特許第6352908号(P6352908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352908
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】新規ペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20180625BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20180625BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   C07K14/47ZNA
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12N5/071
   C12P21/02 C
   A61K38/16
   A61P3/10
   A61P1/18
   !C12N15/12
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-518298(P2015-518298)
(86)(22)【出願日】2014年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2014063674
(87)【国際公開番号】WO2014189127
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-109801(P2013-109801)
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】豊島 秀男
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友隆
(72)【発明者】
【氏名】菅原 泉
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/013794(WO,A1)
【文献】 特開2007−209214(JP,A)
【文献】 豊島秀男他,消化管ホルモンIBCAPによる膵β細胞分化増殖に与える影響,日本内分泌学会雑誌,2013年 4月 1日,Vol.89, No.1,p.270,P1-12-1
【文献】 横尾友隆他,新規消化管ホルモンIBCAPによる膵β細胞分化・増殖作用の解析,糖尿病,2013年 4月25日,Vol.56, Supplement1,p.S-198,l-P-422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、又は
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同等以上の、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び/又は膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を有する、ペプチド。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、又は
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を有する、ペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3記載のベクターを含む研究用試薬。
【請求項5】
膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤及び/又は膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導する分化誘導促進剤である請求項4記載の研究用試薬。
【請求項6】
前記膵臓ホルモン産生細胞がα細胞、β細胞、及びδ細胞よりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項5記載の研究用試薬。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3記載のベクターを含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項3に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
請求項8記載の形質転換体を培養して請求項1又は2に記載のペプチドを産生させる工程を含むペプチド産生方法。
【請求項10】
次の(a)〜(c)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤;
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同等以上の膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用を持つペプチド、
(b’)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を有するペプチド、
(c)前記(a)、(b)、(b’)いずれかのペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【請求項11】
次の(d)〜(f)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導する分化誘導促進剤;
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同等以上の膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド、
(e’)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド、
(f)前記(d)、(e)、(e’)いずれかのペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【請求項12】
膵臓ホルモン産生細胞を培養する培地中に下記(a)、(b)、(b’)いずれかのペプチドを添加する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞の増殖方法;
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同等以上の膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用を持つペプチド、
(b’)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を有するペプチド。
【請求項13】
多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で、下記(d)、(e)、(e’)いずれかのペプチドを培地中に添加する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞の分化形成方法;
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、配列番号1に記載のアミノ酸配列と同等以上の膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド、
(e’)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜6個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する作用及び膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド。
【請求項14】
請求項12記載の増殖方法及び/又は請求項13記載の分化形成方法を含む再生医療型膵臓ホルモン産生細胞群の形成方法。
【請求項15】
前記膵臓ホルモン産生細胞群がα細胞又はβ細胞を含む請求項14記載の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチド、そのペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター、そのベクターで形質転換された形質転換体、及びそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は内分泌細胞と外分泌細胞とを有し、内分泌及び外分泌の両方で重要な役割を担っている器官である。内分泌細胞は膵臓ホルモンを産生・分泌する役割を果たし、α細胞からはグルカゴンが、β細胞からはインスリンが、δ細胞からはソマトスタチンが、PP細胞からは膵ポリペプチドがそれぞれ分泌されることが知られている。特にインスリンは血糖値低下作用を有し、血糖を正しい濃度に保つ重要な役割を果たす。
【0003】
近年、ヒトTM4SF20として公知のポリペプチド又はそのフラグメントが膵臓β細胞の増加促進作用を持つことが報告されている(特許文献1を参照)。ヒトTM4SF20をコードするDNAの塩基配列を配列番号2に示し、ヒトTM4SF20のアミノ酸配列を配列番号3に示す。このポリペプチド又はそのフラグメントは、膵臓β細胞の減少又は死滅を伴う疾患、特に1型糖尿病の治療に用いることが期待されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているポリペプチド(ヒトTM4SF20)は229個のアミノ酸残基からなるものであり、実用化のためには鎖長のより短いペプチドが望まれる。特許文献1には、鎖長のより短いペプチドとして19個のアミノ酸残基からなる3種類のフラグメント(ペプチドA,B,C)も記載されているが、膵臓β細胞の増加促進作用はそれほど高いものではなかった。ペプチドA,B,Cのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4〜6に示す。なお、ペプチドA,B,Cのアミノ酸配列は、ヒトTM4SF20の98番目から116番目までのアミノ酸配列、78番目から96番目までのアミノ酸配列、161番目から179番目のアミノ酸配列にそれぞれ対応する。
【0005】
また近年、誘導多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう。)や胚性幹細胞(以下、「ES細胞」ともいう。)等の多能性幹細胞、あるいは膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞へと分化誘導する方法が数多く報告されている(非特許文献1〜4、特許文献2〜7等を参照)。このような分化誘導方法によって効率的に膵臓ホルモン産生細胞を得ることができれば、膵島移植の代替となる1型糖尿病の治療方法に繋がると期待される。さらに、患者本人由来の多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞を得ることにより、拒絶反応の問題も解消し得ると考えられる。
【0006】
しかし、これまで報告されている分化誘導方法は、いずれも膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導効率が十分ではなかった。このため、高効率に膵臓ホルモン産生細胞へと分化誘導することが可能な分化誘導方法が望まれている。特に、安全性の観点からは、遺伝子導入を伴わない分化誘導方法であることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/013794号
【特許文献2】国際公開第2007/103282号
【特許文献3】国際公開第2005/063971号
【特許文献4】国際公開第2009/048675号
【特許文献5】国際公開第2007/051038号
【特許文献6】国際公開第2006/108361号
【特許文献7】国際公開第2008/066199号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】D’Amour,K.A. et al., Nature Biotechnology, 24, pp.1392−1401(2006)
【非特許文献2】Wei Jiang et al., Cell Research, 17, pp.333−344(2007)
【非特許文献3】Miyazaki,S. et al., Diabetes, 53, pp.1030−1037(2004)
【非特許文献4】Yuya Kunisada et al.,Stem Cell Research, 8, pp.274−284(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規ペプチド、そのペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター、そのベクターで形質転換された形質転換体、及びそれらの用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた。その結果、ヒトTM4SF20のフラグメントである配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「ベータジェニン(betagenin)」ともいう。)が高い膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用を持ち、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つことを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、より具体的には以下のとおりである。
【0011】
[1] 配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド。
【0012】
[2] 上記[1]に記載のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【0013】
[3] 上記[1]に記載のペプチド又は上記[2]に記載のベクターを含む研究用試薬。
【0014】
[4] 膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤及び/又は膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導する分化誘導促進剤である上記[3]に記載の研究用試薬。
【0015】
[5] 上記膵臓ホルモン産生細胞がα細胞、β細胞、及びδ細胞よりなる群から選択される少なくとも1種を含む上記[4]に記載の研究用試薬。
【0016】
[6] 上記[1]に記載のペプチド又は上記[2]に記載のベクターを含む医薬組成物。
【0017】
[7] 上記[2]に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【0018】
[8] 上記[7]に記載の形質転換体を培養して上記[1]に記載のペプチドを産生させる工程を含むペプチド産生方法。
【0019】
[9] 次の(a)〜(c)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進する膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤;
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用を持つペプチド、
(c)上記(a)又は(b)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【0020】
[10] 次の(d)〜(f)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導する分化誘導促進剤;
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド、
(f)上記(d)又は(e)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【0021】
[11] 膵臓ホルモン産生細胞を培養する培地中に下記(a)又は(b)のペプチドを添加する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞の増殖方法;
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用を持つペプチド。
【0022】
[12] 多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で、下記(d)又は(e)のペプチドを培地中に添加する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞の分化形成方法;
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド。
【0023】
[13] 上記[11]に記載の増殖方法及び/又は上記[12]に記載の分化形成方法を含む再生医療型膵臓ホルモン産生細胞群の形成方法。
【0024】
[14] 上記膵臓ホルモン産生細胞群がα細胞又はβ細胞を含む上記[13]に記載の形成方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、新規ペプチド、そのペプチドをコードするDNAが組み込まれた組換えベクター、その組換えベクターで形質転換された形質転換体、及びそれらの用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を培地中に添加した際の膵臓β細胞株の増殖促進作用を示す図である。
図2】ヒトiPS細胞(253G1細胞)から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で培地中に配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を添加した際の、分化誘導により得られた細胞におけるインスリンの相対発現量を示す図である。
図3】ヒトiPS細胞(200−9細胞、TIG3/KOSM細胞、又は253G1細胞)から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で培地中に配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を添加した際の、分化誘導により得られた細胞におけるCペプチド陽性細胞又はインスリン陽性細胞の割合を示す図である。
図4】配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAによりコードされるポリペプチド(IBCAP)の発現ベクターをトランスフェクトしたHEK293T細胞の培養上清(IBCAP培養上清)、又は空ベクターをトランスフェクトしたHEK293T細胞の培養上清(Mock培養上清)を培地中に添加した際の膵臓β細胞株の増殖促進作用を示す図である。
図5】配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)、又は配列番号4〜6に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドA,B,C)を培地中に添加した際の膵臓β細胞株の増殖促進作用を示す図である。
図6】ヒトiPS細胞(253G1細胞)から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で培地中に配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を添加した際の、分化誘導により得られた細胞におけるインスリンの相対発現量を示す図である。
図7】ヒトiPS細胞(253G1細胞)から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で培地中に配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を添加した際の、分化誘導により得られた細胞におけるグルカゴンの相対発現量を示す図である。
図8】ヒトiPS細胞(253G1細胞)から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で培地中に配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を添加した際の、分化誘導により得られた細胞におけるソマトスタチンの相対発現量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
≪ペプチド≫
本発明に係るペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるものである。
【0028】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、ヒトTM4SF20の170番目から229番目までのアミノ酸配列に対応する。後述のとおり、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、高い膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用を持ち、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つものである。なお、膵臓ホルモン産生細胞には、通常、α細胞、β細胞、及びδ細胞よりなる群から選択される少なくとも1種が含まれる。
【0029】
本発明に係るペプチドには、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「改変ペプチド」ともいう。)も包含される。あるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドが元のペプチドの生物学的活性を維持することは、当業者に広く知られた事実である(Mark,D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, pp.5662−5666(1984);Zoller,M.J. et al., Nucleic Acids Research, 10, pp.6487−6500(1982);Wang,A. et al., Science, 224, pp.1431−1433;Dalbadie−McFarland,G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, pp.6409−6413(1982)等を参照)。
【0030】
ここで、1若しくは数個のアミノ酸を他のアミノ酸に置換する場合には、置換前後でアミノ酸側鎖の性質が保存されていることが望ましい。アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内のアルファベットはいずれもアミノ酸を一文字表記したものである)。
【0031】
1若しくは数個のアミノ酸を置換、欠失、及び/又は付加する場合、その数は例えば1〜12個であってもよく、1〜6個であってもよく、1〜4個であってもよく、1〜2個であってもよい。
また、改変ペプチドと元のペプチドとの相同性は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましく、98%以上が最も好ましい。
【0032】
≪ベクター≫
本発明に係るベクターは、本発明に係るペプチドをコードするDNAが組み込まれたものである。ベクターとしては、プラスミドベクター、ファージベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等が用いられ、使用の目的に応じて適宜選択される。
【0033】
≪研究用試薬、医薬組成物≫
本発明に係る研究用試薬は、本発明に係るペプチド又は本発明に係るベクターを含むものである。この研究用試薬は、後述する膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤であってもよく、後述する分化誘導促進剤であってもよく、その両方であってもよい。この研究用試薬は、膵臓ホルモン産生細胞を利用する研究や、膵臓ホルモン産生細胞への分化機構の研究等に好適に用いることができる。
【0034】
また、本発明に係る医薬組成物は、本発明に係るペプチド又は本発明に係るベクターを含むものである。後述のとおり、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、優れた膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を示し得る。このため、当該医薬組成物は、例えば膵臓β細胞の死滅又は減少を伴う疾患、特に1型糖尿病の治療に用いることができる。例えば、本発明に係るペプチドを公知の方法により製剤化して医薬組成物を調製し、患者に投与することができる。また、本発明に係るベクターを公知の方法により製剤化して医薬組成物を調製し、患者に投与することができる。
【0035】
≪形質転換体、ペプチド産生方法≫
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るベクターで形質転換されたものである。また、本発明に係るペプチド産生方法は、本発明に係る形質転換体を培養して本発明に係るペプチドを産生させる工程を含むものである。
宿主細胞としては、形質転換用のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等が挙げられる。
【0036】
この形質転換体を培養して遺伝子発現させることで、その培養上清から本発明に係るペプチドを得ることができる。ペプチドの分離・精製は、例えば、イオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の、ペプチド化学において通常使用される方法によって行うことができる。
なお、化学合成によって本発明に係るペプチドを得ることも当然可能である。
【0037】
≪膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤≫
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤は、次の(a)〜(c)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進することが可能なものである。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用を持つペプチド、
(c)上記(a)又は(b)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【0038】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、高い膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用を持つものである。したがって、このペプチドを膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤に用いることができる。
また、膵臓ホルモン産生細胞の増殖促進作用が維持されている限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる改変ペプチドを用いることもできる。置換、欠失、及び/又は付加されるアミノ酸の数、改変ペプチドと元のペプチドとの相同性等については、本発明に係るペプチドについて記載した内容と同様でよい。
さらに、上記(a)又は(b)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクターを膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤に用いることもできる。
【0039】
有効成分となるペプチドやベクターは、高度に精製された純品を単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0040】
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤は、優れた膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用を示し得る。このため、当該増殖促進剤は、例えば膵臓β細胞の死滅又は減少を伴う疾患、特に1型糖尿病の治療に用いることができる。
例えば、上記(a)や(b)のペプチドを公知の方法により製剤化した医薬組成物を、患者に投与することができる。
また、上記(a)又は(b)のペプチドをコードするDNAを適切なベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等)に組み込んだ後、公知の方法により製剤化した医薬組成物を、患者に投与することができる。
【0041】
≪膵臓ホルモン産生細胞の増殖方法≫
本発明に係る増殖方法は、膵臓ホルモン産生細胞を培養する培地中に上記(a)又は(b)のペプチドを添加する工程を含むものである。このように上記(a)又は(b)を添加することにより、膵臓ホルモン産生細胞の増殖が促進する。培地中におけるペプチドの濃度は、0.03〜10nMが好ましく、0.3〜1nMがより好ましい。
【0042】
≪分化誘導促進剤≫
本発明に係る分化誘導促進剤は、次の(d)〜(f)の少なくとも1種を含み、膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導することが可能なものである。
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つペプチド、
(f)上記(d)又は(e)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクター。
【0043】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、多能性幹細胞や、膵臓組織幹/前駆細胞等の組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つものである。したがって、このペプチドを分化誘導促進剤に用いることができる。
また、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用が維持されている限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる改変ペプチドを用いることもできる。置換、欠失、及び/又は付加されるアミノ酸の数、改変ペプチドと元のペプチドとの相同性等については、本発明に係るペプチドについて記載した内容と同様でよい。
さらに、上記(d)又は(e)のペプチドをコードするDNAが組み込まれたベクターを分化誘導促進剤に用いることもできる。
【0044】
有効成分となるペプチドやベクターは、高度に精製された純品を単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0045】
なお、多能性幹細胞とは、少なくとも一種類ずつの三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に属する分化細胞に分化する能力(多分化能)のある自己複製可能な幹細胞のことをいい、例えば、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、胚性癌細胞(EC細胞)、成体多能性幹細胞(APS細胞)等が包含される。
また、組織幹/前駆細胞とは、生体内に存在する、多分化能、自己複製能を有する幹/前駆細胞である。
【0046】
本発明に係る分化誘導促進剤は、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を示し得る。このため、当該分化誘導促進剤は、例えば膵臓β細胞の死滅又は減少を伴う疾患、特に1型糖尿病の治療に用いることができる。
例えば、上記(d)や(e)のペプチドを公知の方法により製剤化し、患者に投与することができる。
また、上記(d)又は(e)のペプチドをコードするDNAを適切なベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等)に組み込んだ後、公知の方法により製剤化し、患者に投与することができる。
【0047】
また、本発明に係る分化誘導促進剤は、多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導する際にも用いることができる。
例えば、上記(d)や(e)のペプチドを培地に添加することにより、多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導することができる。
【0048】
≪膵臓ホルモン産生細胞の分化形成方法≫
本発明に係る分化形成方法は、多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導過程で、上記(d)又は(e)のペプチドを培地中に添加する工程を含むものである。以下、当該分化形成方法についてさらに説明する。
【0049】
<多能性幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導>
多能性幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導するには、その分化誘導過程で上記(d)又は(e)のペプチドを培地中に添加すればよい。多能性幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導方法としては、従来公知の方法を任意に採用することができ、特に限定されない。培地中における上記(d)又は(e)のペプチドの濃度は、10〜200ng/mLが好ましく、50〜180ng/mLがより好ましく、60〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0050】
以下、多能性幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導方法の例として2種類の方法を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
【0051】
[第1の分化誘導方法]
第1の分化誘導方法は、非特許文献1に記載の方法に準じたものである。この文献は参照により本願に援用する。
第1の分化誘導方法は、下記の工程(A1)〜(E1)を含む。このうち少なくとも1つの工程で、上記(d)又は(e)のペプチドが培地中に添加される。なお、ある工程に分化誘導促進剤を添加する場合、その工程の最初から添加してもよく、工程の途中から添加してもよい。特に、工程(A1)〜(E1)の全ての工程で上記(d)又は(e)のペプチドを添加することが好ましい。
(A1)TGF−βスーパーファミリー(トランスフォーミング増殖因子β)に属する増殖因子の存在下で多能性幹細胞を培養する工程。
(B1)上記工程(A1)で得られた細胞をFGF(線維芽細胞増殖因子)の存在下で培養する工程。
(C1)上記工程(B1)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する工程。
(D1)上記工程(C1)で得られた細胞をγ−セクレターゼ阻害剤の存在下で培養する工程。
(E1)上記工程(D1)で得られた細胞を、エキセンジン−4、HGF(肝細胞増殖因子)、IGF−1(インスリン様増殖因子−1)、及びニコチンアミドからなる群から選択される少なくとも1種の因子の存在下で培養する工程。
【0052】
(工程(A1))
工程(A1)では、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の存在下で多能性幹細胞を培養する。
【0053】
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子としては、アクチビン、ノーダル、BMP(骨形成タンパク質)等が挙げられ、その中でもアクチビンが好ましい。このようなTGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子は、多能性幹細胞から胚体内胚葉細胞への分化を促進することが知られている(非特許文献1、特許文献2〜4等を参照)。アクチビンとしては、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB等が挙げられ、その中でもアクチビンAが好ましい。
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の濃度は、5〜250ng/mLが好ましく、10〜200ng/mLがより好ましく、50〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0054】
また、工程(A1)では、Wnt(ウィングレス型MMTV組み込み部位)ファミリーに属する増殖因子を培地中に添加することが好ましい。TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子とともにWntファミリーに属する増殖因子を添加することにより、胚体内胚葉細胞への分化効率を高めることができる。
Wntファミリーに属する増殖因子としては、Wnt1、Wnt3a、Wnt5a、Wnt7a等が挙げられ、Wnt1、Wnt3aが好ましく、Wnt3aがより好ましい。
Wntファミリーに属する増殖因子の濃度は、1〜1000ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、10〜50ng/mLがさらに好ましい。
【0055】
なお、工程(A1)では、Wntファミリーに属する増殖因子の代わりに、GSK−3(グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3)阻害剤(例えば、CHIR)を添加してもよい。GSK−3阻害剤(例えば、CHIR)は、Wntシグナル経路を活性化させることが知られている(J. Biol. Chem. 277(34),pp.30998−31004(2002))。
【0056】
また、工程(A1)では、胚体内胚葉細胞への分化効率を高め得る追加の因子を培地中に添加してもよい。追加の因子としては、例えば、PDGF(血小板由来増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、KGF(ケラチノサイト増殖因子)、HGF、NGF(神経増殖因子)、GDF(増殖分化因子)、GLP(グルカゴン様ペプチド)、ニコチンアミド、エキセンジン−4、レチノイン酸、エタノールアミン、副甲状腺ホルモン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、ガストリン、ステロイドアルカロイド、銅キレーター(トリエチレンペンタミン等)、フォルスコリン、酪酸ナトリウム、ノギン、バルプロ酸、トリコスタチンA、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ヘッジホッグ経路阻害剤等が挙げられる。
【0057】
培養に用いる容器としては、分化誘導能、機能発現能、生存能等の観点から、生体適合材料を用いたスキャフォールドでコートされた培養プレートが好ましい。スキャフォールドとしては、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ゼラチン、エンタクチン、ポリオルニチン等が挙げられる。市販品としては、Becton Dickinson製のMATRIGELTM、増殖因子減少MATRIGELTM等が入手可能である。特に、MATRIGELTMでコートされた培養プレートを用いることが好ましい。
【0058】
培養に用いる培地は、動物細胞の培養に用いることのできる基本培地に、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源やその他の成分を添加して作製される。
【0059】
基本培地としては、RPMI1640培地、DMEM培地、CMRL1066培地、ハムF12培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、ウィリアムE培地、フィッシャー培地、マッコイ培地、BME培地、αMEM培地、BGJb培地、Medium199培地、あるいはこれらの混合培地等が挙げられる。
【0060】
栄養源としては、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、デンプン、デキストリン等の炭素源;脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール等の炭化水素類;硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源;ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リン酸塩等の無機塩類;各種ビタミン類;各種アミノ酸類;等が挙げられる。
【0061】
その他の成分としては、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質;コレラトキシン;インスリン;トランスフェリン;亜セレン酸;アルブミン;2−メルカプトエタノール;血清又は血清代替物;等が挙げられる。インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸としては、Invitrogen製のITS−X、ITS−A、ITS−G等が市販品として入手可能である。また、血清代替物としては、Invitrogen製のB−27TMサプリメント、N−2サプリメント、KnockoutTM血清代替物等が市販品として入手可能である。
【0062】
ここで、工程(A1)における分化効率を高めるためには、培地中のインスリン、IGF等の含有量を十分に低くすることが重要であることが知られている(国際公開第2006/020919号を参照)。このため、工程(A1)では、無血清培地又は低血清培地を用いることが好ましい(非特許文献1、特許文献2〜4等を参照)。血清濃度は、0〜2%(v/v)が好ましく、0〜1%(v/v)がより好ましく、0〜0.5%(v/v)がさらに好ましい。
【0063】
好適な実施形態では、アクチビンA、Wnt3a、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質、L−グルタミン又はL−グルタミンを含むジペプチドを添加した、無血清又は低血清のRPMI1640培地が用いられる。
【0064】
工程(A1)の培養期間は例えば1〜6日であり、2〜4日が好ましい。
胚体内胚葉細胞への分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。多能性幹細胞から胚体内胚葉細胞への分化が進行するに従って、幹細胞のマーカー遺伝子であるOCT4、NANOG、SOX2、ECAD等の発現が減少し、胚体内胚葉細胞のマーカー遺伝子であるSOX17、CER、FOXA2、CXCR4等の発現が亢進する。
【0065】
なお、胚体内胚葉細胞への分化効率を高めるためには、培地中の血清濃度を低めることが必要であるが、細胞の生存率を高めるためには、培地中の血清濃度を高める方が好ましい。
そこで、工程(A1)を、無血清の第1の培地で培養する工程(A1−1)と、低血清の第2の培地で培養する工程(A1−2)とに分けることが好ましい。
【0066】
工程(A1−1)で用いられる第1の培地は、無血清であるほかは上記と同様でよい。すなわち、第1の培地は、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子を含有し、その他に、Wntファミリーに属する増殖因子を含有していてもよい。この第1の培地は、Wntファミリーに属する増殖因子を含有する方が好ましい。
【0067】
工程(A1−1)の培養期間は例えば1〜3日であり、1〜2日が好ましい。この培養により、多能性幹細胞から中内胚葉細胞への分化が進行する。
中内胚葉細胞への分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。多能性幹細胞から中内胚葉細胞への分化が進行するに従って、幹細胞のマーカー遺伝子であるOCT4、NANOG、SOX2、ECAD等の発現が減少し、中内胚葉細胞のマーカー遺伝子であるBRA、FGF4、WNT3、NCAD等の発現が亢進する。
【0068】
工程(A1−2)で用いられる第2の培地は、低血清であるほかは上記と同様でよい。すなわち、第2の培地は、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子を含有し、その他に、Wntファミリーに属する増殖因子を含有していてもよい。血清濃度は、0.05〜2%(v/v)が好ましく、0.05〜1%(v/v)がより好ましく、0.1〜0.5%(v/v)がさらに好ましい。
【0069】
工程(A1−2)の培養期間は例えば1〜3日であり、1〜2日が好ましい。この培養により、中内胚葉細胞から胚体内胚葉細胞への分化が進行する。
上述したとおり、胚体内胚葉細胞への分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。
【0070】
なお、得られた細胞は、次の工程(B1)に進む前に、公知の方法で濃縮、単離、及び/又は精製してもよい。
【0071】
(工程(B1))
工程(B1)では、工程(A1)で得られた細胞をFGFの存在下で培養する。
【0072】
FGFとしては、FGF−1、FGF−2(bFGF)、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、FGF−20、FGF−21、FGF−22、FGF−23等が挙げられ、FGF−2(bFGF)、FGF−5、FGF−7、FGF−10が好ましい。
FGFの濃度は、5〜150ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、20〜80ng/mLがさらに好ましい。
【0073】
また、工程(B1)では、ヘッジホッグ経路阻害剤を培地中に添加することが好ましい。FGFとともにヘッジホッグ経路阻害剤を添加することにより、分化効率を高めることができる。
ヘッジホッグ経路阻害剤としては、KAAD−シクロパミン(28−[2−[[6−[(3−フェニルプロパノイル)アミノ]ヘキサノイル]アミノ]エチル]−17β,23β−エポキシベラトラマン−3−オン)、KAAD−シクロパミンの類似体、ジェルビン(17,23β−エポキシ−3β−ヒドロキシベラトラマン−11−オン)、ジェルビンの類似体、ヘッジホッグ経路遮断抗体等が挙げられ、その中でもKAAD−シクロパミンが好ましい。
ヘッジホッグ経路阻害剤の濃度は、0.01〜5μMが好ましく、0.02〜2μMがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0074】
培養に用いる容器は、工程(A1)と同様でよい。培地は、上述した各因子や培地の血清濃度を除き、工程(A1)と同様でよい。培地の血清濃度は、0.1〜5%(v/v)が好ましく、0.5〜5%(v/v)がより好ましく、1〜5%(v/v)がさらに好ましい。
なお、工程(A1)で低血清培地が用いられる場合、工程(B1)では、工程(A1)よりも高い血清濃度の培地を用いることが好ましい。
【0075】
好適な実施形態では、FGF−10、KAAD−シクロパミン、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質、L−グルタミン又はL−グルタミンを含むジペプチドを添加した、低血清のRPMI1640培地が用いられる。
【0076】
工程(B1)の培養期間は例えば1〜6日であり、2〜4日が好ましい。
分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。分化が進行するに従って、HNF1B、HNF4A等の遺伝子の発現が亢進する。
【0077】
なお、得られた細胞は、次の工程(C1)に進む前に、公知の方法で濃縮、単離、及び/又は精製してもよい。
【0078】
(工程(C1))
工程(C1)では、工程(B1)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する。
【0079】
レチノイドとしては、レチノール、レチナール、レチノイン酸等が挙げられ、その中でもレチノイン酸が好ましい。
レチノイドの濃度は、0.2〜10μMが好ましく、0.4〜8μMがより好ましく、1〜4μMがさらに好ましい。
【0080】
また、工程(C1)では、ヘッジホッグ経路阻害剤を培地中に添加することが好ましい。レチノイドとともにヘッジホッグ経路阻害剤を添加することにより、分化効率を高めることができる。
ヘッジホッグ経路阻害剤としては、KAAD−シクロパミン、KAAD−シクロパミンの類似体、ジェルビン、ジェルビンの類似体、ヘッジホッグ経路遮断抗体等が挙げられ、その中でもKAAD−シクロパミンが好ましい。
ヘッジホッグ経路阻害剤の濃度は、0.01〜5μMが好ましく、0.02〜2μMがより好ましく、0.1〜0.5μMがさらに好ましい。
【0081】
また、工程(C1)では、FGFを培地中に添加することが好ましい。レチノイドとともにFGFを添加することにより、分化効率を高めることができる。
FGFとしては、FGF−1、FGF−2(bFGF)、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、FGF−20、FGF−21、FGF−22、FGF−23等が挙げられ、FGF−2(bFGF)、FGF−5、FGF−7、FGF−10が好ましい。
FGFの濃度は、0.5〜50ng/mLが好ましく、1〜25ng/mLがより好ましく、2〜10ng/mLがさらに好ましい。
【0082】
また、工程(C1)では、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子を培地中に添加してもよい。
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の濃度は、5〜250ng/mLが好ましく、10〜200ng/mLがより好ましく、20〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0083】
培養に用いる容器は、工程(B1)と同様でよい。培地は、上述した各因子を除き、基本的に工程(B1)と同様でよい。ただし、培地には、血清の代わりに血清代替物を添加することが好ましい。血清代替物の市販品としては、Invitrogen製のB−27TMサプリメント、N−2サプリメント、KnockoutTM血清代替物等が入手可能であり、その中でもB−27TMサプリメントが好ましい。
B−27TMサプリメントの濃度は、0.1〜10%(v/v)が好ましく、0.2〜5%(v/v)がより好ましく、0.4〜2.5%(v/v)がさらに好ましい。なお、このB−27TMサプリメントは、50倍ストック溶液として市販されているため、B−27TMサプリメントの濃度を0.1〜10%(v/v)とするには、5〜500倍希釈されるように培地中に添加すればよい。
【0084】
好適な実施形態では、レチノイン酸、KAAD−シクロパミン、FGF−10、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質、B−27TMサプリメントを添加した、無血清のDMEM/ハムF12培地が用いられる。
【0085】
工程(C1)の培養期間は例えば1〜6日であり、2〜4日が好ましい。
分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。分化が進行するに従って、PDX1、HNF6、HLXB9等の遺伝子の発現が亢進する。
【0086】
なお、得られた細胞は、次の工程(D1)に進む前に、公知の方法で濃縮、単離、及び/又は精製してもよい。
【0087】
(工程(D1))
工程(D1)では、工程(C1)で得られた細胞をγ−セクレターゼ阻害剤の存在下で培養する。
【0088】
γ−セクレターゼ阻害剤としては、DAPT(N−[N−(3,5−ジフルオロフェナセチル−L−アラニル)]−S−フェニルグリシン−tert−ブチルエステル)、L−685458([1S−ベンジル−4R−[1−(1S−カルバモイル−2−フェネチルカルバモイル)−1S−3−メチルブチルカルバモイル]−2R−ヒドロキシ−5−フェネチルペンチル]カルバミン酸tert−ブチルエステル)等が挙げられ、その中でもDAPTが好ましい。
γ−セクレターゼ阻害剤の濃度は、1〜50μMが好ましく、2〜40μMがより好ましく、5〜20μMがさらに好ましい。
【0089】
また、工程(D1)では、エキセンジン−4を培地中に添加することが好ましい。γ−セクレターゼ阻害剤とともにエキセンジン−4を添加することにより、分化効率を高めることができる。
エキセンジン−4の濃度は、5〜150ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、20〜80ng/mLがさらに好ましい。
【0090】
培養に用いる容器や培地は、工程(C1)と同様でよい。すなわち、培地には血清代替物を添加することが好ましい。
【0091】
好適な実施形態では、DAPT、エキセンジン−4、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質、B−27TMサプリメントを添加した、無血清のDMEM/ハムF12培地が用いられる。
【0092】
工程(D1)の培養期間は例えば1〜6日であり、2〜3日が好ましい。
分化誘導の進行は、形態学的観察によるほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。分化が進行するに従って、NKX6−1、NGN3、PAX4、NKX2−2等の遺伝子の発現が亢進する。
【0093】
なお、得られた細胞は、次の工程(E1)に進む前に、公知の方法で濃縮、単離、及び/又は精製してもよい。
【0094】
(工程(E1))
工程(E1)では、工程(D1)で得られた細胞を、エキセンジン−4、HGF、IGF−1、及びニコチンアミドからなる群から選択される少なくとも1種の因子の存在下で培養する。
【0095】
エキセンジン−4、HGF、IGF−1、及びニコチンアミドとしては、そのうちの2種以上を添加することが好ましく、3種以上を添加することがより好ましい。
エキセンジン−4の濃度は、5〜150nMが好ましく、10〜100nMがより好ましく、20〜80nMがさらに好ましい。
HGFの濃度は、5〜150ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、20〜80ng/mLがさらに好ましい。
IGF−1の濃度は、5〜150ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、20〜80ng/mLがさらに好ましい。
ニコチンアミドの濃度は、1〜30mMが好ましく、3〜20mMがより好ましく、5〜15mMがさらに好ましい。
【0096】
培養に用いる容器や培地は、工程(D1)と同様でよい。すなわち、培地には血清代替物を添加することが好ましい。
【0097】
好適な実施形態では、エキセンジン−4、HGF、IGF−1、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、B−27TMサプリメントを添加した、無血清のCMRL1066培地が用いられる。
【0098】
工程(E1)の培養期間は例えば3〜20日であり、3〜10日が好ましい。
この工程(E1)により、膵臓ホルモン産生細胞が得られる。
膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導の進行は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン等の膵臓ホルモンの産生を確認するほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。分化が進行するに従って、INS、GCG、GHRL、SST、PPY等のうち、少なくとも1つの遺伝子の発現が亢進する。
【0099】
[第2の分化誘導方法]
第2の分化誘導方法は、非特許文献4に記載の方法に準じたものである。この文献は参照により本願に援用する。
第2の分化誘導方法は、下記の工程(A2)〜(D2)を含む。このうち少なくとも1つの工程で、上記(d)又は(e)のペプチドが培地中に添加される。なお、ある工程に分化誘導促進剤を添加する場合、その工程の最初から添加してもよく、工程の途中から添加してもよい。上記(d)又は(e)のペプチドを添加する工程は、工程(C2)〜(D2)の少なくとも1つの工程であってもよいが、工程(A2)〜(D2)の全ての工程で上記(d)又は(e)のペプチドを添加することが好ましい。
(A2)TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子と、Wntファミリーに属する増殖因子及びGSK−3(グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3)阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種の因子との存在下で多能性幹細胞を培養する工程。
(B2)上記工程(A2)で得られた細胞をTGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の存在下で培養する工程。
(C2)上記工程(B2)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する工程。
(D2)上記工程(C2)で得られた細胞を、cAMP(環状アデノシン一リン酸)増加剤、デキサメタゾン、TGF−β1型受容体阻害剤、及びニコチンアミドからなる群から選択される少なくとも1種の因子の存在下で培養する工程。
【0100】
(工程(A2))
工程(A2)では、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子と、Wntファミリーに属する増殖因子及びGSK−3阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種の因子との存在下で多能性幹細胞を培養する。
【0101】
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子としては、アクチビン、ノーダル、BMP等が挙げられ、その中でもアクチビンが好ましい。アクチビンとしては、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB等が挙げられ、その中でもアクチビンAが好ましい。
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の濃度は、5〜250ng/mLが好ましく、10〜200ng/mLがより好ましく、50〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0102】
Wntファミリーに属する増殖因子としては、Wnt1、Wnt3a、Wnt5a、Wnt7a等が挙げられ、Wnt1、Wnt3aが好ましく、Wnt3aがより好ましい。
Wntファミリーに属する増殖因子の濃度は、1〜1000ng/mLが好ましく、10〜100ng/mLがより好ましく、10〜50ng/mLがさらに好ましい。
【0103】
GSK−3阻害剤としては、GSK−3α阻害剤及びGSK−3β阻害剤のいずれを用いてもよいが、GSK−3β阻害剤を用いることが好ましい。具体例としては、CHIR99021(6−[[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(5−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]−3−ピリジンカルボニトリル)、SB415286(3−[(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)アミノ]−4−(2−ニトロフェニル)−1H−ピロール−2,5−ジオン)、SB216763(3−(2,4−ジクロロフェニル)−4−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン)、インジルビン−3’−モノオキシム(3−[(3E)−3−(ヒドロキシイミノ)−2,3−ジヒドロ−1H−インドール−2−イリデン]−2,3−ジヒドロ−1H−インドール−2−オン)、ケンパウロン(7,8−ジヒドロ−9−ブロモインドロ[3,2−d][1]ベンゾアゼピン−6(5H)−オン)等が挙げられ、その中でもCHIR99021が好ましい。
GSK−3阻害剤の濃度は、0.01〜20μMが好ましく、0.1〜20μMがより好ましく、1〜5μMがさらに好ましい。
【0104】
また、工程(A2)では、分化効率を高め得る追加の因子を培地中に添加してもよい。追加の因子としては、例えば、PDGF、EGF、VEGF、KGF、HGF、NGF、GDF、GLP、ニコチンアミド、エキセンジン−4、レチノイン酸、エタノールアミン、副甲状腺ホルモン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、ガストリン、ステロイドアルカロイド、銅キレーター(トリエチレンペンタミン等)、フォルスコリン、酪酸ナトリウム、ノギン、バルプロ酸、トリコスタチンA、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ヘッジホッグ経路阻害剤等が挙げられる。
【0105】
培養に用いる容器としては、分化誘導能、機能発現能、生存能等の観点から、生体適合材料を用いたスキャフォールドでコートされた培養プレートが好ましい。スキャフォールドとしては、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ゼラチン、エンタクチン、ポリオルニチン等が挙げられる。市販品としては、Becton Dickinson製のMATRIGELTM、増殖因子減少MATRIGELTM等が入手可能である。特に、MATRIGELTMでコートされた培養プレートを用いることが好ましい。
【0106】
培養に用いる培地は、動物細胞の培養に用いることのできる基本培地に、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源やその他の成分を添加して作製される。
【0107】
基本培地としては、RPMI1640培地、DMEM培地、CMRL1066培地、ハムF12培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、ウィリアムE培地、フィッシャー培地、マッコイ培地、BME培地、αMEM培地、BGJb培地、Medium199培地、あるいはこれらの混合培地等が挙げられる。
【0108】
栄養源としては、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、デンプン、デキストリン等の炭素源;脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール等の炭化水素類;硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源;ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リン酸塩等の無機塩類;各種ビタミン類;各種アミノ酸類;等が挙げられる。
【0109】
その他の成分としては、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質;コレラトキシン;インスリン;トランスフェリン;亜セレン酸;アルブミン;2−メルカプトエタノール;血清又は血清代替物;等が挙げられる。インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸としては、Invitrogen製のITS−X、ITS−A、ITS−G等が市販品として入手可能である。また、血清代替物としては、Invitrogen製のB−27TMサプリメント、N−2サプリメント、KnockoutTM血清代替物等が市販品として入手可能である。
【0110】
ここで、工程(A2)における分化効率を高めるためには、培地中のインスリン、IGF等の含有量を十分に低くすることが重要であることが知られている。このため、工程(A2)では、無血清培地又は低血清培地を用いることが好ましい。血清濃度は、0〜3%(v/v)が好ましく、0〜2%(v/v)がより好ましい。
【0111】
好適な実施形態では、アクチビンA、CHIR99021を添加した低血清のRPMI1640培地が用いられる。
工程(A2)の培養期間は例えば1〜3日であり、1〜2日が好ましい。
【0112】
(工程(B2))
工程(B2)では、工程(A2)で得られた細胞をTGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の存在下で培養する。
【0113】
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子としては、アクチビン、ノーダル、BMP等が挙げられ、その中でもアクチビンが好ましい。アクチビンとしては、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB等が挙げられ、その中でもアクチビンAが好ましい。
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の濃度は、5〜250ng/mLが好ましく、10〜200ng/mLがより好ましく、50〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0114】
培養に用いる容器や培地は、工程(A2)と同様でよい。すなわち、好適な実施形態では、アクチビンAを添加した低血清のRPMI1640培地が用いられる。
工程(B2)の培養期間は例えば1〜4日であり、1〜3日が好ましい。
【0115】
(工程(C2))
工程(C2)では、工程(B2)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する。
【0116】
レチノイドとしては、レチノール、レチナール、レチノイン酸等が挙げられ、その中でもレチノイン酸が好ましい。
レチノイドの濃度は、0.2〜10μMが好ましく、0.4〜8μMがより好ましく、1〜4μMがさらに好ましい。
【0117】
また、工程(C2)では、BMP受容体阻害剤を培地中に添加することが好ましい。
BMP受容体阻害剤としては、ドルソモルフィン(6−[4−[2−(1−ピペリジニル)エトキシ]フェニル]−3−(4−ピリジル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)、LDN−193189(4−(6−(4−(ピペラジン−1−イル)フェニル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−3−イル)キノリン)等が挙げられ、その中でもドルソモルフィンが好ましい。
BMP受容体阻害剤の濃度は、0.2〜5μMが好ましく、0.3〜3μMがより好ましく、0.5〜2μMがさらに好ましい。
【0118】
また、工程(C2)では、TGF−β1型受容体阻害剤を培地中に添加することが好ましい。
TGF−β1型受容体阻害剤としては、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソル−5−イル)−5−(2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、SB525334(6−[2−(1,1−ジメチルエチル)−5−(6−メチル−1,2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−4−イル]キノキサリン)、LY364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]キノリン)等が挙げられ、その中でもSB431542が好ましい。また、TGF−β1型受容体阻害剤としては、Calbiochem製のAlk5インヒビターIIを用いることも可能である。
TGF−β1型受容体阻害剤の濃度は、1〜50μMが好ましく、2〜30μMがより好ましく、5〜20μMがさらに好ましい。
【0119】
培養に用いる容器は、工程(B2)と同様でよい。培地は、上述した各因子を除き、基本的に工程(B2)と同様でよい。ただし、培地には、血清の代わりに血清代替物を添加することが好ましい。血清代替物の市販品としては、Invitrogen製のB−27TMサプリメント、N−2サプリメント、KnockoutTM血清代替物等が入手可能であり、その中でもB−27TMサプリメントが好ましい。
B−27TMサプリメントの濃度は、0.1〜10%(v/v)が好ましく、0.2〜5%(v/v)がより好ましく、0.4〜2.5%(v/v)がさらに好ましい。なお、このB−27TMサプリメントは、50倍ストック溶液として市販されているため、B−27TMサプリメントの濃度を0.1〜10%(v/v)とするには、5〜500倍希釈されるように培地中に添加すればよい。
【0120】
好適な実施形態では、レチノイン酸、ドルソモルフィン、SB431542、B−27TMサプリメントを添加した、無血清のIMEM Zinc Option培地が用いられる。
工程(C2)の培養期間は例えば5〜9日であり、6〜8日が好ましい。
【0121】
(工程(D2))
工程(D2)では、工程(C2)で得られた細胞を、cAMP増加剤、デキサメタゾン、TGF−β1型受容体阻害剤、及びニコチンアミドからなる群から選択される少なくとも1種の因子の存在下で培養する。
【0122】
cAMP増加剤、デキサメタゾン、TGF−β1型受容体阻害剤、及びニコチンアミドとしては、そのうちの2種以上を添加することが好ましく、3種以上を添加することがより好ましい。
【0123】
cAMP増加剤としては、フォルスコリン等のアデニル酸シクラーゼ活性化剤;3−イソブチル−1−メチルキサンチン等のホスホジエステラーゼ阻害剤;ジブチリルcAMP等のcAMPアナログ;等が挙げられ、その中でもフォルスコリンが好ましい。
cAMP増加剤の濃度は、1〜50μMが好ましく、2〜30μMがより好ましく、5〜20μMがさらに好ましい。
【0124】
デキサメタゾンの濃度は、1〜50μMが好ましく、2〜30μMがより好ましく、5〜20μMがさらに好ましい。
【0125】
TGF−β1型受容体阻害剤としては、SB431542、SB525334、LY364947等が挙げられ、その中でもSB431542が好ましい。また、TGF−β1型受容体阻害剤としては、Calbiochem製のAlk5インヒビターIIを用いることも可能である。
TGF−β1型受容体阻害剤の濃度は、1〜50μMが好ましく、2〜30μMがより好ましく、5〜20μMがさらに好ましい。
【0126】
ニコチンアミドの濃度は、1〜30mMが好ましく、3〜20mMがより好ましく、5〜15mMがさらに好ましい。
【0127】
培養に用いる容器や培地は、工程(C2)と同様でよい。すなわち、培地には血清代替物を添加することが好ましい。
【0128】
好適な実施形態では、フォルスコリン、デキサメタゾン、Alk5インヒビターII、ニコチンアミド、B−27TMサプリメントを添加した、無血清のIMEM Zinc Option培地が用いられる。
工程(D2)の培養期間は例えば9〜13日であり、10〜12日が好ましい。
【0129】
この工程(D2)により、膵臓ホルモン産生細胞が得られる。
膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導の進行は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン等の膵臓ホルモンの産生を確認するほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。多能性幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化が進行するに従って、膵臓ホルモン産生細胞のマーカー遺伝子であるINS、GCG、GHRL、SST、PPY等のうち、少なくとも1つの遺伝子の発現が亢進する。
【0130】
<膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導>
膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化を誘導するには、その分化誘導過程で上記(d)又は(e)のペプチドを培地中に添加すればよい。膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導方法としては、従来公知の方法を任意に採用することができ、特に限定されない。培地中における上記(d)又は(e)のペプチドの濃度は、10〜200ng/mLが好ましく、50〜150ng/mLがより好ましく、60〜120ng/mLがさらに好ましい。
【0131】
以下、膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導方法の一例について説明するが、この例に限定されるものではない。
【0132】
以下の分化誘導方法は、非特許文献2に記載の方法に準じたものである。この文献は参照により本願に援用する。
この分化誘導方法は、下記の工程(A3)〜(E3)を含む。このうち少なくとも1つの工程で、上記(d)又は(e)のペプチドが培地中に添加される。なお、ある工程に分化誘導促進剤を添加する場合、その工程の最初から添加してもよく、工程の途中から添加してもよい。上記(d)又は(e)のペプチドを添加する工程は、工程(D3)〜(E3)の少なくとも1つの工程であってもよいが、工程(A3)〜(E3)の全ての工程で上記(d)又は(e)のペプチドを添加することが好ましい。
(A3)TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子、レチノイド、FGF、及びニコチンアミドの非存在下で膵臓組織幹/前駆細胞を培養する工程。
(B3)上記工程(A3)で得られた細胞をTGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の存在下で培養する工程。
(C3)上記工程(B3)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する工程。
(D3)上記工程(C3)で得られた細胞をFGFの存在下で培養する工程。
(E3)上記工程(D3)で得られた細胞をニコチンアミドの存在下で培養する工程。
【0133】
(工程(A3))
工程(A3)では、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子、レチノイド、FGF、ニコチンアミドの非存在下で膵臓組織幹/前駆細胞を培養する。
【0134】
培養に用いる容器としては、分化誘導能、機能発現能、生存能等の観点から、生体適合材料を用いたスキャフォールドでコートされた培養プレートが好ましい。スキャフォールドとしては、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ゼラチン、エンタクチン、ポリオルニチン等が挙げられる。市販品としては、Becton Dickinson製のMATRIGELTM、増殖因子減少MATRIGELTM等が入手可能である。特に、MATRIGELTMでコートされた培養プレートを用いることが好ましい。
【0135】
培養に用いる培地は、動物細胞の培養に用いることのできる基本培地に、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源やその他の成分を添加して作製される。
【0136】
基本培地としては、RPMI1640培地、DMEM培地、CMRL1066培地、ハムF12培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、ウィリアムE培地、フィッシャー培地、マッコイ培地、BME培地、αMEM培地、BGJb培地、Medium199培地、あるいはこれらの混合培地等が挙げられる。
【0137】
栄養源としては、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、デンプン、デキストリン等の炭素源;脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール等の炭化水素類;硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源;ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リン酸塩等の無機塩類;各種ビタミン類;各種アミノ酸類;等が挙げられる。
【0138】
その他の成分としては、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質;コレラトキシン;インスリン;トランスフェリン;亜セレン酸;2−メルカプトエタノール;アルブミン;血清又は血清代替物;等が挙げられる。インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸としては、Invitrogen製のITS−X、ITS−A、ITS−G等が市販品として入手可能である。また、血清代替物としては、Invitrogen製のB−27TMサプリメント、N−2サプリメント、KnockoutTM血清代替物等が市販品として入手可能である。
【0139】
好適な実施形態では、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、2−メルカプトエタノール、アルブミンを添加した、無血清のDMEM/ハムF12が用いられる。
インスリンの濃度は、2〜30μg/mLが好ましく、5〜20μg/mLがより好ましい。トランスフェリンの濃度は、1〜20μg/mLが好ましく、3〜10μg/mLがより好ましい。亜セレン酸の濃度は、1〜20ng/mLが好ましく、5〜20ng/mLがより好ましい。2−メルカプトエタノールの濃度は、50〜200μMが好ましく、50〜100μMがより好ましい。アルブミンの濃度は、1〜10ng/mLが好ましく、2〜5ng/mLがより好ましい。
工程(A3)の培養期間は例えば1〜3日であり、1〜2日が好ましい。
【0140】
(工程(B3))
工程(B3)では、工程(A3)で得られた細胞をTGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の存在下で培養する。
【0141】
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子としては、アクチビン、ノーダル、BMP等が挙げられ、その中でもアクチビンが好ましい。アクチビンとしては、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB等が挙げられ、その中でもアクチビンAが好ましい。
TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子の濃度は、5〜250ng/mLが好ましく、10〜200ng/mLがより好ましく、50〜150ng/mLがさらに好ましい。
【0142】
培養に用いる容器は、工程(A3)と同様でよい。培地は、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子を添加することを除き、工程(A3)と同様でよい。すなわち、好適な実施形態では、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、2−メルカプトエタノール、アルブミンを添加した、無血清のDMEM/ハムF12が用いられる。
工程(B3)の培養期間は例えば2〜6日であり、3〜5日が好ましい。
【0143】
(工程(C3))
工程(C3)では、工程(B3)で得られた細胞をレチノイドの存在下で培養する。
【0144】
レチノイドとしては、レチノール、レチナール、レチノイン酸等が挙げられ、その中でも全トランス型レチノイン酸が好ましい。
レチノイドの濃度は、0.2〜10μMが好ましく、0.4〜8μMがより好ましく、1〜4μMがさらに好ましい。
【0145】
培養に用いる容器は、工程(A3)と同様でよい。培地は、TGF−βスーパーファミリーに属する増殖因子を添加することを除き、工程(A3)と同様でよい。
好適な実施形態では、全トランス型レチノイン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、2−メルカプトエタノール、アルブミンを添加した、無血清のDMEM/ハムF12が用いられる。
工程(C3)の培養期間は例えば2〜6日であり、3〜5日が好ましい。
【0146】
(工程(D3))
工程(D3)では、工程(C3)で得られた細胞をFGFの存在下で培養する。
【0147】
FGFとしては、FGF−1、FGF−2(bFGF)、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、FGF−20、FGF−21、FGF−22、FGF−23等が挙げられ、FGF−2(bFGF)、FGF−5、FGF−7、FGF−10が好ましい。
FGFの濃度は、1〜30ng/mLが好ましく、2〜20ng/mLがより好ましく、5〜15ng/mLがさらに好ましい。
【0148】
培養に用いる容器は、工程(A3)と同様でよい。培地は、FGFを添加することを除き、基本的に工程(C3)と同様でよい。
好適な実施形態では、FGF−2(bFGF)、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、アルブミンを添加した、無血清のDMEM/ハムF12が用いられる。
工程(D3)の培養期間は例えば1〜5日であり、2〜4日が好ましい。
【0149】
(工程(E3))
工程(E3)では、工程(D3)で得られた細胞をニコチンアミドの存在下で培養する。
ニコチンアミドの濃度は、1〜30mMが好ましく、3〜20mMがより好ましく、5〜15mMがさらに好ましい。
【0150】
また、工程(E3)では、FGFを培地中に添加することが好ましい。
FGFとしては、FGF−1、FGF−2(bFGF)、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、FGF−20、FGF−21、FGF−22、FGF−23等が挙げられ、FGF−2(bFGF)、FGF−5、FGF−7、FGF−10が好ましい。
FGFの濃度は、1〜30ng/mLが好ましく、2〜20ng/mLがより好ましく、5〜15ng/mLがさらに好ましい。
【0151】
培養に用いる容器は、工程(A3)と同様でよい。培地は、ニコチンアミドを添加することを除き、基本的に工程(D3)と同様でよい。
好適な実施形態では、ニコチンアミド、FGF−2(bFGF)、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、アルブミンを添加した、無血清のDMEM/ハムF12が用いられる。
工程(E3)の培養期間は例えば3〜20日であり、3〜10日が好ましい。
【0152】
この工程(E3)により、膵臓ホルモン産生細胞が得られる。
膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導の進行は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン等の膵臓ホルモンの産生を確認するほか、RT−PCRにより遺伝子発現を確認することによっても評価することができる。膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化が進行するに従って、膵臓ホルモン産生細胞のマーカー遺伝子であるINS、GCG、GHRL、SST、PPY等のうち、少なくとも1つの遺伝子の発現が亢進する。
【0153】
≪再生医療型膵臓ホルモン産生細胞群の形成方法≫
本発明に係る再生医療型膵臓ホルモン産生細胞群の形成方法は、本発明に係る増殖方法及び/又は本発明に係る分化形成方法を含むものである。
上記のとおり、本発明に係る分化形成方法によれば、多能性幹細胞又は膵臓組織幹/前駆細胞から膵臓ホルモン産生細胞へと効率的に分化誘導することができる。また、本発明に係る増殖方法によれば、膵臓ホルモン産生細胞の増殖を促進することができる。したがって、これらを単独又は組み合わせることにより、再生医療に好適な膵臓ホルモン産生細胞群を形成することができる。この膵臓ホルモン産生細胞群は、膵島様細胞塊であってもよく、膵島様細胞シートであってもよい。また、膵臓ホルモン産生細胞群は、α細胞又はβ細胞を含むことが好ましい。
【実施例】
【0154】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0155】
<実施例1:膵臓β細胞の増殖促進(1)>
膵臓β細胞株としては、大阪大学のDr.Miyazakiから供与されたMIN6細胞を用いた。MIN6細胞は、15%(v/v) FBSを添加したDMEM培地中で維持した。
【0156】
まず、コラーゲンコートされた8ウェルスライドチャンバー(BD Falcon, 製品番号354630)にMIN6細胞を1×10個/ウェルの細胞密度でプレーティングした。24時間後、0.5%(v/v) FBSを添加したDMEM培地に交換し、72時間の血清飢餓を行った。なお、血清飢餓の開始から48時間後に新しい培地に交換した。その後、血清飢餓の開始から72時間後の培地に、化学合成した配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ベータジェニン)を最終濃度0.3nM又は1nMとなるように添加した。コントロールとしては、ベータジェニンの溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を添加量が等量になるように添加した。
【0157】
ベータジェニン又はDMSOを添加してから24時間後に、5−エチニル−2’−デオキシウリジン(EdU)を最終濃度10μMとなるように添加し、2時間培養した。そして、Click−iTTM Edu Alexa FlourTM 594 Imaging Kit(Invitrogen, 製品番号C10339)を用い、添付の説明書に従って細胞増殖アッセイを行った。
細胞に取り込まれたEdUをAlexa FlourTM 594を用いて赤色の蛍光として可視化し、蛍光顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて観察した。コントロールにおける蛍光強度を1.0とした場合の相対EdU蛍光強度を図1に示す。
【0158】
図1に示すように、ベータジェニンを添加することにより、相対EdU蛍光強度が2.7〜2.8倍に増大した。
この結果から、ベータジェニンを培地中に添加することにより、MIN6細胞の増殖が促進することが分かる。
【0159】
<実施例2:ヒトiPS細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導(1)>
ヒトiPS細胞としては、理化学研究所のセルバンクから購入した253G1細胞、埼玉医科大学のDr.Mitaniから供与されたTIG3/KOSM細胞、及びTIG3/KOSM細胞にレポーター遺伝子を導入したクローンである200−9細胞を用いた。TIG3/KOSM細胞は、センダイウイルスを用いてTIG−3細胞に4因子(OCT遺伝子、KLF遺伝子、SOX遺伝子、MYC遺伝子)を導入することにより、産業技術総合研究所にて樹立されたものである(Nishimura,K. et al., J. Biol. Chem., 286, pp.4760−4771(2011))。
これらの細胞は、4ng/mL FGF−2(Global Stem)及びペニシリン/ストレプトマイシン(ナカライテスク)を添加したES細胞用培地(DMEM/ハムF12、20% KSR、非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、0.1mM 2−メルカプトエタノール、5.2mM NaOH)中で、マイトマイシンCで処理されたSNL76/7細胞(DS Pharma Biomedical)とともに培養・維持した。細胞の剥離にはCTK(0.25% トリプシン、1mg/mL Collagenase IV、20% KSR、1mM CaCl in PBS)を用い、1:3〜1:4の割合で希釈して継代培養した。
【0160】
分化誘導を開始する3日前にトリプシン−EDTAを用いて細胞を剥離し、6.3×10個/cmの細胞密度でプレーティングし、10μM Y−27632(Wako)、4ng/mL FGF−2、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したES細胞用培地中で、マイトマイシンCで処理されたSTO細胞とともに1日間培養した。その後、4ng/mL FGF−2、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したES細胞用培地中でさらに2日間培養した。
【0161】
分化誘導の開始初日に、2%(v/v) FBS、100ng/mL アクチビンA(SBI)、及び3μM CHIR99021(Axon Medchem)を添加したRPMI1640培地(ナカライテスク)に培地交換し、1日間培養した(工程(A2))。
【0162】
次いで、2%(v/v) FBS、及び100ng/mL アクチビンAを添加したRPMI1640培地に培地交換し、2日間培養した(工程(B2))。
【0163】
次いで、1%(v/v) B−27TMサプリメント(Invitrogen)、1μM ドルソモルフィン(Calbiiochem)、2μM レチノイン酸(Sigma)、及び10μM SB431542(Sigma)を添加したIMEM Zinc Option培地(Gibco)に培地交換し、7日間培養した(工程(C2))。
【0164】
最後に、1%(v/v) B−27TMサプリメント、10μM フォルスコリン(Wako)、10μM デキサメタゾン(Wako)、5μM Alk5インヒビターII(Calbiochem)、10μM ニコチンアミド(Wako)、及び3nM ベータジェニンを添加したIMEM Zinc Option培地に培地交換し、11日間培養した(工程(D2))。コントロールとしては、ベータジェニンの溶媒であるDMSOを添加量が等量になるように添加した。
【0165】
(定量的RT−PCR分析)
上記の工程(A2)〜(D2)を経て253G1細胞から得られた細胞(ベータジェニン添加群、コントロール群のそれぞれについてn=2)について、インスリンの遺伝子発現を定量的RT−PCRで確認した。具体的には、まず、SV Total RNA Isolation System(Promega)を用いて細胞からtotal RNAを抽出し、BioScriptTM transcriptase(Bioline)により逆転写反応を行った後、SYBRTM Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて定量的PCR分析を行った。プライマー配列を以下に示す。
HsINS_31F:GCCATCAAGCAGATCACTGT(配列番号7)
HsINS_149R:CAGGTGTTGGTTCACAAAGG(配列番号8)
【0166】
PCR産物は3%アガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロマイド、BioDoc−It Imaging System(BMbio)により可視化した。
【0167】
工程(D2)を経て得られた細胞におけるインスリンの発現量をそれぞれ図2に示す。この図2は、分化誘導開始から10日目の細胞におけるインスリンの発現量を1とした場合の相対発現量を示したものである。
【0168】
図2に示すように、ベータジェニンを添加することによりインスリンの発現量が増大した。
この結果から、ベータジェニンを培地中に添加することにより、ヒトiPS細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導効率が向上することが分かる。
【0169】
(免疫染色)
上記の工程(A2)〜(D2)を経て200−9細胞、TIG3/KOSM細胞、又は253G1細胞から得られた細胞について、4% パラホルムアルデヒドを用いて5分間固定し、PBSで洗浄後、0.2% Triton−X/PBSでさらに15分間洗浄した。洗浄後、4% ヤギ血清/PBSを用いて20分間ブロッキング処理を行った。1次抗体としては、1% BSA/PBS(抗体希釈液)で100倍希釈したラビット抗Cペプチド抗体(CSTジャパン)、及び抗体希釈液で400倍希釈したモルモット抗インスリン抗体(Dako)を用い、37℃で2時間又は4℃で一晩処理した。1次抗体で処理した後、PBSを用いた5分間の洗浄を3回繰り返した。2次抗体としては、Alexa FlourTM 488及びAlexa FlourTM 568を抗体希釈液で200〜500倍に希釈して用い、室温にて1時間反応させた。2次抗体で処理した後、PBSを用いた5分間の洗浄を3回繰り返した。その後、1〜2μg/mLのDAPI(Sigma)で10分間処理し、PBSで洗浄した。
【0170】
そして、イメージアナライザーであるCellInsight(Thermo Fisher Scientific)を用いてCペプチド陽性細胞又はインスリン陽性細胞の割合(%)を求めた。結果を図3に示す。
【0171】
図3に示すように、ヒトiPS細胞として200−9細胞、TIG3/KOSM細胞、253G1細胞のいずれを用いた場合にも、ベータジェニンを添加することによりCペプチド陽性細胞又はインスリン陽性細胞の割合が増大した。
この結果から、ベータジェニンを培地中に添加することにより、ヒトiPS細胞から膵臓ホルモン産生細胞(β細胞)への分化誘導効率が向上することが分かる。
【0172】
<実施例3:膵臓β細胞の増殖促進(2)>
膵臓β細胞株としては、大阪大学のDr.Miyazakiから供与されたMIN6細胞を用いた。MIN6細胞は、15%(v/v) FBSを添加したDMEM培地中で維持した。
【0173】
膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤としては、化学合成したベータジェニンの濃度が97%となるようにDMSOに溶解したDMSO溶液を準備した。
【0174】
また、比較のため、以下のようにして、IBCAP培養上清及びMock培養上清を準備した。
まず、5%FCS及び抗生物質(ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン10mg/mL)を添加したDMEM培地で継代培養したHEK293T細胞を10cmディッシュに1×10個プレーティングした。その翌日、FuGENE6(Roche)を使用して、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAによりコードされるポリペプチド(ヒトTM4SF20に相当。以下、「IBCAP」という。)の発現ベクター(pCAGGS−IBCAP)をHEK293T細胞にトランスフェクトし、IBCAPを強制発現させた。その24時間後に培地をOpti−MEM培地に交換し、さらにその24時間後に培養上清を回収し、IBCAP培養上清として以後の実験に用いた。
また、空ベクター(pCAGGS)をHEK293T細胞にトランスフェクトし、上記と同様にして培養上清を回収し、Mock培養上清として以後の実験に用いた。
【0175】
膵臓β細胞の増殖促進を確認するに際しては、まず、コラーゲンコートされた8ウェルスライドチャンバー(BD Falcon, 製品番号354630)にMIN6細胞を1×10個/ウェルの細胞密度でプレーティングした。24時間後、0.5%(v/v) FBSを添加したDMEM培地に交換し、72時間の血清飢餓を行った。なお、血清飢餓の開始から48時間後に新しい培地に交換した。その後、血清飢餓の開始から72時間後の培地に、ベータジェニンのDMSO溶液をベータジェニンの最終濃度が1nMとなるように添加した。
コントロールとしては、ベータジェニンのDMSO溶液の代わりにDMSOのみを、添加量が等量になるように添加した。
また、比較のため、ベータジェニンのDMSO溶液の代わりにIBCAP培養上清又はMock培養上清を、各ウェルあたり0.5μL添加した。
【0176】
ベータジェニンのDMSO溶液等を添加してから24時間後に、5−エチニル−2’−デオキシウリジン(EdU)を最終濃度10μMとなるように添加し、2時間培養した。そして、Click−iTTM Edu Alexa FlourTM 594 Imaging Kit(Invitrogen, 製品番号C10339)を用い、添付の説明書に従って細胞増殖アッセイを行った。
細胞に取り込まれたEdUをAlexa FlourTM 594を用いて赤色の蛍光として可視化し、蛍光顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて観察した。ベータジェニンのDMSO溶液、IBCAP培養上清、Mock培養上清を添加した場合の蛍光強度からコントロールにおける蛍光強度を減じ、かつ、Mock培養上清を添加した場合の蛍光強度を1.0としたときの相対EdU蛍光強度を図4に示す。
【0177】
図4に示すように、ベータジェニンを添加した場合には、IBCAP培養上清、Mock培養上清を添加した場合と比較して、相対EdU蛍光強度が顕著に増大した。
この結果から、ベータジェニンを培地中に添加した場合の方がIBCAP培養上清、Mock培養上清を添加した場合よりもMIN6細胞の増殖が顕著に亢進することが分かる。
【0178】
<実施例4:膵臓β細胞の増殖促進(3)>
膵臓β細胞株としては、大阪大学のDr.Miyazakiから供与されたMIN6細胞を用いた。MIN6細胞は、15%(v/v) FBSを添加したDMEM培地中で維持した。
【0179】
膵臓ホルモン産生細胞増殖促進剤としては、化学合成したベータジェニンの濃度が97%となるようにDMSOに溶解したDMSO溶液を準備した。
また、比較のため、配列番号4〜6に記載のアミノ酸配列からなるペプチドA,B,Cを化学合成して準備した。
【0180】
膵臓β細胞の増殖促進を確認するに際しては、まず、コラーゲンコートされた8ウェルスライドチャンバー(BD Falcon, 製品番号354630)にMIN6細胞を1×10個/ウェルの細胞密度でプレーティングした。24時間後、0.5%(v/v) FBSを添加したDMEM培地に交換し、72時間の血清飢餓を行った。なお、血清飢餓の開始から48時間後に新しい培地に交換した。その後、血清飢餓の開始から72時間後の培地に、ベータジェニンのDMSO溶液をベータジェニンの最終濃度が1nMとなるように添加した。
コントロールとしては、ベータジェニンのDMSO溶液の代わりにDMSOのみを、添加量が等量になるように添加した。
また、比較のため、ベータジェニンのDMSO溶液の代わりにペプチドA,B,Cを、最終濃度が3nM又は5nMとなるように添加した。
【0181】
ベータジェニンのDMSO溶液又はペプチドA,B,Cを添加してから24時間後に、5−エチニル−2’−デオキシウリジン(EdU)を最終濃度10μMとなるように添加し、2時間培養した。そして、Click−iTTM Edu Alexa FlourTM 594 Imaging Kit(Invitrogen, 製品番号C10339)を用い、添付の説明書に従って細胞増殖アッセイを行った。
細胞に取り込まれたEdUをAlexa FlourTM 594を用いて赤色の蛍光として可視化し、蛍光顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて観察した。白黒化し、さらに白黒反転させた蛍光顕微鏡像を図5に示す。なお、白黒化及び白黒反転の操作により、EdUが取り込まれた赤色の蛍光部分は濃い黒色部分として確認できるようになる。
【0182】
図5に示すように、ベータジェニンを添加した場合には、ペプチドA,B,Cを添加した場合と比較して、濃い黒色部分が顕著に多く観察された。
この結果から、ベータジェニンとペプチドA,B,CとはいずれもヒトTM4SF20のフラグメントであるにも関わらず、ベータジェニンを添加した場合の方がペプチドA,B,Cを添加した場合よりもMIN6細胞の増殖が顕著に亢進することが分かる。
【0183】
<実施例5:ヒトiPS細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導(2)>
ヒトiPS細胞としては、理化学研究所のセルバンクから購入した253G1細胞を用いた。この細胞は、4ng/mL FGF−2(Global Stem)及びペニシリン/ストレプトマイシン(ナカライテスク)を添加したES細胞用培地(DMEM/ハムF12、20% KSR、非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、0.1mM 2−メルカプトエタノール、5.2mM NaOH)中で、マイトマイシンCで処理されたSNL76/7細胞(DS Pharma Biomedical)とともに培養・維持した。細胞の剥離にはCTK(0.25% トリプシン、1mg/mL Collagenase IV、20% KSR、1mM CaCl in PBS)を用い、1:3〜1:4の割合で希釈して継代培養した。
【0184】
分化誘導を開始する3日前にトリプシン−EDTAを用いて細胞を剥離し、6.3×10個/cmの細胞密度でプレーティングし、10μM Y−27632(Wako)、4ng/mL FGF−2、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したES細胞用培地中で、マイトマイシンCで処理されたSTO細胞とともに1日間培養した。その後、4ng/mL FGF−2、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したES細胞用培地中でさらに2日間培養した。
【0185】
分化誘導の開始初日に、2%(v/v) FBS、100ng/mL アクチビンA(SBI)、3μM CHIR99021(Axon Medchem)、及び1nM ベータジェニンを添加したRPMI1640培地(ナカライテスク)に培地交換し、1日間培養した(工程(A2))。
【0186】
次いで、2%(v/v) FBS、100ng/mL アクチビンA、及び1nM ベータジェニンを添加したRPMI1640培地に培地交換し、2日間培養した(工程(B2))。
【0187】
次いで、1%(v/v) B−27TMサプリメント(Invitrogen)、1μM ドルソモルフィン(Calbiiochem)、2μM レチノイン酸(Sigma)、10μM SB431542(Sigma)、及び1nM ベータジェニンを添加したIMEM Zinc Option培地(Gibco)に培地交換し、7日間培養した(工程(C2))。
【0188】
最後に、1%(v/v) B−27TMサプリメント、10μM フォルスコリン(Wako)、10μM デキサメタゾン(Wako)、5μM Alk5インヒビターII(Calbiochem)、10μM ニコチンアミド(Wako)、及び1nM ベータジェニンを添加したIMEM Zinc Option培地に培地交換し、11日間培養した(工程(D2))。コントロールとしては、ベータジェニンの溶媒であるアセトニトリル(ACN)を添加量が等量になるように添加した。
【0189】
(定量的RT−PCR分析)
上記の工程(A2)〜(D2)を経て253G1細胞から得られた細胞(ベータジェニン添加群、コントロール群のそれぞれについてn=3)について、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンの遺伝子発現を定量的RT−PCRで確認した。具体的には、まず、SV Total RNA Isolation System(Promega)を用いて細胞からtotal RNAを抽出し、BioScriptTM transcriptase(Bioline)により逆転写反応を行った後、SYBRTM Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、LightCyclerTM(Roche)により定量的PCR分析を行った。なお、内在性コントロールとして、GAPDHの遺伝子発現を定量的RT−PCRで確認した。プライマー配列を以下に示す。
HsINS_31F:GCCATCAAGCAGATCACTGT(配列番号7)
HsINS_149R:CAGGTGTTGGTTCACAAAGG(配列番号8)
HsGCG_264F:GCATTTACTTTGTGGCTGGA(配列番号9)
HsGCG_368R:CCTGGGAAGCTGAGAATGAT(配列番号10)
HsSST_206F:CCCCAGACTCCGTCAGTTTC(配列番号11)
HsSST_313R:TCCGTCTGGTTGGGTTCAG(配列番号12)
hGAPDH−F:ATGTTCGTCATGGGTGTGAA(配列番号13)
hGAPDH−R:TGTGGTCATGAGTCCTTCCA(配列番号14)
【0190】
PCR産物は3%アガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロマイド、BioDoc−It Imaging System(BMbio)により可視化した。
【0191】
工程(D2)を経て得られた細胞におけるインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンの発現量をそれぞれ図6図8に示す。この図6図8は、GAPDH遺伝子遺伝子にて補正を行い、分化誘導初日の細胞におけるインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンの発現量を1とした場合の相対発現量を示したものである。
【0192】
図6図8に示すように、ベータジェニンを添加することにより、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンの発現量が増大した。
この結果から、ベータジェニンを培地中に添加することにより、ヒトiPS細胞から膵臓ホルモン産生細胞(α細胞、β細胞、δ細胞)への分化誘導効率が向上することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]