(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加速粒子の通路に磁場を形成する偏向電磁石および前記加速粒子にエネルギーを付与する高周波加速空洞部を有する加速器において前記加速粒子の必要エネルギーを得るための加速器制御システムであって、
前記加速粒子の要求エネルギーレベルを設定するビーム照射制御部と、
クロック値に対する電流の変化パターンを規定する電流変化パターンデータを内蔵し、前記偏向電磁石の電源に電流指令信号を発する偏向電磁石電流パターン発生部と、
クロック値に対する高周波の周波数変化パターンを規定する周波数変化パターンデータを内蔵し、前記高周波加速空洞部の高周波発生装置に周波数指令信号を発する高周波パターン発生部と、
前記ビーム照射制御部からの要求エネルギーレベルを示す信号と、前記加速粒子の現状エネルギー相当信号とを比較して予め定められた許容差内で一致しなければ、前記偏向電磁石電流パターン発生部および前記高周波パターン発生部のそれぞれに前記クロック値による指令信号を順次出力し、予め定められた許容差内で一致すれば前記クロック値による指令信号の出力を停止するエネルギー判定・指令部と、
を備え、
前記電流の変化パターンの電流値および前記周波数変化パターンの周波数に対応するエネルギーレベルの変化パターンは、前記必要エネルギーよりも高いレベルのエネルギーまで上昇の後のエネルギー下降段階で順次前記必要エネルギーのレベルに到達するパターンである、
ことを特徴とする加速器制御システム。
前記現状エネルギー相当信号は、前記偏向電磁石電流パターン発生部および前記高周波パターン発生部のいずれかに与えられた前記クロック値による指令信号を用いて算出されることを特徴とする請求項1に記載の加速器制御システム。
前記エネルギー判定・指令部は、前記加速粒子の現状エネルギー相当信号のレベルが前記要求エネルギーレベルと予め定められた許容差内で一致すれば、前記偏向電磁石電流パターン発生部および前記高周波パターン発生部のそれぞれへの指令信号を停止して、前記加速粒子のビーム出射可能状態とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の加速器制御システム。
前記エネルギー判定・指令部は、前記加速粒子の現状エネルギー相当信号のレベルが前記要求エネルギーレベルに予め定められた正のエネルギー幅を加えたエネルギーレベルと予め定められた許容差内で一致すれば、前記偏向電磁石電流パターン発生部および前記高周波パターン発生部のそれぞれへの指令信号であるクロック値を順次予め定められた幅で増加させることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の加速器制御システム。
加速粒子の通路に磁場を形成する偏向電磁石および前記加速粒子にエネルギーを付与する高周波加速空洞部を有する加速器において、前記加速粒子の必要エネルギーを得るための加速器制御方法であって、
加速粒子のエネルギーを前記必要エネルギーよりも高い予め定められたエネルギーレベルまで上昇させるエネルギー上昇ステップと、
前記予め定められたエネルギーレベルに到達したら、エネルギー判定・指令部が要求エネルギーレベル信号と現状エネルギー相当信号との比較を開始する判定・指令開始ステップと、
前記エネルギー判定・指令部が、要求レベルまで下降したと判定しない限り、要求エネルギーレベルへ向かうように偏向電磁石電流パターン発生部および高周波パターン発生部へのクロック値の発信を継続しエネルギーを下降させるエネルギー下降ステップと、
前記エネルギー判定・指令部が、要求レベルへ到達したと判定したときに、当該要求エネルギーレベルを維持し、加速粒子のビームを出射する要求レベル到達ステップと、
加速粒子のビームを照射する照射ステップと、
を有することを特徴とする加速器制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る粒子線治療加速器の制御システムおよび制御方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る加速器システムの構成を示すブロック図である。加速器システム500は、加速器10および加速器制御システム100を有する。加速器10は、シンクロトロンである。加速器10は、加速の対象とする加速粒子が周回する周回ビーム用真空容器11、偏向電磁石12、加速粒子とする荷電粒子の供給源からの荷電粒子の導入を行う入射用電磁石13、高周波加速空洞部14、加速粒子の取り出しを行う出射用電磁石15、周回ビーム収束用四極電磁石16、四極電磁石電源16aを有する。
【0019】
偏向電磁石12は、周回ビーム用真空容器11内の加速粒子の進行平面に垂直な方向に磁場を形成する。偏向電磁石12に囲まれた部分の周回ビーム用真空容器11は曲率を有しており、この部分で加速粒子の方向が変更される。加速粒子の進行方向が常にこの曲率に沿うように、加速粒子のエネルギー上昇に応じて磁場の強さを増加させる。具体的には、偏向電磁石12の図示しないコイルの電流の電源である偏向電磁石電源12aから供給する電流を増加させる。
【0020】
高周波加速空洞部14は、いわゆる高周波加速空洞と呼ばれる加速粒子にエネルギーを供給する部分であり、空洞部を形成する真空ダクトおよびその外側の筐体等の部材を有する。エネルギーの供給は、高周波発生装置14aにより高周波の周波数を上昇させることにより行う。
【0021】
また、周回ビーム用真空容器11へ加速対象の荷電粒子を供給する装置として、加速器10は、イオン源17a、イオン源17aからの荷電粒子を加速する入射用加速器17b、および荷電粒子の通路となる入射用真空容器17を有する。また、加速器10は、周回ビーム用真空容器11から加速された粒子を取り出す装置として、ビーム出射制御部18を有する。
【0022】
加速器制御システム100は、加速粒子の予め定められたレベルの必要エネルギーを得るために加速器10を制御する。具体的には、加速器制御システム100から偏向電磁石電源12aへの電流指令信号、高周波発生装置14aへの周波数指令信号、およびビーム出射制御部18への出射可信号を出力する。加速器制御システム100の構成については、
図2を引用しながら説明する。
【0023】
図2は、第1の実施形態に係る加速器制御システムの構成を示すブロック図である。加速器制御システム100は、ビーム照射制御部110、エネルギー判定・指令部120、偏向電磁石電流パターン発生部130、高周波パターン発生部140、クロック発生器150、周期信号発生器160を有する。
【0024】
ビーム照射制御部110は、加速粒子の要求エネルギーレベルを設定し、要求エネルギー信号を出力する。また、ビーム照射制御部110は、加速器10の運転サイクルの開始時に、エネルギー判定・指令部120に判定開始信号を出力する。
【0025】
図3は、加速器制御システムの偏向電磁石電流パターン発生部の構成を示すブロック図である。偏向電磁石電流パターン発生部130は、電流変化パターンデータを内蔵する。偏向電磁石電流パターン発生部130は、電流変化パターンデータ記憶部131、および読み出し回路132を有する。
【0026】
電流変化パターンデータ記憶部131が記憶する電流変化パターンデータは、入力変数であるクロック値Cj(j=1,2,…,n)と、出力変数である加速粒子に付与すべきエネルギーレベルに対応する偏向電磁石の電流値ij(j=1,2,…,n)との対応を規定している。すなわち、電流変化パターンデータは、クロック値Cjの増加に対する電流値ijの変化パターンデータである。
【0027】
読み出し回路132は、エネルギー判定・指令部120からのクロック信号として順次受け入れるクロック値C1、C2、・・・を受けて、電流変化パターンデータからクロック値C1、C2、・・・に対応する電流値i1、i2、・・・を順次読み出して、偏向電磁石電源12aへの電流指令信号として出力する。
【0028】
図4は、加速器制御システムの高周波パターン発生部の構成を示すブロック図である。高周波パターン発生部140は、周波数変化パターンデータを内蔵する。高周波パターン発生部140は、周波数変化パターンデータ記憶部141、および読み出し回路142を有する。
【0029】
周波数変化パターンデータ記憶部141が記憶する周波数変化パターンデータは、入力変数であるクロック値Cj(j=1,2,…,n)と、出力変数である加速粒子に付与すべきエネルギーレベルに対応する高周波発生装置14aの発生周波数fj(j=1,2,…,n)との対応を規定している。すなわち、周波数変化パターンデータは、クロック値Cjの増加に対する周波数fjの変化パターンデータである。
【0030】
読み出し回路142は、エネルギー判定・指令部120からクロック信号として順次受け入れるクロック値C1、C2、・・・を受けて、周波数変化パターンデータからクロック値C1、C2、・・・に対応する周波数f1、f2、・・・を順次読み出して、高周波発生装置14aへの周波数指令信号として出力する。
【0031】
図2のクロック発生器150は、クロック信号を出力する。周期信号発生器160は、一連の出力パターンを終了したときに、時間変化に対するエネルギーの変化パターンの最初の状態、すなわち、エネルギーの変化パターンを開始する直前の状態にリセットするリセット信号を出力する。リセット信号が出力されると、エネルギー判定・指令部120は、次にクロック信号を出力する場合に、出力するクロック信号はゼロからスタートとなる。
【0032】
図2のエネルギー判定・指令部120は、ビーム照射制御部110から、要求エネルギーレベルを示す信号(以下、要求エネルギー信号)と判定開始信号を受け入れる。また、エネルギー判定・指令部120は、加速粒子の現状エネルギーに相当する信号である現状エネルギー相当信号を受け入れて、現状エネルギー相当信号のレベルが要求エネルギーレベル信号のレベルまで下降したか否かを判定する。
【0033】
ここで、現状エネルギー相当信号としては、偏向電磁石電流パターン発生部130から偏向電磁石電源12aへの電流指令信号を用いて荷電粒子のエネルギーに換算した値を用いる。あるいは、現状エネルギー相当信号としては、高周波パターン発生部140から高周波発生装置14aへの周波数指令信号を用いて荷電粒子のエネルギーに換算した値を用いることでもよい。現状エネルギー相当信号として、電流指令信号あるいは周波数指令信号を用いることによって、エネルギー判定・指令部120と同一機器すなわち、同一の計算機、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の内部での信号の授受により現状エネルギー相当信号を確保することができる。
【0034】
エネルギー判定・指令部120は、また、クロック発生器150で発生したクロック信号と、周期信号発生器160で発生したリセット信号とを受け入れる。
【0035】
エネルギー判定・指令部120は、ビーム照射制御部110から判定開始信号を受け入れた状態において、現状エネルギー相当信号のレベルが要求エネルギーレベル信号のレベルまで下降したと判定した場合は、受け入れたクロック信号を偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140に出力し続ける。現状エネルギー相当信号のレベルが要求エネルギーレベル信号のレベルまで下降した、すなわち、現状エネルギー相当信号のレベルと要求エネルギーレベル信号のレベルとが一致したとの判定は、現状エネルギー相当信号のレベルと要求エネルギーレベル信号との差異の絶対値が予め定められた規定値より小さいか否かで行うことでよい。以下、この状態を「予め定められた許容差内で一致した」と表現する。
【0036】
なお、ビーム照射制御部110から判定開始信号を受け入れていない場合、あるいは、現状エネルギー相当信号のレベルが要求エネルギーレベル信号のレベルに到達したと判断した場合、エネルギー判定・指令部120は、クロック信号を出力しない。
【0037】
また、現状エネルギー相当信号のレベルが要求エネルギーレベル信号のレベルまで下降したと判定した場合は、エネルギー判定・指令部120は、クロック信号を停止するとともに、その後、ビーム出射制御部18にビーム出射可信号を出力する。
【0038】
図5は、加速器制御システムのエネルギー判定・指令部における判定・指令方法の手順を示すフロー図である。スタートでは、ビーム照射制御部110からリセット信号が出されて、クロック信号がリセットされた状態からスタートする。まず、ビーム照射制御部110からエネルギー判定・指令部120への判定開始信号の有無を判定する(ステップS01)。
【0039】
判定開始信号が出されていない場合(ステップS01 NO)、クロック停止中ならクロックを再開する(ステップS06)。また、ビーム出射可信号の出力を停止する(ステップS07)。この上で、ステップS01に戻る。
【0040】
ステップS01での判定で、判定開始信号が出されている場合(ステップS01 YES)には、現状エネルギー相当信号から現状エネルギーを算出する(ステップS02)。この状態では、エネルギー判定・指令部120から偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140にクロック信号を順次出力している。
【0041】
また、エネルギー判定・指令部120は、現状エネルギー相当信号のレベルと要求エネルギーレベル信号のレベルとの比較を行う。ここで、要求エネルギーレベル信号は、最初は、最も高いレベルの要求エネルギーEd1(
図6参照)から始まり、次の繰り返しの場合は、次に高いレベルの要求エネルギーEd2、と順次、より低いレベルの要求エネルギーに対応した値に下がっていく。これらの要求エネルギーは、各繰り返しのサイクルにおいてその都度、ビーム照射制御部110から出力される。
【0042】
エネルギー判定・指令部120は、比較により現状エネルギー相当信号のレベルと要求エネルギーレベル信号のレベルとの差異が規定値以下となったか否かを判定する(ステップS03)。規定値以下でない場合(ステップS03 NO)には、ステップS01以下を繰り返す。
【0043】
規定値以下と判定された場合(ステップS03 YES)には、クロックを停止する(ステップS04)。クロックを停止することによって、加速粒子の加速が停止される。ステップS04の後に、ビーム出射制御部18へ出射可信号を出力する(ステップS05)。その後、要求エネルギーが所定レベル以下に下がった値となると、クロックを再開して、入射レベルのエネルギーまで低下して、ステップS01に戻る。
【0044】
図6は、加速器制御システムの動作を示すグラフである。
図6の横軸は、以下に述べるサイクルについてサイクルの開始時点をゼロとしてクロックによって設定された時刻であるクロック時刻、縦軸は加速器10のビームエネルギーを示す。まず、このサイクルの開始のクロック時刻t1でリセット信号が周期信号発生器160から出力される。この直後は入射エネルギーEiの一定値レベルとなり、この間に入射用加速器17bでつくられたビームが加速器10に入射される。
【0045】
加速開始のクロック時刻t2において、加速器10は偏向電磁石12の磁場の増加、高周波加速空洞部14での加速パワーの印加と高周波発生装置14aの加速周波数の増加を開始して加速粒子のエネルギーを増加させる。最大エネルギーEmまで加速された時刻t3で加速完了となる。
【0046】
加速完了のクロック時刻t3から短時間を経て、減速開始のクロック時刻t4となり、ビーム照射制御部110からエネルギー判定・指令部120に対して判定開始信号が出力される。また、ビーム照射制御部110は、併せて、最も高いレベルの要求エネルギー信号をエネルギー判定・指令部120に出力する。この結果、エネルギー判定・指令部120は、現状エネルギー相当信号と要求エネルギーレベル信号の比較、判定を開始する。
【0047】
以降、クロック時刻t4からクロック時刻の進行により、電流変化パターンデータにおけるクロック値に対応する電流値、および周波数変化パターンデータにおけるクロック値に対応する周波数値が下がってくる。このため、偏向電磁石12での磁場、および高周波加速空洞部14での加速周波数が低下し、加速粒子のビームはエネルギーを高周波発生装置14aに与えて減速する。
【0048】
クロック時刻t5で、現状エネルギー相当信号が要求エネルギーEd1のレベル信号に予め定められた許容差内で一致したときに、エネルギー判定・指令部120は、偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140へのクロック出力を停止する。このため、偏向電磁石電流パターン発生部130は電流指令信号を更新しなくなり、高周波パターン発生部140は周波数指令信号を更新しなくなり、それぞれ一定値となる。この結果、加速粒子のエネルギーが一定となる。
【0049】
現状エネルギー相当信号が要求エネルギーの中で最大の要求エネルギーEd1のレベル信号に予め定められた許容差内で一致したことにより、エネルギー判定・指令部120は、ビーム出射制御部18に出射可信号を出力する。これを受けて、ビーム出射制御部18は、加速粒子を出射する。
【0050】
加速粒子の出射後に、クロック時刻t6から、エネルギー判定・指令部120は、現状エネルギー相当信号とEd1の次のレベルの要求エネルギーレベルEd2に対応する要求エネルギー信号との比較、判定を開始する。
【0051】
クロック時刻t7で、現状エネルギー相当信号が要求エネルギーEd2のレベル信号に予め定められた許容差内で一致したときに、エネルギー判定・指令部120は、偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140へのクロック出力を停止し、加速粒子のエネルギーが一定となる。現状エネルギー相当信号が要求エネルギーEd2のレベル信号に予め定められた許容差内で一致し、エネルギー判定・指令部120は、ビーム出射制御部18に出射可信号を出力する。これを受けて、ビーム出射制御部18は、加速粒子を出射する。
【0052】
クロック時刻t8で、再度、加速粒子のエネルギー減少を開始する。次のレベルの要求エネルギーがある場合は、同様の経緯をたどる。次のレベルの要求エネルギーがない場合は、停止状態まで加速粒子のエネルギーの減少を行い、クロック時刻t9で加速粒子のエネルギーは入射レベルまで低下する。
【0053】
なお、最大エネルギーEmは、Ed1、Ed2よりも高いエネルギーである。また、それぞれのサイクルにおける最大エネルギーEmは、互いに等しい値であることが望ましい。これは、偏向電磁石12の電流に対する磁束の特性にヒステリシスがあり、最大エネルギーEmに対応する最大電流が異なると、偏向電磁石12の電流に対する磁束の特性が異なってしまうことによる。この特性が異なると、エネルギーに対応する電流値にクロック値に対する関係を規定する電流変化パターンデータ、エネルギーに対応する周波数のクロック値に対する関係を規定する周波数変化パターンデータについて、パターン全体をその都度、整備する必要が出てくるためである。
【0054】
なお、最大エネルギーEmは、互いに等しい値であることには限定されない。たとえば、最大エネルギーEmとして、複数のレベルがあり、それぞれについて偏向電磁石12の電流に対する磁束の特性が既知であるような場合は、複数のレベルの最大エネルギーEmに対しての偏向電磁石12の電流に対する磁束の特性は準備できるので、これらのうちのいずれかを選択しても、それに対応する電流変化パターンデータおよび周波数変化パターンデータを選択すればよい。
【0055】
また、説明では、要求エネルギーが、Ed1、Ed2の2つのレベルの場合を示したが、これには限定されず、基本的には、1つでもよいし、3つ以上の場合であっても同様である。
【0056】
従来の技術では、要求エネルギーのレベルが変化した場合、あるいは要求エネルギーレベルの数が変わった場合には、それぞれに対応するパターンデータを作成する必要があった。一方、以上のように構成された本実施形態によれば、このような場合でも、電流変化パターンデータおよび周波数変化パターンデータとしてそれぞれ一種類のデータを用意しておくことによって、任意の要求エネルギーでのビーム出射が可能となり、スキャニング照射のようなより高度の治療照射を実現することが容易となる。
【0057】
また、がん治療などの場合、従来は、照射部分の深さが複数ある場合に、それぞれの深さに応じた必要エネルギーのそれぞれについてエネルギー上昇、照射(出射)、エネルギー降下のサイクルパターンに従った運転を順次行う必要があった。一方、本実施形態によれば、一つのサイクルパターンの中で、複数のエネルギーの加速粒子の照射を行うことができるため、全体の運転時間が短縮され、患者の負担の軽減を図ることができる。
【0058】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態に係る加速器制御システムのエネルギー判定・指令部の構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第2の実施形態においては、エネルギー判定・指令部120は、比較判定回路121、クロックカウンタ122、エネルギーパターンデータ記憶部123、およびクロック値読み出し回路124を有する。
【0059】
エネルギーパターンデータ記憶部123は、エネルギー変化パターンデータを有する。エネルギー変化パターンデータは、入力変数である加速粒子に付与すべきエネルギー値Ej(j=1,2,…,n)と、出力変数であるエネルギーレベルに対応するクロック値Cj(j=1,2,…,n)との対応を規定している。すなわち、エネルギー変化パターンデータは、エネルギー値Ejの増加に対するクロック値Cjの変化パターンデータである。すなわち、エネルギー変化パターンデータは、電流変化パターンデータあるいは周波数変化パターンデータとは、逆方向のデータであり、前記エネルギーレベルの変化パターンについてエネルギーに対するクロック値を与える逆関数データであるといえる。
【0060】
クロック値読み出し回路124は、ビーム照射制御部110から順次受け入れる要求エネルギー値Ed1、Ed2を受けて、周波数変化パターンデータから要求エネルギー値Em、Ed1、Ed2に対応するクロック値Cm、Cd1、Cd2を順次読み出して、偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140にクロック値を出力する。クロック値Cm、Cd1、Cd2は、クロック時刻tm、t5、t7に基づき設定する。
【0061】
本第2の実施形態においては、エネルギー判定・指令部120が要求エネルギーのレベル信号と比較する現状エネルギー相当信号を、クロック値読み出し回路124の出力を使用して算出する。
【0062】
すなわち、クロック値読み出し回路124の出力、クロック値読み出し回路124の出力を受けた偏向電磁石電流パターン発生部130の電流パターンデータのクロック値に対応する電流値、この電流値に基づく偏向電磁石電源への指令、偏向電磁石電源からの電流に基づく偏向電磁石での磁束は、一対一に対応している。
【0063】
また、クロック値読み出し回路124の出力、クロック値読み出し回路124の出力を受けた高周波パターン発生部140の周波数パターンデータのクロック値に対応する周波数、この周波数に基づく高周波発生装置14aへの指令、高周波発生装置14aによる高周波空洞での周波数は、一対一に対応する。
【0064】
この結果、加速粒子のエネルギーとも一対一に対応する。しかも、電気的な信号授受と、演算によるものなので、クロックによる変化に比べて十分に短い時間で対応関係が成立する。したがって、現状エネルギー相当信号を、クロック値読み出し回路124の出力を使用して算出することは妥当である。
【0065】
現状エネルギー相当信号として、クロック値読み出し回路124の出力を使用することによって、第1の実施形態と同様に、エネルギー判定・指令部120と同一機器すなわち、同一の計算機、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の内部での信号の授受により現状エネルギー相当信号を確保することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
[第3の実施形態]
図8は、第3の実施形態に係る加速器制御システムの構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第3の実施形態においては、エネルギー判定・指令部120で要求エネルギー信号と比較する現状エネルギー相当信号として、エネルギー測定部18aからのエネルギー信号を用いる。
【0068】
エネルギー測定部18aからの信号を直接に用いることによって、実際の照射ビームの加速粒子のエネルギーとの比較が可能となり、制御精度が向上する。
【0069】
[第4の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
図9は、第4の実施形態に係る加速器制御方法の手順を示すフロー図である。本第4の実施形態では、現状エネルギーが要求エネルギーに予め定められた許容差内で一致するか否かの判定(ステップS03)に先立って、現状エネルギーが、要求エネルギー+ΔEに予め定められた許容差内で一致するか否かの判定を行う(ステップS11)。
【0070】
現状エネルギーが、要求エネルギー+ΔEに予め定められた許容差内で一致すると判定されない(ステップS11 NO)場合には、ステップS01以降を繰り返す。現状エネルギーが、要求エネルギー+ΔEに予め定められた許容差内で一致すると判定された(ステップS11 YES)場合には、次に、現状エネルギーが、要求エネルギーに一致するか否かの判定を行う(ステップS03)。
【0071】
現状エネルギーが、要求エネルギーに予め定められた許容差内で一致すると判定した場合(ステップS03 YES)には、クロックを停止(ステップS04)して、ビーム出射可信号を出力する(ステップS05)。
【0072】
現状エネルギーが、要求エネルギーに予め定められた許容差内で一致しないと判定した場合(ステップS03 NO)には、クロックの周期Tを、kΔTずつ増加させ、ステップS01以下を繰り返す。なお、kは任意の正の実数である。すなわち、偏向電磁石電流パターン発生部130および高周波パターン発生部140のそれぞれへの指令信号であるクロック値を順次予め定められた幅で増加させる。
【0073】
図10は、第4の実施形態に係る粒子線治療加速器の制御システムの動作を示すグラフである。
図10は、k=1の場合、すなわち、クロックの周期は、ΔTずつ増加する場合を示す。
【0074】
第1の実施形態においては、
図10の「定周期動作」にて示すように、この周期で現状エネルギーのパターンは階段状に減少して要求エネルギーに到達する。要求エネルギーに到達したと判定することによってエネルギー要求は一定値となるため、
図10のA部として示すように、変化の傾きが不連続となる。
【0075】
偏向電磁石電流パターン発生部130からの電流指令が出力されてから偏向電磁石12の電流となり、偏向電磁石12の磁力となって現れるまでには僅かな遅れ時間が存在する。高周波パターン発生部140からの周波数指令の出力から高周波発生装置14aでの周波数についても同様に僅かな遅れ時間が存在する。このため、A部のような不連続な変化の傾きの存在する部分では、偏向電磁石12の電流制御、および高周波加速空洞部14での周波数制御の精度が低下する。これらの制御の精度が低下すると加速器10における加速粒子のビームの一部の損失を招く。
【0076】
本第4の実施形態においては、要求エネルギー+ΔEのエネルギーレベルから変化を円滑にすることにより、制御の精度の低下の防止を図ることができる。
【0077】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
【0078】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0079】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。