(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352886
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】塗布材料用添加剤、塗膜の定着性向上方法、並びに、塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 105/04 20060101AFI20180625BHJP
C09D 105/00 20060101ALI20180625BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20180625BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20180625BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C09D105/04
C09D105/00
C09D7/65
C09D7/61
B05D7/24 301C
B05D7/24 303E
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-221054(P2015-221054)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-88743(P2017-88743A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】505223964
【氏名又は名称】株式会社舞昆のこうはら
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】鴻原 森蔵
【審査官】
田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−189889(JP,A)
【文献】
特開2001−019893(JP,A)
【文献】
特表2012−528718(JP,A)
【文献】
特開2006−111910(JP,A)
【文献】
特開平09−315878(JP,A)
【文献】
特開平09−176021(JP,A)
【文献】
特開平09−176521(JP,A)
【文献】
特表2012−527398(JP,A)
【文献】
特開2002−285037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面に塗布されて塗膜を形成する塗布材料に添加して使用される水溶性の添加剤であって、
(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩からなる組成物を主成分として含有することを特徴とする塗布材料用添加剤。
【請求項2】
(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜100質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を10〜50質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の塗布材料用添加剤。
【請求項3】
(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を60〜140質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の塗布材料用添加剤。
【請求項4】
(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を120〜280質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の塗布材料用添加剤。
【請求項5】
40倍質量の水に溶解させた際の水溶液のpHが10〜12であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗布材料用添加剤。
【請求項6】
前記炭酸アルカリ金属塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗布材料用添加剤。
【請求項7】
前記組成物は、アルギン酸塩と、カードランと、固形かんすいとが配合されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗布材料用添加剤。
【請求項8】
前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塗布材料用添加剤。
【請求項9】
(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩を塗布材料に添加することにより、当該塗布材料が塗布対象物に塗布されて形成される塗膜の定着性を向上させることを特徴とする塗膜の定着性向上方法。
【請求項10】
(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用することを特徴とする請求項9に記載の塗膜の定着性向上方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の塗布材料用添加剤を塗布材料に添加することにより、当該塗布材料が塗布対象物に塗布されて形成される塗膜の定着性を向上させることを特徴とする塗膜の定着性向上方法。
【請求項12】
前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の塗膜の定着性向上方法。
【請求項13】
(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させることを特徴とする塗膜の製造方法。
【請求項14】
(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用することを特徴とする請求項13に記載の塗膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載の塗布材料用添加剤が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させることを特徴とする塗膜の製造方法。
【請求項16】
前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の塗膜の製造方法。
【請求項17】
前記塗膜の表面に、カルシウム塩をさらに塗布することを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の塗膜の製造方法。
【請求項18】
前記カルシウム塩が、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項17に記載の塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布材料用添加剤、塗膜の定着性向上方法、並びに、塗膜の製造方法に関する。本発明の塗布材料用添加剤は、天然素材のみで構成可能なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住環境における化学物質過敏症やシックハウス症候群が大きな問題となっている。そのため、住宅の壁材等に塗布される塗料についても、シックハウス症候群等の原因となる化学物質の含有量を極力抑えたものが望ましい。
【0003】
従来より、水性塗料(水系塗料)への粘性付与や塗布対象物への定着性向上を目的とした、種々の添加剤が知られている。例えば、酢酸ビニル、アクリルポリマー等の化学合成品を含む添加剤や、アルギン酸等の多糖類を含む添加剤が知られている。このうち、アルギン酸等の多糖類は一般に生物由来であり、石油由来の化学合成品よりも人体に対する影響が低いと考えられる。
【0004】
特許文献1には、アルギン酸ベースの建設材料が開示されており、建設材料の一例として塗料材料が挙げられている。しかし、特許文献1には、アルギン酸以外の天然系材料の使用については記載されていない。特許文献2には、糊剤としてアルギン酸塩等の多糖類を含有する塗装用組成物が開示されている。しかし、この組成物におけるアルギン酸塩は補助的な成分であり、酢酸ビニル等の化学合成品の使用を排除できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−527398号公報
【特許文献2】特開2002−285037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記現状に鑑み、本発明は、天然素材のみで構成可能な塗布材料用添加剤、当該添加剤を使用する塗膜の定着性向上方法、並びに、塗膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、天然素材からなる成分のみを使用して水性塗料等の塗布材料の性能を向上させることを目的として、種々の成分について検討した。このうち、昆布から大量調製可能なアルギン酸塩に着目し、水性塗料に添加して性能を評価した。しかしながら、アルギン酸塩のみの添加では、特に、塗布対象物が金属やガラスの場合には定着性が悪く、実質的に使えないことが分かった。そこで、さらに検討を重ねた結果、アルギン酸塩に加えて、同じく天然素材であるカードランを用い、さらに固形かんすいを用いることで、金属等に対する定着性が格段に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の1つの様相は、固体表面に塗布されて塗膜を形成する塗布材料に添加して使用される水溶性の添加剤であって、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩からなる組成物を主成分として含有することを特徴とする塗布材料用添加剤である。
【0009】
本様相は、固体表面に塗布されて塗膜を形成する塗布材料に添加して使用される水溶性の添加剤に係るものである。本様相の添加剤は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩からなる組成物を主成分として含有する。本様相の添加剤によれば、塗布対象物に対する塗膜の定着性を格段に向上させることができる。さらに、本様相の添加剤は、主成分が天然素材のみからなるので、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0010】
「主成分とする」とは、添加剤全体の質量に対する成分(A)〜(C)の合計の質量が50%以上であることを意味する。
【0011】
好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜100質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を10〜50質量部含有する。
【0012】
好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を60〜140質量部含有する。
【0013】
好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を120〜280質量部含有する。
【0014】
好ましくは、40倍質量の水に溶解させた際の水溶液のpHが10〜12である。
【0015】
好ましくは、前記炭酸アルカリ金属塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムである。
【0016】
好ましくは、前記組成物は、アルギン酸塩と、カードランと、固形かんすいとが配合されたものである。
【0017】
好ましくは、前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤である。
【0018】
本発明の他の様相は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩を塗布材料に添加することにより、当該塗布材料が塗布対象物に塗布されて形成される塗膜の定着性を向上させることを特徴とする塗膜の定着性向上方法である。
【0019】
本様相は、塗膜の定着性向上方法に係るものである。本様相の方法では、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩を塗布材料に添加することにより、塗布対象物に対する塗膜の定着性を向上させる。本様相によれば、塗膜の定着性を格段に向上させることができる。さらに、本様相で用いる成分は天然素材のみからなるので、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0020】
好ましくは、(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用する。
【0021】
本発明の他の様相は、上記の塗布材料用添加剤を塗布材料に添加することにより、当該塗布材料が塗布対象物に塗布されて形成される塗膜の定着性を向上させることを特徴とする塗膜の定着性向上方法である。
【0022】
本様相の方法では、上記の塗布材料用添加剤を塗布材料に添加することにより、塗膜の塗布対象物に対する定着性を向上させる。本様相によっても、塗膜の定着性を格段に向上させることができる。さらに、本様相で用いる添加剤の主成分は天然素材のみからなるので、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0023】
好ましくは、前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤である。
【0024】
本発明の他の様相は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させることを特徴とする塗膜の製造方法である。
【0025】
本様相は、塗膜の製造方法に係るものである。本様相では、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩が添加された塗布材料を、塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させる。本様相の方法により製造された塗膜は、塗布対象物に対する定着性が高い。さらに本様相によれば、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0026】
好ましくは、(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用する。
【0027】
本発明の他の様相は、上記の塗布材料用添加剤が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させることを特徴とする塗膜の製造方法である。
【0028】
本様相では、上記の塗布材料用添加剤が添加された塗布材料を、塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させる。本様相の方法により製造された塗膜は、塗布対象物に対する定着性が高い。さらに本様相によれば、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0029】
好ましくは、前記塗布材料が、水性塗料又は水性コーティング剤である。
【0030】
好ましくは、前記塗膜の表面に、カルシウム塩をさらに塗布する。
【0031】
かかる構成により、塗膜の強度を向上させることができる。
【0032】
好ましくは、前記カルシウム塩が、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の塗布材料用添加剤によれば、塗膜の塗布対象物に対する定着性を格段に向上させることができる。さらに、本発明の塗布材料用添加剤は主成分が天然素材のみからなるので、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0034】
本発明の塗膜の定着性向上方法についても同様であり、塗布対象物に対する塗膜の定着性を格段に向上させることができる。さらに、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【0035】
本発明の塗膜の製造方法についても同様であり、塗布対象物に対する定着性が格段に向上した塗膜を提供することができる。さらに、人体に対する影響が極めて小さい塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】実施例1で行った実験の結果を表す写真であり、(a)が比較例、(b)が実施例の結果を表す。
【
図2】実施例2で行った実験の結果を表す写真であり、(a)〜(c)が実施例、(d)〜(f)が比較例の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の塗布材料用添加剤は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩からなる組成物を主成分として含有する水溶性のものである。
【0038】
本発明の添加剤は、上記成分(A)〜(C)からなる組成物を主成分とする。上記したように、「主成分とする」とは、添加剤全体の質量に対する成分(A)〜(C)の合計の質量が50%以上であることを意味する。添加剤全体の質量に対する成分(A)〜(C)の合計の質量は、好ましくは65%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。100%であってもよい。
【0039】
成分(A)のアルギン酸塩としては、水に溶解するものであれば特に限定はなく、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、等が例示される。アルギン酸塩は、昆布等の海藻から抽出及び精製することができる。
【0040】
成分(B)のカードランは、β−1,3グルカンからなる多糖類である。本発明では、食品添加物として市販されているカードランを用いることができる。
【0041】
成分(C)の炭酸アルカリ金属塩としては特に限定はないが、好ましくは、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムが使用される。
炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを提供する素材として、固形かんすいを用いることができる。一般に、固形かんすいは、炭酸ナトリウムを主成分とする炭酸ナトリウムと炭酸カリウムとの混合物であり、リン酸塩が少量含まれることもある。本発明では、食品添加物として市販されている固形かんすいを用いることができる。なお、意図しないpH緩衝作用を避ける観点から、リン酸塩の含量はできるだけ少ない方が好ましい。
本発明の添加物において、炭酸アルカリ金属塩は主にpH調整剤として機能する。すなわち、炭酸アルカリ金属塩の存在によってアルカリ性となり、アルギン酸塩とカードランの水溶性が向上する。
【0042】
本発明の添加剤における成分(A)〜(C)の含有量は特に限定されず、添加対象の塗布材料の種類や性状、塗布対象物の種類、施工場所、施工時間等によって適宜選択することができる。1つの好ましい実施形態では、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜100質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を10〜50質量部含む。より好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを40〜80質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を20〜40質量部含む。さらに好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを55〜65質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を25〜35質量部含む。代表例として、(A)と(B)と(C)の質量比(A:B:C)が、3:2:1である実施形態が挙げられる。
【0043】
(C)炭酸アルカリ金属塩の含有量をさらに大きくしてもよい。例えば、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を60〜140質量部含む実施形態が挙げられる。より好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを40〜60質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を80〜120質量部含む。さらに好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを45〜55質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を90〜110質量部含む。代表例として、(A)と(B)と(C)の質量比(A:B:C)が、2:1:2である実施形態が挙げられる。
【0044】
さらに別の実施形態として、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを30〜70質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を120〜280質量部含む実施形態が挙げられる。より好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを40〜60質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を160〜240質量部含む。さらに好ましくは、(A)アルギン酸塩100質量部に対して、(B)カードランを45〜55質量部、(C)炭酸アルカリ金属塩を180〜220質量部含む。代表例として、(A)と(B)と(C)の質量比(A:B:C)が、2:1:4である実施形態が挙げられる。この実施形態は、酸性が強い塗布材料への添加や、塗膜の抗菌性を高めたいときに有用である。
【0045】
本発明の添加剤は、水に溶解させたときのpHが弱アルカリ性となるものであることが好ましい。例えば、40倍質量の水に溶解させた際の水溶液のpHが10〜12であることが好ましい。溶解後のpHが高すぎると、塗布対象物に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。一方、溶解後のpHが中性に近づくと、アルギン酸塩とカードランの溶解性が悪くなる。
【0046】
本発明の添加剤は、上記(A)〜(C)以外の成分を含んでいてもよい。例えば、カルシウム塩を含んでいてもよい。本発明の添加物にカルシウム塩を含有させることにより、アルギン酸塩の硬化速度を調整することができる。カルシウム塩の例としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、等が挙げられる。これらのカルシウム塩については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。カルシウム塩の含有量としては特に限定はなく、カルシウム塩の種類、添加対象の塗布材料の種類や性状、塗布対象物の種類、施工場所、施工時間等によって適宜選択することができる。例えば、(A)アルギン酸塩と同質量のカルシウム塩を添加することができる。
【0047】
なお、酢酸カルシウムを選択することにより、塗膜の中で遊離する酢酸イオンによる抗菌効果が期待できる。この場合、酢酸臭を抑えるために、重炭酸ナトリウム等の重炭酸塩をさらに添加してもよい。
【0048】
本発明の添加剤は、その性能を損なわない限りにおいて、さらに他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、アルギン酸塩やカードラン以外の多糖類が挙げられる。当該多糖類としては、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、等が挙げられる。
【0049】
本発明の添加剤は、上記成分(A)〜(C)、並びに、必要に応じて他の成分を混和することにより、製造することができる。
【0050】
本発明の塗膜の定着性向上方法は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩を塗布材料に添加することにより、当該塗布材料における塗布対象物への定着性を向上させるものである。例えば、上記の添加剤を水性塗料等の塗布材料に添加する。(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用することが好ましい。
【0051】
また本発明の塗膜の製造方法は、(A)アルギン酸塩、(B)カードラン、及び(C)炭酸アルカリ金属塩が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させるものである。例えば、上記の塗布材料用添加剤が添加された塗布材料を塗布対象物に塗布し、塗膜を形成させる。(C)炭酸アルカリ金属塩として、固形かんすいを使用することが好ましい。
【0052】
形成された塗膜表面にカルシウム塩をさらに塗布してもよい。例えば、塗布材料を乾燥させた後の塗膜表面に対して、飽和状態のカルシウム塩水溶液を霧吹き状に噴霧するか、薄く重ね塗りする。これにより、塗膜の表面強度を高めることができる。ただし、アルギン酸塩とカルシウムイオンが接触すると、強アルカリ条件下を除き、原則瞬時に硬化する。そのため、塗布材料が完全に乾燥する前にカルシウムイオンと反応させると、意匠的問題が発生したり、剥離を促進したりするおそれがあり、その点には留意が必要である。
カルシウム塩の例としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、等が挙げられる。これらのカルシウム塩については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の対象となる塗布材料としては、水性塗料、水性コーティング剤、等が挙げられる。水性塗料としては、エマルジョン系,骨材入りエマルジョン系,水溶性樹脂系、等の各種水性塗料が挙げられる。水性コーティング剤としては、水系エマルジョン系、フッ素系、シリコン系、アクリル系、ウレタン系、等の各種水性コーティング剤が挙げられる。
【0054】
本発明が適用された塗布材料の塗布対象物について、例えば塗布材料が水性塗料や水性コーティング剤の場合には、金属、無機材料、木材、紙、等が挙げられる。特に、金属と無機材料は、酢酸ビニル等を用いないと水性塗料等が定着しにくい材料であるが、本発明を適用することにより、酢酸ビニル等の化学合成品を用いることなく塗膜がこれらの材料に安定して定着する。
【0055】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
アルギン酸カリウム(自社調製品)1.5g、カードラン(MCフードスペシャリティ社)1.0g、及び固形かんすい(木曽路物産社)0.5gを混和した。この混和物(「添加剤A」と称する)を水197gに溶解し、添加用水溶液を調製した。
適量の水性塗料(大創産業社製)に、添加剤Aの終濃度が1重量%となるように、上記添加用水溶液を添加した(各成分の終濃度は、アルギン酸カリウム:0.5重量%、カードラン:0.33重量%、固形かんすい:0.17重量%)。アルミニウム製の板の表面に水性塗料を塗布し、乾燥させた。乾燥後、手で擦って塗膜の定着性を調べた。
比較例として、アルギン酸カリウム(終濃度:2.5重量%)のみを添加した水性塗料(比較例1−1)、何も添加しない水性塗料(比較例1−2)、及び、酢酸ビニルが用いられた水性塗料として木工用ボンド(コニシ社)(比較例1−3)、を用いて同様の実験を行った。
【0057】
結果を
図1に示す。すなわち、実施例の水性塗料では塗膜がアルミニウム製板表面に良く定着しており(
図1(b))、手で擦っても剥がれなかった。一方、アルギン酸カリウムのみを添加した比較例1−1では、塗膜が十分に定着しておらず(
図1(a))、手で擦ると塗膜が剥がれ落ちた。何も添加しなかった比較例1−2の水性塗料も、塗膜が十分に定着しておらず、手で擦ると塗膜が剥がれ落ちた。
また、実施例の水性塗料は、酢酸ビニルを用いた比較例1−3の水性塗料と同等の定着性を有していた。
以上より、天然素材であるアルギン酸カリウム、カードラン、及び固形かんすいを水性塗料に添加することにより、金属に対する水性塗料の定着性を格段に向上させることができた。
【実施例2】
【0058】
実施例1で調製した添加剤Aを使用した場合と、アルギン酸カリウムのみを使用した場合について、水性塗料に付与される接着強度の違いを調べた。水性塗料として、水彩絵の具、アクリル絵の具、及びポスターカラーを用いた。塗布対象物として、アルミニウム製板とガラスを用いた。
【0059】
各水性塗料に添加剤Aを終濃度1重量%となるように添加した(実施例)。一方、各水性塗料にアルギン酸カリウムを終濃度2.5重量%となるように添加した(比較例)。各水性塗料を塗布対象物に塗布し、乾燥させた。乾燥後、手で擦って塗膜の定着性を調べた。
【0060】
図2に、塗布対象物が金属の場合の結果を示す。(a)〜(c)は添加剤Aを用いた実施例の結果であり、(a)は水彩絵の具、(b)はアクリル絵の具、(c)はポスターカラーの場合である。(d)〜(f)はアルギン酸カリウムのみを用いた比較例の結果であり、(d)は水彩絵の具、(e)はアクリル絵の具、(f)はポスターカラーの場合である。すなわち、添加剤Aを添加した実施例の水性塗料では塗膜がアルミニウム製板表面に良く定着しており(
図2(a)〜(c))、手で擦っても剥がれなかった。一方、アルギン酸カリウムのみを添加した比較例では、塗膜が十分に定着しておらず(
図2(d)〜(f))、手で擦ると塗膜が剥がれ落ちた。
【0061】
ガラスに塗布した場合には、実施例と比較例のいずれでも、塗膜が塗布対象物にいちおう定着しており、手で擦っても剥がれなかった。しかし、比較例の塗膜は爪で擦ると剥がれ落ちたのに対し、実施例の塗膜は爪で擦っても剥がれ落ちなかった。すなわち、実施例の塗膜の方が定着性に優れていた。
【0062】
以上より、天然素材であるアルギン酸カリウム、カードラン、及び固形かんすいを水性塗料に添加することにより、金属やガラスに対する水性塗料の定着性を格段に向上させることができた。
【実施例3】
【0063】
実施例1の添加剤Aを用いて得られた塗膜の硬度を、鉛筆硬度試験(旧JIS K5400 鉛筆引っかき試験)によって評価した。比較例として、木工用ボンドを用いて得られた塗膜の硬度を測定した。
【0064】
実施例1の添加剤Aを水性塗料(水彩絵の具、アクリル絵の具、ポスターカラーの3種、大創産業社製)に終濃度1重量%となるように添加した。これらの水性塗料をアルミニウム製板に塗布して乾燥させ、塗膜を形成させた。
木工用ボンドの原液(酢酸ビニル濃度:41%)、2倍希釈液、4倍希釈液、10倍希釈液を、アルミニウム製板に塗布して乾燥させ、塗膜を形成させた。
各塗膜について、鉛筆硬度試験によって硬度を測定した。
【0065】
<鉛筆硬度試験の手順>
(1)試験を行う鉛筆の芯先を、固い平らな面に置いた研磨紙400番に対し直角にあて、芯先が平らで角が鋭くなるように研ぐ。
(2)研いだ芯を試験面に対して45°にあて、芯が折れない程度にできる限り強く塗面に押し付けながら、試験者の前方に均一な速さで約1cm押し出して塗面を引っかく。押し出す速度は約1cm/sとする。
(3)1回引っかくごとに鉛筆の芯の先端を研いで、同一の濃度記号の鉛筆で5回ずつ試験を繰り返す。
(4)塗膜の破れ又は切り傷が5回の試験で2回以上になる鉛筆の硬さの一段下の濃度記号を記録する。
【0066】
木工用ボンドを用いた鉛筆硬度試験の結果は以下のとおりであった。
・原液: 7H以上
・2倍希釈液: 7Hで傷がつく(剥がれる)
・4倍希釈液: 6Hで傷がつく(剥がれる)
・10倍希釈液:3Hで傷がつく(剥がれる)
【0067】
そして、添加物Aを添加した水性塗料(3種)の塗膜は、いずれも木工用ボンドの4倍希釈液の塗膜と同程度の硬度を有していた。
以上より、天然素材であるアルギン酸カリウム、カードラン、及び固形かんすいを水性塗料に添加することにより、酢酸ビニル系の塗膜と同程度の塗膜硬度が得られることが分かった。