特許第6352848号(P6352848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352848
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】三相平衡装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20180625BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180625BHJP
   H02J 3/26 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   H02M7/12 601Z
   H02M7/48 R
   !H02J3/26
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-75275(P2015-75275)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-195518(P2016-195518A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】野木 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】下田 敏章
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−092877(JP,A)
【文献】 特開昭61−277376(JP,A)
【文献】 特許第3407550(JP,B2)
【文献】 特開平08−266059(JP,A)
【文献】 特開2012−175834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 7/48
H02J 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から負荷に供給される三相交流の三相不平衡を補償する三相平衡装置であって、
コンデンサーと、三相交流の第1の相、第2の相及び第3の相の制御をする複数のスイッチング素子とを含み、三相不平衡が生じているとき、前記コンデンサーの放電で生じた直流を三相交流に変換して出力する動作と、入力された三相交流を直流に変換して前記コンデンサーを充電する動作とを繰り返す変換部と、
前記三相平衡装置が起動したとき、前記コンデンサーの電圧を目標電圧にする第1の制御部と、を備え、
前記第1の制御部は、
前記コンデンサーの電圧を検出する第1の検出部と、
前記変換部に入力される三相交流を用いて、予め定められた組み合わせの相の線間電圧を検出する第2の検出部と、
前記第2の検出部で検出された前記線間電圧を用いて、前記変換部に入力される三相交流の第1の相、第2の相及び第3の相の相電圧を算出する算出部と、
前記算出部で算出された前記第1の相の相電圧を用いて第1のPWM信号、前記第2の相の相電圧を用いて第2のPWM信号、前記第3の相の相電圧を用いて第3のPWM信号を生成する生成部と、
予め定められた長さの周期である制御周期が切り替わる毎に、参照電圧に予め定められた電圧を加えることにより、前記参照電圧を前記目標電圧までステップ状に大きくする設定をし、前記制御周期毎に前記参照電圧と前記第1の検出部で検出された前記コンデンサーの電圧とを比較し、(a)前記参照電圧から前記コンデンサーの電圧を引いた値が、予め定められた第1のしきい値より大きいとき、次の前記制御周期において、前記生成部で生成された前記第1のPWM信号、前記第2のPWM信号及び前記第3のPWM信号により前記複数のスイッチング素子を作動させて、前記コンデンサーの電圧を上昇させる制御をし、(b)前記コンデンサーの電圧から前記参照電圧を引いた値が、予め定められた第2のしきい値より大きいとき、次の前記制御周期において、前記複数のスイッチング素子を作動させない制御をする第2の制御部と、を含む三相平衡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から負荷に供給される交流の三相不平衡を補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
三相交流を直流に変換するPWMコンバータ装置が起動するときに、PWMコンバータに過大な交流電流が流れることを防止する技術がある(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、PWMコンバータ装置の起動時に直流出力電圧をホールドした値を、電圧指令値とし、その後、PWMコンバータ装置は、電圧指令値を時間関数的に上昇させる制御をすることにより、過大な交流電流がPWMコンバータ装置に流れることを防ぐ。
【0003】
三相交流とは、一般に、対称三相交流を意味するが、様々な原因で三相不平衡が生じる。例えば、三相交流の交流電源から単相負荷に電力を供給する場合、第1の相(例えば、u相)及び第2の相(例えば、v相)の電流が負荷に流れ、第3の相(例えば、w相)の電流が負荷に流れないので、三相不平衡が生じる。三相不平衡が生じると、電力の効率が悪くなる。
【0004】
三相平衡装置は、三相交流の不平衡を補償して、対称三相交流にする装置であり、例えば、非特許文献1に開示されている。三相平衡装置は、例えば、移動式電源車に搭載される自家発電機に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3407550号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小関英雄、林 敏之(東北大学)、“パワーエレクトロニクス機器による不平衡補償の検討”、[平成27年3月3日検索]、インターネット〈URL:http://www.ecei.tohoku.ac.jp/~moden/paper/paper/paper23.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の図1に示すように、三相平衡装置は、コンデンサー及び変換部を備える。変換部は、u相を制御する二つのスイッチング素子、v相を制御する二つのスイッチング素子、及び、w相を制御する二つのスイッチング素子を備え、入力された三相交流を直流に変換してコンデンサーを充電し、コンデンサーの放電で生じた直流を三相交流に変換して出力する。
【0008】
コンデンサーの電圧が所定電圧(目標電圧)に到達していなければ、三相不平衡を補償する際に、変換部は、負荷に十分な補償電流を供給できない。このため、三相平衡装置が起動するとき、三相平衡装置は、コンデンサーの電圧を目標電圧にする制御をする。この制御において、コンデンサーに過大な電圧が印加されるとコンデンサーが破壊するおそれがあり、スイッチング素子に過大な電流が流れると、スイッチング素子が破壊するおそれがある。
【0009】
本発明は、三相平衡装置の起動時にコンデンサーの電圧を目標電圧にする制御において、過大な電圧がコンデンサーに印加されたり、過大な電流がスイッチング素子に流れたりすることを防止できる三相平衡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る三相平衡装置は、交流電源から負荷に供給される三相交流の三相不平衡を補償する三相平衡装置であって、コンデンサーと、三相交流の第1の相、第2の相及び第3の相の制御をする複数のスイッチング素子とを含み、三相不平衡が生じているとき、前記コンデンサーの放電で生じた直流を三相交流に変換して出力する動作と、入力された三相交流を直流に変換して前記コンデンサーを充電する動作とを繰り返す変換部と、前記三相平衡装置が起動したとき、前記コンデンサーの電圧を目標電圧にする第1の制御部と、を備え、前記第1の制御部は、前記コンデンサーの電圧を検出する第1の検出部と、前記変換部に入力される三相交流を用いて、予め定められた組み合わせの相の線間電圧を検出する第2の検出部と、前記第2の検出部で検出された前記線間電圧を用いて、前記変換部に入力される三相交流の第1の相、第2の相及び第3の相の相電圧を算出する算出部と、前記算出部で算出された前記第1の相の相電圧を用いて第1のPWM信号、前記第2の相の相電圧を用いて第2のPWM信号、前記第3の相の相電圧を用いて第3のPWM信号を生成する生成部と、予め定められた長さの周期である制御周期が切り替わる毎に、参照電圧に予め定められた電圧を加えることにより、前記参照電圧を前記目標電圧までステップ状に大きくする設定をし、前記制御周期毎に前記参照電圧と前記第1の検出部で検出された前記コンデンサーの電圧とを比較し、(a)前記参照電圧から前記コンデンサーの電圧を引いた値が、予め定められた第1のしきい値より大きいとき、次の前記制御周期において、前記生成部で生成された前記第1のPWM信号、前記第2のPWM信号及び前記第3のPWM信号により前記複数のスイッチング素子を作動させて、前記コンデンサーの電圧を上昇させる制御をし、(b)前記コンデンサーの電圧から前記参照電圧を引いた値が、予め定められた第2のしきい値より大きいとき、次の前記制御周期において、前記複数のスイッチング素子を作動させない制御をする第2の制御部と、を含む。
【0011】
第2の制御部の制御によってコンデンサーの電圧を目標電圧までステップ状に上昇させることができるので、コンデンサーの電圧が目標電圧に対してオーバーシュートすることを防ぐことができる。従って、本発明に係る三相平衡装置によれば、三相平衡装置の起動時にコンデンサーの電圧を目標電圧にする制御において、過大な電圧がコンデンサーに印加されたり、過大な電流がスイッチング素子に流れたりすることを防止できる。また、本発明に係る三相平衡装置によれば、電流を検出することなく、コンデンサーの電圧を目標電圧にすることができるので、電流検出部を別途設ける必要がない。
【0012】
なお、コンデンサーの電圧を目標電圧までステップ状に上昇させる制御は、上記(a)及び(b)に限らず、以下の制御でも可能である。
【0013】
前記第2の制御部は、前記(a)及び(b)の替わりに、前記コンデンサーの電圧が前記参照電圧以下のとき、次の前記制御周期において、前記生成部で生成された前記第1のPWM信号、前記第2のPWM信号及び前記第3のPWM信号により前記複数のスイッチング素子を作動させて、前記コンデンサーの電圧を上昇させる制御をし、前記コンデンサーの電圧が前記参照電圧より大きいとき、次の前記制御周期において、前記複数のスイッチング素子を作動させない制御をする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、三相平衡装置の起動時にコンデンサーの電圧を目標電圧にする制御において、過大な電圧がコンデンサーに印加されたり、過大な電流がスイッチング素子に流れたりすることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る三相平衡装置の構成を示す回路ブロック図である。
図2】補償制御部の構成を示すブロック図である。
図3】三相平衡装置が起動したときに、目標電圧制御部が、コンデンサーの電圧を目標電圧にする制御を説明するフローチャートである。
図4】三相平衡装置が起動したとき、コンデンサーの電圧と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る三相平衡装置1の構成を示す回路ブロック図である。三相平衡装置1は、交流電源10から負荷11に供給される三相交流の三相不平衡が発生したとき、コンデンサー20の放電で生じた直流を三相交流に変換して負荷11に供給し、余分な三相交流を直流に変換してコンデンサー20を充電し、これらの放電と充電とを繰り返して、三相不平衡を補償する。交流電源10は、例えば、移動式電源車に搭載された、三相交流を発電する自家発電機である。
【0017】
三相平衡装置1は、変換部2、補償制御部3及び目標電圧制御部4を備える。
【0018】
変換部2は、コンデンサー20と、三相交流の第1の相、第2の相及び第3の相の制御をする複数のスイッチング素子Q1〜Q6とを含み、交流電源10から負荷11に供給される三相交流に三相不平衡が生じているとき、コンデンサー20の放電で生じた直流を三相交流に変換して出力する動作と、入力された三相交流を直流に変換してコンデンサー20を充電する動作とを繰り返す。第1の相をu相、第2の相をv相、第3の相をw相とし、変換部2について詳しく説明する。
【0019】
変換部2は、三つのハーフブリッジ回路21,22,23が並列に接続された三相ブリッジ回路である。ハーフブリッジ回路21は、三相交流のu相を制御する回路であり、ハーフブリッジ回路22は、三相交流のv相を制御する回路であり、ハーフブリッジ回路23は、三相交流のw相を制御する回路である。
【0020】
ハーフブリッジ回路21は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とが直列に接続されて構成される。スイッチング素子Q1は、還流ダイオードD1と逆並列に接続され、スイッチング素子Q2は、還流ダイオードD2と逆並列に接続されている。
【0021】
ハーフブリッジ回路22は、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とが直列に接続されて構成される。スイッチング素子Q3は、還流ダイオードD3と逆並列に接続され、スイッチング素子Q4は、還流ダイオードD4と逆並列に接続されている。
【0022】
ハーフブリッジ回路23は、スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6とが直列に接続されて構成される。スイッチング素子Q5は、還流ダイオードD5と逆並列に接続され、スイッチング素子Q6は、還流ダイオードD6と逆並列に接続されている。
【0023】
スイッチング素子Q1〜Q6は、IGBTのような半導体スイッチング素子である。
【0024】
コンデンサー20は、三つのハーフブリッジ回路21,22,23と並列に接続されている。
【0025】
三相平衡装置1は、三つのリアクトルLu,Lv,Lw及び三つのコンデンサーCu,Cv,Cwを備える。スイッチング素子Q1,Q2の直列接続点は、リアクトルLuを介して交流電源10のu相と接続されている。スイッチング素子Q3,Q4の直列接続点は、リアクトルLvを介して交流電源10のv相と接続されている。スイッチング素子Q5,Q6の直列接続点は、リアクトルLwを介して交流電源10のw相と接続されている。
【0026】
コンデンサーCuの一端は、交流電源10のu相及びリアクトルLuの一端と接続されている。コンデンサーCvの一端は、交流電源10のv相及びリアクトルLvの一端と接続されている。コンデンサーCwの一端は、交流電源10のw相及びリアクトルLwの一端と接続されている。コンデンサーCu,Cv,Cwの他端は、互いに接続されている。
【0027】
リアクトルLu,Lv,Lw及びコンデンサーCu,Cv,Cwは、ノイズを除去するフィルターとして機能する。
【0028】
三相平衡装置1は、電流センサー5,6,7,8を備える。電流センサー5は、スイッチング素子Q1,Q2の直列接続点から負荷11に送られるu相の電流を検出するセンサーである。電流センサー6は、スイッチング素子Q5,Q6の直列接続点から負荷11に送られるw相の電流を検出するセンサーである。スイッチング素子Q3,Q4の直列接続点から負荷11に送られるv相の電流を検出するセンサーが設けられていないのは、u相の電流とw相の電流とが分かれば、v相の電流は、計算で求めることができるからである(u相の電流+v相の電流+w相の電流=0)。すなわち、u相、v相、w相のいずれか二つの電流が分かれば、残りの一つの電流は、計算で求めることができる。
【0029】
負荷11は、交流電源10のu相、v相、w相にそれぞれ接続され、かつ、変換部2のu相、v相、w相にそれぞれ接続されている。電流センサー7は、交流電源10のu相から負荷11に送られるu相の電流を検出するセンサーである。電流センサー8は、交流電源10のw相から負荷11に送られるw相の電流を検出するセンサーである。交流電源10のv相から負荷11に送られるv相の電流を検出するセンサーが設けられていないのは、上述した理由と同じである。
【0030】
補償制御部3は、交流電源10から負荷11に供給される三相交流に三相不平衡が生じているとき、変換部2を制御して、三相不平衡を補償する。図2は、補償制御部3の構成を示すブロック図である。補償制御部3は、機能ブロックとして、不平衡判定部30、補償電流演算部31、PWM信号生成部32及び補償電流監視部33を備える。補償制御部3は、CPU、RAM及びROM等のハードウェハ、及び、上記機能ブロックの機能を実行するプログラム等のソフトウェアにより実現される。
【0031】
不平衡判定部30は、図1の電流センサー7,8で検出されたu相及びw相の電流、並びに、こられの電流を用いて計算により求めたv相の電流を監視し、負荷11に流れるu相、v相、w相の電流に三相不平衡が生じているか否かを判定する。
【0032】
補償電流演算部31は、不平衡判定部30が、三相不平衡が生じていると判定したとき、三相不平衡を補償するために、負荷11に供給すべきu相、v相、w相の補償電流を演算する。
【0033】
PWM信号生成部32は、補償電流演算部31で演算された補償電流を、変換部2が出力するために必要なPWM信号を生成する。PWM信号生成部32で生成されたPWM信号は、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに供給され、これにより、スイッチング素子Q1〜Q6が作動し、変換部2は、補償電流を負荷11に出力する。
【0034】
補償電流監視部33は、図1の電流センサー5,6で検出されたu相及びw相の補償電流、並びに、こられの電流を用いて計算により求めたv相の補償電流を監視し、u相、v相、w相の補償電流が、補償電流演算部31で演算された補償電流と一致するか否かを判定する。補償電流監視部33が上記一致しないと判定したとき、補償制御部3は、補償電流を調節する。
【0035】
図1を参照して、目標電圧制御部4について説明する。コンデンサー20の電圧が予め定められた目標電圧に到達していなければ、三相不平衡が発生したとき、変換部2は、負荷11に補償電流を十分に供給することができない。このため、三相平衡装置1が起動したとき、目標電圧制御部4は、コンデンサー20の電圧を目標電圧まで充電する制御をする。
【0036】
目標電圧制御部4は、第1の制御部の例であり、電圧センサー40,41,42、相電圧算出部43、PWM信号生成部44,45,46及び比較制御部47を備える。相電圧算出部43、PWM信号生成部44,45,46及び比較制御部47は、CPU、RAM及びROM等のハードウェハ、及び、それらの機能ブロックの機能を実行するプログラム等のソフトウェアにより実現される。
【0037】
電圧センサー40は、第1の検出部の例であり、コンデンサー20の電圧であるコンデンサー電圧Vdcを検出する。
【0038】
電圧センサー41,42は、第2の検出部の例であり、変換部2に入力される三相交流(変換部2に流れる三相交流)を用いて、予め定められた組み合わせの相の線間電圧を検出する。u相とv相との線間電圧、及び、v相とw相との線間電圧を例にして説明する。電圧センサー41は、u相とv相との線間電圧を検出する。電圧センサー42は、v相とw相との線間電圧を検出する。
【0039】
相電圧算出部43は、算出部の例であり、電圧センサー41,42で検出された線間電圧を用いて、変換部2に入力される三相交流(変換部2に流れる三相交流)のu相、v相及びw相の相電圧を算出する。相電圧算出部43は、例えば、電圧センサー41,42で検出された線間電圧と以下の式とを用いて、相電圧を算出する。
【0040】
Vu=(2Vuv+Vvw)/3
Vv=(−Vuv+Vvw)/3
Vw=(−Vuv−2Vvw)/3
Vuは、u相の相電圧であり、Vvは、v相の相電圧であり、Vwは、w相の相電圧である。Vuvは、u相とv相との線間電圧であり、Vvwは、v相とw相との線間電圧である。u相とw相との線間電圧がなくても、u相、v相、w相の相電圧を算出することができる。このため、u相とw相との線間電圧を検出する必要がないのである。u相とv相との線間電圧、v相とw相との線間電圧、及び、u相とw相との線間電圧のうち、いずれか二つの線間電圧から、u相、v相、w相の相電圧を算出することができる。
【0041】
PWM信号生成部44は、相電圧算出部43で算出されたu相の相電圧と三角波とを用いて、u相用のPWM信号を生成する。PWM信号生成部45は、相電圧算出部43で算出されたv相の相電圧と三角波とを用いて、v相用のPWM信号を生成する。PWM信号生成部46は、相電圧算出部43で算出されたw相の相電圧と三角波とを用いて、w相用のPWM信号を生成する。PWM信号生成部44,45,46は、生成部の例である。
【0042】
比較制御部47は、第2の制御部の例であり、予め定められた長さの周期である制御周期が切り替わる毎に、参照電圧Vdc_refに予め定められた電圧を加えることにより、参照電圧Vdc_refを目標電圧までステップ状に大きくする設定をし、制御周期毎に参照電圧Vdc_refと電圧センサー40で検出されたコンデンサー電圧Vdcとを比較し、(a)参照電圧Vdc_refからコンデンサー電圧Vdcを引いた値が、予め定められた第1のしきい値より大きいとき、次の制御周期において、PWM信号生成部44,45,46で生成されたu相用のPWM信号、v相用のPWM信号及びw相用のPWM信号により複数のスイッチング素子Q1〜Q6を作動させて、コンデンサー電圧Vdcを上昇させる制御をし、(b)コンデンサー電圧Vdcから参照電圧Vdc_refを引いた値が、予め定められた第2のしきい値より大きいとき、次の制御周期において、複数のスイッチング素子Q1〜Q6を作動させない制御をする。
【0043】
比較制御部47は、判定部48、設定部49及びアンドゲート50,51,52を備える。
【0044】
判定部48には、参照電圧Vdc_refと電圧センサー40で検出されたコンデンサー電圧Vdcとが入力する。判定部48は、予め定められた時間の周期を制御周期とし、制御周期毎に、参照電圧Vdc_refとコンデンサー電圧Vdcと比較し、比較結果に応じて、Hレベル信号又はLレベル信号を出力する。
【0045】
判定部48から出力された信号は、アンドゲート50,51,52の一方の入力端子に入力される。アンドゲート50の他方の入力端子には、u相用のPWM信号が入力される。アンドゲート51の他方の入力端子には、v相用のPWM信号が入力される。アンドゲート52の他方の入力端子には、w相用のPWM信号が入力される。
【0046】
設定部49は、判定部48に入力される参照電圧Vdc_refを設定する。設定部49は、最初の制御周期において、参照電圧Vdc_refとして初期値を設定し、制御周期が切り替わる毎に、今回の制御周期の参照電圧Vdc_refに予め定められた電圧(ステップ電圧)を加えた値を、次の制御周期の参照電圧Vdc_refとして設定する。例えば、目標電圧を380V、初期値を290V、ステップ電圧を1Vとする。設定部49は、最初の制御周期で、参照電圧Vdc_refとして290Vを設定し、次の制御周期で、参照電圧Vdc_refとして291Vを設定し、その次の制御周期で、参照電圧Vdc_refとして292Vを設定し、最後の制御周期で、参照電圧Vdc_refとして380Vを設定する。
【0047】
三相平衡装置1が起動したとき、目標電圧制御部4は、コンデンサー電圧Vdc(コンデンサー20の電圧)を目標電圧にする制御をする。この制御を、図1及び図3を用いて説明する。図3は、その制御を説明するフローチャートである。
【0048】
三相平衡装置1が起動したとき、電圧センサー41,42は、線間電圧を検出する(ステップS1)。相電圧算出部43は、電圧センサー41,42が検出した線間電圧を用いて、相電圧を算出する(ステップS2)。
【0049】
判定部48は、以下の式(1)が成立するか否かを判定する(ステップS3)。
【0050】
参照電圧Vdc_ref−コンデンサー電圧Vdc>Vth・・・(1)
ステップS3は、参照電圧Vdc_refからコンデンサー電圧Vdcを引いた値が、予め定められた第1のしきい値より大きいか否かを判定するステップである。
【0051】
判定部48は、式(1)が成立とすると判定したとき(ステップS3でYes)、コンデンサー電圧Vdcが、参照電圧Vdc_refより小さいと見なし、次の制御周期でアンドゲート50,51,52にHレベル信号を出力することを決定する(ステップS4)。Hレベル信号が出力されたとき、アンドゲート50,51,52がオンする。従って、u相用のPWM信号がスイッチング素子Q1,Q2のゲートに入力され、v相用のPWM信号がスイッチング素子Q3,Q4のゲートに入力され、w相用のPWM信号がスイッチング素子Q5,Q6のゲートに入力される。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6が作動し、コンデンサー電圧Vdcを上昇させることができる。
【0052】
判定部48は、式(1)が成立しないと判定したとき(ステップS3でNo)、以下の式(2)が成立するか否かを判定する(ステップS5)。
【0053】
参照電圧Vdc_ref−コンデンサー電圧Vdc<−Vth・・・(2)
ステップS5は、コンデンサー電圧Vdcから参照電圧Vdc_refを引いた値が、予め定められた第2のしきい値より大きいか否かを判定するステップである。−Vthの絶対値とVthの絶対値とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。すなわち、第1のしきい値と第2のしきい値とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
判定部48は、式(2)が成立とすると判定したとき(ステップS5でYes)、コンデンサー電圧Vdcが、参照電圧Vdc_refより大きいと見なし、次の制御周期でアンドゲート50,51,52にLレベル信号を出力することを決定する(ステップS6)。Lレベル信号が出力されたとき、アンドゲート50,51,52がオフする。従って、u相用のPWM信号がスイッチング素子Q1,Q2のゲートに入力されず、v相用のPWM信号がスイッチング素子Q3,Q4のゲートに入力されず、w相用のPWM信号がスイッチング素子Q5,Q6のゲートに入力されない。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6の作動が停止し、コンデンサー電圧Vdcが上昇するのを防ぐことができる。
【0055】
判定部48は、式(1)が成立しないと判定し、かつ、式(2)が成立しないと判定した場合(ステップS3でNo、ステップS5でNo)、参照電圧Vdc_refとコンデンサー電圧Vdcとが等しいと見なす。この場合、コンデンサー電圧Vdcが、参照電圧Vdc_refに追従できていることになるので、判定部48は、アンドゲート50,51,52に対して、前回の制御周期と同じレベルの信号を出力する。すなわち、判定部48は、前回の制御周期でアンドゲート50,51,52にLレベル信号を出力したとき、Lレベル信号を出力し、前回の制御周期でアンドゲート50,51,52にHレベル信号を出力したとき、Hレベル信号を出力する。なお、初期状態において、判定部48は、アンドゲート50,51,52にLレベル信号を出力するので、ステップS3でNo、かつ、ステップS5でNoとなることはない。
【0056】
判定部48は、ステップS4の後、ステップS6の後、又は、ステップS5でNoの後、参照電圧Vdc_refが目標電圧より小さいか否かを判定する(ステップS7)。
【0057】
判定部48が、参照電圧Vdc_refが目標電圧より小さいと判定したとき(ステップS7でYes)、設定部49は、現在の参照電圧Vdc_refにステップ電圧を加えた値を新たな参照電圧Vdc_refとして設定して、判定部48に送る(ステップS8)。
【0058】
目標電圧制御部4は、ステップS2で算出された相電圧をPWMの指令電圧として、PWM信号生成部44,45,46にそれぞれ、u相用のPWM信号、v相用のPWM信号、w相用のPWM信号を生成させる。そして、目標電圧制御部4は、次の制御周期に移るために(ステップS9)、ステップS1に戻る。
【0059】
一つの制御周期は、ステップS1の線間電圧の検出から上記PWM信号の生成までの期間である。
【0060】
ステップS4の処理がされた場合、次の制御周期において、スイッチング素子Q1〜Q6が作動する。すなわち、前回の制御周期でステップS4の処理がされた場合、今回の制御周期において、スイッチング素子Q1〜Q6が作動する。これにより、コンデンサー電圧Vdcを上昇させることができる。
【0061】
これに対して、ステップS6の処理がされた場合、次の制御周期において、スイッチング素子Q1〜Q6の作動が停止される。すなわち、前回の制御周期でステップS6の処理がされた場合、今回の制御周期において、スイッチング素子Q1〜Q6の作動が停止される。これにより、コンデンサー電圧Vdcが上昇することを防ぐことができる。
【0062】
判定部48が、参照電圧Vdc_refが目標電圧に到達したと判定したとき(ステップS7でNo)、目標電圧制御部4は、コンデンサー電圧Vdcを目標電圧にする制御を終了する。以上のように、目標電圧制御部4は、フィードフォワード制御によって、コンデンサー電圧Vdcを目標電圧にする。その後、設定部49は、目標電圧を参照電圧Vdc_refとして設定することにより、コンデンサー電圧Vdcは目標電圧に維持される。
【0063】
本実施形態によれば、コンデンサー電圧Vdc(コンデンサー20の電圧)を目標電圧にできることを理論的に説明する。図1を参照して、電圧センサー41,42で検出された線間電圧と、PWM信号生成部44,45,46で生成されたPWM信号により三相平衡装置1で生成される電圧(u相の電圧、v相の電圧、w相の電圧)との間には、AD変換等の処理のために、時間差が生じる。これが原因で、交流電源10側の電圧と三相平衡装置1で生成される電圧との間に、電圧差Vdiffが生じる。
【0064】
これをu相で説明する。交流電源10のu相の電圧をVu1、三相平衡装置1側のu相の電圧Vu2とし、いずれも正弦関数で表されるとする。電圧Vu2は、スイッチング素子Q1,Q2の直列接続点の電圧である。
【0065】
相電圧の振幅をVとすると、Vu1は、Vsinωtとして表すことができる。Vu2は、時間遅れをΔtとして、Vsin(ω(t−Δt))として表すことができる。従って、電圧差Vdiffは、式(3)となる。
【0066】
Vdiff=Vu1−Vu2=EVcosωt・・・(3)
Eは、定数(=sinωΔt)である。
【0067】
電圧差VdiffをリアクトルLuのインダクタンスLで割り、時間積分をした値が、リアクトルLuに流れる電流ILである。
【0068】
【数1】
【0069】
電流ILは、sinωtに比例した値となる。コンデンサー20に充電される電力Pは、式(5)で表すことができる。
【0070】
【数2】
【0071】
電力Pは正の値となる。これは、交流電源10から三相平衡装置1に対して、コンデンサー20を充電する電力が供給されていることを意味する。
【0072】
三相平衡装置1が起動するとき、コンデンサー電圧Vdc(コンデンサー20の電圧)と時間との関係について、実験により検証を行った。図4は、その結果を示すグラフである。横軸は、起動開始から経過した時間(秒)を示す。縦軸は、コンデンサー電圧Vdcを示す。交流電源10の電圧を210V、コンデンサー20の電圧の初期値を約290V、目標電圧を380V、ステップ電圧を1秒当たり10Vとした。本実施形態によれば、コンデンサー電圧Vdcをステップ状(言い換えれば、徐々)に上昇させて、コンデンサー電圧Vdcを目標電圧に到達させることができることが分かる。
【0073】
本実施形態の主な効果を説明する。目標電圧制御部4の制御によってコンデンサー電圧Vdcを目標電圧までステップ状に上昇させることができるので、コンデンサー電圧Vdcが目標電圧に対してオーバーシュートすることを防ぐことができる。従って、本実施形態によれば、三相平衡装置1の起動時にコンデンサー電圧Vdcを目標電圧にする制御において、過大な電圧がコンデンサー20に印加されたり、過大な電流がスイッチング素子Q1〜Q6に流れたりすることを防止できる。また、本実施形態によれば、電流を検出することなく、コンデンサー電圧Vdcを目標電圧にすることができるので、電流検出部を別途設ける必要がない。
【0074】
本実施形態の変形例を説明する。変形例では、図3に示すステップS3,S5の替わりに、以下のステップを有する。判定部48は、コンデンサー電圧Vdcが参照電圧Vdc_ref以下か否かを判定する。判定部48が、コンデンサー電圧Vdcが参照電圧Vdc_ref以下と判定したとき、ステップS4に進む。これにより、目標電圧制御部4は、次の制御周期において、PWM信号生成部44,45,46で生成されたu相用のPWM信号、v相用のPWM信号及びw相用のPWM信号により複数のスイッチング素子Q1〜Q6を作動させて、コンデンサー20の電圧を上昇させる制御をする。
【0075】
判定部48が、コンデンサー電圧Vdcが参照電圧Vdc_refより大きいと判定したとき、ステップS6に進む。これにより、目標電圧制御部4は、次の制御周期において、複数のスイッチング素子Q1〜Q6を作動させない制御をする。
【符号の説明】
【0076】
1 三相平衡装置
2 変換部
3 補償制御部
4 目標電圧制御部(第1の制御部の例)
10 交流電源
11 負荷
20 コンデンサー
40 電圧センサー(第1の検出部の例)
41,42 電圧センサー(第2の検出部の例)
43 相電圧算出部(算出部の例)
44,45,46 PWM信号生成部(生成部の例)
47 比較制御部(第2の制御部の例)
48 判定部
49 設定部
Q1〜Q6 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4