔径が拡大する円錐台状孔14bとされている。円柱状孔14aは、最小孔径部13と同径を維持する部分である。
【0035】
この貫通孔14の内壁面の全体に塗膜7gが形成され、この塗膜7gにより貫通孔14の容積よりも小さな容積の貫通孔部15が形成されている。
【0036】
本実施形態の多孔吸音板31によると、図7に示す第2実施形態の多孔吸音板21と同様に、貫通孔14の形状をテーパ状にすることで、孔径が最小になる部位を最小孔径部13に限定することができるため、孔形状の精度、塗膜厚のバラツキなどにより孔が閉塞するリスクを小さくすることができる。これに加えて、径が最小の円柱状孔14aの板厚方向の長さを変化させることで、孔部での音波の減衰を容易に制御することができる。
【0037】
(第3実施形態の第1変形例)
図11は、図10に示す貫通孔部分の第1変形例を示す図である。本実施形態では、多孔板6の最小孔径部13側の面のみに塗装を施し、これにより、貫通孔14の内壁面のうちの最小孔径部13側のみに塗膜7hを形成している。この構成によると、孔形状の精度、塗膜厚のバラツキなどにより孔が閉塞するリスクを小さくすることができるという前記した効果を、より少ない塗装量で達成することができる。径が最小の円柱状孔14aの板厚方向の長さを変化させることで、孔部での音波の減衰を容易に制御することができるという効果もある。
【0038】
(第3実施形態の第2変形例)
図12は、図10に示す貫通孔部分の第2変形例を示す図である。本実施形態では、多孔板6の最大孔径部12側の面のみに塗装を施し、これにより、貫通孔14の内壁面のうちの最大孔径部12側のみに塗膜7iを形成している。この構成によると、最小孔径部13の径を維持したまま、塗膜7iにより孔径を全体的に小さくすることができ(孔の容積を小さくすることができ)、孔部での粘性減衰を向上させることができる。径が最小の円柱状孔14aの板厚方向の長さを変化させることで、孔部での音波の減衰を容易に制御することができるという効果もある。
【0039】
(変形例)
母材である多孔板6に形成される貫通孔4として円柱形状の孔を図2,5,6に例示したが、これに代えて、断面が三角形、四角形といった断面が多角形の貫通孔としてもよいし、断面が楕円、長円などの貫通孔としてもよい。また、母材である多孔板6に形成される貫通孔9,14として円錐台形状の孔を図7〜12に例示したが、これに代えて、角錐台形状の貫通孔としてもよい。本発明の多孔吸音板で必須なのは、母材にあけられた貫通孔が閉塞することなくその内壁面に塗装が施されていることである。
【0040】
上記した実施形態では、いずれの実施形態においても貫通孔4,9,14の内壁面の周方向全てにわたって塗膜が形成されているが、貫通孔4,9,14の内壁面の周方向の一部のみに塗膜が形成され、当該塗膜により貫通孔4の容積よりも小さな容積の貫通孔部が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1:多孔吸音板
2:閉塞部材
3:空気層
4:貫通孔
5:騒音源
6:多孔板(母材)
7:塗膜
8:貫通孔部(塗膜により形成された孔)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12