特許第6352747号(P6352747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352747ナノダイヤモンドの製造方法、及びナノダイヤモンドの精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352747
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンドの製造方法、及びナノダイヤモンドの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20180625BHJP
【FI】
   C01B32/28
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-191977(P2014-191977)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-60681(P2016-60681A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】和田 健司
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0028675(US,A1)
【文献】 特開2001−329252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを得るA工程と、
前記A工程の後、得られた粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み雰囲気における全気体の体積に対する酸素の割合が0.01v/v%以下であり、且つ水素の割合が40v/v%以下である気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理するB工程と、
前記B工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化するC工程とを含むナノダイヤモンドの製造方法。
ナノダイヤモンド炭素比率(%)=[粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)/(粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)+粗ナノダイヤモンド中の非ダイヤモンド炭素由来の炭素の物質量(モル))]×100
【請求項2】
前記粗ナノダイヤモンドのナノダイヤモンド炭素比率が80%未満である請求項1に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
前記B工程の不活性ガスが窒素である請求項1又は2に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
前記B工程が、得られた粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、雰囲気における全気体の体積に対する酸素の割合が0.01v/v%以下であり、且つ水素の割合が0.01〜40v/v%であるか又は水素を含まない気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理する工程である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項5】
前記C工程が、300〜800℃の条件下で加熱酸化する工程である請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記C工程における加熱酸化を遷移金属触媒の存在下で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを、
不活性ガスを含み、雰囲気における全気体の体積に対する酸素の割合が0.01v/v%以下であり、且つ水素の割合が40v/v%以下である気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理する工程と、
前記工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化する工程とを含むナノダイヤモンドの精製方法。
ナノダイヤモンド炭素比率(%)=[粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)/(粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)+粗ナノダイヤモンド中の非ダイヤモンド炭素由来の炭素の物質量(モル))]×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノダイヤモンドの製造方法、及び爆ごう法で得られた粗ナノダイヤモンドの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは硬度・摩擦係数(トライボロジー)・熱伝導性・絶縁性で特に優れた特性を持った物質である。人工ダイヤモンドの中には4nm程度の結晶子径を有するナノダイヤモンドがあり、この様なナノダイヤモンドは、研磨・ホーニング・平坦化、電気めっき・無電解めっき、オイルや潤滑油への添加剤、素材強化用途としての添加剤(プラスチック・ポリマー・エラストマーなど)、放熱性の向上(サーマルマネージメント)、コーティング・塗料、CVD Seeding、さらには医療材料等として多様な用途が提案されている。
【0003】
人工ダイヤモンドの合成方法としては、高温高圧法や化学気相蒸着法等が知られており、特に前記の4nm程度の結晶子径を有するナノダイヤモンド粒子の製造法としては、炭素原子を含む爆薬を爆発させ、それに伴う衝撃によりナノサイズのダイヤモンドを含む煤を合成する方法(爆ごう法)が知られている(非特許文献1)。
【0004】
上記の爆ごう法において合成されたナノダイヤモンド含有煤は、水冷爆ごう法を採用した場合で通常は50重量%弱、空冷爆ごう法の場合には20〜40重量%のナノダイヤモンドを含有しており、さらに非ダイヤモンド炭素、並びに爆薬や製造装置に由来する窒素、硫黄、及び様々な金属種を不純物として含有している。従来、この様なナノダイヤモンド含有煤を精製する方法としては、非ダイヤモンド炭素を酸化処理によって選択的に除去する湿式法が採用されているが、当該精製方法はクロム酸や濃硫酸、濃硝酸、濃塩酸等を高温・高圧下で取り扱う必要があり特殊な容器が必要であることから、取り扱いが難しく、環境負荷が大きいといった問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nanodiamonds: Applications in Biology and Nanoscale Medicine, Edited by Ho, 書籍、第4章(Shenderova et al.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノダイヤモンド含有煤を空気酸化することを特徴とする乾式法によって、非ダイヤモンド炭素等の不純物を選択的に除去できれば、非ダイヤモンド炭素の除去を目的とする湿式法プロセスの大部分を代替できる点で極めて好ましいが、ナノダイヤモンドと非ダイヤモンド炭素との空気酸化に対する反応性にはほとんど差異が無いため、通常はナノダイヤモンドの歩留まりの大幅な低下を伴う。そのため、乾式法による精製は非ダイヤモンド炭素等の不純物の多いナノダイヤモンド含有煤に対しては適用できず、非ダイヤモンド炭素の除去を目的とする湿式法で精製したナノダイヤモンドをさらに淡色化するために用いられるに過ぎないのが現状であり、ナノダイヤモンドの歩留まりの低下を抑制しつつ、非ダイヤモンド炭素等を選択的に除去することが可能なナノダイヤモンドの精製方法の開発が求められている。この様な精製方法を利用することで、歩留まりの高いナノダイヤモンドの製造方法の開発が実現すると考えられる。
【0007】
従って、本発明の目的は、低いコスト、高い効率で高純度のナノダイヤモンドを製造することができるナノダイヤモンドの製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、爆ごう法により得られた粗ナノダイヤモンドの歩留まりの低下を抑制しつつ、非ダイヤモンド炭素等の不純物を選択的に除去するナノダイヤモンドの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の方法により粗ナノダイヤモンドを生成させる工程と、特定の手段により精製する工程とを含む方法により、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明では、ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを得るA工程と、前記A工程の後、得られた粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して0.01v/v%(体積パーセント)以下含む気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理するB工程と、前記B工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化するC工程とを含むナノダイヤモンドの製造方法を提供する。なお、ナノダイヤモンド炭素比率は下記計算式によって得られる。
ナノダイヤモンド炭素比率(%)=[粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)/(粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)+粗ナノダイヤモンド中の非ダイヤモンド炭素由来の炭素の物質量(モル))]×100
【0010】
また、前記のナノダイヤモンドの製造方法では、粗ナノダイヤモンドのナノダイヤモンド炭素比率が80%未満であることが好ましい。
【0011】
また、前記のナノダイヤモンドの製造方法では、B工程における不活性ガスが窒素であることが好ましい。
【0012】
また、前記のナノダイヤモンドの製造方法では、B工程における雰囲気が、さらに水素を含むことが好ましい。
【0013】
また、前記のナノダイヤモンドの製造方法では、C工程が、300〜800℃の条件下で加熱酸化する工程であることが好ましい。
【0014】
また、前記のナノダイヤモンドの製造方法では、C工程における加熱酸化を遷移金属触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明では、ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して0.01v/v%以下含む気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理する工程と、前記工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化する工程とを含むナノダイヤモンドの精製方法についても提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法によると、効率的に、高収率、かつ高純度でナノダイヤモンドを得ることができる。また、本発明のナノダイヤモンドの精製方法によると、爆ごう法によって得られる粗ナノダイヤモンド中の不純物が選択的に除去され、ナノダイヤモンドの歩留まりの低下を抑制しつつ、効率的に、高収率、かつ高純度でナノダイヤモンドを得ることができる。このため、精製プロセスの建設コストやランニングコスト、環境負荷等を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ND Blackについて空気雰囲気下で加熱酸化を行った際のTGの結果についての図である。縦軸は重量減少率(%)、横軸は時間(min)である。
図2】ND Blackを空気雰囲気下で加熱酸化した際のIRスペクトルである。縦軸は吸収スペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)である。
図3】ND Black及びND Grayについて、空気雰囲気下で加熱酸化を行った際の昇温過程におけるTG及びDTAについての図である。(a)及び(b)はTGに関する図であり、縦軸は重量減少率(%)、横軸は温度(℃)である。なお、(b)は(a)の拡大図である。また、(c)及び(d)はDTAに関する図であり、縦軸は標準試料(α−アルミナ)との温度差(熱電対起電力)(μA)、横軸は温度(℃)である。なお、(d)は(c)の拡大図である。
図4】ND Grayを、室温、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃において空気雰囲気下で加熱酸化した際のIRスペクトルである。縦軸は吸収スペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)である。
図5】ND Grayを、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃において空気雰囲気下で加熱酸化した際のIRスペクトルである。なお、縦軸は吸収スペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)である。
図6】ND Blackに空気雰囲気下で加熱酸化を行った際の昇温過程におけるTG及びDTAの結果についての図、及び、ND Blackに水素共存下で加熱処理を施した後に空気雰囲気下で加熱酸化を行った際の昇温過程におけるTG及びDTAの結果についての図である。(a)及び(b)はTGに関する図であり、縦軸は重量減少率(%)、横軸は温度(℃)である。なお、(b)は(a)の拡大図である。また、(c)及び(d)はDTAに関する図であり、縦軸はDTAにおける標準試料(α−アルミナ)との温度差(熱電対起電力)(μA)、横軸は温度(℃)である。なお、(d)は(c)の拡大図である。
図7】ND Blackに加熱処理及び加熱酸化を行った際のIRスペクトルである。縦軸は吸収スペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法は、ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを得るA工程と、前記A工程の後、得られた粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して、0.01v/v%以下含む気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理するB工程と、前記B工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化するC工程とを必須の工程として含むことを特徴とする。なお、前記B工程を「加熱処理(工程)」と称することがある。さらに、前記C工程を「加熱酸化(工程)」と称することがある。
【0019】
[A工程]
本発明のナノダイヤモンドの製造方法におけるA工程は、特定のナノダイヤモンド炭素比率を有する、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを得る工程である。
【0020】
A工程では、爆ごう法によって得られたナノダイヤモンドを含む煤から、非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去を行う工程を含んでいても良い。なお、「非ダイヤモンド炭素以外の不純物」とは、下記の(粗ナノダイヤモンド)の項で説明する非ダイヤモンド炭素以外の不純物と同一である。つまり、爆薬や製造装置に由来する酸素、窒素、硫黄、塩素、及び金属種(アルミニウム、鉄、カルシウム、珪素、マグネシウム、亜鉛、銅等)等を指す。
【0021】
前記の非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去方法としては、爆ごう法によって得られたナノダイヤモンドを含む煤を、例えば水(超純水)、塩酸、希硫酸等を用いて洗浄する方法が挙げられる。ただし、前記の非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去方法には、酸化による非ダイヤモンド炭素の除去を目的とした方法(例えば、過マンガン酸、クロム酸、濃硝酸等を用いた酸化反応による非ダイヤモンド炭素の除去方法)は含まれない。
【0022】
なお、前記の酸化による非ダイヤモンド炭素の除去を目的とした工程は、A工程には含まれない。
【0023】
爆ごう法とは、炭素原子を含む爆薬を爆発させ、それに伴う衝撃によってナノダイヤモンドを含む煤を生成させる方法である。爆ごう法の種類としては、水及び/又は氷の存在下で爆薬を爆発させて行う水冷爆ごう法、水及び/又は氷を使用しないで空冷する空冷爆ごう法等が挙げられる。
【0024】
水冷爆ごう法としては、例えば、氷でできた容器中に充填した爆薬[例えば、TNT(トリニトロトルエン)/HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)=50/50]を、耐圧容器のほぼ中央部に配置し、前記耐圧容器の壁面に水を流しながら爆裂させる方法を挙げることができる。この方法において、反応生成物としての未精製のナノダイヤモンドは容器中の水中から回収する。
【0025】
爆薬としては公知の有機系爆薬を用いることができる。有機系爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、シクロトリメチレントリニトラミン(RDX)、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)、ベンゾトリフルオキサン(BTF)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して使用する。
【0026】
前記爆ごう法は、Science, Vol. 133, No.3467(1961), pp1821-1822、特開平1−234311号、特開平2−141414号、Bull. Soc. Chem. Fr. Vol. 134(1997), pp. 875-890、Diamond and Related materials Vol. 9(2000), pp861-865、Chemical Physics Letters, 222(1994), pp. 343-346、Carbon, Vol. 33, No. 12(1995), pp. 1663-1671、Physics of the Solid State, Vol. 42, No. 8 (2000), pp. 1575-1578、K. Xu. Z. Jin, F. Wei and T. Jiang, Energetic Materials, 1, 19(1993)、特開昭63−303806号、特開昭56−26711号、英国特許第1154633号、特開平3−271109号、特表平6−505694号(WO93/13016号)、炭素, 第22巻, No. 2, 189〜191頁(1984)、Van Thiei. M. & Rec., F. H., J. Appl. Phys. 62, pp. 1761〜1767 (1987)、特表平7−505831号(WO94/18123号)、米国特許第5861349号、特開2006−239511号及び特開2003−146637号等に記載の方法を用いることができる。
【0027】
(粗ナノダイヤモンド)
本発明のA工程で得られる粗ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満であることが好ましい。また、粗ナノダイヤモンドにおけるナノダイヤモンドの含有量は、粗ナノダイヤモンドの全量に対して80重量%以下であることが好ましい。粗ナノダイヤモンドは、不純物として、非ダイヤモンド炭素(例えばグラファイトなど)、爆薬や製造装置に由来する酸素、窒素、硫黄、塩素、及び金属種(アルミニウム、鉄、カルシウム、珪素、マグネシウム、亜鉛、銅等)等を含んでいてもよい。
【0028】
なお、A工程が非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去を行う工程を含まない場合、前記の粗ナノダイヤモンドは、爆ごう法によって得られたナノダイヤモンドを含む煤そのものを指す。また、A工程が非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去を行う工程を含む場合、前記の粗ナノダイヤモンドは、爆ごう法によって得られたナノダイヤモンドを含む煤から、非ダイヤモンド炭素以外の不純物の除去処理を行ったものを指す。
【0029】
粗ナノダイヤモンドのナノダイヤモンド炭素比率は特に限定されないが、90%未満(例えば、0%を超え90%未満)が好ましく、より好ましくは80%未満(例えば、1%以上、80%未満)、さらに好ましくは70%未満(例えば、10%以上、70%未満)である。また、水冷爆ごう法によって生成する粗ナノダイヤモンドの場合、そのナノダイヤモンド炭素比率は特に限定されないが、90%未満(例えば、0%を超え90%未満)が好ましく、より好ましくは80%未満(例えば、1%以上、80%未満)、さらに好ましくは70%未満(例えば、10%以上、70%未満)である。また、空冷爆ごう法によって生成する粗ナノダイヤモンドの場合、そのナノダイヤモンド炭素比率は特に限定されないが、90%未満(例えば、0%を超え90%未満)が好ましく、より好ましくは80%未満(例えば、1%以上、80%未満)、さらに好ましくは60%未満(例えば、5%以上、60%未満)である。なお、粗ナノダイヤモンドにおけるナノダイヤモンド炭素比率は下記の計算式により導き出される。
ナノダイヤモンド炭素比率(%)=[粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)/(粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンド由来の炭素の物質量(モル)+粗ナノダイヤモンド中の非ダイヤモンド炭素由来の炭素の物質量(モル))]×100
【0030】
なお、前記のナノダイヤモンド炭素比率は、例えば粉末X線回折法により決定することができる。粉末X線回折法を用いたナノダイヤモンド炭素比率の決定方法としては、Cu、Kα線を線源とするX線回析スペクトル(XD)におけるブラッグ(Bragg)角(2θ±2°)を測定し、ナノダイヤモンドに由来する43.9°、73.5°、95°のピークの総積分値(「積分値1」と称する)と、非ダイヤモンド炭素に由来する26.5°のピークの積分値(「積分値2」と称する)とを用いて決定することができる。つまり、下記式により導くことができる。
ナノダイヤモンド炭素比率(%)=[「積分値1」/(「積分値1」+「積分値2」)]×100
【0031】
粗ナノダイヤモンドにおける、ナノダイヤモンドの含有量は、粗ナノダイヤモンドの全量に対して90重量%以下(0重量%を超え90重量%以下)であればよく、より好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜75重量%である。また、水冷爆ごう法によって生成する粗ナノダイヤモンドの場合、そのナノダイヤモンドの含有量は特に限定されないが、90重量%以下(0重量%を超え90重量%以下)が好ましく、より好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜75重量%である。また、空冷爆ごう法によって生成する粗ナノダイヤモンドの場合、そのナノダイヤモンドの含有量ナノダイヤモンドの含有量は特に限定されないが、90重量%以下(0重量%を超え90重量%以下)が好ましく、より好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。なお、粗ナノダイヤモンドにおけるナノダイヤモンドの含有量は下記の計算式により導き出される。
ナノダイヤモンドの含有量(重量%)=[粗ナノダイヤモンド中のナノダイヤモンドの総重量(g)/粗ナノダイヤモンドの総重量(g)]×100
【0032】
[B工程]
本発明のナノダイヤモンドの製造方法におけるB工程は、A工程の後に、得られた粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して0.01v/v%以下含む気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理する工程(加熱処理工程)である。
【0033】
前記の加熱処理工程は、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して0.01v/v%以下含む気体の雰囲気下で加熱処理を行うことを特徴とするが、前記の酸素は、雰囲気における全気体の体積に対して、例えば0.001v/v%以下、好ましくは0.0001v/v%以下であってもよく、実質的に酸素を含まなくてもよい。
【0034】
酸素を含まないとは、雰囲気中のガス成分として酸素を積極的には含有させないことを意味し、不活性ガスを含む特定のガスを反応系内に充填する過程で微量の酸素ガスが混入する場合や、不活性ガス中に不純物として酸素ガスが混入する場合を完全に排除できない場合があるため、そのような理由で酸素ガスが含まれる場合も実質的に酸素を含まないとする。
【0035】
前記の不活性ガスとしては、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、及びアルゴン等が好ましく、コスト等の点から、特に窒素を好適に用いることができる。不活性ガスは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記の加熱処理工程における雰囲気には、不活性ガス、及び酸素以外の気体を含んでいても良い。不活性ガス、及び酸素以外の気体としては、例えば水素が挙げられる。加熱処理工程における雰囲気がさらに水素を含むことで、より効率的に淡色化した精製ナノダイヤモンドが得られる傾向がある。これは、選択的に粗ナノダイヤモンド中の不純物が反応・分解され、当該粗ナノダイヤモンド中より除かれるため、あるいは500℃で分解される非ダイヤモンド炭素の一部がより酸化分解が容易な状態に化学変化するためと推察される。
【0037】
前記の加熱処理工程における雰囲気には、水素を含むガスや水素を発生するガスを含んでいても良い。前記の水素を含むガスとしては、水性ガスや合成ガスが挙げられる。また、前記の水素を発生するガスとしては、水蒸気、一酸化炭素、メタン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、メタノール、エタノール等の高温の系中で水素を発生するガスが挙げられる。前記気体は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。水素を含むガス及び水素を発生するガスとして、特に、水性ガス、合成ガス、水蒸気、一酸化炭素、又はメタンを用いることが好ましい。
【0038】
加熱処理工程における雰囲気の不活性ガスの割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体の体積に対して、60v/v%以上(例えば、60v/v%以上、100v/v%未満)であることが好ましく、より好ましくは80v/v%以上(例えば、80〜99.99v/v%)、さらに好ましくは90v/v%以上(例えば、90〜99.99v/v%)、最も好ましくは99v/v%以上(例えば、99〜99.99v/v%)である。
【0039】
前記の雰囲気が水素を含まない場合、不活性ガスの割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体に対して、80v/v%以上(例えば、80v/v%以上、100v/v%未満)であることが好ましく、より好ましくは90v/v%以上(例えば、90〜99.99v/v%)、さらに好ましくは99v/v%以上(例えば、99〜99.99v/v%)、最も好ましくは99.9v/v%以上(例えば、99.9〜99.99v/v%)である。前記の雰囲気が水素を含む場合、不活性ガスの割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体に対して、60v/v%〜99.99v/v%であることが好ましく、より好ましくは70v/v%〜99.9v/v%、さらに好ましくは80v/v%〜99.5v/v%、最も好ましくは90v/v%〜99v/v%である。
【0040】
加熱処理工程における雰囲気が水素を含む場合、水素の割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体の体積に対して、0.01〜40v/v%が好ましく、より好ましくは0.1〜30v/v%、さらに好ましくは0.5〜20v/v%、もっとも好ましくは1〜10v/v%である。また、不活性ガスと水素との体積の和は、雰囲気における全気体の体積に対して、特に限定されないが、60v/v%以上(例えば、60v/v%以上、100v/v%未満)であることが好ましく、より好ましくは80v/v%以上(例えば、80〜99.99v/v%)、さらに好ましくは90v/v%以上(例えば、90〜99.99v/v%)、最も好ましくは99v/v%以上(例えば、99〜99.99v/v%)である。加熱処理工程における雰囲気において、不活性ガスと水素の範囲を上記の様に調整することにより、より効率的に淡色化した精製ナノダイヤモンドが得られる傾向がある。これは、選択的に粗ナノダイヤモンド中の不純物が反応・分解され、該粗ナノダイヤモンド中より除かれるためと推測される。
【0041】
前記の加熱処理工程においては、昇温することで加熱を行っても良いし、一定の温度条件下で加熱しても良い。また、特定の温度となるまで昇温した後、一定の温度条件下で加熱しても良い。なお、前記の昇温する工程は、連続的に昇温させても良いし、段階的に昇温させても良い。
【0042】
加熱処理工程における加熱温度は、350〜1500℃であればよく、特に限定されないが、好ましくは380〜1300℃、より好ましくは400〜1200℃である。加熱温度を上記範囲内とすることにより、より効率的に淡色化したナノダイヤモンドが得られる傾向がある。これは、選択的に粗ナノダイヤモンド中の不純物が反応・分解されることや、ナノダイヤモンドに損傷が起こりにくいためであると推測される。
【0043】
加熱処理工程の加熱時間は、特に限定されないが、0.01〜15時間が好ましく、より好ましくは0.1〜12時間、さらに好ましくは0.5〜10時間である。加熱時間を上記範囲内とすることにより、ナノダイヤモンドに損傷が起こり難く、高い収率で高純度のナノダイヤモンドを得ることができる傾向がある。
【0044】
なお、加熱処理工程は、常圧で行ってもよいし、減圧又は加圧下で行ってもよい。加熱処理工程における圧力は、特に限定されないが、0.01〜5.0atmが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5atm、さらに好ましくは0.2〜1.2atmである。
【0045】
[C工程]
本発明のナノダイヤモンドの製造方法におけるC工程(加熱酸化工程)は、B工程を経て得られた加熱処理後の試料(粗ナノダイヤモンドを加熱処理したもの)を、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱して酸化(加熱酸化)する工程である。
【0046】
前記の加熱酸化工程においては、特定の温度条件下となるまで昇温することで加熱しても良いし、一定の温度条件下で加熱しても良い。また、特定の温度となるまで昇温した後、一定の温度条件下で試料を加熱しても良い。なお、前記の昇温する工程は、連続的に昇温させても良いし、段階的に昇温させても良い。
【0047】
加熱酸化工程における雰囲気は、酸素を含む気体であれば特に限定されないが、例えば、空気であることが好ましい。加熱酸化工程における雰囲気は、雰囲気における全気体の体積に対して、酸素を0.01〜30v/v%含む気体であることが好ましく、0.1〜25v/v%を含む気体であることがより好ましい。また、工業化における安全性の確保を考慮すると、本願の効果が失われない程度であれば、酸素濃度は低いことが望ましい。この場合、例えば、雰囲気における全気体の体積に対して、酸素を0.5〜10v/v%を含む気体であることが好ましく、1〜4v/v%含む気体であることが特に好ましい。
【0048】
加熱酸化工程における雰囲気は、酸素以外の気体を含んでいてもよい。酸素以外の気体としては、窒素、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素、及びアルゴン等の不活性ガスや、水素、オゾン、水蒸気、一酸化炭素、メタン、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。
【0049】
加熱酸化工程における雰囲気において、不活性ガスの割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体の体積に対して、例えば、70〜99.99v/v%であることが好ましく、より好ましくは75〜99.9v/v%、さらに好ましくは90〜99.5v/v%、特に好ましくは96〜99v/v%である。
【0050】
加熱酸化工程における雰囲気において、酸素以外は実質的に不活性ガスであることが好ましい。つまり、酸素及び不活性ガス以外の気体の割合は特に限定されないが、雰囲気における全気体の体積に対して、例えば1v/v%未満(例えば、0v/v%以上、1v/v%未満)であることが好ましく、より好ましくは0.1v/v%未満(例えば、0v/v%以上、0.1v/v%未満)、さらに好ましくは0.01v/v%未満(例えば、0v/v%以上、0.01v/v%未満)である。
【0051】
なお、空気とは、一般的に大気中に存在し、地上付近に存在する酸素を含む混合気体を指す。例えば、気体の全量に対し、酸素を18〜23v/v%、窒素を75〜81v/v%含み、酸素及び窒素以外の気体を0.1〜5v/v%含むものが挙げられる。前記酸素及び窒素以外の気体としては、例えばアルゴン、二酸化炭素、ネオン、ヘリウム等が挙げられる。
【0052】
加熱酸化工程における加熱温度は、ナノダイヤモンドの耐熱性を考慮して必要に応じ設定されるが、300〜800℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは350〜700℃、さらに好ましくは400〜600℃である。設定温度が上記範囲内である場合、ナノダイヤモンドの酸化が抑制されるとともに、非ダイヤモンド炭素が選択的に酸化されるため、粗ナノダイヤモンドの淡色化が進行しやすく、高い収率で高純度のナノダイヤモンドを得ることができる傾向がある。
【0053】
加熱酸化工程における加熱時間は、特に限定されないが、0.1〜15時間程度が好ましく、より好ましくは0.5〜12時間程度、さらに好ましくは1〜10時間程度である。加熱時間が上記範囲内である場合、ナノダイヤモンドの損傷が起こり難く、ナノダイヤモンドの淡色化が進行しやすいため、高い収率で高純度のナノダイヤモンドを得ることができる傾向がある。
【0054】
なお、前記加熱酸化工程は、常圧で行ってもよいし、減圧又は加圧下で行ってもよい。加熱酸化工程における圧力は、特に限定されないが、0.01〜5.0atmが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5atm、さらに好ましくは0.2〜1.2atmである。
【0055】
加熱処理工程と加熱酸化工程は連続的に行うことが好ましく、加熱処理工程と加熱酸化工程の後、後述の「その他の精製工程」を行っても良い。また、「その他の精製工程」を挟み、連続した加熱処理工程及び加熱酸化工程を繰り返しても良い。つまり、例えば、爆ごう法により粗ナノダイヤモンドを生成させる工程の後、加熱処理工程、加熱酸化工程、その他の精製工程、加熱処理工程、加熱酸化工程、その他の精製工程、の様に工程を繰り返しても良い。その場合、繰り返す回数としては2〜10が好ましく、より好ましくは2〜5回である。
【0056】
(遷移金属触媒)
本発明のナノダイヤモンドの製造方法におけるB工程(加熱処理工程)、及び、C工程(加熱酸化工程)では、遷移金属触媒の存在下、又は非存在下で行うことができるが、粗ナノダイヤモンドをより効率的に淡色化できる点で、遷移金属触媒の存在下で行うことが好ましい。特に、遷移金属触媒の存在下で加熱酸化を行うことが好ましい。
【0057】
前記遷移金属触媒としては、例えば、遷移金属単体、遷移金属を含む化合物(遷移金属化合物)などが挙げられる。前記遷移金属触媒における遷移金属化合物としては、例えば、周期表4族元素(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなど)、周期表5族元素(例えば、バナジウム、ニオブ、タンタルなど)、周期表6族元素(例えば、クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表7族元素(例えば、マンガンなど)、周期表8族元素(例えば、鉄、ルテニウムなど)、周期表9族元素(例えば、コバルト、ロジウム、イリジウムなど)、周期表10族元素(例えば、ニッケル、パラジウム、白金など)、周期表11族元素(例えば、銅、銀、金など)などの元素を有する遷移金属化合物が挙げられる。該遷移金属化合物が有する元素としては、周期表8〜10族の元素が好ましく、より好ましくは鉄や白金が挙げられる。また、前記遷移金属触媒における遷移金属の価数は、特に限定されないが、0〜6価が好ましく、より好ましくは1〜6価、さらに好ましくは1〜4価、特に好ましくは2〜4価である。
【0058】
前記遷移金属化合物としては、遷移金属の無機塩[例えば、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、過塩素酸塩などの過ハロゲン酸塩、クロム酸塩などの無機酸塩;塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物;酸化物;硫化物;窒化物;水酸化物など]、遷移金属の有機酸塩[例えば、C1-12アルカン酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩など)、ハロC1-4アルカン酸塩(例えば、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリブロモ酢酸塩など)などのカルボン酸塩;オキシカルボン酸塩;チオシアン酸塩;スルホン酸塩など]、錯体(又は錯塩)などが挙げられる。中でも、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩化物、及び酢酸塩が好ましい。
【0059】
特に、前記遷移金属触媒としては、酸化鉄(例えばFe23)、酸化白金(例えばPtO2)、白金黒(Pt)等が好ましい。また、前記遷移金属触媒は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0060】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法の加熱処理工程及び加熱酸化工程において用いられる遷移金属触媒の量は、加熱処理前の粗ナノダイヤモンドと遷移金属触媒の全量(粗ナノダイヤモンド+遷移金属触媒)に対し、例えば0.001〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜15重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。遷移金属触媒の量を上記範囲にすることで、粗ナノダイヤモンドの不純物が効率的に分解されるため、粗ナノダイヤモンドの淡色化が進行しやすく、高い収率で高純度のナノダイヤモンドを得ることができる傾向がある。
【0061】
[その他の精製工程]
本発明のナノダイヤモンドの製造方法は、さらに加熱処理工程及び加熱酸化工程以外の精製工程(「その他の精製工程」と称する)を含んでもよい。その他の精製工程において実施される精製処理は特に限定されないが、例えば、強酸(例えば過マンガン酸、クロム酸、硝酸等)を用いた酸化、水、塩酸、硫酸等による洗浄、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、遠心沈降、集じん、静電分離、及び磁気分離等が挙げられる。
【0062】
[その他の工程]
本発明のナノダイヤモンドの製造方法は、精製工程以外の工程(「その他の工程」と称する)を含んでもよい。前記製造方法としては、例えば、得られたナノダイヤモンドを成型する工程等が挙げられる。
【0063】
<粗ナノダイヤモンドの精製方法>
本発明の粗ナノダイヤモンドの精製方法は、ナノダイヤモンド炭素比率が90%未満である、爆ごう法由来の粗ナノダイヤモンドを、不活性ガスを含み、且つ酸素を雰囲気における全気体の体積に対して0.01v/v%以下含む気体の雰囲気下、350〜1500℃で加熱処理する工程(加熱処理工程)と、前記工程の後、酸素を含有する気体の雰囲気下で加熱酸化する工程(加熱酸化工程)とを必須の工程として含むことを特徴とする。
【0064】
爆ごう法で得られる粗ナノダイヤモンドは、炭素原子を含む爆薬を爆発させ、それに伴う衝撃によって生成したものであればよく、特に爆ごう法における反応条件に制限はない。なお、爆ごう法、及び粗ナノダイヤモンドについては上述した通りである。
【0065】
本発明の粗ナノダイヤモンドの精製方法における加熱処理工程と、前記のナノダイヤモンドの製造方法の加熱処理工程とは同様の工程である。また、本発明の粗ナノダイヤモンドの精製方法における加熱酸化工程と、前記のナノダイヤモンドの製造方法の加熱酸化工程とは同様の工程である。
【0066】
本発明の粗ナノダイヤモンドの精製方法は、前記のナノダイヤモンドの製造方法で説明したその他の精製工程、及びその他の工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、本実施例では、ナノダイヤモンド試料として市販のナノダイヤモンド・ブラック・パウダー(以下、ND Blackと称する)、及びナノダイヤモンド・グレイ・パウダー(以下、ND Grayと称する)を用いた。これらは共にHeyuan Zhonglian Nanotechnology Co., Ltd製の市販品であり、ND Blackは水冷爆ごう法ナノダイヤモンド含有煤(ナノダイヤモンド炭素比率:約50%、ナノダイヤモンド含有量:約45重量%)である黒色の粗ナノダイヤモンドであり、ND GrayはND Blackを湿式法で精製して得られたと推定される灰色のナノダイヤモンドである。なお、以下の記載では、加熱処理及び加熱酸化がされていないND Black試料を原料、前記原料を加熱処理したものを加熱処理後試料、前記原料又は前記加熱処理後試料を加熱酸化したものを精製ナノダイヤモンドと呼ぶことがある。
【0068】
合成例1(α−酸化鉄(α−Fe23−PC)の合成)
硝酸鉄九水和物(30mmol)の水溶液中(400ml)に28%アンモニア水(35ml)をゆっくりと滴下した後、2時間攪拌した。生じた沈澱をイオン交換水で洗浄し(約80ml×3回)、80℃で一終夜乾燥させた後、空気気流中10℃/minで400℃まで昇温し、30分間焼成してFe23を得た。
【0069】
比較例1
ND Blackを空気気流中で加熱して、加熱酸化を行った。具体的には、空気気流(50ml/min)中、約3mgのND Black試料を、415℃で25時間保持した際の熱重量分析(Thermo Gravimetry、以下、TGと称する)を行った。なお、計測には示差熱天秤TG−8120(リガク製)を用いた。TGの結果を図1の(a)に示す。なお、図1の縦軸は重量減少率(%)、横軸は時間(min)である。
【0070】
ND Blackの重量減少率に関わらず、一定の比率で重量が減少した。また、加熱酸化後のND Black試料は黒色であったことから、本条件における加熱酸化によっては、ND Blackの淡色化は効率的に進行しないことが明らかになった。
【0071】
比較例2
保持する温度を425℃、時間を8時間とすること以外は比較例1と同様にしてND Blackの加熱酸化を行った。TGの結果を図1の(b)に示す。
【0072】
ND Blackの重量減少率に関わらず、一定の比率で重量が減少した。また、加熱酸化後のND Black試料は黒色であったことから、本条件における加熱酸化によっては、ND Blackの淡色化は効率的に進行しないことが明らかになった。
【0073】
比較例3
保持する温度を450℃、時間を7時間とすること以外は比較例1と同様にしてND Blackの加熱酸化を行った。TGの結果を図1の(c)に示す。
【0074】
ND Blackの重量減少率に関わらず、一定の比率で重量が減少し、その重量の88.5重量%が失われ、11.5重量%が残留した。また、加熱酸化後のND Black試料はほぼ黒色の暗灰色であったことから、上記条件の加熱酸化によっては、ND Blackの淡色化は効率的に進行しないことが明らかになった。
【0075】
比較例4
ND Blackを空気気流中で加熱して、加熱酸化を行った。具体的には、空気気流(50ml/min)中、約20mgのND Blackを、450℃にて5時間保持した際のTGを行った。なお、計測にはTG−8120を用いた。加熱酸化により得られたND Blackは黒色であり、その重量の54重量%が失われ、46重量%が残留した。
【0076】
比較例1〜4より、加熱酸化のみによっては、ND Blackの淡色化は効率的に進行しないことが明らかになった。
【0077】
比較例5
ND Blackを空気気流中で加熱して、加熱酸化を行った。具体的には、空気気流(50ml/min)中、約3mgのND Blackを、550℃にて30分保持した後、150℃にて拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。なお、機器はJASCO FTIR−4200+DR600Bi(日本分光(株)製)を用いた。得られたIR(赤外分光)スペクトルを図2に示す。なお、図2において、縦軸は吸収スペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)である。
【0078】
得られたIRスペクトルにおいて、加熱酸化後のND Blackは、低波数側に特徴的なピークを示したが、表面水酸基やC−H結合に帰属される吸収は認められず、1700cm-1付近のピークも不明瞭であった。なお、加熱酸化していないND Blackについては反射が極めて弱く、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定は困難であった。純粋なナノダイヤモンドの表面が部分的に酸化される場合、表面水酸基やC−H結合に由来するピークや、1700cm-1付近にピークが現れるが、グラファイト炭素等でその表面が覆われる場合は前記ピークが不明瞭となる。したがって、本条件における加熱酸化によっては、ND Blackの淡色化は効率的に進行しないことが明らかになった。
【0079】
実施例1
ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行った。なお、ND Blackの前記加熱処理及び加熱酸化の際に、TG−8120を用いてTGを行った。具体的には、ND Blackを約3mg用意し、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、0℃〜1000℃の範囲で昇温(10℃/min)し、1000℃に達したところで加熱処理を終了した。その後、空気気流(50ml/min)中、450℃、5時間の条件で加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。表1に、各工程の加熱条件及び原料の減少量等を記載した。それぞれの項目について以下に説明する。なお、下記の項目の説明に関しては、表2〜5においても同様である。
【0080】
<加熱処理工程について>
ガス:反応系内に流入させた気体の組成を指す(H2(5%)/N2は、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガスを意味する)
温度:昇温終了時の温度
時間:昇温が終了した後、一定の温度で加熱を行った時間
重量減少量:原料の重量−加熱処理後試料の重量
重量減少割合:(前記の重量減少量/原料の重量)×100
【0081】
<加熱酸化工程について>
温度:加熱した温度
時間:加熱した時間
重量減少量:加熱処理後試料の重量−精製ナノダイヤモンドの重量
重量減少割合:(前記の重量減少量/原料の重量)×100
【0082】
<精製ナノダイヤモンドについて>
色調:目視における精製ナノダイヤモンドの色調
残存重量割合:(精製ナノダイヤモンドの重量/原料の重量)×100
【0083】
実施例2
ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行った。なお、ND Blackの前記加熱処理及び加熱酸化の際に、TG−8120を用いてTGを行った。具体的には、ND Blackを約3mg用意し、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、0〜500℃の範囲で昇温(10℃/min)し、500℃に達したところで昇温を止め、3時間の間、加熱を行った後、加熱処理を終了した。その後、空気気流(50ml/min)中、450℃、5時間の条件で加熱酸化を行うことで精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少分とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表1に示す。
【0084】
実施例3、4
加熱処理の際の温度を表1に示す条件に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少分とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1〜4の方法によると、ND Blackの淡色化が効率的に進行することが確認された。特に実施例1及び3においては淡色化の傾向が強く見られた。なお、精製ナノダイヤモンドの色調(色の濃さ)としては、濃い色調の順からDark gray、Blue gray、Light grayである。
【0087】
実施例5
加熱処理を窒素気流(95mL/min)中で行ったこと以外は実施例1と同様の条件でND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表2に示す。
【0088】
実施例6
加熱処理を窒素気流(95mL/min)中で行ったこと以外は実施例3と同様の条件でND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例5及び6の方法によると、ND Blackの淡色化が効率的に進行することが確認された。なお、実施例5で得られた精製ナノダイヤモンドは実施例1のものと比較してやや濃かった。なお、精製ナノダイヤモンドの色調(色の濃さ)としては、濃い色調の順からBlue gray、Grayである。
【0091】
実施例7
ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行った。なお、ND Blackの前記加熱処理工程及び加熱酸化工程の際に、TG−8110を用いてTGを行った。具体的には、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、750℃、3時間の条件で、約20mgのND Blackを加熱処理した。その後、空気気流(50ml/min)中、450℃、5時間の条件で加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表3に示す。
【0092】
実施例8及び9
加熱酸化の際の温度又は時間を表3に示す条件に変更したこと以外は実施例7と同様の条件でND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表3に示す。
【0093】
実施例10及び11
加熱処理を窒素気流(100ml/min)中にて行ったこと及びその温度を表3に示す条件に変更したこと以外は実施例7と同様の条件でND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た(実施例10)。また、加熱処理を窒素雰囲気下にて行ったこと以外は実施例7と同様にして、精製ナノダイヤモンドを得た(実施例11)。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例7〜11の方法によると、ND Blackの淡色化が効率的に進行することが確認された。精製ナノダイヤモンドの色調(色の濃さ)としては、濃い色調の順からVery Dark blue gray、Dark gray、Deep blue gray、Grayである。
【0096】
実施例12
ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行った。なお、ND Blackの前記加熱処理及び加熱酸化の際に、TG−8110を用いてTGを行った。具体的な方法を以下に示す。まず、約20mgのND Blackに、3.6重量%となるように酸化白金(PtO2、和光純薬工業(株)製)を加え、乳鉢で3分間程度軽く混合して混合物を得た。その後、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、750℃、3時間の条件下、前記混合物を加熱処理した。その後、空気気流(50ml/min)中、450℃、5時間の条件で加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表4に示す。
【0097】
実施例13〜19
遷移金属触媒の種類及び量、並びに加熱処理時のガスを表4に示す様に変更したこと以外は実施例12と同様にして、ND Blackの加熱処理及び加熱酸化を行い、精製ナノダイヤモンドを得た。なお、遷移金属触媒としては、市販のα−酸化鉄(α−Fe23、和光純薬工業(株)製)、酸化白金(PtO2、和光純薬工業(株)製)、白金黒(Pt、ナカライテスク(株)製)又は合成例1において作製したα−酸化鉄(α−Fe23−PC)を用いた。加熱処理後の原料の重量減少量とその割合、加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表4に示す。
【0098】
比較例6
加熱処理を行わないこと以外は実施例12と同様にして、ND Blackの加熱酸化のみを行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表4に示す。
【0099】
比較例7
加熱処理を行わないこと以外は実施例18と同様にして、ND Blackの加熱酸化のみを行い、精製ナノダイヤモンドを得た。加熱酸化後の原料の重量減少量とその割合、得られた精製ナノダイヤモンドの色調と残存重量割合を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
実施例12〜19の方法によると、ND Blackの淡色化が効率的に進行することが確認された。一方、比較例6では著しい重量減少が見られたことから、ナノダイヤモンドと非ダイヤモンド炭素の双方が区別無く酸化されたと考えられる。また、比較例7では淡色化が進行していないことが確認された。精製ナノダイヤモンドの色調(色の濃さ)としては、濃い色調の順からBlack、Dark gray、Brownish gray、Slightly brownish gray、Gray、Light grayである。
【0102】
参考例1
ND Black及びND Grayの加熱酸化の際に、TG及びDTAを測定した。まず、ND Black及びND Grayをそれぞれ約3mg用意し、空気気流(50ml/min)中、0〜1000℃の範囲で昇温(10℃/min)し、TG及びDTA(示差熱分析、Differential Thermal Analysis)を行った。なお、計測にはTG−8120を用いた。結果を図3に示す。なお、図3の縦軸は重量減少率(%)、横軸は温度(℃)である。(a)及び(b)はND Black及びND Grayの昇温に伴う重量の減少に関する図であり、(b)は(a)の拡大図である。また、(c)及び(d)はND Black及びND Grayの昇温に伴う熱量変化に関する図であり、(d)は(c)の拡大図である。また、(c)及び(d)において、縦軸はDTAにおける標準試料(α−アルミナ)との温度差(熱電対起電力)(μA)、横軸は温度を示す。
【0103】
ND Blackは300℃以上で徐々に重量減少が開始するが、ND Grayは490℃まで安定であった。一方、DTA分析の結果では、ND GrayがND Blackよりも低い温度領域で燃焼(発熱)が始まることが示された。
【0104】
参考例2
ND Grayについて空気酸化を行った後、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。まず、ND Grayを約3mg用意し、空気雰囲気下、室温、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃のそれぞれの温度にて20分間保持した後、IRスペクトルを測定した。なお、機器はJASCO FTIR−4200+DR600Biを用いた。得られたIRスペクトルを図4及び5に示す。図4及び5において、縦軸はスペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)を示す。なお、図4の(a)は室温における加熱酸化後のスペクトル、(b)は150℃における加熱酸化後のスペクトル、(c)は200℃における加熱酸化後のスペクトル、(d)は250℃における加熱酸化後のスペクトル、(e)は300℃における加熱酸化後のスペクトル、(f)は350℃における加熱酸化後のスペクトル、(g)は400℃における加熱酸化後のスペクトル、(h)は450℃における加熱酸化後のスペクトル、(i)は475℃における加熱酸化後のスペクトル、(j)は500℃における加熱酸化後のスペクトル、(k)は550℃における加熱酸化後のスペクトルである。
【0105】
ND Grayでは水酸基(あるいは吸着水)のOH伸縮振動、C−H伸縮振動に帰属される吸収が顕著であり、1700cm-1付近に強い吸収が認められた。空気中で温度を150℃とすると1700cm-1付近のカルボニル基によると考えられるピーク形状が顕著に変化し、OH伸縮振動に帰属される3400cm-1付近の吸収が弱くなった。2900cm-1付近のC−H伸縮振動によるピークは250℃以上で徐々に小さくなり、425℃以上でほぼ消失した。
【0106】
参考例3
5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、750℃、3時間の条件で、約3mgのND Blackを加熱処理した後、空気気流(50ml/min)中、0〜1000℃の範囲で、昇温(10℃/min)し、TG及びDTAを行った。その結果(H2−treated ND Blackと称す)を図6に示す。なお、加熱処理を行っていないND Blackについて同様の測定をした結果(ND Blackと称す)についても図6に示した。図6の(a)及び(b)において、縦軸はTGにおける重量減少率(%)、横軸は温度(℃)を示す。また、(c)及び(d)において、縦軸はDTAにおける標準試料(α−アルミナ)との温度差(熱電対起電力)(μA)、横軸は温度を示す。図6の(a)及び(b)はH2−treated ND Black、及びND Blackの昇温に伴う重量の減少に関する図であり、(b)は(a)の拡大図である。また、(c)及び(d)はH2−treated ND Black、及びND Blackの昇温に伴う熱量変化に関する図であり、(d)は(c)の拡大図である。
【0107】
ND Blackに認められた300〜500℃の重量減少は加熱処理を施したND Blackには認められなかった。特に500℃付近において僅かな重量減少が見られたが、これは加熱処理にて容易に酸化可能な部位が除去(あるいは化学的に変化)したと考えられる。特に(d)は、水素を含む雰囲気下における加熱処理を行うことで、空気酸化処理工程において非ダイヤモンド炭素からダイヤモンドに段階的な燃焼が進むようになることを示している。
【0108】
参考例4
ND Blackについて加熱酸化を行った後、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。まず、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、1000℃まで毎分10℃の速度で昇温し、1000℃に達したところで加熱処理を止め、約3mgのND Blackを加熱処理した。その後、空気雰囲気下、450℃にて5時間保持して加熱酸化した後、IRスペクトル測定した。IRスペクトルを図7の(a)に示す。なお、図7において、縦軸はスペクトルの強度、横軸は波数(cm-1)を示す。
【0109】
参考例5
加熱処理温度を500℃、時間を3時間としたこと以外は、参考例4と同じ条件でND Blackを加熱処理し、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。得られたIRスペクトルを図7の(b)に示す。
【0110】
参考例6
加熱処理温度を750℃、時間を3時間としたこと以外は、参考例4と同じ条件でND Blackを加熱処理し、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。得られたIRスペクトルを図7の(c)に示す。
【0111】
参考例7
加熱処理時間を3時間としたこと以外は、参考例4と同じ条件でND Blackを加熱処理し、拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFT)法による測定を行った。得られたIRスペクトルを図7の(d)に示す。
【0112】
参考例4〜7で得られたIRスペクトルが、加熱酸化処理したND GrayのIRスペクトル(参考例2、図4及び5参照)に類似していることから、ナノダイヤモンドが高い割合で含まれることが考えられる。特に淡色を呈した(c)がsp2炭素に帰属される1535cm-1付近の吸収が弱くなる傾向が見られた。
【0113】
参考例8
ND Blackの加熱酸化を行い、活性化エネルギーを算出した。まず、約3mgのND Blackを、空気雰囲気下、415℃、425℃、435℃及び450℃にて各温度20分ずつ保持し、TGを行うことで活性化エネルギーを算出した。なお、計測にはTG−8120を用いた。その結果を表5に示す。
【0114】
参考例9
ND Blackの加熱酸化を行い、活性化エネルギーを算出した。まず、5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、750℃、3時間の条件で、約3mgのND Blackを加熱処理した。前記加熱処理後のND Blackについて、参考例8と同様の操作を行って活性化エネルギーを算出した。その結果を表5に示す。
【0115】
参考例10
ND Blackの加熱酸化を行い、活性化エネルギーを算出した。まず、加熱処理の際に用いるガスを表5に示すものに変更したこと以外は参考例9と同様にして、活性化エネルギーを測定した。その結果を表5に示す。
【0116】
参考例11
ND Blackの加熱酸化を行い、活性化エネルギーを算出した。まず、約20mgのND Blackに添加量が3.6重量%となるようにPtO2を加えて混合し、混合物を得た。そして、 5v/v%の水素及び95v/v%の窒素で構成されるガス気流(100ml/min)中、750℃、3時間の条件で、前記の混合物を加熱処理した。前記処理後の混合物を、空気雰囲気下、400℃、415℃、425℃、435℃及び450℃にて各温度20分ずつ保持し、TGを行うことで活性化エネルギーを算出した。その結果を表5に示す。
【0117】
参考例12〜18
遷移金属触媒の種類及び量、並びに加熱処理の際に用いるガスを表5に示す条件に変更したこと以外は参考例11と同様にして、活性化エネルギーを測定した。その結果を表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
参考例8と参考例9〜18を比較すると明らかな様に、加熱処理を行うことで活性化エネルギーが低下することが明らかになった。また、参考例8〜10と参考例11〜18を比較すると明らかな様に、遷移金属触媒によって活性化エネルギーが低下することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法によると、効率的に、高収率、かつ高純度でナノダイヤモンドを得ることができる。また、本発明のナノダイヤモンドの精製方法によると、爆ごう法によって得られる粗ナノダイヤモンド中の不純物が選択的に除去され、ナノダイヤモンドの歩留まりの低下を抑制しつつ、効率的に、高収率、かつ高純度でナノダイヤモンドを得ることができる。このため、精製プロセスの建設コストやランニングコスト、環境負荷等を大幅に低減することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7