特許第6352748号(P6352748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352748
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20180625BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20180625BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180625BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20180625BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08K3/36
   C08K5/548
   B60C1/00 A
   C08L7/00
   C08L9/00
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-195563(P2014-195563)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-65175(P2016-65175A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雅子
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−152200(JP,A)
【文献】 特開2006−104455(JP,A)
【文献】 特開2007−070451(JP,A)
【文献】 特開2006−225448(JP,A)
【文献】 特開2010−111753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L7/00−21/02
C08K3/00−13/08
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤであって、
前記加硫ゴム組成物が、未加硫ゴム組成物を加硫したものであり、
前記未加硫ゴム組成物が、ゴム成分と、シリカを含む充填剤と、下記式(1)で表されるシランカップリング剤とを含み、
前記ゴム成分が、天然ゴム、スチレン含有量が35質量%以上である第1のスチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が30質量%以下である第2のスチレンブタジエンゴム、及び、ブタジエンゴムを含み、
ゴム成分100質量%中の前記天然ゴムの含有量が5〜30質量%であり、
ゴム成分100質量%中の前記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量が20〜60質量%であり、
ゴム成分100質量%中の前記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量が10〜30質量%であり、
ゴム成分100質量%中の前記ブタジエンゴムの含有量が5〜30質量%であり、
ゴム成分100質量%中の前記第1のスチレンブタジエンゴムと前記第2のスチレンブタジエンゴムとの合計含有量が30〜80質量%であり、
ゴム成分100質量部に対する前記充填剤の含有量が60質量部以上であり、
シリカ100質量部に対する前記シランカップリング剤の含有量が0.5〜20質量部である
ことを特徴とするタイヤ。
【化1】
(式中、pは1〜3の整数、qは1〜5の整数、kは5〜12の整数である。)
【請求項2】
前記充填剤が、ゴム成分100質量部に対してシリカを55質量部以上含む請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ブタジエンゴムが、シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムであり、
前記シリカと相互作用する官能基が、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、炭化水素基、水酸基、オキシ基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、
初期歪10%、動歪2%で粘弾性測定を行った際の0℃におけるtanδが0.50以上、かつ、70℃におけるtanδが0.10以下であり、
JIS K6251に基づいて測定した30℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が15以上である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、JIS K6251に基づいて測定した80℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が30以上である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記タイヤ部材が、トレッドである請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車タイヤ用のゴム組成物としては、ポリブタジエンやブタジエン−スチレン共重合体などの共役ジエン系重合体と、カーボンブラックやシリカなどの充填剤とを含有するゴム組成物などが用いられている。
近年、環境問題への関心の高まりから、自動車に対して低燃費化の要求が強くなっており、自動車用タイヤに用いるゴム組成物に対しても、低燃費性に優れることが求められている。
【0003】
これまで、低燃費性を向上させるために、充填剤を少なく配合する方法が採られてきたが、この方法では、ゴム組成物の硬度低下や破壊特性低下を招き、ウェットグリップ性能も低下する傾向があった。
【0004】
一方、ウェットグリップ性能を向上させるためには、一般的に充填剤を多く配合する方法が採られてきたが、ウェットグリップ性能は低燃費性に対して背反性能となるため、これらの性能をバランス良く向上させることは困難であった。
【0005】
また、カーボンブラックやシリカといった一般的な充填剤に加えて、水酸化アルミニウムのような特殊な充填剤を配合してウェットグリップ性能を向上させる試みも多く開示されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、耐摩耗性が悪化するという問題があり、ウェットグリップ性能と耐摩耗性とのバランスの面で改善の余地があった。
【0006】
以上のように、低燃費性を確保しつつ、ウェットグリップ性能や破壊特性も維持する技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−213353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性が確保されつつ、ウェットグリップ性能及び破壊特性が改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤであって、前記加硫ゴム組成物が、未加硫ゴム組成物を加硫したものであり、前記未加硫ゴム組成物が、ゴム成分と、シリカを含む充填剤と、下記式(1)で表されるシランカップリング剤とを含み、前記ゴム成分が、天然ゴム、スチレン含有量が35質量%以上である第1のスチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が30質量%以下である第2のスチレンブタジエンゴム、及び、ブタジエンゴムを含み、ゴム成分100質量%中の前記天然ゴムの含有量が5〜30質量%であり、ゴム成分100質量%中の前記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量が20〜60質量%であり、ゴム成分100質量%中の前記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量が10〜30質量%であり、ゴム成分100質量%中の前記ブタジエンゴムの含有量が5〜30質量%であり、ゴム成分100質量%中の前記第1のスチレンブタジエンゴムと前記第2のスチレンブタジエンゴムとの合計含有量が30〜80質量%であり、ゴム成分100質量部に対する前記充填剤の含有量が60質量部以上であり、シリカ100質量部に対する前記シランカップリング剤の含有量が0.5〜20質量部であることを特徴とするタイヤに関する。
【0010】
【化1】
【0011】
上記式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜5の整数、kは5〜12の整数である。
【0012】
前記充填剤が、ゴム成分100質量部に対してシリカを55質量部以上含むことが好ましい。
【0013】
前記ブタジエンゴムが、シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムであることが好ましい。
【0014】
前記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、初期歪10%、動歪2%で粘弾性測定を行った際の0℃におけるtanδが0.50以上、かつ、70℃におけるtanδが0.10以下であり、JIS K6251に基づいて測定した30℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が15以上であることが好ましい。
【0015】
前記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、JIS K6251に基づいて測定した80℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が30以上であることが好ましい。
【0016】
前記タイヤ部材が、トレッドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定の未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤであるので、低燃費性が確保されつつ、良好なウェットグリップ性能、破壊特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のタイヤは、以下の所定の未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するものである。
【0019】
本発明における未加硫ゴム組成物は、ゴム成分と、シリカを含む充填剤と、下記式(1)で表されるシランカップリング剤とを含んでいる。
【0020】
【化2】
【0021】
上記式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜5の整数、kは5〜12の整数である。
【0022】
そして、上記充填剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して60質量部以上であり、上記シランカップリング剤の含有量が、シリカ100質量部に対して0.5〜20質量部である。
【0023】
更に、上記ゴム成分は、天然ゴム、スチレン含有量が35質量%以上である第1のスチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が30質量%以下である第2のスチレンブタジエンゴム、及び、ブタジエンゴムを含み、上記天然ゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中5〜30質量%であり、上記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中20〜60質量%であり、上記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中10〜30質量%であり、上記ブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中5〜30質量%であり、上記第1のスチレンブタジエンゴムと上記第2のスチレンブタジエンゴムとの合計含有量が、ゴム成分100質量%中30〜80質量%である。このような未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム組成物をタイヤ部材に用いることにより、タイヤの低燃費性を確保しつつ、ウェットグリップ性能、破壊特性を向上させることができる。低燃費性と、ウェットグリップ性能、破壊特性とは背反性能であるにもかかわらず、低燃費性を確保しつつ、ウェットグリップ性能、破壊特性を改善できる、というこの効果は、上記特定のゴム成分、シリカを含む充填剤、上記式(1)で表されるシランカップリング剤をそれぞれ特定量で組み合わせて配合することで初めて得られる相乗的な効果である。
【0024】
上記天然ゴムとしては、特に制限されず、例えば、SIR20、TSR20、RSS#3等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0025】
上記天然ゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中5〜30質量%である。上記天然ゴムの含有量がこのような範囲であると、優れたゴム強度を得ることができる。上記天然ゴムの含有量として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、該天然ゴムの含有量は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0026】
上記第1のスチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が35質量%以上のものであれば特に制限されないが、該第1のスチレンブタジエンゴムのスチレン含有量としては、好ましくは40質量%以上である。また、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下である。
【0027】
また、上記第2のスチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が30質量%以下のものであれば特に制限されないが、該第2のスチレンブタジエンゴムのスチレン含有量としては、好ましくは28質量%以下である。また、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上であり、特に好ましくは25質量%以上である。
【0028】
このようにスチレンブタジエンゴムとして、スチレン含有量が35質量%以上である第1のスチレンブタジエンゴムと、スチレン含有量が30質量%以下である第2のスチレンブタジエンゴムとを併用することにより、低燃費性とウェットグリップ性能とをバランス良く改善できる。
【0029】
上記第1のスチレンブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。また、該ビニル含量は、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0030】
また、上記第1のスチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは70万以上、より好ましくは80万以上、更に好ましくは90万以上である。一方、Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは150万以下、より好ましくは130万以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0031】
他方、上記第2のスチレンブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上である。また、該ビニル含量は、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0032】
また、上記第2のスチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50万以上、より好ましくは60万以上、更に好ましくは70万以上である。一方、Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは100万以下、より好ましくは90万以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0033】
上記第1のスチレンブタジエンゴム及び上記第2のスチレンブタジエンゴムは、スチレン、1,3−ブタジエン等の原料モノマーの配合を適宜設定して、乳化重合や、溶液重合、アニオン重合等公知の方法を用いることで調製することができる。
なお、これらのスチレンブタジエンゴムは、ゴムの主鎖及び/又は末端が変性剤により変性されたものであってもよいし、例えば四塩化スズ、四塩化ケイ素等の多官能型の変性剤により変性されて一部に分岐構造を有するものであってもよい。なかでも特に、上記第1のスチレンブタジエンゴム並びに/又は上記第2のスチレンブタジエンゴム(より好ましくは、上記第1のスチレンブタジエンゴム並びに上記第2のスチレンブタジエンゴム)における主鎖及び/若しくは末端(より好ましくは、末端)が、シリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたものであることが好ましい。このような変性剤で変性され、シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを用いることで、低燃費性とウェットグリップ性能とを更にバランス良く改善できる。
【0034】
上記シリカと相互作用する官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、炭化水素基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等があげられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低燃費性、ウェットグリップ性能の向上効果が高いという理由から、1,2,3級アミノ基(特に、グリシジルアミノ基)、エポキシ基、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシシリル基)、炭化水素基が好ましい。
【0035】
上記シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムとしては、下記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴム(S変性SBR)が好ましい。
【0036】
【化3】
【0037】
上記式(2)中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R及びRは結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0038】
上記S変性SBRとしては、なかでも、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式(2)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴム(S変性S−SBR(特開2010−111753号公報に記載の変性SBR))が好適に用いられる。
【0039】
上記式(2)において、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、R、R及びRとしてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)。R及びRとしてはアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3である。また、R及びRが結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4〜8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。好ましい化合物を使用することにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0040】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、前述の性能を良好に改善できる点から、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムとしてはまた、下記式(3)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムも好ましい形態の1つである。
【0042】
【化4】
【0043】
上記式(3)中、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜30の1価の炭化水素基を表す。Xは、下記式:
【0044】
【化5】
【0045】
(式中、R11及びR12は、同一又は異なって、2価の炭化水素基を表す。R13は、環状エーテル基を表す。)で表される基である。Xは、下記式:
【0046】
【化6】
【0047】
(式中、R21は炭素数2〜10のアルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。R22は水素原子又はメチル基を表す。R23は炭素数1〜10のアルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。tは2〜20の整数である。)で表される基である。a、b、及びcは、各繰り返し単位の繰り返し数を表す。
【0048】
上記式(3)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムとしては、なかでも、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式(3)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴムが好適に用いられる。
【0049】
上記式(3)において、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜30の1価の炭化水素基を表すが、該1価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基等が挙げられる。中でも、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基が好ましい。より好ましくは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、特に好ましくは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基である。上記Rの好ましい例としては、上記炭素数を有するアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。中でも、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、メチル基が特に好ましい。
【0050】
上記式(3)中のXにおける、R11及びR12は、同一又は異なって、2価の炭化水素基を表すが、例えば、分岐又は非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基、分岐又は非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基、分岐又は非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基、炭素数6〜30のアリーレン基などが挙げられる。なかでも、分岐又は非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基が好ましい。より好ましくは分岐又は非分岐の炭素数1〜15のアルキレン基、更に好ましくは分岐又は非分岐の炭素数1〜5のアルキレン基、特に好ましくは非分岐の炭素数1〜3のアルキレン基である。上記R11及びR12の好ましい例としては、上記炭素数を有するアルキレン基が挙げられ、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などが挙げられる。中でも、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が特に好ましい。
【0051】
上記式(3)中のXにおける、R13は、環状エーテル基を表すが、該環状エーテル基としては、例えば、オキシラン基、オキセタン基、オキソラン基、オキサン基、オキセパン基、オキソカン基、オキソナン基、オキセカン基、オキセト基、オキソール基等のエーテル結合を1つ有する環状エーテル基、ジオキソラン基、ジオキサン基、ジオキセパン基、ジオキセカン基等のエーテル結合を2つ有する環状エーテル基、トリオキサン基等のエーテル結合を3つ有する環状エーテル基等が挙げられる。なかでも、エーテル結合を1つ有する炭素数2〜7の環状エーテル基が好ましく、エーテル結合を1つ有する炭素数2〜5の環状エーテル基がより好ましく、オキシラン基が更に好ましい。また、環状エーテル基は環骨格内に不飽和結合を有していないことが好ましい。また、上述の環状エーテル基が有する水素原子は、上述の1価の炭化水素基により置換されていてもよい。
【0052】
上記式(3)中のXにおける、R21は炭素数2〜10のアルキレン基又はアルキルアリーレン基を表すが、なかでも、分岐又は非分岐の炭素数2〜8のアルキレン基が好ましく、分岐又は非分岐の炭素数2〜6のアルキレン基がより好ましく、分岐又は非分岐の炭素数2〜4のアルキレン基が更に好ましく、分岐又は非分岐の炭素数3のアルキレン基が特に好ましい。上記R21の好ましい例としては、上記炭素数を有するアルキレン基が挙げられ、具体的には、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基などが挙げられる。なかでも、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基が特に好ましく、プロピレン基、イソプロピレン基が最も好ましい。
【0053】
上記式(3)中のXにおける、R22は水素原子又はメチル基を表すが、水素原子であることが特に好ましい。
【0054】
上記式(3)中のXにおける、R23は炭素数1〜10のアルコキシ基又はアリールオキシ基を表すが、なかでも、分岐又は非分岐の炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、分岐又は非分岐の炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましく、分岐又は非分岐の炭素数1〜4のアルコキシ基が更に好ましい。上記R23の好ましい例としては、上記炭素数を有するアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、ヘプチロキシ基、オクチロキシ基などが挙げられる。なかでも、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が特に好ましく、メトキシ基が最も好ましい。
【0055】
上記式(3)中のXにおける、tは2〜20の整数であるが、2〜8が特に好ましい。
【0056】
上記式(3)で表される化合物としては、前述の性能を良好に改善できる点から、下記式(4)で表される化合物が好適に用いられる。
【0057】
【化7】
【0058】
上記式(2)で表される化合物又は上記式(3)で表される化合物(変性剤)によるスチレンブタジエンゴムの変性方法としては、従来公知の手法を使用でき、例えば、スチレンブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性できる。具体的には、溶液重合によるスチレンブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、スチレンブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法などが挙げられる。
【0059】
上記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中20〜60質量%である。上記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量がこのような範囲であると、低燃費性を悪化させずに、ウェットグリップ性能を向上させることができる。上記第1のスチレンブタジエンゴムの含有量として、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。また、該第1のスチレンブタジエンゴムの含有量は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0060】
上記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中10〜30質量%である。上記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量がこのような範囲であると、ウェットグリップ性能を悪化させずに、低燃費性を向上させることができる。上記第2のスチレンブタジエンゴムの含有量として、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、該第2のスチレンブタジエンゴムの含有量は、好ましくは25質量%以下である。
【0061】
また、上記第1のスチレンブタジエンゴムと上記第2のスチレンブタジエンゴムとの合計含有量は、ゴム成分100質量%中30〜80質量%である。該合計含有量がこのような範囲であると、優れた加工性及びグリップ性能が得られ、本発明の効果を充分に発揮できる。上記合計含有量として、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。また、該合計含有量は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0062】
上記ブタジエンゴムとしては、特に制限されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、JSR(株)製のBR51、T700、BR730等の高シス含有量のブタジエンゴム(高シスBR)や、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0063】
上記ブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。なお、ビニル含量の下限は特に限定されず、0モル%でもよい。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0064】
また、上記ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万以上、より好ましくは40万以上である。一方、Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは100万以下、より好ましくは90万以下、更に好ましくは60万以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0065】
なお、本明細書において、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムのビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)、並びに、スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量は、H−NMR測定により算出される。また、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、実施例で示す方法により、求めることができる。
【0066】
上記ブタジエンゴムは、ゴムの主鎖及び/又は末端が変性剤により変性されたものであってもよいし、例えば四塩化スズ、四塩化ケイ素等の多官能型の変性剤により変性されて一部に分岐構造を有するものであってもよい。中でも特に、上記ブタジエンゴムにおける主鎖及び/又は末端(より好ましくは、末端)が、シリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたものであることが好ましい。このような変性剤で変性され、シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムを用いることで、優れた低燃費性が得られる。このように、上記ブタジエンゴムが、シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0067】
上記シリカと相互作用を有する官能基を有する変性剤により変性されたブタジエンゴムとしては、上述のシリカと相互作用を有する官能基を有する変性剤により変性されたスチレンブタジエンゴムの骨格成分であるスチレンブタジエンゴムをブタジエンゴムに置き換えたものを使用すればよい。なかでも、上記シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムとしては、上記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたブタジエンゴム(S変性BR)が好ましい。該S変性BRとしては、特開2010−111753号公報などに記載されているものが挙げられる。
【0068】
上記式(2)で表される化合物(変性剤)によるブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、ブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性でき、具体的には、リチウム化合物などの重合開始剤を用いたアニオン重合によるブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、ブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法などが挙げられる。
【0069】
上記ブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中5〜30質量%である。上記ブタジエンゴムの含有量がこのような範囲であると、優れた耐摩耗性が得られる。上記ブタジエンゴムの含有量として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、該ブタジエンゴムの含有量は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0070】
上記ゴム成分は、天然ゴム、第1のスチレンブタジエンゴム、第2のスチレンブタジエンゴム、及び、ブタジエンゴムに加えて、更に、その他のゴム成分を含んでいてもよい。
【0071】
上記その他のゴム成分としては、例えば、イソプレンゴム(IR)、3,4−ポリイソプレンゴム(3,4−IR)、上記第1又は第2のスチレンブタジエンゴム以外のスチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などが挙げられる。
【0072】
本発明における未加硫ゴム組成物は、シリカを含む充填剤を含有する。該充填剤としては、シリカの他、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどのタイヤ工業において一般的に充填剤として使用しうるものを用いることができる。中でも、充填剤としてシリカとカーボンブラックとを併用することで本発明の効果がより好適に得られる。
【0073】
上記充填剤の含有量(すなわち、シリカ、カーボンブラック等充填剤に分類され得るものの合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以上である。充填剤の含有量が60質量部未満であると破壊特性が損なわれたり耐摩耗性が劣ったり、ウェットグリップ性能が低下したりする。該充填剤の含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下が更に好ましい。該充填剤の含有量が90質量部を超えると、低燃費性が劣るおそれがある。
【0074】
本発明における未加硫ゴム組成物は、充填剤としてシリカを含むものであり、シリカを含むことにより、優れた低燃費性、ウェットグリップ性能が得られる。そして、該シリカの含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、55質量部以上であることが好ましい。シリカの含有量がこのような範囲であることにより、ウェットグリップ性能、破壊特性がより優れたものとなる。このように、上記充填剤が、ゴム成分100質量部に対してシリカを55質量部以上含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。該シリカの含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下が更に好ましい。
【0075】
上記シリカとしては特に制限されず、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。上記シリカとしては、具体的には、エボニック・デグサ社製のウルトラシルVN3、ウルトラシルVN3−G;東ソー・シリカ社製のVN3、AQ、ER、RS−150;ローディア社製のZeosil 1115MP、Zeosil 1165MP等を用いることができる。
これらシリカは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上記シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上であることが好ましい。50m/g未満では、補強効果が小さく、耐摩耗性や破壊特性、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。破壊特性、ウェットグリップ性能の観点からより好ましくは100m/g以上であり、更に好ましくは150m/g以上である。また、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは250m/g以下であり、より好ましくは200m/g以下である。250m/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、低燃費性や加工性が悪化する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0077】
上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、EPC、MPC、CCなどのチャンネルカーボンブラック;SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF、ECFなどのファーネスカーボンブラック;FT、MTなどのサーマルカーボンブラック;アセチレンカーボンブラックなどが例示される。
これらカーボンブラックは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、5〜200m/gが好ましく、下限は50m/gがより好ましく、80m/gが更に好ましく、85m/gが特に好ましい。一方、上限は150m/gがより好ましく、130m/gが更に好ましく、120m/gが特に好ましい。また、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、5〜300ml/100gが好ましく、下限は80ml/100gがより好ましく、100ml/100gが更に好ましく、110ml/100gが特に好ましい。一方、上限は180ml/100gがより好ましく、140ml/100gが更に好ましい。カーボンブラックのNSAやDBP吸収量が上記範囲の下限未満では、補強効果が小さく耐摩耗性、破壊特性が低下する傾向がある。また、上記範囲の上限を超えると、分散性が悪く、ヒステリシスロスが増大し低燃費性が低下する傾向があり、加工性が悪化するおそれがある。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820−93に準拠して測定され、DBP吸収量は、ASTM D2414−93に準拠して測定される。
【0079】
上記カーボンブラックの市販品としては、三菱化学社製のダイアブラックN339、ダイアブラックI、東海カーボン社製のシースト6、シースト7HM、シーストKH、エボニック・デグサ社製のCK3、Special Black 4A等を用いることができる。
【0080】
本発明における未加硫ゴム組成物が充填剤としてカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。1質量部未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。また、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、60質量部以下が更に好ましく、30質量部以下が更により好ましく、15質量部以下が特に好ましい。90質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0081】
本発明における未加硫ゴム組成物は、下記式(1)で表されるシランカップリング剤を含む。このようなシランカップリング剤を含むことで、優れた低燃費性、破壊特性を発揮することができる。
【0082】
【化8】
【0083】
上記式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜5の整数、kは5〜12の整数である。
【0084】
上記式(1)中、pは1〜3の整数であるが、2が好ましい。pが4以上ではカップリング反応が遅くなる傾向がある。
【0085】
上記式(1)中、qは1〜5の整数であるが、2〜4が好ましく、3がより好ましい。qが0又は6以上は合成が困難である。
【0086】
上記式(1)中、kは5〜12の整数であるが、5〜10が好ましく、6〜8がより好ましく、7が更に好ましい。
【0087】
上記式(1)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、モメンティブ社製のNXT(3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン)などが挙げられる。上記式(1)で表されるシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
上記式(1)で表されるシランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、0.5〜20質量部である。0.5質量部未満では、シリカを充分に分散させることが困難になり、低燃費性、破壊特性が悪化する傾向がある。他方、20質量部を超えて添加しても、シリカの分散を更に向上させる効果は得られず、コストが不必要に増大する傾向がある。また、スコーチタイムが短くなり、混練りや押し出しでの加工性が悪化する傾向がある。上記シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1.5質量部以上が好ましく、2.5質量部以上がより好ましい。また、該含有量は、シリカ100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0089】
本発明における未加硫ゴム組成物は、上記式(1)で表されるシランカップリング剤に加えて更に、その他のシランカップリング剤を含有していてもよい。
上記その他のシランカップリング剤としては、通常シランカップリング剤として用いられるものを使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。商品名としては、エボニック・デグサ社製のSi69、Si75、Si363、モメンティブ社製のNXT−LV、NXTULV、NXT−Zなどが例示される。
【0090】
本発明における未加硫ゴム組成物には、前記成分以外にも、伸展油(オイル)、液状樹脂などの可塑剤;硫黄などの加硫剤;チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤などの加硫促進剤;ステアリン酸、酸化亜鉛などの加硫活性化剤;ジクミルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;加工助剤;老化防止剤;ワックス;滑剤などの従来ゴム工業で使用される配合剤を用いることができる。
【0091】
本発明における未加硫ゴム組成物は、加工性の観点から、オイル、液状樹脂などの可塑剤を含むことが好ましい。なかでも、上記未加硫ゴム組成物は、可塑剤としてオイルを含むことが好ましい。これにより、硬度を適切な低さに調整し良好な加工性、ウェットグリップ性能、破壊特性を得ることができる。
【0092】
上記オイルとしては、特に限定されず、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイル、TDAE、MES等の低PCA(多環式芳香族)プロセスオイル、植物油脂、及びこれらの混合物等、従来公知のオイルを使用できる。なかでも、耐摩耗性および破壊特性の点では、アロマ系プロセスオイルが好ましい。上記アロマ系プロセスオイルとしては、具体的には、出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAHシリーズ等が挙げられる。
【0093】
なお、上記オイルは、環境の面から、多環式芳香族含有量(PCA)が3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。該多環式芳香族含有量(PCA)は、英国石油学会346/92法に従って測定される。
【0094】
上記未加硫ゴム組成物はまた、可塑剤として液状樹脂を含んでいてもよい。可塑剤として液状樹脂を含むことにより、低燃費性、破壊特性、ウェットグリップ性能をより良好なものとすることができる。
上記液状樹脂としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、未加硫時の粘着性や、低燃費性、破壊特性の点から、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、及びこれらの誘導体が好ましく、クマロンインデン樹脂がより好ましい。
【0095】
上記芳香族ビニル重合体とは、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、スチレンの単独重合体、α−メチルスチレンの単独重合体、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体などが挙げられる。
上記クマロンインデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれていてもよいモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
上記インデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
上記テルペン樹脂とは、αピネン、βピネン、カンフェル、ジペテンなどのテルペン化合物を重合して得られる樹脂や、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料として得られる樹脂であるテルペンフェノールに代表されるテルペン系樹脂である。
上記ロジン樹脂とは、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、またはこれらのエステル化合物、または、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂である。
【0096】
上記液状樹脂の軟化点は、−40℃以上であることが好ましく、−20℃以上であることがより好ましく、−10℃以上であることが更に好ましく、0℃以上であることが特に好ましい。また、該軟化点は、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下が更に好ましい。液状樹脂の軟化点が上記範囲内であると、ウェットグリップ性能、破壊特性の改善効果がより好適に得られる。
なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0097】
上記可塑剤としては、特に、上記オイルと上記液状樹脂とを併用する形態が好ましい。該可塑剤として、上記オイルと上記液状樹脂とを併用することにより、ウェットグリップ性能、破壊特性の改善効果がより好適に得られる。
【0098】
本発明における未加硫ゴム組成物が可塑剤を含む場合、可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。また、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。可塑剤の含有量がこのような範囲であることにより、本発明の効果がより好適に得られる。
【0099】
上記可塑剤として上記オイルと上記液状樹脂とを併用する場合、上記オイルと上記液状樹脂との配合割合は、オイル:液状樹脂が1:0.1〜1:10であることが好ましい。より好ましくは、1:0.5〜1:2である。上記オイルと上記液状樹脂との配合割合がこのような範囲であることによって、本発明の効果がより好適に得られる。
【0100】
上記酸化亜鉛としては、特に制限されないが、例えば、東邦亜鉛(株)製の銀嶺R、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛などのゴム工業で従来から使用される酸化亜鉛や、例えば、ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2などの平均粒子径が200nm以下である微粒子酸化亜鉛などを用いることができる。
【0101】
上記酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上である。1.0質量部未満であると、加硫戻りにより、充分な硬度(Hs)が得られないおそれがある。また、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.7質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下である。3.7質量部を超えると、破壊特性が低下する傾向がある。
【0102】
本発明における未加硫ゴム組成物は、バンバリーミキサーやニーダー、オーブンロールなどで上記各成分を混練りすることで得られ、その後、当該未加硫ゴム組成物を加硫することで本発明における加硫ゴム組成物を製造することができる。このように、本発明における加硫ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。
【0103】
本発明のタイヤは、上述の本発明における未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有することから、低燃費性を確保しつつ、良好なウェットグリップ性能、破壊特性を有するものである。
ここで、上記加硫ゴム組成物の低燃費性は、粘弾性測定で70℃における加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定することにより評価することができる。
70℃におけるtanδは、数値が小さいほど低燃費性に優れていることを示す。上記加硫ゴム組成物の70℃におけるtanδとしては0.10以下であることが好ましい。70℃におけるtanδが0.10以下であれば、低燃費性に充分優れているといえる。上記加硫ゴム組成物の70℃におけるtanδとしてより好ましくは0.09以下である。下限は特に規定されない。
【0104】
また、上記加硫ゴム組成物のウェットグリップ性能は、粘弾性測定で0℃における加硫ゴム組成物のtanδを測定することにより評価することができる。
0℃におけるtanδは、数値が大きいほどウェットグリップ性能に優れていることを示す。上記加硫ゴム組成物の0℃におけるtanδとしては0.50以上であることが好ましい。0℃におけるtanδが0.50以上であれば、ウェットグリップ性能に充分優れているといえる。上記加硫ゴム組成物の0℃におけるtanδとしてより好ましくは0.55以上である。上限は特に規定されない。
【0105】
なお、上記粘弾性測定は、粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で測定することができる。
【0106】
また、上記加硫ゴム組成物の破壊特性は、引張試験で30℃、80℃における加硫ゴム組成物の破断時伸び(EB)及び破断時の引張強度(TB)を測定することにより評価することができる。
30℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)は、数値が大きいほど走行初期において破壊特性に優れていることを示す。上記加硫ゴム組成物の30℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)としては15以上であることが好ましい。30℃におけるEB/TBが15以上であれば、破壊特性に充分優れているといえ、15未満であると、破壊特性に劣り、ゴムが欠けるおそれがある。上記加硫ゴム組成物の30℃におけるEB/TBとしてより好ましくは18以上であり、更に好ましくは20以上であり、特に好ましくは25以上である。上限は特に規定されない。
【0107】
また、80℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)は、数値が大きいほど長期走行によりタイヤ温度が上昇した状態での破壊特性に優れていることを示す。上記加硫ゴム組成物の80℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)としては30以上であることが好ましい。80℃におけるEB/TBが30以上であれば、破壊特性に充分優れているといえ、30未満であると、タイヤ温度上昇時の破壊特性に劣り、長期走行によってゴムが欠けるおそれがある。上記加硫ゴム組成物の80℃におけるEB/TBとしてより好ましくは35以上であり、更に好ましくは38以上である。上限は特に規定されない。
すなわち、30℃におけるEB/TB及び80℃におけるEB/TBが上記範囲であれば、走行初期から、長期走行によりタイヤ温度が上昇した状態まで、あらゆる条件で安定して優れた破壊特性を発揮することができる。
【0108】
なお、上記引張試験は、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム引っ張り特性の求め方」に準じて、3号ダンベル型試験片を用いて行うことができる。
【0109】
このように、上記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、初期歪10%、動歪2%で粘弾性測定を行った際の0℃におけるtanδが0.50以上、かつ、70℃におけるtanδが0.10以下であり、JIS K6251に基づいて測定した30℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が15以上であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0110】
また、上記加硫ゴム組成物の加硫ゴム物性が、JIS K6251に基づいて測定した80℃における破断時伸び(EB)と破断時の引張強度(TB)との比(EB/TB)が30以上であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0111】
本発明における加硫ゴム組成物は、キャップトレッド、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、サイドウォール、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、ランフラット補強層、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等のタイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド、特にキャップトレッドとして好適に用いられる。このように、本発明における加硫ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤにおいて、該タイヤ部材が、トレッドであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0112】
本発明のタイヤは、上記未加硫ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム組成物を用いて通常の方法により製造される。すなわち、上記各種成分を配合した未加硫ゴム組成物を、タイヤの各部材(例えば、トレッド)の形状に合わせて押出し加工し、他のタイヤ部材と共に、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、本発明のタイヤが得られる。
【0113】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤ、エアレス(ソリッド)タイヤいずれであってもよいが、空気入りタイヤであることが好ましい。また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に乗用車用タイヤとして好適に用いられる。また、乗用車用タイヤのなかでも、排気量が660cc以下の軽自動車用タイヤとして好適に使用できる。
【実施例】
【0114】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0115】
以下で製造するポリマーの物性については次のように測定した。
【0116】
〔重量平均分子量(Mw)〕
下記の条件(1)〜(8)でゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)を測定した。
(1)装置:東ソー(株)製のGPC−8000シリーズ
(2)分離カラム:東ソー(株)製のTSKgel SuperMultiporeHZ−M
(3)測定温度:40℃
(4)キャリア:テトラヒドロフラン
(5)流量:0.6mL/分
(6)注入量:5μL
(7)検出器:示差屈折計
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
【0117】
〔ビニル含量及びスチレン含有量〕
日本電子(株)製JNM−ECAシリーズのNMR装置を用いて測定した。
【0118】
<末端変性剤の作製>
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン)(アヅマックス(株)製)を23.6g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を100mlにして作製した。
【0119】
<製造例1(SBR)>
攪拌機付きオートクレーブに、シクロヘキサン6000g、スチレン150g、1,3−ブタジエン450gおよび使用するn−ブチルリチウムに対して1.5倍モル量に相当するテトラメチルエチレンジアミンを仕込んだ後、n−ブチルリチウム9.5ミリモルを加え、50℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後、スチレン60g及び1,3−ブタジエン340gの混合物を60分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は70℃であった。
連続添加終了後、さらに40分間重合反応を継続し、重合転化率が100%になったことを確認してから、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して、反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ分析の試料とした。
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、使用したn−ブチルリチウムの0.03倍モルに相当する量のポリオルガノシロキサンA(下記式(4)で表される化合物、日本化学会編 第4版 実験化学講座 第28巻及びその参考文献に記載されている方法により合成することができる。)を10%トルエン溶液の状態で添加し、30分間反応させた後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して共役ジエン系ゴムIを含有する重合溶液を得た。ゴム分100質量部に対して、老化防止剤として、イルガノックス1520(チバガイギー社製)0.2質量部を、上記の重合溶液に添加した後、スチームストリッピングにより、重合溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のSBR1を得た。得られたSBR1のスチレン含有量は42質量%であった。Mwは約100万であり、ビニル含量は32モル%であった。
【0120】
【化9】
【0121】
<製造例2(変性SBR)>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を540g、ブタジエンを1460g、テトラメチルエチレンジアミンを17mmol加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10.5mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に0.4mol/Lの四塩化ケイ素/ヘキサン溶液を3.5mL加え、30分撹拌を行った。次に、上記末端変性剤を30mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.2gを溶かしたメタノール(関東化学(株)製)2mLを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBR2を得た。得られた変性SBR2のスチレン含有量は28質量%であった。Mwは717,000であり、ビニル含量は60モル%であった。
【0122】
<製造例3(変性BR)>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、ブタジエンを2000g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)2mmolを加え、60℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10.3mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を11.5mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性BRを得た。分析の結果、得られた変性BRのMwは43万であり、ビニル含量は12モル%であった。
【0123】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
SBR1:製造例1で作製したSBR1
SBR2:製造例2で作製した変性SBR2
SBR3:SBR1502(日本ゼオン(株)製、スチレン含有量:23.5質量%)
BR:製造例3で作製した変性BR
シリカ:エボニック・デグサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤1:モメンティブ社製のNXT(3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン)
シランカップリング剤2:エボニック・デグサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(NSA:114m/g、平均一次粒子径:22nm)
可塑剤1:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点:5〜15℃)
可塑剤2:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAH−24
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N′−ジフェニルグアニジン)
【0124】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合内容に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15、軽自動車用タイヤ)を得た。
【0125】
得られた加硫ゴム組成物及び試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0126】
(粘弾性測定)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、0℃で、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。
なお、温度70℃でのtanδの測定値が小さいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示している。また、温度0℃でのtanδの測定値が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示している。
【0127】
(引張試験)
JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム引っ張り特性の求め方」に準じて、加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、30℃、80℃でロール押し出しに対する各方向の引張試験を実施し、加硫ゴム組成物の破断時伸び(EB)及び破断時の引張強度(TB)を測定した。そして、EBとTBとの比(EB/TB)を算出した。
ただし、タイヤの周方向をロールの押し出し進行方向、幅方向をロールの幅方向、垂直をサンプルの厚み方向として測定を行った。
なお、30℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)は、数値が大きいほど走行初期において破壊特性に優れることを示している。また、80℃におけるEBとTBとの比(EB/TB)は、数値が大きいほど長期走行によりタイヤ温度が上昇した状態での破壊特性に優れることを示している。
【0128】
(低燃費性)
転がり抵抗試験機を用い、試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例3を100とした時の指数で表示した。指数は大きい方が良好(低燃費性)である。
【0129】
(耐チッピング性能)
耐チッピンング性能は主に砕石場等の悪路で約30,000km走行後のトレッド表面の単位面積あたりのカット傷の数及びチッピング数を計数し、比較例3の計数値を100として指数で表した。指数が大きい程、耐チッピング性能(破壊特性)に優れていることを示す。
【0130】
(ウェットグリップ性能)
各試験用タイヤを車両(国産FF660cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数で表し、数字が大きいほどウェットスキッド性能(ウェットグリップ性能)が良好である。指数は次の式で求めた。
ウェットスキッド性能=(比較例3の制動距離)÷(各配合の制動距離)×100
【0131】
【表1】
【0132】
表1の結果より、上述した、特定のゴム成分、シリカを含む充填剤及び上記式(1)で表されるシランカップリング剤をそれぞれ特定量で配合した未加硫ゴム組成物を用いた実施例1〜2では、低燃費性を確保しつつ、ウェットグリップ性能、破壊特性を向上させることができることが明らかとなった。