特許第6352473号(P6352473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6352473
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/00 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   B66B23/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-59266(P2017-59266)
(22)【出願日】2017年3月24日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 佳延
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊憲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅人
【審査官】 今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−205525(JP,A)
【文献】 実開平01−132673(JP,U)
【文献】 特開2014−196180(JP,A)
【文献】 実開昭61−075483(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00 − 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物が有する床に連続する水平部を有するトラスと、
前記トラスの前記水平部の先端部に設けられ、前記建築構造物が有する支持梁に掛けられるトラス支持アングルと、
前記建築構造物の前記床から立ち上げられ、上部に取付点を有する支柱と、
一端が前記支柱の前記取付点に取り付けられるとともに、他端が前記トラスの前記水平部に取り付けられ、前記トラス支持アングルが前記支持梁から外れた時に、前記トラスを吊り下げる引張部材と、
前記支柱および前記引張部材覆う防護カバーと、
備えた乗客コンベア。
【請求項2】
前記支柱は、前記トラスの長手方向の中心を挟むように左右一対設けられた請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
一端側が前記トラスに取り付けられ、他端側が前記支柱の間を通って前記床上に延びる薄板をさらに備えた請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記防護カバーは、主カバーと、当該主カバーに摺動自在に組み付けられた副カバーと、を備え、
前記主カバーおよび前記副カバーのいずれか一方が前記トラスに取り付けられ、他方が前記床に取り付けられた請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記支柱は、下部に前記床に固定される取付台を備え、
前記支柱を挟んで前記引張部材に対向する側に、前記取付台と前記支柱とを連結する補強部を有する請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記トラスの上に手摺ベルトが装着された欄干が設けられ、
前記欄干と前記防護カバーとの間に、乗客が通過可能な間隙が形成された請求項1に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータあるいは移動歩道のような乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアの一例であるエスカレータは、その枠体(トラス)の長手方向端部に固定されているトラス支持アングルを、建築構造物の上階側と下階側とに設けられた支持梁にかけて設置されている。近年、乗客コンベアは、従来想定されている規模より大きな規模の地震に対処することが求められている。そのための一つに、トラス支持アングルのかかり代を長くすることが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−183008号公報
【特許文献2】特開2016−88631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、既設のエスカレータにおいて、かかり代の長いトラス支持アングルに取り換えることは、トラス自体を建築構造物から外したり、支持梁を改修する必要があり、作業に大きな手間とコストとを必要とする。
【0005】
一方、トラスと床との間に延設部材を設け、トラス支持アングルが支持梁から外れたとき延設部材でトラスを支持することが考えられている。しかし、支持梁とのかかりが外れた後、トラス支持アングルが揺れ戻しで支持梁に戻るとき、トラス支持アングルが支持梁に衝突してしまうことが考えられる。すると、トラスに大きな圧縮力が加えられ、トラスが破損してしまうおそれがある。又、トラスが床から離れるとトラスと建築構造物との間に隙間が発生し、その隙間に乗客が挟まるおそれが考えられる。
【0006】
本発明の実施形態は、大規模地震に対応でき、揺れ戻しの際トラス支持アングルが支持梁に円滑に戻り、かつ、発生した隙間に乗客が挟まれることのない乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態の乗客コンベアは、建築構造物が有する床に連続する水平部を有するトラスと、前記トラスの前記水平部の先端部に設けられ、前記建築構造物が有する支持梁に掛けられるトラス支持アングルと、前記建築構造物の前記床から立ち上げられ、上部に取付点を有する支柱と、一端が前記支柱の前記取付点に取り付けられるとともに、他端が前記トラスの前記水平部に取り付けられ、前記トラス支持アングルが前記支持梁から外れた時に、前記トラスを吊り下げる引張部材と、前記支柱および前記引張部材を覆う防護カバーと、を備えて構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のエスカレータを示す側面図。
図2】同エスカレータを示す、図4のF2−F2線で破断した部分側面断面図。
図3】同エスカレータを示す、図4のF3−F3線で破断した部分側面断面図。
図4】同エスカレータを示す部分平面図。
図5】同エスカレータを示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、乗客コンベアの一例であるエスカレータ10を示す。エスカレータ10は、例えば、商業施設や交通機関のターミナルのような建築構造物12の上階と下階との間に据え付けられている。エスカレータ10は、枠体としてのトラス14を備えている。
【0010】
トラス14は、建築構造物12の上階のフロアを構成する第1の床16と、下階のフロアを構成する第2の床18との間に架け渡されている。トラス14は、上側主弦部20、下側主弦部22及び複数の縦桟24をボルトや溶接で結合した骨組み構造である。トラス14は、上側階水平部26、下側階水平部28、及び上側階水平部26と下側階水平部28との間に設けられた傾斜部30とを備えている。
【0011】
上側階水平部26は、第1の床16に連続するようにトラス14の長手方向に沿って傾斜部30の一方の端部に設けられている。下側階水平部28は、第2の床18に連続するようにトラス14の長手方向に沿って傾斜部30の他方の端部に設けられている。
【0012】
上側階水平部26には、駆動機構34が設けられている。駆動機構34は、駆動装置36、駆動スプロケット38、駆動チェーン40を備えている。駆動装置36が出力するトルクは、駆動チェーン40を介して駆動スプロケット42に伝達される。
【0013】
下側階水平部28には、従動スプロケット44が設けられている。駆動スプロケット42と従動スプロケット44との間に踏段チェーン46が巻き掛けられている。踏段チェーン46は、駆動装置36により駆動スプロケット42が回転したとき、トラス14の内部を無端状に周回する。
【0014】
踏段チェーン46には、複数の踏段48が等間隔で連結されている。踏段48は、乗客が乗り込む要素であり、踏段チェーン46と一緒に周回する。これにより、踏段48に乗り込んだ乗客が、上階の第1の床16から下階の第2の床18、又は、下階の第2の床18から上階の第1の床16に搬送される。トラス14の右側及び左側には、欄干50が設けられている。
【0015】
欄干50は、トラス14の上面に立ち上げられている。欄干50は、トラス14の全長に亘り設けられている。欄干50の外周部には、手摺ベルト52が装着されている。手摺ベルト52は、踏段48に乗り込んだ乗客が手で捕まる要素であり、踏段48の周回に同期して欄干50の外周を周回する。
【0016】
上側階水平部26の長手方向の先端部には、第1トラス支持アングル60が取り付けられている。下側階水平部28の長手方向の先端部には、第2トラス支持アングル66が取り付けられている。
【0017】
第1トラス支持アングル60は、水平片62と垂直片64とを有する断面逆L字状の形状を有している。垂直片64が、上側階水平部26の短辺側端部に固定され、水平片62が上側階水平部26の短辺側端部からトラス14の長手方向に沿って突出している。
【0018】
第2トラス支持アングル66は、水平片68と垂直片70とを有する断面逆L字状の形状を有している。垂直片70が、下側階水平部28の短辺側端部に固定され、水平片68が下側階水平部28の短辺側端部からトラス14の長手方向に沿って突出している。
【0019】
第1トラス支持アングル60は、水平片62が第1の床16の第1支持梁72に掛けられ、第2トラス支持アングル66は、水平片68が第2の床18の第2支持梁74に掛けられている。
【0020】
第1の床16には、第1支持梁72と仕上床76が設けられている。第1支持梁72は、仕上床76より若干下がった位置に設けられている。第1支持梁72には、アンカープレート80が設けられている。
【0021】
第2の床18には、第2支持梁74と仕上床82が設けられている。第2支持梁74は、仕上床82より若干下がった位置に設けられている。第2支持梁74には、アンカープレート84が設けられている。
【0022】
アンカープレート80、84は、トラス14の長手方向に沿って所定の奥行を有している。アンカープレート80の上面には、第1トラス支持アングル60の水平片62が、アンカープレート84の上面には、第2トラス支持アングル66の水平片68が高さ調整材69を介して載置されている。
【0023】
トラス14の上側階水平部26と第1の床16の第1支持梁72との間には、L1の間隔が形成されている。トラス14の下側階水平部28と第2の床18の第2支持梁74との間にも同等の間隔が形成されている。トラス14の上側階水平部26には、第1落下防止装置90が設けられている。
【0024】
次に、第1落下防止装置90について図2から図5を用いて説明する。図2は、図4のF2−F2で第1落下防止装置90の近傍を破断した断面図、図3は、図4のF3−F3で第1落下防止装置90を破断した断面図である。図4は、第1落下防止装置90の平面図である。図5は、第1落下防止装置90の分解斜視図である。
【0025】
第1落下防止装置90は、トラス14の左右に一対設けられている。左右の第1落下防止装置90は、トラス14の長手方向中心を挟んで基本的に左右対称の構成を有している。図2から図5では、左側の第1落下防止装置90について説明し、右側の第1落下防止装置90については、左側の第1落下防止装置90の説明に代える。
【0026】
又、下側階水平部28には、第2落下防止装置91が設けられている。下側階水平部28の第2落下防止装置91は、上側階水平部26の第1落下防止装置90と同等の構成を有しているので、その説明は、上側階水平部26の第1落下防止装置90の説明に代える。
【0027】
第1落下防止装置90は、図3等に示すように、支柱94と引張部材としてのワイヤ96と防護カバー98とを備えている。支柱94は、取付台100の上に、取付台100に対してほぼ垂直に設けられている。支柱94は、上側階水平部26における水平に延びる欄干50の高さより若干高い高さを有している。尚、支柱94の高さは、これに限るものではない。又、支柱94は、トラス14の長手方向や幅方向に、適宜傾斜していてもよい。
【0028】
取付台100は、第1の床16の上に据え付けられている。取付台100は、アンカーボルト等により、第1トラス支持アングル60に近接して据え付けられている。支柱94の欄干50と反対側には、補強部としての三角板92が設けられている。三角板92は、取付台100と支柱94とを強固に連結している。
【0029】
支柱94の上部には取付点110が設けられている。取付点110には、ワイヤ96の一端が取り付けられている。ワイヤ96は、トラス14を支持するに十分な引張強度を有している。ワイヤ96の他端はトラス14に連結されている。
【0030】
トラス14には、上側主弦部20とトラス14の前端の縦桟24との間に取付具112が設けられている。取付具112は、トラス14の角部に係合する一対の係合部と係合部間を連結する棒状部材とを備えている。棒状部材に、ワイヤ96の端部が巻き掛けられている。取付具112によりトラス14の内側に、ワイヤ96の端部が連結されている。
【0031】
トラス14は、第1トラス支持アングル60がアンカープレート80に載置されていることにより第1の床16に支持されている。これにより、通常の状態ではワイヤ96には、ほとんど引っ張り荷重がかかっていない。更にワイヤ96は、余分なたるみがほとんどない状態に長さが調整されている。
【0032】
トラス14の上側主弦部20には、乗降板102が適宜組み付けられる。支柱94に最も近い位置に配置される乗降板102には、ワイヤ96を避ける切欠き103(図5参照)が設けられている。その他の乗降板102と乗降板102の後方に設けられるコム104は、従来のものと同等のものである。乗降板102の先方には、薄板106が設けられる。
【0033】
薄板106は、板状部材で、トラス14側の端部に取付部108を有している。薄板106は、左右の取付台100の内側の間隔と同等の横幅を有している。取付部108は、クランク状に屈曲し、トラス14の上面に取り付けられる。取付部108がトラス14に取り付けられると、薄板106は左右の取付台100の間に、移動可能に挟まれるとともに、第1の床16の上に十分な長さ重複する。尚、薄板106は、一対の支柱94の間に設けられていてもよい。第1落下防止装置90には、防護カバー98が設けられている。
【0034】
防護カバー98は、側面視で概ね三角形の形状を有し、第1の床16の欄干50の先端位置からL2(図3参照)の長さ離れて設置されている。L2の長さは、欄干50と防護カバー98との間を乗客が通り抜けるには十分な長さである。
【0035】
防護カバー98は、主カバー120と副カバー122とを備えている。主カバー120は、図5に示すように第1落下防止装置90の支柱94と、ワイヤ96と、三角板92とを合わせた、ほぼ三角形の形状を有し、トラス14から遠い側に位置する面が開放されている。
【0036】
副カバー122は、主カバー120の内側に摺動自在に組み付く形状を有し、トラス14に近い側に位置する面が開放されている。主カバー120と副カバー122とは、所定長さ重複した部分を有して、上部で互いに回動自在に組み合わされている。主カバー120と副カバー122とを組み合わせた形が、概ね三角形状を有している。
【0037】
主カバー120は、トラス14に固定されている。副カバー122は、第1の床16に固定されている。防護カバー98は、仮にトラス14と第1の床16との間隔L1が拡がるなど、それらの間隔L1に変動が生じると、主カバー120と副カバー122とが上部の回動軸を中心に適宜摺動移動し、支柱94等を覆った状態でトラス14と第1の床16との間隔L1の変動に対応する。
【0038】
以上、第1の床16について説明したが、第2の床18にも、第1落下防止装置90と同等の第2落下防止装置91、乗降板102、コム104が設けられている。
【0039】
次に、エスカレータ10が有する作用効果について説明する。エスカレータ10は、建築構造物12の第1の床16(上階)と第2の床18(下階)の間に据え付けられている。エスカレータ10のトラス14は、第1トラス支持アングル60の水平片62を第1の床16の第1支持梁72にかけ、第2トラス支持アングル66の水平片68を第2の床18の第2支持梁74にかけ、建築構造物12に据え付けられている。
【0040】
以下、第1の床16における作用効果について説明する。尚、第2の床18において生ずる作用効果は、第1の床16で生ずる作用効果とほとんど同一であるので、その説明は、第1の床16における作用効果の説明に代える。
【0041】
トラス14に、一対の第1落下防止装置90が設けられている。具体的には、第1の床16に、取付台100を介して支柱94が一対設けられている。各支柱94の取付点110には、ワイヤ96の一端が取り付けられている。ワイヤ96の他端は、トラス14の左右の上側主弦部20にそれぞれ取付具112により連結されている。
【0042】
第1落下防止装置90の周囲に防護カバー98が設けられている。防護カバー98は、主カバー120がトラス14に固定され、副カバー122が第1の床16に固定されている。トラス14の上に、コム104と乗降板102が取り付けられている。第1落下防止装置90に最も近い乗降板102は、切欠き103を通してワイヤ96を貫通させている。
【0043】
トラス14の長手方向先方に薄板106が取り付けられている。薄板106は、トラス14から左右の取付台100の間を通り、第1の床16の上に延びている。
【0044】
通常の状態では、踏段48の走行により搬送されてくる乗客は、踏段48から降り、コム104、乗降板102、薄板106の上を歩いて第1の床16に到着する。乗客は、左右の防護カバー98の間を通り、第1の床16上に進む。第1落下防止装置90は、防護カバー98で完全に覆われているので、何ら問題を生じさせない。又、エスカレータ10の欄干50と防護カバー98との間を抜けて、第1の床16に進むこともできる。
【0045】
地震が発生して、トラス14と第1の床16との間隔L1が変動したとする。すると、第1トラス支持アングル60の水平片62とアンカープレート80との間等で相対移動が発生する。すると、第1落下防止装置90では、トラス14に連結されたワイヤ96が支柱94の取付点110でトラス14の動きに伴い揺れて、トラス14に追従する。
【0046】
万一規模の大きな地震が発生した場合、第1トラス支持アングル60の水平片62が第1支持梁72から外れる場合がある。この場合、トラス14がワイヤ96に連結されていので、上側階水平部26はワイヤ96を介して支柱94に支持される。
【0047】
したがって、第1トラス支持アングル60が第1の床16から離れても、第1落下防止装置90により上側階水平部26が支持され、トラス14が第1の床16から脱落してしまうことはない。支柱94とワイヤ96は、トラス14を支持するに十分な強度を有し、トラス14を支持することができる。
【0048】
薄板106は、左右の防護カバー98の間に挟まれているので、左右に振られることなく、トラス14の長手方向に沿って移動する。又、これにより、トラス14が幅方向に大きく振られることがなく、安定して前後方向に移動する。
【0049】
トラス14と第1の床16との間隔L1が拡がり、第1トラス支持アングル60が第1の床16から離れると、トラス14は、取付点110を中心として回動するワイヤ96に吊り下げられる。つまり、トラス14が第1の床16から離れるにつれて、トラス14は、支柱94の取付点110を中心としてワイヤ96の長さの円弧を描いて揺動する。これにより、トラス14が第1の床16から離れるに従い、トラス14の上側階水平部26が、ワイヤ96により、第1支持梁72に載置されていた状態より高い位置に引き上げられる。
【0050】
そして、第1の床16から離れたトラス14が、揺れ戻しにより第1の床16に戻るとする。すると、トラス14の第1トラス支持アングル60が第1支持梁72のアンカープレート80より高い位置に上昇しているため、第1トラス支持アングル60の水平片62が、第1支持梁72のアンカープレート80上に復帰する。したがって、トラス支持アングル60が第1支持梁72のトラス側の壁面に衝突することなく、トラス14が第1の床16に戻ることができる。
【0051】
又、エスカレータ10は、薄板106が第1の床16と十分な長さで重なっているので、トラス14と第1の床16との間隔L1が拡がったとしてもトラス14と第1の床16との間は薄板106で覆われ、それら間に隙間が露出することはない。
【0052】
又、エスカレータ10は、トラス14が第1の床16から離れたとしても、主カバー120と副カバー122とが互いに重なった状態で摺動するので、第1落下防止装置90が防護カバー98で覆われた状態を保持できる。これにより、トラス14と第1の床16との間が広がったときでも、第1落下防止装置90による乗客の受傷を防止できる。
【0053】
次に、既設のエスカレータを本実施形態のエスカレータ10と同等の構成に変更する手順の一例について説明する。既設のエスカレータとは、第1トラス支持アングル60等の長さが、従来の長さのままで、トラス支持アングルの長さにおいて大規模地震への対応がなされていないエスカレータのことをいう。
【0054】
建築構造物に設置されている既設のエスカレータから、コム104と乗降板102とを取り外す。第1の床16の上に、支柱94を固定する。支柱94の固定は、支持梁72の近傍に取付台100を設置して行う。取付台100は、アンカーボルト等により第1の床16に設置する。取付台100を設置する第1の床16は、強化コンクリート等により補強することが好ましい。
【0055】
トラス14の上側主弦部20の内側に取付具112を固定する。取付具112に支柱94から延びるワイヤ96を連結する。ワイヤ96は、適度な張りをもって取付具112に連結する。尚、この段階ではワイヤ96に張力を作用させないこととする。
【0056】
支柱94とワイヤ96に防護カバー98を被せる。主カバー120をトラス14に取り付け、副カバー122を主カバー120に重ねた状態で第1の床16に固定する。尚、副カバー122は、支柱94や取付台100に取り付けてもよい。
【0057】
防護カバー98が取り付けられたら、コム104と乗降板102とをトラス14に取り付ける。コム104は、既設のものを用いる。乗降板102は、支柱94に最も近いものに、切欠き103を備えたものを使用する。
【0058】
そして、薄板106を左右の防護カバー98の間に配置し、取付部108をねじ等によりトラス14に固定する。これにより、第1トラス支持アングル60等を第1の床16等から外すことなく、既設のエスカレータを本実施形態のエスカレータ10と同等の、耐震構造のエスカレータに改良できる。
【0059】
本実施形態のエスカレータ10によれば、トラス14と第1の床16等との間隔が、従来の第1トラス支持アングル60で対応可能な範囲を超えて拡がった場合でも、第1落下防止装置90がトラス14を支持し、第1の床16等からのトラス14の脱落を防止できる。第1落下防止装置90は、十分な強度を有するとともに、側面視で概ね三角形に形成されるので、小型化が実現できる。
【0060】
エスカレータ10は、防護カバー98及び薄板106により、作動時の第1落下防止装置90に生じる隙間、及びトラス14と第1の床16との間がそれぞれ塞がれるので、隙間による人的被害を防止できる。薄板106が防護カバー98、具体的には、取付台100、若しくは支柱94によりガイドされているので、トラス14の横揺れを防止し、トラス14がトラス14の長手方向に移動した場合でもトラス14の挙動を安定させることができる。
【0061】
既設のエスカレータを本実施形態のエスカレータ10に改良するにあたり、トラス14を建築構造物12から移動させる必要がないので、低いコストと短い期間で工事が行なえる。
【0062】
エスカレータ10では、第1落下防止装置90とエスカレータ10の欄干50との間に間隙が形成されるので、乗客の乗り降りを円滑にできる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0064】
例えば、三角板92は板状部材でなく、ワイヤ96の引っ張り力に対抗できれば、チェーンやワイヤ等他の部材でもよい。又、引張部材としては、ワイヤ96でなく、チェーンや棒状部材を用いたリンク機構等でもよい。落下防止装置は、エスカレータ10の幅方向両側でなく、エスカレータ10の幅方向中央に1基設置してもよい。防護カバー98に、案内表示や広告などを設けてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…エスカレータ、12…建築構造物、14…トラス、16…第1の床、18…第2の床、20…上側主弦部、22…下側主弦部、24…縦桟、26…上側階水平部、28…下側階水平部、30…傾斜部、34…駆動機構、36…駆動装置、38…駆動スプロケット、40…駆動チェーン、42…駆動スプロケット、44…従動スプロケット、46…踏段チェーン、48…踏段、50…欄干、52…手摺ベルト、60…第1トラス支持アングル、62…水平片、64…垂直片、66…第2トラス支持アングル、68…水平片、70…垂直片、72…第1支持梁、74…第2支持梁、76、82…仕上床、80、84…アンカープレート、90…第1落下防止装置、92…三角板、94…支柱、96…ワイヤ、98…防護カバー、100…取付台、102…乗降板、104…コム、106…薄板、108…取付部、110…取付点、112…取付具、120…主カバー、122…副カバー。
【要約】
【課題】大規模地震に対応した乗客コンベアを提供する。
【解決手段】乗客コンベアは、トラスの長手方向端部に設けられ、建築構造物の支持梁に掛けられるトラス支持アングルと、床に立ち上げられ、上部に取付点を有する支柱と、一端が支柱の取付点に取り付けられ、他端がトラスに取り付けられる引張部材と、支柱と引張部材を覆う防護カバーとを備えて構成されている。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5