特許第6352796号(P6352796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352796
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   B60C19/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-256338(P2014-256338)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-117309(P2016-117309A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋平
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−203566(JP,A)
【文献】 特開2008−062639(JP,A)
【文献】 特開2006−027010(JP,A)
【文献】 仏国特許発明第1523571(FR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
B60C 9/00− 9/30
B60C 13/00−13/04
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤを構成する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の間に介在するシート層と、を備え、
前記シート層は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、
前記複数の貫通孔は、厚み方向一方から厚み方向他方にかけて径が漸減する第1種孔と、厚み方向一方から厚み方向他方にかけて径が漸増する第2種孔とを含み、
前記第1種孔の周囲には、少なくとも1つの前記第2種孔が配置されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1種孔および前記第2種孔は、第1の仮想直線に沿って交互に配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1種孔および前記第2種孔は、前記第1の仮想直線に直交する第2の仮想直線に沿って交互に配置されている請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記シート層には、一方向に沿って延びる凹状溝が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記シート層は、部材端を中心として部材の界面に沿った少なくとも5mmの範囲に配置されている請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッドゴムおよびチェーハを備え、前記シート層は、前記トレッドゴム及び前記チェーハの端を跨るように配置されている請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エア入り不良を抑制する構造を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、カーカスプライ、チェーハ、サイドウォールゴム、トレッドゴム、ビードフィラーなど、複数の部材で構成されている。各々の部材は別々に形成され、各々の部材を貼り付けて加硫前の生タイヤを成形し、生タイヤを加硫することで空気入りタイヤが製造される。
【0003】
生タイヤの成形時において、部材間の界面にエアが抱き込まれてしまい、部材間のエアが移動して部材端などの一箇所に集まると大きなエア溜まりとなり、セパレーションや成形不良となってしまうことが知られている。そこで、成形時に部材間にエアが抱き込まれないように成形する方法や、仮にエアを抱き込んだとしてもエアを抜く方法が種々提案されているようである。
【0004】
例えば、特許文献1には、サイドウォールゴムについてカーカスプライに接する面に凹状又は凸状を形成することで、サイドウォールゴムとカーカスプライとの間に生じるエア溜まりを外部に逃がすことでエア入り不良を効果的に減少させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−284165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1を含む従来技術では、部材間に抱き込んだエアを抜くことを主眼としているが、エア入り不良に対する新たな対策が望まれる。
【0007】
本開示は、このような課題に着目してなされたもので、その目的は、エア入り不良を抑制する新たな構造を有する空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本開示の空気入りタイヤは、空気入りタイヤを構成する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の間に介在するシート層と、を備え、前記シート層は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、前記複数の貫通孔は、厚み方向一方から厚み方向他方にかけて径が漸減する第1種孔と、厚み方向一方から厚み方向他方にかけて径が漸増する第2種孔とを含み、前記第1種孔の周囲には、少なくとも1つの前記第2種孔が配置されている。
【0010】
この構成によれば、第1種孔は、厚み方向一方にあるエアを積極的に集め、第2種孔は、厚み方向他方にあるエアを積極的に集めることで、エアを各々の貫通孔に分散できる。エアが分散されれば、エアが集まることで生じるエア入り不良を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図。
図2A】シート層を示す斜視図及び一部断面図。
図2B】シート層に形成される貫通孔の配置を示す平面図。
図3】部材端とシート層の配置位置に関する説明図。
図4】他の実施形態のシート層を示す斜視図。
図5A】上記以外の実施形態のシート層に形成される貫通孔の配置を示す平面図。
図5B】上記以外の実施形態のシート層に形成される貫通孔の配置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、空気入りタイヤは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向外側RD1に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向外側RD1の端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0014】
また、このラジアルタイヤは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカスプライ4を備える。カーカスプライ4は、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードを非導電性ゴムからなるトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカスプライ4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム4aが配置されている。
【0015】
さらに、この空気入りタイヤは、トレッド部3におけるカーカスプライ4の外側に設けられたトレッドゴム5と、サイドウォール部2におけるカーカスプライ4の外側に設けられたサイドウォールゴム6と、ビード部1におけるカーカスプライ4の外側に設けられたリムストリップゴム7とを有する。リムストリップゴム7はリムとの接触面を有する。トレッドゴム5の内側には、カーカスプライ4を補強するためにベルト4bが設けられ、そのベルト4bの外側にベルト補強材4cが設けられている。また、ビード部1におけるカーカスプライ4の外側には、ビード部1を覆うようにチェーハ1cが配置されている。
【0016】
本実施形態では、サイドウォールゴム6のタイヤ径方向外側RD1の端部をトレッドゴム5の両側端部に載せてなるサイドウォールオントレッド(SWOT)構造を採用している。なお、本実施形態では、サイドウォールオントレッド構造を採用しているが、この構造に限られない。トレッドゴム5の側部をサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側RD1の端部に載せてなるトレッドオンサイド(TOS)構造を採用することも可能である。
【0017】
図1に示すように、第1部材としてのサイドウォールゴム6と第2部材としてのカーカスプライ4との間には、シート層8を介在している。シート層8は、ゴム、樹脂又はこれらの組み合わせで形成される。具体的には、シート層8は、ゴム製シート単体でもよく、また、樹脂フィルム単体でもよく、樹脂フィルムをゴムでコーティングしたものでもよい。図2Aに示すように、シート層8の厚みTは、0.6mm以上且つ2mm以下であることが好ましい。シート層8の厚みTが0.6mmよりも薄ければシート層8自体を設ける意味がなく、シート層8の厚みTが2mmを超えると端部にエアを抱き込みやすくなるからである。
【0018】
図2Aに示すように、シート層8は、厚み方向TDに貫通する複数の貫通孔80,81が形成されている。複数の貫通孔80,81は、厚み方向一方TD1から厚み方向他方TD2にかけて径が漸減する第1種孔80と、厚み方向一方TD1から厚み方向他方TD2にかけて径が漸増する第2種孔81と、を含んでいる。すなわち、貫通孔80,81は、厚み方向一方TD1と厚み方向他方TD2の孔サイズが異なる。大きい方の孔の径R1は、シート層8の厚みTの1.0〜0.7倍が好ましい。小さい方の孔の径R2は、径R1の0.8〜0.3倍が好ましい。本実施形態では、図2Aに示すように、孔の断面形状は、直線状であるが、これには限定されない。例えば、曲線を含んでいてもよい。
【0019】
図2Bに示すように、貫通孔80,81の配置について、第1種孔80および第2種孔81は、第1の仮想直線L1に沿って交互に配置されている。更に、第1種孔80および第2種孔81は、第1の仮想直線L1に直交する第2の仮想直線L2に沿って交互に配置されている。これによって、第1種孔80および第2種孔81は、X方向及びX方向に直交するY方向に沿って交互に配置されている。すなわち、第1種孔80の周囲には、少なくとも1つの第2種孔81が配置されることになる。
【0020】
このように、厚み方向一方TD1に大きく開く第1種孔80の周囲に、厚み方向他方TD2に大きく開く第2種孔81が少なくとも1つ配置されるようにすれば、エアを分散させることができ、大きなエア溜まりに起因するエア入り不良を抑制することができる。その理由を以下に説明する。シート層8の貫通孔は、エア入り不良を防ぐために、大きくすることができない。かといって、サイズが一定の貫通孔を設けたのでは、貫通孔と貫通孔との間の部分にエアが溜まるおそれがある。そこで、厚み方向一方TD1に大きく開く第1種孔80を設けることで、厚み方向一方TD1における第1種孔80の周囲にあるエアを当該第1種孔80に集め、エアを複数の第1種孔80に分散することができる。しかし、第1種孔80だけでは厚み方向他方TD2のエアが分散されないので、厚み方向他方TD2に大きく開く第2種孔81を設けることで、厚み方向他方TD2にあるエアを複数の第2種孔81に分散できる。すなわち、第1種孔80は、厚み方向一方TD1にあるエアを積極的に集め、第2種孔81は、厚み方向他方TD2にあるエアを積極的に集めることで、エアを各々の貫通孔80,81に分散できる。エアは集まって大きなエア溜まりにならなければ、エア入り不良を招来しないので、エアを各々の貫通孔80,81に分散することでエア入り不良を抑制することができる。
【0021】
本実施形態では、図1に示すように、シート層8は、カーカスプライ4とサイドウォールゴム6との間であって、トレッドゴム5の端P1とチェーハ1cの端P2を跨るように配置されている。このようにすれば、エア入り不良が生じやすいトレッドゴム5、サイドウォールゴム6、カーカスプライ4及びチェーハ1cの部材間のエアを分散でき、エア入り不良を効果的に抑制可能となる。また、図3に示すように、シート層8は、トレッドゴム5の部材端P1を中心として部材の界面に沿った少なくとも5mmの範囲に配置されている。チェーハ1cの部材端P2についても同様である。好ましくは、部材端を中心として部材の界面に沿った少なくとも30mmの範囲に配置されていればよい。このように、シート層8を、部材端を中心として余分に配置しておけば、製造時に部材の位置ズレが生じたとしても部材端にシート層8が存在することになり、部材端にエアが集まることを抑制できる。
【0022】
また、ビードコア1aの上端面から断面高さ60mmまでの範囲の部材間にシート層8を設けることが好ましい。この範囲では、成形時にエア溜まりが生じやすい、またエアが集積しやすい部位だからである。
【0023】
なお、シート層8の貫通孔の有無、及び、貫通孔が第1種孔80であるか第2種孔81であるかについては、加硫後の空気入りタイヤのゴムの界面を見ることで判別可能である。
【0024】
[変形例]
図4に示す例では、シート層8には、一方向に沿って延びる1又は複数の凹状溝82を形成してもよい。図4の例では、複数の貫通孔80,81の間に凹状溝82を配置しているが、凹状溝82が貫通孔80,81を通り、貫通孔同士が凹状溝82によって連結されるように、凹状溝82を形成してもよい。図4の例では、凹状溝82はソーカットとなるように断面が三角形状であるが、これに限定されない。例えば、四角形などの多角形、楕円や真円などの円形でもよい。凹状溝82の幅及び深さは、シート層8の厚みTの0.5〜0.2倍が好ましい。凹状溝82は、本明細書の他の構成と適宜組み合わせ可能である。
【0025】
図5Aに示す例では、第1種孔80および第2種孔81は、千鳥状に配置されている。千鳥状では、第1種孔80および第2種孔81は、第1の仮想直線L1に沿って交互に配置されているが、第1の仮想直線L1に直交する第2の仮想直線に沿って交互に配置されていない。このような配置でも、第1種孔80の周囲に少なくとも1つの第2種孔81が配置されているので、エア入り不良を抑制することができる。
【0026】
図5Bに示す例では、第1種孔80および第2種孔81は、ランダムに配置されている。ランダム配置でも、第1種孔80の周囲に少なくとも1つの第2種孔81が配置されている可能性が高いので、エア入り不良を抑制することができる。
【0027】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、空気入りタイヤを構成する第1部材としてのサイドウォールゴム6及び第2部材としてのカーカスプライ4と、第1部材としてのサイドウォールゴム6及び第2部材としてのカーカスプライ4の間に介在するシート層8と、を備える。シート層8は、厚み方向TDに貫通する複数の貫通孔80,81が形成されている。複数の貫通孔80,81は、厚み方向一方TD1から厚み方向他方TD2にかけて径が漸減する第1種孔80と、厚み方向一方TD1から厚み方向他方TD2にかけて径が漸増する第2種孔81とを含む。第1種孔80の周囲には、少なくとも1つの第2種孔81が配置されている。
【0028】
この構成によれば、第1種孔80は、厚み方向一方TD1にあるエアを積極的に集め、第2種孔81は、厚み方向他方TD2にあるエアを積極的に集めることで、エアを各々の貫通孔80,81に分散できる。エアが分散されれば、エアが集まることで生じるエア入り不良を抑制できる。
【0029】
本実施形態では、第1種孔80および第2種孔81は、第1の仮想直線L1に沿って交互に配置されている。
【0030】
この構成によれば、少なくとも第1の仮想直線L1に沿って第1種孔80に隣接して2つの第2種孔81が配置されることになるので、エアをより良く分散することができる。
【0031】
本実施形態では、第1種孔80および第2種孔81は、第1の仮想直線L1だけでなく、第1の仮想直線L1に直交する第2の仮想直線L2に沿って交互に配置されている。
【0032】
この構成によれば、第1の仮想直線L1だけでなく、第2の仮想直線L2に沿って第1種孔80に隣接して2つの第2種孔81が配置されることになるので、エアをより一層分散することができる。
【0033】
本実施形態では、シート層8には、一方向に沿って延びる凹状溝82が形成されている。
【0034】
この構成によれば、凹状溝82に沿ってエアが移動することになるので、エアの分散効果を高める点で好ましいと考えられる。
【0035】
本実施形態では、シート層8は、部材端P1,P2を中心として部材の界面に沿った少なくとも5mmの範囲に配置されている。
【0036】
この構成によれば、製造誤差によってシート層8の位置がズレたとしても、シート層8が部材端に配置される場合が多くなり、部材端にエアが集まることを抑制することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、トレッドゴム5およびチェーハ1cを備え、シート層8は、トレッドゴム5及びチェーハ1cの端を跨るように配置されている。この構成によれば、トレッドゴム5及びチェーハ1cの端のエア入り不良を抑制することができる。
【0038】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0039】
上記では、第1部材をサイドウォールゴム6とし、第2部材をカーカスプライ4としているが、タイヤを構成する部材であれば、どの部材であっても同様のことがいえる。
【符号の説明】
【0040】
1c…チェーハ
4…カーカスプライ(第2部材)
5…トレッドゴム
6…サイドウォールゴム(第1部材)
8…シート層
80…第1種孔
81…第2種孔
82…凹状溝
TD…厚み方向
TD1…厚み方向一方
TD2…厚み方向他方
L1…第1の仮想直線
L2…第2の仮想直線
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B