特許第6352372号(P6352372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352372
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】プレス下型
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/28 20060101AFI20180625BHJP
   B21D 45/04 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B21D22/28 H
   B21D45/04 B
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-235284(P2016-235284)
(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公開番号】特開2018-89659(P2018-89659A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2017年8月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116976
【氏名又は名称】旭精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100188226
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 俊達
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓二
(72)【発明者】
【氏名】若杉 圭祐
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05007266(US,A)
【文献】 特公昭59−051374(JP,B1)
【文献】 特開平11−169998(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02181082(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/28
B21D 45/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形孔を有し、前記成形孔内をワークが一方向に移動されて絞り成形又はしごき成形されてから、他方向に移動されて前記成形孔から排出されるプレス下型において、
潤滑剤供給装置から吐出される潤滑剤を前記成形孔内へと案内する潤滑剤供給路と、
前記潤滑剤供給路に設けられて、前記成形孔の内側面のうち最も狭くなった最小括れ部より奥側部分に開口し、前記成形孔内へと潤滑剤を供給する第1末端開口と、が備えられているプレス下型。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、
前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、
前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、
前記ダイ本体及び前記スペーサの各内側面に、それらダイ本体及びスペーサの互いの重ね合わせ面に向かって徐々に内径が拡径する1対のテーパー部が備えられ、
前記スペーサの内側面のうち前記テーパー部より前記成形孔の奥側に、前記最小括れ部より僅かに内径が大きい円筒部が備えられているプレス下型。
【請求項3】
請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、
前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、
前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、
前記ダイ本体の内側面には、前記スペーサに向かって徐々に内径が拡径するテーパー部が備えられ、
前記スペーサの内側面は、前記ダイ本体の前記テーパー部の大径側端部の内径と略同一になっているプレス下型。
【請求項4】
請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、
前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、
前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、
前記ダイ本体の内側面には、前記スペーサに向かって徐々に内径が拡径するテーパー部が備えられ、
前記スペーサの内側面は、前記最小括れ部より僅かに大きい内径をなしかつ、前記ダイ本体の前記テーパー部の大径側端部から段付き状に縮径されているプレス下型。
【請求項5】
前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が放射状の排出路として形成され、
前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方の外縁部全周テーパー状に切除してなる外縁切除部と前記ダイ受容孔の内側面との間に前記潤滑剤供給路の一部が中間環状路として形成され、
前記中間環状路と前記ダイホルダの外面との間を連絡する導入路として前記潤滑剤供給路の一部が形成されている請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載のプレス下型。
【請求項6】
前記中間環状路と前記導入路との連通部分に近い前記排出路より遠い前記排出路の方が太くなっている請求項5に記載のプレス下型。
【請求項7】
前記導入路は、前記中間環状路と同一面内で前記中間環状路の径方向と交差する方向に延びている請求項5に記載のプレス下型。
【請求項8】
前記成形孔の内側面には、ワークを絞り成形する絞り部と、前記絞り部より奥側に位置してワークをしごき成形する前記最小括れ部としてのしごき部とが備えられ、
前記潤滑剤供給路には、前記絞り部と前記しごき部との間に位置する第2末端開口が備えられている請求項1乃至7の何れか1の請求項に記載のプレス下型。
【請求項9】
前記ワークに従動して前記成形孔内を直動するノックアウトピンを有し、
前記ノックアウトピンの側面と前記成形孔の内側面との間に、潤滑剤を前記ノックアウトピンの下方に排出するための潤滑剤排出路が形成されている請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載のプレス下型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを絞り成形又はしごき成形するための成形孔を有するプレス下型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプレス下型として、耐久性を向上させるために、成形孔内でワークに潤滑剤を塗布するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭56−28733号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来のプレス下型に対し、さらなる耐久性の向上が求められている。特に「しごき成形」を行う場合は「絞り成形」を行う場合より摩耗の進行が早いため、耐久性の向上が強く求められている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より耐久性が高いプレス下型及びプレス下型の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、成形孔を有し、前記成形孔内をワークが一方向に移動されて絞り成形又はしごき成形されてから、他方向に移動されて前記成形孔から排出されるプレス下型において、潤滑剤供給装置から吐出される潤滑剤を前記成形孔内へと案内する潤滑剤供給路と、前記潤滑剤供給路に設けられて、前記成形孔の内側面のうち最も狭くなった最小括れ部より奥側部分に開口し、前記成形孔内へと潤滑剤を供給する第1末端開口と、が備えられているプレス下型である。
【0008】
請求項の発明は、請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、前記ダイ本体及び前記スペーサの各内側面に、それらダイ本体及びスペーサの互いの重ね合わせ面に向かって徐々に内径が拡径する1対のテーパー部が備えられ、前記スペーサの内側面のうち前記テーパー部より前記成形孔の奥側に、前記最小括れ部より僅かに内径が大きい円筒部が備えられているプレス下型である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、前記ダイ本体の内側面には、前記スペーサに向かって徐々に内径が拡径するテーパー部が備えられ、前記スペーサの内側面は、前記ダイ本体の前記テーパー部の大径側端部の内径と略同一になっているプレス下型である。
請求項4の発明は、請求項1に記載のプレス下型であって、前記成形孔を有するダイと、前記ダイが嵌合するダイ受容孔を有するダイホルダとを含んでなり、前記ダイは、前記成形孔の軸方向で、前記最小括れ部を有するダイ本体と、そのダイ本体より前記成形孔の奥側のスペーサとに分割されて互いに重ね合わされ、前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が形成され、前記ダイ本体の内側面には、前記スペーサに向かって徐々に内径が拡径するテーパー部が備えられ、前記スペーサの内側面は、前記最小括れ部より僅かに大きい内径をなしかつ、前記ダイ本体の前記テーパー部の大径側端部から段付き状に縮径されているプレス下型である。
【0010】
請求項5の発明は、前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記潤滑剤供給路の一部が放射状の排出路として形成され、前記ダイ本体及び前記スペーサの互いの重ね合わせ面の少なくとも一方の外縁部全周テーパー状に切除してなる外縁切除部と前記ダイ受容孔の内側面との間に前記潤滑剤供給路の一部が中間環状路として形成され、前記中間環状路と前記ダイホルダの外面との間を連絡する導入路として前記潤滑剤供給路の一部が形成されている請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載のプレス下型である。
【0011】
請求項6の発明は、前記中間環状路と前記導入路との連通部分に近い前記排出路より遠い前記排出路の方が太くなっている請求項5に記載のプレス下型である。
請求項7の発明は、前記導入路は、前記中間環状路と同一面内で前記中間環状路の径方向と交差する方向に延びている請求項5に記載のプレス下型である。
【0012】
請求項の発明は、前記成形孔の内側面には、ワークを絞り成形する絞り部と、前記絞り部より奥側に位置してワークをしごき成形する前記最小括れ部としてのしごき部とが備えられ、前記潤滑剤供給路には、前記絞り部と前記しごき部との間に位置する第2末端開口が備えられている請求項1乃至の何れか1の請求項に記載のプレス下型である。
【0013】
請求項の発明は、前記ワークに従動して前記成形孔内を直動するノックアウトピンを有し、前記ノックアウトピンの側面と前記成形孔の内側面との間に、潤滑剤を前記ノックアウトピンの下方に排出するための潤滑剤排出路が形成されている請求項1乃至の何れか1の請求項に記載のプレス下型である。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1の発明]
一般的なプレス下型では、ワークがパンチに押されて成形孔の最小括れ部を通過するときに、ワークの側面の潤滑剤が最小括れ部によって擦り取られるか或いはしごき取られることがあり、ワークが成形孔から排出される際の潤滑剤不足が生じることがある。これに対し、本願発明のプレス下型では、成形孔のうち最小括れ部より奥側部分に潤滑剤供給路の末端開口を配置し、最小括れ部を通過した後のワークの側面に潤滑剤を塗布するので、ワークが成形孔から排出される際の潤滑剤不足を確実に解消することができ、従来より耐久性を向上させることが可能になる。
【0017】
[請求項2〜4の発明]
請求項2〜4の構成によれば、ダイ本体とスペーサとの互いの重ね合わせ面を利用して、ダイに潤滑剤供給路を容易に形成することができる。また、スペーサの厚さを調整してダイ本体に重ねることで、最小括れ部の位置調整を行うことができる。
【0018】
請求項2〜4のプレス下型では、ダイ本体等の内側面に形成されたテーパー部により、成形孔の内側面にワークの通過領域を包囲する孔内環状溝を形成される。そして、孔内環状溝に沿って成形孔の周方向の全体に拡がり、安定してワークの外側面全周に潤滑剤を塗布することができる。また、テーパー部の案内によりワークと最小括れ部との間に潤滑剤をスムーズに取り込むことができる。
【0019】
[請求項5〜7の発明]
請求項5〜7のプレス下型では、潤滑剤が、成形孔の回りに放射状に配置された複数の排出路から孔内環状溝に供給され、安定してワークの外側面全周に潤滑剤を供給することができる。また、請求項の発明のように、中間環状路と導入路との連通部分に近い排出路よりも遠い排出路の方を太くすることで、排出路同士の間で潤滑剤の排出量との差を抑えることができる。
【0020】
[請求項の発明]
請求項のプレス下型では、潤滑剤供給路の第2末端開口が、絞り部とその奥側のしごき部との間と、しごき部より奥側部分とに配置されているので、成形孔の全体において潤滑剤がワークに塗布され、耐久性が向上する。
【0021】
[請求項の発明]
請求項の発明によれば、汚れた潤滑剤を潤滑剤排出路を通して成形孔の外部に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係るプレス成形機の側断面図
図2】プレス下型の拡大側断面図
図3】第1スペーサの斜視図
図4】プレス下型の平断面図
図5】ワークが押し込まれた状態のプレス下型の拡大側断面図
図6】絞り部を中心としたプレス下型の拡大側断面図
図7】しごき部を中心としたプレス下型の拡大側断面図
図8】第2実施形態のしごき部を中心としたプレス下型の拡大側断面図
図9】第3実施形態のしごき部を中心としたプレス下型の拡大側断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1図7に基づいて説明する。図1には、本発明に係るプレス下型50を有するプレス機10が示されている。このプレス機10は、所謂「トランスファプレス機」であって、パンチ61と成形孔40とを有する複数の加工ステージを、図1の紙面と直交する方向(以下、この方向を「ワーク搬送方向」という)に一列に並べて備える。
【0025】
プレス下型50は、成形孔40を有する複数のダイ30と、それらダイ30を保持するダイホルダ51と後に詳説するノックアウトピン70とからなる。また、プレス下型50の上面には、公知な図示しないトランスファ装置が取り付けられている。なお、複数のパンチ61は、図示しないラムの下面に取り付けられてプレス機10のプレス上型を構成している。
【0026】
ワークWは、板金から円板状に打ち抜かれた状態でワーク搬送方向の一端の加工ステージに供給され、その加工ステージで一端有底の円筒状に絞り成形される。そして、その円筒状のワークWがトランスファ装置によって順次隣の加工ステージに搬送されてさらなる絞り成形又はしごき成形が施され、細長い円筒状に成形される。それら複数の加工ステージのうち、ワークWが細長い円筒状となった最終段階の一加工ステージにおけるプレス機10の側断面が図1に示されている。なお、ワークWの上端部には、絞り残し部がテーパー状のフランジに形成され、そのフランジは、プレス機10の後工程で切除される。
【0027】
以下、この図1に示された加工ステージを主にして、プレス機10の構造について詳説する。ダイホルダ51は、プレス機10の支持フレーム55の上面に固定されたホルダベース53と、そのホルダベース53に固定された複数のホルダブロック54とからなる。ホルダベース53には、加工ステージ毎にワーク搬送方向と直交する方向に延びた角溝53Aが備えられ、それら各角溝53Aにホルダブロック54が嵌合されている。
【0028】
ホルダブロック54には、上下に貫通する円形のダイ受容孔52が形成され、そこに円柱状のダイ30が嵌合されている。また、ダイ受容孔52及びダイ30は、共に上段部が段付き状に縮径した形状をなしている。そして、ダイ30がダイ受容孔52に下方から嵌合され、ホルダブロック54の上面及び下面と、ダイ30の上面及び下面とが略面一になっている。
【0029】
成形孔40は、ダイ30の中心部においてダイ30及びホルダベース53を上下に貫通している。また、支持フレーム55のうち成形孔40の延長線上には、延長孔55Cが貫通した状態に形成されている。延長孔55Cは、上端部が成形孔40より僅かに径が小さいピンガイド部55Aをなし、上端部以外はピンガイド部55Aより径が大きなロッドガイド部55Bになっている。そして、支持フレーム55の下方に備えられた図示しない直動機構から延びる直動ロッド73がロッドガイド部55Bに受容されている。
【0030】
直動機構は、例えば、バネを駆動源として備え、そのバネの付勢力を受けて直動ロッド73がロッドガイド部55B内を上下動する。その直動ロッド73上には、ノックアウトピン70が載置されている。ノックアウトピン70は、丸棒の下端部からフランジ70Fを張り出した構造をなしている。また、ノックアウトピン70には、その外側面の一部を上端寄り位置から下端寄り位置に亘って平面研削して逃がし部71が形成され、この逃がし部71と同様の逃がし部74が、直動ロッド73の上端部から上下方向の中間位置に亘って形成されている。そして、逃がし部71とピンガイド部55Aの内側面との間の隙間と、逃がし部74とロッドガイド部55Bの内側面との間の隙間とが、潤滑剤排出路72になっている。
【0031】
なお、図1に示すように、直動ロッド73が下死点に位置すると、ノックアウトピン70の上端部が支持フレーム55より僅かに上方に突出して成形孔40に突入した状態になる。また、逃がし部71の上下の端部及び逃がし部74の下端部は、切削工具の回転半径に対応した曲面が形成されている。
【0032】
図1に示された加工ステージのダイ30は、下から上に向かって、ベースライナー35、第1スペーサ34、しごきダイ33、第2スペーサ32及び絞りダイ31を積み上げてなる。なお、絞りダイ31及びしごきダイ33が、本発明に係る「ダイ本体」に相当し、例えば超硬材で構成され、それら以外の第1スペーサ34等のダイ30の構成部品は、超硬材又は工具鋼で構成されている。また、図1の加工ステージに備えられたパンチ61は円柱状をなし、その下端面の外縁部は所謂R面取りされている。
【0033】
図2に示すように、絞りダイ31の成形孔40の内側面は、上側から順に、上テーパー部31A、中間円筒部31B、下テーパー部31Cになっている。上テーパー部31Aは下方に向かって縮径し、中間円筒部31Bは、上テーパー部31Aの下端と同一の均一径をなして一定長に亘って延び、下テーパー部31Cは、中間円筒部31Bの下端から極めて小さいテーパー角で下方に向かって拡径している。そして、絞りダイ31のうち中間円筒部31Bが形成されている部分が本発明に係る絞り部41になっている。
【0034】
しごきダイ33の成形孔40の内側面は、上側から順に、上テーパー部33A、中間円筒部33B、下テーパー部33Cになっている。上テーパー部33Aは、絞りダイ31の上テーパー部31Aより小さいテーパー角で下方に向かって縮径し、その上テーパー部33Aの上端の内径は、絞りダイ31の下テーパー部31Cの下端の内径より僅かに大きくなっている。一方、上テーパー部33Aの下端の内径は、絞りダイ31の中間円筒部31Bの内径より小さくなっている。また、中間円筒部33Bは、上テーパー部33Aの下端と同一の均一径をなして一定長に亘って延び、下テーパー部33Cは、中間円筒部33Bの下端から極めて小さいテーパー角で下方に向かって拡径している。そして、しごきダイ33のうち中間円筒部33Bが形成されている部分が本発明に係るしごき部42になっていて、そのしごき部42の内径が成形孔40内で最も小さくなっている。つまり、しごき部42が本発明に係る「最小括れ部」になっている。
【0035】
なお、しごきダイ33の下テーパー部33Cのテーパー角は、絞りダイ31の下テーパー部31Cのテーパー角より僅かに大きくなっている。また、しごき部42は、しごきダイ33における上寄りに配置され、絞り部41は、絞りダイ31における下寄りに配置され、さらに、絞り部41の軸長よりしごき部42の軸長の方が短くなっている。
【0036】
第1スペーサ34の成形孔40の内側面は、上端部が上テーパー部34Aをなし、上端部以外が均一径の円筒部34Bになっている。円筒部34Bの内径は、しごき部42の内径より僅かに大きくなっていて、その円筒部34Bの上端部から上方に向かって上テーパー部34Aが拡径している。また、上テーパー部34Aの上端部の内径としごきダイ33における下テーパー部33Cの下端部の内径は略同一になっている。そして、第1スペーサ34の上テーパー部34Aとしごきダイ33の下テーパー部33Cとが、本発明に係る「1対のテーパー部」となって、本発明に係る「孔内環状溝」としての第1孔内環状溝11を構成している。
【0037】
なお、本実施形態では、しごき部42の内径よりも第1スペーサ34の円筒部34Bの内径の方が大きくなっていて、これにより図7に示すようにしごき部42を通過したワークWの側面と第1スペーサ34の円筒部34Bとの間に、クリアランスC1が形成される。このクリアランスC1は、後述する潤滑油Lが通過しない程度大きさに設定することが好ましい。
【0038】
第1スペーサ34には、外側面と上面とが交差する外縁部全体を、例えば略45度に面取りして、本発明の「外縁切除部」に相当する第1外側テーパー部34Dが形成されている。また、上下方向において第1外側テーパー部34Dは上テーパー部34Aより大きく、その第1外側テーパー部34Dの下端部は、第1スペーサ34の上下方向の略中央に位置している。そして、第1外側テーパー部34Dとダイ受容孔52の内側面としごきダイ33の下面外縁部とに囲まれた部分が、本発明の「中間環状路」に相当する第1中間環状路13Bになっている。
【0039】
図3に示すように、第1スペーサ34の上面には、本発明に係る複数(例えば、4つ)の排出路13Cが放射状に形成されている。各排出路13Cは、例えば断面円弧状をなし、それら各排出路13Cの両端部は、第1外側テーパー部34Dと上テーパー部34Aとに開口している。そして、上テーパー部34Aにおける排出路13Cの開口が、本発明に係る第1末端開口13Dになっている。
【0040】
図2に示すように、第2スペーサ32の成形孔40の内側面は、全体が均一内径の円筒面になっていて、その内径は、絞りダイ31の成形孔40の下端及びしごきダイ33の成形孔40の上端より段付き状に大きくなっている。そして、第2スペーサ32の内側面を主として、第2スペーサ32の内側面と、絞りダイ31の下テーパー部31Cと、しごきダイ33の上テーパー部33Aとにより、絞り部41としごき部42との間に第2孔内環状溝12が形成されている。
【0041】
第2スペーサ32にも、第1スペーサ34の第1外側テーパー部34Dと同形状の第2外側テーパー部32Dが形成されている。そして、第2外側テーパー部32Dとダイ受容孔52の内側面と絞りダイ31の下面外縁部とに囲まれた部分が、第2中間環状路14Bになっている。また、第2スペーサ32の上面にも、第1スペーサ34の排出路13Cと同様に、断面円弧状の複数(例えば、4つ)の排出路14Cが放射状に形成されている。そして、排出路14Cの開口が第2末端開口14Dになっている。なお、排出路14Cは第1スペーサ34の排出路13Cより深くなっている。
【0042】
ベースライナー35の成形孔40の内側面は、全体が第2スペーサ32と略同一の均一内径の円筒状になっている。また、ベースライナー35は、その他のダイ30の構成部品より厚くなっている。
【0043】
図4に示すように、ホルダベース53及びホルダブロック54には、ホルダブロック54の前側外面から第1中間環状路13Bに亘って延びる導入路13Aが形成されている。導入路13Aは、例えば水平に真っ直ぐ延び、成形孔40の中心から第1中間環状路13Bの直径の略1/4程度ずれた位置に配置されて第1中間環状路13Bに接続されている。そして、この導入路13Aと第1中間環状路13Bと排出路13Cとから本発明に係る「潤滑剤供給路」に相当する第1潤滑剤供給路13が構成されている。また、ホルダブロック54の前側外面における第1潤滑剤供給路13の開口には、例えば図示しないホースジョイントを介してホース13Eの一端部が接続され、そのホース13Eの他端部が流量調整バルブ91Aを介して潤滑剤供給装置90に接続されている。そして、潤滑剤供給装置90から吐出される潤滑剤として潤滑油Lが、流量調整バルブ91Aによって流量を調整されて第1潤滑剤供給路13に供給され、第1末端開口13Dから成形孔40内に排出される。
【0044】
図2に示すように、ホルダベース53及びホルダブロック54のうち第1潤滑剤供給路13の導入路13Aの上方には、その導入路13Aと同様に、第2中間環状路14Bに連通する導入路14Aが形成されている。そして、この導入路14Aと第2中間環状路14Bと排出路14Cとから本発明に係る「潤滑剤供給路」に相当する第2潤滑剤供給路14が構成されている。また、図1に示すように、ホルダブロック54の前側外面における第2潤滑剤供給路14の開口にも、ホースジョイントを介してホース14Eの一端部が接続され、そのホース14Eの他端部が流量調整バルブ91Bを介して潤滑剤供給装置90に接続されている。そして、潤滑剤供給装置90から吐出される潤滑油Lが、流量調整バルブ91Bによって流量を調整されて第2潤滑剤供給路14に供給され、第2末端開口14Dから成形孔40内に排出される。
【0045】
本実施形態のプレス機10の構成に関する説明は以上である。次に、このプレス機10の作用効果について説明する。プレス機10を起動し、潤滑剤供給装置90が起動すると、図1に示した加工ステージの第1及び第2の潤滑剤供給路13,14に一定量の潤滑油Lが送給される。そして、第1及び第2の潤滑剤供給路13,14の末端の第1と第2の末端開口13D,14Dから流れ出た潤滑油Lが、第1及び第2の孔内環状溝11,12に沿って成形孔40の周方向の全体に拡がった状態になる。
【0046】
また、プレス機10が作動すると、ワークWが複数の加工ステージで、順次、絞り成形又はしごき成形されて細長い円筒状になり、図1に示された加工ステージにおける成形孔40の上方までトランスファ装置によって搬送される。このとき、ノックアウトピン70は上死点に位置している。そして、パンチ61が降下してノックアウトピン70との間でワークWの底壁を挟み、ワークWを成形孔40内に引き込んでいく(図5参照)。
【0047】
詳細には、成形孔40の絞り部41に到達する前のワークWの内面とパンチ61の外面との間には隙間が形成されている。そして、ワークWが絞り部41を通過することで絞り成形されて、ワークWとパンチ61との間の隙間を小さくするように縮径される。このとき、ワークWの外面には、図1の加工ステージの前の加工ステージの成形孔40内で塗布された潤滑油Lが付着している。また、パンチ61が上死点まで移動するときに、第1及び第2の孔内環状溝11,12の潤滑油Lが、絞り部41とその上方の上テーパー部31Aとに付着する。これらにより、ワークWは絞り部41にスムーズに摺接して絞り成形されていく。
【0048】
図6に示すように、ワークWのうち絞り部41を通過した後、その奥側のしごき部42に到達する。ここで、図7に示すように、しごき部42の内面とパンチ61の外面との間のクリアランスC2は、しごき部42に押し込まれる前のワークWの壁厚t1より小さくなっている。これにより、ワークWがしごき部42を通過してしごき成形されるとワークWの壁が薄肉化される。また、ワークWの側面には、しごき部42に到達する直前に、第2孔内環状溝12から潤滑油Lが十分に補給されるので、ワークWは、しごき部42にスムーズに摺接する。そして、図1に示すように、パンチ61及びノックアウトピン70が下死点に到達してから上昇してワークWを成形孔40から排出して図示しないトランスファ装置にワークWを引き渡し、さらにパンチ61が上昇してワークWから離脱する。
【0049】
ところで、絞り成形よりしごき成形の方が、ワークWは成形孔40の内面に強く押し付けられ、その分、ワークWの外面から潤滑油Lが多く擦り採られる(又は、しごき取られる)。このため成形されたワークWが成形孔40内を上昇する際に(以下、適宜「ワーク排出時」という)、従来のプレス機の構造では、しごき部42とワークWとの間の潤滑油の不足が問題になり得る。
【0050】
これに対し、本実施形態のプレス機10では、成形孔40のうちしごき部42より奥側部分に第1末端開口13Dが開口しているので、しごき部42を通過した後のワークWの側面に潤滑油Lが塗布される。これにより、ワーク排出時の潤滑剤不足が確実に解消される。また、第1末端開口13Dから排出された潤滑油Lは、前述の如く第1孔内環状溝11に沿って成形孔40の周方向の全体に拡がるので、ワークWの外側面全周に安定して潤滑油Lが塗布される。しかも、第1孔内環状溝11は、1対のテーパー部(具体的には、下テーパー部33Cと上テーパー部34A)から構成されているので、ワークWとテーパー部との間の徐々に狭くなる隙間によって潤滑油Lが引き伸ばされてワークWの外面に確実に付着する。これらにより、ワーク排出時にワークWとしごき部42とがスムーズに摺接し、従来よりプレス機10の耐久性を向上させることが可能になる。
【0051】
また、ワークWのうちパンチ61が下死点に到達したときに絞り部41としごき部42との間に位置する部分は、ワーク排出時に絞り部41に強く摺接し得るが、その絞り部41の手前で第2孔内環状溝12によって十分に潤滑油Lを塗布されるのでスムーズに摺接する。
【0052】
即ち、本実施形態のプレス機10では、第1及び第2の末端開口13D,14Dが、絞り部41としごき部42との間と、しごき部42より奥側部分との両方に配置されているので、成形孔40の全体において潤滑油LがワークWに塗布され、摺動性が上がり、耐久性も向上する。また、汚れた潤滑油は図1に示した潤滑剤排出路72を通して成形孔40の外部に排出されるので成形孔40内の摺動性能を良好に保つことができる。
【0053】
なお、本実施形態のプレス機10のように、第1及び第2の潤滑剤供給路13,14の一部(即ち、排出路13C,14C)をダイ30の構成部品同士の重ね合わせ面に配置すれば、それら第1及び第2の潤滑剤供給路13,14の一部を容易に形成することができる。それら第1及び第2の潤滑剤供給路13,14の一部が形成された第1及び第2のスペーサ32,34の厚さを調整して絞りダイ31及びしごきダイ33の位置調整を容易に行うこともできる。
【0054】
[第2実施形態]
図8に示すように、本実施形態のプレス機のダイ30Vに備えた第1スペーサ34Vは、前記第1実施形態の上テーパー部34Aを有しない構造をなしている。そして、しごきダイ33の下テーパー部33Cと第1スペーサ34Vの上面外縁部とによって第1孔内環状溝11が構成されている。この構成によっても第1実施形態のプレス機10と同様の作用効果を奏する。
【0055】
[第3実施形態]
図9に示すように、本実施形態のプレス機のダイ30Wに備えた第1スペーサ34Wは、前記第1実施形態の上テーパー部34Aを有さず、内径がしごきダイ33の下テーパー部33Cの下端の内径と略同一になっている。この構成によれば、汚れた潤滑油Lをスムーズに下方に排出することができる。
【0056】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0057】
(1)上記実施形態では、ダイ30が分割されていたが、ダイが分割されていない構成としてもよい。
【0058】
(2)上記実施形態では、ダイホルダ51がホルダベース53とホルダブロック54とに分割されていたが、ダイホルダ51も分割されていなくてもよい。
【0059】
(3)前記実施形態では、絞り部41としごき部42とを有する成形孔40において、しごき部42が本発明に係る「最小括れ部」になっていたが、しごき部のみを有する成形孔において、しごき部を本発明に係る「最小括れ部」としてもよいし、絞り部のみを有する成形孔において、絞り部を本発明に係る「最小括れ部」としてもよい。また、絞り成形としごき成形とを同時に行う部分を、本発明に係る「最小括れ部」としてもよい。
【0060】
(4)潤滑剤は常に供給し続ける構成であってもよいし、パンチの動きに連動して供給を切替可能な構成にしてもよい。
【0061】
(5)第1孔内環状溝11は、下テーパー部33Cと上テーパー部34Aとによって溝断面が三角形になっていたが、溝断面が「コの字」形であっても良いし、半円形であってもよい。
【0062】
(6)上記実施形態では、第1及び第2の末端開口13D,14Dがダイ30に形成されていたが、ダイホルダ51に形成されていてもよい。
【0063】
(7)上記実施形態では、第1スペーサ34の上面に第1潤滑剤供給路13が形成されていたが、しごきダイ33の下面に潤滑剤供給路を形成してもよい。また、第1スペーサ34を設けずに、ベースライナー35の上面に潤滑剤供給路を設ける構成としてもよい。
【0064】
(8)潤滑剤は潤滑油Lに限られるものではなく、グリースや石鹸水等であってもよい。
【0065】
(9)排出路13C,14Cは1本であってもよいし、2本以上あってもよい。また、排出路13Cが複数本ある場合は、等間隔に配置されていなくてもよい。
【0066】
(10)排出路13Cを複数備える場合、第1中間環状路13Bと導入路13Aとの連通部分に近い排出路13Cより遠い排出路13Cの方が太くなるように構成することで、排出路13C同士の間で潤滑油Lの排出量との差を抑えてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 プレス機
11 第1孔内環状溝
12 第2孔内環状溝
13 第1潤滑剤供給路(潤滑剤供給路)
13A 導入路
13B 第1中間環状路
13C 排出路
13D 第1末端開口
14D 第2末端開口
14 第2潤滑剤供給路(潤滑剤供給路)
30,30V,30W ダイ
31 絞りダイ(ダイ本体)
31A 上テーパー部
31B 中間円筒部
32 第2スペーサ
32D 第2外側テーパー部
33 しごきダイ(ダイ本体)
33C 下テーパー部(テーパー部)
34,34V,34W 第1スペーサ(スペーサ)
34A 上テーパー部(テーパー部)
34D 第1外側テーパー部(外縁切除部)
40 成形孔
41 絞り部
42 しごき部
50 プレス下型
51 ダイホルダ
52 ダイ受容孔
61 パンチ
70 ノックアウトピン
72 潤滑剤排出路
90 潤滑剤供給装置
L 潤滑油
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9