(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの単一周波数のパルス波と周波数スイープ勾配を持つアップスイープまたはダウンスイープの少なくとも1つのパルス波をレーダ波として送信する、少なくとも1台の送信装置と、
前記送信装置とは少なくとも異なる位置に配置され、少なくとも前記送信装置の位置、送信ビーム方向、送信周波数、送信波形の情報を取得し、前記送信装置から送信されるレーダ波の反射波を受信するNr台(Nr≧2)の受信レーダ装置と、
前記受信レーダ装置の出力を統合処理する統合処理装置と
を具備し、
前記送信装置は、前記レーダ波を対象目標のドップラ周波数に応じてクラッタの影響が少なくなるように選定して送信し、
前記Nr台の受信レーダ装置は、前記レーダ波の反射波を受信し、その受信信号の前記周波数スイープ勾配を持つパルス波の成分からMRAV(Measurement Range After measurement Velocity)処理により前記対象目標について測距及び測速を行い、前記受信信号の前記単一周波数のパルス波の成分から前記対象目標のドップラ周波数から周波数ずれを求め、前記測速した値を前記周波数ずれに基づいて補正して、前記測距した値と共に出力し、
前記統合処理装置は、前記Nr台の受信レーダ装置それぞれで得られた検出目標の測距、測速、測角結果に基づいて互いに同一と判別された目標の距離、速度及び角度を目標情報として出力するレーダシステム。
少なくとも1つの単一周波数のパルス波と周波数スイープ勾配を持つアップスイープまたはダウンスイープの少なくとも1つのパルス波をレーダ波として送信し、そのレーダ波の反射波を受信する、少なくとも1台の送受信レーダ装置と、
前記送受信レーダ装置とは少なくとも異なる位置に配置され、少なくとも前記送受信レーダ装置の位置、送信ビーム方向、送信周波数、送信波形の情報を取得し、前記送受信レーダ装置から送信されるレーダ波の反射波を受信するNr台(Nr≧1)の受信レーダ装置と、
前記少なくとも1台の送受信レーダ装置及び前記Nr台の受信レーダ装置の出力を統合処理する統合処理装置と
を具備し、
前記送受信レーダ装置は、前記レーダ波を対象目標のドップラ周波数に応じてクラッタの影響が少なくなるように選定して送信し、
前記送受信レーダ装置及び前記Nr台の受信レーダ装置は、前記レーダ波の反射波を受信し、その受信信号の前記周波数スイープ勾配を持つパルス波の成分からMRAV(Measurement Range After measurement Velocity)処理により前記対象目標について測距及び測速を行い、前記受信信号の前記単一周波数のパルス波の成分から前記対象目標のドップラ周波数から周波数ずれを求め、前記測速した値を前記周波数ずれに基づいて補正して、前記測距した値と共に出力し、
前記Nr台の受信レーダ装置は、受信信号を複数の開始時間でFFT(Fast Fourier Transform)処理し、FFT出力が最大となる開始時間を選定して受信タイミングを制御することで前記送受信レーダ装置との時刻同期を行い、
前記統合処理装置は、前記送受信レーダ装置及び前記Nr台の受信レーダ装置それぞれで得られた検出目標の測距、測速、測角結果に基づいて互いに同一と判別された目標の距離、速度及び角度を目標情報として出力するレーダシステム。
少なくとも1つの単一周波数のパルス波と周波数スイープ勾配を持つアップスイープまたはダウンスイープの少なくとも1つのパルス波をレーダ波として送信する、少なくとも1台の送信装置と、
前記送信装置とは少なくとも異なる位置に配置され、少なくとも前記送信装置の位置、送信ビーム方向、送信周波数、送信波形の情報を取得し、前記送信装置から送信されるレーダ波の反射波を受信するNr台(Nr≧2)の受信レーダ装置と、
前記受信レーダ装置の出力を統合処理する統合処理装置と
を具備するレーダシステムに適用され、
前記送信装置により、前記レーダ波を対象目標のドップラ周波数に応じてクラッタの影響が少なくなるように選定して送信し、
前記Nr台の受信レーダ装置により、前記レーダ波の反射波を受信し、その受信信号の前記周波数スイープ勾配を持つパルス波の成分からMRAV(Measurement Range After measurement Velocity)処理により前記対象目標について測距及び測速を行い、前記受信信号の前記単一周波数のパルス波の成分から前記対象目標のドップラ周波数から周波数ずれを求め、前記測速した値を前記周波数ずれに基づいて補正して、前記測距した値と共に出力し、
前記統合処理装置により、前記Nr台の受信レーダ装置それぞれで得られた検出目標の測距、測速、測角結果に基づいて互いに同一と判別された目標の距離、速度及び角度を目標情報として出力するレーダシステムのレーダ信号処理方法。
少なくとも1つの単一周波数のパルス波と周波数スイープ勾配を持つアップスイープまたはダウンスイープの少なくとも1つのパルス波をレーダ波として送信し、そのレーダ波の反射波を受信する、少なくとも1台の送受信レーダ装置と、
前記送受信レーダ装置とは少なくとも異なる位置に配置され、少なくとも前記送受信レーダ装置の位置、送信ビーム方向、送信周波数、送信波形の情報を取得し、前記送受信レーダ装置から送信されるレーダ波の反射波を受信するNr台(Nr≧1)の受信レーダ装置と、
前記受信レーダ装置の出力を統合処理する統合処理装置と
を具備するレーダシステムに適用され、
前記送受信レーダ装置により、前記レーダ波を対象目標のドップラ周波数に応じてクラッタの影響が少なくなるように選定して送信し、
前記送受信レーダ装置及び前記Nr台の受信レーダ装置により、前記レーダ波の反射波を受信し、その受信信号の前記周波数スイープ勾配を持つパルス波の成分からMRAV(Measurement Range After measurement Velocity)処理により前記対象目標について測距及び測速を行い、前記受信信号の前記単一周波数のパルス波の成分から前記対象目標のドップラ周波数から周波数ずれを求め、前記測速した値を前記周波数ずれに基づいて補正して、前記測距した値と共に出力し、
前記Nr台の受信レーダ装置は、受信信号を複数の開始時間でFFT(Fast Fourier Transform)処理し、FFT出力が最大となる開始時間を選定して受信タイミングを制御することで前記送受信レーダ装置との時刻同期を行い、
前記統合処理装置により、前記送受信レーダ装置及び前記Nr台の受信レーダ装置それぞれで得られた検出目標の測距、測速、測角結果に基づいて互いに同一と判別された目標の距離、速度及び角度を目標情報として出力するレーダシステムのレーダ信号処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図。
【
図2】第1の実施形態において、レーダ送信信号として生成される、CW信号とスイープ信号のパルス変調されたFMICWによる変調波を示す波形図。
【
図3】第1の実施形態のMRAVによる測距・測速の手順を示すフローチャート。
【
図4】第1の実施形態のスイープ信号送信サイクルを説明するためのタイミング図。
【
図5】第1の実施形態の位相モノパルスによる周波数軸上のΣ、Δビーム分布を示す周波数分布図。
【
図6】第1の実施形態の位相モノパルスによる周波数軸上のΣ、Δビームから目標の周波数を抽出する様子を示す周波数分布図。
【
図7】第1の実施形態の位相モノパルスによる誤差電圧算出処理を説明するための周波数分布図及び特性図。
【
図8】第1の実施形態の単位サイクル内におけるスイープ処理について説明するための図。
【
図9】第1の実施形態のアップ・ダウンスイープそれぞれに対するクラッタの広がり方向を示す図。
【
図10】第1の実施形態の送信側と受信側が速度ベクトルを持つ場合の送信装置、受信装置、クラッタ反射点の位置関係を示す図。
【
図11】第2の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図。
【
図12】第2の実施形態の時刻同期処理を説明するための波形図。
【
図13】第2の実施形態の時刻同期と中心周波数の補正後、1台の送受信レーダ装置、2台の受信レーダ装置によるマルチスタティック方式により目標位置を算出する手法を説明するための概念図。
【
図14】第2の実施形態の時刻同期と中心周波数の補正後、1台の送受信レーダ装置、1台の受信レーダ装置によるマルチスタティック方式により目標位置を算出する手法を説明するための概念図。
【
図15】第2の実施形態の時刻同期と中心周波数の補正後、1台の送信レーダ装置、2台の受信レーダ装置によるマルチスタティック方式により目標位置を算出する手法を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。尚、各実施形態の説明において、同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0010】
(第1の実施形態)(MRAVとCWによる周波数・速度補正)
図1乃至
図10を参照して、第1の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0011】
図1は上記レーダシステムの系統構成を示すブロック図、
図2はFMICW(Frequency Modulated Interrupted Continuous Wave、非特許文献5参照)による変調波を示す波形図、
図3はMRAVによる測距・測速の手順を示すフローチャート、
図4はスイープ信号送信サイクルを説明するためのタイミング図、
図5(a),(b)はそれぞれ位相モノパルスによる周波数軸上のΣ、Δビーム分布を示す周波数分布図、
図6は位相モノパルスによる周波数軸上のΣ、Δビームから目標の周波数を抽出する様子を示す周波数分布図、
図7(a),(b)はそれぞれ位相モノパルスによる誤差電圧算出処理を説明するための周波数分布図及び特性図、
図8(a),(b)は単位サイクル内におけるスイープ処理について説明するための概念図、
図9はアップ・ダウンスイープそれぞれに対するクラッタの広がり方向を示す図、
図10は送信側と受信側が速度ベクトルを持つ場合の送信側装置、受信側装置、クラッタ反射点の位置関係を示す図である。
【0012】
図1に示すレーダシステムは、一つの送受信レーダ装置Aと、この送受信レーダ装置Aから送信されたレーダ信号の反射波を受信可能な位置に配置される複数(ここでは2台)の受信レーダ装置B,Cを備える。
【0013】
送受信レーダ装置Aにおいて、アンテナA1は複数のアンテナ素子を配列して大開口アレイを形成してなるフェーズドアレイアンテナである。送受信器A2において、送受信部A21は、
図2に示す単一周波数により変調されたパルス波と周波数スイープ勾配を持つアップスイープまたはダウンスイープで周波数変調されたパルス波(FMICW:Frequency Modulated Interrupted Continuous Wave、非特許文献5参照))を生成し、ビーム制御部A22は、アンテナA1により送信されるビームを目標方向に指向させる。送受信部A21は、目標から反射した信号を受信して、送信波形と同様の変調波信号を用いたローカル信号により復調し、ベースバンドに周波数変換する。このようにして得られたスイープ受信信号は信号処理器A3に送られる。
【0014】
上記受信レーダ装置B,Cは、いずれも送受信レーダ装置Aの送信機能を除いて同構成である。すなわち、受信レーダ装置B,Cにおいて、アンテナB1,C1は複数のアンテナ素子を配列して大開口アレイを形成してなる受信用のフェーズドアレイアンテナであり、送受信レーダ装置Aから繰り返し送信される特定周波数のレーダ信号の反射波を受信する。受信器B2,C2では、受信部B21,C21において、アンテナB1,C1で受信された信号をビーム制御部B22,C22からの指示に従って位相制御を施し合成することで、任意の方向に受信ビームを形成してPRF受信信号を取得し、ベースバンドに周波数変換する。このようにして得られたスイープ受信信号は信号処理器B3,C3に送られ、送受信レーダ装置Aと同様に、Σビーム系統とΔビーム系統に分配されて、CFAR検出目標における測距、測角演算が行われる。
【0015】
上記送受信レーダ装置Aの信号処理器A3、上記受信レーダ装置B,Cの信号処理器B3,C3はいずれも同構成であり、入力されたスイープ受信信号をΣビーム系統とΔビーム系統に分配する。Σビーム系統に入力されたスイープ受信信号は、AD(Analog-Digital)変換部A31,B31,C31でディジタル信号に変換され、FFT用Σ・Δウェイト乗算部A32,B32,C32でFFT用のΣウェイト及びΔウェイトが乗算され、FFT処理部A33,B33,C33で周波数領域の信号に変換され、CFAR検出部A34,B34,C34で所定のスレショルドを超えるセル(時間サンプル)の検出が実行される。このCFAR検出セルで検出されたセルのスイープ信号はMRAV(Measurement Range after measurement Velocity)処理部A35,B35,C35に送られ、CW信号はCW速度演算部A36,B36,C36に送られる。MRAV処理部A35,B35,C35は入力スイープ信号から目標の測距・測速演算を行い、CW速度演算部A36,B36,C36は入力CW信号から目標のドップラ速度演算を行う。MRAV処理部A35,B35,C35で得られた目標の測距・測速結果は速度補正部A37,B37,C37でCW速度演算部A36,B36,C36で得られたドップラ速度に基づいて速度補正されて測角部A38,B38,C38に送られる。
【0016】
一方、Δビーム系統に入力されたPRF受信信号は、AD変換部A39,B39,C39でディジタル信号に変換され、FFT用Σウェイト乗算部A3a,B3a,C3aでFFT用のΣウェイト及びΔウェイトが乗算され、FFT処理部A3b,B3b,C3bで周波数領域の信号に変換されて、測角部A38,B38,C38に送られる。この測角部A38,B38,C38は、Σビーム系統のMRAV処理により得られた測距・測速演算結果とΔビーム系統で得られたΔ検出信号とに基づいて測角演算を行う。各レーダ装置A,B,Cで得られた検出目標の測距、測速、測角結果は統合処理装置Dに送られ、互いに同一と判別された目標の距離、速度及び角度が目標情報として出力される。
【0017】
上記構成において、
図3乃至
図10を参照して、レーダ装置A,B,C間の時刻同期ずれや中心周波数のずれ等の影響を軽減するための処理動作を説明する。
【0018】
まず、MRAVによる測距・測速の手順について、
図3を参照して説明する。ここでは、送信信号波形として、
図4に示すように、時間間隔T12の2回のダウンスイープの場合で述べるが、ダウン−アップスイープの連続波形として、そのうちのダウンスイープのみ、またはアップスイープのみの処理をする場合でもよい。また、簡単のため2回のスイープの場合について述べるが、N(N≧2)回の場合でも同様であるのは言うまでもない。
【0019】
図3において、
図4に示す周波数を連続的にスイープする信号1,2を送受信すると(ステップS10)、スイープ1,2のサンプル系列をFFT処理してモノパルス演算を行い(ステップS11)、スレッショルド検出(ステップS12)によってピーク信号をもつビート周波数fpを抽出し保存する(ステップS13)。ステップS14,S15によりスイープ信号1,2の処理が完了すると、スイープ1とスイープ2のビート周波数fpを用いて、次式より相対距離R1とR2を算出し、速度vを算出する(ステップS16)。
【数1】
【0020】
次に、ビート周波数fpと速度vを用いて、次の連立方程式により、目標の距離Rと速度Vを算出する(ステップS16,S17)。
【数2】
【0021】
以上の方式は、ビート周波数により速度を算出した後、距離を算出することからMRAV(Measurement Range after measurement Velocity)(特許文献1参照)方式と呼ぶ。
【0022】
上記の処理により速度v、距離Rを算出したのち、目標情報として保存する(ステップS18)。上記ステップS16〜S18を全目標について行い(ステップS19,S20)、次のサイクルの処理に移行する。
【0023】
ここで、上記ビート周波数の観測精度を向上する方式がある。特に、目標速度が低い場合等、スイープ間でビート周波数が同一バンク内になる場合には、同一バンク内で精度よくビート周波数を算出する必要がある。この対策として
図5(a),(b)及び
図6に示すように、角度軸で用いる位相モノパルス(非特許文献2参照)をビート周波数として周波数軸に用いてバンク内の周波数を高精度に観測する手法である。以下に手順を示す。
【0024】
(1)周波数軸モノパルス
抽出した目標の周波数のΣ(fp)とΔ(fp)を用いて、次式の誤差電圧εを算出する(
図7(a),(b)参照)。
【数3】
【0025】
(2)ビート周波数抽出
予め保存してあるΣとΔの周波数特性を用いて算出した誤差電圧の基準値ε0をテーブル化(ε0と周波数fの対応)しておき、その基準テーブルを用いて、上記の観測値εから、高精度なビート周波数fpの値を抽出する。
【0026】
(3)目標までの距離と速度の算出
上記ビート周波数fpを用いて、
図3に示す手順((1)(2)による演算手順)により、距離Rと速度Vを算出する。なお、重みづけについては、−1または1以外に、サイドローブを低減するためにテーラーウェイト(非特許文献4参照)等のウェイトを乗算してもよい。
【0027】
以上の処理は、2スイープの場合について述べたが、一般的に複数スイープの場合でもよい。例として、4スイープの場合を
図8(a),(b)に示す。スイープ時間に対する4点のビート周波数の勾配より速度を算出する際に、直線フィッティング等を用いればよい。
【0028】
また、MRAV手法として、周波数軸上の位相モノパルスの場合について述べたが、隣接バンクを用いて振幅モノパルス演算(非特許文献3参照)により高精度なビート周波数を得る方式でもよい。
【0029】
次にスイープの選定手法について述べる。FMICWでは、クラッタが距離方向に広がっている場合は、各距離によりビート周波数成分が異なるため、CW信号の場合と異なり、
図9(a),(b),(c)に示すように、クラッタが広がる形となる。これは、スイープ信号が反射点の距離に応じて時間遅延が生じ、その分周波数がずれたビート周波数として観測されることによる(非特許文献6参照)。この広がる向きは、
図9(b)に示すダウンスイープ(ドップラ周波数が高い方向)と
図9(c)に示すアップスイープ(ドップラ周波数低い方向)では異なる。このため、目標信号とクラッタの周波数軸上の関係に従って、目標がクラッタに埋もれないようにダウンスイープ、アップスイープのいずれかを選定すればよい。
【0030】
メインローブクラッタの周波数は、
図10に示すように、送信側と受信側が速度ベクトルを持つ場合の一般式として、次式で算出することができる(非特許文献1参照)。
【数4】
【0031】
送信側と受信側が固定の場合は、クラッタ中心周波数は0となり、クラッタの速度分散に従って、ドップラ周波数の分散をもつスペクトルとなる。
【0032】
上記メインローブクラッタの周波数fcと観測した目標ドップラ周波数ftの関係より、fc≧ftの場合には、クラッタドップラ周波数が高い方向に広がるダウンスイープを、fc<ftの場合には、クラッタドップラ周波数が低い方向に広がるアップスイープを選定する。このクラッタの周波数算出とスイープ選定は、目標のドップラ周波数を把握する統合処理Dで行い、ビーム制御部A22,B22,C22によりスイープ方向を制御する。なお、目標のドップラ周波数とクラッタ周波数を把握できれば、例えば速度補正部A37,B37,C37でスイープ選定し、ビーム制御部A22,B22,C22を制御するようにしてもよい。
【0033】
以上の手法により、クラッタ環境下でも、目標とのドップラ周波数の関係によって、クラッタの影響を受けないスイープを選定して、MRAVにより目標速度を観測することができ、次式によりドップラ周波数を算出することができる。
【数5】
【0034】
一方、スイープ勾配の無い単一周波数のCW信号のFFT結果をCFAR処理して検出すると、ドップラ周波数fdcwを抽出できる。このfdcwには、送信と受信の中心周波数のずれによる誤差を含んでいる。これを補正するには、fdmravを正しい値として、fdcwとの差分を補正周波数fdcalとして補正すると、ドップラ周波数誤差を補正できる。
【数6】
【0035】
fdcalを決めると、以後、観測したドップラ周波数fdmを補正し、中心周波数による誤差の無いドップラ周波数fdを算出できる。
【数7】
【0036】
また、補正後のドップラ速度から、(5)式と同様の関係により、精度の高い目標速度を算出することができる。
【0037】
角度軸のモノパルス演算は、Σ信号を用いてCFAR処理部A34,B34,C34でCFAR処理して検出したセルについて行う。また、ビーム出力のΣとΔを用いて測角部A38,B38,C38で測角演算を行い、Az角及びEL角を算出する。
【0038】
以上のように、第1の実施形態に係るレーダシステムでは、1台の送信レーダ装置Aと2台の受信レーダ装置B,Cを用いて、送信レーダ装置Aの位置、送信ビーム方向θ、送信周波数、送信波形等を必要に応じて、受信レーダ装置B,Cに通信回線により伝送し、送信レーダ装置Aにより、少なくとも1つの単一周波数のパルス波と周波数スイープ勾配をもつアップスイープまたはダウンスイープの少なくとも1つのパルス波(FMICW)を対象目標のドップラ周波数に応じて、クラッタの影響が少ないように選定して送信し、受信レーダ装置でMRAV処理により測速した値と単一周波数のドップラ周波数より、周波数ずれを算出して補正し、速度と距離を出力する。このように、MRAV処理により、相対距離の変化を用いて目標速度を観測し、CWにより目標速度(ドップラ)を観測するため、中心周波数差(目標速度差)を補正することができる。
【0039】
(第2の実施形態)(時刻同期)
本実施形態では、レーダ装置間が離隔しているため、時刻同期の調整方法について述べる。系統を
図11に示す。
図11において、
図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0040】
本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、受信レーダ装置B,Cにおいて、時刻同期制御部B3c,C3cを備え、Σ系列のFFT処理部B33,C33で周波数領域に変換されたスイープ出力を取り込んでスイープの開始時刻を判別し、その判別結果に基づいて、受信器B2,C2に設けられたタイミング制御部B23,C23を通じて、スイープ周波数の開始時刻を変化させ、時刻誤差を修正(時刻同期)する。
【0041】
上記構成において、時刻同期方法を
図12を参照して説明する。ここでは、信号波形として、図に示すようにアップ(ダウン)スイープの波形で説明するが、アップスイープとダウンスイープを組み合わせて、いずれかのスイープを選定する方法でもよい。
【0042】
受信レーダ装置B,C側では、送受信レーダ装置Aの送信波形は既知であるが、GPSと原子時計により時刻同期調整しても時刻誤差は生じる。このため、
図12(a)に示す変調側のスイープ周波数の開始時刻に対して、
図12(b)に示すように復調側のスイープ周波数の開始時刻ΔtをNt通り変えて、
図12(c)に示すようにそれぞれのFFT後の目標信号検出し、最大値となるΔtselを選定する。このΔtselには、送信レーダ装置〜目標〜受信レーダ装置の時間遅延差と時刻ずれが含まれる。
【数8】
【0043】
この選定したΔtselを用いて、(8)式の関係を用いて、Δterrを算出し、次式により受信レーダ装置の時刻を補正する。
【数9】
【0044】
この時刻tcalを用いて、第1の実施形態の処理を実施して、目標の距離、速度を算出する。
【0045】
以上の時刻同期と中心周波数の補正後、マルチスタティック方式により目標位置を算出する手法について、
図13及び
図14を参照して説明する。
【0046】
図13は、送受信レーダ装置1台(RDR1)と受信レーダ装置2台(RDR2,RDR3)の場合に目標存在領域を計測する様子を示している。このように受信レーダ装置を2台とすると、受信レーダ装置RDR2及びRDR3についても送受信レーダ装置RDR1と同様の処理を行うことで、送信RDR1〜受信RDR1、送信RDR1〜受信RDR2と送信RDR1〜受信RDR3までの各々の距離として、R1、R12、R13を得ることができる。
【0047】
これらの距離R1、R12、R13を用いて、
図13に示すように、目標位置(x,y,z)を算出する。この手法としては、R1の球面とR12及びR13の楕円球面の交点となる。その中で、送受信レーダ装置により観測した距離、AZ角、EL角より算出した3次元の位置を中心に、所定の範囲内を目標存在領域として、その中の交点を算出する。解で算出できない場合は、目標存在領域内の点を(x,y,z)の格子点に分割し、各々の点で次式の値が最小となる点(x,y,z)を算出する。
【数10】
【0048】
なお、送受信レーダ装置が1台、受信レーダ装置が1台の場合には、
図14に示すようにR1の球面とR12の楕円球面の交線では3次元の位置を特定できない。この場合には、送受信レーダ装置の距離と測角値から算出した目標存在領域の中で、受信レーダ装置の測角値による範囲との共通範囲を抽出して目標存在領域とし、その目標存在領域内の(x,y,z)の格子点の中で、送信RDR1〜受信RDR2の観測距離により、次式により(x,y,z)を観測位置として出力する。
【数11】
【0049】
また、他の例として、
図15に示すように、レーダ波送信装置が1台、受信レーダ装置が2台の場合について述べる。この例では、送受信レーダ装置が無いため、
図13で示した処理はできず、第1の実施形態の周波数補正のみの場合となる。この場合は、2台の既知の位置にある受信レーダ装置から観測したAZ/EL角の交点により目標存在領域の中心点を算出できるため、それを中心に(x,y,z)の格子点を設定して、その中で次式により格子点の位置を選定すればよい。
【数12】
【0050】
本実施形態の手法は、マルチスタティックの装置間の中心周波数のずれ、時刻同期を行い、目標位置及び目標速度の精度を向上する手法であり、補正後の観測値を用いて位置及び速度を算出する手法であれば、格子点を設定しない手法として、受信装置からのAZ/EL測角値のみから位置を算出する手法等でもよい。
【0051】
すなわち、第2の実施形態では、少なくとも1台の送受信装置1とNr台(Nr>=1)の受信レーダ装置において、FFT(Fast Fourier Transform)の開始時間を複数通り変えた場合のFFT出力が最大となる開始時間を選定して時刻同期させて、MRAV処理により測速した値と単一周波数のドップラ周波数より、周波数ずれを算出して補正し、速度と距離を出力するようにしている。このため、スイープ信号によるFFT出力の最大値になるスイープ開始時間を抽出することで、時刻を同期させることができる。
【0052】
以上のことから明らかなように、本実施形態のレーダシステムは、レーダ間の中心周波数差を補正(同調)し、時刻同期できるマルチスタティックレーダシステムを実現できる。
【0053】
尚、上記実施形態では、CW信号やスイープ信号を用いており、ドップラ周波数補正や時刻同期とともに、目標を検出し、目標位置及び速度を観測できる。しかしながら、本手法を協調動作時のみに用いて、目標観測においては、例えばチャープ変調によるパルスを用いた送受信を行ってもよいのは言うまでもない。
【0054】
その他、本実施形態は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。