(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記黒鉛化前の炭素材料1が、ホウ素系化合物および/または珪素系化合物を10〜100000質量ppm含む請求項1乃至9のいずれか1項に記載の黒鉛材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
携帯機器の電源として、リチウムイオン二次電池がそのエネルギー密度の大きさやサイクル寿命が長いことなどの理由で、ほぼ主流になってきた。携帯機器等はその機能が多様化し消費電力が大きくなっている。そのため、リチウムイオン二次電池には、そのエネルギー密度をさらに増加させ、同時に充放電サイクル特性を向上させることが求められている。また、最近では、さらに、電動ドリル等の電動工具や、ハイブリッド自動車用等、高出力で大容量の二次電池への要求が高まっている。この分野は従来より、鉛二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池が主に使用されているが、小型軽量で高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池への期待は高く、大電流負荷特性に優れたリチウムイオン二次電池が求められている。
【0003】
特に、バッテリー電気自動車(BEV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等の自動車用途においては、10年間以上にわたる長期間のサイクル特性と、ハイパワーモーターを駆動させるための大電流負荷特性を主たる要求特性とし、さらに航続距離を伸ばすための高い体積エネルギー密度も要求され、モバイル用途に比して過酷なものとなっている。
【0004】
このリチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質にコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの金属酸化物やこれらの複合酸化物が使用され、電解液にリチウム塩が使用され、負極活物質に黒鉛などの炭素質材料が使用されている。
負極活物質に使用される黒鉛としては、天然黒鉛と人造黒鉛とがある。
【0005】
天然黒鉛は一般的に安価であり、高結晶性であるため高容量であるとの利点がある。しかし、形状が鱗片状であるため、バインダーとともにペーストにし、それを集電体に塗布すると、天然黒鉛が一方向に配向してしまう。そのような電極で充電すると電極が一方向にのみ膨張し、電流特性やサイクル寿命など、電極としての性能を低下させる。天然黒鉛を造粒して球状にした球状化天然黒鉛が提案されているが、電極作製時のプレスによって球状化天然黒鉛が潰れて配向してしまう。また、高結晶性の欠点として、天然黒鉛の表面活性が高いために初回充電時にガスが多量に発生し、初期効率が低く、それによって、さらに、サイクル寿命が悪化する。これらを解決するため、特許第3534391号公報(米国特許第6632569号明細書;特許文献1)等では、球状に加工した天然黒鉛の表面に、人造カーボンをコーティングする方法が提案されている。しかし、本方法で作製された材料は、モバイル用途等が要求する高容量・低電流・中サイクル特性については対応可能であるが、上記のような大型電池の大電流、長期サイクル特性といった要求を満たすことは非常に難しい。また、天然黒鉛は鉄などの金属不純物が多く、品質安定性の面でも問題がある。
【0006】
人造黒鉛としては、特開平4−190555号公報(特許文献2)等に記載されているメソカーボン小球体の黒鉛化品が挙げられる。これは非常にバランスの良い負極材であり、高容量、大電流の電池を達成可能であるが、電極粉同士の導電性接点が悪化しやすいなど、大型電池に要求される、長期にわたるサイクル特性を達成することは困難である。
【0007】
人造黒鉛として、石油、石炭ピッチ、コークス等を黒鉛化処理したものは比較的安価に入手できる。しかし、結晶性のよい針状コークスは鱗片状になり配向しやすい。この問題を解決するため、特許第3361510号公報(欧州特許第0918040号明細書;特許文献3)等に記載された方法が成果を上げている。この方法は、人造黒鉛原料の微粉の他、天然黒鉛等の微粉も使用可能であり、これまでの小型リチウムイオン二次電池用黒鉛としては、高容量で優れた特性を有する。しかし、自動車用途の要求特性を満足するためには、使用量の増加に向けた生産性の向上や製造コスト低減、不純物管理、サイクル特性、保存特性の向上などが必須である。
【0008】
リチウムイオン二次電池の負極に使用する人造黒鉛系材料の製造工程において、未黒鉛化物である炭素原料粉体を黒鉛化する方法としては、例えば以下のような方法が知られている。
(1)炭素原料粉体を黒鉛製ルツボに充填してアチソン炉で黒鉛化する(特許第3838618号公報(米国特許第6783747号明細書);特許文献4)。
(2)炭素原料粉体をピッチやポリマーなどのバインダーを用いて一定の形に成形し、アチソン炉で黒鉛化し、その後、成形体を解砕する(特許文献3)。
(3)炭素原料粉体を黒鉛材の容器に入れて、熱源としてのヒーターにより加熱して黒鉛化する。
(4)炭素原料粉体またはその成形体をヒーターによって加熱した空間の中を移動させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車などに使用される大型のリチウムイオン二次電池は大きな発展が期待される。そのため、その負極に使用する黒鉛材料としても、使用量の増加に伴う生産性の向上や製造コスト低減、不純物管理、品質管理、サイクル特性、保存特性の向上などが必須である。
しかし、前記の(1)〜(4)で示した従来のリチウムイオン電池用負極のための人造黒鉛の黒鉛化方法には、以下のような問題が存在する。
(a)黒鉛材料からなるルツボ等の容器の消耗、るつぼからの不純物の混入。
(b)アチソン炉の詰め粉コークスからのコンタミによる汚染。
(c)アチソン方式の場合は、詰め粉コークスなど製品以外の材料をあわせて熱処理するので生産性が落ちる。
(d)成形体の場合は、黒鉛化後の解砕時の不純物の混入、粉体表面の劣化。
(e)ヒーターを用いる場合は、ヒーター部材が消耗する上に、3000℃以上の高温にすることは難しいこと。
(f)ヒーターを用いる場合は、不活性ガスの使用によるコストアップ。
従って、本発明の課題は、不純物の混入が少なく、安定性に優れた高品質のリチウムイオン二次電池用負極のための黒鉛材料を生産性よく低コストで製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記[1]〜[14]のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法に関する。
[1]リチウムイオン電池用電極材料の製造方法であって、炭素材料に直接電流を流すことにより発熱させて黒鉛化する工程を含み、黒鉛化前の炭素材料1が密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗値が0.4Ωcm以下で、安息角が20°以上50°以下、レーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布におけるD90が120μm以下であり、黒鉛化後の炭素材料2がX線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.3354nm以上0.3450nm以下であるリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[2](前記黒鉛化後の炭素材料2を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗)/(前記黒鉛化前の炭素材料1を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗)≦0.5である前記1に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[3]前記黒鉛化前の炭素材料1のレーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布におけるD50が30μm以下である前記1または2に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[4]前記黒鉛化前の炭素材料1の安息角が30°以上50°以下、緩め嵩密度と固め嵩密度から算出される圧縮率((固め嵩密度−緩め嵩密度)×100/緩め嵩密度)が20%以上50%以下である前記1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[5]前記黒鉛化前の炭素材料1が、有機系炭素原料を800℃以上1500℃以下で熱処理してなるものである前記1乃至4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[6]前記熱処理の前に前記有機系炭素原料の粉砕処理を行う前記5に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[7]前記有機系炭素
原料が、不活性雰囲気下で300℃から1200℃まで加熱した際、この温度領域における加熱減量分が5質量%以上20質量%以下である前記5または6に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[8]前記有機系炭素原料中の硫黄分が2質量%以下である前記5乃至7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[9]前記有機系炭素原料が、石油ピッチ、石炭ピッチ、石炭コークス、石油コークスおよびこれらの混合物から選ばれる1種以上である前記5乃至8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[10]前記黒鉛化前の炭素材料1が、ホウ素系化合物および/または珪素系化合物を10〜100000質量ppm含む前記1乃至9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[11]黒鉛化の工程において、セラミックスレンガ製であって、上方が開口した直方体状の炉体を用いる前記1に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[12]前記炉体が、開口部方向から見て長手方向の長さが短手方向の長さの2倍以上である前記11に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[13]前記炉体の長手方向の両端面内側に通電用の電極を配置させる前記11または12に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
[14]空気と接する面に酸素をバリヤする層を設ける前記11乃至13のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、不純物の混入が少なく、安定性に優れた高品質のリチウムイオン電池用電極材料に使用することのできる黒鉛材料を生産性よく低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.リチウムイオン電池用電極材料のための黒鉛材料の製造方法
(1)黒鉛化前の炭素材料1の物性、製法
本発明では炭素材料1(炭素粉体)を黒鉛化して黒鉛材料を製造する。
炭素材料の原料としては、特に制限はないが、不活性雰囲気下で300℃から1200℃まで加熱した際、この温度領域における加熱減量分が5質量%以上20質量%以下である有機系炭素原料が好ましく使用できる。加熱減量分が5質量%未満になると黒鉛化後の粒子形状が板状になりやすい。また、粉砕面(エッジ部分)が露出しやすく比表面積が大きくなるため、負極として用いた場合に電解液との副反応が多くなる。逆に20質量%を超えると黒鉛化後の粒子同士の結着が多くなり、収率に影響する。有機系炭素原料の加熱減量分が上記範囲にあることによって、得られる黒鉛材料の表面が安定化し、負極として用いた場合に電解液との副反応が減少する。この理由は300〜1200℃の加熱で揮発する成分のために、露出したエッジ部分の結晶が、炭化後黒鉛化することにより再構成し安定化され、また粒子表面もなめらかになることによると考えられる。
【0015】
前記加熱減量分は、昇温速度10℃/分で、示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)が行える市販の装置を用いることによって測定することができる。実施例ではセイコーインスツルメント社製 TGDTAw6300を使用し、測定サンプル約15mgを正確に測りとり、プラチナ製パンにのせて装置にセットし、アルゴンガスを200ml/分で流し、10℃/minで300℃から1200℃まで昇温して測定する。リファレンスとして和光純薬製αアルミナを1500℃で3時間あらかじめ処理し、揮発分を除去したものを用いる。
【0016】
このような加熱減量分を有する有機系炭素原料は、例えば、石油ピッチ、石炭ピッチ、石炭コークス、石油コークスおよびこれらの混合物から選択することが好ましい。中でも石油コークスがより好ましく、石油コークスの中でも生コークスが好ましい。生コークスは、結晶が未発達であるので粉砕したときに球状になり、比表面積が小さくなりやすい。また、有機系炭素原料は、非針状のものであることが好ましく、加熱処理を行っていない非針状コークスであることが特に好ましい。
【0017】
石油コークスは、石油または歴青油のクラッキングまたは分解蒸留により得られる黒色で多孔質の固形残留物である。石油コークスには、コーキングの方法によって、フルード・コークス(fluid coke)とディレード・コークス(delayed coke)とがある。しかし、フルード・コークスは粉状で、製油所の自家燃料に使用される程度であまり用途がなく、一般に石油コークスと称するのはディレード・コークスのことである。ディレード・コークスには、生コークス(raw coke)とカ焼コークス(calcined coke)とがある。生コークスはコーキング装置から採取されたそのままのコークスで、カ焼コークスはこれを更にもう一度焼いて揮発分を除去したものである。生コークスは粉塵爆発を起こす可能性が高いので、微粒子状の石油コークスを得るためには、生コークスをカ焼して揮発分を除去してから粉砕されていた。また、従来、電極などにはカ焼コークスが一般に使われていた。生コークスは石炭コークスよりも灰分が少ないので、カーバイド工業の炭素材、鋳物用コークス、合金鉄用コークスなどに使用されるにとどまっている。
【0018】
有機系炭素原料中の硫黄は少ないほうが好ましい。硫黄は黒鉛化工程時に揮発し、炭素材料を突沸させたり、黒鉛化後の表面を荒らすという悪影響をもたらす。有機系炭素原料中の硫黄分は、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
硫黄の量は試料数十mgを専用容器に秤量し、高周波加熱(助燃剤としてW1.5g、及びSn0.2g)により分解した後、鉄鋼用炭素標準試料を用い、炭素硫黄同時測定装置(堀場製作所製EMIA−920V)により測定する。
【0019】
有機系炭素原料は30〜100℃の平均熱膨張係数(CTE)が4.0×10
-6/℃以上6.0×10
-6/℃以下であることが好ましい。炭素原料のCTEは例えば次のような方法で測定できる。まず、炭素原料500gを振動ミルで28メッシュ以下に粉砕する。この試料を篩い分けて、28〜60メッシュ60g、60〜200メッシュ32g、200メッシュ以下8gの割合で混合し、全量を100gにする。この配合試料100gをステンレス容器に入れ、バインダーピッチ25gを加え、125℃のオイルバスで20分間加熱し均一に混合する。該混合物を冷却し、振動ミルで粉砕し、全量を28メッシュ以下にする。該試料30gを125℃の加圧成形機に入れ、ゲージ圧450kg/cm
2で5分間加圧し、成形する。成形品を磁性ルツボに入れ、焼成炉で室温から1000℃まで5時間で昇温し、1000℃で1時間保持して冷却する。この焼成品を精密切断機で4.3×4.3×20.0mmに切断し、テストピースを得る。本テストピースをTMA(熱機械分析装置)、例えばセイコー電子製TMA/SS 350等で30〜100℃の熱膨張測定を行い、CTEを算出する。
【0020】
黒鉛化前の炭素材料1は、例えば、前記の有機系炭素原料を目的の粒度に粉砕したのち、得られた粉体の抵抗をある程度下げる処理を行うことにより得ることができる。
有機系炭素原料を粉砕する方法に特に制限はないが、例えば、公知のジェットミル、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、振動ミル等を用いて粉砕する。粉砕はできるだけ熱履歴が低い状態で行うことが好ましい。粉砕によって熱が加わると前記の300℃〜1200℃で揮発する成分が揮発し、黒鉛材料の表面が安定化し、負極として用いた場合に電解液との副反応が減少するとの効果が得られなくなるおそれがある。
【0021】
粉砕後、粉体の抵抗を下げる。黒鉛化前の炭素材料1は、黒鉛化時に直接炭素材料に電流を流すため、抵抗は低いほうがよい。具体的には、密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗値を0.4Ωcm以下とする。粉体の抵抗を下げる方法には特に限定はないが、好ましくは、800℃〜1500℃の低温熱処理し炭化度を上げる。好ましい熱処理温度は、用いる有機系炭素原料の種類や次工程の黒鉛化条件によって異なるが、900〜1300℃である。生産性の観点からは、熱処理の温度はできるだけ下げたいが、低すぎると抵抗が十分に下がらない。
低温熱処理により炭素材料の硬さも増す。そのため粉砕を先に行うことが、粉砕方式の自由度や生産性の観点から好ましい。
【0022】
黒鉛化前の炭素材料1はレーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布においてD90は120μm以下が好ましく、より好ましいD90は80μm以下、さらに好ましいD90は70μm以下である。D90が大きすぎると、電極薄膜化に対応できない、プレス電極密度が上がりにくい、電流負荷特性が低い、などの問題が生じる。
D50(平均粒度)は30μm以下になるように分級することが好ましく、さらに好ましくは4μm以上25μm以下になるように分級する。平均粒度が大きいと、電解液との安定性が増す、塗工しやすいなどのメリットを有するが、逆に、高電流特性は悪い方向に進み、電極密度が上がりにくくなる。逆に小さいと充放電時に副反応が起きやすくなる。
粉体の粒度はレーザー散乱・回折式粒度分布測定装置(CILAS)にて測定することができる。
【0023】
黒鉛化前の炭素材料1のアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)は、6以下であることが好ましく、1以上5以下がより好ましい。アスペクト比が大きすぎると黒鉛化時の電流分布制御が難しくなりやすく、また電池の負極として用いる場合に塗工性や安定性面でデメリットとなる。アスペクト比は光学顕微鏡画像から求めることができる。簡易的には、シスメックス製のFPIA3000を用い、画像解析で測定してもよい。
【0024】
黒鉛化前の炭素材料1の安息角は、20°以上50°以下が望ましい。安息角が20°未満となると炭素材料1の流動性が高くなることから、炉体への充填中に飛散したり通電中に粉体が噴出する場合がある。安息角が50°を超えると炭素材料1の流動性が低下するため炉体内での充填性が低くなって生産性が低下したり、炉全体の通電抵抗が極端に上がったりする場合がある。さらに好ましい安息角は下限が30°であり、上限が45°である。
安息角はタップデンサーを用いて測定することができる。具体的には、セイシン企業製KYT−4000を用い、50gの測定用サンプルを装置上部の専用投入口より自由落下させて、付属のテーブル上に三角錐型に堆積させ、次いで前記テーブルと三角錐の立ち上がり角度を分度器により測定し、それを安息角とすることができる。
【0025】
黒鉛化前の炭素材料1は、緩め嵩密度(0回タッピング)と固め嵩密度(タップ密度)から算出される圧縮率((固め嵩密度−緩め嵩密度)×100/緩め嵩密度)が20〜50%であることが好ましい。この範囲にあれば、バインダー及び溶剤と混練した電極スラリーを作製する際に、良好な流動性を持ち集電体上へ塗布しやすい電極スラリーを得ることができる。
緩め嵩密度は、高さ20cmから試料100gをメスシリンダーに落下させ、振動を加えずに体積と質量を測定して得られる密度である。また、固め嵩密度(タップ密度)は、カンタクローム製オートタップを使用して400回タッピングした100gの粉の体積と質量を測定して得られる密度である。
これらはASTM B527およびJIS K5101−12−2に準拠した測定方法であるが、タップ密度測定におけるオートタップの落下高さは5mmとした。
【0026】
(2)黒鉛化
黒鉛化は、上記の炭素材料1に直接電流を流して発熱させることにより行う。
炭素材料に直接電流を流す方法としては、例えば、セラミックスレンガ製であって、上方が開口した直方体状の炉体を用いて行うことができる。この炉体は、開口部方向から見て長手方向の長さを短手方向の長さの2倍程度あるいはそれ以上とし、前記の長手方向の両端面内側に通電用の電極を配置させる。この炉に炭素材料を入れ、通電による発熱によって黒鉛化する。
このような炉体構造を採用することにより、炭素材料に熱が均一に加わるため、黒鉛化の際に凝集が生じないとの利点を有する。また、温度分布が均一で、不純物揮発のトラップ部分がないという理由から不純物の少ない黒鉛材料が得られる。
【0027】
黒鉛化処理は、炭素材料が酸化しにくい雰囲気で行うことがよい。例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気で熱処理する方法や、空気と接する面に酸素をバリヤする層を設ける方法が挙げられる。バリヤ層としては、例えば、炭素板や炭素粉体層などを別途設け、酸素を消費させる方法などが挙げられる。
黒鉛化処理温度の下限は、通常2000℃、好ましくは2500℃、さらに好ましくは2900℃、もっとも好ましくは3000℃である。黒鉛化処理温度の上限は特に限定されないが、高い放電容量が得られやすいという観点から、好ましくは3200℃である。
【0028】
黒鉛化においては、黒鉛化の熱処理効率や生産性を上げるために、B
4Cなどのホウ素化合物やSiCなどの珪素化合物のような黒鉛化助触媒を添加することができる。配合量は炭素材料中10〜100000質量ppmが好ましい。
【0029】
黒鉛化は、黒鉛化後の炭素材料2のX線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.3354nm以上0.3450nm以下の範囲となるように行う。好ましくはd002が0.3360nm以上0.3370nm以下になるまで行う。d002は、既知の方法により粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる(野田稲吉、稲垣道夫,日本学術振興会,第117委員会資料,117−71−A−1(1963)、稲垣道夫他,日本学術振興会,第117委員会資料,117−121−C−5(1972)、稲垣道夫,「炭素」,1963,No.36,25−34頁参照)。
【0030】
また、黒鉛化は、(黒鉛化後の炭素材料2を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗)/(黒鉛化前の炭素材料1を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗)≦0.5となるように行うことが好ましい。このように黒鉛化を行うことにより、通電開始初期から、均一な電流分布が得られ、均一な温度分布で黒鉛化できる。この範囲は、有機系炭素原料あるいは炭素材料1の選定や黒鉛化条件を選択することにより調整することができる。
【0031】
2.リチウムイオン電池用電極材料のための黒鉛材料
前記炭素材料を黒鉛化してなる黒鉛材料(黒鉛化後の炭素材料)は、ラマン分光スペクトルで測定される1360cm
-1の付近にあるピーク強度(I
D)と1580cm
-1の付近にあるピーク強度(I
G)との強度比I
D/I
G(R値)が0.01以上0.2以下であることが好ましい。R値が0.2より大きいと表面に活性の高いエッジ部分が多く露出して充放電時に副反応が多く発生しやすくなる。一方0.01未満ではリチウムの出入りの障壁が高くなり、電流負荷特性が低下しやすくなる。レーザーラマンR値は、日本分光製NRS3100を用いて、励起波長532nm、入射スリット幅200μm、露光時間15秒、積算2回、回折格子600本/mmの条件で測定する。
【0032】
黒鉛材料は、30℃〜100℃の平均熱膨張係数(CTE)が4.0×10
-6/℃以上5.0×10
-6/℃以下であることが好ましい。熱膨張係数は、コークスの針状性を表す指標のひとつとして利用されている。CTEが4.0×10
-6/℃より小さいものは黒鉛の結晶性が高いことから放電容量が大きくなるけれど、粒子形状が板状になりやすい。一方、CTEが5.0×10
-6/℃より大きいとアスペクト比が小さくなるが黒鉛結晶が未発達で放電容量が低くなる。黒鉛材料のCTEは炭素原料のCTEと同様にして測定する。
【0033】
黒鉛材料は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.3354nm以上0.3450nm以下であることが好ましく、0.3362nm以上0.3370nm以下であることがより好ましい。黒鉛材料のd002は前記と同様の方法により測定する。
【0034】
黒鉛材料は、アスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)が6以下であること、特に1以上5以下であることが好ましい。アスペクト比は光学顕微鏡画像から求めることができる。簡易的には、シスメックス製のFPIA3000を用い、画像解析で測定してもよい。
【0035】
黒鉛材料は、比表面積(BET法)が6m
2/g以下であること、特に1.0m
2/g以上5.0m
2/g以下であることが好ましい。粒度にもよるが、比表面積が6m
2/gを超えると粒子の表面活性が高くなり、電解液の分解等によって、クーロン効率やサイクル寿命の低下、高温保存性の悪化の要因になる。
【0036】
黒鉛材料は、ゆるめ嵩密度(0回タッピング)が0.7g/cm
3以上で、かつ400回タッピングを行った際の固め嵩密度(タップ密度)が1.0g/cm
3以上1.35g/cm
3以下であることが好ましい。緩め嵩密度が0.7g/cm
3以上であることにより、電極へ塗工した際の、プレス前の電極密度をより高めることが可能となる。この値により、ロールプレス一回で十分な電極密度を得ることが可能かどうかを予測できる。また、固め嵩密度(タップ密度)が上記範囲内にあることによりプレス時に到達する電極密度が充分高くすることが可能となる。
これらは前記と同様の方法により測定する。
【0037】
黒鉛材料はレーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布において平均粒度(D50)が4μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0038】
黒鉛材料の鉄含量は0〜30質量ppmが好ましい。鉄含量がこの範囲にあることにより、電池とした場合の微小短絡を防止することができ、安全性の向上、電池製品収率の向上を図ることができる。鉄含量が多いと、電池とした場合に微小短絡が起こる可能性が高くなり、安全性低下や電池製品収率の低下が起こる場合がある。
鉄含量(残鉄量)は、試料50〜100mgを秤量して硫酸を加えて加熱することにより分解し、放冷後に硝酸を加えて加熱分解を行い、これを溶液が透明になるまで繰り返し、得られた液体を50mlに定容し、さらに10倍に希釈後ICP質量分析を行うことにより測定する。
【0039】
3.リチウムイオン電池用電極のためのスラリー
スラリーは、前記黒鉛材料とバインダーとを含む。
スラリーは、黒鉛材料とバインダーとを混練することによって得られる。混錬には、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等の公知の装置が使用できる。電極用ペーストは、シート状、ペレット状等の形状に成形することができる。
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、SBR(スチレンブタジエンラバー)等のゴム系など公知のものが挙げられる。バインダーの使用量は黒鉛材料100質量部に対して0.5〜20質量部が好ましく、1〜20質量部がさらに好ましい。
スラリーは、導電助剤としてアセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック、気相法炭素繊維などのカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、黒鉛微粉などの導電性カーボンを含んでいてもよい。前記導電助剤の配合量は特に限定されないが、黒鉛材料100質量部に対して0.5〜30質量部が好ましい。
混練する際に溶媒を用いることができる。溶媒としては、各々のバインダーに適した公知のもの、例えばフッ素系ポリマーならトルエン、N−メチルピロリドン等;SBRなら水等;その他にジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量は集電体に塗布しやすいような粘度となるように調整される。
【0040】
4.リチウムイオン電池用電極
リチウムイオン電池用電極は前記スラリーを成形してなる。電極は、例えば前記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥し、加圧成形することによって得られる。
集電体としては、例えばアルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス等の箔、メッシュなどが挙げられる。スラリーの塗布厚は、通常20〜150μmである。塗布厚が大きくなりすぎると、規格化された電池容器に電極を収容できなくなることがある。スラリーの塗布方法は特に制限されず、例えばドクターブレードやバーコーターなどで塗布後、ロールプレス等で成形する方法等が挙げられる。
加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧等の成形法を挙げることができる。加圧成形するときの圧力は1〜3t/cm
2程度が好ましい。電極の電極密度が高くなるほど体積あたりの電池容量が通常大きくなるが、電極密度を高くしすぎるとサイクル特性が通常低下する傾向にある。前記スラリーを用いると電極密度を高くしてもサイクル特性の低下が小さいので、高い電極密度の電極を得ることができる。前記スラリーを用いて得られる電極の電極密度は、1.2〜1.9g/cm
3である。
【0041】
5.リチウムイオン二次電池
リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解液または電解質の中に浸漬された構造を有する。上記の電極はリチウムイオン二次電池の負極に使用される。
リチウムイオン二次電池の正極には、正極活物質として、通常、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられ、好ましくはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属元素のモル比が0.3乃至2.2の化合物が用いられ、より好ましくはV、Cr、Mn、Fe、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属のモル比が0.3乃至2.2の化合物が用いられる。なお、主として存在する遷移金属に対し30モルパーセント未満の範囲でAl、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどを含有していても良い。上記の正極活物質の中で、一般式Li
xMO
2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、x=0〜1.2。)、またはLi
yN
2O
4(Nは少なくともMnを含む。y=0〜2。)で表されるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0042】
さらに、正極活物質はLi
yM
aD
1-aO
2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、DはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの中のM以外の少なくとも1種、y=0〜1.2、a=0.5〜1。)を含む材料、またはLi
z(N
bE
1-b)
2O
4(NはMn、EはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの少なくとも1種、b=1〜0.2z=0〜2。)で表されるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0043】
具体的には、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1-aO
2、Li
xCo
bV
1-bO
z、Li
xCo
bFe
1-bO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xMn
cCo
2-cO
4、Li
xMn
cNi
2-cO
4、Li
xMn
cV
2-cO
4、Li
xMn
cFe
2-cO
4(ここでx=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.6〜1.96、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。最も好ましいリチウム含有遷移金属酸化物としては、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1-aO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xCo
bV
1-bO
z(x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.9〜0.98、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0044】
正極活物質の平均粒子サイズは特に限定されないが、0.1〜50μmが好ましい。0.5〜30μmの粒子の体積が95%以上であることが好ましい。粒径3μm以下の粒子群の占める体積が全体積の18%以下であり、かつ15μm以上25μm以下の粒子群の占める体積が、全体積の18%以下であることが更に好ましい。比表面積は特に限定されないが、BET法で0.01〜50m
2/gが好ましく、特に0.2m
2/g〜1m
2/gが好ましい。また正極活物質5gを蒸留水100mlに溶かした時の上澄み液のpHとしては7以上12以下が好ましい。
【0045】
リチウム二次電池では正極と負極との間にセパレーターを設けることがある。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものなどを挙げることができる。
【0046】
リチウム二次電池を構成する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0047】
有機電解液の溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;γ−ブチロラクトン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等が好ましい。さらに、好ましくはエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAlCl
4、LiSbF
6、LiSCN、LiCl、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiN(CF
3SO
2)
2等がある。
【0049】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【実施例】
【0050】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
実施例及び比較例において、d002等は、「発明を実施するための形態」に詳述した方法により測定する。また、その他の物性の測定方法は以下の通りである。
【0051】
(1)300℃〜1200℃での加熱減量
示差熱−熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメント社製TGDTAw6300)を用い、測定サンプル約15mgを正確に測りとり、プラチナ製パンにのせて装置にセットし、アルゴンガスを200ml/分で流し、昇温速度10℃/分で昇温して、300℃〜1200℃の範囲における質量変化を測定した。リファレンスとして和光純薬製αアルミナを1500℃で3hrあらかじめ処理し、揮発分を除去したものを用いた。
【0052】
(2)平均熱膨張係数(CTE)
試料500gを振動ミルで28メッシュ以下に粉砕した。この試料を篩い分けて、28〜60メッシュ60g、60〜200メッシュ32g、200メッシュ以下8gの割合で混合し、全量を100gにした。この配合試料100gをステンレス容器に入れ、バインダーピッチ25gを加え、125℃のオイルバスで20分間加熱し均一に混合した。混合物を冷却し、振動ミルで粉砕し、全量を28メッシュ以下にした。該試料30gを125℃の加圧成形機に入れ、ゲージ圧450kg/cm
2で5分間加圧し、成形した。成形品を磁性ルツボに入れ、焼成炉で室温から1000℃まで5時間で昇温し、1000℃で1時間保持して冷却した。この焼成品を精密切断機で4.3×4.3×20.0mmに切断し、テストピースを得た。本テストピースをTMA(熱機械分析装置)で30〜100℃の熱膨張測定を行い、CTEを算出した。TMAとしては、セイコー電子製TMA/SS350を用いた。
【0053】
(3)粒子径(D50およびD90)
レーザー散乱・回折式 粒度分布測定装置としてCILASを用いて、体積基準の平均粒子径(D50)および粒子径(D90)を求めた。
【0054】
(4)圧密粉体抵抗
電流電圧端子が側面に設置された樹脂製容器に試料10gを充填し、縦方向に下に向かって荷重をかけ、試料を圧縮しながら100mAの電流を流して試料に流れる電流の抵抗値を測定した。試料の密度が1.4g/cm
3となった時点で読み取った抵抗を圧密粉体抵抗とした。
【0055】
(5)圧縮率および固め嵩密度(タップ密度)
圧縮率は(固め嵩密度−緩め嵩密度)×100/緩め嵩密度(%)であり、緩め嵩密度は、高さ20cmから試料100gをメスシリンダーに落下させ、振動を加えずに体積と質量を測定して得られる密度であり、固め嵩密度(タップ密度)は、カンタクローム製オートタップを使用して400回タッピングした100gの粉の体積と質量を測定して得られる密度である。
これらはASTM B527およびJIS K5101−12−2に準拠した測定方法であるが、タップ密度測定におけるオートタップの落下高さは5mmとした。
【0056】
(6)硫黄量
試料数十mgを専用容器に精秤し、高周波加熱(助燃剤としてW1.5gおよびSn0.2g)により分解した後、鉄鋼用炭素標準試料を用い、炭素硫黄同時測定装置(堀場製作所製EMIA―920V)により測定した。
【0057】
(7)安息角
タップデンサー(セイシン企業製KYT−4000)を用い、50gの測定用サンプルを装置上部の専用投入口より自由落下させて、付属のテーブル上に三角錐型に堆積させ、次いで前記テーブルと三角錐の立ち上がり角度を分度器により測定し、それを安息角とした。
【0058】
(8)比表面積
比表面積測定装置NOVA−1200(ユアサアイオニクス(株)製)を用いて、一般的な比表面積の測定方法であるBET法により測定した。
【0059】
(9)アスペクト比
粒子のアスペクト比は、シスメックス製のFPIA3000を用い、画像解析で測定した。測定点数は3000点以上、好ましくは30000点以上、さらに好ましくは50000点以上測定し、算出した平均値を使用した。
【0060】
(10)ラマンR値
日本分光製NRS3100を用いて、励起波長532nm、入射スリット幅200μm、露光時間15秒、積算2回、回折格子600本/mmの条件でラマン分光スペクトルを測定し、1360cm
-1の付近にあるピーク強度(I
D)と1580cm
-1の付近にあるピーク強度(I
G)との強度比I
D/I
GをR値とした。
【0061】
(11)残鉄量
試料50〜100mgを秤量して硫酸を加えて加熱することにより分解し、放冷後に硝酸を加えて加熱分解を行い、溶液が透明になるまで繰り返した。この操作によって得た液体を50mlに定容し、さらに10倍に希釈後ICP質量分析により残鉄量を測定した。
【0062】
(12)電池評価方法
a)スラリー作製:
黒鉛材料1質量部に呉羽化学社製KFポリマーL1320(ポリビニリデンフルオライド(PVDF)を12質量%含有したN−メチルピロリドン(NMP)溶液品)0.1質量部を加え、プラネタリーミキサーにて混練し、主剤原液とした。
【0063】
b)電極作製:
主剤原液にNMPを加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上でドクターブレードを用いて250μm厚に塗布した。これを120℃で1時間真空乾燥し、18mmφに打ち抜いた。打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して約1×10
2〜3×10
2N/mm
2(1×10
3〜3×10
3kg/cm
2)となるようにプレスした。その後、真空乾燥器で120℃、12時間乾燥して、評価用電極とした。
【0064】
c)電池作製:
下記のようにして3極セルを作製した。なお以下の操作は露点−80℃以下の乾燥アルゴン雰囲気下で実施した。
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのセル(内径約18mm)内において、上記(2)で作製した銅箔付き炭素電極と金属リチウム箔をセパレーター(ポリプロピレン製マイクロポ−ラスフィルム(セルガ−ド2400))で挟み込んで積層した。さらにリファレンス用の金属リチウムを同様に積層した。これに電解液を加えて試験用セルとした。
【0065】
d)電解液:
EC(エチレンカーボネート)8質量部及びDEC(ジエチルカーボネート)12質量部の混合液に、電解質としてLiPF
6を1モル/リットル溶解した。
【0066】
e)放電容量および初期効率:
電流密度1.0mA/cm
2(0.5C相当)で定電流低電圧充放電試験を行った。
充電(炭素へのリチウムの挿入)はレストポテンシャルから0.002Vまで1.0mA/cm
2でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。次に0.002VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、電流値が25.4μAに低下した時点で停止させた。
放電(炭素からの放出)は1.0mA/cm
2(0.5C相当)でCC放電を行い、電圧1.5Vでカットオフした。
【0067】
実施例1:
300℃〜1200℃のTG測定による加熱減量分が12.5質量%の石油系生コークス(非針状コークス)をホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕した。日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーで気流分級し、D50が16.0μmの有機系炭素原料を得た。ついで、この粉砕された有機系炭素原料を、日本碍子製ローラーハースキルンで窒素ガスを流しながら、1000℃で処理し、炭素材料1を得た。この炭素材料1を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗は0.30Ωcm、安息角は36°であった。
セラミックレンガで縦500mm、横1000mm、深さ200mmの炉を作り、内側の両端面に450×180mm、厚み20mmの電極板を設置した。その炉の中に、上記炭素材料1を詰め込み、窒素ガス投入口と排気口が設けられた蓋をした。トランスを設置し、窒素ガスを流しながら、電極板間に約5時間電流を流すことで加熱し、炭素材料1を黒鉛化した。最高温度は3200℃であった。
得られた黒鉛材料(炭素材料2)の各種物性および電池評価結果を、有機系炭素原料および炭素材料1の物性と共に表1にまとめた。また、
図1にSEM写真を示す。
d002および放電容量から、炉内の広範囲に渡って黒鉛結晶化が進んでいることがわかる。すなわち、本黒鉛化方法では、黒鉛ルツボ容器を用いるものであって製品とならない詰め粉が炉内に存在する従来法と同様以上に、3000℃以上に短時間で熱処理され全粉体が効率的に黒鉛化されていることが確認された。また、放電容量、初期効率ともに良好な電池を得ることができた。
【0068】
実施例2:
実施例1と同様の石油系生コークス(非針状コークス)と300℃〜1200℃のTG測定による加熱減量分が11.5質量%の石油系生ニードルコークスを1:1で混合し、ホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕した。日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーで気流分級し、D50が15.5μmの有機系炭素原料を得た。ついで、この粉砕された有機系炭素原料を、日本碍子製ローラーハースキルンで、窒素ガスを流しながら、1300℃で処理し、炭素材料1を得た。この炭素材料1を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗は0.20Ωcm、安息角は42°であった。
この炭素材料1を実施例1と同様の方法で黒鉛化し、得られた黒鉛材料(炭素材料2)の各種物性および電池評価結果を、有機系炭素原料および炭素材料1の物性と共に表1にまとめた。実施例1に比較し、d002が小さく、高容量であるが、初期効率がやや低かった。
【0069】
実施例3:
黒鉛化時にB
4Cを1000質量ppm加えた以外は、実施例1と同様に操作をし、黒鉛材料(炭素材料2)を得た。得られた黒鉛材料(炭素材料2)の各種物性および電池評価結果を、有機系炭素原料および炭素材料1の物性と共に表1にまとめた。実施例1に比較し、黒鉛化助触媒を添加したことによりd002が小さく高容量であるが、初期効率がやや低かった。
【0070】
比較例1:
実施例1と同様の方法で得られた炭素材料1を蓋つき黒鉛ルツボに充填し、アチソン炉にて3000℃で黒鉛化処理した。得られた黒鉛材料(炭素材料2)の各種物性および電池評価結果を、有機系炭素原料および炭素材料1の物性と共に表1にまとめた。
実施例1と比較して、ほぼ同等の物性であるが、鉄残量が多かった。
【0071】
比較例2:
実施例1と同様の石油系生コークス(非針状コークス)をホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕した。日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーで気流分級し、D50が16.0μmの有機系炭素原料を得た。ついで、この粉砕された有機系炭素原料を、日本碍子製ローラーハースキルンで、窒素ガスを流しながら、700℃で処理し、炭素材料1を得た。この炭素材料1を密度1.4g/cm
3に圧縮したときの圧密粉体抵抗は0.60Ωcm、安息角は34°であった。
この炭素材料1を実施例1と同様の方法で黒鉛化し、得られた黒鉛材料(炭素材料2)の各種物性および電池評価結果を、有機系炭素原料および炭素材料1の物性と共に表1にまとめた。実施例1に比較し、比表面積が高く、d002が大きく、容量が低いことから、黒鉛化が十分に行われてないことが理解できる。
【0072】
【表1】