(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6352565
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】消火システム
(51)【国際特許分類】
A62C 3/00 20060101AFI20180625BHJP
A62C 2/04 20060101ALI20180625BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20180625BHJP
A62C 3/06 20060101ALI20180625BHJP
A62C 35/58 20060101ALI20180625BHJP
A62C 35/68 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
A62C3/00 D
A62C2/04 A
A62C2/00 A
A62C3/06 Z
A62C35/58
A62C35/68
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-16200(P2018-16200)
(22)【出願日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年3月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510268130
【氏名又は名称】株式会社キーテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】関根 一英
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−192784(JP,A)
【文献】
特開2007−61519(JP,A)
【文献】
特開2005−155824(JP,A)
【文献】
特開2003−71640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00−37/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆流防止部材で複数の区間に区切られ可燃性ガスもしくは支燃性ガスが流下するガス配管を備えた金属加工機器に対する消火システムであって、
前記ガス配管の区間ごとに設けられたT字継手と、
消火ガスを供給する本管と、
前記本管から分岐して前記T字継手のそれぞれに接続する消火ガス供給管と、
前記消火ガス供給管ごとに設けられ前記T字継手側からのガスの流入を防止する供給管逆流防止部材と、
前記本管を開閉する開閉手段と、
高圧の消火ガスを貯留するとともに前記本管に消火ガスを供給する消火ガスボンベと、を有することを特徴とする消火システム。
【請求項2】
前記本管に設けられ消火ガスの圧力を前記ガス配管内のガス圧よりも高い圧力に維持するガス圧調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載の消火システム。
【請求項3】
開閉手段が1つの動作で開状態となる手動レバー式もしくは手動ボタン式の開閉弁であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスや支燃性ガスを使用する金属加工機器に対する消火システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製のワークに対する切断、開先、溶接等の加工手法の一つとしてガス炎を用いる方法がある。このようなガス炎を用いた金属加工機器として、例えばガス切断機はプロパン等の可燃性ガスと酸素等の支燃性ガスとを混合して燃焼させ高温のガス炎を生成し、このガス炎をワークに噴射して溶断を行う。また、熱によりワークを溶断する他の金属加工機器としてプラズマ切断機やレーザ切断機がある。このような金属加工機器においても、アシストガスとして水素や酸素等の可燃性ガス、支燃性ガスを用いる場合がある。
【0003】
そして、このような可燃性ガス、支燃性ガスは通常、金属加工機器内に設けられたガス配管を通して機器の加工部に供給される。しかしながら、このガス配管が何らかの原因で損傷した場合、損傷箇所から可燃性ガス、支燃性ガスが漏洩し、機器内の何らかの火種により引火して火災が発生する可能性が有る。この問題点に対し、例えば下記[特許文献1]には、火災発生時に加工部等の特定の部位に二酸化炭素や窒素ガス等の不活性ガスを噴射して初期消火動作を行い、それでも鎮火しない場合に室内を不活性ガスで満たす消火システムに関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−71640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のようにガス配管からの漏洩で火災が発生した場合、その火災発生場所はガス配管の漏洩部分近傍であり、特定の部位に対してのみ初期消火動作を行う[特許文献1]に記載の発明では対応することができない。また、室内を不活性ガスで満たす消火動作は作業者の避難が必要となるばかりか、膨大な不活性ガスを消費するという問題点がある。
【0006】
また、ガス配管からの漏洩で火災が発生した場合、ガス配管の外で生じる火災と、ガス配管の内部で発生する火災とがあり、このうちガス配管外の火災に対しては一般的な消火活動での消火が可能である。しかしながら、ガス配管内の火災に関しては配管内の可燃性ガスが無くならない限り完全に消火することができず、外部の火災の再発や炎の伝播による漏洩部分から離れた箇所での火災の発生等の原因となる。尚、金属加工機器内のガス配管は、通常、逆止弁等により複数の区間に区切られ、逆止弁よりも上流側への炎の伝播を阻止している。しかしながら、逆止弁で区切られた区間内の炎の伝播に対しては防止措置が講じられておらず、特に区切られた区間が長い場合にはガス配管に沿った複数個所での火災発生のリスクが高く、完全な鎮火までに厳重な警戒と時間とを要する。
【0007】
また、作業者等が周知の粉消火器等を使用して消火を行った場合、火災が発生した金属加工機器及びその周辺が消火剤で汚損し、当該金属加工機器のみならず周辺設備や工場全体の復旧や再稼働に時間を要するという問題点がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ガス配管内外の消火を短時間で効率良く行う事が可能な消火システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)逆流防止部材(逆止弁22)で複数の区間に区切られ可燃性ガスもしくは支燃性ガスが流下するガス配管12a、12bを備えた金属加工機器10に対する消火システムであって、
前記ガス配管12a、12bの区間ごとに設けられたT字継手50と、消火ガスを供給する本管54と、前記本管54から分岐して前記T字継手50のそれぞれに接続する消火ガス供給管52と、前記消火ガス供給管52ごとに設けられ前記T字継手50側からのガスの流入を防止する供給管逆流防止部材62と、前記本管54を開閉する開閉手段64と、高圧の消火ガスを貯留するとともに前記本管54に消火ガスを供給する消火ガスボンベ56と、を有することを特徴とする消火システム80を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)前記本管54に設けられ消火ガスの圧力を前記ガス配管12a、12b内のガス圧よりも高い圧力に維持するガス圧調整手段58をさらに有することを特徴とする上記(1)記載の消火システム80を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)開閉手段64が1つの動作で開状態となる手動レバー式もしくは手動ボタン式の開閉弁であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の消火システム80を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る消火システムは、火災発生時に消火ガスを金属加工機器のガス配管内に直接圧入する。このため、ガス配管内の炎を極めて短時間で消火することができる。また、消火ガスはガスの漏洩部分から外部の火災発生地点近傍に直接噴射される。これにより、ガス配管外の火災に対しても極めて効果的な消火動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明に係る消火システムの火災時の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る消火システムについて図面に基づいて説明する。先ず、本発明に係る消火システム80は、可燃性ガスや支燃性ガスを使用する金属加工機器10に設置するものであり、金属加工機器10としてはガス切断機、プラズマ切断機、レーザ切断機等、可燃性ガスもしくは支燃性ガスを用いるものであれば特に限定はない。尚、ここでは可燃性ガスと支燃性ガスの双方を用いた金属加工機器10を用いて説明を行うが、使用するガスはいずれか一方でも構わない。また、酸素等の支燃性ガスはそれ自身が燃焼することはないが、本発明は支燃性ガスのガス配管12bに対しても同一の構成を有するため、何らかの原因により支燃性ガスのガス配管12b内で火災が生じた場合でも同様の消火活動が行われる。
【0013】
先ず、本発明を適用する金属加工機器10は、ワークWに対し可燃性ガスもしくは支燃性ガスを用いて加工を行うものであり、プロパン、アセチレン、水素等の周知の可燃性ガスを加工部14に供給するガス配管12aと、酸素等の周知の支燃性ガスを加工部14に供給するガス配管12bと、を有している。尚、このガス配管12a、12bとしてはゴムホース等の合成樹脂製のものが多く用いられる。また、通常、ガス配管12a、12bには加工部14の炎が上流側に伝播しないよう複数の逆止弁22(逆流防止部材)が設けられ、この逆止弁22によって複数の区間に区切られている。そして、可燃性ガスのガス配管12aの上流端には周知の開閉弁24、加工ガス圧調整手段18を介して可燃性ガスのガスボンベ16aが接続する。また、支燃性ガスのガス配管12bの上流端は同じく周知の開閉弁24、加工ガス圧調整手段18を介して支燃性ガスのガスボンベ16bが接続する。これにより、ガスボンベ16a、16bからの可燃性ガス、支燃性ガスは加工ガス圧調整手段18によって所定の圧力に調整された後、ガス配管12a、12bを通して加工部14に供給される。尚、ガスボンベ16a、16bは必ずしも金属加工機器10毎に設ける必要はなく、エリアごとや建屋ごとに集約して設け、周知のガス管により金属加工機器10に供給するようにしても良い。
【0014】
次に、本発明に係る消火システム80の構成に関して説明する。本発明に係る消火システム80は、
図1に示すように、逆止弁22によって区切られたガス配管12a、12bの区間ごとに設けられた周知のT字継手50と、窒素ガス、炭酸ガス(二酸化炭素)、アルゴンガス等の周知の不活性化ガスを消火ガスとして供給する本管54と、この本管54から分岐してT字継手50のそれぞれに接続する消火ガス供給管52と、この消火ガス供給管52ごとに設けられT字継手50側からのガス(可燃性ガス、支燃性ガス)の流入を防止する周知の供給管逆流防止部材62(逆止弁)と、本管54を開閉する開閉手段64と、高圧の消火ガスを貯留するとともに本管54に消火ガスを供給する消火ガスボンベ56と、を有している。尚、本例で示すように複数のガス配管12a、12bを有する金属加工機器10では、ガス配管12a、12bと接続した全ての消火ガス供給管52を最終的に1本の本管54に接続し、消火動作時には基本的にガス配管12a、12bの全ての区間に消火ガスが噴出するようにする。
【0015】
また、本管54を開閉する開閉手段64としては、作業者が火災発生時に一つの動作で開閉手段64を開状態とすることができる手動レバー式もしくは手動ボタン式の開閉弁を用いることが好ましい。また、開閉手段64は、対応する金属加工機器10の近傍の目立つ場所に設置することが好ましい。
【0016】
また、本管54の経路上には消火ガスの圧力を所定の値に調整し維持するガス圧調整手段58が設けられる。また、本管54には圧力計66が設けられ、この圧力計66によって本管54の圧力はモニタされる。尚、本管54の消火ガスの圧力は、分岐した各消火ガス供給管52内の消火ガスの圧力がガス配管12a、12b内の可燃性ガス及び支燃性ガスのガス圧よりも例えば0.2MPa程度高い値となるように設定される。よって、本管54における消火ガスの圧力は、金属加工機器10に供給される可燃性ガス、支燃性ガスの圧力、消火ガス供給管52の分岐数及び長さ等により異なる。
【0017】
尚、消火ガスボンベ56は消火システム80ごとに設けても良いし、エリアごとや建屋ごとに集約して設けても良い。ただし、この場合でも開閉手段64は金属加工機器10ごとに設置し、ガス圧調整手段58、圧力計66も金属加工機器10ごとに設けることが好ましい。
【0018】
次に、本発明に係る消火システム80の使用方法を説明する。初めに本発明に係る消火システム80の金属加工機器10への設置方法を説明する。先ず、金属加工機器10のガス配管12a、12bを逆止弁22の間の区間で切断する。そして切断した両端の間にT字継手50を設置して再接続する。これにより、ガス配管12a、12bはT字継手50を介して連通する。次に、このT字継手50の設置を逆止弁22で区切られたガス配管12a、12bの全ての区間で行う。次に、供給管逆流防止部材62を備えた消火ガス供給管52をそれぞれのT字継手50の残りの接続口に接続する。これにより、消火システム80の金属加工機器10への設置が完了する。
【0019】
次に、本発明に係る消火システム80の使用方法を説明する。先ず、開閉手段64を閉じた状態で、消火ガスボンベ56のバルブ56aを開く。このときガス圧調整手段58は閉状態もしくは最少開度状態とする。次に、圧力計66を確認しながらガス圧調整手段58を徐々に開き本管54のガス圧を予め取得された所定の圧力とする。このときの本管54のガス圧は、前述のように消火ガス供給管52の消火ガスの圧力が、ガス配管12a、12bの可燃性ガス、支燃性ガスの圧力よりも所定の値高くなるような圧力である。これにより、消火システム80は待機状態となる。
【0020】
次に、金属加工機器10を動作させる。これにより、例えばガスボンベ16a、16b内の可燃性ガスもしくは支燃性ガスが加工ガス圧調整手段18によって所定の圧力とされ、ガス配管12a、12bを流下して加工部14に供給される。尚、ガス配管12a、12bはT字継手50を介して消火ガス供給管52と連通しているが、ガス配管12a、12bの可燃性ガスもしくは支燃性ガスは供給管逆流防止部材62によって堰き止められ、これよりも上流側に流下することはない。そして、供給された可燃性ガス及び支燃性ガスは加工部14において燃焼し高温のガス炎となってワークW側に噴射する。これにより、ガス炎が当たる位置のワークWは溶融する。次に、所定のプログラムによって加工部14もしくはワークWが移動し、ガス炎の当たる位置が変化する。これによりワークWは所定の形状に溶断される。
【0021】
ここで、劣化や損傷、接続箇所の緩み等の何らかの原因により漏洩部分Aが生じ、ガス配管12a、12bの可燃性ガスもしくは支燃性ガスが漏洩、引火して火災が発生した場合を考える。このとき、作業者は開閉手段64を操作して、開閉手段64を開状態とする。このとき、開閉手段64に一つの動作で開状態となる開閉弁を用いることで、作業者は瞬時に開閉手段64を開状態とすることができる。これと前後して、作業者は金属加工機器10の動作を停止する。これにより、例えば開閉弁24が閉状態となり、可燃性ガス、支燃性ガスの供給が停止する。
【0022】
そして、開閉手段64が開状態になると、消火ガスボンベ56内の消火ガスが消火ガス供給管52及びT字継手50を介して全ての区間のガス配管12a、12b内に噴出する。このとき、消火ガスの圧力は可燃性ガス、支燃性ガスの圧力よりも高いため、仮に可燃性ガス、支燃性ガスの開閉弁24の閉動作が遅れた場合でも、消火ガスはガス配管12a、12b内に問題無く噴出するとともに、可燃性ガス、支燃性ガスの供給を阻害する。そして、ガス配管12a、12b内に噴出した消火ガスはガス配管12a、12b内に流入して可燃性ガス(支燃性ガス)の濃度を燃焼範囲外としてガス配管12a(12b)内の炎を消火するとともに、燃焼範囲外とした可燃性ガス(支燃性ガス)を外部に放出して炎の伝播を阻止する。さらにこの消火ガスは、
図2に示すように漏洩部分Aから噴出し、漏洩部分Aの外部の炎を消火する。このように本発明に係る消火システム80では、ガスの漏洩部分Aから消火ガスが噴出するため、外部の火災発生地点近傍に直接消火ガスが噴射され、極めて効果的な消火動作を行うことができる。
【0023】
以上のように、本発明に係る消火システム80は、火災発生時に消火ガスを金属加工機器10のガス配管12a、12b内に直接圧入する。このため、ガス配管12a、12b内の炎を極めて短時間で消火することができる。また、ガス配管12a、12b内の可燃性ガス、支燃性ガスを燃焼範囲外の濃度としながら外部に放出させガス配管12a、12b内における炎の伝播を防止する。さらに、消火ガスはガスの漏洩部分Aから外部の火災発生地点近傍に直接噴射される。これにより、ガス配管12a、12b外の火災に対しても極めて効果的な消火動作を行うことができる。また、消火ガスは上記のように局所的に使用されるため、作業者の避難が不要である他、消火ガスの消費量も抑制することができる。
【0024】
また、本発明に係る消火システム80は、不活性化ガスを消火ガスとして使用するため消火剤による汚損が無く、基本的に火災による被害部分の修繕のみで金属加工機器10を復旧することができる。さらに、本発明に係る消火システム80は、装置規模が小さいことに加え機構が単純であり、低コストで導入することができる。また、本発明に係る消火システム80は、金属加工機器10のガス配管12a、12bにT字継手50を取付けることで簡単に設置することができる。これにより、既存の金属加工機器10にも容易に設置することができる。
【0025】
尚、本例で示した消火システム80は一例であるから、適用する金属加工機器10、各配管の経路、配管の構成、配管部材、機構、その他は上記の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 金属加工機器
12a、12b ガス配管
22 逆止弁(逆流防止部材)
50 T字継手
52 消火ガス供給管
54 本管
56 消火ガスボンベ
58 ガス圧調整手段
62 供給管逆流防止部材
64 開閉手段
80 消火システム
【要約】
【課題】ガス配管内外の消火を短時間で効率良く行う事が可能な消火システムを提供する。
【解決手段】この消火システム80は、火災発生時に消火ガスを金属加工機器10のガス配管12a、12b内に直接圧入する。このため、ガス配管12a、12b内の炎を極めて短時間で消火することができる。また、ガス配管12a、12b内の可燃性ガス、支燃性ガスを燃焼範囲外の濃度としながら外部に放出させガス配管12a、12b内における炎の伝播を防止する。さらに、消火ガスはガスの漏洩部分Aから外部の火災発生地点近傍に直接噴射される。これにより、ガス配管12a、12b外の火災に対しても極めて効果的な消火動作を行うことができる。
【選択図】
図1