特許第6352871号(P6352871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352871
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】尿検体分析装置および尿検体分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20180625BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20180625BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G01N33/493 B
   G01N33/483 C
   G01N21/64 Z
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-169861(P2015-169861)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-44675(P2017-44675A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光優
(72)【発明者】
【氏名】立山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】川野 雅典
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−277381(JP,A)
【文献】 特開2007−255954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射する光源と、
前記尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部により出力されたピークをもつ信号の波形について、前記波形の立ち上がり時間を反映した第1パラメータと、前記波形の立ち下がり時間を反映した第2パラメータと取得し、取得した前記第1パラメータおよび前記第2パラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備え、
前記立ち上がり時間は、前記波形の信号値が低レベル側の信号閾値から前記ピークよりも小さい高レベル側の信号閾値に至るまでに要する時間であり、
前記立ち下がり時間は、前記波形の信号値が前記ピークよりも小さい高レベル側の信号閾値から低レベル側の信号閾値に至るまでに要する時間である、尿検体分析装置。
【請求項2】
前記第1パラメータは、前記信号波形の立ち上がり時間と、前記信号波形の立ち上がり開始から立ち下がり終了までに要する基準時間との演算により得られるパラメータであり
前記第2パラメータは、前記信号波形の立ち下がり時間と、前記基準時間との演算により得られるパラメータである、請求項1に記載の尿検体分析装置。
【請求項3】
前記立ち上がり時間は、前記信号波形の前端側における立ち上がり時間であり、
前記立ち下がり時間は、前記信号波形の後端側における立ち下がり時間である、請求項またはに記載の尿検体分析装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記尿検体に含まれる有形成分から、前記第1パラメータおよび前記第2パラメータの組合せが精子を抽出するための第1抽出範囲または第2抽出範囲に含まれる有形成分を抽出し、抽出した前記有形成分に基づいて前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、請求項ないしの何れか一項に記載の尿検体分析装置。
【請求項5】
前記第1抽出範囲は、前記第2パラメータよりも前記第1パラメータの方が大きい範囲内に設定され、
前記第2抽出範囲は、前記第1パラメータよりも前記第2パラメータの方が大きい範囲内に設定される、請求項に記載の尿検体分析装置。
【請求項6】
前記受光部は、側方散乱光または蛍光に基づく信号を出力し、
前記第1パラメータおよび前記第2パラメータは、前記側方散乱光の信号または前記蛍光の信号から得られた情報である、請求項1ないしの何れか一項に記載の尿検体分析装置。
【請求項7】
前記蛍光は、細胞膜を染色する染色液により染色された有形成分から生じる光である、請求項に記載の尿検体分析装置。
【請求項8】
前記解析部は、前記第1パラメータおよび前記第2パラメータに基づいて、精子の形状の特徴を示す信号波形に対応する有形成分を計数し、計数結果に基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、請求項1ないしの何れか一項に記載の尿検体分析装置。
【請求項9】
表示部と、
前記尿検体の第1部分と細胞膜を染色する染色液とを混合して前記測定試料として第1測定試料を調製し、前記尿検体の第2部分と核酸を染色する染色液とを混合して第2測定試料を調製する試料調製部と、を備え、
前記解析部は、
前記第1測定試料に基づいて前記尿検体における精子の存在に関する判定を行い、
前記フローセルを流れる前記第2測定試料に前記光源からの光を照射することにより前記受光部から出力される信号に基づいて前記尿検体における精子の数を取得し、
前記第2測定試料から取得した精子の数を前記表示部に表示させる、請求項1ないしの何れか一項に記載の尿検体分析装置。
【請求項10】
前記解析部は、前記第1測定試料に基づいて前記尿検体に精子が存在すると判定した場合、前記第2測定試料に基づいて取得した精子の数を前記表示部に表示させ、前記尿検体に精子が存在しないと判定した場合、前記第2測定試料に基づいて取得した精子の数を前記表示部に表示させない、請求項に記載の尿検体分析装置。
【請求項11】
前記解析部は、前記第1測定試料に基づいて前記尿検体に精子が存在しないと判定した場合、前記尿検体に精子が存在しないことを示す情報を前記表示部に表示させる、
請求項10に記載の尿検体分析装置。
【請求項12】
尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射する光源と、
前記尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部により出力された信号の波形において信号値が最大となる時間位置を示すパラメータと、前記信号波形の最大値を示すパラメータとに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える、尿検体分析装置。
【請求項13】
尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射する光源と、
前記尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部により出力された信号の波形について、精子の頭部および尾部の形状を反映した信号値に基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える、尿検体分析装置。
【請求項14】
尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射する光源と、
前記尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部により出力された信号の波形について、前記波形の前端側の立ち上がりを反映した第1パラメータと、前記波形の後端側の立ち下がりを反映した第2パラメータとを取得し、取得した前記第1パラメータおよび前記第2パラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える、尿検体分析装置。
【請求項15】
前記受光部は、側方散乱光または蛍光に基づく信号を出力し、
前記解析部は、前記側方散乱光の信号または前記蛍光の信号の信号波形に基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、請求項12ないし14の何れか一項に記載の尿検体分析装置。
【請求項16】
前記蛍光は、細胞膜を染色する染色液により染色された有形成分から生じる光である、請求項15に記載の尿検体分析装置。
【請求項17】
尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射し、
前記尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、
取得したピークをもつ信号の波形について、前記波形の信号値が低レベル側の信号閾値から前記ピークよりも小さい高レベル側の信号閾値に至るまでに要する前記波形の立ち上がり時間を反映した第1パラメータと、前記波形の信号値が前記ピークよりも小さい高レベル側の信号閾値から低レベル側の信号閾値に至るまでに要する前記波形の立ち下がり時間を反映した第2パラメータと取得し、
取得した前記第1パラメータおよび前記第2パラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、尿検体分析方法。
【請求項18】
尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射し、
前記尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、
取得した信号の波形において信号値が最大となる時間位置を示すパラメータと、前記信号波形の最大値を示すパラメータとを取得し、
取得した前記2つのパラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、尿検体分析方法。
【請求項19】
尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射し、
前記尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、
取得した信号の波形について、精子の頭部および尾部の形状を反映した信号値を取得し、
取得した前記信号値に基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、尿検体分析方法。
【請求項20】
尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、
前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射し、
前記尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、
取得した信号の波形について、前記波形の前端側の立ち上がりを反映した第1パラメータと、前記波形の後端側の立ち下がりを反映した第2パラメータとを取得し、
取得した前記第1パラメータおよび前記第2パラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う、尿検体分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿検体分析装置および尿検体分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿検体に含まれる有形成分を分類し計数する装置が知られている。患者から採取した尿検体には、患者の状態によって多種多様な有形成分が含まれる。尿検体に含まれる有形成分を計数することは、尿検査や病気の診断において重要である。
【0003】
特許文献1には、尿検体を染色してフローセルに流し、有形成分から発せられる蛍光と散乱光を検出し、蛍光信号強度と散乱光信号強度に基づいて、赤血球、酵母様真菌、および精子を分類し計数することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−255954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細菌数が通常より多い異常検体を分析する場合には、細菌が凝集した凝集体を精子と誤判定してしまうことがある。このような異常検体を分析する場合であっても、精子以外の有形成分を精子と判断することなく、正確に精子の存在を判定できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、尿検体分析装置に関する。本態様に係る尿検体分析装置は、尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、フローセルを流れる測定試料に光を照射する光源と、尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、受光部により出力されたピークをもつ信号の波形について、波形の立ち上がり時間を反映した第1パラメータと、波形の立ち下がり時間を反映した第2パラメータと取得し、取得した第1パラメータおよび第2パラメータに基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える。ここで、立ち上がり時間は、波形の信号値が低レベル側の信号閾値からピークよりも小さい高レベル側の信号閾値に至るまでに要する時間であり、立ち下がり時間は、波形の信号値がピークよりも小さい高レベル側の信号閾値から低レベル側の信号閾値に至るまでに要する時間である。
【0007】
本発明の第2の態様は、尿検体分析装置に関する。本態様に係る尿検体分析装置は、尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、フローセルを流れる測定試料に光を照射する光源と、尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、受光部により出力された信号の波形において信号値が最大となる時間位置を示すパラメータと、前記信号波形の最大値を示すパラメータとに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える。
【0008】
本発明の第3の態様は、尿検体分析装置に関する。本態様に係る尿検体分析装置は、尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、フローセルを流れる測定試料に光を照射する光源と、尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、受光部により出力された信号の波形について、精子の頭部および尾部の形状を反映した信号値に基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える。
本発明の第4の態様は、尿検体分析装置に関する。本態様に係る尿検体分析装置は、尿検体を含む測定試料が流れるフローセルと、フローセルを流れる測定試料に光を照射する光源と、尿検体に含まれる各有形成分からの光を受光し、受光した光に応じた信号を出力する受光部と、受光部により出力された信号の波形について、波形の前端側の立ち上がりを反映した第1パラメータと、波形の後端側の立ち下がりを反映した第2パラメータとを取得し、取得した第1パラメータおよび第2パラメータに基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定を行う解析部と、を備える。
【0009】
本発明の第の態様は、尿検体分析方法に関する。本態様に係る尿検体分析方法は、尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に光を照射し、尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、取得したピークをもつ信号の波形について、波形の信号値が低レベル側の信号閾値からピークよりも小さい高レベル側の信号閾値に至るまでに要する波形の立ち上がり時間を反映した第1パラメータと、波形の信号値がピークよりも小さい高レベル側の信号閾値から低レベル側の信号閾値に至るまでに要する波形の立ち下がり時間を反映した第2パラメータと取得し、取得した第1パラメータおよび第2パラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う。
【0010】
本発明の第6の態様は、尿検体分析方法に関する。本態様に係る尿検体分析方法は、尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に光を照射し、尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、取得したピークをもつ信号の波形において信号値が最大となる時間位置を示すパラメータと、信号波形の最大値を示すパラメータとを取得し、取得した2つのパラメータに基づいて、前記尿検体における精子の存在に関する判定を行う。
本発明の第7の態様は、尿検体分析方法に関する。本態様に係る尿検体分析方法は、尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に光を照射し、尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、取得した信号の波形について、精子の頭部および尾部の形状を反映した信号値を取得し、取得した信号値に基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定を行う。
本発明の第8の態様は、尿検体分析方法に関する。本態様に係る尿検体分析方法は、尿検体を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に光を照射し、尿検体に含まれる各有形成分から受光した光に応じた信号を取得し、取得した信号の波形について、波形の前端側の立ち上がりを反映した第1パラメータと、波形の後端側の立ち下がりを反映した第2パラメータとを取得し、取得した第1パラメータおよび第2パラメータに基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、尿検体分析において精度良く精子の存在を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態1に係る尿検体分析装置の構成を示す図である。
図2図2は、実施形態1に係る尿検体分配部および試料調製部の構成を示す図である。
図3図3(a)は、実施形態1に係る1つの有形成分に基づく信号波形を示す模式図である。図3(b)は、実施形態1に係る1つの有形成分に基づく信号波形のピーク値を示す模式図である。図3(c)は、実施形態1に係る1つの有形成分に基づく信号波形の幅を示す模式図である。
図4図4(a)は、実施形態1に係る第1パラメータおよび第2パラメータを説明するための模式図である。図4(b)、(c)は、実施形態1に係る精子に基づく信号波形を示す模式図である。
図5図5は、実施形態1に係る尿検体分析装置による解析処理を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態1に係る尿検体分析装置による第1取得処理を示すフローチャートである。
図7図7(a)は、実施形態1に係る目視により精子なしと判定された尿検体に基づく第1スキャッタグラムを例示する図である。図7(b)は、実施形態1に係る目視により精子ありと判定された尿検体に基づく第1スキャッタグラムを例示する図である。図7(c)は、実施形態1に係る第1スキャッタグラムに設定される第1抽出範囲および第2抽出範囲を模式的に示す図である。
図8図8は、実施形態1に係る尿検体分析装置による精子判定処理を示すフローチャートである。
図9図9(a)は、実施形態1に係る尿検体分析装置による第2取得処理を示すフローチャートである。図9(b)は、実施形態1に係る第2スキャッタグラムおよび第2スキャッタグラムに設定される範囲を模式的に示す図である。
図10図10は、実施形態1に係る尿検体分析装置による表示処理を示すフローチャートである。
図11図11(a)は、比較例に係る判定結果と目視による判定結果とを比較するための表である。図11(b)は、比較例に係る感度および特異度を示す表である。図11(c)は、比較例に係る完全一致数および完全一致率を示す表である。
図12図12(a)は、実施形態1に係る判定結果と目視による判定結果とを比較するための表である。図12(b)は、実施形態1に係る感度および特異度を示す表である。図12(c)は、実施形態1に係る完全一致数および完全一致率を示す表である。
図13図13(a)は、実施形態3に係る第3パラメータおよび第4パラメータを説明するための模式図である。図13(b)は、実施形態3に係る第1スキャッタグラムならびに第1スキャッタグラムに設定される第3抽出範囲および第4抽出範囲を模式的に示す図である。図13(c)は、実施形態4に係る第1スキャッタグラムならびに第1スキャッタグラムに設定される第3抽出範囲および第4抽出範囲を模式的に示す図である。
図14図14(a)は、変更例に係る尿検体分析装置による第1取得処理を示すフローチャートである。図14(b)、(c)は、変更例に係る基準信号波形の画像を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
実施形態1は、尿検体中の有形成分を分析する尿検体分析装置に本発明を適用したものである。尿検体中の有形成分は、赤血球、白血球、精子、酵母様真菌、トリコモナス、上皮細胞、細菌、円柱、粘液糸、結晶などを含む。分析対象となる尿検体は、排泄された尿の他に、原尿、尿管中の尿、膀胱内の尿、尿道中の尿など、生体内から採取した尿を含む。
【0014】
図1に示すように、尿検体分析装置10は、尿検体分配部20と、試料調製部30と、光学検出部40と、信号処理部60と、解析部70と、表示部80と、入力部90と、を備える。
【0015】
図2に示すように、尿検体分配部20は、吸引管21を備える。試料調製部30は、反応槽31a、31bを備える。尿検体分配部20は、吸引管21を介して検体容器22に収容された尿検体を吸引する。尿検体分配部20は、吸引した尿検体を試料調製部30の反応槽31a、31bに分注する。具体的には、尿検体分配部20は、反応槽31aに尿検体の第1部分を分配し、反応槽31bに尿検体の第2部分を分配する。試料調製部30は、反応槽31a、31bにおいて、測定試料を調製する。
【0016】
反応槽31aには、希釈液32aと染色液33aが供給可能に接続されている。反応槽31aにおいて、尿検体の第1部分は、希釈液32aおよび染色液33aと混合される。これにより、尿検体の第1部分に含まれる有形成分が染色され、第1測定試料が調製される。染色液33aは、細胞膜および蛋白質を染色する染色色素を含んでいる。第1測定試料は、尿中の赤血球、円柱、粘液糸、結晶などの核酸を有さない粒子の分析と、精子の存在に関する判定と、に用いられる。以下、赤血球、円柱、粘液糸、結晶など、粒子の基本構造として核酸を有さない尿中の粒子を無核成分と称する。
【0017】
無核成分を染色するための染色液33aとしては、核酸よりも細胞膜の脂質および蛋白質に結合しやすい蛍光色素が選ばれる。このような色素としては、シアニン系、スチリル系、アクリジン系色素のうち赤血球の形態に影響を及ぼさない色素が好ましい。無核成分を染色する色素としては、脂溶性カルボシアニン色素が好ましく、特にインドカルボシアニン色素、オキサカルボシアニン色素等が好ましい。具体的なインドカルボシアニン色素としては、DiI(1,1‘-dioctadecyl-3,3,3’,3‘-tetramethylindocarbocyanine perchlorate), DiD(1,1’-dioctadecyl-3,3,3‘,3’- tetramethylindodicarbocyanine), DiR(1,1’-dioctadecyltetramethyl indotricarbocyanine Iodide)等が挙げられる。オキサカルボシアニン色素としては、DiOC2(3)(3,3′-diethyloxacarbocyanine iodide), DiOC3(3)(3,3-Dipropyloxacarbocyanine iodide), DiOC4(3)(3,3′-Dibutyloxacarbocyanine iodide), DiOC5(3)(3,3-Dipentyloxacarbocyanine iodide)等が挙げられる。実施形態1の染色液33aに含まれる染色色素としては、DiOC3(3)(3,3-Dipropyloxacarbocyanine iodide)が特に好ましい。
【0018】
希釈液32aは、緩衝剤を主成分とする試薬である。希釈液32aは、赤血球を溶血させずに安定した蛍光信号を得ることができるように浸透圧補償剤を含んでいる。希釈液32aの浸透圧は、分類測定に適するような浸透圧となるよう100〜600mOsm/kgに調整されている。尿検体、染色液33aおよび希釈液32aが混合されることにより、無核成分の細胞膜または蛋白質が染色される。
【0019】
反応槽31bには、希釈液32bと染色液33bが供給可能に接続されている。反応槽31bにおいて、尿検体の第2部分は、希釈液32bおよび染色液33bと混合される。これにより、尿検体の第2部分に含まれる有形成分が染色され、第2測定試料が調製される。染色液33bは、核酸を特異的に染色する染色色素を含んでいる。第2測定試料は、尿中の白血球、精子、酵母様真菌、トリコモナス、上皮細胞、細菌などの核酸を有する細胞の分析に用いられる。以下、白血球、精子、酵母様真菌、トリコモナス、上皮細胞、細菌など、粒子の基本構造として核酸を有する尿中の粒子を有核成分と称する。この意味で、精子および細菌は核を持たないが、核酸を含んでいるため有核成分に属する。
【0020】
有核成分を染色するための染色液33bとしては、脂質および蛋白質よりも核酸に結合しやすい蛍光色素が選ばれる。より詳細に説明すると、染色液33bには、核酸を特異的に染色するためのインターカレータや副溝(minor groove)に結合する色素が含まれている。インターカレータとしては、シアニン系、アクリジン系、phenanthridium系の公知の色素が挙げらる。たとえば、シアニン系のインターカレータとしては、SYBR Green I、Thiazole orangeが挙げられる。アクリジン系のインターカレータとしては、Acridin orangeが挙げられる。phenanthridium系のインターカレータとしては、propidium Iodide、 Ethidium bromideが挙げられる。副溝に結合する色素としては、DAPI、Hoechstの公知の色素が挙げられる。たとえば、Hoechetの副溝に結合する色素としては、Hoechst 33342、Hoechst 33258が挙げられる。実施形態1の染色液33bに含まれる染色色素としては、シアニン系のインターカレータが好ましく、特に、SYBR Green I、Thiazole orangeが好ましい。
【0021】
希釈液32bは、細胞膜に損傷を与えることにより染色液33bの膜通過を進行させるとともに、赤血球を溶血させ赤血球破片等の夾雑物を収縮させるためのカチオン系界面活性剤を含んでいる。希釈液32bは、カチオン系界面活性剤ではなく、ノニオン系界面活性剤を含んでもよい。尿検体、染色液33bおよび希釈液32bが混合されることにより、有核成分がその構成および特性に応じた程度で染色される。
【0022】
反応槽31a、31bは、それぞれ光学検出部40のフローセル41に接続されている。フローセル41は、尿検体を含む測定試料を流す。反応槽31aの第1測定試料がフローセル41に流された後、反応槽31bの第2測定試料がフローセル41に流される。測定試料は、フローセル41においてシース液に包まれた細い流れを形成する。これにより、測定試料に含まれる有形成分は、1つずつフローセル41内を通過する。
【0023】
図1に戻り、光学検出部40は、フローセル41と、光源42と、集光レンズ43〜45と、ダイクロイックミラー46と、ハーフミラー47と、偏光フィルタ48と、受光部50と、を備える。受光部50は、光検出器51〜54からなる。受光部50は、尿検体に含まれる有形成分からの光を受光して信号を出力する。図1には、光学検出部40の各部の配置を説明するためのXYZ軸が示されている。XYZ軸は、互いに直交する。
【0024】
光源42は、波長488nm程度のレーザ光をX軸正方向に出射し、フローセル41を流れる測定試料にレーザ光を照射する。光源42は、たとえば、半導体レーザ光源やガスレーザ光源により構成される。光源42から出射されるレーザ光は、直線偏光である。光源42は、直線偏光の偏光方向がフローセル41内の測定試料の流れ方向に平行となるよう、すなわちZ軸方向に平行となるよう尿検体分析装置10内に設置されている。言い換えれば、光源42から出射されるレーザ光の偏光方向は、Z軸方向に垂直な面を入射面としたとき、当該入射面に対して垂直となっている。
【0025】
集光レンズ43は、光源42から出射されたレーザ光を、フローセル41を流れる測定試料に集光させる。レーザ光が測定試料に照射されると、レーザ光が照射された領域を通過する有形成分から、前方散乱光、側方散乱光および蛍光が生じる。
【0026】
集光レンズ44は、フローセル41のX軸正方向に生じた前方散乱光を、光検出器51に集光させる。光検出器51は、前方散乱光を受光し、受光した前方散乱光の強度に応じた前方散乱光信号を出力する。光検出器51は、たとえばフォトダイオードにより構成される。
【0027】
集光レンズ45は、フローセル41のY軸正方向に生じた側方散乱光と蛍光を、ダイクロイックミラー46に集光させる。ダイクロイックミラー46は、側方散乱光を反射し、蛍光を透過させる。無偏光タイプのハーフミラー47は、ダイクロイックミラー46により反射された側方散乱光を2分割する。光検出器52は、ハーフミラー47を透過した側方散乱光を受光し、受光した側方散乱光の強度に応じた側方散乱光信号を出力する。光検出器52は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。ハーフミラー47によって反射された側方散乱光は、偏光フィルタ48に入射する。
【0028】
偏光フィルタ48は、Z軸方向に平行な偏光方向の光を遮断し、X軸方向に平行な偏光方向の光を通過させるよう構成されている。偏光フィルタ48を通過した側方散乱光を、以下、「偏光解消側方散乱光」と称する。光検出器53は、偏光解消側方散乱光を受光し、受光した偏光解消側方散乱光の強度に応じた偏光解消側方散乱光信号を出力する。光検出器53は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。
【0029】
ここで、測定試料中の有形成分にレーザ光が照射されると、有形成分に含まれる成分が持つ旋光性に応じて、成分が分布する部分のレーザ光の偏光方向が変化する。測定試料に照射されるレーザ光の偏光方向が部分的に変化すると、側方散乱光には種々の偏光状態の光成分が含まれるようになる。有形成分からY軸正方向に生じる側方散乱光のうち、X軸方向に平行な偏光方向の光成分の割合、すなわちZ軸方向に平行な初期の偏光方向が崩される度合いは、有形成分に含まれる成分に応じて決まる。したがって、偏光フィルタ48を通過し光検出器53に到達する偏光解消側方散乱光の光量は、有形成分の種類ごとに異なる。
【0030】
光検出器54は、ダイクロイックミラー46を透過した蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に応じた蛍光信号を出力する。光検出器54は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。
【0031】
信号処理部60は、信号を処理するための複数の回路と、記憶部61とにより構成される。記憶部61は、たとえばRAMにより構成される。信号処理部60は、受光部50から出力される前方散乱光信号、側方散乱光信号、偏光解消側方散乱光信号、および蛍光信号の波形に基づいて、解析に用いるための複数のパラメータを算出する。受光部50から出力される信号の波形は、時間軸に沿って信号値が変化する形状を示し、信号波形から算出されるパラメータは、信号波形の歪みやピークの偏りなどの形状を反映した情報である。
【0032】
具体的には、信号処理部60は、光検出器51〜54から出力された波形状の電気信号を、所定の増幅度で増幅する。信号処理部60は、増幅した電気信号をデジタル信号に変換する。信号処理部60は、変換したデジタル信号に対して所定の信号処理を施し、有形成分ごとに複数のパラメータを算出する。算出されるパラメータには、信号波形のピーク値、幅、および差分総和/ピーク値が含まれる。また、算出されるパラメータには、信号波形の前端側における立ち上がり時間と後端側における立ち下がり時間とを反映したパラメータが含まれる。立ち上がり時間は、信号波形の立ち上がりに要する時間であり、立ち上がり時の信号波形の傾きに関連している。立ち下がり時間は、信号波形の立ち下がりに要する時間であり、立ち下がり時の信号波形の傾きに関連している。信号処理部60は、算出したパラメータを記憶部61に記憶する。パラメータについては、追って図3(a)〜図4(c)を参照して説明する。
【0033】
解析部70は、マイクロコンピュータおよびCPU等と、記憶部71とにより構成される。記憶部71は、RAM、ROM、ハードディスク等により構成される。解析部70は、尿検体分析装置10の各部との間で信号の送受信を行い、尿検体分析装置10の各部を制御する。解析部70は、記憶部61に記憶された複数のパラメータに基づいて、有形成分の分類および計数を行う。解析部70は、受光部50から出力される信号波形の形状を反映したパラメータに基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定を行う。
【0034】
表示部80は、ディスプレイにより構成され、解析結果等を表示する。入力部90は、マウスおよびキーボードにより構成される。オペレータは、入力部90を介して尿検体分析装置10に対して指示を入力する。
【0035】
次に、信号波形に基づいて算出されるパラメータについて説明する。
【0036】
図3(a)に示すように、受光部50から出力される信号の大きさは、レーザ光が照射されるフローセル41の領域を有形成分が通過することに応じて変化する。したがって、信号波形の形状は、時間の経過に応じて変化する。信号が第1信号閾値Th1を上回ってから第1信号閾値Th1を下回るまでの間の信号波形は、1つの有形成分に基づく信号波形と見なされる。言い換えれば、第1信号閾値Th1は、1つの有形成分に基づく信号波形を規定するとともに、1つの有形成分から得られた信号波形の立ち上がり開始時点と立ち下がり終了時点とを規定するための信号値である。信号波形において、信号が第1信号閾値Th1を上回る地点を前端とし、信号が第1信号閾値Th1を下回る地点を後端とすると、前端から後端までが1つの有形成分に基づく信号波形となる。
【0037】
図3(b)に示すように、ピーク値Pは、1つの有形成分に基づく信号波形の最大値である。図3(c)に示すように、幅Wは、信号波形において1つの有形成分に基づく信号波形の幅である。言い換えれば、幅Wは、信号波形において信号値が第1信号閾値Th1を越えてから第1信号閾値Th1を下回るまでの基準時間である。また、差分総和/ピーク値は、1つの有形成分に基づく信号波形において、隣接する信号値の差分を総和した値をピーク値Pで除した値である。
【0038】
図4(a)に示すように、第2信号閾値Th2を第1信号閾値Th1よりも大きい信号値とする。信号波形において信号値が第1信号閾値Th1から第2信号閾値Th2に至るまでの時間を第1時間Taとし、信号波形において信号値が第2信号閾値Th2から第1信号閾値Th1に至るまでの時間を第2時間Tbとする。信号波形の立ち上がり時間は、第1時間Taであり、信号波形の立ち下がり時間は、第2時間Tbである。第1パラメータは、第1時間Taを幅Wで除した値であり、第2パラメータは、第2時間Tbを幅Wで除した値である。実施形態1では、第1測定試料から生じる側方散乱光信号に基づいて算出される第1パラメータおよび第2パラメータにより、尿検体における精子の存在に関する判定が行われる。
【0039】
図4(b)に示すように、第1測定試料に含まれる精子が頭部からフローセル41に流れる場合、側方散乱光の信号波形において、前端側における立ち上がりの傾きは大きくなり、後端側における立ち下がりの傾きは小さくなる。一方、図4(c)に示すように、第1測定試料に含まれる精子が尾部からフローセル41に流れる場合、側方散乱光信号の信号波形において、前端側における立ち上がりの傾きは小さくなり、後端側における立ち下がりの傾きは大きくなる。このように、精子に基づく側方散乱光の信号値が大きくなる時間位置は、精子の形状を反映して、前端側または後端側に偏ることになる。
【0040】
したがって、信号波形の前端側における立ち上がり時間と、信号波形の後端側における立ち下がり時間とを反映したパラメータによれば、有形成分が精子であるか否かを判定できる。すなわち、信号波形の前端側における立ち上がり時間を反映した第1パラメータと、信号波形の後端側における立ち下がり時間を反映した第2パラメータとに基づけば、精子の抽出が可能となる。具体的には、第1パラメータが小さく且つ第2パラメータが大きい場合と、第1パラメータが大きく且つ第2パラメータが小さい場合に、有形成分を精子として抽出できる。このように精子の抽出を可能とするために、第2信号閾値Th2は、第1測定試料から取得される精子の側方散乱光信号のピーク値よりも小さくなるように設定される。なお、第1信号閾値Th1および第2信号閾値Th2は、それぞれ任意に設定可能であり、たとえば第2信号閾値Th2はピーク値Pに近い値であってもよい。
【0041】
第1パラメータは、信号値が第1信号閾値Th1を越えた地点と、信号値が第2信号閾値Th2を越えた地点とを結ぶ直線の傾きであっても良い。第2パラメータは、信号値が第2信号閾値Th2を下回った地点と、信号値が第1信号閾値Th1を下回った地点とを結ぶ直線の傾きであっても良い。
【0042】
第1パラメータと第2パラメータは、それぞれ、第1時間Taを幅Wで除した値および第2時間Tbを幅Wで除した値に、所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。
【0043】
精子の頭部と尾部は、第1測定試料の調製によって染色されているため、第1測定試料に含まれる精子に対してレーザ光が照射されると、頭部と尾部の何れからも蛍光が生じることになる。したがって、第1パラメータは、第1測定試料から取得される蛍光信号に基づく第1時間Taを幅Wで除した値でも良い。第2パラメータは、第1測定試料から取得される蛍光信号に基づく第2時間Tbを幅Wで除した値でも良い。精子の抽出においては、第1測定試料に基づく側方散乱光信号のほか、精子の形状を反映した他の光信号を用いることができる。
【0044】
尿検体分析装置10が精子の存在に関する判定のみを行うような場合、染色することなく調製した測定試料に基づいて側方散乱光を受光し、受光部50から出力される側方散乱光信号に基づいて精子の抽出が行われても良い。
【0045】
次に、図5を参照して、尿検体分析装置10による解析処理について説明する。解析処理は、解析部70が尿検体分析装置10の各部を制御することにより実行される。
【0046】
ステップS11において、解析部70は、第1測定試料と第2測定試料を調製する。ステップS12において、解析部70は、第1測定試料をフローセル41に流す。ステップS13において、解析部70は、第1測定試料に光を照射する。ステップS14において、解析部70は、有形成分から生じた光に基づいて、有形成分ごとに上述した複数のパラメータを算出する。続いて、ステップS15において、解析部70は、第2測定試料をフローセル41に流す。ステップS16において、解析部70は、第2測定試料に光を照射する。ステップS17において、解析部70は、有形成分から生じた光に基づいて、有形成分ごとに上述した複数のパラメータを算出する。
【0047】
ステップS18において、解析部70は、第1取得処理を行う。第1取得処理では、第1測定試料に基づいて精子の数が取得される。第1取得処理については、追って図6を参照して説明する。ステップS19において、解析部70は、精子判定処理を行う。精子判定処理では、ステップS18で取得した精子の数に基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定が行われる。精子判定処理については、追って図8を参照して説明する。ステップS20において、解析部70は、第2取得処理を行う。第2取得処理では、第2測定試料に基づいて精子の数が取得される。第2取得処理については、追って図9(a)を参照して説明する。解析部70は、第1取得処理により取得した精子の数、精子判定処理により取得した精子の存在に関する判定結果、および、第2取得処理により取得した精子の数を、記憶部71に記憶する。
【0048】
次に、図6を参照して、第1取得処理について説明する。第1取得処理では、第1測定試料から取得された各種パラメータが用いられる。
【0049】
以下の説明では、便宜上、スキャッタグラムが作成され、スキャッタグラムに範囲が設定されている。しかしながら、スキャッタグラムの作成と範囲の設定は必ずしも行われる必要はなく、スキャッタグラムの範囲に含まれる有形成分が、データ処理により分類および抽出されても良い。
【0050】
第1取得処理が開始されると、解析部70は、信号処理部60により取得された各光のパラメータを用いて、第1測定試料に含まれる全ての有形成分から、あらかじめ精子以外の有形成分と想定される粒子を除去する。この前処理により、たとえば、赤血球、円柱、粘液糸、結晶、白血球、酵母様真菌、上皮細胞、細菌等と想定される粒子が除去される。前処理の後の有形成分は、第1測定試料に含まれる全ての有形成分から、これらの有形成分が除去されたものとなる。
【0051】
ステップS101において、解析部70は、第1スキャッタグラム110に基づいて、前処理の後の有形成分から精子に対応する有形成分を抽出する。
【0052】
図7(a)、(b)に示すように、第1スキャッタグラム110の横軸と縦軸は、それぞれ、第1パラメータと第2パラメータである。すなわち、第1スキャッタグラム110の横軸と縦軸は、それぞれ、側方散乱光信号の波形において第1時間Taを幅Wで除した値と、側方散乱光信号の波形において第2時間Tbを幅Wで除した値である。
【0053】
解析部70は、これら2つのパラメータを2軸とするグラフに、前処理の後の有形成分をプロットすることにより、第1スキャッタグラム110を作成する。解析部70は、第1スキャッタグラム110に、図7(c)に示す第1抽出範囲111および第2抽出範囲112を設定する。第1抽出範囲111と第2抽出範囲112は、精子の形状に基づいて、精子を確実に抽出するための範囲である。
【0054】
図4(b)、(c)を参照して説明したように、精子の場合、第1パラメータが小さく且つ第2パラメータが大きい場合と、第1パラメータが大きく且つ第2パラメータが小さい場合とがある。このような観点に基づいて、第1抽出範囲111は、第2パラメータよりも第1パラメータの方が大きい範囲内に設定され、第2抽出範囲112は、第1パラメータよりも第2パラメータの方が大きい範囲内に設定される。第1抽出範囲111は、図4(c)に示すような精子に対応し、第2抽出範囲112は、図4(b)に示すような精子に対応する。
【0055】
図7(a)、(b)に示すように、顕微鏡を使用して目視により精子ありと判定された尿検体の場合、精子なしと判定された尿検体の場合に比べて、第1抽出範囲111と第2抽出範囲112に多数の点が特徴的に分布していることが分かる。第1抽出範囲111と第2抽出範囲112は、精子があると判定された尿検体において特徴的に分布する点を過不足なく含むように設定される。
【0056】
解析部70は、第1スキャッタグラム110にプロットされた有形成分から、第1パラメータと第2パラメータの組合せが、第1抽出範囲111または第2抽出範囲112に含まれる有形成分を抽出する。これにより、精子に対応する有形成分が抽出される。
【0057】
ステップS101において、精子に対応する有形成分が、精子の形状に着目して抽出される。これにより、ステップS101で抽出される有形成分は、精子以外の有形成分を含みにくく確実に精子を含むようになる。
【0058】
ステップS101の処理が終わると、解析部70は、信号処理部60により取得された各光のパラメータを用いて、ステップS101で抽出した有形成分から、精子以外の有形成分と想定される粒子を除去する。この後処理により、たとえば、細菌、粘液糸等と想定される粒子が除去される。後処理の後の有形成分は、ステップS101で抽出した有形成分から、これらの有形成分が除去されたものとなる。
【0059】
ステップS102において、解析部70は、後処理の後の有形成分の数を精子の数として取得する。こうして、第1取得処理が終了する。
【0060】
次に、図8を参照して、精子判定処理について説明する。
【0061】
ステップS201において、解析部70は、第1取得処理で取得した精子の数が所定の閾値以上であるか否かを判定する。第1取得処理で取得した精子の数が所定の閾値以上である場合、ステップS202において、解析部70は、尿検体に精子が存在すると判定する。他方、第1取得処理で取得した精子の数が所定の閾値より少ない場合、ステップS203において、解析部70は、尿検体に精子が存在しないと判定する。
【0062】
第1取得処理のステップS101において、精子の形状に基づいて確実に精子を抽出できるため、精子判定処理では、第1取得処理で取得した精子の数に基づいて、精度良く精子の存在を判定できる。
【0063】
このように、第1測定試料に基づいて精子の存在の判定が行われると、赤血球、円柱、粘液糸、結晶などの核酸を有さない粒子、すなわち無核成分の分析を行う場合に、合わせて判定を行うことができる。したがって、精子の存在を判定するために、別途測定試料を調製する必要がない。これにより、測定試料の調製に使用する尿検体の量を抑制でき、尿検体分析装置10の全体の測定時間を短縮できる。
【0064】
次に、図9(a)を参照して、第2取得処理について説明する。第2取得処理では、第2測定試料から取得された各種パラメータが用いられる。
【0065】
ステップS301において、解析部70は、第2スキャッタグラム120に基づいて、第2測定試料に含まれる全ての有形成分から精子に対応する有形成分を抽出する。 図9(b)に示すように、第2スキャッタグラム120の横軸と縦軸は、それぞれ、蛍光信号の波形のピーク値と、前方散乱光信号の波形のピーク値である。解析部70は、これら2つのパラメータを2軸とするグラフに、第2測定試料に含まれる全ての有形成分をプロットすることにより、第2スキャッタグラム120を作成する。解析部70は、第2スキャッタグラム120に、図9(b)に示す範囲121〜123を設定する。範囲121〜123は、それぞれ、精子、酵母様真菌およびトリコモナスの分布に対応する。解析部70は、第2スキャッタグラム120にプロットされた有形成分から、範囲121に含まれる有形成分を抽出する。これにより、精子に対応する有形成分が抽出される。
【0066】
ステップS302において、解析部70は、ステップS301で抽出した有形成分の数を精子の数として取得する。こうして、第2取得処理が終了する。
【0067】
次に、図10を参照して、尿検体分析装置10による表示処理について説明する。
【0068】
ステップS401において、解析部70は、入力部90を介して表示指示が入力されたか否かを判定する。表示指示が入力されると、ステップS402において、解析部70は、精子判定処理による精子の存在に関する判定結果が、「精子あり」であるか否かを判定する。精子の存在に関する判定結果が「精子あり」である場合、ステップS403において、解析部70は、第2取得処理で取得した精子の数を、尿検体に含まれる精子の数として表示部80に表示させる。
【0069】
ステップS403において、解析部70は、第1取得処理で取得した精子の数を、尿検体に含まれる精子の数として表示部80に表示しても良い。ただし、精子の数としては、核酸を特異的に染色する染色液33bを混合して作成された第2測定試料に基づいて取得された精子の数、すなわち第2取得処理で取得された精子の数の方が好ましい。
【0070】
他方、精子の存在に関する判定結果が「精子なし」である場合、解析部70は、第2取得処理で取得した精子の数を表示させることなく、ステップS404において、尿検体に精子が存在しないことを示す情報を表示部80に表示させる。具体的には、解析部70は、尿検体に含まれる精子の数が0個であることを表示部80に表示する。この他、解析部70は、「尿検体に精子がありません」などのメッセージを表示部80に表示させても良い。
【0071】
第2取得処理により取得される精子の数に基づけば尿検体に精子が存在すると見なされるような場合でも、精子判定処理により尿検体に精子が存在しないと判定されれば、精子の数が0個とされる。すなわち、第2取得処理により取得される精子の数が不適正であるような場合でも、第2取得処理により取得された不適正な精子の数が表示されることがない。したがって、上記のように処理が行われれば、常に適正な精子の数を表示部80に表示できる。
【0072】
第2取得処理で取得した精子の数が所定の閾値以上であり、且つ、精子の存在に関する判定結果が「精子なし」である場合、解析部70は、「再検査して下さい」などのメッセージを表示部80に表示させても良い。
【0073】
次に、実際の598の尿検体に対して、顕微鏡を使用した目視による判定結果と、比較例による判定結果とを比較する。
【0074】
比較例の場合、第2取得処理で取得された精子の数が、所定の閾値以上のとき精子ありと判定され、所定の閾値より少ないとき精子なしと判定された。同様に、目視の場合、目視により計数された精子の数が、所定の閾値以上のとき精子ありと判定され、所定の閾値より少ないとき精子なしと判定された。目視による判定結果は、一般に適正な判定結果とされる。
【0075】
図11(a)に示すように、比較例では、234の尿検体について精子ありと判定され、364の尿検体について精子なしと判定された。一方、目視では、12の尿検体について精子ありと判定され、586の尿検体について精子なしと判定された。
【0076】
図11(a)に示す結果を用いて、感度と特異度が算出された。感度は、目視で精子ありと判定された尿検体のうち比較例で精子ありと判定された尿検体の数を、目視で精子ありと判定された尿検体の数で除した値である。特異度は、目視で精子なしと判定された尿検体のうち比較例で精子なしと判定された尿検体の数を、目視で精子なしと判定された尿検体の数で除した値である。図11(b)に示すように、感度は、12/12=100.0%であり、特異度は、364/586=62.1%であった。
【0077】
図11(a)に示す結果を用いて、完全一致数と完全一致率が算出された。完全一致数は、目視と比較例の判定結果が同じである尿検体の数である。完全一致率は、完全一致数を全尿検体数で除した値である。図11(c)に示すように、完全一致数は、376であり、完全一致率は、376/598=62.9%であった。
【0078】
図11(a)〜(c)に示す結果から、比較例の場合、特異度が低く、本来精子がないと判定すべき尿検体のうち、適正に精子なしと判定できた尿検体が少ないことが分かる。すなわち、比較例の場合、誤って陽性と判定してしまった尿検体が多く、偽陽性の尿検体が多いことが分かる。また、比較例の場合、完全一致率が低く、目視の判定結果と不一致な判定結果が多いことが分かる。
【0079】
次に、図11(a)〜(c)の場合と同じ598の尿検体に対して、顕微鏡を使用した目視による判定結果と、実施形態1による判定結果とを比較する。
【0080】
実施形態1の場合、上述したように、精子判定処理において第1取得処理で取得された精子の数が、所定の閾値以上のとき精子ありと判定され、所定の閾値より少ないとき精子なしと判定された。図12(a)に示すように、実施形態1では、10の尿検体について精子ありと判定され、588の尿検体について精子なしと判定された。
【0081】
図12(a)に示す結果を用いて、感度と特異度が算出された。感度と特異度の算出方法も、上記と同様である。すなわち、感度は、目視で精子ありと判定された尿検体のうち実施形態1で精子ありと判定された尿検体の数を、目視で精子ありと判定された尿検体の数で除した値である。特異度は、目視で精子なしと判定された尿検体のうち実施形態1で精子なしと判定された尿検体の数を、目視で精子なしと判定された尿検体の数で除した値である。図12(b)に示すように、感度は、10/12=83.3%であり、特異度は、586/586=100.0%であった。
【0082】
図12(a)に示す結果を用いて、完全一致数と完全一致率が算出された。完全一致数と完全一致率の算出方法も、上記と同様である。すなわち、完全一致数は、目視と実施形態1の判定結果が同じである尿検体の数である。完全一致率は、完全一致数を全尿検体数で除した値である。図12(c)に示すように、完全一致数は、596であり、完全一致率は、596/598=99.7%であった。
【0083】
図12(a)〜(c)に示す結果から、実施形態1の場合、比較例に比べて特異度が高く、本来精子がないと判定すべき尿検体のうち、適正に精子なしと判定できた尿検体が多いことが分かる。具体的には、本来精子がないと判定すべき尿検体を、全て適正に精子なしと判定できた。すなわち、実施形態1の場合、誤って陽性と判定してしまった尿検体がなく、偽陽性の尿検体がないと言える。このように、実施形態1によれば、偽陽性の発生を抑制できる。また、実施形態1の場合、比較例に比べて完全一致率が高く、目視の判定結果と一致する判定結果が多いことが分かる。
【0084】
<実施形態2>
実施形態1では、第1パラメータは、第1時間Taを幅Wで除した値とされ、第2パラメータは、第2時間Tbを幅Wで除した値とされた。言い換えれば、実施形態1の第1パラメータと第2パラメータは、信号値の高い部分が、幅方向においてどの程度端側に偏っているかを示す比率であった。これに対し、実施形態2では、第1パラメータは第1時間Taとされ、第2パラメータは第2時間Tbとされる。言い換えれば、実施形態2の第1パラメータと第2パラメータは、それぞれ、信号値の高い部分が幅方向において前端側から離れている距離および後端側から離れている距離である。
【0085】
第1パラメータと第2パラメータは、それぞれ、第1時間Taおよび第2時間Tbに、所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。
【0086】
実施形態2では、図6のステップS101において、第1時間Taと第2時間Tbを2軸とする第1スキャッタグラム110が作成され、第1抽出範囲111と第2抽出範囲112に含まれる有形成分が精子として抽出される。実施形態2においても、実施形態1と同様、第1スキャッタグラム110において、精子が右下範囲と左上範囲に分布する。したがって、図7(c)と同様、第1抽出範囲111は、第2パラメータよりも第1パラメータの方が大きい範囲内に設定され、第2抽出範囲112は、第1パラメータよりも第2パラメータの方が大きい範囲内に設定される。この他、実施形態2の構成および制御は、実施形態1と同様である。
【0087】
実施形態2の第1パラメータおよび第2パラメータは、比率ではなく距離に基づく値であるため、第1スキャッタグラム110において、精子がばらついて分布することになる。したがって、第1抽出範囲111と第2抽出範囲112は、ばらついて分布する精子を含むように設定される。しかしながら、実施形態2の第1抽出範囲111と第2抽出範囲112には、大きさは異なるが比率としては精子と略同様であるような精子以外の有形成分が含まれにくい。したがって、実施形態2のステップS101では、このような精子以外の有形成分を、誤って抽出してしまうことを抑制できる。よって、実施形態2の精子判定処理においても、第1取得処理で取得した精子の数に基づいて、精度良く精子の存在を判定できる。
【0088】
<実施形態3>
実施形態3では、第3パラメータと第4パラメータに基づいて、尿検体における精子の存在に関する判定が行われる。
【0089】
図13(a)に示すように、信号波形において信号値が第1信号閾値Th1から最大値に至るまでの時間を第3時間Tcとし、信号波形において信号値が最大値から第1信号閾値Th1に至るまでの時間を第4時間Tdとする。第3パラメータは、第3時間Tcを幅Wで除した値、または、第4時間Tdを幅Wで除した値である。第4パラメータは、信号波形の最大値、すなわちピーク値Pである。実施形態3では、第1測定試料から生じる側方散乱光信号に基づいて算出される第3パラメータおよび第4パラメータにより、尿検体における精子の存在に関する判定が行われる。
【0090】
第3パラメータは、第3時間Tcを幅Wで除した値、または、第4時間Tdを幅Wで除した値であるため、信号波形において信号値が最大となる時間位置に基づくパラメータであると言える。第4パラメータは、信号波形のピーク値Pであるため、信号波形の最大値に基づくパラメータであると言える。したがって、第3パラメータと第4パラメータも、実施形態1と同様、信号波形の形状を反映したパラメータである。よって、第3パラメータと第4パラメータを用いれば、実施形態1と同様、有形成分が精子であるか否かを判定でき、精子の抽出が可能となる。
【0091】
第3パラメータは、第3時間Tcを幅Wで除した値、または、第4時間Tdを幅Wで除した値に、所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。第4パラメータは、ピーク値Pに所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。
【0092】
実施形態3では、図6のステップS101において、図13(b)に示す第1スキャッタグラム130に基づいて、前処理の後の有形成分から精子に対応する有形成分が抽出される。この他、実施形態3の構成および制御は、実施形態1と同様である。以下、実施形態3のステップS101の処理について説明する。
【0093】
図13(b)に示すように、第1スキャッタグラム130の横軸と縦軸は、それぞれ、第1測定試料から生じる側方散乱光信号に基づく第3パラメータおよび第4パラメータである。解析部70は、これら2つのパラメータを2軸とするグラフに、前処理の後の有形成分をプロットすることにより、第1スキャッタグラム130を作成する。解析部70は、第1スキャッタグラム130に第3抽出範囲131と第4抽出範囲132を設定する。第3抽出範囲131と第4抽出範囲132は、精子の形状に基づいて、精子を確実に抽出するための範囲である。第3抽出範囲131と第4抽出範囲132は、第3パラメータの値が異なる範囲に設定されており、第4パラメータの値が略同じ範囲に設定されている。
【0094】
第3パラメータを第3時間Tc/幅Wとする場合、第3抽出範囲131は、図4(c)に示す向きの精子に対応し、第4抽出範囲132は、図4(b)に示す向きの精子に対応する。一方、第3パラメータを第4時間Td/幅Wとする場合、第3抽出範囲131は、図4(b)に示す向きの精子に対応し、第4抽出範囲132は、図4(c)に示す向きの精子に対応する。
【0095】
解析部70は、第1スキャッタグラム130にプロットされた有形成分から、第3パラメータと第4パラメータの組合せが、第3抽出範囲131または第4抽出範囲132に含まれる有形成分を抽出する。実施形態3においても、ステップS101で抽出される有形成分は、精子以外の有形成分を含みにくく確実に精子を含むようになる。よって、精子判定処理において、第1取得処理で取得した精子の数に基づいて、精度良く精子の存在を判定できる。
【0096】
<実施形態4>
実施形態3では、第3パラメータは、第3時間Tcを幅Wで除した値または第4時間Tdを幅Wで除した値とされた。言い換えれば、実施形態3の第3パラメータは、信号値の高い部分が、幅方向においてどの程度端側に偏っているかを示す比率であった。これに対し、実施形態4では、第3パラメータは第3時間Tcおよび第4時間Tdとされる。言い換えれば、実施形態4の第3パラメータは、信号値の高い部分が幅方向において前端側から離れている距離および後端側から離れている距離である。
【0097】
第3パラメータは、第3時間Tcおよび第4時間Tdに、所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。第4パラメータは、ピーク値Pに所定の定数を加算および乗算した値であっても良い。
【0098】
実施形態4では、図6のステップS101において、図13(c)に示す第1スキャッタグラム140に基づいて、前処理の後の有形成分から精子に対応する有形成分が抽出される。この他、実施形態4の構成および制御は、実施形態3と同様である。以下、実施形態4のステップS101の処理について説明する。
【0099】
図13(c)に示すように、第1スキャッタグラム140は、互いに直交する3軸から構成された3次元スキャッタグラムである。第1スキャッタグラム140の3軸は、第3時間Tcと、第4時間Tdと、信号波形のピーク値Pを示す第4パラメータである。解析部70は、これら3つのパラメータを3軸とする座標空間に、前処理の後の有形成分をプロットすることにより、第1スキャッタグラム140を作成する。解析部70は、第1スキャッタグラム140に第3抽出範囲141と第4抽出範囲142を設定する。第3抽出範囲141と第4抽出範囲142は、精子の形状に基づいて、精子を確実に抽出するための空間範囲である。
【0100】
第3抽出範囲141は、第4時間Tdよりも第3時間Tcの方が大きい空間範囲に設定され、第4抽出範囲142は、第3時間Tcよりも第4時間Tdの方が大きい空間範囲に設定される。第3抽出範囲141と第4抽出範囲142は、第4パラメータの値が略同じ空間範囲に設定される。第3抽出範囲141は、図4(c)に示す向きの精子に対応し、第4抽出範囲142は、図4(b)に示す向きの精子に対応する。
【0101】
解析部70は、第1スキャッタグラム140にプロットされた有形成分から、第3時間Tcと、第4時間Tdと、第4パラメータの組合せが、第3抽出範囲141または第4抽出範囲142に含まれる有形成分を抽出する。実施形態4においても、ステップS101で抽出される有形成分は、精子以外の有形成分を含みにくく確実に精子を含むようになる。よって、精子判定処理において、第1取得処理で取得した精子の数に基づいて、精度良く精子の存在を判定できる。
【0102】
<変更例>
上述した実施形態では、尿検体に含まれる各有形成分から光信号波形を取得し、取得した光信号波形の形状を反映したパラメータを算出し、算出したパラメータが所定の範囲内に属する有形成分を精子として判定しているが、本発明はこれに限られない。パターンマッチングの手法を用いて精子の存在に関する判定を行ってもよい。
【0103】
図14(a)を参照して、変更例の第1取得処理について説明する。
【0104】
変更例では、図5のステップS14において、第1測定試料に含まれる各有形成分から取得された側方散乱光信号の波形画像が、信号処理部60の記憶部61に記憶される。また、図14(b)、(c)に示すような精子の形状の特徴を示した基準信号波形の画像210、220が、あらかじめ解析部70の記憶部71に記憶される。画像210は、精子が頭部からフローセル41に流れる場合に、典型的に取得される側方散乱光信号の波形画像である。画像220は、精子が尾部からフローセル41に流れる場合に、典型的に取得される側方散乱光信号の波形画像である。
【0105】
ステップS111において、解析部70は、パターンマッチングにより類似度を算出する。具体的には、解析部70は、尿検体に含まれる各有形成分から得られた側方散乱光信号の波形画像を、記憶部71内の基準信号波形の画像210、220と比較して、取得された信号波形と基準信号波形との間の類似度を算出する。ステップS112において、解析部70は、ステップS111で算出した類似度が所定の閾値以上である有形成分を抽出する。ステップS113において、解析部70は、ステップS112で抽出した有形成分の数を精子の数として取得する。
【0106】
その後、実施形態1と同様に、精子判定処理において、図14(a)の第1取得処理で取得された精子の数が所定の閾値以上である場合に、尿検体に精子が存在すると判定される。よって、変更例においても、精子の形状に基づいて確実に精子を抽出できるため、精子判定処理において、精度良く精子の存在を判定できる。
【符号の説明】
【0107】
10 尿検体分析装置
30 試料調製部
41 フローセル
42 光源
50 受光部
70 解析部
71 記憶部
80 表示部
図1
図2
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図5
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