特許第6352914号(P6352914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352914
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20180625BHJP
   B60R 21/232 20110101ALI20180625BHJP
【FI】
   B60R21/2338
   B60R21/232
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-526338(P2015-526338)
(86)(22)【出願日】2014年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2014068116
(87)【国際公開番号】WO2015005308
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-143595(P2013-143595)
(32)【優先日】2013年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506104792
【氏名又は名称】住商エアバッグ・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】竹本 理
【審査官】 野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−028241(JP,A)
【文献】 特開2001−138852(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第02933263(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋織により一体形成されており、膨張を制限する制限糸条を内部に有するエアバッグであって、前記制限糸条は、前記エアバッグの膨張部の一方の面の基布から他方の面の基布へわたされ、両方の基布を連結しており、前記一方の面の基布から前記他方の面の基布へわたされた前記制限糸条と、前記他方の面の基布から前記一方の面の基布へ対称的にわたされた制限糸条とが、一対の制限糸条を構成しており、一対以上の制限糸条が、ブロック状に配列されて制限糸ブロックを構成しており、隣り合う前記制限糸ブロック同士が、前記制限糸条の延在する方向に対して平行にずれて膨張部に広く分布して配置されており、前記一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条の一部が、対をなす他方の制限糸条に対して平行にずれて組織されていることによって、および/または、前記一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条が、対をなす他方の制限糸条の長さよりも短くもしくは長くなるように組織されていることによって、膨張時に乗員が当接する側の前記膨張部の表面が平坦形状となり、他方の車体側の前記膨張部の表面には凹部を形成する、エアバッグ。
【請求項2】
前記制限糸条の繊度が、前記基布を組織する基布糸条の繊度よりも大きい、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアバッグを用いたカーテンエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車が他の自動車や障害物と衝突した際、乗員を保護するためにインフレーターから供給される膨張用ガスの流入によって展開膨張するエアバッグにおいて、乗員を保護する領域を広く保ちつつ、乗員保護性能に優れたエアバッグであり、且つ車両毎に異なる構造形状に左右されない汎用的なエアバッグを提供する。
【背景技術】
【0002】
現在生産されている殆どの乗用自動車には、自動車の前面が他の自動車や障害物と衝突(正面衝突)した際に、乗員と自動車車内構造物との間に急速に袋体を膨張させて乗員の安全を図る乗員保護装置、いわゆる運転席用および助手席用エアバッグが搭載されている。
【0003】
近年、この正面衝突だけでなく、自動車の側面が他の自動車や障害物と衝突(側面衝突)した際の乗員の頭部などを保護するために、自動車の側面窓部上の天井部やピラー部に折り畳んで収納され、衝突時に側面窓部を覆うように膨張するカーテンエアバッグシステムの装着数も増加してきている。
【0004】
このようなエアバッグにおいては、乗員保護領域を広く覆うこと、および展開したエアバッグに乗員が当接した際は、当接した初期の段階から高い乗員保護性能を発揮できることが求められる。
【0005】
特許文献1には、外部基布と接合された内部基布を用いてエアバッグの膨張室形状を規定するエアバッグが開示されている。しかし、特許文献1に示すような内部基布を外部基布と接合する形で膨張を規制する方式では、内部基布と外部基布を接合する工程に手間が掛かる上、エアバッグ自体の重量および収納容積が増え、収納性も悪くなってしまう。
【0006】
また、特許文献2には、エアバッグが膨張した際に膨張部の膨張距離を制限する経糸および/または緯糸によって形成されたスペーサを備えるエアバッグが開示されている。特許文献2では、内部基布の接合なしに、織糸を利用して膨張時のエアバッグ厚みを規定する方法について記されているが、効果的に乗員保護性能が向上するスペーサの配置については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4937591号
【特許文献2】特許第4763121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、乗員を保護する領域を広く保ちつつ乗員保護性能に優れ、且つ車両毎に異なる構造形状に左右されない汎用的なエアバッグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、袋織により一体形成されており、膨張を制限する制限糸条を内部に有するエアバッグであって、前記制限糸条は、前記エアバッグの膨張部の一方の面の基布から他方の面の基布へわたされ、両方の基布を連結しており、前記一方の面の基布から前記他方の面の基布へわたされた前記制限糸条と、前記他方の面の基布から前記一方の面の基布へ対称的にわたされた制限糸条とが、一対の制限糸条を構成しており、一対以上の制限糸条が、ブロック状に配列されて制限糸ブロックを構成しており、隣り合う前記制限糸ブロック同士が、前記制限糸条の延在する方向に対して平行にずれて配置されている。
【0010】
本発明の別の実施形態では、前記一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条が、対をなす他方の制限糸条に対して平行にずれて組織されている。
【0011】
また、本発明の別の実施形態では、前記一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条の長さが、対をなす他方の制限糸条の長さより短く、もしくは長くなるように組織されている。
【0012】
また、本発明の別の実施形態では、前記エアバッグを構成する二枚の基布のうちいずれか一方が膨張時に凹部を形成する。
【0013】
また、本発明の別の実施形態では、前記制限糸条の繊度が、前記基布を組織する基布糸条の繊度よりも大きい。
【0014】
また、本発明は、前記エアバッグを用いたカーテンエアバッグを提供する。
【0015】
ここで、対称的とは、一対の制限糸条が、互いに交差する点を通り基布に対して垂直方向の線に対して、互いにおおよそ対称的に配置されていることを意味する。したがって、一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条が、対をなす他方の制限糸条に対して平行にずれて組織されている形態や、一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条の長さが、対をなす他方の制限糸条の長さより短く、もしくは長くなるように組織されている形態等も含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、制限糸条のブロックが隣り合う制限糸条のブロックと制限糸条の方向に対して平行にずれて配置されている図である。
図2図1の制限糸条の配置パターンを持つエアバッグを膨張させたときのA−A’の断面形状を示す図である。
図3】制限糸条が一方の基布から他方の基布へわたる箇所の模式図である。
図4】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条の一部が、対をなす他方の制限糸条に対して平行にずれて組織されている図である。
図5図4の制限糸条の配置パターンを持つエアバッグを膨張させたときのB−B’の断面形状を示す図である。
図6】本発明のエアバッグを展開させたときの断面形状を示す。
図7】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図である。
図8】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図である。
図9】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、制限糸条のブロック内で対となる制限糸条の一部がずれて組織されている図である。
図10】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、対となる制限糸条の一部が他方より短く組織されている図である。
図11】本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、対となる制限糸条をずらして組織した配置パターンと、対となる制限糸条の長さが異なる配置パターンとを複合して配置した図である。
図12A】膨張部との境界付近の接合部の織組織の一例を示す図である。
図12B】膨張部との境界付近の接合部の織組織の一例を示す図である。
図12C】膨張部との境界付近の接合部の織組織の一例を示す図である。
図13】接合部の膨張部との境界付近以外の部分の織組織の一例を示す図である。
図14】本発明を使用した制限糸条をもつカーテンエアバッグの一例を示す図である。
図15】比較例として、隣り合う制限糸条のブロックをずらさずに配置したカーテンエアバッグを示す図である。
図16】シミュレーションモデルに用いたエアバッグ基布の強伸度特性を示す図である。
図17図14のエアバッグを展開させたときの、インパクター13が当接する前の断面形状を表す図である
図18図15のエアバッグを展開させたときの、インパクター13が当接する前の断面形状を表す図である。
図19図17の状態からエアバッグにインパクター13が当接したときの断面形状を表す図である。
図20】実施例1においてインパクター13を当接させたときのインパクター13に生じる加速度Gを表した図である。
図21】実施例1においてインパクター13を当接させたときのエアバッグの内圧変化を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、制限糸条のブロックが隣り合う制限糸条のブロックと制限糸条の方向に対して平行にずれて配置されている図である。図2は、図1の制限糸条の配置パターンを持つエアバッグを膨張させたときのA−A’の断面形状を示す模式図である。
【0018】
本発明のエアバッグ10は、袋織により一体形成されており、膨張部の膨張を制限する制限糸条11を内部に有する。該制限糸条11a,11b,11cは、図3に示すように、膨張部を構成する基布の経糸もしくは緯糸が片方の基布から他方の基布へわたることにより構成される。
【0019】
該制限糸条11は、通常、膨張部を構成する二枚の基布の織密度が互いに変わらないように配置される。例えば、第1の制限糸条が、第1の基布から出て第2の基布に入る場合、別の第2の制限糸条が、第1の制限糸条が第1の基布から出てきた位置に対向する位置の近辺において、第2の基布から出て、第1の制限糸条が第2の基布に入る位置に対向する位置の近辺において、第1の基布に入る。このように、一方の基布から他方の基布へわたされた制限糸条と、他方の基布から一方の基布へおおよそ対称的にわたされた制限糸条とが、一対の制限糸条を構成している。一対の制限糸条は、互いに交差する点を通り基布に対して垂直方向の線に対して、互いにおおよそ対称的に配置される。
【0020】
該制限糸条はエアバッグ膨張時の圧力に耐え得るために、対をなす制限糸条を一対以上集めたブロック12を構成するように配置されている。
【0021】
本発明のエアバッグ10は、乗員が当接する膨張部の面においてできる限り表面が平坦形状となるように該ブロックを膨張部に広く分布させ、隣り合うブロック同士は、制限糸条の延在する方向に対して平行にずれた位置に配置されている。
【0022】
図4は、本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図であり、一対の制限糸条のうちの一方の制限糸条の一部が、対をなす他方の制限糸条に対して平行にずれて組織されている図である。図5は、図4の制限糸条の配置パターンを持つエアバッグを膨張させたときのB−B’の断面形状を示す図である。
【0023】
図4のように制限糸条の一部を、制限糸条に対して平行にずらして配置することにより、図5のように、膨張部は車体側と乗員側において非対称な形状で膨張することになる。さらに内圧を上げると、図6に示すように乗員の当接する側の膨張部が平坦形状となり、他方の車体側の膨張部には凹部を形成することが可能となる。
【0024】
エアバッグ展開時に平坦形状とする部分と凹部を形成する部分は、制限糸条および制限糸条により構成されるブロックのずらし方により制御できる。
【0025】
図7図11は、本発明の制限糸条の配置パターンの一例を示す図である。図9は、同一ブロック内で制限糸条の一部を制限糸条に対して平行にずらして配置した場合の図である。このようにブロック内で制限糸条の開始点が異なっている場合でも、エアバッグの膨張部に平坦面と凹部を作る部分を制御することができる。
【0026】
図10は、制限糸条の一部を対となる制限糸条よりも短くした場合の図である。このように対となる制限糸条の長さを変えても、エアバッグの膨張部に平坦面と凹部を作る部分を制御することができる。
【0027】
図11は、対となる制限糸条をずらしたものと、対となる制限糸条の長さを片側だけ短くしたものとを複合させた場合の例である。
【0028】
本発明は、バッグの乗員が接触する部分が概ね平坦になることを意図しているが、バッグの一部に凹部を作ることがより好ましい。制限糸条の配置パターンは、以上に列挙した例だけに限らない。
【0029】
本発明のエアバッグは、乗員衝突時にバッグの平坦面で乗員を受け止めることにより、衝突初期段階において乗員とバッグとの接触面積を増大させることによって、乗員保護性能が向上する。
【0030】
加えて、通常のエアバッグでは、乗員が衝突してバッグが変形してバッグの容量が小さくなる。その結果、バッグ内圧が上昇しバッグ反力が高くなるため乗員への傷害も高くなる傾向にある。しかし、本発明のエアバッグでは、乗員衝突時に制限糸条がゆるみ、バッグ凹部が膨らむことで過度な内圧上昇を抑え、乗員への傷害も低くすることができる。
【0031】
また、本発明のエアバッグの特長としてエアバッグの容量の増加を抑えつつ保護領域を広くすることが可能となるため、車体毎に異なる構造形状に左右されない汎用的なバッグを設計することができる。
【0032】
本発明で使用する制限糸条の繊維材料は、基布を構成する基布糸条と収縮特性や伸度特性が同等であればどのような材料を用いても良いが、基布糸条と同じ材料を用いることでエアバッグ全体としての物理特性が均等化される上、平坦性などの品位も良好となり気密性を付与する被覆材などの塗布加工性も良くなる。その結果、膨張時や乗員がエアバッグに当接した場合の気密保持、耐圧性などの特性をより好ましいものとすることができる。
【0033】
本発明における制限糸条の長さは、50mm〜250mmの範囲から選定すればよく、好ましくは100mm〜200mmの範囲から選定すればよい。また、制限糸条の繊度についても特に制限はないが、エアバッグ展開時の圧力による破断を抑えるためには、基布を組織する基布糸条よりも20%〜60%大きいことが好ましく、更には30〜50%大きいことが好ましい。上記値が20%未満であった場合、破断を抑える効果が十分に得られず、上記値が60%を超える場合は、製織時に基布を均一に織ることが難しくなり、シリコーン樹脂などの被覆剤をコーティングする際に塗布ムラが発生してエアバッグとしての気密性を損なう恐れがある。また、基布糸条より小さい繊度の糸を2本以上束ねて基布糸条より太くした繊維糸条を制限糸条として用いても良い。
【0034】
本発明における制限糸条を配置する間隔は、片側の基布について幅1mm〜5mmに対して1本程度が好ましく、2mm〜3mmに1本程度がより好ましい。制限糸条の本数が少ないと制限糸条はエアバッグ展開時の圧力に耐え切れずに破断し易くなるだけでなく、エアバッグ展開時の平坦性が確保され難い。
【0035】
本発明における制限糸条ブロックの幅は、3mm〜40mm程度が好ましく、5mm〜20mm程度がより好ましい。制限糸条ブロックの幅が狭すぎると制限糸条がエアバッグ展開時の圧力に耐え切れず破断を起こし易くなり、逆にブロックの幅が広すぎるとエアバッグ表面の平坦性が悪くなる傾向にある。
【0036】
本発明における制限糸条ブロック間の間隔は特定するものではないが、求められる平坦性などに応じて適宜配置すれば良い。例えばブロックの短辺側の間隔は、好ましくは制限糸条の長さを超えない範囲とし、より好ましくは制限糸条の長さの2分の1以下であれば良い。また、ブロックの長辺側の間隔は1〜50mm、より好ましくは1〜25mm程度にすれば良い。
【0037】
本発明で使用する基布の経糸および緯糸の繊度は、通常、エアバッグ用基布に用いられている太さの糸条、すなわち150〜1000dtexの範囲から選定すればよく、好ましくは235〜700dtexの範囲とすればよい。繊度が150dtexより細いと、エアバッグに求められる強度が得られにくい傾向にあり、1000dtexを超えると目付けが大きくなりすぎる傾向にある。
【0038】
本発明で使用する糸条の強度は、7cN/dtex以上、好ましくは8cN/dtex以上を用いればよい。また糸条の単糸太さは、例えば、0.5〜6dtexの範囲にあれば好ましい。さらに、単糸の断面形状も、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異なる型など、基布の製造、基布の物性に支障のない範囲で適宜選定すればよい。また、繊度や断面形状などが異なる複数の糸条を、合糸、撚り合わせなどにより一体化したものを用いてもよい。
【0039】
本発明で使用する基布は、目付けが260g/m以下、引張強度が650N/cm以上であることが好ましい。目付けと引張強度がこの範囲であれば、軽くて物理特性に優れているといえる。なお、目付けとは、後述する不通気材料などを付与する前の未加工の状態の基布重量をいう。
【0040】
目付けが、260g/mを超えるとエアバッグの重量が大きくなり、所望の軽量化を達成しにくい。また、引張強度が650N/cmより小さいとエアバッグとしての必要な物理特性を達成することができない可能性がある。
【0041】
また、本発明で使用する基布は、その織構造の緻密さを示す指数であるカバーファクターが700以上であることが好ましく、750以上であることがより好ましい。
【0042】
前記カバーファクター(CF)とは、基布の経糸および緯糸それぞれの織密度N(本/cm)と太さD(dtex)との積で一般的に求められ、下記式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw、Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)
Dw、Dfは、経糸および緯糸の太さ(dtex)
【0043】
本発明の袋織は、ジャカード装置付きの織機により作製できる。緯入れ方式は、通常の工業用基布を製織するのに用いられる各種織機から適宜選定すればよく、例えば、シャトル織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機などから選定すればよい。
【0044】
また、本発明のエアバッグ用基布を構成する繊維糸条は、天然繊維、化学繊維、無機繊維などでよく、特に限定されない。なかでも、汎用性があり、基布の製造工程、基布物性などの点から、合成繊維フィラメントが好ましい。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合によって得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維などから、適宜、1種または2種以上を選定すればよい。なかでも、物理特性、耐久性、耐熱性などの点から、ナイロン66繊維、ポリエステル系繊維が好ましい。また、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維、ナイロン6繊維も好ましい。
【0045】
これらの繊維糸条には、紡糸性、加工性、耐久性などを改善するために、通常使用されている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などのうちの1種または2種以上を使用してもよい。また、加撚、嵩高加工、捲縮加工、捲回加工、糊付け加工などの加工を施してもよい。さらに、糸条の形態は、長繊維フィラメント以外に、短繊維の紡績糸、これらの複合糸などを用いてもよい。
【0046】
また、本発明で使用する基布は、エアバッグの気密性が確保できる点で、不通気材料を有することが好ましい。不通気材料とは、例えば以下に示すように実質的に空気を通さないようにする材料のことであり、不通気とは、JIS L1096「織物および編物の生地試験方法」におけるA法(フラジール形法)において、測定値ゼロのことをいう。この材料を後述する方法により基布の片面あるいは両面から付与する。この不通気材料は、基布の表面、基布を構成する糸条束の交差部、または、繊維単糸の間隙部など、いずれに介在してもよい。
【0047】
前記材料としては、通常、エアバッグ用基布に使用されている材料であればよく、耐熱性、耐摩耗性、基布との密着性、難燃性、不粘着性などを満足するものであればよい。例えば、シリコーン系樹脂またはゴム、ポリウレタン系樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性も含む)、フッ素系樹脂またはゴム、塩素系樹脂またはゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂またはゴム、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂、オレフィン系樹脂などのうちの1種または2種以上を用いればよい。なかでも、耐熱性および難燃性の点でシリコーン樹脂もしくはポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが好ましい。
【0048】
付与方法は、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびリップなど)、2)含漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、5)ラミネート法、ならびに、これらの併用などがあげられる。なかでも、内圧を維持する効果が高い点でコーティング法もしくはラミネート法が好ましい。
【0049】
また、コーティング法の場合、付与量としては、片面10〜150g/mであることが好ましく、50〜100g/mであることがより好ましい。また、層状となる場合は、その厚さは10μm以上であることが好ましい。付与量が片面10g/mより少ない、または、層の厚さが10μmより薄いと、必要な気密性を得ることが難しい傾向にある。
【0050】
また、ラミネート法の場合、加工方法については特に限定されるものではなく、基布またはフィルム上に接着剤を塗布・乾燥して溶剤を蒸発させた後に熱圧着するドライラミネート法、水溶性の接着剤を塗布して貼り合わせた後に乾燥させるウェットラミネート法、溶融した樹脂を基布上に押出してラミネート加工する押出しラミネート法、あらかじめフィルム状に製膜した樹脂層を作製してから積層・熱圧着させるサーマルラミネート法など、既知の方法が利用可能であるが、加工コストおよび環境面の観点からするとサーマルラミネート法が好ましい。
【0051】
ラミネートする材料についても、特に限定されるものではなく、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等のホモポリマーまたはコポリマー、および他種材料との共重合体、変性体等既知の物質が使用可能である。また、これにあらかじめポリオレフィン系樹脂等の接着性付与材を処理するか、またはフィルムの片面に接着層を配置させて基布を処理する等、既知の方法が利用可能である。接着層に用いる熱可塑性樹脂としては例えば、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂のホモポリマーまたはコポリマー、および他種材料との共重合体、変性体等で融点200℃以下のものが好ましい。
【0052】
ラミネート被覆材の厚みについても特に限定されることはないが、10〜100μmの間で目的に応じて適宜設定すればよい。一般的には、自動車の横転を想定していないカーテンバッグでは、10〜40μmが好ましく、袋織のバッグで自動車の横転時の乗員保護も想定しているタイプのカーテンバッグでは、40〜100μmが好ましい。
【0053】
また、前記材料には、主たる材料の他、加工性、接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために、通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などのうちの1種または2種以上を選択して、混合してもよい。
【0054】
前記材料の溶液としての性状は、塗布量、塗布法、材料の加工性や安定性、要求される特性などに応じて、無溶媒型、溶媒型、水分散型、水乳化型、水溶性型などから適宜選定すればよい。
【0055】
また、前記材料には、基布との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加してもよいし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施してもよい。さらに、前記材料の物理特性を向上させたり、耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与するため、前記材料を基布に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などを行なってもよい。
【0056】
袋織の場合、通常、経糸はサイジングした原糸を使用して製織し、コーティング剤やラミネート材料と基布との接着性を阻害しないよう、コーティングに先立って原糸に付着している油剤、サイジング剤等を除去することを目的として、ジッガ精練機あるいは複数の精練槽などを有する連続精練機により精練することが好ましい。精練後、基布をシリンダー乾燥機などにより乾燥する。乾燥後、そのままで次のコーティング工程もしくはラミネート加工に供されることもあるが、寸法や織密度の調整のために、精練、乾燥後に、引き続いてヒートセットすることが好ましい。
【0057】
コーティングもしくはラミネート加工後、レーザー裁断機により所定の寸法、形状に裁断され、エアバッグを固定するためのストラップなどの付属品を縫い付け、車体への取り付け部の補強、などを行なって製品となる。
【0058】
本発明のエアバッグの仕様、形状および容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
【0059】
また、乗員側へのエアバッグの突出抑制や膨張時の厚みの制御のために、エアバッグ内側に吊り紐またはガス流調整布、エアバッグ外側にフラップと呼ばれる帯状布または抑え布などを設けてもよい。
【0060】
袋織において、膨張部との境界付近の接合部の組織は、特に限定するものではないが、例えば図12A、B、Cに示すような各種の(A)斜子織、(B)風通織、(C)平織などを組合せ、これらの適切な繰返しを行なえばよい。また、接合部の膨張部との境界付近以外の部分の織組織についても特に限定するものではないが、例えば図13に示すような部分結節織などが交錯点を減少する点で好ましい。
【0061】
これらの接合部と膨張部との境界付近を除く膨張部の織組織は、通常、平織組織が使用されている。
【0062】
また、使用するインフレーターの特性に応じて、インフレーター噴出口の周囲に、熱ガスから保護するための耐熱保護布や、力学的な補強布を設けてもよい。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの、耐熱性繊維材料を用いてもよいし、エアバッグ本体用基布と同じか、それより太い糸を用いて別途作製した基布を用いてもよい。また、基布に耐熱性被覆剤を施したものを用いてもよい。
【0063】
エアバッグを収納する際の折り畳み方も、運転席用バッグのように中心から左右、上下対称の屏風折り、あるいは中心に向かって多方位から押し縮める折り、助手席エアバッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内臓型サイドバッグのようなアリゲーター折り、サイドカーテンエアバッグのような、ロール折り、蛇腹折りなどを用いてもよい。
【0064】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、例えば運転席および助手席の前面衝突用、側面衝突用のサイドバッグおよびサイドカーテンエアバッグ、後部座席保護用、追突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園施設など多用途に適用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。
【0066】
[実施例1]および[比較例1]
実施例1で使用したカーテンエアバッグの形態を図14に示す。制限糸条の配置は、図4に示したパターンを繰り返し用いている。図15は、比較例1として用いたエアバッグであり、隣り合う制限糸条のブロックをずらさずに配置した場合の例である。
【0067】
実施例1および比較例1の評価は、コンピュータによるシミュレーション(ESI社 PAM−Crush)により実施した。シミュレーションモデルに用いたエアバッグの物理特性は、図16に示す基布物性から得られる強伸度特性を用いた。衝突時の乗員への傷害値の解析は、定圧(初期圧30kPa)で膨張させたエアバッグに人体の頭部を模した4.6kgのインパクター13を時速34kmで衝突させ、インパクター13に生じる加速度を比較した。車体側となる側は剛体による壁面とした。解析の結果を表1に示す。
【0068】
図17および図18は、それぞれ、実施例1(図14)および比較例1(図15)のエアバッグが膨張した際のエアバッグの断面形状を示す。図17図18とでエアバッグの断面形状を比較すると、図17のエアバッグは、乗員の当接する側のエアバッグ表面が図18と比較して平坦な形状となっていることがわかる。また、乗員の当接しない側には凹部が形成されている。
【0069】
図19に実施例1のエアバッグに乗員が衝突した際の断面形状を示す。エアバッグに乗員が衝突した際には、衝突面と反対側にできていた凹部が伸ばされていることが確認できる。このようにあらかじめ設けた凹部が衝突時に伸ばされるように設計することで、乗員衝突時の容量変化を最小限に抑え過度な内圧の上昇を抑える効果がある。
【0070】
図20に実施例1と比較例1のエアバッグにインパクター13が衝突した際の加速度変化の解析結果を示す。縦軸はインパクター13の加速度Gを示し、横軸はインパクター13のストロークmmを示す。実線は実施例1の結果を示し、点線は比較例1の結果を示す。
【0071】
実施例1と比較例1について、インパクター13に生じる加速度Gのグラフを比較すると、実施例1の方が加速度Gの立ち上がり方が早くなっており、エアバッグが効率よくインパクター13のエネルギーを吸収していることがわかる。また、効率よくエネルギー吸収を行うことにより、インパクター13が当接してから全エネルギーを吸収するまでのストロークも短くなっている。
【0072】
実施例1と比較例1のエアバッグ圧力変化のグラフを図21に示す。実施例1は、比較例1に対してエアバッグ圧力が低くなっている。これは、乗員の当接する側と反対側に形成されたエアバッグの凹部が乗員衝突時に伸ばされ、エアバッグ容量を大きくすることで乗員衝突時のエアバッグ圧力上昇を小さくしている効果によるものであると考えられる。
【0073】
また、それぞれの頭部傷害値(HIC)を算出すると、比較例1のエアバッグが812であるのに対して実施例1のエアバッグでは678となり、乗員に対する傷害値も低くなっていた。なお、HICとはインパクター13の加速度の時間変化から求められる傷害指数であり、この値が小さいほど傷害が少ない。
【0074】
以上のように、実施例1は比較例1と比較して、乗員がエアバッグに当接した当初から乗員保護性能を高くすることができることが確認された。さらに、実施例1ではエアバッグの一部に凹部を形成することで、乗員に対する傷害値を低く抑えることができることも確認された。
【0075】
[実施例2]
旭化成せんい(株)社製、ナイロン66原糸(470dtex/72本)を用い、経糸はポリアクリル酸を主成分とするサイジング剤でサイジングし、緯糸には経糸と同じナイロン66原糸をサイジングを施さずに使用した。ジャカード装置(ストーブリー社製)を搭載したエアジェット織機(ドルニエ社製)により、仕上がり密度が経57本/2.54cm、緯49本/2.54cmになるようにOPW(One Piece Woven)の織物を製織した。制限糸条の長さは150mm、制限糸条の配置間隔は2mmに1本、制限糸条ブロックの幅は10mm、各ブロック間の長辺側の間隔は2mm、短辺側の間隔は10mmとなるように配置した。
【0076】
上記のように製織した基布を連続精練機により精練し、乾燥後ピンテンターによりヒートセット(180℃×1分間)を行った。次にナイフコーティング法によりシリコーン樹脂を70g/mを狙い値としてコートし180℃×2分間処理後、更にトップコートを10g/mでコートし200℃で1分間処理した。これを基布の表裏計2回加工した。
【0077】
得られたコーティング品をレーザー裁断機(レクトラ社製)により所定の形状に裁断し、自動車車体への取付け部の補強縫いを行い、試験用エアバッグを作製した。作製したエアバッグを用いてコールドガスシステム展開試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0078】
[実施例3]
制限糸条を形成する糸条のみ700dtex/105本の糸を使用した以外は実施例2に準じて試験用エアバッグを作製し、コールドガスシステム展開試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0079】
[比較例2]
制限糸条を形成する糸条のみ235dtex/72本の糸を使用した以外は実施例2に準じて試験用エアバッグを作製し、コールドガスシステム展開試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0080】
なお、コールドガスシステム展開試験は以下のように実施した。試験用エアバッグに内圧測定用のセンサーを取り付け、マイクロシス社製コールドガスシステム展開試験装置にて高速展開試験を行った。コールドガスとしてヘリウムを使用し、オリフィスバーは直径0.4インチを使用して制限糸条が破断するまでガスを供給し、その破断時の圧力を測定した。ヘリウムガスの蓄圧条件は、破断する内圧に応じて7〜10MPaの範囲で実施した。
【0081】
実施例2および実施例3は、比較例2に比べて制限糸条の破断時圧力が高くなっており、制限糸条の繊度を、基布を構成する糸条と同等以上とすることで制限糸条の破断を起き難くし、エアバッグ展開時の形状を安定化することで本発明の目的を達成できる。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
以上の通り、本発明は、袋織によって一体形成された膨張部の膨張を制限する制限糸条を有する袋体であり、該制限糸条によりエアバッグ展開時には膨張部の過度な膨張を制限することで、インフレーターのガス量を少なくしつつ、乗員を保護する領域を広くすることができる。また、エアバッグ膨張時の形状を制限糸条で制限することにより、エアバッグ厚みを全体にわたり均一化することができるため、車両毎に異なる構造形状に左右されない汎用的なエアバッグを作製できる。さらに、膨張時にエアバッグ表面を平坦化できることから、乗員の衝突直後よりエアバッグと乗員との接触する面積が大きくなり、乗員の衝突時のエネルギー吸収を高めることができ、乗員を安全に保護することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 袋織により一体形成されたエアバッグ
11 制限糸条
12 対をなす制限糸条を一対以上集めたブロック
13 インパクター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21