特許第6352604号(P6352604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352604回転容積型ポンプ用摺動部材、及び回転容積型ポンプ運転状態検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352604
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】回転容積型ポンプ用摺動部材、及び回転容積型ポンプ運転状態検知システム
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/00 20060101AFI20180625BHJP
   F04C 2/107 20060101ALI20180625BHJP
   F04C 13/00 20060101ALI20180625BHJP
   F04C 14/28 20060101ALI20180625BHJP
   B65G 43/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   F04C15/00 D
   F04C2/107
   F04C13/00 B
   F04C14/28 B
   B65G43/00 N
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-170244(P2013-170244)
(22)【出願日】2013年8月20日
(65)【公開番号】特開2015-40476(P2015-40476A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年7月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512051343
【氏名又は名称】ヘイシンテクノベルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】東波 正浩
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕子
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−283643(JP,A)
【文献】 特開2000−087873(JP,A)
【文献】 特開2010−281280(JP,A)
【文献】 特開昭52−156403(JP,A)
【文献】 特開2003−306217(JP,A)
【文献】 特開2004−224557(JP,A)
【文献】 特許第4885083(JP,B2)
【文献】 特開2006−273528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
F04C 2/107
F04C 13/00
F04C 14/28
B65G 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転容積型ポンプ内における流動物の流通経路に露出するように配置され、前記回転容積型ポンプの作動に伴い他部材と接触しつつ摺動する回転容積型ポンプ用摺動部材であって、
前記摺動部材は、ゴム製とされており、前記重量比で10〜30%の金属粉を含み、
摺動部材の摩耗物や破片が発生して流動物に混入しても、その混入を金属粉の所在によって検知可能としたものであることを特徴とする回転容積型ポンプ用摺動部材。
【請求項2】
動力を受けて偏心回転する雄ねじ型のロータと、内周面が雌ねじ型に形成されたステータとを有し、前記ステータ内に前記流通経路が形成された一軸偏心ねじポンプにおいて前記ステータとして用いられることを特徴とする請求項1に記載の回転容積型ポンプ用摺動部材。
【請求項3】
前記ステータにおける流動物の吐出側及び/又は吸込み側の端面がテーパ状とされていることを特徴とする請求項2に記載の回転容積型ポンプ用摺動部材。
【請求項4】
樹脂若しくはゴムの肉厚が一定であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転容積型ポンプ用摺動部材。
【請求項5】
前記他部材と接触しつつ摺動する摺動面を有し、
前記金属粉の含有量が、前記摺動面側の領域において他の領域よりも高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の回転容積型ポンプ用摺動部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の回転容積型ポンプ用摺動部材を備えた回転容積型ポンプと、
前記回転容積型ポンプから吐出された流動物中に含まれる金属粉の存在を検出可能な検出装置と、
前記検出装置が金属粉の存在を検出することを条件として、前記ステータの摩耗に伴い発生した摩耗物が、前記回転容積型ポンプから吐出された流動物に混入したものと判定可能な制御装置とを有することを特徴とする回転容積型ポンプ運転状態検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転容積型ポンプに用いられる回転容積型ポンプ用摺動部材、及び回転容積型ポンプにおける回転容積型ポンプ用摺動部材の摩耗を検知可能な回転容積型ポンプ運転状態検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているような一軸偏心ねじポンプ等のポンプが提供されている。一軸偏心ねじポンプは、液体等の低粘度の流動物のみならず、水飴等の高粘度の流動物、変質等しやすく取り扱いに注意を要する流動物、固形物・繊維質・気泡などを含む流動物等を圧送することができる。そのため、一軸偏心ねじポンプは、食品等を圧送するためにも好適に使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−175199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した一軸偏心ねじポンプは、雌ねじ状の挿通孔を有するステータの内部において雄ねじ状のロータが回転することによりポンプ作用を発揮するものである。また、一軸偏心ねじポンプにおけるステータのように、ポンプの作動に伴い他部材(一軸偏心ねじポンプにおいてはロータ)と接触しつつ摺動する摺動部材が、圧送対象である流動物が流れる流通経路に露出するように配置されることがある。そのため、一軸偏心ねじポンプ等のポンプにおいては、想定外の使用形態で使用され、ステータやロータに過度な負荷が作用すると、摺動部材の摩耗物や破片が発生して流動物に混入する可能性がある。従って、前述したような摩耗物等が発生するような使用状態で使用されたとしても、これを迅速かつ的確に把握できるようなポンプ用摺動部材や、これを備えたポンプ運転状態検知システムの提供が求められている。特に、上述した一軸偏心ねじポンプのように、食品等を圧送可能なポンプにおいては、流動物中への摩耗物等の混入を迅速かつ適確に検出したいとの要望が強い。
【0005】
そこで、本発明は、仮に他部材と接触しつつ摺動することにより摩耗物等が発生してしまったとしても、摩耗物等の発生を迅速かつ的確に把握可能な回転容積型ポンプ用摺動部材、及び当該回転容積型ポンプ用摺動部材を用いた回転容積型ポンプについての回転容積型ポンプ運転状態検知システムの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、回転容積型ポンプ内における流動物の流通経路に露出するように配置され、前記回転容積型ポンプの作動に伴い他部材と接触しつつ摺動するものであり、樹脂製若しくはゴム製とされており、前記重量比で10〜30%の金属粉を含むことを特徴とするものである。
【0007】
本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、樹脂製若しくはゴム製のものであるが、重量比で10〜30%の金属粉を含んでいる。このような構成とすることにより、仮に想定外の使用形態で使用される等により、回転容積型ポンプ用摺動部材の摩耗物や破片が発生し、流通経路中を流れる流動物中に混入してしまったとしても、金属検出器やX線異物検査機等に代表される金属粉の存在を検出可能な検出装置を用いることにより、摩耗物等の混入を迅速かつ的確に検出することができる。
【0008】
上述した本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、動力を受けて偏心回転する雄ねじ型のロータと、内周面が雌ねじ型に形成されたステータとを有し、前記ステータ内に前記流通経路が形成された一軸偏心ねじポンプにおいて前記ステータとして好適に利用することができる。
【0009】
上述したように、一軸偏心ねじポンプのステータは、雄ねじ型のロータが挿通され、ロータが内部で偏心回転するものであると共に、内部に形成される流通経路に露出する回転容積型ポンプ用摺動部材である。そのため、本発明によれば、一軸偏心ねじポンプにおける回転容積型ポンプ用摺動部材であるステータの摩耗物や破片が発生して圧送対象である流動物中に混入してしまったとしても、金属検出器やX線異物検査機等の検出装置によって金属粉の所在を検知することにより、摩耗物や破片の混入の有無を迅速かつ的確に検出することができる。
【0010】
上述した本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、前記ステータにおける流動物の吐出側及び/又は吸込み側の端面がテーパ状とされていることが好ましい。
【0011】
かかる構成とすることにより、吐出圧や吸込圧の影響によりステータの吐出側及び/又は吸込み側の端面において割れが生じることを防止できる。
【0012】
上述した本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、樹脂若しくはゴムの肉厚が一定であるものであっても良い。
【0013】
かかる構成とした場合についても、金属粉の存在を検出可能な検出装置を用いることにより、金属粉が含まれた摩耗物等の混入を迅速かつ的確に検出することができる。
【0014】
ここで、上述した回転容積型ポンプ用摺動部材においては、他部材と接触しつつ摺動する摺動面近傍において摩耗物や破片が発生して流動物中に混入する可能性が高く、摺動面から離れた領域において摩耗物等が発生する可能性が低いと考えられる。
【0015】
かかる知見に基づいて提供される本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材は、前記他部材と接触しつつ摺動する摺動面を有し、前記金属粉の含有量が、前記摺動面側の領域において他の領域よりも高いことを特徴とするものである。
【0016】
かかる構成とすることにより、金属粉の存在を検出可能な検出装置を用いることによる摩耗物等の混入検知を可能としつつ、摺動面側の領域を除く他の領域について金属粉の含有量が少なく破損しにくいものとすることが可能である。また、上述したような構成とすることで、摺動面側の領域及び他の領域を異なる材質で作成することも可能となる。
【0017】
本発明の回転容積型ポンプ運転状態検知システムは、上述した本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材を備えた回転容積型ポンプと、前記回転容積型ポンプから吐出された流動物中に含まれる金属粉の存在を検出可能な検出装置と、前記検出装置が金属粉の存在を検出することを条件として、前記ステータの摩耗に伴い発生した摩耗物等が、前記回転容積型ポンプから吐出された流動物に混入したものと判定可能な制御装置とを備えていることを特徴とするである。
【0018】
本発明の回転容積型ポンプ運転状態検知システムでは、重量比で10〜30%の金属粉を含んだ回転容積型ポンプ用摺動部材を用いている。また、本発明の回転容積型ポンプ運転状態検知システムでは、流動物が搬送される搬送経路中の少なくとも一部に、金属検出器やX線異物検査機等に代表されるような金属粉の存在を検出可能な検出装置が配置されている。これにより、検出装置による金属粉の検出を条件として、流動物中に摩耗物等が混入しているか否かを迅速かつ的確に検出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、仮に他部材と接触しつつ摺動することにより摩耗物等が発生してしまったとしても、摩耗物等の発生を迅速かつ的確に把握可能な回転容積型ポンプ用摺動部材、及び当該回転容積型ポンプ用摺動部材を用いた回転容積型ポンプについての回転容積型ポンプ運転状態検知システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る回転容積型ポンプ運転状態検知システムを示した構成図である。
図2図1に示した回転容積型ポンプ運転状態検知システムが備える一軸偏心ねじポンプの断面図である。
図3図1に示した回転容積型ポンプ運転状態検知システムの動作の一例を示したフローチャートである。
図4】変形例に係るステータを示した断面図である。
図5】変形例に係るステータを示した断面図である。
図6】実施例1に係る実験データを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の回転容積型ポンプ用摺動部材、及び回転容積型ポンプ運転状態検知システムを適用した実施形態について説明する。本実施形態において説明する回転容積型ポンプ運転状態検知システム10は、回転容積型ポンプの運転状態、具体的には回転容積型ポンプが備える回転容積型ポンプ用摺動部材の摩耗物や破片が発生しているか否かを検出し、異常の有無を判定するためのものである。図1に示した回転容積型ポンプ運転状態検知システム10は、回転容積型ポンプとして一軸偏心ねじポンプ20を備えており、検出装置100によって摩耗物等を検出し、制御装置120によって動作異常の有無を判定可能とされている。回転容積型ポンプ運転状態検知システム10は、特に回転容積型ポンプ用摺動部材であるステータ50や、検出装置100、制御装置120等の構成や動作制御に特徴を有しているが、ステータ50等の詳細な構成や動作制御の説明に先だって、一軸偏心ねじポンプ20の構成について概要を説明する。
【0022】
≪一軸偏心ねじポンプ20の概略構成について≫
図2に示すように、一軸偏心ねじポンプ20は、一軸偏心ねじポンプ機構30を主要部として構成される、いわゆる回転容積型のポンプである。図2に示すように、一軸偏心ねじポンプ20は、ケーシング40の内部にステータ50、ロータ60、及び動力伝達機構70等を収容した構成とされている。ケーシング40は、金属製で筒状の部材であり、長手方向一端側に第一開口部42が設けられている。また、ケーシング40の外周部分には、第二開口部44が設けられている。第二開口部44は、ケーシング40の長手方向中間部分に位置する中間部46においてケーシング40の内部空間に連通している。
【0023】
第一開口部42及び第二開口部44は、それぞれポンプ機構30の吸込口および吐出口として機能する部分である。一軸偏心ねじポンプ20は、ロータ60を正方向に回転させることにより、第一開口部42を吐出口、第二開口部44を吸込口として機能させることができる。また、ロータ60を逆方向に回転させることにより、第一開口部42を吸込口、第二開口部44を吐出口として機能させることができる。
【0024】
ステータ50は、ゴム等の弾性体、又は樹脂等を主成分とする材料によって形成された略円筒形の外観形状を有する部材である。ステータ50の内周面52は、n+1条(本実施形態ではn=1)で雌ネジ形状とされた部材である。また、ステータ50の貫通孔54は、ステータ50の長手方向のいずれの位置において断面視しても、その断面形状(開口形状)が略長円形となるように形成されている。また、ステータ50は、一軸偏心ねじポンプ20の吐出側及び吸込み側の双方の端部においてテーパー状とされている。
【0025】
ロータ60は、n条(本実施形態ではn=1)の雄ねじ形状とされた金属製の軸体である。ロータ60は、長手方向のいずれの位置で断面視しても、その断面形状が略真円形となるように形成されている。ロータ60は、上述したステータ50に形成された貫通孔54に挿通され、貫通孔54の内部において自由に偏心回転可能とされている。
【0026】
ロータ60をステータ50に対して挿通すると、ロータ60の外周壁62とステータ50の内周面52とが両者の接線で密接した状態になり、ステータ50の内周面52とロータ60の外周壁との間に流体搬送路56(キャビティ)が形成される。流体搬送路56は、ステータ50やロータ60の長手方向に向けて螺旋状に伸びている。
【0027】
流体搬送路56は、ロータ60をステータ50の貫通孔54内において回転させると、ステータ50内を回転しながらステータ50の長手方向に進む。そのため、ロータ60を回転させると、ステータ50の一端側から流体搬送路56内に流体を吸い込むと共に、この流体を流体搬送路56内に閉じこめた状態でステータ50の他端側に向けて移送し、ステータ50の他端側において吐出させることが可能である。本実施形態のポンプ機構30は、ロータ60を正方向に回転させることにより使用され、第二開口部44から吸い込んだ粘性液を圧送し、第一開口部42から吐出することが可能とされている。
【0028】
動力伝達機構70は、駆動機80から上述したロータ60に対して動力を伝達するためのものである。動力伝達機構70は、動力伝達部72と偏心回転部74とを有する。動力伝達部72は、ケーシング40の長手方向の一端側に設けられている。また、偏心回転部74は、動力伝達部72とステータ取付部48との間に形成された中間部46に設けられている。偏心回転部74は、動力伝達部72とロータ60とを動力伝達可能なように接続する部分である。偏心回転部74は、従来公知のカップリングロッドや、スクリューロッドなどによって構成された連結軸76を備えている。そのため、偏心回転部74は、駆動機80を作動させることにより発生した回転動力をロータ60に伝達させ、ロータ60を偏心回転させることが可能である。
【0029】
≪ステータ50の詳細について≫
続いて、ステータ50の詳細について説明する。ステータ50は、一軸偏心ねじポンプ20の作動に伴い他部材であるロータ60と接触しつつ摺動する回転容積型ポンプ用摺動部材である。上述した通り、ステータ50は、貫通孔54にロータ60を挿通することにより、流動物の流通経路として機能する流体搬送路56が形成される。そのため、ステータ50は、内周面52が流体搬送路56に露出するように配置されている。
【0030】
ステータ50は、樹脂若しくはゴムを主成分とする部材であるが、金属粉を含んでいる点において特徴を有する。金属粉の含有量については、金属探知機やX線異物検査機等の金属粉の検出に用いる検出装置の検出精度や、金属粉を配合することによる樹脂やゴムの物性低下を想定して調整することが好ましい。一般的に使用されている検出装置の検出精度、及び金属粉を配合することによる物性低下を想定すると、金属粉の配合料は重量比で10〜30%の範囲内であることが望ましい。
【0031】
ステータ50に配合する金属粉の大きさ(平均粒径)についても、いかなるものであっても良いが、金属探知機やX線異物検査機等の金属粉の検出に用いる検出装置の検出精度や、樹脂やゴムの物性低下に与える影響を考慮して調整することが好ましい。一般的に使用されている検出装置の検出精度、及び金属粉を配合することによる物性低下を想定すると、0.1μm〜300μmの範囲内であることが望ましく、0.1μm〜3μmの範囲内であることがより一層望ましい。
【0032】
ステータ50に含有させる金属粉としては、金属探知機やX線異物検査機等に代表される金属用の検出装置によって検出可能なものであれば良い。具体的には、金属粉としては、例えば鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、サマリウム(Sm)、ステンレス鋼(SUS)等の種々の金属粉を単一又は複合的に利用することができる。また、ステータ50に配合される金属粉については、一軸偏心ねじポンプ20の用途や非搬送物との関係を考慮して選定することが望ましい。具体的には、一軸偏心ねじポンプ20を食品の圧送(搬送)に用いる場合には、鉄(Fe)のように、仮に体内に取り込まれたとしても人体に悪影響を及ぼさないようなものとすることが望ましい。本実施形態では、摂取に伴う人体への影響が少ないと共に、酸化耐性が高く反応活性が低いとの観点から酸化鉄(Fe3O4)が金属粉として選定されている。
【0033】
≪検出装置100について≫
検出装置100は、金属粉の存在を検出可能な装置である。図1に示すように、検出装置100は、一軸偏心ねじポンプ20から吐出された流動物が搬送される搬送経路110の一部又は全部に配置されている。これにより、一軸偏心ねじポンプ20を想定外の使用状態で使用することによりステータ50の摩耗物や破片が発生し、流動物中に混入したとしても、この摩耗物有無を検出することができる。
【0034】
検出装置100には、金属検出機やX線異物検出機などを用いることができる。金属検出機を用いる場合には、同軸型、対向型、あるいは永久磁石型のいずれのものを用いても良い。金属検出機は、被検査品の含有水分や含有塩分が多いほど検出感度が低下する特性を有する。また、X線異物検出装置は、X線吸収量の差異に基づいて異物を検出するものであるため、X線吸収量が金属粉と近似するものについては検出感度が低下する可能性がある。検出装置100は、これらの特性や一軸偏心ねじポンプ20によって搬送(圧送)される流動物の特性、最低限検出したい摩耗物等の大きさ等を考慮しつつ、ステータ50に配合されている金属粉を精度良く検知可能ものを選択することが好ましい。
【0035】
≪制御装置120について≫
制御装置120は、上述した検出装置100による検出結果に基づき、一軸偏心ねじポンプ20から吐出された流動物にステータ50の摩耗物や破片が混入しているか否かの判定を行うための装置である。制御装置120は、検出装置100により金属粉の存在が検出されることを条件として流動物中に摩耗物等が混入しているとの判定を行う。
【0036】
回転容積型ポンプ運転状態検知システム10の動作について≫
続いて、回転容積型ポンプ運転状態検知システム10の動作について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。回転容積型ポンプ運転状態検知システム10においては、先ずステップ1において制御装置120により一軸偏心ねじポンプ20が作動しているか否かが確認される。一軸偏心ねじポンプ20が作動中である場合には、制御フローがステップ2に進み、検出装置100により、一軸偏心ねじポンプ20から吐出されて搬送経路110を通過している流動物を対象として金属粉の検知がなされる。
【0037】
その後、ステップ3においては、ステップ2における金属粉の検知結果に基づく摩耗判定が行われる。摩耗判定においては、種々の判定条件を設定することが可能であるが、本実施形態では、ステップ2における金属粉検知の結果、金属粉が検知されるか否かを判定条件としている。また、金属粉が検知された場合には、搬送経路110を通過している流動物の品質保持上問題が生じる程度にステータ50の摩耗が発生しているとして、異常有りとの判定がなされる。言い換えれば、ステップ2において金属粉が検知されていない場合には、ステータ50の摩耗を原因とする流動物の品質低下が想定されないため、異常有りとの判定がなされない。
【0038】
上述したステップ3の摩耗判定の結果、異常有りとの判定がなされた場合には、制御フローがステップ4からステップ5に進められ、一軸偏心ねじポンプ20の動作が停止される。これにより、一連の制御フローが完了する。一方、ステップ3で異常有りとの判定がなされなかった場合には、制御フローがステップ4からステップ1に戻され、引き続き図3に係る制御フローが継続される。
【0039】
上述した本実施形態のステータ50は、樹脂製若しくはゴム製のものであるが、重量比で10〜30%の金属粉を含んでいる。これにより、仮に一軸偏心ねじポンプ20が想定外の使用形態で使用される等してステータ50の摩耗物等が発生し、流体搬送路56中を流れる流動物中に混入してしまったとしても、検出装置100及び制御装置120により摩耗物等の混入を迅速かつ的確に検出し、判定することができる。
【0040】
上述したように、本実施形態のステータ50は、ステータ50における流動物の吐出側及び/又は吸込み側の端面がテーパ状とされている。そのため、吐出圧や吸込圧の影響によりステータ50の吐出側及び/又は吸込み側の端面において割れが生じることを防止でき、ステータ50の摩耗物等の異物の混入を最小限に抑制できる。
【0041】
上述したステータ50は、筒状の外観形状を有し、内部に雌ねじ状の貫通孔54を形成したものであるため、各部における樹脂若しくはゴムの肉厚が不均一であが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、ステータ50に代えて、例えば図4に示すステータ150のように各部における樹脂若しくはゴムの肉厚が均一のものであって、金属粉を含有したものであっても良い。このような構成とする場合、図4に示すように、ステータ150を金属や樹脂などによって作成された外筒152によって保持することにより、ステータ50と同様の使用方法で使用することができる。
【0042】
また、ステータ50は、部位によらず略全体に亘って金属粉を含有させたものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、ステータ50において摩耗物等が発生するのは、ロータ60と接触しつつ摺動する内周面52(摺動面)側の領域であると想定される。そのため、図5に示すステータ250のように、内周面252の近傍領域252a(図5において二点鎖線よりも貫通孔254側の領域)における金属粉の含有量が、他の領域(外周領域252b:図5において二点鎖線よりも径方向外側の領域)における含有量よりも高くなるように成形したものをステータ50に代えて使用しても良い。
【0043】
具体的には内周面252の近傍領域252aをなす層に金属粉を含有させ、これよりも径方向外側の領域外周領域252には金属粉を含有させない等して、近傍領域252aよりも金属粉の含有量を少なくしても良い。かかる構成とすることにより、ステータ250についても、上述したステータ50を採用した場合と同様にして異物検知を可能としつつ、外周領域252が破損しにくいものとすることが可能である。また、ステータ250のような構成とすることで、近傍領域252aと外周領域252bとを同一の材質で作成するだけでなく、近傍領域252aと外周領域252bとを異なる材質で作成することも可能となる。なお、図5に示す例においては、近傍領域252a及び外周領域252bをそれぞれ一層構造とした例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、近傍領域252a及び外周領域252bのいずれか一方又は双方を多層構造としても良い。
【0044】
上述した実施形態においては、検出装置100の一例として金属検出機やX線異物検出機等を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、搬送経路110を流れる流動物中における金属粉の存在を検出できるものであればいかなるものであっても良い。具体的には、搬送経路110にマグネットフィルターなどの磁力を使いて金属を含有するものを捕捉可能な捕捉手段を設け、この捕捉手段による捕捉状態に基づいて流動物中における金属粉の存在を検出可能なものを検出装置100として用いても良い。さらに詳細には、マグネットフィルター等の捕捉手段における表面磁束密度の変化を検知可能なものを検出装置100として設け、表面磁束密度の変化に基づいて磁界の乱れを検知し、異物を検知するようにしても良い。また、マグネットフィルター等の捕捉手段の近傍にCCDカメラ等のカメラを設置し、フィルター部分を撮影した画像を用いて摩耗粉の存否を判定するものを検出装置100として用いても良い。これらのようなものを検出装置100として用いた場合についても、金属検出機やX線異物検出機等を用いた場合と同様に、ステータ50の摩耗に伴う異物の存否を検知することが可能となる。
【0045】
本実施形態では、回転容積型ポンプ運転状態検知システム10を構成する回転容積型ポンプの一例として一軸偏心ねじポンプ20を例示し、回転容積型ポンプ用摺動部材の一例としてステータ50を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えばロータリーポンプ等の他の回転容積型ポンプにおいて、回転容積型ポンプ内における流動物の流通経路に露出するように配置され、この回転容積型ポンプの作動に伴い他部材と接触しつつ摺動する回転容積型ポンプ用摺動部材を上述したステータ50のように金属粉を含有したものとすることも可能である。
【実施例1】
【0046】
本実施例では、回転容積型ポンプ用摺動部材において金属粉を含有させることによる物性の変化を確認する試験を行った。本実施例では、金属粉を含有していない(含有量0%)ゴムを比較例のサンプルAとして準備すると共に、金属粉である酸化鉄(Fe3O4)のゴムへの含有量を30重量%、20重量%、及び10重量%と変化させたサンプルB〜Dを準備した。また、これらのサンプルA〜Dについて、引っ張り強度、伸び、及び引き裂き強度を調べた。その結果、下記表1及び図6に示すグラフのような結果が得られた。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び図6に示すように、金属粉(酸化鉄)の含有量を増加させると、伸びが増大する一方で、引っ張り強度及び引き裂き強度が低下する傾向が得られた。上記実施形態に係る一軸偏心ねじポンプ20のステータ50等の回転容積型ポンプ用摺動部材として用いることを想定すると、引っ張り強度は19[MPa]以上であることが好ましく、引き裂き強度は50[N/mm]以上であることが好ましい。かかる知見及び本実施例の実験データに基づき、引っ張り強度及び引き裂き強度の観点からすると、回転容積型ポンプ用摺動部材における金属粉の含有量は、10%以上30%以下であることが好ましいことが判明した。
【実施例2】
【0049】
以下、金属粉を含有させたゴム製の回転容積型ポンプ用摺動部材から発生した摩耗物を想定した試験片を準備し、この試験片を用いて行った検出試験結果について説明する。本実施例において用いられる試験片であるゴム片は、立方体状の形状であって、下記表2に示すように、3mm角、2mm角、及び1mm角の大きさのものとされている。また、各サイズの試験片には、金属粉として酸化鉄(Fe3O4)を含有させている。本実施例では、各サイズ毎に金属粉の含有量を30重量%、20重量%、及び10重量%と変化させた試験片を準備した。さらに比較例として、3mm角のゴム片であって、金属粉を含有していないものを準備した。
【0050】
また、本実施例では、検出装置100に相当するものとして、金属検出機(アンリツ産機株式会社製:型番KD8113AW)、及びX線異物検出機(アンリツ産機株式会社製:型番KD7405A)を準備した。
【0051】
本実施例では、試験片が混入されるワークとして、特に上述した金属検出機やX線異物検出機による検出精度が極めて低くなるであろうと想定される味噌及びマヨネーズを選定した。本実施例では、味噌及びマヨネーズをそれぞれ直径が35mmであって高さが45mmであるポリプロピレン(PP)製の容器に投入し、これに各試験片を混入させたものについて、金属検出機やX線異物検出機によって検査し、各試験片の存在を検出できるか否かを確認した。その結果、下記表2のような結果が得られた。
【0052】
【表2】
【0053】
上記表2に示すように、味噌をワークとした場合には、X線異物検出機ではいずれの試験片も検出できなかったものの、金属検出機ではいずれの試験片も検出することができた。すなわち、3mm角であって30%の酸化鉄を含有した試験片はもちろんのこと、最も小さく金属粉の含有量も少ない1mm角であって10%の酸化鉄を含有した試験片についても、金属検出機によって検出することができた。
【0054】
一方、マヨネーズをワークとした場合には、試験片における酸化鉄の含有量が10%〜30%のいずれの含有量であっても、試験片のサイズが2mm角以上であれば金属検出機によって検出することができた。また、X線異物検出機を用いた場合には、酸化鉄の含有量が20%以上であれば、試験片の大きさが1mm程度まで小さくても検出できることが判明した。
【0055】
上述した結果により、金属検出機やX線異物検出機による検出精度が極めて低くなるであろうと想定される味噌及びマヨネーズのようなワークにおいても、摩耗物を想定した試験片を検出できることが判明した。また、ワークの種類や、検出したい摩耗物の最小サイズ等を考慮し、検出装置100に相当するものとして金属検出機やX線異物検出機を選定することにより、検出精度の最適化が図り得る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、一軸偏心ねじポンプやロータリーポンプ等において回転容積型ポンプ内における流動物の流通経路に露出するように配置され、回転容積型ポンプの作動に伴い他部材と接触しつつ摺動する回転容積型ポンプ用摺動部材全般において利用可能である。また、本発明の回転容積型ポンプ運転状態検知システムは、例えば食品等のように回転容積型ポンプ用摺動部材の摩耗物の混入を嫌う場合に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 回転容積型ポンプ運転状態検知システム
20 一軸偏心ねじポンプ(回転容積型ポンプ)
50,150,250 ステータ(回転容積型ポンプ用摺動部材)
52,252 内周面
56 流体搬送路
60 ロータ
100 検出装置
110 搬送経路
120 判定装置
252a 近傍領域
252b 他の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6