(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体スイッチング素子を有し、商用電源から供給される電力をエレベータの運転に必要な電力に変換する電力変換装置を備えた駆動装置を制御するエレベータ制御装置において、
上記エレベータの運転中における上記半導体スイッチング素子のゲート電圧を検出するゲート電圧検出手段と、
このゲート電圧検出手段によって検出されたゲート電圧に基づいて、上記半導体スイッチング素子が帰還容量を起因とした電圧上昇により異常な状態にあるか否かを判定する異常判定手段と、
この異常判定手段の判定結果に応じて上記半導体スイッチング素子の保護動作を実施する保護動作手段と
を具備したことを特徴とするエレベータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータ制御装置の構成を示す図である。
【0011】
本実施形態におけるエレベータは、駆動装置10とエレベータ制御装置20とを備える。駆動装置10は、コンバータ装置11、平滑コンデンサ12、インバータ装置13を有し、エレベータ制御装置20の駆動指示に従って巻上機2の駆動に必要な電力を供給する。
【0012】
コンバータ装置11は、商用電源1から供給される交流の電圧を全波整流の直流に変換する。商用電源1は、三相の交流電源からなる。平滑コンデンサ12は、コンバータ装置11とインバータ装置13との間の直流母線間に設けられ、コンバータ装置11によって変換された直流電圧に含まれるリプルを平滑化してインバータ装置13に与える。この平滑コンデンサ12としては、例えばアルミ電解コンデンサが用いられる。インバータ装置13は、コンバータ装置11から平滑コンデンサ12を介して与えられた直流の電圧をPWM(Pulse Width Modulation)制御により巻上機2の駆動に必要な周波数、電圧値の交流に変換し、これを駆動電力として巻上機2に供給する。
【0013】
巻上機2は、同期電動機からなり、駆動装置10からの電力供給によって回転する。巻上機2には図示せぬシーブを介してロープ3が巻回されており、そのロープ3の一端には乗りかご4、他端にはカウンタウェイト5が連結されている。これにより、巻上機2の回転に伴い、ロープ3を介して乗りかご4とカウンタウェイト5がつるべ式に昇降動作する。
【0014】
ここで、エレベータの駆動装置10に備えられたインバータ装置13には、少なくとも1組のIGBT等の半導体スイッチング素子13aと、この半導体スイッチング素子13aに逆並列に接続される整流素子13bが回路素子として組み込まれている。同様に、コンバータ装置11にも半導体スイッチング素子11aと、この半導体スイッチング素子11aに逆並列に接続される整流素子11bが回路素子として組み込まれている。
【0015】
エレベータ制御装置20は、駆動装置10の駆動制御を含むエレベータ全体の制御を行う。本実施形態において、このエレベータ制御装置20には、インバータ装置13に組み込まれた半導体スイッチング素子13aの異常状態を検出するための機能として、ゲート電圧検出部21、異常判定部22、保護動作部23が備えられている。
【0016】
ゲート電圧検出部21は、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧(ゲート−エミッタ間の電圧)Vgeを検出する。異常判定部22は、ゲート電圧検出部21によって検出されたゲート電圧Vgeに基づいて半導体スイッチング素子13aが異常状態にあるか否かを判定する。詳しくは、異常判定部22は、ゲート電圧Vgeに対して設定される異常判定用の電圧閾値Vthと時間閾値Tthを有し、エレベータ運転中におけるゲート電圧Vgeが電圧閾値Vthを超えた状態が時間閾値Tthの時間以上続く場合に帰還容量を起因とした異常状態にあると判定する。保護動作部23は、異常判定部22の判定結果に応じて半導体スイッチング素子11aの保護動作を実施する。
【0017】
ここで、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeの上昇原因について説明する。
【0018】
図2に示すように、半導体スイッチング素子13aとして、IGBT1,IGBT2が用いられる。近年の小型化や微細化により、一方のIGBT1のスイッチング時にコレクタ電流Icが他方のIGBT2のゲート側に誘導され、帰還容量(Cres)を介して電流I=Cres×dV/dtが発生する。この電流Iがゲート抵抗Rgによってゲート電位を上昇させ、結果としてIGBT2のゲート−エミッタ間のゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇する。ゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇すると、指令通りにIGBT2をON/OFF制御できなくなり、素子が破損する可能性が高くなる。
【0019】
そこで、本実施形態では、エレベータの運転中に半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeを常時監視し、意図しないタイミングでゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇した場合に半導体スイッチング素子13aが異常状態にあると判定して保護動作を実施する。詳しくは、例えば半導体スイッチング素子13aをONからOFFしたときなど、意図しないタイミング(つまり指令値に反したタイミング)で、
図3に示すように、ゲート電圧Vgeが予め設定された電圧閾値Vthを超えた状態が時間閾値Tthの時間以上続いた場合に、上述した帰還容量を起因とした電圧上昇により異常な状態にあると判定する。
【0020】
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0021】
図4は第1の実施形態におけるエレベータ制御装置の処理理動作を示すフローチャートである。
【0022】
エレベータの起動時に商用電源1から電源供給が開始されると、コンバータ装置11で交流から直流に変換された電圧が平滑コンデンサ12の充放電によって平滑化された後、インバータ装置13に与えられる。このインバータ装置13内の半導体スイッチング素子13aのON/OFF制御により所定の周波数を有する交流の電圧が生成され、巻上機2に供給される。これにより、巻上機2が回転駆動し、乗りかご4がロープ3を介して昇降動作する。
【0023】
ここで、エレベータの運転中つまりインバータ装置13の駆動中において(ステップS11)、エレベータ制御装置20のゲート電圧検出部21は、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeを検出して異常判定部22に与える(ステップS12)。このゲート電圧Vgeがスイッチング時の指令値よりも上昇している場合に、異常判定部22は、予め設定された電圧閾値Vthを超えた否かを判断する(ステップS13)。この閾値Vtは、実験等によって最適な値に設定されている。具体的な数値は、半導体スイッチング素子13aの仕様やエレベータの稼働時間等によって異なるため、ここでは省略する。
【0024】
ゲート電圧Vgeが電圧閾値Vthを超えている場合に、異常判定部22は、その状態が時間閾値Tthの時間以上続いているか否かを判断する(ステップS14)。すなわち、
図3に示すように、サージ電圧により一時的にゲート電圧Vgeが急峻に上昇していることがあるため、時間閾値Tthの条件を加えて判断する。ゲート電圧Vgeが電圧閾値Vthを超えた状態が時間閾値Tthの時間以上続くと、異常判定部22は、半導体スイッチング素子13aが帰還容量を起因とした電圧上昇により異常な状態にあると判定する(ステップS15)。
【0025】
保護動作部23は、この異常判定部22の判定結果を受けて保護動作を実施する(ステップS16)。具体的には、保護動作部44は、エレベータが通常運転中であれば、乗りかご4を最寄階に停止させて、インバータ装置13の駆動を一時的に停止する。これにより、異常な電圧上昇によって半導体スイッチング素子13aが破損する事態を防ぎ、エレベータの安全を確保できる。
【0026】
この場合、インバータ装置13の駆動を一時的に停止することで、半導体スイッチング素子13aの負荷が軽減されるので、運転を再開することができる。ただし、運転を再開したときに何度も異常な電圧上昇が検出される場合には、図示せぬ警告ランプ等を点灯すると共に通信回線を介して監視室あるいは遠隔地にある監視センタに発報し、エレベータの運転を完全に停止させて保守員の到着を待つことが好ましい。
【0027】
このように第1の実施形態によれば、エレベータの運転中にインバータ装置13の半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeの誤動作による破損の予兆を早期に検出して保護することができ、エレベータの安全を確保して信頼性を向上させることができる。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0029】
第2の実施形態では、上記第1の実施形態の構成に加え、エレベータの運転動作に応じてゲート電圧の異常判定条件である電圧の閾値と時間の閾値を可変制御する構成としたものである。
【0030】
図5は第2の実施形態に係るエレベータ制御装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における
図1と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0031】
第2の実施形態におけるエレベータ制御装置20には、ゲート電圧検出部21、異常判定部22、保護動作部23に加え、閾値可変制御部24が備えられている。閾値可変制御部24は、エレベータの運転動作に応じて異常判定用の電圧閾値Vthと時間閾値Tthを可変制御する。「エレベータの運転動作」には、エレベータの定常運転中の他に、初期起動時、休止状態からの復帰時、電源OFF後の予め設定された時間を含む。
【0032】
このような構成において、エレベータの運転中つまりインバータ装置13の駆動中において、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeが監視され、意図しないタイミングでゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇すると保護機能が働く。
【0033】
ここで、第2の実施形態では、異常判定用の電圧閾値Vthと時間閾値Tthが固定ではなく、エレベータの運転動作に応じて適宜変更される。すなわち、
図6に示すように、エレベータ起動後の定常運転中の電圧と時間に関する閾値をVth1,Tth1とした場合に、エレベータの初期起動時には突入電流などの影響を受けてゲート電圧Vgeが上がるため、Vth1,Tth1より高く設定されたVth2,Tth2を用いて誤動作の判定を行うことが好ましい。
【0034】
また、エレベータの休止状態からの復帰時や、電源OFF後の予め設定された時間などにおいても、ゲート電圧Vgeが大きく変動するため、そのときの運転動作に応じた閾値を用いて誤動作の判定を行うことが好ましい。
【0035】
エレベータ制御装置20に設けられた閾値可変制御部24は、上述したエレベータの運転動作に応じて電圧閾値Vthと時間閾値Tthを可変制御する。異常判定部22は、その可変制御された電圧閾値Vthと時間閾値Tthを用いてゲート電圧Vgeが帰還容量を起因とした異常状態にあるか否かを判定する。
【0036】
このように第2の実施形態によれば、エレベータの運転動作に応じて電圧閾値Vthと時間閾値Tthを可変制御することで、ゲート電圧Vgeの誤動作による半導体スイッチング素子13aの異常をより正確に検出でき、保護動作の実施により破損を防ぐと共に、エレベータの安全を確保できる。
【0037】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0038】
第3の実施形態では、上記第1の実施形態の構成に加え、ゲート電圧の傾きを考慮して異常判定を行う構成としたものである。
【0039】
図7は第3の実施形態に係るエレベータ制御装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における
図1と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0040】
第3の実施形態におけるエレベータ制御装置20には、ゲート電圧検出部21、異常判定部22、保護動作部23に加え、傾き検出部25および閾値可変制御部26が備えられている。傾き検出部25は、半導体スイッチング素子13aの通電時におけるゲート電圧Vgeの傾き角度θを検出する。異常判定部22は、傾き検出部25によって検出された傾き角度θを考慮して半導体スイッチング素子13aの異常を判定する。
【0041】
このような構成において、エレベータの運転中つまりインバータ装置13の駆動中において、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeが監視され、意図しないタイミングでゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇すると保護機能が働く。
【0042】
ここで、第3の実施形態では、エレベータ制御装置20に設けられた傾き検出部25によってゲート電圧Vgeの立ち上がりの傾き角度θが検出されて、異常判定部22に与えられる。
【0043】
図8に示すように、異常判定部22は、電圧閾値Vth、時間閾値Tthの他に、角度閾値θthを有し、これらの閾値を異常判定条件として半導体スイッチング素子13aの異常を判定する。すなわち、異常判定部22は、ゲート電圧Vgeが電圧閾値Vthを超えた状態が時間閾値Tthの時間以上続く場合で、かつ、ゲート電圧Vgeの立ち上がりの傾き角度θが角度閾値θth以上の場合に帰還容量を起因とした異常状態にあると判定する。
【0044】
なお、エレベータの運転動作に応じてゲート電圧Vgeの傾き角度θが変わるので、上記第2の実施形態と同様に角度閾値θthを適宜変更することが好ましい。すなわち、エレベータの初期起動時には突入電流などの影響を受けてゲート電圧Vgeが上がるため、傾き角度θが定常運転時よりも大きくなる。エレベータの休止状態からの復帰時や、電源OFF後の予め設定された時間などにおいても、ゲート電圧Vgeが大きく変動するため、そのときの運転動作に応じた角度閾値θthを用いて異常判定を行うことが好ましい。
【0045】
このように第3の実施形態によれば、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeの傾き角度θを考慮することで、ゲート電圧Vgeの誤動作による半導体スイッチング素子13aの異常をより正確に検出でき、保護動作の実施により破損を防ぐと共に、エレベータの安全を確保できる。
【0046】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0047】
第4の実施形態では、上記第2の実施形態の構成に加え、半導体スイッチング素子の温度に応じてゲート電圧の異常判定の閾値を可変する構成としたものである。
【0048】
図9は第4の実施形態に係るエレベータ制御装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における
図1と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
第4の実施形態におけるエレベータ制御装置20には、ゲート電圧検出部21、異常判定部22、保護動作部23、閾値可変制御部24に加え、温度検出部26および閾値可変制御部27が備えられている。
【0050】
温度検出部26は、インバータ装置13の半導体スイッチング素子13aに取り付けられた図示せぬ熱電対等の温度センサを通じて、半導体スイッチング素子13aの温度(内部温度、表面温度、周囲温度等)Tjを検出する。閾値可変制御部27は、温度検出部26によって検出された温度に応じて異常判定用の電圧閾値Vthと時間
閾値Tthを可変制御する。
【0051】
このような構成において、エレベータの運転中つまりインバータ装置13の駆動中において、半導体スイッチング素子13aのゲート電圧Vgeが監視され、意図しないタイミングでゲート電圧Vgeが誤動作レベルまで上昇すると保護機能が働く。
【0052】
ここで、第3の実施形態では、異常判定用の電圧閾値Vthと時間閾値Tthが固定ではなく、半導体スイッチング素子13aの温度Tjに応じて適宜変更される。この温度Tjは、内部温度、表面温度、周囲温度を含む。
【0053】
図10はTj=25℃におけるゲート電圧Vgeの特性を示す図、
図11はTj=15℃におけるゲート電圧Vgeの特性を示す図である。
図12はゲート電圧Vgeを15vに固定した場合のコレクタ電流(通電電流)Ic/コレクタ−エミッタ電圧Vce(通電時の電圧)との関係を示す図である。
【0054】
半導体スイッチング素子13aの温度Tjが上がると、ゲート電圧Vgeとコレクタ電流(通電電流)Ic/コレクタ−エミッタ電圧Vce(通電時の電圧)との関係が異なってくる。つまり、通電電流が同じでも、温度Tjによってゲート電圧Vgeが変動する。そこで、エレベータ制御装置20に設けられた閾値可変制御部27は、温度検出部26で検出された温度Tjに応じて異常判定用の電圧閾値Vthと時間
閾値Tthを可変制御する。この場合、温度Tjが高いほど、ゲート電圧Vgeも上がるので、電圧閾値Vthを上げると共に時間閾値Tthを長く設定することが好ましい。
【0055】
このように第4の実施形態によれば、半導体スイッチング素子13aの温度Tjを考慮することで、ゲート電圧Vgeの誤動作による半導体スイッチング素子13aの異常をより正確に検出でき、保護動作の実施により破損を防ぐと共に、エレベータの安全を確保できる。
【0056】
なお、この第4の実施形態を上記第3の実施形態と組み合わせて、温度Tjに応じて角度閾値θthも含めて可変制御する構成としても良い。
【0057】
また、上記各実施形態では、商用電源1の電力をエレベータの運転に必要な電力に変換するための電力変換装置としてインバータ装置13を例にして説明したが、コンバータ装置11についても適用である。すなわち、コンバータ装置11に組み込まれた半導体スイッチング素子11aについても、上記各実施形態と同様の手法にてゲート電圧の状態から半導体スイッチング素子11aの異常を判定して保護動作を働かせることが可能である。
【0058】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、エレベータの運転中に半導体スイッチング素子の異常状態を検出して即時に保護動作を働かせることのできるエレベータ制御装置を提供することができる。
【0059】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータ制御装置は、エレベータの運転中における半導体スイッチング素子13aのゲート電圧を検出するゲート電圧検出部21と、ゲート電圧検出部21によって検出されたゲート電圧に基づいて半導体スイッチング素子13aが異常状態にあるか否かを判定する異常判定部22と、この判定結果に応じて半導体スイッチング素子13aの保護動作を実施する保護動作部23とを備える。