(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルミニウムフレークペーストにおいて、その作製直後の前記アルミニウムフレークのD50の粒子径と、50℃の恒温室に3ヶ月間保管した後の前記アルミニウムフレークのD50の粒子径との差が3%以下となる、請求項1に記載のアルミニウムフレークペースト。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
<アルミニウムフレークペーストの製造方法>
本発明のアルミニウムフレークペーストの製造方法は、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒中で原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを得る第1工程と、第1工程で得られたアルミニウムフレークを、極性基を有する有機化合物で処理し、かつペースト化する第2工程と、を含むことを特徴とする。本発明の製造方法は、第1工程と第2工程とを含む限り、他の工程を含んでいてもよい。このような他の工程としては、濾過操作またはスクリーン操作などの固液分離工程などを挙げることができる。
【0022】
<第1工程>
本発明の製造方法の第1工程は、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒中で原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを得る工程である。以下、第1工程で使用する原材料、および第1工程の条件などについて説明する。
【0023】
原料アルミニウム粉末のフレーク化には、磨砕メディアを有する磨砕装置が使用される。ここで、「フレーク化」とは、粒子状の粉末を磨砕装置などを用いてフレーク状(鱗片状)に成形することを意味する。本発明において使用する磨砕装置については、特に種類は限定されず、従来公知の磨砕装置を好適に使用できる。たとえば、内部に回転アームを備えたアトライター型の磨砕装置、または円筒状のボールミルなどを好ましく用いることができる。上記の磨砕装置の中でも、円筒状のボールミルは、より輝度の高い品質のアルミニウムフレークを得ることができるので、特に好ましい。
【0024】
なお、本発明の製造方法において、ボールミルを用いる場合には、ボールミルの回転数を臨界回転数の95%以下とすることが好ましい。ここで言う臨界回転数とは、それ以上回転数を上げると、ボール(磨砕メディア)がボールミル内壁に遠心力により固定される回転数をいい、以下の式(1)で示される。
【0025】
n=[1/(2π)]×(g/r)
1/2 ・・・(1)
(なお、式(1)において、nは回転数(rpm)、gは重力加速度(3528000cm/min
2)、rはボールミル半径(cm)を表わす。)
ボールミルの回転数が臨界回転数の95%を超える場合には、磨砕効果よりも粉砕効果が強くなり、十分なフレーク化ができず、逆に大きなフレーク粒子が分断されて極微細粒子ができるため、アルミニウムフレークペーストを含む塗膜の輝度が低下する傾向を示す。また、特に直径が1mm以下の鋼球の磨砕メディアを用いる場合には、ボールミルの回転数が臨界回転数に近くなれば、磨砕メディア同士の衝突による衝撃力が大きくなるために磨砕メディアの寿命が短くなり、連続使用が困難となる傾向がある。その原因は、直径が1mm以下の鋼球の磨砕メディアには、一般的に当該表面に硬化処理皮膜が形成されていないためである。ボールミルの回転数を臨界回転数の95%以下に保つことにより、磨砕メディアの寿命を延ばすことができる。
【0026】
磨砕時間は、特に限定されず、磨砕メディアの直径、磨砕メディアの質量、磨砕溶剤の量および回転数などに従って適宜決定すればよい。通常は、3〜48時間の間である。
【0027】
<磨砕メディア>
上記のような磨砕装置で用いられる磨砕メディアとしては、特に限定されず、鋼球、ステンレス球、ガラス球、セラミック球など種々の材質のものが使用できるが、比重と経済性の観点から、鋼を含む材質からなる球状メディアが好ましい。なお、用いる磨砕メディアは、球状であることが好ましいが、必ずしも真球状の磨砕メディアである必要は無く、実質的に球状の磨砕メディアであれば良い。また、磨砕メディアの大きさは、最終的に得ようとするアルミニウムフレークにより適宜選択すればよいが、たとえば、直径が0.3mm〜5.0mmの範囲であることが好ましい。最終的に得ようとするアルミニウムフレークが比較的小粒子径でかつ輝度の高いものである場合、微細な原料アルミニウム粉末をフレーク化できるように、特に鋼球の磨砕メディアを用いる場合、その直径は0.3mm〜1.0mmの範囲が好ましく、0.5〜0.8mmの範囲がより好ましい。直径が1.0mmを超える場合、磨砕メディア間に微細な原料アルミニウム粉末がトラップされ、当該原料アルミニウム粉末は磨砕されにくくなり効率よくフレーク化されなくなる場合がある。一方、直径が0.3mm未満の場合、磨砕メディアの質量が軽すぎて磨砕力が劣り、フレーク化に時間がかかりすぎて、実質的に原料アルミニウム粉末をフレーク化できない場合がある。また、上記の磨砕メディアとしては、直径の異なる二種以上の磨砕メディアを混合して使用してもよい。また、直径が1.0mmを超える磨砕メディアが、本発明に用いる磨砕装置の中に含まれていてもよい。磨砕メディアの量は、後述のように、磨砕装置に投入する原料アルミニウム粉末の量に従って変化させればよい。
【0028】
<原料アルミニウム粉末>
本発明の製造方法において、アルミニウムフレークペーストの原料となる原料アルミニウム粉末は、特に限定されず、その組成はアルミニウムのみから構成されていてもよいし、アルミニウム基合金から構成されていてもよく、アルミニウムの純度は特に限定されない。塗膜および印刷物の光沢をより高くするためには、通常純アルミニウムの使用が好ましく、純度99.9質量%以上の純アルミニウムであればさらに好ましい。
【0029】
また、当該原料アルミニウム粉末に含まれる酸素量は、当該原料アルミニウム粉末の粒度または形状により変化し、特に限定はされないが、0.5質量%以下が好ましい。酸素量が0.5質量%を超える場合には、酸化皮膜が強固となり、延性の低下によって薄いフレークの製造が困難となる傾向がある。
【0030】
本発明の製造方法で用いる原料アルミニウム粉末は、どのような製法で得られたものでも使用可能であるが、入手のしやすさまたはコストから、アトマイズドアルミニウム粉末であることが好ましい。
【0031】
アトマイズドアルミニウム粉末は、従来公知のアトマイズ法により得られる原料アルミニウム粉末であって、その噴霧媒は特に限定されず、たとえば、空気、窒素、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、およびこれらのガスを少なくとも一種含む混合ガスなどが使用できる。また、水などの液体を噴霧媒として用いることもできる。これらの中でも、アルゴンガスあるいは窒素ガスを噴霧媒に用いたアトマイズ法により得られる原料アルミニウム粉末が、球状に近い形状となり、当該原料アルミニウム粉末を使用して得られたアルミニウムフレークの真円度の高いものが得られ易くなる点から特に好適である。
【0032】
本発明の製造方法に用いる原料アルミニウム粉末の形状は、特に限定されず、たとえば、球状、偏平状、板状、涙滴状、針状、回転楕円体状、不定形状、などのいずれであっても差し支えないが、球状に近い方が、真円度が高くなり、輝度の高いアルミニウムフレークが得られやすくなるため、より好ましい。
【0033】
本発明の製造方法に用いる原料アルミニウム粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、1.0μm以上50.0μm以下の範囲にあることが好ましく、1.0〜10.0μmの範囲にあることがより好ましく、1.0〜6.0μmの範囲にあればさらに好ましい。なお、本発明において、平均粒子径(D50)は、レーザー回折法によって測定された粒度分布より体積平均を算出して求めることができる。
【0034】
D50
Alが50.0μmを超えると、フレーク化後のアルミニウムフレークの平均粒子径が大きくなり、そのため、アルミニウムフレークペーストを含む塗膜の形成時にアルミニウムフレークの配向が乱れたり、アルミニウムフレークの突き出しにより塗膜表面にブツが見られたり、塗膜のキラキラ感が強すぎて用途によっては意匠的に好まれなかったりする場合がある。一方で、D50
Alが1.0μm未満の場合には、特に直径が小さな磨砕メディアを用いたとき(たとえば0.3〜1.0mmの範囲にある磨砕メディアを用いてフレーク化したとき)には、効率よく原料アルミニウム粉末をフレーク化できず、十分な塗膜輝度が得られない傾向がある。
【0035】
<原料アルミニウム粉末の平均粒子径と磨砕メディアの直径との比>
本発明の製造方法では、原料アルミニウム粉末の平均粒子径(D50
Al)と、磨砕メディアの直径(D
B)との比(D50
Al/D
B)は特に限定されないが、鋼球の磨砕メディアを用いる場合、0.001〜0.02の範囲にあることが好ましく、0.0015〜0.008の範囲にあればさらに好ましい。D50
Al/D
Bの値が上記の範囲にあることにより、より微細な原料アルミニウム粉末をフレーク化することが可能となり、アルミニウムフレークペーストの輝度が向上するからである。D50
Al/D
Bの値が0.001未満の場合は、鋼球磨砕メディアの間隙が原料アルミニウム粉末に比較して大きすぎるため、原料アルミニウム粉末を効率よくフレーク化できず、あまりフレーク化されていない微細なアルミニウムフレークが含まれたり、フレーク化を進めるために長時間の磨砕が必要となり、その間に大きなアルミニウムフレークの千切れが生じたりして、アルミニウムフレークペーストの輝度が低下する傾向を示す。一方で、D50
Al/D
Bの値が0.02を超える場合には、原料アルミニウム粉末に対して鋼球磨砕メディアが小さすぎるため、個々の鋼球磨砕メディアの質量と相関関係にある磨砕力が不足して原料アルミニウム粉末を効率よくフレーク化できず、塗膜の輝度が低下する傾向を示す。
【0036】
<原料アルミニウム粉末と磨砕メディアとの質量比>
本発明の製造方法においては、フレーク化(磨砕)時の磨砕メディアの質量(W
B(g))と原料アルミニウム粉末の質量(W
Al(g))との比(W
B/W
Al)は、特に限定されないが、20〜200の範囲にあることが好ましい。上記の比が20未満では生産性が低下する傾向を示す。また、上記の比が200を超えると磨砕時間が非常に長くなるとともに、磨砕中にスラリー粘度が上がりすぎて、フレーク化の効率が低下する傾向を示す。
【0037】
<主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒>
本発明の製造方法では、磨砕溶剤として、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を使用する。
【0038】
一般的には、アルミニウムフレークおよびアルミニウムフレークペーストを製造する際、磨砕溶剤としては、脂肪族系炭化水素を主成分とするミネラルスピリットと呼ばれる有機溶媒が用いられている。しかし、本発明は、磨砕溶剤として、ミネラルスピリットに代えて、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を使用することで、従来の方法で得られるものに比べ高い輝度を与えるアルミニウムフレークを得られる、という特徴を有する。
【0039】
即ち、本発明の製造方法は、高輝度のアルミニウムフレークペーストを得ることができるという優れた効果を示す。磨砕溶剤に、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を使用することで、磨砕メディアからアルミニウムフレークに与えられる粉砕衝撃が弱められ、アルミニウムフレークの千切れが生じにくくなるためであると考えられる。
【0040】
ここで、主成分として芳香族系炭化水素を含む、とは、有機溶媒全体の質量に対し、芳香族系炭化水素を50質量%以上含むことを意味する。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、有機溶媒の全てが芳香族系炭化水素であってもよい。
【0041】
芳香族系炭化水素の種類は特に限定されないが、一般的には、磨砕溶剤への引火性などの安全上の問題を配慮して、120℃以上の高沸点のものが好適に使用される。使用可能な芳香族系炭化水素の例としては、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、キシレン、クメン、ナフタレンなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。ニトロ基またはハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0042】
なお、本発明の製造方法における、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒には、主成分として芳香族系炭化水素を含んでさえいれば、他の有機溶媒が含まれていても使用可能である。
【0043】
<原料アルミニウム粉末の質量と主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒の体積との比>
本発明の製造方法では、原料アルミニウム粉末の質量(W
Al(kg))と、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒の体積(W
sol(L))との比(W
Al/W
sol(kg/L))は特に限定されないが、0.1〜0.3kg/Lの範囲にあることが好ましく、0.14〜0.20kg/Lの範囲にあればさらに好ましい。W
Al/W
solが0.1kg/L未満では、フレーク化時のスラリー粘度が低くなって、過剰な有機溶媒の存在により磨砕メディアの原料アルミニウム粉末への磨砕衝撃が弱くなり、フレーク化の効率が低下するため、原料アルミニウム粉末を均一にフレーク化できない傾向を示す。一方で、W
Al/W
solが0.3kg/Lを超えると、磨砕時のスラリーの粘度が高くなりすぎて磨砕メディアの動きが抑制され、原料アルミニウム粉末を均一にフレーク化できない傾向を示す。
【0044】
<磨砕助剤>
本発明の製造方法において、原料アルミニウム粉末のフレーク化は、磨砕助剤の存在下で行なうことが好ましい。磨砕助剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用可能である。たとえば、オレイン酸、ステアリン酸、などの脂肪酸、または脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族アルコールおよび脂肪酸と脂肪族アルコールとからなるエステルなどを好適に使用可能である。
【0045】
このような磨砕助剤は、アルミニウムフレーク表面の不必要な酸化を抑制し、アルミニウムフレークペーストの輝度を改善する効果を有する。フレーク化(磨砕)時の磨砕助剤の添加量は、特に限定されないが、原料アルミニウム粉末100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましく、0.5〜10質量部の範囲であればさらに好ましい。磨砕助剤の添加量が0.1質量部未満では、アルミニウムフレークの凝集が生じて、アルミニウムフレークペーストの輝度が低下する恐れがあり、またアルミニウムフレークをフレーク化するのに潤滑性が足りず、アルミニウムフレークの千切れが生じたりして輝度が低下する場合がある。一方で磨砕助剤の添加量が20質量部を超えると、塗料の物性、特に密着性が低下する恐れがあり、またアルミニウムフレークがフレーク化されにくくなり、磨砕時間が長くなる点で不利となる場合がある。
【0046】
<アルミニウムフレークの分離>
第1工程では、原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを得た後に、アルミニウムフレークを取り出すために、濾過操作またはスクリーン操作などの固液分離操作を行なってもよい。たとえば、フレーク化(磨砕)の後に、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出して振動スクリーンにかけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離し、アルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得る操作を行なうことができる。ここで、「フィルターケーキ」とは、芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を除去した後に残る半固形の物質を言う。濾過操作またはスクリーン操作において、芳香族系炭化水素を含む有機溶媒中から磨砕メディアを除くこともできる。
【0047】
なお、濾過操作またはスクリーン操作は、第1工程中に限らず、後述の各工程において適宜行なうことも可能である。
【0048】
<溶媒置換または溶媒添加>
第1工程では、原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを得た後に、溶媒置換または溶媒添加によって、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を、異なる溶媒に変更してもよい。このとき、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を、後述の「極性基を有する有機化合物」に対する溶解性がより低い溶媒に変更することができる。これにより、後述の第2工程において、溶媒に対する極性基を有する有機化合物の溶解をより抑えることができる。後述のとおり、極性基を有する有機化合物は、アルミニウムフレーク表面に付着していても、溶媒中に含まれていても、いずれの場合であってもアルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を向上させる効果を有するが、アルミニウムフレーク表面に付着した状態にあることが、貯蔵安定性を向上させる上で、より好ましい。そのため、溶媒の変更を行なうことにより、極性基を有する有機化合物の溶媒中での溶解を抑え、アルミニウムフレーク表面への付着量を高めることができ、アルミニウムフレーク表面を保護する効果を向上させることができる。
【0049】
<第2工程>
本発明の製造方法の第2工程は、第1工程で得られたアルミニウムフレークを、極性基を有する有機化合物で処理し、かつペースト化する工程である。ここで、「極性基を有する有機化合物で処理」するとは、アルミニウムフレーク表面に極性基を有する有機化合物を付着させることを目的とする工程である。なお、第2工程が、アルミニウムフレークにペースト化溶剤を加えた状態で実行される場合は、この極性基を有する有機化合物は、アルミニウムフレーク表面に付着するとともに、ペースト化溶剤中に含有されていてもよい。以下、第2工程で使用する原材料、条件などについて説明する。
【0050】
<極性基を有する有機化合物>
本発明の製造方法の第2工程では、第1工程で得られたアルミニウムフレークを、極性基を有する有機化合物で処理する操作を行なう。
【0051】
主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を磨砕溶剤として使用した場合には、脂肪族系炭化水素(代表的にはミネラルスピリット)を磨砕溶剤として使用した場合と比較して、オレイン酸およびステアリン酸などの脂肪酸に対する溶解性が高くなる。オレイン酸およびステアリン酸などの脂肪酸は、フレーク化(磨砕)時に磨砕助剤として加えられるものであり、フレーク化後にアルミニウムフレーク表面に付着して、アルミニウムフレークの平行配列性の付与、凝集の抑制、アルミニウムフレーク表面の保護などの役割を果たす。しかしながら、磨砕溶剤への溶解性が高くなると、結果的にアルミニウムフレーク表面に付着する脂肪酸の量が減少する。そのため、経時での凝集などが発生し、アルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性が低下してしまう。しかし、本発明の製造方法において、第1工程で得られたアルミニウムフレークを、極性基を有する有機化合物で処理することによって、アルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を向上させることができる。
【0052】
即ち、本発明の製造方法は、貯蔵安定性の良好なアルミニウムフレークペーストを得ることができるという優れた効果を示す。極性基を有する有機化合物で処理することによって、アルミニウムフレークペースト中でのアルミニウムフレークの凝集の発生が抑制されるためである。
【0053】
上述の通り、極性基を有する有機化合物は、アルミニウムフレーク表面に付着していても、ペースト化溶剤中に含まれていても、貯蔵安定性を向上させる効果を有する。しかしながら、貯蔵安定性の向上のためには、極性基を有する有機化合物がアルミニウムフレーク表面に付着した状態にあることが、より好ましい。
【0054】
本発明の製造方法において使用する、極性基を有する有機化合物とは、たとえばヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基(アミド結合)、エステル基(エステル結合)等のような極性基を有する有機化合物であるが、その化学構造は特に限定されない。好ましくは、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、および脂肪酸と脂肪族アルコールとからなるエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物を使用するとよい。極性基を有する有機化合物は、第1工程で磨砕助剤として添加した化合物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
脂肪酸としては、たとえばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、アラキドン酸、ベヘニン酸などを挙げることができる。
【0056】
脂肪族アミンとしては、たとえばラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミンなどを挙げることができる。
【0057】
脂肪酸アミドとしては、たとえばラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどを挙げることができる。
【0058】
脂肪族アルコールとしては、たとえばカプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどを挙げることができる。
【0059】
脂肪酸と脂肪族アルコールとからなるエステルとしては、たとえばラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、オレイン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピルなどを挙げることができる。
【0060】
これらの中でも、好ましくは炭素数12以上の脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族アルコールおよび脂肪酸と脂肪族アルコールとからなるエステルが好適である。炭素数12以上のものを用いることで、貯蔵安定性をより高くすることができる。炭素数14以上とすればより好ましい。
【0061】
第2工程で使用する当該極性基を有する有機化合物の量は、特に限定されないが、アルミニウムフレーク100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲であることが好ましい。上記の量が0.5質量部未満では、アルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を向上する効果が少なく、経時での貯蔵安定性の低下により輝度が低下する場合がある。また、上記の量が20質量部を超えると、アルミニウムフレークを塗料に配合した際の塗膜の密着性が悪くなるおそれがある。
【0062】
極性基を有する有機化合物でアルミニウムフレークを処理する操作方法は、特に限定されないが、たとえば、粉末状またはペースト状のアルミニウムフレークを、極性基を有する有機化合物と接触または混合することで、アルミニウムフレークの表面に極性基を有する有機化合物を付着させる方法等を挙げることができる。また、アルミニウムフレークが溶媒中に含まれている状態で第2工程を行なう場合には、アルミニウムフレークを大量の溶媒中にスラリー状に分散させるのと同時に、または分散させた後に、上記の極性基を有する有機化合物を添加し、当該アルミニウムフレーク表面に極性基を有する有機化合物を付着させる方法などが例示できる。粉末状またはペースト状のアルミニウムフレークを溶媒中に分散させずに使用する場合、接触または混合する方法は特に限定されないが、ペースト状態でニーダーミキサーなどの混練機を用いて混合する方法などが例示できる。粉末状またはペースト状のアルミニウムフレークを溶媒中に分散させずに使用する場合と、溶媒中に分散された状態のアルミニウムフレークを使用する場合のいずれにおいても、第1工程のフレーク化の際に磨砕助剤として極性基を有する有機化合物を添加する場合に比べて、極性基を有する有機化合物をより高濃度でアルミニウムフレークと接触させることができる。そのため、より効率的に、アルミニウムフレーク表面に極性基を有する有機化合物を付着させることができる。
【0063】
極性基を有する有機化合物は、アルミニウムフレーク表面に付着していても、溶媒中に含まれていても、アルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を向上させる効果を有するが、アルミニウムフレーク表面に付着した状態にあることが、貯蔵安定性を向上させる上で、より好ましい。そのため、極性基を有する有機化合物をアルミニウムフレーク表面に効率的に付着させることで、アルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を向上させることができる。
【0064】
極性基を有する有機化合物でアルミニウムフレークを処理する時間は特に限定されないが、粉末状またはペースト状のアルミニウムフレークを溶媒中に分散させずに使用する場合と、溶媒中に分散された状態のアルミニウムフレークを使用する場合のいずれにおいても、5分〜10時間の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、アルミニウムフレーク各々が均一に処理をされ、貯蔵安定性が良くなり、フレークの輝度を保持することができる点で有利である。
【0065】
極性基を有する有機化合物でアルミニウムフレークを処理するときに、溶媒を使用する場合、その種類は特に限定されない。たとえば、水、アルコール、エーテルなどの極性溶媒を使用することもできるし、芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素などの非極性溶媒を使用することもできる。しかし、アルミニウムフレークに対する溶媒による腐食の影響を避けるためには、非極性溶媒を使用することが好ましい。
【0066】
このような非極性溶媒としては、沸点が120℃から250℃程度の範囲にある脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素およびそれらの混合物などを好適に使用できる。具体的には、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、キシレン、ソルベントナフサ、灯油、ミネラルスピリット、石油ベンジンなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
<ペースト化>
本発明の第2工程において、「ペースト化する」とは、第1工程におけるアルミニウムフレークを含むスラリーの粘度を上昇させること(アルミニウムフレークをフィルターケーキとして得た場合は、それを高粘性流体とすること)をいう。この操作は通常ペースト化溶剤を添加することにより行なわれるが、アルミニウムフレークに極性基を有する有機化合物を添加して処理する際の混合系の粘度が高い場合は、その混合系を構成する溶媒をペースト化溶剤とみなし、別途ペースト化溶剤を添加する必要はない。アルミニウムフレークに極性基を有する有機化合物を添加して処理する際の混合系の粘度が低い場合、その混合系にペースト化溶剤を添加するか、混合系を構成する溶媒をペースト化溶剤と置き換えることにより、混合系の粘度を上昇させることもできる。
【0068】
ここで、「ペースト化溶剤」とは、ペースト化するためにアルミニウムフレークと混合される化合物のことをいう。ペースト化溶剤としては、第1工程で使用した主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒、または、第2工程が溶媒を含む場合は、その溶媒をそのままペースト化溶剤としてもよいし、上述のような溶媒添加または溶媒置換などにより別の溶媒をペースト化溶剤としてもよい。ペースト化溶剤の材料は特に限定されないが、脂肪族系炭化水素(たとえばミネラルスピリット)、主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒の他、グリコールエーテル系溶媒などを使用できる。なお、アルミニウムフレークペースト中でのペースト化溶剤の含有量は特に限定されないが、15質量%以上50質量%以下の範囲であれば、より貯蔵安定性を向上でき、また、塗料化の際に塗料中でのアルミニウムフレークの分散性を向上できる点で好ましい。25質量%以上40質量%以下の範囲であれば、より好ましい。
【0069】
<抗酸化剤の添加>
本発明の製造方法において、抗酸化剤を添加する操作を含んでいてもよい。
【0070】
アルミニウムフレーク表面に付着している脂肪酸などの磨砕助剤または極性基を有する有機化合物の中で、その構造中に不飽和二重結合を有しているものは、ラジカル反応を起こし変性化したりポリマー化したりすることがあるという性質(変質化)を有している。この変質化により、アルミニウムフレーク同士が凝集したり、アルミニウムフレークの平行配列に悪影響を与え、輝度が低下することがある。
【0071】
抗酸化剤を添加することで、これらの変質化を停止または抑制することができる。
抗酸化剤を添加する操作を製造工程のどの段階で行なうかは、アルミニウムフレークへ加えた磨砕助剤および極性基を有する有機化合物の種類によって、適宜決定することができる。具体的には、不飽和脂肪酸など、その構造中に不飽和二重結合を有してラジカル反応を起こしやすいものを磨砕助剤として用いたときには、第1工程でのフレーク化中に抗酸化剤を添加すればよい。また、第2工程で極性基を有する有機化合物としてその構造中に不飽和二重結合を有してラジカル反応を起こしやすいものを用いたときには、当該第2工程中または第2工程終了後に抗酸化剤を添加すればよい。
【0072】
本発明で使用できる抗酸化剤としては、上記不飽和脂肪酸などの変質化で生じるラジカルに対して電子あるいは水素原子を供給して、ラジカル連鎖反応を停止させるような機能を有するものであれば、いずれの化合物も使用することができる。本発明において使用できる代表的な抗酸化剤としては、フェノール化合物、カルボニル基とヒドロキシ基を有する脂環式化合物、芳香族アミノ化合物、有機イオウ化合物、ホスファイト系化合物などの合成抗酸化剤および天然抗酸化剤を挙げることができる。
【0073】
抗酸化剤を添加する方法の具体的な例としては、特開平10−306232号公報に記載の化合物および方法が採用できる。
【0074】
<その他の工程>
本発明においては、第1工程と第2工程とを含む限り、種々の他の工程を含んでもよい。例として、濾過操作またはスクリーン操作などの固液分離工程などの工程等を挙げることができる。
【0075】
<アルミニウムフレークペースト>
本発明のアルミニウムフレークペーストは、アルミニウムフレークを含むとともに、ペースト化溶剤を含むことができる。そして、このアルミニウムフレークペーストに含まれるアルミニウムフレーク全体の水面拡散面積(cm
2/g)をAとし、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度をBとする場合、比A/Bが6000(cm
2/g)以上であることを特徴とする。このようなアルミニウムフレークペーストは、上記で説明したアルミニウムフレークペーストの製造方法によって、作製することができる。
【0076】
以下、本発明のアルミニウムフレークペーストについて説明する。
<アルミニウムフレーク>
アルミニウムフレークの組成は、上述のアルミニウムフレークペーストの製造方法における原料アルミニウム粉末の組成と同一である。即ち、アルミニウムフレークの組成は特に限定されないが、アルミニウムのみから構成されていてもよいし、アルミニウム基合金から構成されていてもよい。アルミニウムの純度についても特に限定されないが、アルミニウムフレークペーストを含む塗膜および印刷物の光沢をより高くするためには、通常純アルミニウムであることが好ましく、純度99.9質量%以上の純アルミニウムであればさらに好ましい。
【0077】
アルミニウムフレークペースト中におけるアルミニウムフレークの含有量については特に限定されないが、アルミニウムフレークペーストに対して50質量%以上85質量%以下であれば、貯蔵安定性を向上でき、また、塗料化の際に塗料中でのアルミニウムフレークの分散性を向上できるという効果を得ることができ、好ましい。なお、60質量%以上75質量%以下であればより好ましい。
【0078】
本発明のアルミニウムフレークは、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークを含む。
【0079】
<アルミニウムフレークの真円度と水面拡散面積との比>
本発明のアルミニウムフレークペーストにおいて、アルミニウムフレークペーストに含まれるアルミニウムフレーク全体の水面拡散面積(cm
2/g)をAとし、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度をBとする場合、比A/Bは6000(cm
2/g)以上となることを要する。
【0080】
ここで、真円度とは、アルミニウムフレークの最も大きな面積を有する面に対して、その面の形状が真円形状にどの程度近いのかを示す尺度である。真円であれば1を示し、1から遠ざかる程、真円形状から遠ざかることを示す。
【0081】
表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度は、次のようにして算出することができる。即ち、アルミニウムフレークペースト(固形分0.2g)にワニス(商品名:「オートクリア」、日本ペイント社製)を加えて攪拌を行ない、得られた塗料組成物を1ミルドクターブレードにて隠蔽率測定紙に塗布することにより塗紙を得る。そして、その塗紙を乾燥させた後、デジタルマイクロスコープ(商品名:「VHX-1000」、KEYENCE社製)にてアルミニウムフレークの写真を撮影し、画像解析測定処理ソフト(商品名:「Image-Pro Plus version 4.0」、プラネトロン社製)にて表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークを選別し、選別された全てのフレークの真円度の測定を行ない、その平均値を採用することで、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度を算出することができる。
【0082】
本発明のアルミニウムフレークペーストに含まれる、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度の範囲は特に限定されないが、1に近ければ近いほどよい。1.0以上1.8以下ならばより好ましい。
【0083】
また、水面拡散面積(WCA)の値は、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークのみならず、アルミニウムフレークペースト中に含まれるアルミニウムフレーク全体の特性によって決まるものである。水面拡散面積は、アルミニウムフレークペーストに一定の予備処理(アルミニウムフレークペーストをグラスフィルターに採取し、ヘキサン洗浄を4回行ない、乾燥させる)を行なったのち、JIS K 5906:1998に従って求めることができる。なお、JISに記載されている水面拡散面積の測定方法はリーフィングタイプの場合のものであるのに対し、本発明のアルミニウムフレークペーストはノンリーフィングタイプのものも含む。このため、本発明における水面拡散面積の測定方法においては、アルミニウムフレークの試料を5%ステアリン酸のミネラルスピリット溶液で予備処理(リーフィング化処理)を行なっている。この予備処理を行なうことを除き、他は全てJIS K 5906:1998に記載のリーフィングタイプの場合と同様にして測定したものである。
【0084】
水面拡散面積の範囲は特に限定されないが、好ましくは5000cm
2/g以上800000cm
2/g以下、さらに好ましくは6000cm
2/g以上50000cm
2/g以下である。この範囲であれば、輝度の点で有利となる。この値が5000cm
2/g未満の場合、アルミニウムフレークペーストの隠蔽力が小さくなり、輝度を向上させるのに不利となる場合がある。また、値が800000cm
2/gを超えると、隠蔽力はあるものの、磨砕を行なうときにアルミニウムフレークが薄くなり過ぎ、アルミニウムフレークの千切れが生じやすくなって、輝度を向上させるのに不利となる場合がある。
【0085】
そして、本発明のアルミニウムフレークペーストにおいては、アルミニウムフレークペーストに含まれるアルミニウムフレーク全体の水面拡散面積(cm
2/g)をAとし、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度をBとする場合、比A/Bは6000(cm
2/g)以上、好ましくは6500(cm
2/g)以上である。比A/Bの上限値は特に限定されないが、30000(cm
2/g)以下であれば、アルミニウムフレークペーストの性質が十分真円に近くなることにより輝度が高くなるため、好ましい。
【0086】
本発明のアルミニウムフレークペーストは、同様の水面拡散面積を有する従来のアルミニウムフレークペーストに比べて個々のアルミニウムフレークの粒子が真円に近い形状を有しており、以って高い輝度を与えるものである。真円に近い形状を有しているアルミニウムフレークがなぜ高い輝度を与えるのか理由は定かではないが、真円に近いアルミニウムフレークが多いということから、アルミニウムフレークのフレーク化(磨砕)時の千切れによって、真円度が1から離れるような形状となったアルミニウムフレークがアルミニウムフレークペースト中で少なくなることが理由と考えられる。
【0087】
<アルミニウムフレークの平均粒子径、平均厚みおよびアスペクト比>
本発明のアルミニウムフレークの平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された粒度分布より体積平均を算出して求めることができる。本発明のアルミニウムフレークの平均粒子径は、特に限定されないが、1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。上記の範囲内であれば、より輝度を向上できる点で有利である他、アルミニウムフレークがアルミニウムフレークペーストを含む塗膜からより突き出しにくくなり、外観が損なわれる心配がないため、自動車用途などでは特に好ましい。なお、アルミニウムフレークの平均粒子径は、3μm以上20μm以下の範囲であればより好ましく、5μm以上15μm以下の範囲であればさらに好ましい。
【0088】
本発明のアルミニウムフレークの平均厚み(μm)は、アルミニウムフレーク1g当たりの水面拡散面積(WCA)を測定し、以下の式により算出される。なお、水面拡散面積(WCA)の測定方法は上記の通りである。
【0089】
平均厚み(μm)=10
4/[2.5(g/cm
3)×WCA(cm
2/g)]
ここで、2.5(g/cm
3)としている理由は以下のとおりである。アルミニウムの金属密度(比重)は2.7(g/cm
3)ではあるが、アルミニウムフレークをそれぞれ並べたときにアルミニウムフレークは円状に近い形状を有しているので、各アルミニウムフレーク同士には隙間ができるため、その補正値として2.7(g/cm
3)ではなく2.5(g/cm
3)を使用している。
【0090】
上記のようにして求められる本発明のアルミニウムフレークの平均厚みは、特に限定されないが、0.01μm以上5μm以下であることが好ましい。上記の範囲内であれば、輝度の点でより有利となる。一方、0.01μm未満であるとサーキュレーション性の点で不利であり、5μmを超えると、アルミニウムフレークペーストを含む塗膜において、アルミニウムフレークが塗膜から突き出して、外観が悪くなるという問題がある。なお、アルミニウムフレークの平均厚みは、0.03μm以上1μm以下であればより好ましい。
【0091】
本発明に用いられるアルミニウムフレークは、その平均粒子径をその平均厚みで割った形状係数(「アスペクト比」と記す)が50以上200以下であることが好ましい。上記の範囲内であれば、輝度の点でより有利となるためである。なお、アスペクト比は、60以上150以下であれば、より好ましい。
【0092】
<極性基を有する有機化合物>
本発明のアルミニウムフレークペーストは、極性基を有する有機化合物を含む。このような極性基を有する有機化合物は、上記アルミニウムフレークペーストの製造方法の説明にて挙げた、極性基を有する有機化合物と同一である。即ち、本発明のアルミニウムフレークペーストに含まれる極性基を有する有機化合物とは、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、および脂肪酸と脂肪族アルコールとからなるエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0093】
アルミニウムフレークペースト中に含有される極性基を有する有機化合物の量は、炭素量に換算して表すものとする。炭素量を測定する方法としては、付着炭素分析装置(商品名:「K0918」、株式会社小島製作所製)により、アルミニウムフレークペースト中に含まれる炭素量を測定する方法が採用できる。具体的には、一定量のアルミニウムフレークペーストを秤量した後、乾燥して、粉末状のアルミニウムフレークを得る。その後、得られた粉末状のアルミニウムフレークを上記付着炭素分析装置に供して、含まれる炭素量の測定を行なうことにより測定することができる。
【0094】
本発明のアルミニウムフレークペースト中に含まれる極性基を有する有機化合物の量は、アルミニウムフレークペースト全体に対し、炭素量に換算して0.5質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0095】
その含有量が0.5質量%以上であれば、本発明のアルミニウムフレークペーストが、高い輝度を与えることを可能としながら、貯蔵安定性を維持することができる。
【0096】
貯蔵安定性に影響を与えなければ、その含有量の上限値は特に制限されないが、アルミニウムフレークペーストを含む塗膜の密着性の観点からは、炭素量に換算して3.0質量%以下であることが好ましい。
【0097】
上述したアルミニウムフレークペーストの製造方法において、第2工程では、アルミニウムフレークの表面を、極性基を有する有機化合物で処理している。従って、最終的に得られたアルミニウムフレークペースト中のアルミニウムフレークは、表面に極性基を有する有機化合物が付着している。なお、アルミニウムフレークペースト中の極性基を有する有機化合物は、アルミニウムフレーク表面に付着した状態にあることが好ましいが、これに限られるものではなく、ペースト化溶剤中に存在してもよい。
【0098】
<他の添加剤>
本発明のアルミニウムフレークペーストにおいては、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、さらに他の添加剤を含むことができる。その様な添加剤は、アルミニウムフレークの表面に付着していてもよく、またアルミニウムフレークペースト中に含有されていてもよい。
【0099】
そのような他の添加剤として、たとえば、上述のアルミニウムフレークペーストの製造方法において説明したように、抗酸化剤を挙げることができるとともに、耐水性、耐薬品性、耐候性を付与するための種々の化合物を挙げることができる。
【0100】
<メタリック着色物>
本発明は、本発明のアルミニウムフレークペーストを使用したメタリック着色物にも係る。ここで、メタリック着色物としては、たとえば、塗料組成物、インキ組成物(インクジェット用も含む)、樹脂成形品、化粧料などを挙げることができる。
【0101】
塗料組成物またはインキ組成物としては、たとえば、アルミニウムフレークペーストと樹脂成分と溶剤とを含む組成物を挙げることができる。
【0102】
一方、上記樹脂成形品としては、アルミニウムフレークペーストを使用することによりアルミニウムフレークを練り込んだ樹脂成形品を挙げることができる。なお、ここでいう樹脂成形品には、最終の成形品ばかりではなく、母材樹脂に配合する目的として使用されるアルミニウムフレークを含んだ合成樹脂着色用マスターバッチ、および当該合成樹脂メタリック着色用マスターバッチと母材樹脂とをペレット状に混練したメタリック着色ペレットのような中間仕掛品も含まれる。ここで、母材樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂等を挙げることができる。
【0103】
また、化粧料としては、その種類が特に限定されるものではないが、たとえば口紅、ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、ネイルエナメルおよびマスカラなどのメーキャップ化粧料、ヘアジェル、ヘアワックス、ヘアトリートメント、シャンプーおよびヘアマニキュアなどの毛髪化粧料ならびに化粧水、下地クリームおよび日焼け止めなどの基礎化粧料などを挙げることができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて使用した原料アルミニウム粉末の平均粒子径(D50)は、後述のレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した。
【0105】
<実施例1>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が0.7mmの鋼球を50kg、平均粒子径が7.8μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤である主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒として、トリメチルベンゼンを42%含む芳香族系炭化水素100%の溶媒(商品名:「SS-100」、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で1時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0106】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。その後、極性基を有する有機化合物としてのオレイン酸をニーダーミキサー内のアルミニウムフレークの固形分に対して2質量%を加え、この極性基を有する芳香族系炭化水素によりアルミニウムフレークを処理し、かつニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た(第2工程)。
【0107】
<比較例1>
実施例1の第1工程で使用した、磨砕溶剤である主成分として芳香族系炭化水素を含む有機溶媒を、ミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)に変更したこと、および第2工程においてオレイン酸の添加を行なわなかったことを除き、他は実施例1と同様の方法で、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0108】
<実施例2>
ボールミルによるフレーク化の時間を17時間としたことを除き、他は実施例1と同様の方法で第1工程を行い、アルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。その後得られたフィルターケーキについて、実施例1と同様の方法で第2工程を行い、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0109】
<実施例3>
原料アルミニウム粉末の平均粒子径を4.2μmとしたこと、およびボールミルによるフレーク化の時間を17時間としたことを除き、他は実施例1と同様の方法で第1工程を行い、アルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。その後得られたフィルターケーキについて、実施例1と同様の方法で第2工程を行い、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0110】
<実施例4>
原料アルミニウム粉末の平均粒子径を2.7μmとしたこと、およびボールミルによるフレーク化の時間を17時間としたことを除き、他は実施例1と同様の方法で第1工程を行い、アルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。その後得られたフィルターケーキについて、実施例1と同様の方法で第2工程を行い、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0111】
<実施例5〜9>
原料アルミニウム粉末の平均粒子径を4.2μmとしたこと、およびボールミルによるフレーク化の時間を17時間としたことを除き、他は実施例1と同様の方法で第1工程を行い、アルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。その後得られたフィルターケーキについて、それぞれ、第2工程において、表1に示す「第2工程の極性基を有する有機化合物」を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で第2工程を行い、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0112】
<参考例1>
第2工程において、極性基を有する有機化合物としてオレイン酸の添加を行わなかったことを除き、他は実施例3と同様の方法で、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た。
【0113】
<比較例2>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が1/8インチの鋼球を50kg、平均粒子径が17.0μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で5時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0114】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを71質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0115】
<比較例3>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が1.5mmの鋼球を50kg、平均粒子径が5.7μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で8時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0116】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを75質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0117】
<比較例4>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が2.0mmの鋼球を50kg、平均粒子径が8.0μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で7時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0118】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを71質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0119】
<比較例5>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が2.0mmの鋼球を50kg、平均粒子径が5.7μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で8時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0120】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを71質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0121】
<比較例6>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が0.5mmの鋼球を50kg、平均粒子径が4.2μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で13時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0122】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0123】
<比較例7>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が1.2mmの鋼球を50kg、平均粒子径が7.6μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で9時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0124】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを71質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0125】
<比較例8>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が0.7mmの鋼球を50kg、平均粒子径が7.0μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で12時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0126】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを74質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0127】
<比較例9>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が0.7mmの鋼球を50kg、平均粒子径が5.0μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で12時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0128】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを71質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0129】
<比較例10>
直径500mm、長さ180mmの円筒状ボールミルの中に、磨砕メディアとして直径が0.7mmの鋼球を50kg、平均粒子径が3.6μmの原料アルミニウム粉末を1000g、磨砕溶剤としてミネラルスピリット(主成分:脂肪族系炭化水素)を4L、磨砕助剤としてオレイン酸を100g、それぞれ投入し、回転数50rpm(臨界回転数の84%)で13時間原料アルミニウム粉末をフレーク化してアルミニウムフレークを含むスラリーを得た。フレーク化終了後、ボールミル内のアルミニウムフレークを含むスラリーをミネラルスピリットで洗い出し、150メッシュ、350メッシュ、400メッシュの振動スクリーンに順次かけ、通過したスラリーをパンフィルターで固液分離することによりアルミニウムフレーク(ただしフィルターケーキとして)を得た(第1工程に相当)。なお、このフィルターケーキは、不揮発成分としてアルミニウムフレークを85質量%含み、残部はミネラルスピリットを含んでいた。
【0130】
上記で得られたフィルターケーキをニーダーミキサー内に移した。ニーダーミキサーにて1時間混練することによりペースト化し、ミネラルスピリットをペースト化溶剤とするアルミニウムフレークペースト(不揮発分としてアルミニウムフレークを70質量%含む)を得た(第2工程に相当)。
【0131】
なお、比較例1〜10において磨砕溶剤として使用されたミネラルスピリットに含まれる芳香族系炭化水素の量は、磨砕溶剤である有機溶媒全体の量に対して約30質量%であった。
【0132】
<評価>
<真円度>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10より得られた各アルミニウムフレークペースト中のアルミニウムフレークの真円度を以下のようにして測定した。即ち、実施例および比較例より得られた各アルミニウムフレークペースト(固形分0.2gとして)にワニス(商品名:「オートクリア」、日本ペイント社製)を合計50gになるように加えて、攪拌脱泡機(商品名:「MAZERUSTAR」、クラボウ社製)にて攪拌を行ない、塗料組成物を得た。次いで、この得られた塗料組成物を1ミルドクターブレードにて隠蔽率測定紙(商品名:「隠蔽率測定紙」、TP技研社製)に塗布し、乾燥することにより塗紙を得た。続いて、デジタルマイクロスコープ(商品名:「VHX-1000」、KEYENCE社製)を用いて、塗紙中のアルミニウムフレークの写真を撮影した。引き続き、アルミニウムフレークの写真を画像解析測定処理ソフト(商品名:「Image-Pro Plus version 4.0」、プラネトロン社製)を用いて画像解析することにより、全てのアルミニウムフレークの表面積と真円度が測定された。測定された全てのアルミニウムフレークのうち、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークを選別し、表面積が250μm
2以上のアルミニウムフレークの真円度の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0133】
<輝度>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10より得られた各アルミニウムフレークペーストの輝度を以下のようにして測定した。即ち、各アルミニウムフレークペーストの、金属分換算質量で14.58gを、希釈剤(商品名:「naxアドミラ500スタンダードシンナー」、日本ペイント社製)41.67gに加えてガラス棒で分散させた後、アクリルクリヤー樹脂(商品名:「naxアドミラ280補正用クリヤー」、日本ペイント社製)213.68gおよび合成樹脂クリヤー塗料(商品名:「naxアドミラ901バインダー」、日本ペイント社製)35.77gとともに、ディスパーにて、15分間1000rpmで撹拌分散させることにより、塗料組成物前駆体を得た。そして得られた塗料組成物前駆体に同量の希釈剤を加えることにより、塗料組成物を得た。
【0134】
また、アクリルウレタン樹脂(商品名:「naxマルチ(10:1)240 2コートクリヤー」、日本ペイント社製)100gおよび硬化剤(商品名:「naxマルチ(10:1)#20ハードナー」、日本ペイント社製)10gを希釈剤(商品名:「naxマルチ#20スタンダードウレタンシンナー」、日本ペイント社製)20g中に加え、ガラス棒で分散させ、トップコート剤を作製した。
【0135】
そして、上記の塗料組成物およびトップコート剤を、中塗り塗装を施した0.3×200×300mmブリキ板(商品名:「P−32板」、日本ルートサービス(株)製)に、順次自動スプレー塗布機(商品名:「P903ガン」、ABB社製)にて塗装し、塗板を作製した。
【0136】
上記の塗装は、室内温度22±1℃、室内相対湿度55±5%RHの塗装室内において、レシプロケーター速度:50m/分、コンベア移動速度:2m/分、吹き付け距離:30cm、霧化圧力:0.35MPaという条件下、塗料組成物を乾燥膜厚が12±2μmとなるように塗装した後、80℃で5分間フラッシュオフを行ない、その後さらにトップコート剤を乾燥膜厚が45±5μmとなるように塗装する、という方法で行なった。焼付けは、140℃で30分間行なった。
【0137】
作製した塗板を、変角測色計(商品名:「MA−68」、X−Rite社製)を用いて、入射角45°、正反射方向からのオフセット角15°におけるL値(L
*15°)を測定することによって、塗膜の輝度を評価した。ここで、L値が高いほうが輝度が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0138】
<平均粒子径>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10にて使用した原料アルミニウム粉末および実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10によって得られたアルミニウムフレークペースト中のアルミニウムフレークの平均粒子径(D50)を以下の条件でレーザー回折式粒度分布測定装置(商品名:「マイクロトラックHRA」、Honeywell社製)にて測定した。
【0139】
(原料アルミニウム粉末の場合)
原料アルミニウム粉末0.5g、10%ヘキサメタリン酸水溶液0.1g、イオン交換水30gを混合して、その混合物をガラス棒で撹拌し、測定系内循環水に投入し、超音波で2分間分散させた後、D50の粒子径を測定した。
【0140】
(アルミニウムフレークの場合)
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10によって得られたアルミニウムフレークペ−スト0.5gとトルエン5.0gを混合して、その混合物をガラス棒で撹拌し、測定系内循環水に投入し、超音波で30秒間分散させた後、アルミニウムフレークのD50の粒子径を測定した。アルミニウムフレークの平均粒子径の測定結果を表1に示す。なお、ここでのアルミニウムフレークの平均粒子径は、後述の貯蔵安定性評価における、「作製直後」の平均粒子径に相当する。
【0141】
<貯蔵安定性>
実施例1、実施例5〜9、参考例1および比較例1のアルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性を以下のようにして確認した。即ち、まず作製直後のアルミニウムフレークペーストについて、アルミニウムフレークの粒度分布を測定した。次いで、そのアルミニウムフレークペーストを50℃の恒温室に3ヶ月間保管し、保管後のアルミニウムフレークペースト中のアルミニウムフレークの粒度分布を測定した。そして、作製直後のアルミニウムフレークの粒度分布と3ヶ月保管後のアルミニウムフレークの粒度分布とを比較した。
【0142】
なお、上記の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名:「マイクロトラックHRA」、Honeywell社製)を用いて測定し、D50の粒子径を求めた。そして、D50の粒子径の差を比較した。上記比較の結果、D50の粒子径の差が3%以下であれば、経時安定性が良いと判断した。結果を表1に示す。
【0143】
<水面拡散面積(WCA)>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10にて得られたアルミニウムフレークペースト中のアルミニウムフレークの水面拡散面積は、JIS K 5906:1998に従って求めた。即ち、まずアルミニウムフレークペーストの2.0g固形分量をグラスフィルターに量り取った。次いで、そのグラスフィルターを吸引瓶にセットし、40mlのn−ヘキサンを加えながらガラス棒で分散させ、分散液とした。続いて、分散液を吸引し、グラスフィルターを通過させることにより濾過洗浄した。その後、このn−ヘキサンを加えて分散させ、吸引によって洗浄する作業を4回繰り返すことにより、アルミニウムフレークの粉末を得た。引き続き、得られたアルミニウムフレークの粉末1.0gを、5質量%ステアリン酸ミネラルスピリット溶液2mlとともに100mlビーカーに加えて、ガラス棒にて分散した。次に、ミネラルスピリットを50ml加えて、オーブンにて45℃で2時間加温した。その後、別のグラスフィルターにて溶液を吸引濾過した。続いて、n−ヘキサンを加えて分散し、1時間吸引し、乾燥させることにより、測定試料を得た。
【0144】
次いで、表面の油分を取り除いた小型時計皿に、上記の測定試料を0.02〜0.03g程度採取した。測定試料0.001gに対して、ブチルアルコールを数回滴下(1滴は約0.02ml)し、ガラス棒にて分散させた。その測定試料を、水を張ったトラフの液面に時計皿ごと沈めた。そして、トラフの液面のアルミニウムフレークの膜が均一になる様に、ガラス棒で液面をかき混ぜることにより、均一なアルミニウムフレークの膜を形成させた。そして、物差しでアルミニウムフレークの膜の外周(具体的には、膜の上部、下部および縦の長さをさす)を測定し、以下の式によりアルミニウムフレークの水面拡散面積(WCA)を計算した。
【0145】
WCA(cm
2/g)=[{アルミニウムフレークの膜の上部の長さ(cm)+アルミニウムフレークの膜の下部の長さ(cm)}×アルミニウムフレークの膜の縦の長さ(cm)÷2]/試料量(g)
<水面拡散面積(cm
2/g)と真円度との比>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜10について得られた水面拡散面積(cm
2/g)と真円度との比を算出した。結果を表1に示す。
【0146】
<極性基を有する有機化合物の量>
実施例1〜9にて得られた各アルミニウムフレークペースト中に含有される極性基を有する有機化合物(アルミニウムフレーク表面に付着した極性基を有する有機化合物を含む)の量は、以下のようにして測定した。即ち、アルミニウムフレークペースト2.0gを、140℃にて1時間乾燥し、粉末状のアルミニウムフレークを得た。得られた粉末状のアルミニウムフレークを付着炭素分析装置(商品名:「K0918」、株式会社小島製作所製)にセットし、アルミニウムフレークに含まれる炭素量を測定し、アルミニウムフレークペースト中に含有される極性基を有する有機化合物の量とした。
【0147】
また、実施例との比較のため、参考例1および比較例1にて得られたアルミニウムフレークペースト中に含まれる炭素量を、実施例1〜9に対するのと同様の方法で測定した。
【0148】
実施例1〜9、参考例1および比較例1の炭素量の測定結果を表1に示す。
実施例1〜4および比較例1〜10における水面拡散面積(WCA)と真円度との関係を
図1に、水面拡散面積(WCA)と輝度との関係を
図2に示す。なお、
図1における直線は、傾きを6000cm
2/g(水面拡散面積と真円度との比)とする直線を示す。
【0149】
【表1】
【0150】
表1より明らかなように、貯蔵安定性に関し、実施例1、実施例5〜9および比較例1のいずれも、作製直後と3ヶ月保管後の差は3%以内であった。また、極性基を有する有機化合物として、実施例1、5、7、8のように脂肪酸を使用した場合のみならず、実施例6のように脂肪族アルコールを使用した場合、および実施例9のように脂肪族アミンを使用した場合においても、得られたアルミニウムフレークペーストの貯蔵安定性が良好となることが確認された。
【0151】
さらに、表1より明らかなように、第2工程において、極性基を有する有機化合物として、それぞれ炭素数が異なる脂肪酸を使用した点においてのみ作製方法が相違するものである、実施例5、7、8において得られたアルミニウムフレークペーストを対比してみると、貯蔵安定性について、炭素数が10であるカプリン酸を使用した実施例8においては作製直後と3ヶ月保管後の差が2.3%となったのに対し、炭素数が18であるオレイン酸を使用した実施例5、および炭素数が12であるラウリン酸を使用した実施例7においては、作製直後と3ヶ月保管後の差が2.0%より小さくなった。したがって、炭素数12以上の脂肪酸であれば作製直後と3ヶ月保管後の差が2%以内とさらに貯蔵安定性が良好な結果となることがわかる。
【0152】
一方、第2工程において極性基を有する有機化合物を添加しなかった参考例1において得られたアルミニウムフレークペーストは、作製直後と3ヶ月保管後の差が8.1%と大きかった。よって、貯蔵安定性が悪く、経時変化により凝集が発生しているものと推測される。
【0153】
したがって、本発明のアルミニウムフレークペーストが良好な貯蔵安定性を示すことが確認できた。
【0154】
表1および
図1から、実施例1〜9は6000(cm
2/g)以上の比A/Bを有し、比較例1〜10は6000(cm
2/g)未満の比A/Bを有することは明らかである。したがって、本発明のアルミニウムフレークペーストの製造方法によって作製されたアルミニウムフレークペーストは6000(cm
2/g)以上の比A/Bを有することが確認できた。
【0155】
表1および
図2より明らかなように、実施例1〜4と比較例1〜10において、水面拡散面積(WCA)を固定とした場合(同一の数値の水面拡散面積にて比較した場合)、実施例1〜4は比較例1〜10に比べて、より良好な輝度を示した。したがって、本発明のアルミニウムフレークペーストが、良好な輝度を示すことが確認できた。
【0156】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0157】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。