特許第6352448号(P6352448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352448象牙質の透過性を測定するための方法及びデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352448
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】象牙質の透過性を測定するための方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20180625BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20180625BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G01N33/00 D
   A61C19/04 Z
   G01N33/48 Z
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-567379(P2016-567379)
(86)(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公表番号】特表2017-521643(P2017-521643A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】US2015030489
(87)【国際公開番号】WO2015175609
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2016年11月10日
(31)【優先権主張番号】14/276,090
(32)【優先日】2014年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100130719
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 卓
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、エイサ、ドレイク
(72)【発明者】
【氏名】ティファニー、セレステ、ヘア
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、パトリック、ハーリンガー
(72)【発明者】
【氏名】リチャード、クレイグ、モーピン
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/036358(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0136180(US,A1)
【文献】 D.H.Pashley et al.,REGIONAL VARIABILITY IN THE PERMEABILITY OF HUMAN DENTINE,Archives of oral biology,英国,1987年,Vol.32, No.7,519-523
【文献】 RUSIN R P; AGEE K; SUCHKO M; PASHLEY D H,EFFECT OF A NEW DESENSITIZING MATERIAL ON HUMAN DENTIN PERMEABILITY,DENTAL MATERIALS,NL,ELSEVIER,2010年 6月,VOL:26, NR:6,PAGE(S):600 - 607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/483
A61C 19/04
G01N 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)象牙質切片を調製する工程と、
b)内部チャンバをもつ底部コンポーネントを有するテストセルを提供する工程と、
c)前記象牙質切片の少なくとも一部分を前記底部コンポーネントの内部チャンバ上に位置決めする工程と、
d)圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、
e)前記象牙質切片上に凝集している液滴を視覚的に記録する工程と、
f)その視覚的な記録に基づいて前記象牙質切片の水力学的コンダクタンスを評価する工程と、
を含む、象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する方法。
【請求項2】
前記テストセルが頂部コンポーネントを備え、前記頂部コンポーネントは壁部が傾斜した開口部を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)象牙質切片を調製する工程と、
b)内部チャンバをもつ底部コンポーネントを有するテストセルを提供する工程と、
c)前記象牙質切片の少なくとも一部分を前記底部コンポーネントの内部チャンバ上に位置決めする工程と、
d)圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、
前記テストセルが頂部コンポーネントを備え、前記頂部コンポーネントは壁部が傾斜した開口部を有し、象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対し口腔ケア組成物が及ぼす効果を視覚的に比較し、
前記象牙質切片の少なくとも一部分が、工程c)における前記底部コンポーネントの内部チャンバと前記頂部コンポーネント開口部との間に位置決めされている方法であって、
)トリートメントされていない前記象牙質切片上に凝集している液滴を視覚的に記録し、その視覚的な記録に基づいてトリートメントされていない前記象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを評価する工程と、
f)前記象牙質切片の少なくとも一部分を口腔ケア組成物でトリートメントする工程と、
g)トリートメントされた前記象牙質切片上に凝集している液滴を視覚的に記録し、その視覚的な記録に基づいてトリートメントされた前記象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを評価する工程と、
)トリートメントされた前記象牙質切片びトリートメントされていない前記象牙質切片評価された前記水力学的コンダクタンスを比較する工程と、
を更に含む、方法。
【請求項4】
a)象牙質切片を調製する工程と、
b)内部チャンバをもつ底部コンポーネントを有するテストセルを提供する工程と、
c)前記象牙質切片の少なくとも一部分を前記底部コンポーネントの内部チャンバ上に位置決めする工程と、
d)圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、
前記テストセルが頂部コンポーネントを備え、前記頂部コンポーネントは壁部が傾斜した開口部を有し、象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対し2つ以上の口腔ケア組成物が及ぼす効果を視覚的に比較する方法であって、
前記方法が2つ以上の象牙質切片を用いて連続的に実行され、かつ
前記2つ以上の象牙質切片の少なくとも一部分が、工程c)における前記底部コンポーネントの内部チャンバと前記頂部コンポーネント開口部との間に位置決めされる方法であって、
e)前記2つ以上の象牙質切片の少なくとも一部分を2つ以上の異なる口腔ケア組成物でトリートメントする工程であって、各象牙質切片が異なった口腔組成物でトリートメントされる前記工程と、
f)トリートメントされた前記象牙質切片上に凝集している液滴を視覚的に記録し、その視覚的な記録に基づいて前記2つ以上の象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを評価する工程と、
g)前記2つ以上の異なる口腔ケア組成物でトリートメントされた前記2つ以上の象牙質切片の評価された前記水力学的コンダクタンスを相互に比較する工程と、
を更に含む、方法。
【請求項5】
前記頂部コンポーネント開口部壁部が30°〜85°の角度で傾斜されている、請求項〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
圧力下で流体を供給する工程(d)が、
(1)ペリクルの形成と、
(2)条件付けと、
(3)ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定と、
(4)トリートメントと、
(5)トリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定と、
を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項3の工程f)、請求項4の工程e)、又は請求項6の工程(4)におけるトリートメントが、歯ブラシを用いて歯磨剤を適用すること、歯科用ストリップ又はパッチを適用すること、リンスを適用すること、指を使って手動でこすりつけて適用すること、バニシングツールによって適用すること、又はそれらの組み合わせを適用することを含み、好ましくは、歯ブラシを用いて歯磨剤を適用すること、及び/又は歯科用ストリップを適用すること
を含む、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1つ又は少なくとも2つのカメラを使用して前記象牙質切片上に凝集している前記液滴を視覚的に記録する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定中及び/又はトリートメントされていない記象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスの測定中、並びにトリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定中に、前記1つ又は2つ以上のカメラにより前記象牙質切片上に凝集している前記液滴が視覚的に記録される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定中及び/又はトリートメントされていない記象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスの測定中、並びにトリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定中に、前記カメラで捕捉された画像が切取りされて横並びの比較を可能にする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
i)前記象牙質切片の少なくとも一部分を酸性物質でトリートメントする工程と、
ii)酸によるトリートメントの後で、前記象牙質切片上に凝集している液滴を視覚的に記録し、その視覚的な記録に基づいて前記象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを評価する工程と、
iii)酸性物質でトリートメントされた前記象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスを、トリートメントされていない前記象牙質切片及び/又は口腔組成物でトリートメントされた前記象牙質切片の前記水力学的コンダクタンスと比較する工程と、
を更に含む、請求項3〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
頂部コンポーネントが存在せず、前記象牙質切片及び前記底部コンポーネントがワッシャを介して互いに流体連通しており
前記ワッシャは自己接着性であり、及び/又は防水接着剤が、前記ワッシャと前記象牙質切片との間に、及び/又は前記ワッシャと前記底部コンポーネントとの間に存在する、請求項1及び6〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ワッシャがシリコン、ゴム、又は軟性プラスチックで作製され、かつ/又は前記防水接着剤がシリコーン系結合剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ワッシャが切欠きを含み、好ましくは前記象牙質切片が少なくとも部分的に前記ワッシャの前記切欠きの内部に配置されている、請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、象牙質の切断片を介した水力学的コンダクタンスの視覚的記録を可能にする方法及びデバイスに関連し、本方法及びデバイスは象牙質の透過性を低減するためのトリートメントの有効性を測定するために使用できる。
【背景技術】
【0002】
米国の世帯の大部分(60%)には、歯の過感作を患う家族員が少なくとも1人はいる。練り歯磨きのような製品は、歯の過敏症を患う消費者を対象とし、口腔ケア市場の中で最も急拡大しつつある部門となっている。しかしながら、知覚過敏用の練り歯磨きによって提供された結果にどうしても納得のいかないユーザーは全体の過半数(60%)を占め、患者の57%は練り歯磨き以外の製品を試そうとしている。
【0003】
歯の過敏症は、ホットドリンク及び清涼飲料並びに特定の酸性食品又は高張性食品によって活性化され得る。この過敏症がしばしば生起されるのは、歯肉組織が歯の頸部から後退して、硬いエナメル質でなく軟らかいセメント質で被覆された歯根表面を露出させた場合である。セメント質は極めて薄く軟らかいので、歯のブラッシングで除去されて、過敏症の基底象牙質が露出する場合があれば、また、象牙質が回復されている途中に露出状態になる場合もある。Pashley,Arch Oral Biol 39(Suppl)735〜805(1994)においてレポートされているように、患者が露出した象牙質から感受する疼痛は、象牙質過敏症と呼ばれる。
【0004】
歯の頸部の露出表面での又は回復途中での象牙質過敏症は、疼痛を伴う刺激に応答して、流動体が象牙質全域を瞬間的に移動することに起因するとレポートされている(Brannstrom,Oper Dent 9:59〜68,1984)。この理論は、流体力学理論(Brannstrom and Astrom,Int Dent J 22:219〜j226,1972)と呼ばれ、象牙質パルプ中の機械的受容器神経を活性化する速度にて流体が象牙質を構成する微小細管の内部を移動又は貫通し得ることを想定したものである。歯表面が侵食されると、象牙質細管は外部環境に対して露出状態になる。露出した象牙質細管は、流体流れが歯髄神経に伝達するための通路を提供するものであり、これは、温度変化、圧力及びイオン勾配によって誘発される。細管を塞げば、外部的な刺激による作用が減弱して、疼痛があまり感じられなくなる。シュウ酸カリウムをはじめとするいくつかの薬剤に対して、象牙質の細管を閉塞する能力があるかどうかを確かめるため予めスクリーニングが為されてきた(Greenhill and Pashley,J Dent Res 60:686〜698,1981)。
【0005】
温度変化、圧力、又は化学作用を受けたときに、歯の過感作によって疼痛及び不快感を催す場合がある。象牙質を露出させていると、知覚過敏症になることもしばしばである。象牙質の露出が起こる原因として考えられるのは、歯肉が後退したこと、歯周病があること、及び歯のケアが不適切なことである。
【0006】
歯の過感作は、硝酸カリウム又は塩化カリウムのような神経減感剤でトリートメントされるのが一般的である。代わりに、歯の過感作はまた、酢酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、フッ化第一スズ、シュウ酸鉄又はシュウ酸カリウムのような細管を閉塞するように意図された成分でトリートメントすることもできる。治療成分の適用は、歯磨剤又はリンスのような非処方箋製剤を介したもの、又は専門家により適用又は処方された製品を介したものであり得る。
【0007】
象牙質を透過性が抑えられるようにトリートメントするための様々なトリートメント及び組成物の有効性を測定する目的で、多様なインビトロ法が開発されてきた。効果的な方法は、細管オリフィス内及びその周辺における微小環境を再現し、適正な幾何学、適切な界面化学、並びに関連のある流体組成物及び動作をもたらすものでなければならない。Pashley(J.Periodontology,vol.55,no.9,pg.522,September 1984)によって1つの方法が開発されてきた。Pashleyは、所定の厚さに切断された象牙質ディスクを、2部式のチャンバ内部の2つのOリング間に配置して、利用している。正圧を用いることで、試験用流体が底部チャンバを介して象牙質切片へと押し込まれる。次いで、象牙質を通過する流体の量を測定し、水力学的コンダクタンスを決定する。この系を使用することによって、任意の脱感作用の練り歯磨きが、象牙質の透過性の低減に及ぼした効果を測定する。
【0008】
Pashleyデバイスの使用に伴う問題の1つは、視覚化に関するものである。デバイスの上側部分は通常覆われていることから、象牙質を貫いて移動する流体を直接的に視覚化することは不可能である。更に、象牙質はデバイスの頂部で覆われていることから、象牙質を(例えば、練り歯磨きでブラッシングするか又は歯のホワイトニングストリップを適用することによって)トリートメントするためには、ベースラインの測定が行われた後で、頂部を取り外してから再び付け直す必要があるが、これにより象牙質を損傷させ、かつ/又は結果を変えてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Pashley,Arch Oral Biol 39(Suppl)735〜805(1994)
【非特許文献2】Brannstrom,Oper Dent 9:59〜68,1984
【非特許文献3】Brannstrom and Astrom,Int Dent J 22:219〜j226,1972
【非特許文献4】Greenhill and Pashley,J Dent Res 60:686〜698,1981
【非特許文献5】Pashley(J.Periodontology,vol.55,no.9,pg.522,September 1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、試験用デバイスの内部に象牙質切片を固着させた状態で象牙質切片の直接的な操作を可能にすると共に、試験中に象牙質切片の視覚化を可能にするデバイスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
象牙質切片の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する方法が提供されている。本方法は、象牙質切片を調製する工程と、内部チャンバをもつ底部コンポーネントを有するテストセルを提供する工程と、象牙質切片の少なくとも一部を前記底部コンポーネントの内部チャンバ上に位置決めする工程と、圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する工程と、を含む。
【0012】
象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対し口腔ケア組成物が及ぼす効果を視覚的に比較する方法が、提供されている。本方法は、象牙質切片を調製する工程と、内部チャンバをもつ底部コンポーネントと頂部コンポーネントとを有するテストセルを提供する工程であって、前記頂部コンポーネントが、傾斜した壁部を有する開口部を有する前記工程と、前記象牙質切片の少なくとも一部を前記底部コンポーネントの内部チャンバと頂部コンポーネント開口部との間に位置決めする工程と、圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、前記未トリートメントの象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する工程と、前記象牙質切片の少なくとも一部を口腔ケア組成物でトリートメントする工程と、前記トリートメント済み象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する工程と、前記トリートメント済み及び未トリートメントの、象牙質切片の前記視覚的に記録された水力学的コンダクタンスを比較する工程と、を含む。
【0013】
象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対し2種以上の口腔ケア組成物が及ぼす効果を視覚的に比較する方法が、提供されている。本方法は、第1の象牙質切片を調製する工程と、内部チャンバをもつ底部コンポーネントと頂部コンポーネントとを有するテストセルを提供する工程であって、前記頂部コンポーネントが、傾斜した壁部を有する開口部を有する工程と、前記第1の象牙質切片の少なくとも一部を前記底部コンポーネントの内部チャンバと頂部コンポーネント開口部との間に位置決めする工程と、圧力下で前記底部コンポーネントの前記内部チャンバに流体を供給する工程と、前記第1の象牙質切片の少なくとも一部を第1の口腔ケア組成物でトリートメントする工程と、前記第1の象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する工程と、第2の象牙質切片を調製する工程と、内部チャンバをもつ底部コンポーネントと頂部コンポーネントとを有するテストセルを提供する工程であって、前記頂部コンポーネントが、傾斜した壁部を有する開口部を有する工程と、第2の象牙質切片の少なくとも一部を底部コンポーネントの内部チャンバと頂部コンポーネント開口部との間に位置決めする工程と、圧力下で底部コンポーネントの内部チャンバに流体を供給する工程と、前記第2の象牙質切片の少なくとも一部を第2の口腔ケア組成物でトリートメントする工程と、前記第2の象牙質切片を通過する流体の水力学的コンダクタンスを視覚的に記録する工程と、前記第1の口腔ケア組成物でトリートメントされた前記象牙質切片と、前記第2の口腔ケア組成物でトリートメントされた前記第2の象牙質切片との、前記視覚的に記録された水力学的コンダクタンスを比較する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態で使用されるテストセルの底部コンポーネントの上面図である。
図2】2−2平面に沿って見た、図1の断面図である。
図3】本発明の実施形態で使用されるテストセルの頂部コンポーネントの斜視図である。
図4】本発明の実施形態で使用されるテストセルの頂部コンポーネントの上面図である。
図5】5−5平面に沿って見た、図4の断面図である。
図6】本発明の実施形態で使用されるテストセルの分解図である。
図7】7−7平面に沿って見た、組み立てられた状態にある図6の断面図である。
図8A】本発明の実施形態で使用されるテストセルの斜視図である。
図8B】8B−8B平面に沿って見た、図8Aの断面図である。
図9】本発明の実施形態による、象牙質の透過性を視覚的に記録するためのシステムレイアウトの概略図である。
図10】本発明の実施形態による、象牙質切片の水力学的コンダクタンスを例証した一連の写真である。
図11A】本発明の実施形態による、象牙質切片の水力学的コンダクタンスを例証した写真を示す。
図11B】本発明の実施形態による、象牙質切片の水力学的コンダクタンスを例証した写真を示す。
図12】本発明の実施形態による、象牙質切片の水力学的コンダクタンスを例証した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
歯の過敏症は、圧力変化によって流体が象牙質細管を通って急速に流れ、熱的傷害又は浸透的傷害が起きた結果もたらされると考えられている。様々な口腔ケア組成物による過敏症低下の有効性は、そのような流体動作を遮断又は減弱化する能力に関連付けることができる。このため、本発明の方法は、口腔ケア組成物及び材料が象牙質細管を介した水力学的コンダクタンスを遮断又は阻害する性能を定量的に比較して視覚的に記録するように、設計されている。
【0016】
以下、本明細書において使用される全ての百分率及び比率は、特に指示がない限り、組成物全体の重量を基準とする。本明細書で言及される成分の百分率、比率及び濃度は全て、特に指示がない限り、成分の実際の量に基づくものであり、成分が市販製品として組み合わされ得る溶媒、充填剤、又はその他の物質を含まない。
【0017】
本明細書で言及される全ての測定は、特に明記されない限り、25℃で行われる。
【0018】
本明細書において「口腔ケア組成物」とは、通常の使用過程において、特定の治療剤を全身投与する目的で意図的に嚥下されるものではなく、むしろ、歯の表面又は口腔組織と接触させるのに十分な時間にわたって口腔内に保持される組成物を意味する。口腔ケア組成物の例としては、歯磨剤;マウスリンス;ムース;発泡体、口腔噴霧剤;口内錠;咀嚼錠;チューインガム;歯のホワイトニングストリップ、過敏症ストリップ又は溶解性呼気清涼化剤ストリップのような歯科用ストリップ;フロス及びフロスコーティング;又は義歯ケア若しくは義歯接着剤製品が挙げられる。口腔ケア組成物はまた、口腔表面へ直接適用する又は付着させるためのストリップ又はフィルム上に組み込まれてもよい。
【0019】
本明細書において「歯磨剤」という用語は、特に指定がない限り、歯若しくは歯肉縁下ペースト、ゲル、又は液体配合物を含む。歯磨剤組成物は、単相組成物であってもよいし、あるいは2つ以上の別々の歯磨剤組成物の組み合わせであってもよい。歯磨剤組成物は、ペーストを取り囲むゲルを有する、深い縞状、表面的な縞状、多層状、又はこれらの任意の組み合わせのような、任意の所望の形態であってもよい。2つ以上の別個の歯磨剤組成物を含む歯磨剤中の歯磨剤組成物はそれぞれ、ディスペンサーの物理的に分離された区画内に収容され、並行して分配され得る。
【0020】
本明細書において「ディスペンサー」という用語は、歯磨剤のような組成物を分配するのに好適な任意のポンプ、管、又は容器を意味する。
【0021】
本明細書において「歯」という用語は、天然歯、及び人工歯又は歯科補綴物を指す。
【0022】
本明細書において「視覚的に記録された」という用語は、液体の出現及び出現までの速さを視覚的に観察することを指す。これはカメラ又は他の視覚的記録用デバイスを使用してリアルタイムで実行することであり得、あるいはハードコピー又はデジタル媒体に組み込んで再生できるように静止画又はビデオ写真で取得することも可能であるし、また、液滴のサイズ又はその液滴が占める面積の定量分析を含めることも可能である。
【0023】
本明細書において「水力学的コンダクタンス」という用語は、対流的な液体移動、具体的には圧力により駆動された液体移動を指す。以下に示すように、また文献(J Dent Res 1981,60(3):pp 686〜698の例を参照)に記載されているように、数学的には、これはフローウィンドウ(A)の面積で除算した体積流量(Q)、及び象牙質切片(ΔP)の厚さにわたる圧力降下により説明されている。
【0024】
【数1】
式中、Lは水力学的コンダクタンスであり、(A)は液流の定義済み面積であり、(ΔP)は象牙質切片の厚み方向における圧力降下であり、(Q)は体積流量である。
【0025】
本発明では、口腔ケア組成物を用いたトリートメント効果を評価して視覚的に記録する目的で、象牙質の断面を介した水力学的コンダクタンス速度が測定される。トリートメントの例としては、歯ブラシ、口腔リンス、歯科用ストリップ若しくはパッチ、綿棒で適用すること、指でこすりつけて手動で適用すること、及びプロフィーカップ(prophy cup)のような研磨ツールを介して適用することが挙げられる。本方法は、以下の工程(象牙質切片を調製すること、テストセル内に切片を実装すること、圧力下でベースラインの水力学的コンダクタンスを測定して視覚的に記録すること、1つ又は2つ以上の口腔ケア組成物を用いてトリートメントすること、トリートメント後の水力学的コンダクタンスを測定して視覚的に記録すること)のうちの1つ又は2つ以上を含み得る。次いで、トリートメント済み及び未トリートメント及び/又は様々なトリートメント間で視覚的に記録された結果について比較を行う。また、速度の減少率(%)に関して結果をレポートすることもできる。
【0026】
象牙質切片の調製
断面の表面上に残留エナメル質を出現させることなしに、ヒトの大臼歯の象牙質切片をエナメル質接合部にできるだけ近接させて得ることができる。切片は約0.1mm〜約2mmの厚さに切削及び研磨できるが、典型的には、約0.8mm〜約1mm厚さに切削及び研磨される。ただし、それより大きいか又は小さい試験片を使用することもできる。厚みのある切片は、典型的に、一方の表面上の残留エナメル質により損なわれ、あるいは他方の表面上に髄角が現れる。切片は厚さを約0.1mmまで下げて使用できるが、切片の厚さが約0.4mmを下回ると、非常に壊れやすくなり処理が困難になる可能性がある。或る実施形態において、一定の厚さ(例えば約0.8mm)の切片を複数のサンプルに用い、単位厚さ当たりの圧力降下をサンプル毎に一貫した状態に維持した。切削/切断/研磨プロセスによって生じたスメア層を除去するには、サンプルの各側は脱イオン(DI)水中で一定の時間(例えば約6分間)超音波処理し、続いて、例えば、Bronson Model 1510 Ultrasonic Cleaner(Fischer Scientific,Pittsburgh,PA)を15kzで作動させ、各側にて6.0%クエン酸液10ml中で一定の時間(例えば約2分間)超音波浴にて酸性エッチングを施して、切削及び研磨によって堆積したスメア層を除去する。次いで、サンプルを脱イオン水ですすぎ、続いて、BDH pH7の参照標準バッファ(VWR p/n BDH5052,Radnor,PA)のような微生物成長阻害薬を含有する市販のリン酸塩系pH7の較正用バッファ中に浸漬させてもよい。水が短期保管用の溶液として使用できる一方、長期保管の目的には希釈チモール溶液中での冷蔵を利用できる。
【0027】
図1図6は、本発明において使用できるテストセル10の図である。図1はテストセル10の底部コンポーネント20の上面図であり、他方、図2は2−2平面に沿って見た、図1の断面図である。テストセルの底部コンポーネント20は、底部表面22、上部表面24、窪み26、内部チャンバ30、締結具止まり穴32(又は締結具に係合するための他の好適な機構)、入口チャネル34、及びフラッシングチャネル36を備える。或る実施形態において、入口チャネル34及びフラッシングチャネル36は、互いに対向して又は実質的に対向して位置決めされ得る。入口チャネル34及びフラッシングチャネル36の各々は、内端、34a及び36aを有し、内側開口部34a及び36aはそれぞれ、入口チャネル34及びフラッシングチャネル36を内部チャンバ30に結合している。入口チャネル34及びフラッシングチャネル36がテストセル10から外方へ延在する地点は、内側開口部34a及び36aによって更に画定される。
【0028】
底部コンポーネント20は、内部チャンバ30の上部に、内部チャンバ30にアクセスするための開口部40を含む。入口チャネル34は、内部チャンバ30と流体連通するように位置決めされる。フラッシングチャネル36も同様に、内部チャンバ30と流体連通するように位置決めされる。図7に示すように、入口チャネル34及びフラッシングチャネル36は、任意選択的に、入口110及び瀉水管112の適合ネジ付き端部をそれぞれ受容するようにネジ山付きにされ得る。
【0029】
図3はテストセル10の頂部コンポーネント50の斜視図である。図4はテストセル10の頂部コンポーネント50の上面図であり、他方、図5は5−5平面に沿って見た、図4の断面図である。テストセルの頂部コンポーネント50は、底部表面52、上側表面54、任意選択的な締結具、貫通孔60(又は締結具に係合するための他の好適な機構)、及び頂部コンポーネント開口部70を含む。頂部コンポーネント開口部70は、頂部コンポーネント50上の壁部78で画定されている。壁部78は、その頂点を頂部コンポーネントの壁部78と上側表面54の交点に有し、XY平面により決定される角度「α」にて頂部コンポーネント開口部70に向かって傾斜し得る。角度αは約30°〜85°又は約50°〜約75°であり得る。壁部78が傾斜しているので、口腔ケア組成物、及びその口腔ケア組成物を適用するためのデバイスに容易にアクセスでき、これらのデバイス(例えば、ホワイトニングストリップ及び歯ブラシ)を用いることで、象牙質をトリートメントできる。
【0030】
或る実施形態では、図6及び図7に示すように、頂部コンポーネント50及び底部コンポーネント20は、一方が他方に嵌入するような形状に成形され、2つのコンポーネント間の係合が確実に為され、テストセル10が形成されるようになっている。図7は、入口110及びフラッシング管112をそれぞれ入口チャネル34及びフラッシングチャネル36に接続して組み立てた状態にある、図6に示すテストセルの断面図である。頂部コンポーネント50及び底部コンポーネント20といったコンポーネントは、機械加工されたガラス;木材;ステンレス鋼のような金属;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)若しくはポリカーボネート(PC)のようなプラスチック;又はこれらの材料の組み合わせから形成され得る。一実施形態では、頂部コンポーネント50及び/又は底部コンポーネント20は、Robbinsville,N.J.のMacMaster−Carrから入手可能なもの(カタログ番号8560K912又はカタログ番号8560K265)などの、光学的に澄明性又は透過性のPMMAから(例えば、機械加工によって)形成される。テストセル10を形成する際に、澄明な(例えば、光学的に澄明性又は透過性の)材料を使用する利点は、澄明な材料により、セル内への「視線」が可能となるか、又は他の方式で、肉眼に対してセルの内容物が可視化され、例えば、空気泡の形態の全ての空気が、象牙質切片80の下方の内部チャンバ30の部分からパージされているか否かを、視覚的に判定する際に役立つ点である。象牙質切片80の下方の空気泡は、流体が通過して流れることの可能な象牙質切片80の領域を減少させるため、結果として、象牙質を介した透過性の測定が一貫性のないものになる可能性がある。
【0031】
図6及び図7に示すように、底部コンポーネント20の窪み26に第1のワッシャ82を入れて、テストセルを組み立てることができる。第2のワッシャ84は、頂部コンポーネント50の下部に位置決めされる。或る実施形態において、底部コンポーネント20の窪み26は、用いられた任意のワッシャ(例えばワッシャ82)の幅寸法に適合するように機械加工されていて、i)テストセルのコンポーネントが使用(例えば、試験及び/若しくは流体の水力学的コンダクタンスの測定)のために固定されているとき;並びに/又はii)実際の使用(例えば、試験及び/若しくは流体の水力学的コンダクタンスの測定)中に、そのワッシャの如何なる変位も低減、最小化若しくは防止するようになっている。象牙質切片80の第2の面81は、第1のワッシャ82上に配置される。象牙質切片80は、ワッシャ82内の開口部の中心に位置し、エナメル質面(第1の面83)は、上にした歯の咬合表面に対応する(すなわち、第2のワッシャ84及び頂部コンポーネント50に面する)。これにより、切片80が開口部に完全にまたがるか又は外周に必要なだけ十分に接触するため、切片80が所定の位置にしっかりと保持されるようになっている。ワッシャ84は、象牙質切片80の第1の面83上に配置される。セルの封止を完了するために、締結具を使用して頂部コンポーネント50を底部コンポーネント20に締結する。例えば、締結具は、頂部コンポーネント50の任意選択の締結具貫通孔60を通過して、底部コンポーネント20の締結具止まり穴32内に/この締結具止まり穴を介して係留されるネジであり、締結具止まり穴32はネジに係合するのに好適なネジ穴を有するため、底部コンポーネント20の上に頂部コンポーネント50がネジで調節可能に締め付けられて封止される。本実施形態において、頂部コンポーネント50及び底部コンポーネント20を含むテストセルは、テストセル10と呼ばれる。締結具は、ステンレス鋼材料で形成され得る。
【0032】
代わりに、他の調整可能な締結用機構、例えば、鋲、合釘、鉗子、ストラップ、ボルト(例えば、ネジ型)、又は漏れ止め(若しくは実質的に漏れ止め)の密封が為されるうえで好適な他の任意の締結用機構を使用することによって、底部コンポーネント20の上に頂部コンポーネント50を組み立てることを達成でき、これにより分解及び組み立てを容易に行うことが可能になる。任意選択的に、摩擦ばめ又は締まりばめが本発明に用いられる流体圧力に耐え得る限り、締結機構は摩擦ばめ又は締まりばめによって作動することが可能である。
【0033】
本発明に用いられるテストセル10は、頂部コンポーネント50を具備する、という点で、外部文献においてレポートされている「Pashley」タイプのフロースルーセルとは異なる。この頂部コンポーネントは、テストセル内で象牙質切片80の密封を可能にしながら象牙質切片80の表面のうちの1つへのアクセスを維持している。象牙質切片80下部の第1のワッシャ82で画定された区域は、条件付け、ベースラインの測定、及びトリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定を通して一定の状態に維持される。これは、象牙質切片表面にトリートメントを適用するためにはベースラインの測定からトリートメント後の測定までの間に分解する必要のあるデバイスと比較して著しい利点がある。なぜなら、定量的な水力学的コンダクタンスは、選択された特定の水力学的コンダクタンスウィンドウに強く左右される関数であるためである。同じ水力学的コンダクタンスウィンドウを用いてトリートメント前及びトリートメント後の測定値を比較したときに、水力学的コンダクタンスが低減することが明らかであり、定量的な精度の向上に関しては、発明者らの経験によって証明されてきている。本発明において用いられているような頂部コンポーネント50を設けることの第2の利点は、象牙質切片表面の視野が遮られずに済むことである。過剰な水分が除去された後、静止画像又はビデオ写真を用いて、象牙質切片表面上に凝集している液滴の画像を視覚的に記録できる。
【0034】
本発明の或る実施形態では、図8A及び図8Bに例証されているように、頂部コンポーネントを含まないテストセル310を使用することもできる。組み立てしたテストセル310は底部コンポーネント320を具備し、この底部コンポーネントは、内部チャンバ330の上部に、内部チャンバ330にアクセスするための開口部340を有する。入口チャネル334は、内部チャンバ330と流体連通するように位置決めされる。フラッシングチャネル336も同様に、内部チャンバ330と流体連通するように位置決めされる。本実施形態において、テストセル310はまたワッシャ383及び象牙質切片380を備える。象牙質切片380の第2の面382は、ワッシャ383に面する。象牙質切片380は、ワッシャ383内の開口部の中心に位置し、エナメル質面(第1の面381)は、上にした歯の咬合面に対応する。これにより、象牙質切片380が開口部に完全にまたがるか又は開口部外周に必要なだけ十分に接触するため、切片380が所定の位置にしっかりと保持されるようになっている。ワッシャ383によって、底部コンポーネント320と象牙質切片380との間に液密シールが形成され、底部コンポーネント320及び象牙質切片380との間に流体連通が確立されている。水密シールは、自立型の接着剤物質を介して生成される場合もあれば、又はワッシャの第1の表面387上(底部コンポーネントに面する)及びワッシャの第2の表面389上(象牙質切片に面する)に存在する防水接着剤物質と協働させた自己接着性ワッシャの組み合わせによって生成される場合もある。或る実施形態において、第2の表面389は、ワッシャ383の内部に少なくとも部分的に象牙質切片380を静止させ得るための、切欠き385を含んでいてもよい。この実施形態では、接着剤は切欠きの内部に存在する。好適な接着剤物質の例としては、Dow Corning Number 700 Silicone Sealant(McMaster−Carr p/n 7425A51)のようなシリコーン系結合剤が挙げられる。ワッシャが切削される好適な材料の例は、ブナ−Nラバー(McMaster−Carr p/n 86795K21)である。ワッシャを液体皿洗い洗剤で洗浄した後、両方の面上を接着剤物質でコーティングすることもできるし、あるいは粘着性材料が象牙質と底部コンポーネントとの間に水密シールを形成するまで、ワッシャを所定位置に締め付け又は押圧することもできる。
【0035】
本発明で使用可能な「ワッシャ」は、象牙質切片、底部コンポーネント又は頂部コンポーネントに接触する、少なくとも1つの平坦面を有し得る。ワッシャは、シリコン、ゴム又は軟性プラスチックで作製することができる。そのようなシリコン、ゴム又は軟性プラスチック材料の例としては、限定されないが、ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー、エチレンプロピレンゴム、フルオロエラストマー、ニトリルゴム、ペルフルオロエラストマー、ポリアクリレートゴム、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリスルフィドゴム、sanifluor、シリコーンゴム及びスチレンブタジエンゴム、並びに熱可塑性物質(限定されないが、熱可塑性エラストマー;熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エーテルエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド(類)、溶融加工性ゴム、熱可塑性加硫物)及びそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、ワッシャは、Robbinsville,N.J.のMcMaster−Carrによって供給されるゴム「O」リング(カタログ番号4061T114)とすることができる。
【0036】
象牙質切片80の透過性は、本発明におけるテストセル10を使用して、以下の方式で測定できる。いったん2部分テストセル10を組み立てた後、圧力を使用して、入口チャネル34内に流体(例えば、蒸留水)の流れを開始させて維持する。図7に示す実施形態において、流体は、入口チャネル34を介して底部コンポーネント20内に流れ、象牙質切片80下方の、内部チャンバ30の部分内に流れる。初期には、フラッシングチャネル36が開放されたまま保持されるため、象牙質切片80の下方の内部チャンバ30の部分内に位置する空気泡形態の残留空気がフラッシングチャネル36内に流れ、テストセル10から出る。残留空気が除去されると、フラッシングチャネル36が閉鎖される。フラッシングチャネル36が閉鎖されると、象牙質切片80の下方の内部チャンバ30の部分内で流体圧力が上昇する。こうした流体圧力の上昇によって、象牙質切片80における象牙質細管オリフィス内を(横断又は通過する)流体の水力学的コンダクタンスが開始される。流体の水力学的コンダクタンスは、頂部コンポーネント50の頂部コンポーネント開口部70を通して継続される。
【0037】
図9は、本発明の実施形態による、象牙質の透過性を測定する方法で使用するための設備のレイアウトを説明した、概略的フローチャート図である。これは、設備に関する1つの可能なレイアウトであるが、他の可能なレイアウトもまた、本発明による象牙質の透過性の測定方法において有用であることを理解されたい。
【0038】
概略的フローチャート図には、流体連通する圧力発生デバイス200;流体供給源210;流量計230;管110、112、114及び116;並びに弁240が含まれる。管116は圧力発生デバイス200を弁240に接続している。管110、112、114及び116は金属又はプラスチックであり得る。一実施形態において、管は0.16cm×0.079cm(1/16”×1/32”)Tefzel又はPTFEチューブ(Idex Corp.,Lake Forest,Ill.)のようなものである。また、フローチャートには、象牙質サンプルの水力学的コンダクタンスを視覚的記録するためのカメラ300も含まれる。
【0039】
流体供給源210は、プラスチック、金属、又はガラス製とすることが可能である。例えば、流体供給源210は、GL−45 Q型ボトルキャップ3方向1/4−28継手ポート(Fisher Scientific #00945Q−3)を備えた、Kimble Chase Life Science and Research Products LLC,Vineland,N.J.)によって供給される1リットルメディウム瓶とすることが可能である。流体212は、水、蒸留水、又は脱イオン水(DI)とすることができる。或る実施形態において、流体212は、タンパク質と塩との混合物からなる場合があり、生理的な歯髄流体に様々な程度で近似し得る。シミュレーション歯髄流体の例としては、Sigma−Aldrich製品P4639のようなウシの全血漿、ハルトマン溶液、乳酸リンゲル溶液(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)、又は後述されているタンパク質含有のシミュレーション歯髄溶液が挙げられる。また、FD&C青色1号(CAS番号3844−45−9)のような可視染料、又はローダミンB(CAS番号81−88−9)のような蛍光染料を使用することによって、流体と象牙質との間のコントラストを向上させるか、又はさもなければ流体出現及び動作の視覚的効果を高めることが可能である。
【0040】
圧力発生デバイスとしては、静止流体圧力、ピストンポンプ、回転ピストンポンプ、ダイアフラムポンプ、ギアポンプ又は複動式ピストンポンプのような、ポンピング機構(若しくは圧力供給源)が挙げられる。
【0041】
加圧された不活性ガスは、圧力発生デバイス200から弁240を通って、流体供給源210内の流体212上部のヘッドスペースに流入する。管114及び弁240は、流体供給源210と流体連通していて、必要に応じて、流体供給源210を排出するために使われる。
【0042】
流体供給源210に圧力を印加すると、流体212が、流体供給源210に隣接する接合管上の継手213、及び入口チューブ110を通って、流体供給源210から出る。継手に、締結具を任意に組み合わせて具備させることもでき、それにより、ネジ付きUpchurchプラスチックボルト/接合管の組み合わせ(IDEX Corp.p/n P−760,Lake Forest,IL)のような堅固な液体シールを可逆的に中断することが可能になる。或る実施形態では、圧力発生デバイス200で流体212に圧力をかけるだけでなく、テストセル10(図9において上矢印及び下矢印で表されている)の上部に流体供給源210を位置決めすることも可能である。例えば、流体供給源210とテストセル10との間の高さの差は、約5cm〜約100cm又は約15cm〜約70cmであり得る。高さの差を用いて、流体圧力の制御を行うことができ、それにより、トリートメントフェーズ中に象牙質細管の中を通る液流が誘発される。この液流は、トリートメント中に存在する細管における自然な生理学的状態(固有の鉱物の輸送、及び治療剤の拡散性浸透に対する抵抗を含む)を模倣するうえで重要となる。入口チューブ110内の流体は、流量計230を通過し、流入口(flow inlet)チャネル34を通ってテストセル10に流入する。流速を測定するため、流体供給源210に隣接する接合管上の継手213を切り離して、入口チューブ110を流体供給源210よりも上位に持ち上げて気泡が視認されるようにすることによって、流体供給源210から直ぐ下流にある入口チューブ110に気泡を導入してもよい。フラッシング管112は、テストセル10のフラッシングチャネル36に接続されていて、先に注記したように、フラッシングチャネルと流体連通している。象牙質の透過性測定の開始時に、フラッシング管112上に配置された流出弁250により、象牙質切片80の下方の内部チャンバ30の部分内に位置する残留空気(又は、空気泡)が抜き出される。流体は、頂部コンポーネント50の頂部コンポーネント開口部70を通って、そのテストセル10から出る。
【0043】
或る実施形態において、流量計230は、高精度の流量計である。流量計を記述するのに使用される場合、語句「高精度」とは、流量計が毎分約0.5マイクロリットルを下回るか、又は任意選択的に約0.5ナノリットルを下回る機器分解能を有することを意味する。流量計は手動式又はデジタル式の流量計とすることができる。流量計230は、象牙質切片80を介した水力学的コンダクタンスを測定及び/又は定量するのに好適な測定用デバイスとして機能する。或る実施形態では、約0〜約400マイクロリットル/分、任意選択的に、約0〜約200マイクロリットル/分、又は任意選択的に、約0〜約150マイクロリットル/分の流体流速が測定されるように流量計を較正する。使用可能な手動式流量計の例としては、直読流量計のGilmont流量計GF2000、及び相関流量計のGilmont流量計GF3000を含めた、Gilmont Instruments(Barrington,Ill.)によって供給されるものが挙げられる。使用可能なデジタル流量計の例としては、Sensirion Co.(Westlake Village,Calif.)が供給しているSensirion SLG1430−025流量計が挙げられ、そのような流量計は、液体用熱式質量流量計Micro−FLOWシリーズL01 Digital Mass Flow MeterとしてBronkhorst High−Tech(Bethlehem,Pa.)から供給されている。いくつかの実施形態では、流量計230と共に第2の流量計を使用することによって、本発明のシステムにおける流体流量が、測定に合わせて流量計230が較正される(上述のような)範囲内に収まることを確認できる。他の実施形態では、1つの流量計(手動式)を使用して、精度の高い第2のデジタル式流量計の示度を検証することが可能である。
【0044】
管110、112、114及び116は金属又はプラスチック製であり得る。一実施形態において、管は、Upchurch−IDEX health and Science,Bristol,Connから入手可能なTefzel管(Natural 1/16×0.040×15m(50ft))である。
【0045】
調製及び実装後、各象牙質切片に、(1)ペリクル(Pellicle)の形成→(2)条件付け→(3)ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定→(4)トリートメント→(5)トリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定を含むシーケンスを施してもよい。工程(4)及び(5)を繰り返すこともできる。場合によっては、本発明の方法を、酸投与(acid challenge)及び最終の水力学的コンダクタンスの測定工程で締めくくってもよい。
【0046】
ペリクルの形成
場合によっては、生物学的ペリクルを象牙質表面及び内側細管表面に沿って形成して生理学的な系により密接に模倣させることが所望され得る。ペリクルを形成するには、図6及び図7に示すように、テストセル内に象牙質切片を実装し、濾過済み唾液又は歯髄流体の他のタンパク質含有模倣物を、入口チューブ110に通過させ、出口チューブ112から出て、底部コンポーネント20の液体チャンバ30から空気泡をフラッシングした後、出口チューブ112を塞いで、流体圧力を印加し、タンパク質含有流体を強制的に象牙質切片に通過させて全ての細管表面に接触させる。堅牢なペリクルを堆積させるには、約0.5〜約12時間以上の長時間にわたって溶液と象牙質との間の接触が必要とされる場合がある。
【0047】
条件付け
或る実施形態では、口腔ケア組成物を使用して象牙質切片を直接トリートメントする(例えば、音波式電動ブラシ(例えば、Oral B Triumph Professional Care,The Procter & Gamble Co.,Cincinnati,OH)を用いてエナメル質表面をブラッシングする)ように、象牙質切片を条件付けできる。精密な流量低減測定値が得られるように、多くの場合は、安定なバックグラウンドフローが使用される。そうしないと、流量の変化量がトリートメント対バックグラウンドフローとの偏差の結果であるかを突き止めるのは困難であり、これは、象牙質を処理する際の固有の問題である。本発明者らの経験に基づく発見によれば、象牙質表面を力強くブラッシングすればバックグラウンド水力学的コンダクタンスを安定化させる効果がある。例えば、この条件付け手順に準じない限り、水力学的コンダクタンスの繰り返し測定値を得て、5%の範囲内に安定化させることは困難であり得る。更に、各流量測定が行われる前の定義済みの期間に、軽くブラッシングすることによって、再現性及び一貫性が向上する。例えば、流量測定の各評価の直前に、湿らせた手動式歯ブラシ(Ranir Corp p/n 101044100,Grand Rapids,MI製又はCVS Pharmacy p/n 29470A)製のADA標準対照歯ブラシで30秒間軽くブラッシングすれば、バックグラウンドフローでのずれの量を制限でき、水力学的コンダクタンスの評価の再現性向上が可能になり得る。
【0048】
ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定
先に述べたように、流量減少率(%)測定の基準点を確立するためには、光ボックスの頂上にあるルーラーに隣接した空気泡の進み具合を視覚的にモニタリングすることによって、流体212の流速を測定してもよい。
【0049】
トリートメント
象牙質切片又はその一部は、1種又は2種以上の口腔ケア組成物(例えば歯磨剤)を使用してトリートメントできる。幾らかの量の歯磨剤をADA標準対照歯ブラシに分取し、次いで、この歯磨剤を用い、象牙質切片に歯磨剤を適用した。口腔ケア組成物を適用した後に、例えばラボの洗瓶を使用してすすぎ、脱イオン水、又は流体212に類似する組成物を含む他の流体のストリームを、象牙質切片の周辺に向けて導き、残留した口腔ケア組成物を洗い落とした。
【0050】
或る実施形態では、象牙質切片をコーティング付きホワイトニングストリップでトリートメントできる。トリートメント用に、アーチパンチなどのサーキュラツール(circular tool)を用い、ホワイトニングストリップの切片を除去して、頂部コンポーネント開口部70よりも直径の短いコーティング付きホワイトニングストリップディスクを打ち抜きする。一定の時間トリートメントしてから、そのホワイトニングストリップディスクを取り出して、象牙質切片を水ですすぐ。
【0051】
トリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定
先に「ベースライン流量の測定」の項で述べたように、水力学的コンダクタンス比較結果は、後述の式に基づく水力学的コンダクタンスの減少率(%)として表現できる。
【0052】
【数2】
式中、Q=トリートメント後の水力学的コンダクタンス、及びQ=ベースラインの水力学的コンダクタンスである。
【0053】
また、流体供給源に圧力を印加する前に、好適なカメラ又は記録計、好ましくは、少なくとも約100xのズーム又は拡大機能、及び少なくとも約30フレーム/秒のビデオ能力を有するもの、例えば、EVOS−XLデジタルカメラ(Electron Microscopy Sciences p/n 6500−XL,Hatfield,PA)、又はPro−Scope HR2(Electron Microscopy Sicences p/n 68350−65−2)、又はUSBデジタルマイクロスコープ(Trait Technology Co.Limited,Shenzhen,PRC,p/n T−Microscope−1011)を、実装した象牙質切片の上部に設置し、水力学的コンダクタンスを視覚的に記録することもできる。トリートメント前及びトリートメント後に静止画像及びビデオシーケンスを取得することによって、液体の水力学的コンダクタンス及び水力学的コンダクタンスの低減に関連する概念を伝えるうえで一助となり得る。複数のカメラを利用して、様々な角度及び様々な時点で、更なる視野取り込みできる。多くの好適な写真構成の一例には、Pro−Scope HR2のようなUSBカメラが含まれ、そのカメラが象牙質切片の表面の真上に、かつこの表面に対して直角に実装され、カメラから向けられた照明を利用して又はそのカメラと同じ角度から、静止画像又はビデオを30フレーム/秒にて最大約10分間(例えば、約10秒、30秒、1分間、又は5分間)取り込みする。図9に例証されているように、倍率及びカメラの近接性は、頂部コンポーネント50の開口部70を通して見える象牙質切片80全体に加えて、その開口部70を取り囲む頂部コンポーネント50の縁部も、観察フレーム内に収まるように選択できる。画像コントラストの鮮鋭化及び最適化に先立って、象牙質切片表面をラボ用ティッシュ又はリントフリー布で拭き取って乾燥させるのが一般的である。画像又はビデオの取得は典型的に、液体圧力を印加した時点で又はその直前に開始され、次に、象牙質切片に液体が通過され、象牙質切片の表面上に液体が現れる。約3kPa〜約689kPa、約34kPa〜約620kPa、約69kPa〜約483kPa、又は約138kPa〜約345kPa(約0.5psi〜約100psi、約5psi〜約90psi、約10psi〜約70psi、又は約20psi〜約50psi)の液体圧力は、文献(D.H.Pashley et.al.「Dental Pain Evoked by Hydrostatic Pressures Applied to Exposed Dentin in Man:A Test of the Hydrodynamic Theory of Dentin Sensitivity」,Journal of Endodontics,Vol 20(3),1994,pp.130〜134を参照)に記載されているような、疼痛を誘発する条件と一致し得る。或る実施形態では、象牙質の約0.8〜約1.0mmの切片に対し横断的に約7〜約69kPa(約1〜約10psi)の減圧をかけて、液体出現の時間フレームを拡張し、観察者が十分な時間をかけて現象を理解し把握することができる。
【実施例】
【0054】
以下の手順を用い、試験用にテストセル及び象牙質切片を調製した。
【0055】
セルコンポーネントの調製
チューブ(0.16cm×0.079cm(1/16”×1/32”)Tefzel又はPTFEチューブ;Idex Corp.,Lake Forest,Ill.)をチャネルに嵌め合わせることによって、テストセル底部コンポーネントの入口チャネル及びフラッシングチャネルに入口管及びフラッシング管を嵌着させた。これを遂行するため、チューブを力を入れて引き伸ばし、狭小化した区分を露出させ、チューブを外径が最小になる箇所辺りで切り取り、狭小化した端部を所望されるチャネル(入口又はフラッシング)の内部に挿入し、突出末端を把持して、チューブを穴から約8〜10センチメートル(3〜4インチ)引っ張り出して、突出末端をトリムした。テストセルコンポーネント(ワッシャを含む)をSLS系洗剤で洗浄し、入念にすすいだ。
【0056】
象牙質切片の実装
平坦な第1のワッシャ(0.16cm(1/16”)、ブナ−N材料)の開口部の上に中心を合わせて象牙質切片を配置し、咬合面を上にして(すなわち、頂部コンポーネントに面して、象牙質切片が開口部をまたがり、外周の周辺にある各場所において少なくとも1mm重なるようにした。ブラッシング及び/又はストリップ若しくはスメア層の適用を含む象牙質切片トリートメントの試験計画を可能にするために、テストセルを第2のワッシャ(同じく0.16cm(1/16”)ブナ−N材料)及び頂部コンポーネントと共に組み立てた。
【0057】
ペリクルを形成するため、流体供給源をハルトマン溶液で充填した。ハルトマン溶液の調製は、室温にて2Lのメスフラスコに入れた約1.8リットルのDI水を下記のものと組み合わせた後、塩が目視で溶解されるまで混合することによって行った。
6.8gの乳酸
0.59gのCaCl
0.75gのKCl
11.7gのNaCl
次いで、十分な量の50% NaOH(1〜2mL)を滴下して加え、溶液をpH7にしてから、フラスコに追加の脱イオン水を加えて容積を合わせた。
【0058】
いったんハルトマン溶液で充填された流体供給源に、調節されたラボのガスサービスを介して207kPa(30psi)の圧力を印加し、フラッシング管上の流出弁を開き、内部チャンバ及び象牙質切片の歯髄面を瞬時に(1〜3秒間)フラッシングした。次いで、流出弁を閉じ、流体供給源から圧力を解放し、ハルトマン溶液をシミュレーションした歯髄流体で置き換えた。Sigma−Aldrich製のp/n A2153のようなウシ血清アルブミン1.2gを十分な体積のハルトマン溶液に添加して混合することにより、シミュレーションした歯髄流体(SPF)を調製し、視覚的に均質な溶液体積100mLを得た。シミュレーションした歯髄溶液を207kPa(30psi)の圧力下で象牙質切片に15分間貫流させ、全ての象牙質表面に確実に接触させた。
【0059】
弁240によって圧力を降下させ、1時間流体供給源より30cm上げて生じた適度のヘッド圧力下で、SPFが流れるのを可能にした。この間に、貯留されたヒト唾液200μLをピペットで取り、象牙質切片の上部に直接載置した。
【0060】
1時間の期限終了後に、洗瓶を使用して、室温のハルトマン溶液の間接的な流れで唾液をすすいだ。SPFをハルトマン溶液で置き換え、圧力下にて内部チャンバを207kPa(30psi)のハルトマン溶液で数秒間フラッシングした。
【0061】
ベースラインの水力学的コンダクタンスの測定準備の際、象牙質切片を条件付けし、音波式電動ブラシ(例えば、Oral B Triumph Professional Care,The Procter & Gamble Co.Cincinnati,OH)を用いてエナメル質表面を2分間ブラッシングし、30秒毎に一時停止して象牙質切片を回転させ、前記ブラシは初期に及び定期的にハルトマン溶液で湿潤させた。条件付け手順中に、及びその後の5分間、207kPa(30psi)の圧力下で、ハルトマン溶液を強制的に象牙質に絶えず通過させた。水力学的コンダクタンスの測定後に(水力学的コンダクタンスの測定を参照)、象牙質表面を、ADA標準対照歯ブラシ(Ranir Corp p/n 101044100,Grand Rapids,MI又はCVS Pharmacy p/n 29470A)のような従来の(手動式)歯ブラシでブラッシングして、サンプルを機械的攻撃(challenge)にさらして、ハルトマン溶液で2分間湿潤させてから、第2の水力学的コンダクタンスの測定値を得た。必要に応じて、機械的攻撃の前及び後で水力学的コンダクタンスの測定の変動が7%未満に収まるまで、条件付け手順を繰り返した。この手順の繰り返しによって安定なベースラインの水力学的コンダクタンスを実証することにより、トリートメントが象牙質との直接的な接触(例えば、歯のブラッシング)を伴う場合でさえも、トリートメント前及びトリートメント後の水力学的コンダクタンスに関するより意味のある比較が可能になる。
【0062】
定量的な水力学的コンダクタンスの測定
1回又は2回以上の治療的トリートメントを行う前及び行った後に、光ボックスの頂上にあるルーラーに隣接した空気泡の進み具合を視覚的にモニタリングすることによって、象牙質切片を介したハルトマン溶液の水力学的コンダクタンスを測定した。図8中の弁を介して圧力を解放し、流体供給源に隣接する接合管上の継手(IDEX corp p/n P−760)を切り離し、約5センチメートル〜約13センチメートル(約2インチ〜約5インチ)の気泡が視認されるようになるまで、入口チューブを流体供給源より上に来るように持ち上げて、流体供給源から直ぐ下流にある入口チューブに気泡を導入した。流体供給源の継手を再締結し、207kPa(30psi)の圧力を再印加し、水力学的コンダクタンスを測定した。光ボックスの頂上にあるルーラーに隣接した空気泡の進み具合を視覚的にモニタリングし、経過時間(ストップウォッチで測定)対気泡位置とを定期的に記録することによって、少なくとも4時間時間対直線距離データの点を得た。適切な換算係数で乗算することによって、気泡の移動(Bubble translation)を体積に変換した。例えば、1/32 IDチューブの場合、4.96uL/cm(12.6ul/in)になる。直線回帰(すなわち、Microsoft ExcelソフトウェアのSLOPE関数)を用い、時間対体積データの傾きから水力学的コンダクタンス速度(hydraulic conductance rate)を計算した。
【0063】
また別途に、1つ又は2つ以上の治療的トリートメントが施される前及び施された後に、デジタル顕微鏡(USB Digital Microscope,p/n T−Microscope−1011,Trait Technology Co.Limited,Shenzhen,PRC)を用いて、流体動作のビデオ写真が取得された。カメラレンズの周囲のLEDバルブから発せられた照明を利用して、象牙質切の真上で、かつ象牙質切片の表面に対して直角に、顕微鏡を置いた。テストセルの頂部コンポーネント開口部を通して露出した象牙質切片全体(その開口部を取り囲む頂部コンポーネントの縁部を含む)が、観測フレームの内側にあるように、倍率(約100X)及びカメラ近接度を選択した。象牙質表面をラボ用ティッシュで拭き取って乾燥させてから、カメラの焦点を合わせ、その後、照明、画像の色調及びコントラストを最適化して画像を精密かつ鮮明にした。ビデオの取得は典型的に、34キロPascal(5ポンド/平方インチ(psi))の液体圧力を印加する直前に15フレーム/秒で開始され、液体圧力の印加後8〜20秒で終了した。VirtualDubソフトウェア(Avery Lee,v.1.9.11)及びCamtasia Studioソフトウェア(TechSmith Corp,ver 7.1.0,Okemos,MI)を用いたビデオトラックのクロップ並びに重ね合わせによって、横並びの比較を可能にした。
【0064】
実施例1:ホワイトニングストリップ
図10に示すように、フレームシーケンスには、未トリートメントの象牙質表面上部の液体の漸進的な出現を図示してあり、図11Aに示すように、エッチング及び条件付け手順による調製後は、象牙質切片に対し、上に詳述したベースラインの水力学的コンダクタンス及びビデオ写真測定を行った。次いで、接着剤ゲルであって、象牙質と相互作用するように処方した接着剤ゲルで約0.2mmコーティングされた、ポリエチレン裏打ちしたホワイトニングストリップを用いて象牙質切片に3回のトリートメントを施した。先に各トリートメント手順を行ってから、シミュレーションした歯髄溶液で流体供給源を置き換えた。この置き換えでは、テストセルの底部コンポーネントをフラッシングチャネルを通してフラッシングし、フラッシングチャネル上の放出弁を閉じ、流体供給源をセルよりも30cm上位に来るように持ち上げてテストセルに適度の流体圧力を印加した。反転させたストリップ(ゲル側を上にしたもの)に当てたアーチパンチを使用して、ディスクの直径を、露出した象牙質表面(9.5mm)の直径と一致するようにした。ディスクを、ゲル側を下にした象牙質切片に当ててから中心に合わせして、ホワイトニングストリップのゲルと象牙質切片との直接的な接触が確実に為されるようにした。象牙質切片を10分間トリートメントした。このトリートメントに続いて、ディスクを取り出し、象牙質切片をハルトマン溶液ですすいだ。
【0065】
トリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定は、各トリートメント手順を行ってから実施されるが、トリートメント手順の前に、まず、流体供給源をハルトマン溶液で置き換え、この置き換えでは、テストセルの底部コンポーネントをフラッシングチャネルを介してフラッシングし、フラッシングチャネル上の流出弁を閉じることを含み、次にテストセルに207kPa(30psi)の流体圧力を印加することを先行した。また、3回のトリートメント手順後に、同じトリートメントされた切片におけるトリートメント後のフローのビデオシーケンスを取得した。
【0066】
図11A及び図11Bに示すように、本方法では、象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対してホワイトニングストリップを3回連続して適用したことによる効果を示すことが可能であった。効果を視覚的に記録し、ホワイトニングストリップでトリートメントされた象牙質切片の水力学的コンダクタンスの低減を、未トリートメントの象牙質切片と比較して実証した。図11A及び図11Bの2次元フォーマットに適応させるため、各トリートメントした切片のビデオ写真から静止画像を抽出したが、デジタル媒体を表示する機能が利用可能なときは常に、フルビデオシーケンスの利用も同様に可能になる。15フレーム/秒の収集速度では、圧力印加後にフレーム100が6.7秒に対応する。この例証的な実施例では、単一の象牙質切片を使用した。しかしながら、いくつかの象牙質切片から定量的な水力学的コンダクタンスデータを収集し、各切片の間の変動性を確認し、トリートメント前に撮影された切片における流体出現の速度が異常に高速又は低速ではないことを確認し、かつトリートメント後の流量減少に関しても同様に、異常に高量又は低量ではないことを確認することが望ましい場合がある。
【0067】
比較結果:定量的な水力学的コンダクタンス
水力学的コンダクタンスの比較結果を、後述の式に基づく水力学的コンダクタンスの減少率(%)として計算した。
【0068】
【数3】
式中、Q=トリートメント後の水力学的コンダクタンス、及びQ=ベースラインの水力学的コンダクタンスである。
【0069】
実施例2:比較
本方法はまた、象牙質切片の水力学的コンダクタンスに対する様々な口腔ケア組成物及びトリートメントの効果を視覚的に記録でき、そのような口腔ケア組成物及びトリートメントによる象牙質の水力学的コンダクタンスの低減又は阻害に及ぼす効果を、観察者が識別することができる。
【0070】
トリートメント
象牙質切片を、前記エッチング及び条件付け手順によって調製した後、上に先述したようなベースラインの水力学的コンダクタンス及びビデオ写真の測定に供し、その後、リンケイ酸カルシウムを含有する市販の抗過敏症(antisensitivity)歯磨剤(Sensodyne Repair & Protect Whitening toothpaste,GlaxoSmitKline,lot 313E L2,Philadelphia,PA)を用いて複数回トリートメントを施した。先に各トリートメント手順の前に、まず流体供給源をシミュレーションした歯髄溶液で置き換えし、この置き換えでは、テストセルの底部コンポーネントをフラッシングチャネルに通してフラッシングし、フラッシングチャネル上の流出弁を閉じることを含み、次に流体供給源をテストセルよりも30cm上位に来るように持ち上げてテストセルに適度の流体圧力を印加することを先行した。ADA標準対照歯ブラシ(Ranir Corp p/n 101044100,Grand Rapids,MI or CVS Pharmacy p/n 29470A)に豆粒大の(0.20cm)量の歯磨剤を適用して、トリートメントを開始した。歯磨剤を有する剛毛部分をハルトマン溶液に浸漬し、歯ブラシを優しくタップして、過剰な液体を除去した。装填した歯ブラシを使い、頂部コンポーネントが邪魔にならないようにブラシの取手を象牙質切片表面に対して約30°に角度付け、象牙質切片に触れた状態にして、軽く圧力(約25g)をかけて象牙質切片を約30秒間円を描くようにブラッシングした。次いで、象牙質切片を反時計回りに90°回転させ、ハルトマン溶液中にブラシを瞬時に入れて再び濡らして(練り歯磨きを洗い落さずに)、象牙質切片を更に30秒間ブラッシングした。次いで、0.20cmの量の歯磨剤を歯ブラシの剛毛部分に再び適用し、象牙質切片を反時計回りに90°回転させて、再び30秒間ブラッシングした。象牙質切片を反時計回りにもう一度90°回転させ、ブラシを再び瞬時に濡らして、象牙質切片を最後に30秒間ブラッシングした。ラボの洗瓶を使用して、ハルトマン溶液の流れを象牙質切片の周辺に方向付けて発し、表面が目視で奇麗になるまで残留歯磨剤を洗い落した。トリートメント後の水力学的コンダクタンスの測定は、各トリートメント手順を行ってから実施されるが、トリートメント手順の前に、まず、流体供給源をハルトマン溶液で置き換え、この置き換えでは、テストセルの底部コンポーネントをフラッシングチャネルを介してフラッシングし、フラッシングチャネル上の流出弁を閉じることを含み、次にテストセルに207kPa(30psi)の流体圧力を印加することを先行した。また、3回のトリートメント手順後に、同じトリートメントされた切片におけるトリートメント後のフローのビデオシーケンスを取得した。
【0071】
図12には、実施例1(図12中の右側に示す)に記載されているホワイトニングストリップでのトリートメントを、実施例2(図12中の左側に示す)における歯磨剤でのトリートメントと比較したときの相対的な効力を例証する、画像が含まれている。VirtualDubソフトウェア(Avery Lee,v.1.9.11)を使用してトリートメント済み切片のビデオ写真から画像をクロップして、横並びの比較を可能にすることができる。Camtasia Studioソフトウェアでは、ピクチャーインピクチャー機能を利用して、クロップされた画像のビデオトラックが重ね合わせされる。図11A及び図11Bの2次元フォーマットに適応させるため、ビデオシーケンスからフレーム22を抽出した。また、デジタル媒体を表示する機能が利用可能なときはいつでも、フルビデオシーケンスを利用できる。横並びにクロップされた重ね合わせの比較は、ビデオデータから構築可能な多数の比較のうちの1つである。2つ以上の切片のトリートメント後のフローにおいて特に明白な任意のコントラストに対して観察者の注意を引くうえで特に効果的な方法である。
【0072】
本明細書に開示される寸法及び値は、記載される正確な数値に厳密に限られるものとして理解すべきではない。むしろ、特に断らない限り、それぞれのそのような寸法は、記載される値とその値の周辺の機能的に同等の範囲との両方を意味するものとする。例えば、「40mm」として開示される寸法は、「約40mm」を意味することを意図する。
【0073】
相互参照される又は関連する任意の特許又は特許出願、及び本願が優先権又はその利益を主張する任意の特許出願又は特許を含む、本明細書に引用される全ての文書は、明示的に除外又は別の方法で限定しない限りにおいて、参照によりその全容が本明細書に組み込まれる。如何なる文献の引用も、本明細書中で開示又は特許請求される任意の発明に対する先行技術であるとはみなされず、あるいはそれを単独で又は他の任意の参考文献(単数若しくは複数)と組み合わせたときに、そのような発明全てを教示、示唆、又は開示するとはみなされない。更に、本文書における用語の任意の意味又は定義が、参照することによって組み込まれた文書内の同じ用語の意味又は定義と矛盾する範囲において、本文書におけるその用語に与えられた意味又は定義が適用されるものとする。
【0074】
以上、本発明の特定の実施形態を図示、説明したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び改変を実施することが可能である点は当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内に含まれるそのような全ての変更及び修正は、添付の特許請求の範囲にて網羅することが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12