特許第6352697号(P6352697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352697
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/122 20060101AFI20180625BHJP
   B60T 11/18 20060101ALI20180625BHJP
   B60T 11/224 20060101ALI20180625BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B60T13/122 D
   B60T11/18
   B60T11/224
   B60T8/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-132198(P2014-132198)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-10991(P2016-10991A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅邦
(72)【発明者】
【氏名】山本 英幾
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−208987(JP,A)
【文献】 特開2012−066692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60T 11/00 − 11/34
B60T 13/00 − 13/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材と、
(a)そのブレーキ操作部材に連携させられた入力ピストンと、(b)その入力ピストンと入力室を介して直列に配設された加圧ピストンと、(c)その加圧ピストンの前方に設けられた加圧室と、(d)前記加圧ピストンの後方に前記入力室から液密に遮断されて設けられた背面室とを備えたマスタシリンダと、
前記加圧室から供給された液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダと、
前記背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置と、
少なくとも、前記入力室を、前記入力ピストンの前進に伴う容積変化を許容する容積変化許容状態と前記容積変化を阻止する容積変化阻止状態とに切換え可能な切換弁を備え、その切換弁の制御により前記マスタシリンダの状態を切り換える状態切換装置と
含む液圧ブレーキシステムであって、
前記背面液圧供給装置が、
高圧源と、
(a)制御ピストンと、(b)その制御ピストンの後方に設けられた制御圧室と、(c)前記制御ピストンの前方に設けられ、前記背面室に接続されたサーボ室と、(d)前記制御ピストンの前進により、前記サーボ室をリザーバから遮断して前記高圧源に連通させる高圧供給機構とを備えたレギュレータと、
前記制御圧室と前記高圧源との間に設けられた増圧弁とを含み、
前記状態切換装置、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた後に、前記マスタシリンダを、(i)前記加圧ピストンが少なくとも前記入力ピストンの前進に伴って前進させられるマニュアル前進状態から、(ii)前記入力ピストンの前記加圧ピストンに対する相対的な前進が許容され、前記加圧ピストンが前記背面室の液圧である背面液圧により前進させられる背面液圧前進状態に切り換えるものであり、
当該液圧ブレーキシステムが、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた時点に前記増圧弁への供給電流の制御を開始する制御部を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記状態切換装置が、前記切換弁の制御により、前記背面室の液圧と前記加圧室の液圧との少なくとも一方が大気圧より高くなった後に、前記マスタシリンダを前記少なくともマニュアル前進状態から前記背面液圧前進状態に切り換える増圧後切換部を含む請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた時点から設定時間が経過した後に、前記切換弁を制御して、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態に切り換える遅延型切換部を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた時点に、前記切換弁への供給電流連続的、または、段階的制御を開始することにより、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態に漸変させる漸変部を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材に加えられる反力の増加勾配が設定値以上増加した場合に、前記切換弁への供給電流を前記反力に基づいて制御することにより、前記容積変化許容状態に漸変させる反力依拠制御部を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
当該液圧ブレーキシステムが、前記入力室に接続されたストロークシミュレータを含み、
前記切換弁が、前記入力室と前記ストロークシミュレータとの間に設けられ、閉状態と開状態とに切り換えられるものであり、
前記状態切換装置が、前記切換弁を前記閉状態と前記開状態との間で切り換える切換弁制御部を含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面室を備えたマスタシリンダと、その背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置とを備えた液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)ブレーキ操作部材と、(b)そのブレーキ操作部材に連携させられた入力ピストンと、その入力ピストンと入力室を介して直列に配設された加圧ピストンと、その加圧ピストンの前方に設けられた加圧室と、前記加圧ピストンの後方に前記入力室から液密に遮断されて設けられた背面室とを備えたマスタシリンダと、(c)前記加圧室から供給された液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダと、(d)前記背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置と、(e)少なくとも、前記入力室を、前記入力ピストンの前進に伴う容積変化を許容する容積変化許容状態と前記容積変化を阻止する容積変化阻止状態とに切換え可能な切換弁を備え、その切換弁の制御により、前記マスタシリンダの状態を切り換える状態切換装置とを含む液圧ブレーキシステムが記載されている。
この特許文献1に記載の液圧ブレーキシステムにおいて、常時、入力室は容積変化許容状態にある。マスタシリンダが、入力ピストンの加圧ピストンに対する相対的な前進を許容し、加圧ピストンが背面室の液圧である背面液圧、すなわち、背面液圧供給装置から供給された液圧により前進させられ、加圧室に背面液圧に応じた液圧が発生可能な背面液圧加圧状態にある。
それに対して、ブレーキ操作部材の操作力が設定値以上になると、切換弁の制御により、入力室が容積変化阻止状態に切り換えられる。加圧ピストンが入力室の液圧と背面液圧との両方によって前進させられ、それらに応じた液圧が加圧室に発生可能なマニュアル・背面液圧加圧状態に切り換えられる。ブレーキ操作部材の緊急操作が行われた場合にも入力室が容積変化阻止状態とされ、マスタシリンダがマニュアル・背面液圧加圧状態とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−66692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、マスタシリンダの背面室に背面液圧供給装置から液圧が供給されることにより加圧ピストンが前進させられる液圧ブレーキシステムにおいて、背面液圧供給装置からの液圧の供給遅れ、マスタシリンダにおける加圧ピストンのあそび等に起因して、ブレーキの効き遅れが生じる。それに対して、上述の液圧ブレーキシステムにおいては、背面液圧供給装置において、液圧が、大きな流量で、速やかに背面室に供給されるようにされ、それにより、ブレーキの効き遅れが抑制される。しかし、大きな流量で液圧が供給されるため、制動初期において大きな流動音が発生する。
以上の事情により、本発明の課題は、ブレーキの効き遅れを抑制しつつ、制動初期に生じる流動音の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた後に、マスタシリンダが、少なくともマニュアル前進状態から背面液圧前進状態に切り換えられる。
例えば、ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた場合に、入力室が容積変化阻止状態とされ、マスタシリンダがマニュアル前進状態とされ、その後、入力室が容積変化許容状態とされ、マスタシリンダが背面液圧前進状態とされるようにすることができる。
ブレーキ操作部材が操作状態に切り換えられた場合に、入力室が容積変化阻止状態にあるため、加圧ピストンは、ブレーキ操作部材の操作に伴って、すなわち、入力ピストンの前進に伴って、背面室に背面液圧供給装置から液圧が供給される前においても前進させられる。そのため、ブレーキの効き遅れを抑制することができる。
また、ブレーキの効き遅れが抑制されるため、背面液圧供給装置において、大きな流量で、速やかに液圧が背面室に供給されるようにする必要性が低くなる。そのため、背面液圧供給装置から背面室に供給され得る液圧の流量を小さくすることができる。さらに、背面液圧供給装置からマスタシリンダの背面室に液圧が供給される時点において、加圧ピストンは後退端位置より前方にあるが、この時点において、背面室の液圧が大気圧より高い場合には、背面液圧供給装置と背面室との液圧差が小さくなり、その分、背面室への液圧の供給流量が小さくなる。以上により、制動初期における流動音の発生を抑制することができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下、本願において特許請求が可能と認識されている発明、発明の特徴点等について説明する。(1)項が請求項1に対応し、(3)項が請求項2に対応し、(8)項〜(10)項が請求項3〜5に対応し、(6)項が請求項6に対応し、(5)項が請求項7に対応する。
【0007】
(1)ブレーキ操作部材と、
(a)そのブレーキ操作部材に連携させられた入力ピストンと、(b)その入力ピストンと入力室を介して直列に配設された加圧ピストンと、(c)その加圧ピストンの前方に設けられた加圧室と、(d)前記加圧ピストンの後方に前記入力室から液密に遮断されて設けられた背面室とを備えたマスタシリンダと、
前記加圧室から供給された液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダと、
前記背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置と、
少なくとも、前記入力室を、前記入力ピストンの前進に伴う容積変化を許容する容積変化許容状態と前記容積変化を阻止する容積変化阻止状態とに切換え可能な切換弁を備え、その切換弁の制御により前記マスタシリンダの状態を切り換える状態切換装置と
を含むとともに、前記状態切換装置を、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた後に、前記マスタシリンダを、(i)前記加圧ピストンが少なくとも前記入力ピストンの前進に伴って前進させられるマニュアル前進状態から、(ii)前記入力ピストンの前記加圧ピストンに対する相対的な前進が許容され、前記加圧ピストンが前記背面室の液圧である背面液圧により前進させられる背面液圧前進状態に切り換えるものとしたことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
「背面液圧前進状態」とは、加圧ピストンが背面液圧によって前進させられる状態をいう。入力室は容積変化許容状態にあり、入力ピストンは加圧ピストンに対して相対的に前進させられる。入力ピストンに加えられたブレーキ操作力は、例えば、マスタシリンダの構造上、加圧ピストンに作用しないようにすることができる。
「マニュアル前進状態」とは、加圧ピストンが入力室の液圧によって前進させられる状態をいい、入力室が容積変化阻止状態にあり、背面室に液圧が発生していない状態をいう。入力ピストンの前進は入力室を介して加圧ピストンに伝達されるのであり、入力ピストンの前進量と加圧ピストンの前進量との間には、入力室の容積が一定であることに基づいて決まる関係が成立する。
「少なくともマニュアル前進状態」とは、「マニュアル前進状態」と「入力室の液圧と背面液圧との両方によって前進させられる状態(以下、マニュアル・背面液圧前進状態)」とのいずれか一方の状態をいう。また、「少なくともマニュアル前進状態」において、入力室は、「容積変化許容状態でない状態」、すなわち、「容積変化阻止状態」と、「容積変化阻止状態と容積変化許容状態との中間の状態」とのいずれか一方の状態にある。入力室の容積変化許容状態にない状態において、背面室に液圧が供給されない場合は、マスタシリンダはマニュアル前進状態にあり、背面室に液圧が供給される場合には、マニュアル・背面液圧前進状態にある。
なお、「前進状態」とは、加圧ピストンが前進可能な状態であり、加圧室に液圧が発生しているとは限らない。
(2)当該液圧ブレーキシステムが、前記ブレーキ操作部材が非操作状態にあるか操作状態にあるかを検出するブレーキ操作状態検出装置を含み、
前記状態切換装置が、前記切換弁の制御により、前記ブレーキ操作状態検出装置によって前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられたと検出された時点から設定時間が経過した後に前記マスタシリンダを前記背面液圧前進状態に切り換える操作後切換部を含む(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
マスタシリンダは、マニュアル前進状態から背面液圧前進状態に、直ちに切り換えられるようにしても漸変させられるようにしてもよい。換言すれば、マスタシリンダは、ブレーキ操作部材が操作状態に切り換えられた時点から設定時間が経過した後に、背面液圧前進状態にされるのであり、設定時間が経過する以前においては少なくともマニュアル前進状態にある。また、設定時間は、例えば、ブレーキの効き遅れ等を良好に抑制し得る長さ、流動音を良好に抑制し得る長さ等に適宜設定することができる。
(3)前記状態切換装置が、前記切換弁の制御により、前記背面室の液圧と前記加圧室の液圧との少なくとも一方が大気圧より高くなった後に、前記マスタシリンダを前記少なくともマニュアル前進状態から前記背面液圧前進状態に切り換える増圧後切換部を含む(1)項または(2)項に記載の液圧ブレーキシステム。
背面室の液圧や加圧室の液圧を検出する必要は必ずしもなく、これらの液圧が大気圧より高くなったことがわかればよい。本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキの効き遅れを良好に抑制し、流動音を良好に抑制することができる。
(4)前記状態切換装置が、前記切換弁の制御により、前記背面液圧供給装置において液圧供給指令が出力された後に前記マスタシリンダを前記背面液圧前進状態に切り換える液圧供給指令出力後切換部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
(5)前記背面液圧供給装置が、
(i)高圧源と、(ii)(a)制御ピストンと、(b)その制御ピストンの後方に設けられた制御圧室と、(c)前記制御ピストンの前方に設けられたサーボ室と、(d)前記制御ピストンの前進により、前記サーボ室をリザーバから遮断して前記高圧源に連通させる高圧供給機構とを備えたレギュレータと、(iii)前記制御圧室と前記高圧源との間に設けられた増圧弁とを含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
背面液圧供給装置は、増圧弁の他に、制御圧室とリザーバとの間に設けられた減圧弁等を含むものとすることができる。例えば、液圧供給指令が出力されると増圧弁への供給電流の制御が開始されるようにすることができる。
(6)当該液圧ブレーキシステムが、前記入力室に接続されたストロークシミュレータを含み、
前記切換弁が、前記入力室と前記ストロークシミュレータとの間に設けられ、閉状態と開状態とに切り換えられるものであり、
前記状態切換装置が、前記切換弁を前記閉状態と前記開状態との間で切り換える切換弁制御部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
切換弁の閉状態において、入力室がストロークシミュレータ等から遮断され、容積変化阻止状態とされる。切換弁の開状態において、入力室がストロークシミュレータに連通させられ、容積変化許容状態とされる。
(7)前記切換弁が常閉弁であり、前記切換弁のソレノイドに電流が供給されない場合に、前記入力室が前記容積変化阻止状態とされる(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
非ブレーキ作用中に、切換弁に電流が供給されない場合には、ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた時点において、入力室は容積変化阻止状態にある。
【0008】
(8)前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた時点から設定時間が経過した後に、前記切換弁を制御して、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態に切り換える遅延型切換部を含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
(9)前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた場合に、前記切換弁への供給電流を連続的、または、段階的に制御することにより、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態に漸変させる漸変部を含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
容積変化阻止状態において、ブレーキ操作部材に作用する反力は入力室の液圧に応じた大きさとなり、容積変化許容状態においては、反力は例えばストロークシミュレータで決まる大きさとなる。そのため、入力室を容積変化阻止状態から容積変化許容状態へ直ちに切り換えると、ブレーキ操作部材のストロークと反力との関係が急激に変化し、操作フィーリングが悪くなる。それに対して、入力室が容積変化阻止状態から容積変化許容状態に漸変させられれば、ストロークと反力との関係の急激な変化を抑制し、良好な操作フィーリングを得ることができる。
(10)前記状態切換装置が、前記ブレーキ操作部材に加えられる反力の増加勾配が設定値以上増加した場合に、前記切換弁への供給電流を前記反力に基づいて制御することにより、前記容積変化許容状態に漸変させる反力依拠制御部を含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
入力室の容積変化阻止状態において、反力が急増した場合には、加圧室に液圧が発生したと考えられる。この場合に、入力室の作動液を例えばストロークシミュレータに流出させれば、反力の増加を抑制することができる。そして、その後、切換弁への供給電流を連続的、または、段階的に制御して、容積変化許容状態に徐々に近づければ、反力の急激な増加を抑制しつつ、良好な操作フィーリングを得ることができる。
(11)当該液圧ブレーキシステムが、前記ブレーキペダルに作用する反力を取得する反力取得装置を含み、前記反力依拠制御部が、前記反力取得装置によって取得された反力に基づいて前記切換弁への供給電流を制御するものである(10)項に記載の液圧ブレーキシステム。
反力取得装置は、反力自体を検出するものであっても、反力に関する値(反力を推定可能な値)を検出し、その検出値に基づいて反力を取得するものであってもよい。
【0009】
(12)ブレーキ操作部材と、
(a)そのブレーキ操作部材に連携させられた入力ピストンと、(b)その入力ピストンと入力室を介して直列に配設された加圧ピストンと、(c)その加圧ピストンの前方に設けられた加圧室と、(d)前記加圧ピストンの後方に前記入力室から液密に遮断されて設けられた背面室とを備えたマスタシリンダと、
前記加圧室から供給された液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダと、
前記背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置と、
少なくとも、前記入力室の前記入力ピストンの前進に対する容積変化を許容する容積変化許容状態と前記容積変化を阻止する容積変化阻止状態とに切換え可能な切換弁を備え、その切換弁の制御により、前記マスタシリンダの状態を切り換える状態切換装置と
を含むとともに、前記状態切換装置を、前記ブレーキ操作部材が非操作状態から操作状態に切り換えられた後に、前記マスタシリンダを、(i)前記加圧ピストンが、少なくとも前記入力ピストンに加えられたブレーキ操作力により前進させられ、前記加圧室にブレーキ操作力に応じた液圧以上の液圧が発生可能なマニュアル加圧状態から、(ii)前記入力ピストンの前記加圧ピストンに対する相対的な前進が許容され、前記加圧ピストンが前記背面室の液圧により前進させられ、前記加圧室に前記背面室の液圧に応じた液圧が発生可能な制御圧加圧状態に切り換えるものとしたことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項に記載の液圧ブレーキシステムは、(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(13)ブレーキ操作部材と、
(a)そのブレーキ操作部材に連携させられた入力ピストンと、(b)その入力ピストンと入力室を介して直列に配設された加圧ピストンと、(c)その加圧ピストンの前方に設けられた加圧室と、(d)前記加圧ピストンの後方に前記入力室から液密に遮断されて設けられた背面室とを備えたマスタシリンダと、
前記加圧室から供給された液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダと、
前記背面室に液圧を供給可能な背面液圧供給装置と、
少なくとも、前記入力室を、前記入力ピストンの前進に伴う容積変化を許容する容積変化許容状態と前記容積変化を阻止する容積変化阻止状態とに切換え可能な切換弁と、
その切換弁の制御により、前記背面液圧供給装置において前記背面室への液圧を供給する液圧供給指令が出力された後に、前記入力室を前記容積変化許容状態でない状態から前記容積変化許容状態に切り換える切換弁制御部と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
切換弁制御部は、(a)前記液圧供給指令の出力から第1設定時間が経過した後に、切換弁を制御して、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態に切り換える直切換部、(b)前記液圧供給指令の出力と同時に前記切換弁の制御を開始して、前記入力室を、前記容積変化阻止状態から容積変化許容状態へ漸変させ、前記液圧供給指令の出力から第2設定時間が経過した後に、前記容積変化許容状態に切り換える緩切換部、(c)前記液圧供給指令の出力後に、前記切換弁の制御により、前記容積変化阻止状態から前記容積変化許容状態へ切り換える中間的切換部のうちの1つ以上を含むものとすることができる。第1設定時間と第2設定時間との長短は問わない。
本項に記載の液圧ブレーキシステムは、(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1〜3に共通に係る液圧ブレーキシステムの回路図である。
図2】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUの周辺を示す図である。
図3】実施例1に係る液圧ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶された遅延型切換プログラムを表すフローチャートである。
図4】上記遅延型切換プログラムが実行された場合の加圧ピストンのストロークとマスタシリンダ液圧の変化等を示す図である。
図5】上記液圧ブレーキシステムにおけるブレーキスイッチがONになってから設定時間Tsが経過するまでの間の状態を示す回路図である。
図6】(a)実施例2に係る液圧ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶されたデューティ制御プログラムを表すフローチャートである。(b)上記デューティ制御プログラムの実行による連通制御弁等の作動状態を示す図である。
図7】(a)実施例3に係る液圧ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶された反力依拠制御プログラムを表すフローチャートである。(b)上記反力依拠制御プログラムの実行による連通制御弁等の作動状態を示す図である。
図8】実施例1〜3におけるブレーキペダル24の操作ストロークと反力との関係を比較して示す図である。
【発明の実施形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る液圧ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る液圧ブレーキシステムは、実施例1〜3で共通のものであり、以下、実施例1〜3に共通の液圧ブレーキシステムについて説明する。
【0012】
液圧ブレーキシステムは、(i)左右前輪2FL,2FRに設けられた液圧ブレーキ4FL,4FRのブレーキシリンダ6FL,6FRおよび左右後輪8RL,8RRに設けられた液圧ブレーキ10RL,10RRのブレーキシリンダ12RL,12RR、(ii)これらブレーキシリンダ6FL,6FR,12RL,12RRに液圧を供給可能な液圧発生装置14、(iii)これらブレーキシリンダ6FL,6FR,12RL,12RRと液圧発生装置14との間に設けられたスリップ制御装置16等を含む。液圧発生装置14、スリップ制御装置16等は、ブレーキECU20(図2参照)によって制御される。以下、本明細書において、液圧ブレーキ等につき、車輪位置を区別する必要がない場合、総称する場合等には、車輪位置を表すFL,FR,RL,RRを省略する場合がある。
【0013】
[液圧発生装置]
液圧発生装置14は、(i)ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24、(ii)マスタシリンダ26、(iii)マスタシリンダ26の背面室に液圧を制御する背面液圧制御装置28等を含む。背面液圧制御装置28は、背面室に制御された液圧を供給するため、背面液圧供給装置の一例である。
{マスタシリンダ}
マスタシリンダ26は、(a)ハウジング30、(b)ハウジング30に形成されたシリンダボアに、互いに直列に、液密かつ摺動可能に嵌合された加圧ピストン32,34および入力ピストン36等を含む。
加圧ピストン32,34の前方が、それぞれ、加圧室40,42とされる。加圧室40には液通路44を介して左右前輪2のブレーキシリンダ6が接続され、加圧室42には液通路46を介して左右後輪8のブレーキシリンダ12が接続される。ブレーキシリンダ6,12に液圧が供給されることにより、液圧ブレーキ4,10が作動させられ、車輪2,8の回転が抑制される。また、加圧ピストン32,34にはリターンスプリング48,49により後退方向に弾性力が加えられるが、後退端位置にある場合において、加圧室40,42は、それぞれ、ポート50,51を介してリザーバ52に連通させられる。
【0014】
加圧ピストン34は、(a)前部に設けられた第1ピストン部としての前ピストン部56と、(b)中間部に設けられ、半径方向に突出した第2ピストン部としての中間ピストン部58と、(c)後部に設けられ、中間ピストン部58より小径の後小径部60とを含む。前ピストン部56と中間ピストン部58とは、ハウジング30にそれぞれ液密かつ摺動可能に嵌合され、前ピストン部56の前方が前述の加圧室42とされ、中間ピストン部58の前方が環状の反力室62とされる。また、ハウジング30に設けられた円環状の内周側突部64には、中間ピストン部58の後方の後小径部60が液密かつ摺動可能に嵌合される。その結果、中間ピストン部58の後方に背面室66が形成される。
加圧ピストン34の後方に入力ピストン36が位置し、後小径部60と入力ピストン36との間が入力室としての離間室70とされる。入力ピストン36の後部には、ブレーキペダル24がオペレイティングロッド72等を介して連携させられる。離間室70は入力ピストン36の後退端位置において、リザーバ52に連通させられる。
【0015】
反力室62と離間室70とは連結通路80によって接続され、連結通路80に常閉の切換弁としての連通制御弁(SGH)82が設けられる。連結通路80の連通制御弁82より反力室側の部分は、リザーバ通路84によってリザーバ52に接続されるとともに、シミュレータ通路88によってストロークシミュレータ90に接続される。リザーバ通路84には常開のリザーバ遮断弁(SSA)86が設けられる。また、連結通路80のリザーバ通路84、シミュレータ通路88が接続された部分より反力室側の部分に反力センサ92が設けられる。
【0016】
{背面液圧制御装置}
背面室66には背面液圧制御装置28が接続される。
背面液圧制御装置28は、(a)高圧源100,(b)レギュレータ102,(c)リニア弁装置104等を含む。
高圧源100は、ポンプ105およびポンプモータ106を備えたポンプ装置と、ポンプ装置から吐出された作動液を加圧した状態で蓄えるアキュムレータ108とを含む。アキュムレータ108に蓄えられた作動液の液圧であるアキュムレータ圧は、アキュムレータ圧センサ109よって検出されるが、アキュムレータ圧が予め定められた設定範囲内に保たれるように、ポンプモータ106が制御される。
レギュレータ102において、ハウジング110には、段付き形状を成したシリンダボアが形成され、大径部にパイロットピストン112、制御ピストン114が液密かつ摺動可能に嵌合され、小径部に高圧源100に接続された高圧室116が形成される。パイロットピストン112の後方がパイロット圧室120とされる。制御ピストン114の後方が制御圧室122とされ、前方がサーボ室124とされる。
【0017】
サーボ室124と高圧室116との間には、常閉の高圧供給弁126が設けられる。
制御ピストン114は、常にリザーバ52に連通させられた嵌合穴140と、その嵌合穴140に嵌合された弁部材144とを含む。弁部材144は、嵌合穴140(リザーバ52)に連通させられた軸方向通路146を備え、リザーバ52とサーボ室124とを遮断する状態と連通させる状態とに切り換えるものである。制御ピストン114(弁部材144を含む)にはスプリングにより後退方向の弾性力が加えられ、後退端位置において、サーボ室124とリザーバ52とを連通させる。
パイロット圧室120はパイロット通路152を介して液通路46に接続される。パイロットピストン112には、マスタシリンダ26の加圧室42の液圧が作用する。
サーボ室124にはサーボ通路154を介してマスタシリンダ26の背面室66が接続される。サーボ室124と背面室66とは直接接続されるため、サーボ室124の液圧と背面室66の液圧とは原則として同じ高さになる。なお、サーボ通路154には液圧センサ156が設けられ、サーボ室124の液圧が検出される。
【0018】
リニア弁装置104は、制御圧室122と高圧源100との間に設けられた増圧弁としての常閉の増圧リニア弁(SLA)160と制御圧室122とリザーバ52との間に設けられた減圧弁としての常開の減圧リニア弁(SLR)162とを含む。増圧リニア弁160、減圧リニア弁162のソレノイドへの供給電流は、サーボ室124の実際の液圧(背面室66の液圧と同じ)がブレーキペダル24の操作ストローク、操作力等の操作状態に基づいて決まる目標液圧に近づくように制御される。また、増圧リニア弁160への供給電流が大きくされれば、開度が大きくされ、高圧源100から制御圧室122に大きな流量で作動液が供給される。また、制御圧室122の液圧を速やかに高くすることができる。
【0019】
[スリップ制御装置]
スリップ制御装置16は複数の電磁開閉弁等を含む。複数の電磁開閉弁が個別に開閉させられ、ブレーキシリンダ6,12の液圧が個別に制御される。
【0020】
[ブレーキECU]
ブレーキECU20には、図2に示すように、上述の反力センサ92,アキュムレータ圧センサ109,液圧センサ156,ブレーキペダル24のストロークを検出するストロークセンサ200、ブレーキペダル24が踏み込まれた状態にあるか否かを検出するブレーキ操作状態検出装置としてのブレーキスイッチ202等が接続されるとともに、連通制御弁82、リザーバ遮断弁84、増圧リニア弁160、減圧リニア弁162等の電磁弁のコイル、ポンプモータ106等が接続される。
ブレーキECU20は、実行部210、記憶部212、入出力部214等を含むコンピュータを主体とするものであり、記憶部212には、種々のプログラム、テーブル等が記憶される。
【0021】
[従来の液圧ブレーキシステムにおける作動]
液圧ブレーキ4,10を作動させる要求がない場合は、背面液圧制御装置28において、増圧リニア弁160が閉状態、減圧リニア弁162が開状態にある。制御圧室122はリザーバ52に連通させられ、制御ピストン114は後退端位置にある。サーボ室124はリザーバ52に連通させられ、背面室66に液圧が供給されることはない。マスタシリンダ26において、加圧ピストン34は後退端位置にあり、加圧室40,42に液圧が発生させられることはない。ブレーキシリンダ6,12に液圧が供給されず、液圧ブレーキ4,10は非作用状態にある。連通制御弁82、リザーバ遮断弁86のソレノイドには、常時、電流が供給され、連通制御弁82は開状態、リザーバ遮断弁86は閉状態に保たれる。離間室70は容積変化許容状態にある。
【0022】
ブレーキペダル24が踏み込まれ、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられると、増圧リニア弁160を開状態、減圧リニア弁162を閉状態として、供給電流を制御する制御指令が出力される。増圧リニア弁160への供給電流は、実際のサーボ室124の液圧がブレーキペダル24の操作状態に基づいて決まる目標液圧に近づくように制御される。背面液圧制御装置28において、高圧源100から制御圧室122に液圧が供給され、制御ピストン114が前進させられる。サーボ室124がリザーバ52から遮断され、高圧室116に連通させられ、液圧が背面室66に供給される。
マスタシリンダ26において、図4の一点鎖線Sが示すように、レギュレータ102から供給された背面室66の液圧により加圧ピストン34,32が前進させられる。加圧ピストン34,32のストロークが設定ストロークSmに達すると、リザーバポート51,50が閉じられ、破線Pmが示すように、加圧室40,42に液圧が発生させられる。加圧室40,42の液圧はブレーキシリンダ6,12に供給されて、液圧ブレーキ4,10が作用状態とされる。ブレーキシリンダ6,12の液圧は、増圧リニア弁160、減圧リニア弁162の制御により制御される。
また、離間室70の容積変化許容状態において、離間室70と反力室62とが連通させられるが、加圧ピストン34において、後小径部60の離間室70に対向する受圧面の面積と中間ピストン部58の反力室62に対向する受圧面の面積とがほぼ同じである。そのため、理論的に、離間室70の液圧に応じた前進方向の力が加圧ピストン34に作用せず、加圧ピストン34は背面室66の液圧のみにより前進させられる。
なお、図8の一点鎖線が示すように、入力ピストン36はブレーキペダル24の操作に伴って前進させられる。離間室70とストロークシミュレータ90との間の作動液の授受により、ブレーキペダル24にはストロークシミュレータ90の特性で決まる反力が付与される。
【0023】
しかし、図4に示すように、ブレーキスイッチ202がOFFからONになり、背面液圧制御装置28において、増圧リニア弁160への供給電流の制御が開始された時点から、制御ピストン114が前進させられ、高圧供給弁126が開状態に切り換えられて、背面室66に液圧が供給されるまでに時間Trを要する。一方、マスタシリンダ26において、この時間Trの間、加圧ピストン34,32は後退端位置にある。そして、背面室66に液圧が供給されると、加圧ピストン34,32が前進させられ、そのストロークが設定ストロークSmに達した後に、加圧室40,42に液圧が発生させられる。加圧ピストン34,32をストロークSm前進させるには背面室66に設定量以上の液圧を供給する必要があり、時間Taを要する。以上のように、ブレーキスイッチ202がONに切り換えられてから加圧室40,42に液圧が発生させられるまでには時間Tを要し、ブレーキの効き遅れが生じる。
【0024】
そこで、従来の液圧ブレーキシステムにおいては、増圧リニア弁160への供給電流が大きくされ(目標液圧で決まる電流より大きな電流が供給される)、ブレーキの効き遅れが抑制される。増圧リニア弁160の開度が大きくされ、制御圧室122に高圧源100から大きな流量で液圧が供給される。制御ピストン114が速やかに前進させられ、速やかに、サーボ室124を高圧室116に連通させることができる。また、制御圧室122への供給流量が大きく、液圧が高くされるため、高圧供給弁126の開度を大きくすることが可能となり、大きな流量で液圧を背面室66に供給することができる。一方、マスタシリンダ26において、背面室66への液圧の供給開始時に、加圧ピストン34は後退端位置にあり、背面室66は大気圧にある。そのため、マスタシリンダ26の背面室66とサーボ室124との間の液圧差が大きく、大きな流量で背面室66に液圧が供給され得る。このように、高圧源100から制御圧室122へ、サーボ室124から背面室66へ、大きな流量で作動液が供給されるため、良好にブレーキの効き遅れを抑制することができる。しかし、大きな流動音が生じ、エアレーションやキャビテーションが生じるという別の問題が生じるのである。
【0025】
そこで、以下に示す実施例1〜3の各々の液圧ブレーキシステムにおいては、連通制御弁82の制御により流動音の発生が抑制される。なお、実施例1〜3の各々の液圧ブレーキシステムにおいて、液圧ブレーキ4,10を作動させる要求がない間、連通制御弁82、リザーバ遮断弁86の各々のソレノイドに電流は供給されず、図1の図示する原位置にあり、離間室70は容積変化阻止状態にある。
【実施例1】
【0026】
実施例1に係る液圧ブレーキシステムにおいて、図4に示すように、連通制御弁82を開状態へ切り換える切換指令が、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられた時点から設定時間Ts経過後に出力される。
連通制御弁82は、図3のフローチャートで表される遅延型切換プログラムの実行により制御される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキスイッチ202の状態等に基づいてブレーキペダル24が踏み込まれたか否かが判定される。ブレーキスイッチ202がOFFである場合には、S2において、OFFからONに切り換わったか否かが判定される。OFFのままである場合には、判定がNOとなる。S1,2が繰り返し実行され、ブレーキペダル24が踏み込まれてブレーキスイッチ202がONに切り換わった場合には、S2の判定がYESとなり、S3において、タイマがスタートさせられる。また、S4において、シミュレータ遮断弁86を閉状態に切り換える切換指令、増圧リニア弁160、減圧リニア弁162への供給電流を制御する制御指令が出力される。減圧リニア弁162が閉状態とされ、増圧リニア弁160には、目標液圧に基づいて決まる電流が供給される。
次に、ブレーキスイッチ202はONであるため、S1の判定がYESとなり、S5において、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられてから、換言すれば、シミュレータ遮断弁86への切換指令、増圧リニア弁160、減圧リニア弁162への制御指令が出力されてから設定時間Tsが経過したか否かが判定される。設定時間Tsが経過する前においては、S1,5が繰り返し実行され、設定時間Tsが経過すると、S6において、連通制御弁82のソレノイドに電流が供給され、開状態に切り換えられる。
【0027】
上述のように、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられてから設定時間Tsが経過するまでの間、図5に示すように、離間室70は容積変化阻止状態にある。加圧ピストン34,32は、図4の二点鎖線S*が示すように、入力ピストン36の前進に伴って前進させられる。背面室66が、レギュレータ102を介してリザーバ52に連通させられた状態にあるため、それにより、加圧ピストン34,32の前進が許容される。そして、加圧ピストン34,32がストロークSm前進させられ、リザーバポート50,51が閉じられると、実線Pm*が示すように加圧室40,41に液圧が発生させられる。なお、離間室70が容積変化阻止状態にあり、加圧ピストン34に、離間室70の液圧と背面室66の液圧との両方が加えられる場合には、加圧室40,41の液圧は大きな勾配で増加させられる。
【0028】
このように、本実施例に係る液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられてから時間T*が経過した後に加圧室40,42に液圧が発生させられるのであり、ブレーキの効き遅れを小さくすることができる。その結果、背面液圧制御装置28において制御ピストン114を速やかに前進させて、サーボ室124から背面室66へ大きな流量で液圧を供給する必要性が低くなり、増圧リニア弁160への供給電流を小さくすることができる。その結果、高圧源100から制御圧室122へ供給される液圧の流量も、サーボ室124から背面室66に供給される液圧の流量も小さくすることができ、流動音を抑制することができる。
また、加圧ピストン34、32は、二点鎖線S*が示すように、レギュレータ102から背面室66に液圧が供給される前においても前進させられる。そして、サーボ室124がリザーバ52から遮断された時点において、加圧室40,42には液圧が発生させられ、背面室66の液圧は、加圧室40,42の液圧に応じた高さとなる。その結果、液圧の供給開始時の差圧が、背面室66が大気圧にある場合より小さくなり、液圧の背面室66への供給に起因する流動音を抑制することができる。
以上のように、本実施例の液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキの効き遅れを抑制しつつ、制動初期における流動音の発生を良好に抑制することができる。また、レギュレータ102から背面室66への液圧の供給開始時における差圧が小さくなることによって大きな流動音の発生が抑制されるため、背面液圧制御装置28において増圧リニア弁160への供給電流を小さくする必要は必ずしもない。増圧リニア弁160への供給電流が大きくされた場合には、より一層、ブレーキの効き遅れを抑制することができる。
【0029】
なお、連通制御弁82の閉状態においてブレーキペダル24には離間室70の液圧に応じた反力が加えられ、連通制御弁82の開状態においてストロークシミュレータ90の特性で決まる反力が加えられる。そのため、本実施例においては、図8の二点鎖線が示すようにブレーキペダル24の操作ストロークと反力との関係が、連通制御弁82を閉状態から開状態に切り換えることにより変化する。
【0030】
以上のように、本実施例においては、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられてから設定時間Tsが経過する以前において、離間室70は容積変化阻止状態にあり、マスタシリンダ26は少なくともマニュアル前進状態にある。そして、設定時間Tsが経過した場合に、連通制御弁82が閉状態から開状態に切り換えられることにより、離間室70が容積変化許容状態とされ、マスタシリンダ26が背面液圧前進状態に切り換えられる。
また、本実施例においては、連通制御弁82、ブレーキECU20の図3のフローチャートで表される遅延型切換プログラムを記憶する部分、実行する部分等により遅延型切換部、増圧後切換部、状態切換装置が構成され、ブレーキECU20の図3のフローチャートで表される遅延型切換プログラムのS6を記憶する部分、実行する部分等により切換弁制御部が構成される。
さらに、レギュレータ102において、制御ピストン114の軸方向通路146の開口部、高圧供給弁126等により高圧供給機構が構成される。
【0031】
なお、設定時間(遅れ時間)Tsの長さは問わない。例えば、設定時間Tsを短くして、加圧室40,42に液圧が発生させられる前に経過する時間とすることができる。その場合であっても、容積変化許容状態に切り換えられる前に加圧ピストン34,32は後退端位置より前進した位置にあるため、加圧室40,42に液圧が発生させられる前に背面室66に供給される作動液の液量を少なくすることができ、それによっても、流動音を抑制することができる。
また、ブレーキペダル24の非操作状態において連通制御弁82が開状態に保持されるようにすることもできる。その場合には、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられた場合に、連通制御弁82が閉状態に切り換えられ、設定時間Tsが経過した後に、再び開状態に切り換えられるようにすることもできる。
さらに、S3,4の順番は問わない。増圧リニア弁160等に制御指令等が出力された時点から設定時間Tsの計測が開始されるようにすることもできる。
【実施例2】
【0032】
実施例2においては、図6(b)に示すように、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられた場合に連通制御弁82のソレノイドへの供給電流、すなわち、デューティ比が漸増させられる。連通制御弁82が閉状態から開状態に徐々に変化させられる。離間室70は、容積変化許容状態と容積変化阻止状態との中間の状態にあり、選択的にストロークシミュレータ90に連通させられる。
連通制御弁82は、図6(a)のフローチャートで表されるデューティ制御プログラムの実行により制御される。
ブレーキスイッチ202がOFFの間、S11,12が繰り返し実行されるが、ブレーキスイッチ202がONになると、S13において、増圧リニア弁160等への制御指令が出力され、S14において、連通制御弁82に対してデューティ制御が開始される。
その後、S15において、デューティ比が100%、すなわち、開状態に切り換えられたか否かが判定される。デューティ比が100%に達する前には、S16において、デューティ比が、予め定められた設定値ずつ増加させられる。デューティ比が100%に達する前には、S11,15,16が繰り返し実行され、100%に達すると、S15の判定がYESとなり、その後、開状態に保たれる。
本実施例においても、実施例1における場合と同様に、ブレーキの効き遅れを小さくし得、制動初期における流動音の発生を抑制することができる。
【0033】
本実施例においては、図6(b)に示すように、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられた時点から設定時間Tssが経過した場合に、連通制御弁82が開状態(デューティ比が100%)とされるように、デューティ比が増加させられる。また、ブレーキペダル24の踏み込みに伴って加圧ピストン34,32が前進させられるが、連通制御弁82への供給電流が漸増させられるため、図8の破線が示すように、連通制御弁82への供給電流がOFFからONに直ちに切り換えられる場合と比較して、ブレーキペダル24の操作ストロークの増加に伴う反力の変化を抑制することができ、良好な操作フィーリングを得ることができる。なお、図8においては、比較を容易にするため、同じストロークにおいて、連通制御弁82が開状態に切り換えられる場合の反力の変化の状態を記載したが、実際には、同じストロークにおいて切り換えられるとは限らない。
本実施例においては、連通制御弁82、ブレーキECU20のデューティ制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により漸変部、増圧後切換部、状態切換装置が構成される。また、ブレーキECU20のデューティ制御プログラムのS14,16を記憶する部分、実行する部分等により切換弁制御部が構成される。
さらに、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられてから設定時間Tssが経過する前において、離間室70は容積変化阻止状態、または、容積変化阻止状態と容積変化許容状態との中間の状態にあり、マスタシリンダ26は少なくともマニュアル前進状態にあり、設定時間Tssが経過した後に、離間室70は容積変化許容状態とされ、マスタシリンダ26は背面液圧前進状態とされる。
なお、S13の実行後、設定時間が経過した後に、S14が実行されるようにすることができる。すなわち、ブレーキスイッチがOFFからONに切り換えられて、増圧リニア弁160等に制御指令が出力され、設定時間が経過した後に、連通制御弁82へのデューティ制御が開始されるようにすることができる。
【実施例3】
【0034】
実施例3においては、図7(b)に示すように、リザーバポート50,52が閉じられ、加圧室40,42の液圧が急増させられた場合に、連通制御弁82に予め定められた設定電流が供給され、反力の増加が抑制される。連通制御弁82への供給電流は、それ以降、漸増させられ、開状態に切り換えられる。
加圧室40,42の液圧が急激に高くなると、それに応じて離間室70の液圧も高くなり、ブレーキペダル24に加えられる反力も急激に大きくなる。それに対して、加圧室40,42の液圧が急激に高くなった場合に、連通制御弁82に予め定められた設定電流が供給されることにより、離間室70の液圧がストロークシミュレータ90に供給されるようにすれば、反力の増加を抑制することができる。設定電流は、リザーバポート50,52が閉じられた場合に増加すると推定される反力を良好に抑制し得る大きさに予め設定しておくことができる。
また、本実施例において、加圧室40,42の液圧、離間室70の液圧を検出するセンサが設けられていないため、反力センサ92が用いられる。反力室62が離間室70から遮断され、離間室70がストロークシミュレータ90から遮断され、反力室62がストロークシミュレータ90に連通させられている状態において、反力室62の液圧の大きさは離間室70の液圧とは同じであるとは限らないが、加圧室40,42の液圧が増加すれば、反力室62の液圧も増加するため、加圧室40,42の液圧が急激に増加して、反力が急激に増加したことは、反力センサ92の検出値に基づいて取得することができる。
【0035】
連通制御弁82は図7(a)のフローチャートで表される反力依拠制御プログラムの実行により制御される。
ブレーキスイッチ202がOFFの間、S21,22が繰り返し実行されるが、ブレーキスイッチ202がONになると、S23において、増圧リニア弁160等への制御指令が出力され、S24において、連通制御弁82に対してデューティ制御中であるか否かが判定される。最初にS24が実行される場合には、判定はNOであるため、S25において、反力センサ92の検出値の増加勾配が設定値以上増加したか否か、例えば、反力センサ92の検出値の増加量ΔPrの差dΔPr{今回の増加量ΔPr(n)(今回の検出値から前回の検出値を引いた値)から前回の増加量ΔPr(n-1)を引いた値}が設定値ΔPth以上であるか否かが判定される。判定がNOである場合には、S21,24,25が繰り返し実行される。そのうちに、加圧ピストン34,32の前進により、リザーバポート50,51が閉じられ、加圧室40,42に液圧が発生させられることにより、反力室62の液圧が急激に高くなると、判定がYESとなり、S26において、連通制御弁62に、予め定められた設定電流{デューティ比(Dutyr)に対応する}が供給される。S27において、デューティ比が100%に達したか否かが判定され、100%に達する前には、S28において、デューティ比が予め定められた設定値ずつ漸増させられる。100%に達する前に、S21,24,27,28が繰り返し実行され、そのうちに、100%に達すると、S27の判定がYESとなり、開状態とされる。
本実施例においても、実施例1における場合と同様に、加圧ピストン34,32を早期に前進させることができ、ブレーキの効き遅れを小さくし得、制動初期における流動音の発生を抑制することができる。
【0036】
また、ブレーキペダル24の踏み込みに伴って加圧ピストン34,32が前進させられるが、反力が増加した後に、連通制御弁82への供給電流が設定値まで増加させられた後に漸増させられるため、図8の実線が示すように、ストロークと反力との関係の変化を良好に抑制することができ、操作フィーリングの低下を抑制することができる。
本実施例においては、ブレーキスイッチ202がOFFからONに切り換えられた時点から設定時間Tstが経過した場合に離間室70が容積変化許容状態とされ、マスタシリンダ26が背面液圧前進状態とされ、設定時間Tstが経過する前において、離間室70は容積変化阻止状態、または、容積変化阻止状態と容積変化許容状態との中間の状態にあり、マスタシリンダ26は少なくともマニュアル前進状態にある。また、連通制御弁82、ブレーキECU20の反力依拠制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により反力依拠切換部、増加後切換部、状態切換装置が構成され、ブレーキECU20の図7(a)のフローチャートで表される反力依拠制御プログラムのS26〜28を記憶する部分、実行する部分等により切換弁制御部が構成される。
【0037】
なお、S26において連通制御弁82に供給される電流は、その時点における、反力センサ92の検出値の増加量等に基づいて決めることもできる。
その他、本発明が適用される液圧ブレーキシステムの構造は限定されない等、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
20:ブレーキECU 26:マスタシリンダ 28:背面液圧制御装置 32,34:加圧ピストン 36:入力ピストン 66:背面室 82:連通制御弁 90:ストロークシミュレータ 92:反力センサ 102:レギュレータ 114:制御ピストン 122:制御圧室 124:サーボ室 160:増圧リニア弁 162:減圧リニア弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8