特許第6352895号(P6352895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352895
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】細胞剥離装置および細胞剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-252750(P2015-252750)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-112923(P2017-112923A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】三浦 丈苗
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/108503(WO,A1)
【文献】 特開2003−339373(JP,A)
【文献】 特開昭56−154988(JP,A)
【文献】 特開2007−229348(JP,A)
【文献】 Appl Phys A, 2004, vol.79, p.795-798,DOI:10.1007/s00339-004-2823-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部の上面に互いに間隔をあけて複数の足場材料が配置された容器の内部において培養された細胞を、前記容器から剥離する細胞剥離装置であって、
一部の前記足場材料を局所的に加熱して硬化する熱照射部と、
前記足場材料に対して衝撃波を照射する衝撃波照射部と、
を有する細胞剥離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞剥離装置であって、
前記容器内において培養された前記細胞の画像を取得する画像取得部
をさらに有し、
前記熱照射部は、前記画像に基づいて決定された加熱位置に対して加熱を行う細胞剥離装置。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞剥離装置であって、
前記容器内の液体を回収する回収部
をさらに有する細胞剥離装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の細胞剥離装置であって、
前記容器を第1位置および第2位置に移動させる容器移動機構
をさらに有し、
前記画像取得部は、前記第1位置において、前記容器内の細胞の画像を取得し、
前記熱照射部は、前記第2位置において、一部の前記足場材料を局所的に加熱し、
前記衝撃波照射部は、前記第2位置において、前記足場材料に衝撃波を照射する細胞剥離装置。
【請求項5】
請求項3に記載の細胞剥離装置であって、
前記容器を第1位置、第2位置、および第3位置の間で移動させる容器移動機構
をさらに有し、
前記画像取得部は、前記第1位置において、前記容器内の細胞の画像を取得し、
前記熱照射部は、前記第2位置において、一部の前記足場材料を局所的に加熱し、
前記衝撃波照射部は、前記第2位置において、前記足場材料に衝撃波を照射し、
前記回収部は、前記第3位置において、前記容器内の液体を回収する細胞剥離装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の細胞剥離装置であって、
前記熱照射部は、前記容器に対してレーザ光を照射する細胞剥離装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の細胞剥離装置であって、
前記衝撃波照射部は、前記足場材料の固有のインピーダンスに対応する周波数の前記衝撃波を照射する細胞剥離装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の細胞剥離装置であって、
前記容器の前記底部の上面に、複数の柱状の前記足場材料が互いに間隔をあけて配置される細胞剥離装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の細胞剥離装置であって、
前記容器は、前記底部の上面に複数の凹部を互いに間隔をあけて有し、
前記凹部に前記足場材料が充填される細胞剥離装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の細胞剥離装置であって、
前記足場材料は、細胞外マトリックスまたはポリジメチルシロキサンである細胞剥離装置。
【請求項11】
底部の上面に互いに間隔をあけて複数の足場材料が配置された容器の内部において培養された細胞を、前記容器から剥離する細胞剥離方法であって、
a)一部の前記足場材料を局所的に加熱して硬化する工程と、
b)前記工程a)の後に、前記足場材料に対して衝撃波を照射する工程と、
を有する細胞剥離方法。
【請求項12】
請求項11に記載の細胞剥離方法であって、
c)前記容器内において培養された前記細胞の画像を取得する工程と、
d)前記工程c)の後に、前記画像に基づいて前記足場材料の加熱位置を決定する工程と、
をさらに有し、
前記工程a)および前記工程b)は、前記工程d)の後に行われる細胞剥離方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の細胞剥離方法であって、
前記工程a)において、前記容器に対してレーザ光を照射する細胞剥離方法。
【請求項14】
請求項11ないし請求項13のいずれかに記載の細胞剥離方法であって、
前記工程b)において、前記足場材料の固有のインピーダンスに対応する周波数の前記衝撃波を照射する細胞剥離方法。
【請求項15】
請求項11ないし請求項14のいずれかに記載の細胞剥離方法であって、
前記容器の前記底部の上面に、複数の柱状の前記足場材料が互いに間隔をあけて配置される細胞剥離方法。
【請求項16】
請求項11ないし請求項14のいずれかに記載の細胞剥離方法であって、
前記容器は、前記底部の上面に複数の凹部を互いに間隔をあけて有し、
前記凹部に前記足場材料が充填される細胞剥離方法。
【請求項17】
請求項11ないし請求項16のいずれかに記載の細胞剥離方法であって、
前記足場材料は、細胞外マトリックスまたはポリジメチルシロキサンである細胞剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の内部において培養された細胞を容器から剥離する細胞剥離装置および細胞剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器内に貯留された培養液中に細胞を投入して、当該細胞を増殖させる細胞培養が知られている。培養された細胞は、細胞の表面に生じる接着因子によって、容器の底部に接着する。
【0003】
培養後に、容器から細胞を剥離する方法としては、従来、容器から細胞を物理的に剥がす方法や、タンパク質分解酵素を用いて接着因子を分解する方法が知られている。しかしながら、これらの剥離方法では、培養細胞自体が傷つく虞がある。このため、近年では、培養細胞を傷つけることなく、容器から細胞を剥離させる方法が模索されている。例えば、特許文献1には、温度応答性ポリマーを用いた細胞剥離方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−146807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、培養後の細胞の中から、選択した細胞を分離する技術が求められている。複数の細胞の中から一部の細胞を分離できれば、例えば、IPS細胞やES細胞等の多機性分化細胞の培養時に、分化した細胞と、未分化の細胞とを分離して、別個に培養を行うことが容易となる。しかしながら、従来の細胞剥離方法では、一部の細胞のみを選択的に容器から剥離することは困難であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、細胞の損傷を抑制しつつ、容器から細胞を選択的に剥離できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、底部の上面に互いに間隔をあけて複数の足場材料が配置された容器の内部において培養された細胞を、前記容器から剥離する細胞剥離装置であって、一部の前記足場材料を局所的に加熱して硬化する熱照射部と、前記足場材料に対して衝撃波を照射する衝撃波照射部と、を有する。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の細胞剥離装置であって、前記容器内において培養された前記細胞の画像を取得する画像取得部をさらに有し、前記熱照射部は、前記画像に基づいて決定された加熱位置に対して加熱を行う。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明の細胞剥離装置であって、前記容器内の液体を回収する回収部をさらに有する。
【0010】
本願の第4発明は、第2発明または第3発明の細胞剥離装置であって、前記容器を第1位置および第2位置に移動させる容器移動機構をさらに有し、前記画像取得部は、前記第1位置において、前記容器内の細胞の画像を取得し、前記熱照射部は、前記第2位置において、一部の前記足場材料を局所的に加熱し、前記衝撃波照射部は、前記第2位置において、前記足場材料に衝撃波を照射する。
【0011】
本願の第5発明は、第3発明の細胞剥離装置であって、前記容器を第1位置、第2位置、および第3位置の間で移動させる容器移動機構をさらに有し、前記画像取得部は、前記第1位置において、前記容器内の細胞の画像を取得し、前記熱照射部は、前記第2位置において、一部の前記足場材料を局所的に加熱し、前記衝撃波照射部は、前記第2位置において、前記足場材料に衝撃波を照射し、前記回収部は、前記第3位置において、前記容器内の液体を回収する。
【0012】
本願の第6発明は、第1発明ないし第5発明のいずれかの細胞剥離装置であって、前記熱照射部は、前記容器に対してレーザ光を照射する。
【0013】
本願の第7発明は、第1発明ないし第6発明のいずれかの細胞剥離装置であって、前記衝撃波照射部は、前記足場材料の固有のインピーダンスに対応する周波数の前記衝撃波を照射する。
【0014】
本願の第8発明は、第1発明ないし第7発明のいずれかの細胞剥離装置であって、前記容器の前記底部の上面に、複数の柱状の前記足場材料が互いに間隔をあけて配置される。

【0015】
本願の第9発明は、第1発明ないし第7発明のいずれかの細胞剥離装置であって、前記容器は、前記底部の上面に複数の凹部を互いに間隔をあけて有し、前記凹部に前記足場材料が充填される。
【0016】
本願の第10発明は、第1発明ないし第9発明のいずれかの細胞剥離装置であって、前記足場材料は、細胞外マトリックスまたはポリジメチルシロキサンである。
【0017】
本願の第11発明は、底部の上面に互いに間隔をあけて複数の足場材料が配置された容器の内部において培養された細胞を、前記容器から剥離する細胞剥離方法であって、a)前記足場材料を局所的に加熱して硬化する工程と、b)前記工程a)の後に、前記足場材料に対して衝撃波を照射する工程と、を有する。
【0018】
本願の第12発明は、第11発明の細胞剥離方法であって、c)前記容器内において培養された前記細胞の画像を取得する工程と、d)前記工程c)の後に、前記画像に基づいて前記足場材料の加熱位置を決定する工程と、をさらに有し、前記工程a)および前記工程b)は、前記工程d)の後に行われる。
【0019】
本願の第13発明は、第11発明または第12発明の細胞剥離方法であって、前記工程a)において、前記容器に対してレーザ光を照射する。
【0020】
本願の第14発明は、第11発明ないし第13発明のいずれかの細胞剥離方法であって、前記工程b)において、前記足場材料の固有のインピーダンスに対応する周波数の前記衝撃波を照射する。
【0021】
本願の第15発明は、第11発明ないし第14発明のいずれかの細胞剥離方法であって、前記容器の前記底部の上面に、複数の柱状の前記足場材料が互いに間隔をあけて配置される。
【0022】
本願の第16発明は、第11発明ないし第14発明のいずれかの細胞剥離方法であって、前記容器は、前記底部の上面に複数の凹部を互いに間隔をあけて有し、前記凹部に前記足場材料が充填される。
【0023】
本願の第17発明は、第11発明ないし第16発明のいずれかの細胞剥離方法であって、前記足場材料は、細胞外マトリックスまたはポリジメチルシロキサンである。
【発明の効果】
【0024】
本願の第1発明から第17発明によれば、細胞の損傷を抑制しつつ、容器から細胞を選択的に剥離できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態に係る培養容器の斜視図である。
図2】一実施形態に係る培養容器の部分断面図である。
図3】一実施形態に係る細胞剥離装置の構成を概念的に示した図である。
図4】一実施形態に係る細胞剥離装置内の制御系の構成を示したブロック図である。
図5】一実施形態に係る細胞剥離処理の流れを示すフローチャートである。
図6】一実施形態に係る画像データの一例を概念的に示した図である。
図7】一実施形態に係る画像データの一例を概念的に示した図である。
図8】一実施形態に係る画像データの一例を概念的に示した図である。
図9】一実施形態に係る画像データの一例を概念的に示した図である。
図10】一実施形態に係るレーザ光照射工程の様子を示した図である。
図11】一実施形態に係る衝撃波照射工程の様子を示した図である。
図12】変形例に係る培養容器の斜視図である。
図13】変形例に係るレーザ光照射工程の様子を示した図である。
図14】変形例に係る衝撃波照射工程の様子を示した図である。
図15】変形例に係る培養容器の上面図である。
図16】変形例に係る培養容器の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
<1.培養容器の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞剥離装置1にセットされる培養容器9の斜視図である。図2は、培養容器9の部分断面図である。本実施形態では、培養容器9として、ポリスチレン等の樹脂またはガラスにより形成されたシャーレが用いられる。細胞の培養を行うときには、培養容器9の内部に培養液81が貯留される。そして、貯留された培養液81中に、観察対象となる細胞が投入される。
【0028】
図1および図2に示すように、培養容器9は、平板状の底部91と、底部91から上方へ延びる環状の壁部92とを有する。培養容器9のうち、少なくとも底部91は、光透過性を有する。また、培養容器9は、複数の足場材料93を有する。足場材料93は、底部91の上面に、互いに間隔をあけて規則的に配列されている。複数の足場材料93は、それぞれ、底部91の上面から上方へ向けて、柱状に延びている。また、各足場材料93の下端部は、底部92の上面に対して固定されている。
【0029】
足場材料93には、コラーゲン等の細胞外マトリックスや、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の、細胞障害性の低い材料が用いられる。
【0030】
このような培養容器9の内部において細胞82を培養すると、複数の細胞塊83が得られる。細胞塊83は、底部91の上面に配置された足場材料93に沿って二次元的(すなわち平面的)に広がるコロニーであってもよいし、三次元的(すなわち立体的)に広がるスフェロイドであってもよい。各細胞塊83は、細胞82の膜表面に生じるインテグリン等の接着因子によって、足場材料93の上面に接着する。
【0031】
なお、図1に示すように、本実施形態の培養容器9では、複数の足場材料93がそれぞれ四角柱状であるが、各足場材料93の形状は、円柱、楕円、三角柱、六角柱などの他の形状であってもよい。また、足場材料93の上面は、必ずしも平らでなくてもよい。
【0032】
<2.細胞剥離装置の構成>
図3は、本発明の一実施形態に係る細胞剥離装置1の構成を、概念的に示した図である。この細胞剥離装置1は、培養容器9内で培養された複数の細胞塊83の画像を取得するとともに、一部の細胞塊83を足場材料93から選択的に剥離する装置である。図3に示すように、本実施形態の細胞剥離装置1は、容器保持部20、画像取得部30、剥離部40、回収部50、操作部60、および制御部10を有する。
【0033】
容器保持部20は、培養容器9を保持する載置台である。培養容器9は、底部91が下側となる水平姿勢で、容器保持部20にセットされる。また、容器保持部20は、培養容器9を水平方向に移動させる培養容器移動機構21を有する。培養容器移動機構21は、例えば、モータの回転運動をボールねじを用いて直進運動に変換する機構(ボールねじ機構)により実現される。
【0034】
培養容器移動機構21は、培養容器9を、水平姿勢のまま、第1位置P1、第2位置P2、および第3位置P3の間で移動させる。第1位置P1では、培養容器9に対して、画像取得部30による撮像が行われる。第2位置P2では、培養容器9に対して、剥離部40による加熱および衝撃波の照射が行われる。また、第3位置P3では、回収部50により培養容器9内の培養液81が回収される。
【0035】
画像取得部30は、培養容器9内の複数の細胞塊83の画像を取得するための処理部である。画像取得部30は、光照射部31と、撮像部32とを有する。光照射部31は、第1位置P1に配置された培養容器9の上方に位置する。光照射部31は、撮像部32の動作時に、培養容器9の上側から培養容器9に向けて、光を照射する。これにより、培養容器9の底部と、培養容器9内の複数の細胞塊83とが、光で照らされる。
【0036】
撮像部32は、第1位置P1に配置された培養容器9の下方に位置する。撮像部32は、培養容器9を下方から撮影することにより、培養容器9の画像データDを取得する。撮像部32は、例えば、レンズ等の光学系と、CCDやCMOS等の撮像素子とを有するカメラにより実現される。
【0037】
培養容器9の画像データDを取得するときには、まず、培養容器移動機構21が、培養容器9を、第1位置P1へ移動させる。そして、光照射部31から培養容器9に向けて光が照射されるとともに、撮像部32が培養容器9を撮影する。ここで撮影される画像には、培養容器9内の複数の足場材料93に保持された複数の細胞塊83の画像が含まれる。
【0038】
なお、本実施形態では、光照射部31と撮像部32とが、培養容器9に対して上下方向の反対側に配置されている。しかしながら、光照射部31と撮像部32との双方が、培養容器9の上方に配置されていてもよい。光照射部31と撮像部32との双方が、培養容器9の下方に配置されていてもよい。
【0039】
剥離部40は、培養容器9内の一部の細胞塊83を、足場材料93から剥離するための処理部である。剥離部40は、レーザ光照射部41、衝撃波照射部42、ホルダ43、および剥離ユニット移動機構44を有する。
【0040】
レーザ光照射部41および衝撃波照射部42は、第2位置P2に配置された培養容器9の下方に位置する。レーザ光照射部41は、培養容器9の底部91の上面に配置された足場材料93に向けてレーザ光を出射する。出射されたレーザ光は、複数の足場材料93のうちの、一部の足場材料93に照射される。これにより、当該一部の足場材料93が加熱される。すなわち、レーザ光照射部41は、底部91の上面に配置された複数の足場材料93を、局所的に加熱する熱照射部となる。
【0041】
上述の通り、足場材料93は、細胞外マトリックスやポリジメチルシロキサン等の熱硬化性の材料からなる。このため、複数の足場材料93のうち、レーザ光により加熱された足場材料93のみが、加熱により硬化する。足場材料93のインピーダンスは、硬化前と硬化後とで変化する。したがって、レーザ光の照射を受けた足場材料93は、他の足場材料93とは異なるインピーダンスを有することとなる。
【0042】
衝撃波照射部42は、培養容器9の底部91に対して衝撃波を照射する。衝撃波照射部42は、例えば、駆動電流に応じて発振する振動子を駆動させることによって、培養容器9へ向かう衝撃波を発生させる。衝撃波照射部42から照射される衝撃波の周波数は、硬化後の足場材料93の破壊に有効な周波数とされる。また、衝撃波照射部42は、発生させる衝撃波の周波数を所望の周波数に調節する機能を有していることが好ましい。
【0043】
ホルダ43は、レーザ光照射部41および衝撃波照射部42を保持する筐体である。レーザ光照射部41および衝撃波照射部42は、共通のホルダ43に固定されることによって、剥離ユニット400を構成する。剥離ユニット移動機構44は、剥離ユニット400を水平方向に二次元的に移動させるための機構である。剥離ユニット移動機構44は、例えば、2つのボールねじ機構を組み合わせることによって実現される。剥離ユニット移動機構44は、レーザ光照射部41からのレーザ光の照射領域が底部91の全領域を網羅できるように、剥離ユニット400を移動させることができる。
【0044】
回収部50は、培養容器9から、培養液および剥離された細胞塊83を回収するための処理部である。回収部50は、ピペッタ51およびピペッタ移動機構52を有する。ピペッタ51は、培養容器9内の培養液81を、負圧により吸引する機構を有する。ピペッタ移動機構52は、第3位置P3に配置された培養容器9の上方の位置である第4位置P4と、第4位置P4から水平方向に離れた第5位置P5との間で、ピペッタ51を移動させる。また、ピペッタ移動機構52は、第4位置P4および第5位置において、ピペッタ51を上下に移動させることができる。
【0045】
回収部50は、第3位置P3に配置された培養容器9から第4位置P4に配置されたピペッタ51へ培養液81を吸引し、吸引した培養液81を、第5位置P5に配置されたピペッタ51から回収用容器90へ排出する。
【0046】
操作部60は、表示部61および入力部62を有する。表示部61は、制御部10から出力される画像データDや、細胞剥離装置1の動作に関わる種々の情報を表示する。表示部61には、例えば、液晶ディスプレイが用いられる。入力部62は、ユーザからの種々の指示入力を受け付ける。入力部62には、例えば、キーボードやマウスが用いられる。ただし、表示部61の機能および入力部62の機能の双方が、タッチパネルディスプレイ等の単一のデバイスにより実現されていてもよい。
【0047】
制御部10は、細胞剥離装置1内の各部を動作制御するための手段である。図3中に概念的に示したように、本実施形態の制御部10は、CPU等の演算処理部11、RAM等のメモリ12、およびハードディスクドライブ等の記憶部13を有するコンピュータにより構成されている。
【0048】
図4は、制御部10と、細胞剥離装置1内の各部との接続を示したブロック図である。図4に示すように、制御部10は、上述した培養容器移動機構21、光照射部31、撮像部32、レーザ光照射部41、衝撃波照射部42、剥離ユニット移動機構44、ピペッタ51、ピペッタ移動機構52、表示部61、および入力部62と、それぞれ電気的に接続されている。
【0049】
制御部10は、記憶部13に記憶されたコンピュータプログラム131やデータ132を、メモリ12に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラム131およびデータ132に基づいて、演算処理部11が演算処理を行うことにより、細胞剥離装置1内の各部を動作制御する。これにより、細胞剥離装置1における細胞剥離処理が進行する。なお、制御部10は、電子回路により構成されていてもよい。
【0050】
<3.細胞剥離処理について>
続いて、上記の細胞剥離装置1を用いて、培養容器9から細胞塊83を剥離する細胞剥離処理について説明する。図5は、細胞剥離処理の流れを示すフローチャートである。
【0051】
細胞剥離処理を行うときには、まず、培養容器9を撮像部32の上方の第1位置P1に配置する(ステップS101)。培養容器9は、ユーザによって、第1位置P1に直接配置されてもよい。あるいは、培養容器移動機構21が、他の位置に配置された培養容器9を、第1位置P1へ移動させてもよい。
【0052】
次に、制御部10は、培養容器9の画像取得部30を動作させて、培養容器9の画像データDを取得する(ステップS102)。具体的には、光照射部31から培養容器9に光を照射するとともに、撮像部32による撮影が実行される。これにより、複数の細胞塊83の画像を含む培養容器9の画像データDが取得される。得られた画像データDは、撮像部32から制御部10へ送信される。
【0053】
制御部10は、撮像部32から画像データDを取得すると、当該画像データDをA/D変換し、制御部10内の記憶部13に記憶する。また、制御部10は、表示部61に画像データDを表示させる。
【0054】
図6は、撮像部32により取得された画像データDの一例を、概念的に示した図である。図6に示すように、画像データDには、培養容器9の底部91、壁部92、底部91上に配置された複数の足場材料93、および複数の細胞塊83の各画像が含まれている。
【0055】
続いて、制御部10は、画像データDから、細胞塊83に相当する部分を識別する(ステップS103)。細胞塊83の識別は、例えば、画像データDの中で、予め設定された基準濃度値よりも濃い濃度値を有するピクセルを抽出することによって行われる。制御部10は、画像データDに、識別結果を視認できる処理を施して、表示部61に表示する。図7は、細胞塊83が識別された画像データDの一例を、概念的に示した図である。図7の例では、識別された細胞塊83の外周部が、特定の色で縁取りされている。なお、識別された細胞塊83は、着色等の他の方法により示されてもよい。
【0056】
その後、識別された複数の細胞塊83の中から、剥離すべき細胞塊83が選択される(ステップS104)。細胞塊83の選択は、例えば、制御部10が、各細胞塊83の画像から得られる種々のパラメータと、予め設定された閾値とを比較することによって行われる。ただし、ユーザが、表示部61に表示された画像データDを参照しつつ、入力部62を操作することによって、剥離すべき細胞塊83を選択してもよい。
【0057】
制御部10は、画像データDに、選択結果を視認できる処理を施して、表示部61に表示する。図8は、選択処理後の画像データDの一例を、概念的に示した図である。図8の例では、選択された細胞塊83が、予め設定された色で着色されている。
【0058】
剥離対象となる細胞塊83が選択された後、制御部10は、レーザ光の照射範囲を決定する(ステップS105)。複数の細胞塊83は、それぞれ、図2に示すように、その下部の少なくとも一部が、足場材料93に接触している。そして、当該接触部分の少なくとも一部において、細胞塊83と足場材料93とが、接着因子により接着している。
【0059】
本実施形態では、剥離対象として選択された細胞塊83と上下方向に重なる足場材料93に対して、レーザ光の照射を行う。図9は、ステップS105において決定されたレーザ光の照射範囲が示された画像データDの一例を、概念的に示した図である。この例では、レーザ光の照射範囲として、剥離対象となる細胞塊83と上下方向に重なる足場材料93が選択されている。ただし、レーザ光の照射範囲として、剥離対象となる細胞塊83が存在する領域全体が選択されてもよい。すなわち、隣り合う足場材料93の間の領域も、レーザ光の照射範囲に含まれていてもよい。
【0060】
このようにステップS104およびステップS105では、撮像部32により取得された画像データDに基づいて、底部91の加熱位置を決定する。
【0061】
続いて、制御部10は、培養容器移動機構21を駆動させて、培養容器9を、第1位置P1から第2位置P2へ移動させる(ステップS106)。これにより、培養容器9が、剥離ユニット400の上方に配置される。
【0062】
また、制御部10は、上述したレーザ光の照射範囲に応じて、剥離ユニット移動機構44を動作させる。これにより、レーザ光の照射範囲の下方に、レーザ光照射部41を配置する。そして、レーザ光照射部41から指定された照射範囲に向けて、レーザ光を照射する(ステップS107)。
【0063】
図10は、ステップS107のレーザ光照射工程の様子を示した図である。図10に示すように、レーザ光が照射された足場材料93は、加熱されることにより硬化する。図10では、硬化した足場材料93を着色して示している。本実施形態では、底部91の上面に、複数の柱状の足場材料93が配置されている。このように、複数の足場材料93を水平方向に間隔をあけて配置すれば、硬化すべき部分と、硬化すべきでない部分と間の半硬化の部分を無くすことができる。したがって、硬化すべき部分と、硬化すべきでない部分とを、明確に分離できる。
【0064】
続いて、制御部10は、剥離ユニット移動機構44を動作させて、培養容器9の中央の下方に、衝撃波照射部42を配置する。そして、衝撃波照射部42から培養容器9の下面へ向けて、衝撃波を照射する(ステップS108)。
【0065】
図11は、ステップS108の衝撃波照射工程の様子を示した図である。図11に示すように、ステップS107において硬化した足場材料93は、衝撃波が照射されることにより破砕される。一方、硬化されていない足場材料93は、衝撃波が照射されても破砕されない。衝撃波照射部42が照射する衝撃波の周波数は、硬化後の足場材料93の固有のインピーダンスに対応する周波数となっている。そのため、衝撃波の照射によって、硬化された足場材料93のみが破砕される。
【0066】
これにより、図11のように、接着していた足場材料93を失った細胞塊83は、培養容器9から剥離されて、培養液81中に浮遊する。すなわち、ステップS104において選択された細胞塊83のみが、培養容器9から剥離されて、培養液81中に浮遊する。また、この細胞剥離処理では、細胞塊83と足場材料93とのうち、足場材料93のみを破壊する。このため、細胞塊83の損傷を抑制しつつ、容器9から細胞塊83を剥離できる。
【0067】
その後、制御部10は、培養容器移動機構21を駆動させて、培養容器9を、第2位置P2から第3位置P3へ移動させる(ステップS109)。そして、制御部10は、ピペッタ51およびピペッタ移動機構52を動作させて、培養容器9中の培養液81を回収する(ステップS110)。回収される培養液81中には、ステップS108において剥離された細胞塊83も含まれる。
【0068】
ステップS110では、まず、ピペッタ51の先端を培養容器9内の培養液81中へ配置し、ピペッタ51内に負圧を発生させることによって、当該培養液81を吸い上げる。その後、ピペッタ51の先端を回収用容器90の内部に配置し、ピペッタ51内を復圧させることにより、ピペッタ51内の培養液81を回収用容器90内に排出する。これにより、回収用容器90内に、剥離された細胞塊83を含む培養液81が回収される。
【0069】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0070】
図12は、一変形例に係る培養容器9Aの斜視図である。図12の培養容器9Aは、複数の窪部94Aを有するウェルプレートである。複数の窪部94は、それぞれ、培養容器9Aの上面から下方へ向けて凹んでいる。各窪部94A内には、培養液81Aとともに、観察対象となる細胞塊83Aが収容される。このような培養容器9Aにおいても、各窪部94の底部91Aに、複数の足場材料を配置することができる。培養液81A中の細胞塊83Aは、足場材料に対して接着する。そして、上記の実施形態と同様の細胞剥離装置において、上記の実施形態と同様の細胞剥離処理を行うことができる。
【0071】
図13は、他の変形例に係る培養容器9Bを用いた、レーザ光照射工程の様子を示した図である。図14は、図13のレーザ光照射工程の後に行われる衝撃波照射工程の様子を示した図である。図13および図14の例では、培養容器9Bの底部91Bの上面全体に、足場材料93Bが形成されている。
【0072】
図13および図14の例では、足場材料93Bのうち、剥離対象とする細胞塊83Bと上下に重なる部分のみに、レーザ光が照射される。これにより、足場材料93Bのうち、細胞塊83Bと接着している部分が硬化する。その後、図14のように、衝撃波を照射することにより、足場材料93Bのうち、硬化した部分のみが破砕される。その結果、剥離対象の細胞塊83Bのみが、培養容器9Bから剥離されて、培養液81B中に浮遊する。
【0073】
図15は、他の変形例に係る培養容器9Cの上面図である。図16は、内部に培養液81Cおよび細胞塊83Cが収容された培養容器9Cの部分断面図である。この培養容器9Cは、底部91Cの上面に複数の凹部911Cを有する。これにより、図15のように、底部91Cの上面が格子状となっている。そして、各凹部911Cの内部に足場材料93Cが充填されている。底部91Cの上面と、足場材料93Cの上面とは、略一定の高さに揃えられている。
【0074】
この培養容器9Cでは、底部91Cの上面のうち、足場材料93以外の部分には、疎水コーティングが施されている。このため、図16のように、細胞塊83Cは、足場材料93Cの上面のみに接着する。したがって、レーザ光および衝撃波の照射により、一部の足場材料93Cを粉砕することによって、当該足場材料93に接着していた細胞塊83Cのみを、培養容器9Cから剥離することができる。
【0075】
また、上記の実施形態の細胞剥離装置では、熱照射部として、レーザ光照射部が用いられていた。しかしながら、本発明の熱照射部は、レーザ光照射部に限らず、培養容器の底部を局所的に加熱できるものであればよい。例えば、熱照射部は、ハロゲンランプの光を集光して、培養容器の底部に照射する機構であってもよい。
【0076】
また、上記の実施形態の細胞剥離装置は、画像取得部を有していた。しかしながら、本発明の細胞剥離装置は、画像取得部を有していなくてもよい。例えば、細胞剥離装置は、他の装置から細胞塊の位置を示す情報を取得し、当該情報に基づいて、培養容器にレーザ光を照射するものであってもよい。また、上記の実施形態の細胞剥離装置は、回収部を有していたが、本発明の細胞剥離装置は、回収部を有していなくてもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、衝撃波照射部は、培養容器の底部の中央の下方から、衝撃波を照射していた。しかしながら、衝撃波照射部は、他の位置から衝撃波を照射してもよい。例えば、硬化した複数の足場材料の各々の下方位置から、各足場材料に対して、個別に衝撃波を照射してもよい。また、衝撃波照射部は、培養容器に振動子を直接接触させて、培養容器に衝撃波を伝えるものであってもよい。
【0078】
また、足場材料の形状は、上記の実施形態や変形例に登場した形状以外の形状(例えば格子状)であってもよい。
【0079】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 細胞剥離装置
9,9A,9B,9C 培養容器
10 制御部
20 容器保持部
21 培養容器移動機構
30 画像取得部
31 光照射部
32 撮像部
40 剥離部
41 レーザ光照射部
42 衝撃波照射部
50 回収部
81,81A,81C 培養液
82 細胞
83,83A,83B,83C 細胞塊
91,91A,91B,91C 底部
93,93B,93C 足場材料
94A 窪部
911C 凹部
912C ベース部
P1 第1位置
P2 第2位置
P3 第3位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16